ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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 蓮太郎たちがレールガンモジュールを使ってゾディアックを撃破した時刻、蓮太郎たちと分かれた伊熊ペアたちはガストレアを全て葬り、ゆっくりまったり休んでいた。

 将監たち周辺はガストレアの亡骸の山が積み重なり、大地はガストレアの血で染まっていた。そんな中にシートを広げ、弁当箱を開けて将監たちは食事をしていた。

 

「将監さん、お茶とお握りです」

 

「おう」

 

 片手にお握りを一口ぱくっと食べ、夏世から渡してくるお茶が注がれ湯気が立つマグカップを将監は受け取ってズズゥと一口飲む。

 お茶の苦味が口内に広がり眠気が引いていくなか、夏世は申し訳ない表情を浮かべて将監を見詰ていた。

 

「でも、良かったんですか? 助けに向かわなくて?」

 

「別に良いだろう。あのデカ物が動くって事はそういうことなんだろう」

 

 レールガンモジュールが動き出し、白き閃光を見届けた将監はある程度の事態の状況を把握して、隣に座っている夏世も同じく把握していた。

 何らかの方法で蛭子ペアを撃退。だが、肝心のゾディアック召喚を阻止できなかった為、レールガンモジュールを使って撃破した。

 撃ち終えた『天の梯子』を詰まらなそうに見詰る将監は、空になったマグカップを夏世に渡してお代わりを要求する。

 

「夏世、茶お代わり」

 

「はい」

 

 空になったマグカップを受け取った夏世は、水筒を取り出してマグカップにお茶を注ぐ。注がれていくマグカップに緑茶の良い匂いが二人の鼻腔を刺激、ガストレアで戦って荒れていた精神が落ち着いていく。

 マグカップにお茶を注ぎ終え、零さないように夏世はゆっくりと将監に手渡す。

 手渡しを終えた夏世は立ち上がってお握りを片手に持って、二人の後方で伏せて待機していたミレニアモンに近付いた。

 ミレニアモンは詰まらなそうに目蓋を閉じて寝息を立てていたが、夏世が近付いてきたので片目だけを開けて近付いてくる相手を見詰る。

 

「ミレニアモンさん、どうぞ」

 

「GUUuu……」

 

 持っていたお握りを夏世が見せると、ミレニアモンはゆっくりと大きな口を開け『投げ入れる』ことを夏世に要求する。それに気付いた夏世は、持っていたお握りを口内に目掛けて投げ入れた。

 お握りが口内に入った事が判ったミレニアモンは開けていた口を閉じてモグモグと噛み締めて、最後にゴクッと飲み込んだ。

 食べ終えたミレニアモンは、開けていた片目を閉じて寝息を立てだした。その見た目は恐怖に駆られるが大人しい性格のミレニアモンに、将監は訝しげな視線を送っていた。

 

「相変わらずその化物、強いな」

 

「はい。半数以上は全てミレニアモンさんが狩りましたからね」

 

 二人の会話の通り、襲ってきたガストレアの半数以上はミレニアモンが狩り尽くしていた。

 背中の大砲など使わず、何か特殊な方法を使った訳でもなく、四本の豪腕を使って只力任せにガストレアを肉片に変えていったのだ。そこには戦略も戦術もなく只々、理不尽なまでの暴力を振るっていた。

 その姿を近くで見ていた二人は、冷汗を流しながら破壊し尽くすミレニアモンの姿を眺めていた。

 

「ッ!?」

 

 二人がミレニアモンの暴力的姿を思い出していたとき、ミレニアモンが何かに感付き閉じていた目蓋を開けて起き上がる。そして、周囲を一度だけ見渡したのちにミレニアモンは急に将監たちを覆い被さり、体を丸めた。

 その瞬間、暗闇の森から赤く染まるナニかが近付いてきた。

 

「なッ!」

 

「将監さんッ!」

 

 周辺に転がるガストレアの肉片や、大地に染みた血、草木や木々を紅蓮の劫火が焼き払いながら将監たちを襲った。

 

 

  ◆

 

 

 日本国家安全保障会議。

 ゾディアック・スコーピオンを撃破したことを主モニタで確認できて会議内は、歓声に溢れていた。

 聖天子も安堵の表情を浮べ、木更も強張っていた表情を緩めた。

 

「良くやったわ里見くん」

 

 大絶滅を退けて歓喜に溢れてきた時であった。

 急に室内にアラームが鳴り響き、主モニタの画面に見知らぬマークが浮かび上がっていた。

 

「何事です!?」

 

 急なアラームに驚きながらも状況報告を求める聖天子の声に、周囲の者たちは一斉に調べだす。だが、どれだけ調べても何一つ理解できず困惑の表情を浮かべていた。

 

「何の警告なのか判りません!」

 

「一切の操作を受け付けません!」

 

 全てのモニタに円の線、その中に三角が描かれておりその角にも三角が描かれ赤く輝いていた。

 意味の解らないマーク、意味の解らないアラーム。一体全体、何が起きているのか解らずに困惑する会議内で、木更は咄嗟にある人物に連絡を入れた。

 

「……早く出て」

 

 ガチャと相手と繋がった音がした。

 

『どうしたの?』

 

 ゼツの声が議会内に響く。

 その声を聞えた聖天子や高官たち。そこで何故、この子供に木更は連絡したのか判らず困惑の表情を向ける。だが、木更は何か確信めいた直感があったのだ。

 

「ゼツくん、良かった無事ね。ゼツくん、こっちはゾディアックを倒し終えたのだけど急にアラームが鳴り響いたの」

 

 今の状況をかなり省きながら説明した木更。その説明にゼツは困惑の声色を含みながら聞き返した。

 

『アラーム? 他には?』

 

「モニタには意味不明のマークが浮んでるの。丸い円の中に三角が描かれていて、その角にも逆三角が描かれてるの」

 

『ッ! バカな!?』

 

 今までに聞いた事のないゼツの慌てた声。

 冷静沈着、そう字を書いたように落ち着いた雰囲気を持ったゼツが初めて焦り慌てた声に、木更は逆に驚いた。そして、ゼツはボソボソと呟いた。

 

『デジタル……ハザー……ドだと』

 

「デジタルハザード?」

 

 言葉を繋げて木更もオウムの様に呟き返した。

 そのデジタルハザードとは何なのか、なんの意味なのか。木更はそれを聞こうと訊き返そうとするが、電話からは不通音が返されていた。

 

 

  ◆

 

 

 木更から聞かされたマーク、それをゼツは実際に見た事があった。

 デジタルハザード。デジタルワールドのみならずリアルワールドにも破滅的被害を及ぼす危険なマーク。何故、そのマークが木更たちの会議室のモニタに映し出されたのか判らないでいた。

 

「デジタルハザード……ってことは何処かに発生源がッ!」

 

 今の現状を纏めて自身がどの様に動けば良いのか色々と考え、発生源を探す事を思い浮かべた。だが、それと同時に地震を思わせる大地の揺れと、弾道弾ミサイルでも落とされたのかような錯覚してしまうほどの爆発音と衝撃破がゼツを襲った。

 一体全体、何が起きているのか周囲を見渡し、ある一点に視線を止めた。

 

「あ……あれはッ」

 

 夜の象徴たる暗闇、それら全てを照らすが如く燃え滾る劫火の炎。

 火炎旋風と呼ばれる現象、その渦が天を穿たんが如く焔を舞い上げ、空すらも焼かんとばかし燃えていた。

 そして、その火炎旋風が発生している場所は夏世たちが居る場所でもあった。ゼツは唖然として止まっていた思考を、無理矢理に動かす。

 

「ディアボロモン!」

 

 力強く相棒のディアボロモンを呼び、腕の中に掴まって火炎旋風が起きている場所にゼツは向った。

 ディアボロモンに抱きしめられながら発生場所に向おうとするが、近付くに連れて灼熱によって熱せられた熱風がゼツを襲う。

 火にも当たっていないのに肌が焼かれた痛みにゼツの表情を歪ませる。そして、近付いて目的地近くに何らかの影が見えて、その影の正体を見た瞬間、ゼツは表情を凍らせた。

 正体を見て、何故あの存在がこの様な場所に居るのか意味不明で困惑する。

 

「何故……アイツが、この場所に……」

 

 未だに困惑を隠せないゼツ。

 すると、周囲の木々を巻き込んで炎を拡大を続けていた火炎旋風、その中心から黄色にエネルギー弾の閃光が走ると同時、炎は四散して鎮火された。

 それがミレニアモンの背中に装備されている大砲、その大砲から放たれる必殺技・∞キャノンを使って火炎旋風を衝撃鎮火したのだろうと瞬時に理解したゼツは、急いで丸まっているミレニアモンの傍に駆け寄った。

 

「夏世!」

 

「ッ!? ゼツさん!」

 

 ディアボロモンから降りたゼツは急いで夏世たちの傍に駆け寄った。

 将監と夏世、二人の衣服には焦げ痕は幾等かあったものの大きな怪我などはないことが判ったゼツは安堵の溜息を吐いた。

 逆に二人を庇ったミレニアモンは酷い有様であった。

 火傷を負っていない場所を探すのが困難と言えるほどの大火傷、ミレニアモンが究極体であるからこそ消滅せずに生きていられるが、これが完全体なら完全にデータの塵になっていただろう。

 ゼツの言葉『二人のサポート』を忠実に従い、ミレニアモンは我が身を盾にして二人を助けた。だが、結果としてミレニアモンは大きく傷を負ってしまった。

 その場で横に倒れてしまうミレニアモンに今にも涙を流しそうな表情を浮かべながらゼツは傍を寄りそう。

 

「ミレニアモンさんが、私達を庇って」

 

「ミレニアモンッ!」

 

 夏世からの説明を聞きながら痛々しく焼き爛れたミレニアモンの肌を見詰る。

 普通の炎では決して焼かれる筈のないミレニアモンの肌、それを焼くとなると人間の兵器では不可能。デジモンの、それも同世代である究極体の炎でなければ無理である。

 自然とゼツの視線がある一点に向けられる。

 大地は焼かれ、その熱で蜃気楼が起こし周囲が歪ませる。それでも、ゼツの睨みつける視線は動じない。そして、相手の名を呟く。

 

「メギ、ドラモン……」

 

 木々は未だに燃え、その焔が周囲の闇を照らし、巨大な影の全貌が照らされる。

 理性など一欠けらも感じさせない狂気の瞳、紅蓮の一対の翼、両手の甲には鋭い刃物が生え、胸にはデジタルハザードマーク、下半身は蛇の様に尻尾が伸びている。

 究極体、邪竜型、ウィスル種。世界を破滅に導くとされているデジタルハザードを起こす恐れのある凶悪デジモン・メギドラモン。

 

「知ってるのか?」

 

 顔を歪ませて険しい表情を浮ばせながらゼツに問う将監だが、ゼツはその言葉に耳を傾けている余裕がなかった。

 相手はメギドラモン。その凶暴性は知っており、存在そのもの世界を破滅に導くデジモン。それが何故、この様な場所にいるのか判らず困惑しているとメギドラモンの傍に小さな影が現れた。

 背格好から小学生、ツンツンに固まった髪形、額には安物らしきゴーグル、竜の顔を思わせるイラストが描かれたシャツ。

 

「なんだぁ、あのガキ?」

 

「もしかして、ゼツさんと同じ……ゼツさん?」

 

 『巨大な化物を従える子供』。

 それと全く同じシチュエーションであるゼツに視線を向けた夏世だったが、ゼツの様子が可笑しいことに気付いた。

 奥歯をカチカチを鳴らし、顔は青褪めており、表情からはありえない物を見ている瞳を浮かべていた。

 見たこともないゼツのその表情に疑問を浮かべていた夏世。すると、ゼツは小さく呟いた。

 

「タっ……クマ」

 

「久しぶり。ゼツ兄ィ」

 

 互いに名前で呼び合い、相手は兄と呼んできた。

 兄弟なのだろうかと思ったが、殺伐とした雰囲気を醸し出している二人に夏世は違うと判断、ならこの二人の関係は何なのだろうと疑問を浮かべる。

 タクマと呼ばれる子供はゼツを微笑みを浮かべて見詰ており、逆にゼツは睨むように見つけ返していた。そして、ゼツが大きく深呼吸をした。

 

「タクマ、生きてたんだな」

 

「まぁね。痛かったよ」

 

「っで、何しに現れた?」

 

「ゼツ兄ィに会いに来たんだよ」

 

「出会いがしらの挨拶がメギドラモンの必殺技か? ミレニアモンが庇っていなかったら夏世たちは死んでいたぞ?」

 

「アハハハハッ。それがどうしたの?」

 

「……そうか、やっぱし変わってはいないのだな」

 

 ゼツはスマホからカードを一枚だして空に投げた。

 カードは強く発光すると光の粒子となってミレニアモンに降注いだ。光の粒子はミレニアモンの傷口に集り、そして傷を癒していった。

 

「ギガヒールだね。治癒系カード、やっぱし持ってたか」

 

「タクマ……覚悟はいいな?」

 

「フフ……アハハ……アヒャヒャ……やっと、やっとゼツが見てくれたッ! 出て来いラストティラノモン!」

 

 タクマの手にはゼツと同じくスマホが持っており、その画面が輝くと空から巨大な物体が落ちてきた。

 恐竜の形のした機械、各所の機械部分には赤錆が浮かび上がっており全身が赤く見られる。そして背中には巨大な主砲らしきものが背負われている。

 究極体、マシーン型、ウィルス種。デジタルワールド創生から長岐に渡る激戦を、進化とともに潜り抜けてきたティラノモンの正統な究極体。

 

「ラストティラノモン。また厄介なデジモンを……相手をしてやれミレニアモン!」

 

「打ち砕けラストティラノモン!」

 

 ゼツとタクマの二人同時の合図に二体のデジモンは一斉に動き出した。二体は相手するデジモンに向って全速力で突っ込み、そして衝突する。

 衝突により衝撃破は周囲の者達を襲い、行き場のない衝突の力はデジモンの足元の地面を陥没させ皹を入れて破裂した。

 二体のデジモンは互いに掴みかかり押し合う。だが、ミレニアモンには残り二本の腕があり、その腕でラストティラノモンを殴りつける。

 振り下ろされた拳はラストティラノモンの頭部を当たるものの鋼鉄の装甲には多少の陥没程度しかダメージを与えられなかった。逆にラストティラノモンの背中に装備されている主砲をミレニアモンに向けてぶっ放した。だが、その主砲の銃口をミレニアモンは無理矢理に残り二本の腕で曲げて逸らす。

 背中の主砲では当てられないと判断したラストティラノモンは顎を開いて息吹を吹く。それはラストティラノモンの必殺技『ラストブレス』である。『ラストブレス』を受けたミレニアモンは苦痛の呻きを上げるが、それを我慢してラストティラノモンの首筋に噛みつく。

 急な反撃にラストティラノモンは苦痛に悶えるも、片方の腕を外して噛み付いてくるミレニアモンの顔を殴りつけて吹き飛ばす。そして、吹き飛ばされたミレニアモンに対してラストティラノモンは背中の主砲を向けて『テラーズクラスター』を放った。

 ミレニアモンを『テラーズクラスター』を相殺するために背中のムゲンドラモンの主砲を向けて『ムゲンキャノン』を撃ち放つ。

 二つの必殺技は互いに衝突、凄まじいエネルギーの奔流を生み大爆破とを起こす。

 

「きゃっ!」

 

「うおっ!」

 

 急な大爆発に将監と夏世は身体を屈んで衝撃に耐える。

 その二体の尋常ではない戦いに見入る将監たちは呆気にとられていた。一体、何が起きているのか、何故この二人は争っているのか、意味も判らず二人は見守る事しか出来なかった。

 一方、ゼツとタクマは互いに睨みあって微動だにしていなかった。二人はゆっくりと腕を上げると、残っていたデジモンたちが身構える。そして、

 

「電脳世界の異端児・遊戯神『ディアボロモン』」

 

「四大竜の暗黒邪竜・破壊神『メギドラモン』」

 

「「相手を葬れッ!」」

 

 互いの合図と同時にディアボロモンとメギドラモンは空に飛び上がった。

 先ほどの二体のデジモンがパワー勝負なら、此方はスピード勝負。

 凄まじい速さで空を翔け、収縮自在の腕を使いディアボロモンの真紅の鍵爪がメギドラモンお襲う。だが、襲い来る鍵爪にメギドラモンは怯む所か突貫してディアボロモンの攻撃を弾いた。そして、そのままディアボロモンに向って突撃して吹き飛ばした。

 吹き飛ばされたディアボロモンはそのまま地面に叩き付けられ身動きが出来なくなる。そこにメギドラモンが襲い掛かろうとする。そこで、ディアボロモンは腹部の銃口をメギドラモンに向けてエネルギー弾――『カタストロフィーカノン』――を撃ち放った。

 急な反撃にメギドラモンは刃を持った甲で弾き返し、返された『カタストロフィーカノン』は明後日の方向に吹飛び、森中で着弾すると大爆発を起こした。

 

「……タクマ」

 

「……ゼツ」

 

 ゼツは白銀に輝く刀身を持つ日本刀を取り出した。レイブモンと呼ばれるデジモンが腰に携えている刀で銘は『烏王丸』と呼ばれる業物。

 タクマはスカルグレイモンの口から刃が生えた大剣。タイタモンと呼ばれるデジモンが持ち多くの怨念が宿った『斬神刀』と呼ばれる邪剣。

 互いに腰を深く落として自身の獲物を構え、そして、

 

「「ハアアァァアアァァーーッ!」」

 

 刃が激突する。

 

 

  ◆

 

 

 ディアボロモン対メギドラモン、ミレニアモン対ラストティラノモン、そしてゼツ対タクマ。

 木々や大地を抉り、周りにいたガストレアたちを巻き込み、周囲の地形を変えていく激戦。その激戦を無人観察機で撮影、それを映し出されたモニタを見詰ながら日本国家安全保障会議の者たちは唖然としていた。

 アレは何だ。あの子供たちは何者だ。高官たちが小声で呟きながら、その戦いを見詰ていた。

 

「ゼツ君、こんなに強かったんだ。普段から全然見せないから……」

 

 木更が呟く。

 刀らしき獲物で相手の大剣を受け流しながら鋭い連続斬りを放つゼツ。だが、それを相手は大剣の背で受け止めて距離を離し、一枚のカードをゼツに投付けた。

 投付けられたカードは急にミサイルさしき物に変化して、ゼツに向って追いかけるように突き進む。それに気付いたゼツも懐からカードを一枚取り出してミサイルに向って投付け、そのカードもミサイルに変化して相手のミサイルと衝突させる。

 衝突したミサイル同士は大爆発を起こし、周囲の木々や岩、ガストレアたちを纏めて吹き飛ばしていく。爆発で周囲が砂煙を舞って視界が悪くなるも、その砂煙の中では時折、金属が弾いた火花が散っており視界不良のなかでもゼツと相手は戦っていた。

 そして、砂煙の中から光が一瞬輝いたと思った瞬間、砂煙から二人が出てきた。だが、その二人の背中には、ゼツに白い翼、相手には黒い翼を生やしていた。翼を生やした二人は急スピードで空を翔け、空中戦を繰り広げだす。

 

『何故、ここにお前がいる!?』

 

『言ったでしょ。ゼツに会いにだよ!』

 

『タクマ。お前は一年前、死んだはずだ!』

 

『そう、でもボクは蘇った!』

 

 二人の会話を無人観察機で拾い、日本国家安全保障会議にいた者たちは耳を傾けていた。そして、その中である単語に皆は聞いた言葉を疑った。

 

『蘇った? ふざけるのも大概にしろ。死者は蘇らない、それはどの世界でも同じ事……誰に魂を売った!?』

 

『アヒャヒャ……ゼツがよく知っている相手だよ』

 

『……まさか』

 

『そのまさかさッ!』

 

『ッ!?』

 

 目を見開いて驚くゼツの隙に、相手は一気に襲い掛かる。

 大剣を上段から一気に振り下ろし、それを紙一重で避けて離れようとするゼツではあるが相手はそれを見逃さない。

 カードを三枚取り出して投付ける。

 

『『デッドリーボム』『ビットボム』『アイスアロー』』

 

 悪魔のような翼と触覚が付き、悪戯好きな顔が貼り付けられた弾。赤い弾に出っ張りのイボが生えている弾。そして氷が鋭く尖った槍。その三つが一斉にゼツ目掛けて襲い掛かる。だが、ゼツはカード三枚に対して一枚だけカードを取り出し、襲い掛かる物体に投付ける。

 

『『インフェルノゲート』』

 

 ゼツの前方に空間が横に裂けて、徐々に広がって綺麗な円が現れる。円の中は底が見えない程に暗闇が広がっており、その中を覗き込んだ高官たちは背筋が凍るほどに嫌なナニかを感じて額に冷汗を浮かべる。

 二つの弾と、氷の槍、その三つはそのまま円の中に入ると円は徐々に閉じていき最後には消えてしまった。

 

『へぇ、『インフェルノゲート』。良いカードを持ってるね』

 

『お前は出し惜しみはなしか』

 

 互いに睨みあう。

 ゼツは明確的な殺意を、相手は不敵な笑みを、対極的な瞳を浮かべる二人。その激闘に見入っていた聖天子はやっと正気に戻り、一緒にモニターを見ていた木更に問い掛けた。

 

「天童社長、これは何なのですか?」

 

「…………」

 

 聖天子の問いは周囲にいる高官やオペレーター、天童菊之丞に聖室護衛隊たちも思っている感想だった。その視線の圧力に木更もどう答えたいいものか悩んでいた。

 木更はデジモンに付いてゼツに深く追求などはしなかった。

 何故なら、ガストレア以上の力を持ち人間の指示に従う化物、そのことが組織上層部など知られれば悪用されるのが落ちだと判っていたからだ。それに、デジモンをひた隠しにしようとしていたゼツの思いも酌んでのことでもあった。

 だが、これほど不特定多数にデジモンの姿を曝してしまった以上、説明無しでは相手は納得しないだろう。ましてや、あの天童菊之丞がいるのでは相手が下手な言い訳も効かないだろう。

 

「……説明はしますが、あくまでゼツくんから聞かされた内容なので真偽のほどが定かではありません。それでも構いませんか?」

 

「構いません。知る限りの内容をお教え下さい」

 

「判りました」

 

 木更は小耳に挟んだ程度の内容を説明した。

 デジタルモンスター、略してデジモンと呼ばれる存在。デジモンはネットワーク内に存在するデジタルワールドと呼ばれる異世界に生息しており、ゼツはそのデジモンを従えているデジモンテイマーと呼ばれる存在である。

 デジモンは色々な進化系統を持ち、生まれたてのデジモンを幼年期と呼び、成長期、成熟期、完全体、究極体、と徐々に進化していき、完全体になれば単体の必殺技を使えば核弾頭以上の威力を秘めている。

 ゼツから聞かされたデジモンの内容を説明した。そして、それらを聞かされた高官や菊之丞、聖天子さえも唖然とした表情を浮かべていた。

 

「なっ何だ、その出鱈目はッ!」

 

「我々を馬鹿にしているのかッ!?」

 

「異世界だと? 言い訳ならもっとマシな内容を説明しろ!」

 

 誰もが木更の説明した内容を馬鹿にした。それは説明した木更も同じ思いでもあったが、空を翔けて戦闘している映像を映し出されているモニターを木更は指差した。

 

「では、あれをどう説明するお積もりですか?」

 

「…………」

 

 指差したモニターを周囲の者たちは見詰て黙ってしまう。

 どれ程、否定しても現実にその戦いを見てしまった以上、夢物語ではないことは明白である。

 皆の視線がモニターに集るなか、聖天子は別のことを考えていた。

 

「(何故、ゼツくんはあれ程に怒りを露にしているのでしょう?)」

 

 聖天子がゼツと会ったのは防衛省で一度だけ、それも会話など十分もしていない。だからゼツの性格など詳しい事は解らない、それでもアレほど怒りを露にする態度に違和感があった。

 ゼツの頬が大剣で切られ血が流れ落ちる。その痛々しい傷口に聖天子は心の奥に小さなトゲに刺さったような痛みに襲われる。

 

「(これは……一体)」

 

 周囲に悟られないように表情を固く結び、心の奥でゼツの無事を祈る聖天子。そして、ゼツとタクマの戦いに決着が見え出した。

 

 




はい、今回はゼツとは違うテイマーが現れました。
名前はタクマ。パートナーデジモンはメギドラモンとラストティラノモンです。
お分かりだと思いますが敵です。味方ではありません。その内、味方とかだせたら良いな~……なんて考えたりもしています。
実力の腕もゼツ君波に強いです。さぁ、ゼツとタクマの因縁はなんなのかは楽しみに待ってて下さい。

ティナちゃんのヒロイン化はまだ考えてます。決まったら報告しますね。
ではでは、これで失礼。

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