廃墟に陽射しが差し込む。
東京エリア。その外周区に二体の化物たちが立ち尽くしていた。
四本の腕、背に機械の大砲、兜の様な頭部、千年魔獣と呼ばれる凶悪合成デジモン・ミレニアモンが大きな欠伸をしており、その隣でディアボロモンが「ケケケッ」と笑っていた。
そんな二体の凶悪デジモンをまじかで見たリアは唖然と見詰ていた。
「これ、ゼツのパートナーなの?」
「そう、四本腕がミレニアモンで、その隣のリアを脅かしたのがディアボロモン」
「ミレニアモンとは今日が始めて会いますね」
昨日の夜。
ゼツは目的であったガストレアの実力を調べに向かった。そして、ガストレアはパートナーである二体のデジモンには脅威にならないと判断した。
勿論、未だ見ぬ凶暴なガストレアが居るかもしれないので決断しきれずにはいるゼツは、無事に姉妹がいるマンホールに帰ってきた。だが、そのマンホールの外には姉妹が出ており声を上げてゼツを呼びながら探していたのだ。
姉妹の傍に着地して降りてくると姉妹は泣きながらゼツに抱きついてきた。何故、泣いているのか分からずに困惑するゼツは姉妹の言葉を聞いて納得した。
姉妹の言葉から「寂しかった」や「怖かった」、「何処にも行かないで」など悲痛の言葉をもらしてゼツにしがみ付いていた。そんな泣きじゃくる姉妹にゼツは、背中を優しく撫でてやった。
そこで、この姉妹は異常なまでに自身に依存してしまっている事を知った。だが、それは仕方ないのかもとゼツは思う。
今まで誰一人として優し手を差し伸べられず、迫害され続けてきた。そんな中で、同年代で優しく接してくれた子供が居れば依存するのも無理からぬ話かもしれない。
姉妹にとってゼツは既に掛替えのない存在にして、兄の様な存在でもあった。
ゼツはお詫びとしてもう一体の相棒であるミレニアモンを紹介して、豪華な朝食を準備してあげた。そこで、リアが不思議に思っていたことをゼツに質問した。
「昨日は訊かなかったけど、それ何なの?」
「ん? あっコレか」
リアが指差すそれはスマートフォンと呼ばれる携帯電話機の一種だった。それは、ゼツが小学生に入学した頃に親からプレゼントとして渡されたスマホ。だが、それは過去の話。
デジタルワールドに飛ばされた時そのスマホは変化が起こり、あらゆる物を収納できるアイテムボックス的な役割と、パートナーである二体のデジモンを納めるハウス的な存在に化けていた。
デジタルワールドでは人間が持つ端末機をデジヴァイスと呼ばれる代物であった。
そんな話を訊いたルリリア姉妹は面白そうに触って弄っていた。
「この中に今は何入ってるの?」
「食料や生活道具なんかは入ってるけど」
「昨日のオニギリもこの中に入っていたんですか?」
「そうそう」
姉妹は「便利だ」と感想を述べる。
確かに姉妹の言うとおりに便利なアイテムではあると、ゼツは今更ながら思った。そして、ゼツは改めてそのデジヴァイスの恩恵に感謝した。
嘗て、パートナーであるディアボロモンがタマゴから孵って幼年期のクラモンだった頃は、生き延びるので精一杯であったゼツ。予め備わっていたアイテムボックスの中身には色々な便利道具が収納されており、それを駆使して野生デジモンから生き延びてきた。なので、デジヴァイスに感謝する暇など無かった。故に、ここで改めてゼツは自身が持っているデジヴァイスに感謝するのだった。
ゼツとルリリア姉妹での3人の朝食を終えて、これから如何した物かと考えているとリアがある提案を述べた。
「他の所の"呪われた子供たち"に会いに行かない?」
他の場所の子供たちに会いに行く。その提案にルリも嬉しそうに手を合わせて同意した。
ゼツは周囲の子供たちの迷惑ではないかと懸念するが姉妹が強引に連れていく。その強引に連れていく姉妹にゼツは苦笑しながらなすがままに連れられて行かれた。
到着した場所は姉妹たちが居る場所と風景は一切変わらない。周辺は廃墟。何一つとして手入れされていない場所。
嘗ては道路であったアスファルトは罅割れ、その隙間から雑草が生え放題になっている。そんな場所でルリが屈み、足元にあるマンホールの蓋を数回ノックする。
「もしかして、此処に居るのか?」
「そう。雨風凌げて、それでいて冬は暖かいし」
そのゼツの疑問にリアは答える。
そこで、ゼツはある推測をしていた。この様に幾つも存在するマンホールなら何処に子供たちが隠れているのか相手には分からなく出来る。都心から"呪われた子供たち"を排除しようとする人間達から身を守る術なのだと。
待つこと数分、1人の子供が出てきた。この子もガストレア特有の赤目である。
「あっ、ルリちゃんです」
「マリアちゃん、お久しぶりです」
どうやら知り合いなのだなっと思うゼツ。すると、マンホールから出てきた少女マリアの視線がゼツに向けられた。
「ルリちゃん、ボーイフレンドですので?」
「ちっ違うよ! 今は……」
その検討ハズレの言葉に反論するルリ。だが、その最後の部分はゼツには聞えていなかった。っで、そのマリアに導かれながらマンホールの下水道を歩いていき奥に進んでいくと、1人の男性が居た。
メガネをかた撞木杖を持ち、物腰柔らかそうな少し老いた男性。その男性は一度だけゼツを見た後、嬉しそうにルリに話しかけた
「おやおや、キミがルリちゃんの彼氏さんかい?」
「ちっ違います! もう、マリアちゃん!?」
「えへ、なのです」
あのマリアと呼ばれる少女は悪戯好きか。その辺りはディアボロモンと良い勝負をしそうだと、割とどうでもいい事をゼツは考えていた。
ゼツは今一度周囲を見渡した。何人もの赤目がゼツに興味を示しながら遠めで観察している。
「(警戒してるな。無理もないか)…………」
ルリリア姉妹に連れられたとはいえ、他の"呪われた子供たち"が警戒を解くことは早々ない。ゼツは知らないが、そうやって優しく接して急に変貌して襲ってきた事例は幾つも存在している。
故に、例え子供たちが連れて来た相手であろうと警戒は解かない。
「彼方は?」
「私はこの子たちの面倒を見ている松崎と言います。君は……」
「異世界であるデジタルワールドのデジモンテイマー。名はゼツ」
「異世界……ですか」
その様なゼツの自己紹介に松崎と名乗る男性や周囲の子供たちは驚き、そして不信な目で見つめる。確かに急に異世界から来ましたと子供が言ってきたら不信感を募るのは仕方なかった。っで、そこに待ったを述べたのがルリリア姉妹だった。
「長老、ゼツが言ってる事は本当なんです」
「そうよ。だって、私達この眼で見たもん。二体のデジモンと呼ばれるモンスターに!」
必死に弁解する姉妹。
だが、皆は一向に信じようとしなかった。そこで、ゼツは皆に信じてくれる為に袖からスマホを取り出して操作、そして何かを出した。
取り出されたのは一枚のカードで、それに描かれているのはオレンジ色の二足歩行の子供の恐竜の姿。恐竜型、成長期、名はアグモンである。
ゼツはそのカードを持って、
「ベビーフレイム」
そう唱えた。持っていたカードは光の粒子となり、同時に掌に大人の頭ぐらいの火球が出現した。
その手品みたいで摩訶不思議な現象に周囲の、ルリリア姉妹すら驚きの声を上げた。
コレがゼツが持つデジヴァイスの恩恵の一つ。デジタルワールドに彼方此方に散らばっているカードをデジヴァイスに納めれば、そのカードを犠牲にする代わりとして描かれているデジモンの必殺技を一度だけ使用する事が出来る。
出した火球をゼツは指を鳴らして消失させる。
「これで証明になるだろうか?」
「いやいや、疑ってすまないねゼツくん」
「気にしていない。無理もないだろうし」
謝る松崎に顔を横に振ってやんわりとゼツは述べた。
その後、ルリリア姉妹からでは知られなかった現在の日本、そして世界状況を松崎に尋ねるゼツ。その質問に松崎は愉快に受け入れて、2人は穏やかに会話を続けた。
◆
私、夏世は不機嫌な顔を浮べている将監さんの隣で立ち、私達が所属している民間警備会社である社長・三ヶ島さんの前で報告しています。
報告している内容はガストレアを瞬殺した化物を従える少年。その話を三ヶ島さんに報告した所、何を馬鹿なと言われました。
私だって馬鹿なと言いたいです。ですが、現に私は助けられ、ガストレアを一瞬で葬り、将監さんを咆哮で倒したのです。
「ふむ……実はその日、三名の警察官が何者かに襲われたと小耳に挟んだ」
「はぁ? それがどうした?」
三ヶ島さんが溜息を吐きながら、警察官が襲われたと述べました。将監さんは相変わらず脳筋なので何を述べてるのか不機嫌に尋ねますが、私は何となくですが三ヶ島さんその話を切り出した理由を見切りました。
「周辺の取り巻きたちがガストレア以外の化物を見た、と報告が入っている。その中に"呪われた子供たち"と将監、君が見たという子に似た子も居たそうだ」
「なに!?」
「…………」
やはり、そう私は思います。でも、あの化物を従えている少年は何者なのでしょう。ですが、もう会うことも無いでしょう。そう思っていたら三ヶ島さんがレポートらしき物を取り出して渡してきました。
私にも渡され、それに書かれている内容よ読んで驚きました。そこには『公務執行妨害及び傷害罪で捜索対象』と書かれていた。私みたいな"呪われた子供たち"みたいな子供ならともかく、普通の子供に逮捕令状が出るなんて。
「不思議に思うだろ。子供相手にいくらなんでも大袈裟だと……。だが、警察官三名の内、1人がかなりの重傷を負っている。まるで、巨大な何かの手で握られたような、ね」
「それは……」
あの二体の化物なら可能でしょう。ですが、何故この様な事を私たちに説明するのでしょう……まさか!
そこで脳裏に嫌なことが思い浮かびました。そして、それと同時に三ヶ島さんが言いました。
「将監、夏世。君達ペアと他の社からの民警での合同捜査の依頼だ。場所は――外周区だ」
私は心臓を鷲掴みされた感覚に襲われました。あんな化物を従えた少年を捕まえろと言っているのだ。まともに戦って勝てる相手ではない。
今回の依頼を放棄しようと進言しようとするが、
「へっ! あの時の借りを返してやる」
あぁ、もうダメです。この脳筋、ヤル気です。
昨日、折角助かった命がこれで無くなってしまいます。内心で私は号泣しました。
◆
場所変わって雑貨ビル『ハッピービルディング』、一階にゲイバー、二階にキャバクラ、四階に闇金、そして三階に人知れずに存在する民警『天童民間警備会社』に2人の人物が居た。
真黒のロングヘヤー、黒のセーラー服、黒のハイソックス、上から下まで黒一色の女子高生。その女性の前には、これも黒色のスートを着込んだ若い男性が立っていた。
女性の名前は天童木更、男性は里見蓮太郎と呼ばれる人物だ。
「里見くん。警察から依頼が来てるわ」
「珍しいな、警察が民警に依頼なんて……っで、何の依頼なんだよ木更さん」
「仕事場では社長と呼びなさい。コレが依頼書」
蓮太郎はその報告書を見て、驚きの表情を浮べた。その依頼には逮捕令状、それも普通の子供が対象と書かれていた。逮捕相手の特徴は着物を着た男の子と記載されていた。
「おい、これどういう冗談だよ」
「本当にね。でも、被害が出れいるのは確かなのよ」
「どんな被害だよ?」
「ガストレア以外の化物が警察官一名を握り締めたそうよ」
「ッ! マジかよ」
顔を歪める蓮太郎。
そんな顔を見て木更は言葉を続けた。
「今回の依頼は複数の民警との合同よ。気をつけなさい」
「……了解した」
前途多難な思いをする蓮太郎。
だが、蓮太郎は思い違いをしていた。相手が化物と呼ぶには、あまりにも凶暴な存在である事を……。
さて、これでプロローグは終了です。
ゼツの二体目の相棒はミレニアモンでした。これでも十分世界情勢の軍事バランス崩壊確定ですね。
アニメではそれ程まで特徴的ではありませんでしたが、原作では印象的なマリアちゃん。何故、アニメではしなかったのか不思議でなりません。
ゼツが持つスマホ、デジヴァイスには色々な機能が備わっています。それが、今回に出てきたカードに宿った力を使える方法です。カードでの必殺技の行使は何ランクは下がった威力にはなっていますが十分な攻撃力を持っています。
さて、この後はゼツはどうなるかお楽しみに……。