ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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この話を正式に採用して、このまま話を続けさせてもらいます。
宜しくですよ。


007

 グラウンド・ゼロの爆発に巻き込まれた蓮太郎。だれもが死んだ、そう思い皆が身体を丸めて顔を腕で覆い被せる。だが、それから一向に来るであろう衝撃波や熱、痛みが身体に襲って来ないのに疑問を持ち、蓮太郎はゆっくりと腕をのけて視線を前に向ける。そして、その光景に驚く。

 最初に眼に入ったのは橙色の輝きに、太陽を思わせる文様。その輝きは蓮太郎や他の者達を包み、爆発などを凌いでいた。

 

「これは……」

 

「蓮太郎、これは何なのだ?」

 

「いや、俺も知りたいし」

 

 その摩訶不思議な現象に驚いていると夏世の衣服から淡く発光している物が見えた。それに気付いた蓮太郎や延珠はそれを指摘する。夏世もその指摘されてようやく衣服の中に何が光っている事に気付き、それを取り出した。

 それはカード。蓮太郎たちを包んでいる光に浮かび上がっている同じ文様が刻まれた盾の様な絵が描かれている。

 名はブレイブシールド。グレイモン系最終形態と呼ぶべき究極体デジモン・ウォーグレイモン、その背中に装備されているのがブレイブシールドである。

 そのカードを見た夏世は直ぐに誰が渡したのか理解した。

 

「ゼツさんが忍ばせていた……」

 

 何かが起きても守れるようにゼツが忍ばせたカード。ゼツにもゼツの戦いがあるのに、それでも夏世たちを思い密かに忍ばせたカードに嬉しく思い、そのカードを胸元に抱きしめる。

 

「ありがとうございます。ゼツさん」

 

 お礼を夏世が述べる。それと同じくして爆風は失い、蓮太郎たちを包んでいた橙色の光のドームは消失、砂煙が晴れるとスカルグレイモンは驚きを浮かべていた。

 

「どうやら骨野郎も驚いてるみたいだな。あのガキに助けられたのは癪だが、一気に叩き込む!」

 

「よし、流れは俺たちにある。行くぞ延珠!」

 

「任せろ!」

 

「動けない今がチャンスです!」

 

 一斉に攻撃を開始する。

 未だに股関節のダメージが回復していないスカルグレイモンは腕や尻尾で攻撃をするが、その攻撃は遠距離で戦う蓮太郎や夏世には通じず、その大振りな攻撃では接近戦で戦う将監や延珠には当たらない。

 コレなら勝てる。周囲の者たちは思った。だが、その慢心が油断を生じさせた。

 突如としてスカルグレイモンの周囲に機械の端末らしき物が出現した。その端末は高さ三メートルまで急上昇、そして――

 

「ガアアア!」

 

 スカルグレイモンの雄叫びと共に端末から青白い光が地面に向って照射、その状態のまま周囲に拡散するかのように移動、放射された地面に一気に赤くなって爆発を起こした。

 急な攻撃、それに対処できなかった蓮太郎や延珠、将監や夏世は吹き飛ばされ地面に叩き付けられた。

 

「何だ……今のはよぉ……グオッ!」

 

「将監さん、無事……ですか?」

 

 大剣を支えにして立とうとする将監ではあったが、予想以上のダメージに立ち上がれずに倒れてしまう。それを心配しながら傍に近付こうとする夏世も体中が傷まみれで思い通りに動けないでいた。

 

「クッ! 延珠、大丈夫か!?」

 

「妾は大丈夫だ。それより蓮太郎は?」

 

「命には別状はない。でも、足を」

 

 先程の凄まじい光線を回避するも、避け切れなかった蓮太郎の足には傷を負っており身動きが取れないでいた。

 皆が苦しむ中、スカルグレイモンは負った股関節の傷を意識を集中させて治癒に専念した。意識を集中され、股関節の傷口は目に見えて明らかに癒され、そしてスカルグレイモンは立ち上がった。

 皆は絶望の表情を浮かべる。闘争本能の真紅の瞳は、1人の人物を捕らえた。

 

「あっ」

 

 夏世とスカルグレイモンの眼が合う。それに気付いた夏世は顔が引き攣り、真青に染まる。徐々に近付いてくるスカルグレイモン、その表情は不適な笑みを浮かべているように夏世は見えた。そして、スカルグレイモンは夏世を手で持ち上げて握り締めた。

 

「あっ! アアアアアアッ!」

 

 握り締められ苦痛の悲鳴を上げる。誰かに助けを求めようと苦しいながらも視線を動かし周囲を見渡すが、逆にそれが絶望を与えた。

 蓮太郎や延珠は悔しそうに懸命に立とうとするが、先程のダメージで身体を支えられないでおり、将監もまた立てられずにいた。

 夏世は思う。もう、助からない。心残りは、プロモーターとして将監さんを助けれなかった事、そして……。

 

「もう少し……ゼツさんと話したか、ったな……グアッ!」

 

 脳裏に浮かぶゼツの顔を思い浮かべて眼を閉じた。その瞬間だった。

 

「夏ァ世オォォォ!」

 

「ッ!?」

 

 自身を呼ぶ幼き男性の声。

 閉じていた眼を開かせ、その叫び声に視線を向ける同時、赤き弾丸がスカルグレイモンを打ち抜いた。それはインフェルモンの技の一つである繭形態で敵に突進する『コクーンアタック』である。

 凄まじい『コクーンアタック』の衝撃、その一撃でスカルグレイモンは夏世を手放し、宙に吹き飛ばされた夏世をゼツが空中でキャッチして着地した。

 

「大丈夫か!?」

 

「ぜっゼツさん?」

 

 抱きしめているゼツの存在に夏世は一瞬、誰なのか理解できなかった。徐々に抱きしめている人物を理解して夏世は、目元が熱くなりゼツを抱きしめた。

 急な抱きしめにゼツは最初は驚きながらも耳元から夏世の泣き声が聞え、そこで理解したゼツは背中を優しく撫でる。

 

「もう大丈夫だ。だから泣くな」

 

「……泣いてません」

 

「だったら顔を見せろ」

 

「嫌です」

 

 泣いている事にゼツが指摘するが、それを夏世は泣いていないと否定。なら見せろとゼツが要求するが、それを夏世は再度否定した。傍から見たらいちゃついている様に見える。

 そんな事をしている間にもスカルグレイモンは立ち上がり、インフェルモンと戦いを繰り広げていた。

 

「夏世、悪いけど振り落とされないよう強く抱きしめてくれ」

 

「えっ? あっはい!」

 

「よし。一気に叩き込む」

 

 一枚のカードを取り出す。

 カードには、顔は狼、背中には戦闘機の翼を思わせる飛行ユニットが装着され、右手には巨大な銃身、左手にはリボルバーランチャー、下半身はスラリと細く上半身がゴテゴテと機械で固められ、全身を水色装甲で覆われている。十闘士の力をも超えると云われる、光の能力を持つ超越種デジモン。マグナガルルモンが描かれていた。

 カードは強く輝き、そして、

 

「マシンガンデストロイ!」

 

 輝くカードから一斉に幾つもの重火器やレーザーが放たれる。凄まじい衝撃で身体が後ろに押され、カードを翳している腕に負担が掛かり激痛でゼツの表情を歪ませる。

 ミサイル、ランチャー、レーザー、それらの攻撃を一斉に受けたスカルグレイモンは苦痛の雄叫びを上げ吹き飛び地面に叩き付けられる。叩き付けられ砂煙が舞う中、傷付きながらもスカルグレイモンは起き上がり真紅に染まる瞳をゼツを睨み、咆哮と共に四つん這いになり背中に背負う有機体ミサイルをロックする。そして弾丸を放とうとした瞬間、スカルグレイモンに影が差す。

 

「やれ、インフェルモン」

 

 影の正体はインフェルモンだった。

 スカルグレイモンの真上に現れ、読み取れない表情の顔を真下に向けると口元が開き銃口が現れる。そして、その銃口から幾つもの弾丸が放たれた。必殺技のヘルズグレネードである。

 無防備状態の背中にエネルギー弾が幾つも叩き込まれ、断末魔を上げて四つん這い状態でスカルグレイモンは倒れ込み、赤く輝いていた瞳は光が失せ0と1のデータ粒子と化す。

 データの粒子になっていくスカルグレイモンを見詰めながら、やっと戦闘が終わったと思うゼツは胸を撫で下ろした。

 

「あっあの」

 

「えっあぁ悪い、今降ろす」

 

「えっいえ……はい」

 

 抱きしめていた夏世を開放するゼツ。だが、開放された夏世は少しだけ残念そうな顔を浮かべるが直ぐに無表情に戻した。

 これで――無傷ではないにしろ――全員無事に生還できた。誰もが緊張の糸を緩め、胸を撫で下ろした。だが、さらに絶望が襲う。

 

「ッ!?」

 

「どうしたんですか?」

 

 眼を見開き何かに驚くゼツに疑問を問い掛ける夏世。だが、その言葉に反応する事無くゼツは後ろを振向く。そこには確かに消失したスカルグレイモンのデータ、そのデータ残留が集まりだしており、更に別の方からもデータ残留を飛んできていた。

 

「スカルグレイモンとスカルバルキモンのデータが……まさかッ!」

 

「えっゼツさん!?」

 

 二つのデータ残留の粒子が一塊に集まる。その現象に気付いたゼツは凄まじい速さで一塊になろうとしているデータに向って駆け出す。袖からスマホを取り出し、カードを取り出す。そのカードに描かれているのは獅子そのものを二足歩行した姿のデジモン。レオモンである。

 カードは消失、それと同じくしてゼツの右手は橙色に輝く。

 

「獣うぅぅ王おぉぉケェェーー!」

 

 ゼツの右手に闘気が宿り、それは獅子の顔へと変貌する。そして、ゼツは今まで吐き出した事もない大声でその獅子顔の闘気を打ち出す。打ち出された獣王拳、それは一直線に進んで一塊に集まるデータを捕らえ、大爆発を起こした。

 大爆発を起こした爆心地をゼツは瞬きせずに睨むように見詰る。そして、ゼツの顔は苦虫を噛み潰した表情に変わる。

 爆心地にはデジコードに包まれたタマゴ、そして孵る。

 

「バオォォォ!」

 

「……スカルマンモン」

 

 巨大なマンモスを白骨化した姿、腹部には輝く紅玉、鋼鉄化された顔前面と牙と鼻。アンデッド型でありながらワクチン種の究極体。ウィルス種を殲滅する、ただそれ一点を生存本能に従い戦い続ける。それがスカルマンモンである。

 本来ならウィルス種ではない存在には見向きもしないデジモンではあるが、その瞳にはゼツたちを捕らえ闘争の炎を滾らしている。

 

「クソッ! インフェルモン!」

 

 叫びと同時にインフェルモンが手足を体内に納め、繭姿の状態でスカルマンモンの突貫する。インフェルモンの『コクーンアタック』、それをスカルマンモンは正面から受止め弾き返した。

 インフェルモンは吹き飛ばされるが、その動作でスカルマンモンに隙が出来たのをゼツは見逃さない。一瞬にしてスカルマンモンの顔正面にゼツは現れ、未だに輝く右手を振り下ろす。

 

「獣王拳!」

 

 顔に直撃。爆発の煙が立ち込められる中、閃光が見えると同時にゼツが何かに吹き飛ばされた。スカルマンモンの鼻で吹き飛ばされた。それを理解するにはあまりにも一瞬の攻撃でゼツは身動きも出来ずに薙ぎ払われたのだ。

 スカルマンモンはゼツを直接狙った訳ではない。煙で視線を覆われて的を絞れなかった為、力任せに前方を振り払ったのだ。ただ、それだけ。

 たったソレだけで人間は何も出来ずに倒されるのだ。それが、デジモン世界での最終進化形態・究極体の力なのである。

 上空5メートルぐらいまで吹き飛ばされたゼツは受身を取ろうとする。だが、スカルマンモンの鼻で振った暴風はゼツの身体のバランスを奪い身動きを奪う。そして、受身も出来ずに地面に叩き落された。

 生々しい音が周囲に響く。

 吐血、全身に激痛、苦しい声も上げられずに悶絶して動けなくなる。それを一部始終を見ていた周囲の者たちは顔色を青褪める。ゼツは民警でも早々見れないほどの実力者、それが攻撃を見切る事も出来ずに薙ぎ払われたのだ。

 苦痛の声を漏らすゼツ、それに近付く影が見えた。夏世だ。

 傷付いた身体を引き摺りながらゼツに近付き、そして覆い被さった。その行動に薄目ではあるが見ていたゼツは痛みで引き攣る顔を浮かべながら夏世に視線を向けた。

 

「なに……してんだ……ッ!?」

 

「あの時、助けたお礼まだでしたよね?」

 

 微笑の表情を浮かべる夏世はそう述べた。

 あの時のお礼。それは初めて夏世と出合った時、蛇型ガストレアに襲われそうだったときに助けた事である。

 そう答えた夏世に目を丸くしてゼツは驚く。

 

「バカ……逃げ……ガッ!」

 

「痛みますよ? 守り、ますから」

 

 そんな2人を嘲笑うかのように一歩近付くスカルマンモン。それを許すまいとインフェルモンが顎を開いて銃口からエネルギー弾を何発も撃ち放つが、それらの弾丸はスカルサタモンの黄金装甲で弾かれ効果がない。それでも打ち続ける。

 ダメージは無いがいい加減に邪魔だと感じたスカルマンモンは、背中に背鰭に生えた骨を高回転させて撃ち放つ。それはスカルマンモンの必殺技『スパイラルボーン』である。

 直撃を受けたインフェルモンは身体の装甲を傷付け後ろ足は一本が千切れ、そして後方に一気に吹き飛ばされた。

 強烈な一撃、それで身動きが出来なくなったインフェルモン。それを横目に確認しながらスカルマンモンは徐々にゼツたちに近付き、そして踏む一歩手前に来て前足を大きく振りかぶる。そして、

 

「ゼツさん!」

 

「クソッ!」

 

 もうダメだ。

 皆がそう思った瞬間、スカルマンモンが横に急に吹き飛ばされた。見えたのは赤い閃光の軌跡、それが一瞬でスカルマンモンの打ち抜き一気に吹き飛ばす。そして、複数の火炎弾が吹き飛ばされたスカルマンモンに向って飛来して直撃と共に大爆発を起こす。

 蓮太郎や延珠、将監たちは何が起きたのか分からず呆然と眺めていた。すると、ゼツと夏世の傍に二体の影が降り立った。

 

「この、二体は……」

 

「ハハッ、来るのが遅いぞ」

 

 ゼツのパートナーである二体のデジモン。

 ディアボロモンとミレニアモン、その二体がやっとの事で結界を突破してゼツたちを助けに現れたのだ。普段は不気味に笑っているディアボロモンは一切笑わず、ミレニアモンは唸りながら臨戦態勢を崩さず、二体のデジモンは吹き飛んだスカルマンモンに鋭い眼光で睨み付けていた。

 二体のデジモンは怒りを覚えていた。

 自身が不甲斐ないばかりに守らなければならない主を傷付けてしまった自身の失態に、そして主を傷付け苦しめた敵に対して、二体のデジモンは一気に襲い掛かる。

 スカルマンモンも身体を起き上がらせ必殺技『スパイラルボーン』を撃ち放つ。放たれた高回転の背鰭骨が二体に襲い掛かるが、ディアボロモンは胸部の発射口から強力な破壊エネルギー弾――カタストロフィーカノン――を発射する。

 互いの必殺技が激突、爆発を起こし周囲が煙で立ち込める中でもミレニアモンは一直線に突貫、そして煙を抜けて眼前にスカルマンモンと捕らえると共に四つある腕を一気に殴りかかる。

 右から2発同時のパンチ、続けて左から2発同時のパンチ、それらを交互に繰り返して殴り続ける。それは戦略でも作戦でもない。ただ、戦闘本能に任せた暴走である。

 だが、スカルマンモンも負けまいと殴り付ける拳を顔前面と牙と鼻まで覆った鋼鉄製の鎧で受け止めてダメージを最小限に抑える。そして、ミレニアモンが次の拳を振るう寸前で鋼鉄化さえた鋭い角で突き刺そうとする。

 だが、その牙を回避してミレニアモンは逆に噛み付きミシミシと亀裂音を響かせて、その鋼鉄化された牙を噛み砕く。片方の鋭い牙を失ったスマルマンモンは数歩後ずさりよろめく。

 咥えていた鋼鉄製の牙を離し、闘気の宿った瞳を輝かせてミレニアモンは睨み続ける。そして、背中の機械砲をスカルマンモンに向けて砲口から凄まじいエネルギー砲――∞キャノン――を放射する。

 その砲撃を身体全体で受止めて耐えるスカルマンモン、だが上空からディアボロモンのカタストロフィーカノンが何発も打ち込まれた。究極体と言え、同世代のデジモン二体の必殺技を同時に受ければ一溜りもなくスカルマンモンは断末魔を上げながら0と1のデータ粒子にと散っていった。

 敵であったデジモンが消失した事が分かった二体のデジモンは勝鬨の雄叫びを上げる。

 

「相変わらず強いな……イテテッ、あまり圧し掛かってくるな。痛い」

 

「すっすみません。気が抜けて、腕に力が入らなくて」

 

 圧し掛かる重みで全身に痛みが走るゼツは夏世に注意するが、その夏世も腕に力が抜けて身体を支えられなくなりゼツに全体重を乗せている状態だった。

 夏世の今の状況を訊いたゼツは仕方ないと思い、そのままの状態でいる事にした。そして、全身の痛みを感じながら生きている事をゼツは実感する。

 

「あぁ、そうか。まぁ……生きてるよな?」

 

「はい。ゼツさんはどうなのですか?」

 

「流石に……究極体の一撃は、効いた。直撃は……していないのが、唯一の救いだな」

 

 もし受けていれば死亡は免れない。そう思うとゼツは全身に嫌な汗が溢れ出し、今頃になって恐怖を感じるのだった。恐怖に身体を僅かだが震えている事に気付いた夏世は、優しくゼツの頭を撫でるのだった。

 急に撫でられて驚くも、その暖かな手に少しだけ落ち着いたゼツは痛む身体を無理して周囲を見渡した。

 蓮太郎を介護する延珠、大剣を支えに立ち上がる将監、どうやら皆は無事である事を理解したゼツは深い溜息を吐いて胸を撫で下ろした。

 これが民間警備会社『民警』とデジモンたちとの最初の戦いだった。

 

 

  ◆

 

 

 その戦いを水晶でずっと傍観していた真紅の瞳を持った存在。その者は顎を撫でながら、その戦いを分析していた。

 

「ほうほう、中々どうして強いではないか。これは楽しみだ」

 

 影は不適に笑うと、水晶に挟んで向かい側に何者かが現れた。その影は何やら不機嫌で、荒い口調で喋りだす。

 

「おい! あのガキは見つかったか!?」

 

「おぉ、此処で彼方が来るなど珍しい。それで、何用ですかな?」

 

 芝居掛かった喋り方に、後から来た影は更に不機嫌となる。

 

「いい加減にしろ! それで、例のガキは見付かったかと訊いているのだ!」

 

 振りかぶった手を思いっきり水晶に殴りつけた。その一撃は見事に水晶は粉々に砕け散り、真紅の眼の者は悲鳴の雄叫びを上げる。

 

「おまっ水晶ガアァァ!?」

 

「あっすまない。手が滑ってしまった」

 

「わざとだろう!?」

 

「手が滑ったと言ってであろう!」

 

「あの水晶、原石高いのだぞ! それに、貴様が言っていたガキの居場所も映していたのだぞ!」

 

「何ッ!? 今直ぐ出せ!」

 

「貴様が粉砕したんだろぉが!?」

 

 先程の闇に潜む壮大な威厳は何処へやら無様な殴り合いが開始された。だが、その拳一撃一撃が核弾頭並み以上の威力を秘められており、周囲を粉砕されていく。

 

「だから貴様はあの十なんちゃらに封印されるのだ!」

 

「お前こそ影薄いだろ!」

 

「切札出して即行潰されてた若造が!」

 

「この老害! 悔しかったらテ○ビに出てみろ!」

 

「今度こそワシがラスボスぞ!」

 

「プチられるのが落ちだよ!」

 

「言うな!」

 

 見苦しい争いである。


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