ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

8 / 23
今回は戦いの後のお話です。
では、どうぞ!


008

 デジモンとの激闘の末に全員無事に帰還できたゼツたちは、先ずは傷付いた身体を治療する為にマリの住みかであるマンホールに来ていた。

 ゼツのスマホから傷薬や包帯、ガーゼなどをしまってある救急箱を取り出しそれをリアが皆に配り治療を手伝いを、マリは沸かしたお湯とタオルを傷付いた皆に配り終えてゼツの手当てを手伝っていた。

 

「ッ! あぁ染みる……」

 

「大丈夫なんですか?」

 

「んっ。直接攻撃は受けていないとは言え、地面に叩き付けられたのは痛かった」

 

「無茶、しないで下さい。帰って来た時、凄く驚いたんですよ? リアが皆がボロボロだって言うから」

 

「悪いな」

 

「そう思うなら怪我しないで下さい」

 

 上着の着物を脱いだゼツの身体に湯で濡らし絞ったタオルで丁寧に拭き、終えたら傷薬と傷口を塗ってから包帯で巻いていく。その際に、傷口に触れるたびにゼツは顔を歪ませる。

 皆がある程度の治療を終えてゆっくりと休んでいると、蓮太郎がゼツに声をかけた。

 

「なぁ少し良いか?」

 

「……何か?」

 

 包帯を巻き終えたゼツは上着の着物を着直して蓮太郎に向く。

 その瞳は何を訴えているのか、ゼツは何となく理解していた。そもそも、あんな化物を従えている子供に疑いの目を向けないものは早々いないだろう。

 

「あの化物、デジモンだったか? 何なんだ、お前は?」

 

「…………」

 

 やっぱり、そう思うゼツ。

 説明することはゼツにとっては別に問題のない事である。だが、それが政府などの上役などにデジモンの存在、戦闘力を知られれば悪用される恐れがあった。故にゼツは説明を渋っていた。

 どの様、説明しようか考えていると蓮太郎の隣に座っていた延珠が待ったをかけた。

 

「蓮太郎、そうガミガミと問いてもゼツが答え難くなるではないか?」

 

「延珠、でもな流石にコレは訊かない訳にもいかんだろ?」

 

「確かに蓮太郎の言っている事は分かる。だが、これ以上はこの者たちが黙ってはおれんだろう……」

 

「えっ? あっ……」

 

 その言葉の意味は判らずに頭を傾げる蓮太郎。傾げている蓮太郎に溜息を吐きながら延珠は指を差して見てみるように述べ、その言葉に従って蓮太郎はその場所を見て理解した。

 そこには庇うかのようにゼツに抱きついて、少しだけ睨むかのように見詰てくるルリリア姉妹とマリア。その姿を見て蓮太郎は頭をかいて視線を逸らした。

 

「なっ、ここは黙って見逃すほか無いだろう?」

 

「確かに、此処で攻められたら無事じゃすまないだろな」

 

 此処で襲われては堪ったものでない。そう思った蓮太郎は質問を取り消して頬をかくのだった。すると、先程まで横になっていた将監が起き上がってきた。

 

「おいガキ、決着を付けるぞ」

 

「傷を癒して出直して来い」

 

 再戦を申し込んだが、それを一刀両断して返事をゼツは返す。だが、その返事が気に入らなかったのか将監は青筋を浮かべ、傍に置いていた大剣を手にしようとした瞬間であった。将監の喉元に一本の剣――獅子王丸――が突きつけられていた。そして、冷えた眼差しで見詰ている。

 

「出直して来い」

 

 同じ言葉を繰り返した。

 急な武器の出現に蓮太郎や将監どころか"呪われた子供たち"ですら反応することが出来なかった。

 

「分かったか?」

 

「クソが……」

 

 大剣に伸ばそうとした手を戻して悪態を付く。その姿にゼツは未だに冷たい眼差しで見下ろし、目を一度閉じて開けると普段の瞳に戻っていた。

 マンホール内の温度が数度下がったと錯覚してしまう程の強烈な殺気に、蓮太郎どころかルリたちも顔を強張らせていた。

 

「……腕を上げてからまた来い。そしたら遊んでやる」

 

 そう述べて蓮太郎たちに向く。

 先程の殺気はないが一度体感してしまった以上、蓮太郎たちは警戒してしまう。そんな姿を苦笑した表情を浮かべながら話し出す。

 

「あんた等はだうする? 俺を捕まえるか? それなら全力で抵抗させてもらうぞ……」

 

「……はぁ、分かった俺らは手を引く」

 

「良いのか蓮太郎? 木更に怒られないか?」

 

「ここでこの子と敵対関係にはなりたくない。そうだろ延珠?」

 

「確かにあの2体のデジモンだったか、敵対はしたくない」

 

 直に延珠は答えた。

 敵対しても此方にはデメリットしかないと判断した蓮太郎は、この出来事は社長である天童木更には報告はするも、敵対的な行動は慎むよう進言しとおこう。そう心に誓う。

 すると、ある事に気付いた蓮太郎は携帯を取り出した。

 

「蓮太郎?」

 

「延珠やばい、タイムセールが終わる!」

 

「なっなんだと!?」

 

 急な行動に延珠は不思議に思いながら蓮太郎を見ているとセールが終わってしまうと告げた。それを聞いた延珠は驚きの表情を浮かべた。ついでに延珠のツインテールが跳ね上がった、ように見えた。

 

「ヤバイ。これじゃ今日の夕飯は無しだ!」

 

「そんなぁ」

 

「それも今からスーパーに向っても間に合うか……絶望的だ」

 

「蓮太郎、妾の夕飯はなしか?」

 

「……あぁ」

 

 項垂れる蓮太郎は夕飯無し宣告を訊いた延珠は、見た目から分かる程に落ち込んでいた。

 2人のやり取りを見ていたゼツは苦労してるんだな、そう思っていると袖を引っ張るて視線をそちらに向けるとルリがいた。

 

「どうした?」

 

「あの、この人達に料理を出しませんか?」

 

「えっ」

 

 急な提案にゼツは少しだけ驚き、何故そのような事を言ったのか問うと簡単に可哀想だと述べてきた。それを訊いたゼツは溜息を吐き、将監たちに振向いた。

 

「お前らも飯、食うか?」

 

「宜しいんですか?」

 

「あぁ、どうする?」

 

「……私は構いませんが。将監さんが……」

 

「へっ誰がガキの飯なんぞ。帰るぞ!」

 

 そう述べて大剣を背負って出て行こうとする将監。だが、そこでゼツは小さく呟いた。

 

「再戦しないぞ」

 

「ッ!?」

 

 呟きが聞えたのか将監は足を止めてゼツに振向き睨む。その睨みにゼツは顔を背けて何食わぬ顔を浮かべる。

 将監はギリッと歯をかみ締める音を経てた後、寝そべっていた場所に戻り座った。付託された表情を浮かべる将監に、夏世はどうすれば困っていた。

 

「さっさと用意しやがれ」

 

「……だってさ。食べていきな夏世」

 

「あっ、はい!」

 

 先程のやり取りを夏世はようやく理解した。

 ゼツは再戦をダシにして帰宅しようとする将監に足枷をかけたのだ。そうすれば、将監も仕方なく従わなければ成らない。それらが全て、夏世と一緒に食事をする為に方法だと。

 夏世は微笑みながらゼツの申し出を受けた。

 それを確認したゼツは再度、蓮太郎たちに向き話を切り出した。

 

「あんた等も食べていくか?」

 

「えっ、良いのか?」

 

「……苦労、してそうだしな」

 

「うがっ!?」

 

 蓮太郎に見えない矢印が刺さったように見えた。そんな姿に延珠は励ますように語る。

 

「大丈夫だぞ蓮太郎。危なかったら妾がお金を出すのだ!」

 

「最低だな」

 

「延珠、頼むから余計な事は言わないでくれ」

 

 子供に養わされる少年って、そう思わずにはいられずに最低だと呟くゼツ。それが余計に蓮太郎を空しくさせてしまう。更に落ち込んだ蓮太郎を見て不思議に思う延珠だった。

 それからゼツは軽くスマホを操作して食事を用意した。

 一瞬の出来事。ゼツが懐から出したスマホを操作した瞬間、皆の前に食事が出てきた。その光景を見ていた蓮太郎たち民警は驚きの表情を浮かべていた。

 

「蓮太郎、今の見たか?」

 

「あっあぁ、見た」

 

「手品か?」

 

「流石にこれは手品とは……」

 

 そんな表情を見て、自分たちも同じ感じで驚いていたのかなっと思うルリリア姉妹たちは思いながら苦笑する。

 今回、ゼツが用意したのは『すき焼き』である。出汁が取れたシープを鍋に入れて暖め、その中に色々を具を入れて煮込む、日本伝統料理の一つ。皆其々にホクホクの白米が入れられた茶碗が用意され、受け皿とタマゴ1個も用意されている。

 

「蓮太郎、これ程に豪華な料理、妾初めて食べるのだ」

 

「俺も久しぶりだよ」

 

「美味しそうですね、将監さん」

 

「へっ」

 

 不貞腐れる態度を見せる将監。だが、実は美味しい匂いに鼻腔が刺激されてお腹が鳴ろうとしれいたが、それらを周囲の者達――主にゼツ――に見せないように我慢していた。

 兎に角、皆で食事を開始した。

 

「あっ、おいその肉俺の!」

 

「速いもん勝ちだってんだ!」

 

「将監さん、行儀悪いです」

 

「そう言って肉はちゃっかり確保しれるな、夏世」

 

「ゼツさん、隙ありです」

 

「確保なのです!」

 

「マリア、あんた取りすぎ!」

 

「蓮太郎、気付いたら肉がないのだ!?」

 

 一斉に思い思いに肉を取り合う。

 そこから更にヒートアップ、何処から出たのか酒が入った瓶が出現。その酒をガブガブと飲む将監、それを止め様とする夏世ではあったが黙らす為に無理矢理に酒を飲まされダウン。酒が美味しいのかと試しにリアが飲んで笑い上戸になり意味分からず笑い出し、ルリも何時の間にか飲んでおりゼツに抱きついて淫靡に誘っており、それを見せまいと延珠の目を手で塞ぐ蓮太郎。前が見えないと文句を言う延珠の隣では未だにすき焼きを食い尽くしているマリア。

 もう、滅茶苦茶であった。

 それから程無くして全員がノックダウン、マンホール内で皆が眠りに付いていた。そこで1人だけ目を覚ましたのがゼツであった。

 ゼツは身体を起こしマンホールから出て、既に暗くなって夜空を彩る星空を眺めていた。その傍にはディアボロモンとミレニアモンが伏せている。すると、マンホール内から誰かが出来ていた。

 

「何をしてるんですか?」

 

「夏世か。いや、夜空を見てただけだ」

 

「そうですか。……隣、良いですか?」

 

 良いとゼツは返事を返すと夏世はそっと隣に座り一緒に夜空を眺める。何かを話す訳でもなく静かに夜空を眺めていると夏世が何かを思い出し、喋りだす。

 

「そう言えば、こんな夜空が綺麗に出てた時でしたね。私とゼツが出会ったのは」

 

「……2日前だったな」

 

「はい。当初、私は怖かったんですよ。このデジモンたちが」

 

 後ろで伏せて待機しているデジモンたちを横目で見て、素直にその様に述べた夏世。ゼツも特に咎める事無く聞く。

 

「今日はありがとうございます。こんなに楽しい食事は初めてでした」

 

「……あの筋肉達磨は作ったりは?」

 

「将監さんがそんな器用な事はしません。そもそも、私達はそんな仲良しな関係ではありません。ただ利用され、私はその代りに侵食抑制剤でガストレア化を防いでますから」

 

 『侵食抑制剤』、知らない単語を聞いたゼツはそれが何なのか尋ねると夏世は直に答えた。イニシエーターは戦う際、ウィルスの能力を使わなければたならいが、使いすぎるとウィスル侵食率が上がる為、それを抑える為にIISOから定期的に渡される薬剤だと説明した。

 それを訊いたゼツは何か思う所があったのか思い詰めた表情で考え込む。そのままの状態で更にIISOのに付いても夏世に尋ねた。

 IISO。国際イニシエーター監督機構(International Initiator Supervising Organization)の頭文字から取って呼ばれる通称。名の通りにイニシエーターである"呪われた子供たち"を管理監督し、プロモーターとのマッチングや、ペアのランキングなどを行っている組織である。

 その話を訊いたゼツは、やっぱし人間とはろくでもない存在だと思う。

 

「ルリさんから聞いたとおり、何も知らないのですね」

 

「……まぁ、なっ」

 

「……何も、教えて下さらないんですね」

 

 ゼツは自身に付いて一切に答えない。そんな姿に夏世は悲しくなってしまう。

 勿論、ゼツが自身の事を何も言わないのは夏世は察しは付いていた。味方か敵か、それすら分かっていない存在に迂闊な事を言って脅迫される恐れがあるから。

 理解はしている。だが、心の何処かでは教えてくれるのではないかと淡い気持ちを描いていた。だが、やっぱし越えられない線は確かにゼツと夏世の間にはあった。

 

「もう、寝ますね」

 

「…………」

 

 席を立ち、マンホール内に戻っていった夏世。

 それを確認したゼツは苦虫を噛み締めた表情で地面に向かって一発、殴りつけた。

 

「人間は嫌いだ。……自分も」

 

 そう呟きながら夜空を眺め続けた。

 朝を向え、将監は夏世を連れてさっさと帰っていった。帰る間際、ゼツに再戦宣告を叩き付けた。蓮太郎も別れを述べて延珠と共に帰っていった。

 マンホール内に静けさが戻った。

 

「ゼツさん、これから如何するんですか?」

 

 これからどの様に生活するのか、それをゼツに問うルリ。ゼツも何か思う所があるのか少し考えた後に答えた。

 

「……少しばかり東京エリアをぐるっと回ってみる」

 

 エリアを回る。

 それはこのマンホールから出て行くのか、そう思ったリアは悲しげな表情を浮かべてゼツにしがみ付いた。

 

「えっ、出て行くのゼツ兄ィ?」

 

「……待て、そのゼツ兄ィとは?」

 

 悲しむであろうと予想はしていたゼツではあったが、まさかの別な呼び方をされるとは思っていなかった為に驚きの表情を浮かべてリアに視線を向ける。

 リアも何故、そこまで驚いているのか不思議な表情を浮かべてキョトンとしていた。

 

「私、お姉ちゃんは居るけどお兄ちゃんって居なかったから……ダメかな?」

 

「……いや、好きに呼んでくれ」

 

「うん!」

 

「では、私もゼツ兄さんとお呼びしたほうが良いですね」

 

「……待て、何故そうなる?」

 

 ルリもリアの兄宣言に乗じて自身も兄呼びすると言い出した。流石にゼツは焦りながら問うと、ルリは微笑みながら答えた。

 

「リアのお願いは訊いて、私のお願いはダメですか?」

 

「いや、その……あぁもう、好きに呼んで構わん!」

 

「では、私は兄様と呼ぶですので」

 

 更にマリアが乗じだし、これによりゼツは3人の兄的存在になった。

 その後、話を戻す。

 ゼツは少しばかり東京エリアの裏を知ろうと思い出かけると述べた。このまま、ルリたちと共に過ごすのは構わないが、何も知らないでノウノウと生きれば何か取り返しの付かない出来事に巻き込まれる恐れがあるかもしれない。そうゼツは判断した。

 

「帰ってくるよね?」

 

「まぁ、俺はお前らの兄貴分だからな。必ず帰る」

 

「……気を付けて下さいね?」

 

「あぁ。それとルリ、これを渡しておく」

 

 懐から出したのはスマホ。だが、そのスマホはゼツが普段使っている型とは少し違っていた。渡されたルリは不思議そうに見詰ていると、ゼツが説明をする。

 

「これは俺のスマホに繋がっている端末だ。これを使えば何時でも調理された料理が出せる。これで、ルリが一々都心に出て出稼ぎする必要はない筈だ」

 

「良いんですか?」

 

「構わん。リア、目が見えないルリの為に頑張って操作を覚えろよ?」

 

「うん、任せて!」

 

 驚きの表情を浮かべて驚くルリに構わないの述べたゼツは、眼が見えない代わりに操作を覚えるようにリアに言うと、リアは嬉しそうに承諾した。

 そして、ゼツはマンホールを後にして東京エリア都心に向った。自身が出来る事を探して……。そして、このエリアで起きるであろう出来事に対処する為に……。

 

 




さて、ゼツくんはマンホールを出て行きます。
目的は色々とある様で、何処に向かったかは次の話でわかります。
では、次回をお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。