ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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少しだけ長くなってしまいましたが、大丈夫でしょ。
さて、パートナーデジモンはアニメみたいに人語を喋ったりはしません。
ではどうぞ……


002

 東京エリア上空に一体の化物が飛んでいた。

 名はディアボロモン。デジモンと呼ばれるモンスターの一体にして最終進化の究極体。そのディアボロモンの右肩に2人の子供が座っていた。

 1人はディアボロモンのパートナーである少年ゼツ。もう1人はケープを羽織った"呪われた子供たち"である少女ルリ。

 

「うあぁ、風が気持ち良いです」

 

「そう、良かった」

 

 少し高い高度にいる為に風は冷えるが気持ち良い風が吹いている。

 そんな気持ち良い風を堪能しながら外周区と呼ばれる場所に向かってディアボロモンは安全運転で飛行していた。

 ルリは丁度隣にあるディアボロモンの顔に手を置いて撫でる。それに気付いたディアボロモンは「ケケケッ」と多少は不気味に聞える声で笑う。

 

「この子、なんて名前ですか?」

 

「ディアボロモンって名前。さっき言ったけどデジモンって進化する度に名前が変わるからね」

 

「ディアボロモン。ありがとうね」

 

「ケケケケケケッ!」

 

 お礼の述べてルリはディアボロモンの頭を撫でると、やっぱし不気味に笑う。その笑い声にルリは不気味がらずに微笑みながら撫で続けた。そうしていると目的地である外周区に到着した。

 ゆっくりとディアボロモンは地面に着地してルリを優しく手で包み地上に降ろす。ゼツは1人で地面に飛び降りた。

 

「すまんディアボロモン。警戒の為に姿隠して護衛頼む」

 

「ケケケケッ」

 

 笑ってディアボロモンが姿が霞みやがて肉眼では見えなくなる。だが、ルリは周囲にディアボロモンが護衛してくれているのを肌で感じとっていた。

 ルリを先導するようにゼツは手を持って歩いていく。途中でルリに道筋を確認しながら歩くこと十数分後、目的地に到着した。

 足元にあるマンホール。ルリはそのマンホールの蓋を数回ノックすると1人の少女が姿を現した。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ただいまリア」

 

 出て来たのはルリの妹のリアであった。

 髪質や顔質は姉のルリに良く似ているが、雰囲気的には妹の方が活発的であるとゼツが思っているとリアと視線が合った。ゼツは手を振って挨拶をすると、それに釣られて頭を下げたリア。

 

「お姉ちゃん。この人、誰?」

 

「私の恩人かな」

 

「恩人って、何かあったの!?」

 

 慌てるリア。だが、それをルリは待ったを掛けた。

 

「話は中でしましょ。それで良いですよねゼツさん?」

 

「大丈夫だ」

 

「リア、案内お願いね」

 

「うっうん」

 

 3人はマンホール内に入って奥に進んでいく。すると、淡い蛍火が見えてきた。

 大きさにして畳み四畳半程度の広さ。そこには色々な物が置かれており、奥の窪みには水が入ったペットボトル――2リットル――が数本置かれており、別の窪みには衣服が数枚置かれている。

 ゼツから見ても衛生面では宜しくない場所。そこで生きるしかない"呪われた子供たち"の配偶に怒りを覚える。

 

「あの、飲物は水しか出せませんけど……」

 

「いや、気にしなくて良いよルリ。此処での生活って何年目ぐらい?」

 

「かれこれ二年目です」

 

「そうか……」

 

 この環境下で二年か。そう思うゼツ、すると可愛らしい音がマンホール内が響く。その正体はリアの腹の音だった。リアはお腹を押さえて恥かしくなり顔を真赤にそめてしまう。

 そこでルリは悲しげな表情を浮べる。

 

「ごめんねリア。今日は……」

 

「分かってる。ご飯食べられない事なんて今まで何度もあったし。それよりもお姉ちゃんが無事で帰って来てくれるだけで、私は嬉しい」

 

「リア」

 

「…………」

 

 無事に帰って来てくれた姉に微笑むリア。そんな優しい言葉に感動の表情を浮かばせ今にも泣きそうなルリ。それを無言で見詰ていたゼツは袖からスマホを取り出して操作する。そして何かを押した瞬間、3人の丁度中央に発光して何かが出てきた。

 

「なっ何!?」

 

「えっ?」

 

 急な発光に驚くリア。眼の見えないルリは、その驚きの声でやっとの事で驚く。そして、3人の前に現れたのは出来立てホカホカのオニギリだった。

 

「食べるか?」

 

「「…………」」

 

 リアは唖然とする。ルリは鼻腔を刺激されて、それが食べ物だと判断して驚く。ゼツのその質問に2人は少しだけ間を空けて頷いた。

 オニギリは計10個。2人の姉妹は申し訳無さそうに食べるが、途中で行き良いよく食べだしていき姉妹の胃を満たしていく。

 

「ご馳走さま」

 

「美味かった」

 

「こんなにお腹一杯食べたの久しぶり!」

 

 ゼツは1個。姉が4個で妹は5個を食べた。リアはお腹を擦りながら横に倒れ、ルリは口元をテッシュで拭く。

 ある程度落ち着き、ルリは頭を下げてお礼を述べた。

 

「ありがとうゼツさん。オニギリを恵んでくれて」

 

「良いさ。気にしてないし」

 

 2人はそう述べると、倒れていたリアが起き上がりゼツに問い質した。

 

「ねぇ、彼方って何者なの?」

 

 真っ当な質問にゼツは隠す事無く説明した。

 その説明を聞いたリアは胡散臭そうな眼で見られるもの、先程のオニギリを出した光景を見ていたのである程度は信じた。だが、

 

「その、デジモンだっけ。何処に居るの?」

 

「外だよ。普段は姿を消してもらってるけど」

 

「何で?」

 

 姿を消している理由を問われたゼツは頬を掻きながら口篭る。そして、決心したのかゼツはその疑問に答えた。

 

「見た目がな。その……怖い、だよ」

 

「えっ怖い?」

 

「そう、急に見たら怖く感じるんだよ。自分はそう感じてないけど。それに、かなり大きいから周囲からは化物扱いされるからね」

 

 ゼツは空笑いしながら述べ、自身のパートナーであるディアボロモンの顔を思い浮べていた。そして、やっぱしお世辞にも可愛いの分類ではなく怖いか不気味の分類の顔だと再認識した。

 

「ねぇ、そのディアボロモンだっけ。会ってみたいけど良いかな?」

 

「こら、リア。無茶なお願いを言わないの」

 

 デジモンと呼ばれる生物が気になって仕方がないリアは会わせて貰う様にゼツに頼む。その横で話を聞いていたルリは流石にお客相手に失礼だと思い停止させようとする。だが、ゼツは大丈夫だと述べて会わせる事にした。

 一度、皆は外に出てゼツが名前を呼んだ。

 

「出て追いで」

 

 ワクワクしながら待つリア。そして、ディアボロモンは姿を現した。リアの眼前で顔をドアップ。

 

「ヒッ!?」

 

「ケケケケッ」

 

 その後、リアの甲高い悲鳴と共に倒れてしまった。

 

「……ディアボロモン」

 

 溜息を吐きながら頭を抑える。そしてゼツはディアボロモンが元来、悪戯好きである事を思い出す。そのゼツの隣ではリアの急な悲鳴に驚いてオロオロしているルリ。

 

「あの、リアは?」

 

「大丈夫。急にドアップで顔を見てしまって驚いて気絶しただけだから」

 

「はぁ。ディアボロモンて悪戯好きなんですね」

 

「ケケケケッ!」

 

「お前なぁ~……」

 

 腹を抱えて笑うディアボロモンに呆れ顔で見ながら苦笑するゼツ。

 そんな出来事が起きながら、ゼツは異世界での初日の一日が過ぎていった。

 

 

  ◆

 

 

 空が闇に染まった時刻。

 ゼツは姉妹のご好意に甘んじて一緒にマンホール内で就眠していた時であった。薄れていた意識が眼を覚まし、寝かせていた身体を起き上がらせる。

 ルリリア姉妹がゼツの左右を挟んで眠っているので、それを起こさない様に立ち上がり外に出て、夜空を見上げる。

 

「ディアボロモン」

 

 呼び掛けにディアボロモンは一瞬でゼツの背後に姿を現して、ゼツを抱き寄せた。そのままの状態で都心に向かって飛んで行く。

 

「ケケケッ」

 

「んっ。あぁ、目的はガストレアと呼ばれる存在を見にね。アイツから現れたって連絡が入ったし」

 

 飛び続けて30分で都心に辿り着き、高層ビルの屋上で立つ。目的は、この辺りが一番周囲を見渡すことが出来るからである。

 そのままビル屋上で待っていると銃声と悲鳴の声が、静寂の夜に響き渡る。それが合図とばかりにディアボロモンに乗って、その聞えた場所にゼツは向った。

 目的地には10分も経たずに到着。

 建物の上から見下ろしながら、人間とガストレアと呼ばれる化物との戦いをゼツは見物していた。

 

「あれがガストレア。あの姿だとモデル・スパイダーか」

 

 一見して蜘蛛そのものを巨大化させたような生物。

 頭胸部に八本の足、真紅に輝く八つの瞳、袋状の腹部。身体は黄色で、その巨体はゼツが想像してたより大きいことに多少は驚くが、恐怖は感じる素振りは見せていない。

 

「でかい。だが――」

 

 それだけだ。

 ゼツはそう呟きながら特に何かを思う事無く、面白く無さそうな表情で見詰る。すると、ゼツの視線が別の方に向かれる。

 黒色の刀身の大剣を持った大男がガストレアを一刀両断にする。っで、その後ろで少女が銃で大男の支援射撃をしている。

 

「アレが民警か。確かプロモーターとイニシエーターか」

 

 ルリからの話で聞いていたゼツは、"呪われた子供たち"の余りにも不遇な存在だと思う。人間達に迫害され殺されて、それでいて人間の為に戦うが認められない。本当に人間とは身勝手な存在だな、そう思わずにはゼツはいられなかった。

 すると、戦っている民警の背後から闇に紛れて近付いてくる存在にゼツは気付いた。細長い胴を唸らせて民警たちに近付いていく、その姿は蛇。タイプ・スネークだ。

 どうやら民警たちは気付いていないらしい。そして、そのタイプ・スネークが最初に目標にしたのは後方支援射撃をしているイニシエーター。

 

「……いけ」

 

「ケケケッ!」

 

 見てしまった以上は無視できないと判断したゼツは、背後に待機していたディアボロモンに行くように合図を送る。ディアボロモンは軽く笑った後に上に飛び跳ねて暗闇に姿が掻き消える。

 

 

  ◆

 

 

 私、千寿夏世はこの後、このタイプ・スネークに食い殺されるのだろう。蛇のガストレアの顎が私を捉える為に開かれ襲い掛かってくる。

 会社から依頼された任務は、モノリスを抜けて侵入してきたタイプ・スパイダーを狩る事だった。比較的簡単でプロモーターの将監さんは詰まらないと愚痴ていた。

 炙り出したタイプ・スパイダーを将監さんがバラニウム製の大剣で一刀両断、その一撃が顔を足を同時に切り裂き、ガストレアは苦痛の悲鳴を上げる。そんなガストレアの反撃をさせない為に後方から射撃して動きを止める。

 このまま無事に仕事が終えると思った時でした。背後からヌメッとした嫌な感じに襲われ、背筋に震わせながら振り返る。そこには長い胴体を唸られて襲ってくるタイプ・スネークのガストレア。

 気付くのが遅すぎた。あぁ、ここで死ぬんですね。そう思ってショットガンを持っていた手に力が抜ける。

 鋭い牙、それが私に襲おうとした瞬間、タイプ・スネークは四散しました。

 

「えっ?」

 

 何でガストレアが四散したのか意味が分からず唖然としてしまいます。最初は将監さんが助けてくれたのかと思いましたが、将監さんにはガストレアを四散させる方法は持っていない事に気付き、周囲を見渡す。

 そこで、一つの影が見えました。その影の形は到底、人間には見えない事に気付いた私は銃口を影に向ける。影は徐々にこちらに近付き、月明かりで全容を現しました。

 

「ガストレア、じゃ……ない」

 

「ケケケッ」

 

 不気味に笑う化物の様な存在。ガストレアは皆特徴として瞳が赤く染まっている。だが、この化物は瞳は赤ではなく黄色で輝いてもいない。

 その存在に驚愕してると、背後から将監さんが近付き私に問い掛けてきた。

 

「おい、アレは何だ?」

 

「将監さん。いえ、私にも何が何だか……」

 

 アレが何なのか私も知りたいです。

 不気味に笑うその化物は、高く飛び上がり一回でビル屋上に着地した。その着地した場所には私と歳変わらない年齢の男の子が立っていた。その化物は少年の傍で未だに不気味に笑い続けており、少年は私達を見下ろしていた。

 

「おい、そこのガキ。お前、何者だ?」

 

 私の疑問を将監さんが代わりに答えてくれました。

 男の子は無言でそのまま足を一歩前に進ませる。足の先には建物などなく、男の子はそのまま落ちてきた。

 

「あっ!」

 

 私は声を漏らす。

 このまま地面に落ちてしまったら少年は想像通り、悲惨な最期を迎えてしまう。私は咄嗟に目を両手を覆うとした瞬間、少年は地面に落ちる5メートル一歩前で宙に浮く。

 宙に浮く少年に私は驚きながら眼を凝らして見て、更に驚くことになった。

 四本の腕、兜の様な頭部、機械の大砲を背中に背負った化物。その化物が落ちてきた少年を手で受止めていた。

 

「なんだありゃぁ……」

 

「…………」

 

 私も将監さんもその化物の存在に何と言えばいいのか判らず黙って見守る。

 少年はその四本腕の化物から降り、私たちに向かって歩いてきて1メートルあたりで足を止めて私を見詰、少年は問い掛けてきました。

 

「大丈夫だった?」

 

「私、ですか?」

 

「そう。危なそうだったからディアボロモンに助けるように頼んだけど。怪我とかしてない?」

 

 ディアボロモンとはどれを言っているのか分かりませんが、どうやらガストレアの襲撃を助けてくれたのは彼のようです。すると、将監さん大剣を地面に叩き付けて怒鳴りだしました。

 

「てめぇ、何を無視してんだ!?」

 

「将監さん」

 

 無視して私に話しかけてきた少年に将監さんは威嚇する。だが、少年は何の反応も見せる事無く溜息を吐いて踵を返した。

 それは、まるで私が無事かどうかを確認する為だけにビル屋上から降りて来たのだと私は思ってしまう。

 ですが、その行動は将監さんの感に触れてしまったようで、持っていた大剣を構えて一気に少年に襲い掛かります。

 

「だから無視してんじゃねー!」

 

「あっ、将監さんダメです!」

 

 私は将監さんを止まるよう呼び止めようとしますが、将監さんは脳筋なので一度頭に血が上ると周囲の声など聞えなくなってしまいます。

 それに、あの少年の後ろに控える二体の化物、アレは私の憶測ですがガストレア以上の化物で将監さんでは絶対に勝てない。そして、その予想は当たりました。

 先程の不気味に笑っていた化物がありえない程に腕を伸ばし、将監さんが構えていた大剣を一瞬にして粉砕して、追撃の如く四本腕の化物が咆哮して将監さんを吹き飛ばします。

 

「将監さん!?」

 

「ぐっ!」

 

 私はすかさず駆け寄る。どうやら将監さんは大きな怪我をしていない様で、安堵の溜息を吐く。そして、改めて相手の化物二体の尋常ではない程の存在だと認識しました。

 あの化物たちは本気など出していない。もし、最初から本気で来られていたら将監さんは既に、この世には生きていない筈です。

 少年はもう一度私に視線を向け、そのまま闇夜に去っていきました。アレは何だったのでしょうか……。

 

 




夏世ちゃん可愛いよ夏世ちゃん。
さて、今回は最後に夏世ちゃんが出てきました。この子が死ぬ場面は涙物です。
これから夏世ちゃんとゼツはどの様に触れ合うかお楽しみですね。
では、次もお楽しみに……。後、感想とか書いてくださると嬉しいです。

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