騒動が一旦止んだ日本国家安全保障会議。
モニターには蓮太郎たちと影胤たちが対峙する映像が映し出されている。
「天童社長、里見ペア及びゼツ君の勝率はいかほどですか?」
聖天子の問いに木更は冷静に答えた。
「私の期待を勝率を加味して良いなら。勝ちます。――絶対に」
その答えに周囲の高官たちは小馬鹿したような反応をした。
「はぁ! 相手は『新人類創造計画』の生き残りだぞ。社員の強さを信じたい気持ちはわからなくはないが。勝てるはずがない!」
「十年前、私の家にガストレアが侵入して父と母を食い殺されました。私はその時のストレスで腎臓の機能がほぼ停止しています。その時、里見蓮太郎は私を庇って右腕、右足、左目をガストレアに奪われました。瀕死の彼が運び込まれたのはセクション二十二、執刀医は室戸菫」
急に自身の過去を語りだす木更、そして最後に出てきた名前に周囲の高官たちは驚きの表情へと変貌した。
「室戸菫……まっ、まさか!?」
◆
場所は変わりモノリス外『未踏査領域』、その港らしき町の教会に一触即発の雰囲気を醸し出されていた。
険しい表情を浮かべて額に汗を浮ばせる蓮太郎、それに感化されて緊張で体を強張らせる延珠、それらの二人を後ろに教会の屋根上の人物を睨むゼツ。
現れた三人を見下ろす仮面にシルクハットと燕尾服を袖を通しだ蛭子影胤、バラニウム特有の黒い刀身の二振りの刀を携える蛭子小比奈。
「君はケースを取り戻せない。何故なら、私たちが立ちはだかっているからだ!」
教会の屋根の上に立っていた蛭子親子は地に降り立ちて勝利宣言を述べた。
「二度の敗北、仲間の全滅。あぁ、願ってもない状況だこの野郎ッ!」
気合の入った雄叫びとともに蓮太郎は拳を上げた身構える。
「貴様を排除する!」
蓮太郎の身構えに影胤は不適な微笑を浮かべて指を鳴らす。不可視の斥力空間『イマジナリー・ギミック』が影胤を中心に展開される。
「――天童式戦闘術一の型三番ッ、『
弾丸の如く、蓮太郎は地を蹴り回転しながら影胤に向って鋭い拳を放つ。その拳はイマジナリー・ギミックによって防がれる。
だが、蓮太郎は防ぎられようとも一歩も引かずに更に拳に力を込めて雄叫びを叫ぶ。すると、放たれた腕の尺骨神経部分から黄金色の空薬莢が弾き飛ぶ。
空薬莢が弾け飛ぶと同時に、火薬の爆発力による推進力を得た拳は凄まじい程の威力を備えてイマジナリー・ギミックを打ち破り、影胤の顔を殴りつける。
「イマジナリー・ギミックを破っただと!?」
ありえない威力の拳に影胤は初めて焦りを覚える。
強烈な拳を放った蓮太郎に視線を向け、影胤は更に驚く。
蓮太郎の右腕と右足の青白く燃えて機械の義肢が顕になり、左目には機械仕掛けの瞳孔が動く。
「バラニウム製の義肢、だと……? 里見くん、まさか君も」
「俺も名乗るぞ影胤。元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎」
バラニウム製の義肢を見た影胤は、やっとこの時に自身が里見蓮太郎を気に入ったのかを理解した。自身と同じ存在、その同じ存在が惹かれ合ったんだと。
全てを理解した影胤は笑う。
「……クク、ハハハ、フハハハハッ。うぐっ、私は痛い、私は生きている、素晴らしきかな人生、ハレルゥ~ヤァッ!」
生きている事に実感を覚え、影胤も叫ぶ。
すると、父親である影胤にダメージを与えられた事に怒りを覚えた小比奈は、初めてそこで憤怒の表情を浮かべて突っ込んできた。
「パパァをいじめるなああああッ!」
振り下ろしてくる二振りの刀、それらは影胤を攻撃した蓮太郎に振り下ろされる。だが、その一撃を同じく二振りの剣で受け止めて弾き返す。その影の正体はゼツだった。
「小比奈ちゃん、悪いけど相手は自分だよ。蓮太郎、影胤は任せた」
「大丈夫か?」
「さっさと因縁終わらして来い」
心配そうに見詰る蓮太郎は微笑を見せるゼツは二振りの剣『菊燐』を構える。
蓮太郎と延珠は影胤に向って突貫する。先手を打ったのは延珠だった。
ラビットの因子を持つ延珠の岩砕く蹴り技、その一撃はガストレアを一瞬にして肉片に出来る。その鋭い一撃を影胤は二挺拳銃『スパンキング・ソドミー』と『サイケデリック・ゴスペル』をクロスして止め、後方に下がった延珠を狙って発砲する。だが、発砲された弾丸をバック回転して回避して避ける。
狙われる延珠、それを援護するように影胤に向かって蓮太郎は拳銃の弾丸を放つが、あたる寸前で影胤は避けられる。
一方、ゼツは小比奈と鋭い剣舞を舞っていた。
互いに持つのは二刀流。その特性は瞬きもする暇が無いほどの連続攻撃、互いに強弱の斬戟を組み合わせながら隙を窺う。
「ゼツ、今は邪魔ッ!」
「ゴメンね。でも、手出しはさせない!」
父親である影胤を助けたい気持ちが一杯でゼツとの戦いに集中出来ない小比奈は見て明らかに焦っていた。だが、その焦りをゼツは見逃すわけもなく一瞬の隙が見えた瞬間に小比奈に鋭い斬戟を放つ。
相手の命を刈り取るほどの鋭い一撃を前髪を散らしながら回避した小比奈は渋った表情を浮かべる。すると、海辺に放置されていた貨物船らしき廃棄船から影胤と蓮太郎の会話の声が聞えた。
「我々は殺す為に作られた。ガストレア戦争が始まれば、我々の存在意義が証明される」
「まさか貴様、そのために」
「君のイニシエーターが"呪われた子供たち"だと露見したとき周りの反応はどうだった? 祝福されたか? 鳴りやまぬ歓声に心は洗われたか?」
蓮太郎が蛭子親子に二度目の敗北を決した少し前、延珠は学校に登校したときであった。
小学校の生徒達に延珠を"呪われた子供たち"であると噂で知っており以前はクラスメートたちだった子供たちは一斉にガストレア扱いされて罵声を浴びせられていた。
影胤の事実を突きつけられた蓮太郎は、苦虫を噛み潰した表情を浮かべる。
「彼らと我々の望む世界は違うのだよ。我々は選ばれた者……さぁ、私と共に来い!」
「ザケンじゃねぇクソ野郎ッ! 貴様が語る未来ッ、断じて許容出来ねぇ!」
蓮太郎は雄叫びを上げる、すると蛭子影胤の死角から黄色のコートを着ている延珠が強烈な蹴りを放たれた。だが、影胤はその一撃に気付いてイマジナリィ・ギミックの斥力場を展開して攻撃した延珠を弾き返した。
蹴りとしての一撃を全て返され、逆に強烈な一撃を貰った延珠は苦痛の声をもらす。予想以上にダメージを受けた延珠、その隙を影胤は見逃さずサイケデリック・ゴスペルの銃口を向ける。
それを見ていた蓮太郎は助けるために一気に駆け出して延珠を助けようとする。そして、サイケデリック・ゴスペルの弾丸は放たれ延珠を襲おうとするが、命狩る弾丸は全て蓮太郎のバラニウム製義肢で受け止めて弾く。だが、それは影胤の前には大きすぎる隙だった。
延珠を狙われた弾丸を受止めるために人体に急所である頭部や心臓を守るために視線を腕で遮ってしまう蓮太郎は、一瞬だが影胤に視線を逸らしてしまう。
「従えないのなら。死ねぇッ!」
一瞬にして近付いた影胤は腕を伸ばして蓮太郎の腹部に掌を当てる。それと同時に蓮太郎の腹部に強烈な一撃が放たれた。
見えぬ不可視の大砲の弾丸でも腹部を突き破ったのかと錯覚してしまう一撃に蓮太郎は吐血しながら吹き飛ばされる。
掌から圧縮された斥力を槍状に放出させて目標を貫通させる『エンドレス・スクリーム』と呼ばれる影胤の技である。だが、蓮太郎がその技を知る余地もなかった。
「そ、ん……な……」
予想外の一撃に思考停止してしまう蓮太郎は着地には成功するも、そのまま両膝を崩してしまう。
打ち抜かれた腹部から大量の血が流れ落ちる。あまりにも致命的な一撃、このままの状態では戦う前に出血多量で助からない。
「君の、負けだ」
流血を止める為の手立てもない。薄れゆく意識の中、蓮太郎は勝ち誇る影胤の声を聞きながら重たくなる目蓋を閉じない為に耐える。すると、遠くから聞き覚えのある声が聞えた蓮太郎は、ほんの少しだけ意識を取り留めて視線を前に向ける。
そこには狂うほどに愛おしい家族である延珠がいた。赤目に染まった瞳には滂沱と涙を流しながら蓮太郎に手を流して叫んだ。
「蓮太郎、妾を一人にしないでくれ!」
その切実な声。それともう一つの叫びが蓮太郎の落ちゆく意識を止めた。
「立て! 守るのであろう、家族を!」
ゼツの叫び声。
少し前のにゼツとの約束を思い出す。
落ちる意識を耐え、蓮太郎は懐から数本の注射器を取りだした。
それは、蛭子影胤に討伐前に担当医である室戸菫から渡された試験薬である。
『AVG試験薬』。
ガストレアウィルスによって精製された、ガストレアの再生能力を人間に与える。だが、二割の確率でガストレア化してしまう危険な薬品である。室戸菫が選別として渡したが、使う事をオススメしなかった。
この危機的状況を打開するため、ガストレア化の危険を冒す覚悟で蓮太郎はAVG試験薬の注射器を全て腹部に突き刺して注入する。
「ッヅ、――あああああああああッッッ!」
凄まじい程の激痛に蓮太郎は雄叫びを上げる。
体が熱く、頭痛や嘔吐、身体中に不快感が襲われる蓮太郎。瞳はガストレア特有の赤目が点滅している。だが、傷付けられた腹部の凄まじい程に再生を開始される。
「里見くん、君は一体……」
怪我の再生、凶眼を向ける蓮太郎の姿に影胤は凍りつく。
蓮太郎は小さく「賭けに勝ったぞ」と呟いた後、天童式戦闘術『水天一碧の構え』をとる。構えた後、蓮太郎は義肢の足のブーストを吹かして一気に影胤に突っ込む。
「天童式戦闘術一の型十五番ッ――」
回転した蓮太郎は義肢の右腕の拳を放とうとする。急な反撃に影胤は凍りついた意思を動かしてイマジナリィ・ギミックを展開して防御しようとする。
「――
蓮太郎の拳、影胤の盾、その二つが衝突する。
互いに凄まじい衝撃が襲われる。だが、蓮太郎は引き下がらず義肢の腕から空薬莢が吹き出て豪腕の火薬の推進力が加わる。それも一度ではなく何度も火薬の推進力を加えていき、陰胤のイマジナリィ・ギミックが悲鳴を上げていく。
そして、斥力フィールド・イマジナリィ・ギミックが打ち破られた。
打ち破った蓮太郎はそのまま影胤を顎に目掛けてアッパーで打上げ、浮き上がった影胤に向って蓮太郎は足のスラスターを吹かして同じ高度まで飛び上がる。
同じ高度に達した蓮太郎は身体を半回転、頭を下にしながら脚部の薬莢をふかす。
「天童式戦闘術二の型十一番――」
脚部のスラスターは凄まじい程に吹かされ力が加えられる。
半回転する蓮太郎と影胤の目が合う。影胤は諦めたように居富を浮ばせる。
「そうか……私は君に、負けた、のか――」
蓮太郎、乾坤一擲。
「『陰禅・哭汀・
振り下ろされた一撃は仮面を砕き、下に影胤を海に叩き落す。
落とされた影胤は水柱を上げながら海中の中に沈んでいく。ゼツとの戦いから退けてた小比奈は海に沈んだ影胤に向って手を伸ばし悲しげに呟く。
「そんな……パパァ、パパァァ」
「……小比奈、ちゃんッ」
悲しげに絶望な表情で涙を流す小比奈にゼツは伸ばそうとする手を止めた。東京エリアを救うためとは言え、彼女の実の父を殺す手伝いをしたのだ。
ゼツは何も言わずに踵を返した。
延珠は喜びの表情を浮かべながら蓮太郎に抱き付く。その姿を見詰ながら今の勝利を噛み締めていたゼツだが、肌にざわつく感覚に襲われた。
すると、蓮太郎のスマホに一通の着信が届く。
『生きてるみたいね、里見くん』
相手が誰なのか直ぐに分かった蓮太郎は熱い涙に襲われる。
「終わったよ。約束通り勝ったぜ木更さん」
『見てた。でも君に一つ、悪いニュースを伝えなきゃいけないわ』
「悪いニュース……?」
『落ち着いて聞いて――ステージⅤのガストレアが姿を現したわ』
「えっ?」
絶望の知らせに蓮太郎は唖然としてしまい、先ほどの木更が知らせた意味が解らなくなる。決死の覚悟でやっと元凶である蛭子ペアを撃退したのに、手遅れとなり止められなかった。
蓮太郎はこの世の終わりの顔を浮かべる。
「お終いなのか? 東京エリアは助からねぇのかよ?」
『まだ終わらせない! 私の作戦、聖天子様からお許しを頂いたわ。答えは君から見て南東方向にある』
「……天の梯子」
蓮太郎と延珠、そしてゼツの視線の先には天高く聳える矛が鎮座されていた。
線形超電磁投射装置――直径八百ミリ以下の金属飛翔体を亜光速まで加速して撃ちだすレールガンモジュール。通称『天の梯子』。
ガストレア大戦末期に作られた遺物だが、陣地放棄のために一度たりとも試運転されずに放棄された超巨大兵器。
『あなたたちが目標地点に一番近いわ。時間がないの、君がやるのよ、里見くん』
それを聞かされた蓮太郎たちが急いで向った。だが、それに合わせたかのように周囲のガストレアたちが一斉に襲い掛かる。
数はザッと二桁は越えており最低でもステージⅢ以上のガストレアの群れ。この場で足止めなどされていればゾディアックが東京エリアを破壊尽くしてしまう。そう判断したゼツは『天の梯子』に向っていた足を止めて踵を返した。
「ゼツッ!?」
「ゼツ、お主なにを!?」
反転して襲い掛かるガストレアたちに向いて身構えるゼツに、二人は焦りの顔を浮ばせるがゼツは袖の中から一枚のカードを蓮太郎に向けて投げた。
投げられたカードを蓮太郎は慌てながらもキャッチする。
「行って。足止めは自分がする」
「だがッ!?」
「もたもたするなッ! 東京エリアを滅びしたいのか!?」
「ッ!」
蓮太郎たちには視線を向けずに迫ってくるガストレアたちを睨むゼツは怒鳴る。その怒鳴り声で蓮太郎は身体をビクッと震わせ、ゼツに向けていた視線を『天の梯子』に戻した。
「行くぞ。延珠」
「蓮太郎、良いのか?」
「俺たちが早く『天の梯子』を起動させなければ東京エリアが大絶滅する恐れがあるんだ。だったら、俺たちがするのは只一つ、ゾディアックガストレアをさっさと倒してゼツを助けぬ向うだけ。……ゼツッ、死ぬなよ!」
「心得ている。……行って!」
ゼツの言葉を合図に蓮太郎たちは『天の梯子』に向って走り出す。だが、それを追いかけようとするガストレアが居た。
「止めろディアボロモン」
「ケケケッ!」
収縮自在の腕が伸び、真紅に染まった鍵爪が追いかけようとするガストレアを狩る。狩り終えたディアボロモンはゼツの背後に下りて不気味に笑う。
狩り終えたことを確認したゼツはスマホから二挺拳銃を取り出した。
「さぁ、狩りの時間だ。ガストレアども、デジモンの力、その身に刻んで逝けッ!」
ショットガン型「ベレンヘーナ」。
究極体、魔王型、七大魔王《暴食》を司るデジモンである『ベルゼブモン』の愛銃である。その一撃は並みの成熟期では抗う事も出来ずにデータの塵にしてしまう威力を備わっている拳銃だった。
◆
迫ってくるガストレアの群れをゼツに任せた蓮太郎たちは、レールガンモジュール内部に入って携帯から送信された内部構造マップを見ながら地下二階の中央電算室に向った。
内部は入り組んではいたものの目的地に漸く到着した蓮太郎はドーム状に広がる室内で中央コントロールパネルの前の椅子に座って携帯のパネルを外部接続させた。
パスワード入力を求められるも携帯から聞える木更の指示道理にパスワードを入力していくとリンク完了の文字が浮かび上がった。
『地下に埋設された無人変電所からの電力供給は異常なし、送電網にも異常はみられない。液体ヘリウム保存用のデュワー瓶も異常なし。いけるわ。発射シークレントはすべてこっちで行います』
木更からの言葉を聞いた蓮太郎は深い溜息を吐いて椅子の背凭れに全身の体重を乗せた。その隣で一緒に聞いていた延珠は呆れた表情を浮かべていた。
「後は見ているだけでいいのか?」
「……やれって言われても出来ねぇよ」
そんな会話をしていた二人、するとレールガンモジュールが大きく揺れて動き出した。
レールガンモジュールの矛先が徐々に下がっていき、固定していたワイヤーが数本ほど切れる。そして、矛先は東京エリアに向けられ主モニタにズームされた映像が映っていた。
「あれが、ステージⅤなのか?」
「……ステージⅤ、またの名はゾディアックガストレア・スコーピオン。十年前、世界を無茶苦茶にした一体だよ」
映し出された映像を見て延珠は額に冷汗を浮かべる。蓮太郎もまた、その恐ろしい姿に険しい表情を浮かべていた。
黒茶けたひび割れた肌は疱瘡にかかったようにイボだらけになり、そこから突起状の物体が生えている。計八本の逆トゲが生えた鎌状の異形の物体が首、頭、右目と場所を選ばず体を突き破って伸びていた。
頭部は異常なまでに肥大しており、クチバシ状の湾曲した物体が口元にみゅっと突きだしている。残った左目は悲しいほど小さい。
二足歩行で歩くおぞましい姿が映し出されていた。
『不味いは里見くん、チャンバー部に異常を伝える表示が出てる』
携帯から焦りを思わせる木更の声を聞いた蓮太郎は慌てながら意味を聞く。
「どういう事だよ!?」
『もしかしたらバラニウム徹甲弾が装填されてないのかも!』
意味を聞かされた蓮太郎は驚きと焦りで一瞬、思考が停止しそうになる。だが、直ぐに思考を切り替えた蓮太郎は延珠と共にチャンバー部に向って走り出した。
チャンバー部に到着すると、内部では赤く点滅してエラーを知らせるアラームが鳴り響いていた。
そして、主モニタには弾丸が無いと表示されたいた。
「クソッ! 撃つ出す弾丸がない!」
「どうする蓮太郎ッ!?」
焦り悔しがる蓮太郎の姿に延珠も何をしていいのか焦る。
だが、更に最悪の状況が蓮太郎たちを襲った。
『磁場の影響で……里見くん、遠隔入力を受け付けないの…………里見くん』
雑音交じりの木更の声、その言っている内容を理解した蓮太郎はどうすれば良いのか焦りながら視線をある場所に向けた。
自身の右腕。超バラニウム製と呼ばれる特殊混合金属。これなら弾丸にしても申し分ない。
蓮太郎は右腕の三頭筋部分のボタンを探し当て、そのボタンを押すと仮定していたロックが解除され、腕を逆時計周りに回して右腕を引き抜こうとする。
傍で見ていた延珠は不安そうに見詰ながら、蓮太郎が何をしようとしているのか理解した。
「蓮太郎。まさか、お主」
本来なら神経などの接続を解除しなければ引き千切られた痛みもダイレクトに蓮太郎を襲うのだが、神経接続を解除する施設もなければ時間もなかった。
そのまま神経が接続されたまま右腕を引き抜く。
予想以上の痛みに蓮太郎は声を荒げる。だが、激痛に耐えている暇などなかった。
「俺の右腕を弾丸に使う。超バラニウムなら問題ないはずだ!」
蓮太郎は超バラニウムの右腕をコンパネの横にあるユニバーサルボルトに入れて閉鎖ボタンを押す。電子音から『バラニウム装填完了』のアナウンスが流れた。
蓮太郎は痛む右腕を抱えながら中央電算室に戻る。
すでに木更から遠隔操作が出来ないと連絡を聞いていた蓮太郎は主モニタ前の椅子に座り操縦桿らしきデバイスが出ており引金があった。
意を決して操縦桿を握ると、腕と身体を固定するものが出てきて蓮太郎を固定した。
「距離50キロの目標に、手動で当てっのか」
狙撃では一キロさきの目標を当てれば神業と呼ばれる。例え目標が巨大であろうとも当てれる確率など一%もないだろう。
拳銃を使う蓮太郎はその事を良く知っており額に汗を浮ばせパネルに映し出されているゾディアック・スコーピオン。
ゾディアックと自衛隊の攻防。だが、どれほど弾道弾ミサイルを撃ち込もうとも強烈な再生能力の前では歯が立たず、触手鎌で一瞬にして周囲を切り裂いて破壊していく。
急がねば東京エリアが、そう思いながらパネルを睨み続ける。そして、
「駄目だ…………やれない、俺は…………」
逃げ出したい気持ちで一杯になる。すると、蓮太郎の左手に小さい暖かな温もりに伝わる。隣には延珠がおり、優しさに満ちた微笑を浮かべていた。
「蓮太郎、妾がいる」
「外したら、俺らは終わりだ」
「当たるに決まっている」
「弾丸が東京エリアに逸れて、未曾有の大災厄を齎すかもしれない」
「でも、蓮太郎なら当てる」
「……延珠」
延珠はゆっくりと蓮太郎に近付き優しく抱擁する。
「蓮太郎だけが世界を救える。……他の誰でもない、蓮太郎だけが」
延珠の暖かな温もりが蓮太郎を包んでいく。焦りや不安で押し潰されそうだった心は落ち着きを取り戻し、苦しかった呼吸も落ち着いていた。
大きく深呼吸して精神を落ち着かせる。
「延珠、俺は絶対にお前を失いたくない」
「今のはプロポーズ的な解釈で良いのか?」
「アホか。今のは家族的な解釈をしろ。十歳のガキが愛を語るんじゃねぇよ」
「もう、怖くはないな?」
「あぁ、終わりにするぞ」
二人でパネルを見詰、そして眩い光が世界を包んだ。
本来なら影胤相手はデジモンにしようかと迷いましたが原作どうりにしました。じゃないと蓮太郎の覚悟やら延珠の涙シーンが再現できない。
基本的には原作通りに進ませましたが、最後にゼツが蓮太郎に何かを渡しましたが、これが何なのかは次回で分かると思います。
さて、まずお詫び申し上げます。
投稿出来なくてごめんなさい。少しずつは執筆してましたが全然出来なくて、途中投げ捨てようかとしてました。
それでも感想なので続きを読みたいとリクエストなどが書かれており、頑張ってヤル気メーターを上げて執筆を続けています。
実際にはリアルで時間が取れないのも理由ですかね。
頑張って一部だけでも終わらせます。
次は二部の間に以前言ってあったデジモン編を書きたいと思います。
後、コレは未だに決まっていないのですがティナちゃんを蓮太郎の嫁にするかゼツのヒロイン候補で迷ってます。どっちがいいか感想などで教えて下さい。
では、次回も頑張って執筆します。では!