ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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 未踏査領域。

 モノリス外、崩壊したビル郡や鬱蒼と茂った木々。人の手入れが施されていないアスファルトは亀裂が入り雑草が生茂っていた。

 そんな場所に爆音を上げながらライトで前方を照らし走る自動二輪が一台通り過ぎていく。

 

「うおおおぉぉぉおおおぉぉぉーーー!?」

 

 二輪に座っている将監は懸命にハンドルを握って振り落とされないように踏ん張って耐えていた。

 ブレーキを握ろうが反応せず、ハンドルは回しても反応を見せない。そこで、将監はつい先程別れたゼツの言葉を思い出した。

 

『気性が荒い』

 

 その言葉の意味、即ちこの自動二輪は普通ではない。

 合いも変わらず不思議にガキだと思う将監は、始めた会った事を思い出す。そして、それの原因で自身のことも思い浮かべた。

 あの子供と出会ってから将監は、自身の性格が徐々に変わっていく事に気付いていた。

 以前までは道具と思っていた夏世を気にかけるようになり、戦い方も少しだけ変化も見られた。

 自身の性格が変わることに恐怖はなく、逆にそれが心地よく思う時があった。あの子供が原因だと思うと癪に触れるが、今では感謝している部分もある。だが、それは決してガキには絶対に言わないと将監は心に誓った。

 

「たくっ、何時までも身勝手に動いてんじゃねぇーぞッ!」

 

 ガンッ。

 硬い拳がハンドル中央部分に振り下ろす。

 すると、今まで荒々しく暴れまわって走っていた自動二輪が大人しくなり目的地に向って一直線に進むようになった。

 

「ケッ、あのガキから渡された物だと思うと嫌になるがぁ……このバイクは気に入ったぜ!」

 

 アクセルを回すとエンジンが爆音を上げて速度を上げていく。

 速度を上げると上空から幾つものガストレアが襲い掛かる。襲い掛かるガストレアに将監は背負っていた大剣を片手で持って構えて振りかぶる。

 振り下ろされた大剣の刀身は一気に伸び、ガストレアを串刺しにして滅ぼしていく。

 

「本ッ当に癪だ」

 

 バラニウム製大型連結剣『アンサラー』。

 ゼツが扱っていたフラガラッハをモデルにして製作された試作品。完全にゼツを意識して生み出された武器ではあるが、未完成部分があり、更に将監は未だに連結剣を上手く扱えないでいた。

 

「待ってろよ仮面野郎ッ!」

 

 襲い掛かるガストレアを薙ぎ払いながら目的地に向って自動二輪を暗い森を走り抜けていった。

 将監がベヒーモスで蛭子影胤に向かっている一方、ゼツは暗闇に染まった森の中を走り抜けていた。すると、罅割れボロボロに壊れているトーチカをゼツは発見して、その建造物から灯りが点っていた。

 内部が灯されたトーチカ、その出入口より少し離れた場所に不貞腐れた表情を浮かべた延珠が胡坐をかいて座っていた。

 何故、不機嫌なんかゼツは分からずに聞いてみた。

 

「延珠ちゃん、何で不機嫌なの?」

 

「ゼツ、妾は夏世を認めんぞ!」

 

「はい?」

 

 何を何で認めないのか意味分からずにゼツは頭を傾げる。

 不思議に思っていたゼツに、延珠はゆっくりと視線をゼツに向けて驚きの顔を見せた。

 

「何故、ゼツが居るのだ?」

 

「今更だね」

 

 そんな問い掛けた疑問をゼツは説明した。

 将監と会い、夏世と逸れたと聞き、ミレニアモンから夏世が蓮太郎たちと合流したとメールで知り、この場所に向ったのだと。その説明を聞いた延珠は納得した顔を浮かべた。

 

「そうか。夏世なら建物の中に居るぞ」

 

「じゃっ失礼するね」

 

「うむ」

 

 延珠と分かれて松明で照らされたトーチカに入る。

 内部はボロボロで到底人間が住める場所に適していない空間、その中で蓮太郎と夏世の二人が座っていた。

 出入口に背を向けていた蓮太郎は気付いていないが、正面に向けている夏世は直ぐにゼツが入ってきた事に気付き、そして何故ここに居るのか分からずに不思議な表情を向けた。

 

「ゼツさん」

 

「えっゼツ?」

 

 急な登場に夏世はゼツの名前を呟く。

 その呟きが聞えた蓮太郎も驚きながら夏世が向けている視線の先を辿り、自然に目線を出入口に向けた。そして、そこにゼツが居る事に驚く。

 

「お前ッ、いつから!?」

 

「今だよ。夏世、無事なの?」

 

 蓮太郎の疑問に即座に答えたゼツは、そのまま建物内に入り夏世の傍に近付く。

 傍に近づいたゼツは屈むと夏世の腕に包帯が巻かれている事に気付き、視線を合わせる。

 

「怪我、したの?」

 

「あっはい。でも、蓮太郎さんが手当てをして下さいましたし。ガストレアに注入された体液も少量なので侵食率の上昇はありません。ご心配かけました」

 

「……そう、なら良いんだけど」

 

 現状を聞いたが未だに心配そうに見詰るゼツ、それを心苦しくなるも逆に嬉しくもなる夏世は頬を染める。そこで、夏世は逸れてしまった将監に会わなかったかゼツに問う。

 

「会ったよ。今、蛭子親子の所に向かってると思う」

 

「そうですか。無事なら良かったです」

 

 将監が無事であると聞かされた夏世は頬を綻ぶ。

 すると、無線機から雑音が混ざりながらも男の声が聞えた。

 

『お……よ。聞えてるか夏世!』

 

 雑音が無くなり男性の、将監の声がハッキリと聞こえ出した。

 夏世は急いで返事を返した。

 

「ご無事でしたか」

 

『当然だ。それより、そこにガキは居るか?』

 

「ガキ……ゼツさんですか?」

 

『そうだ。既にお前と合流してる筈だろう』

 

 無線機に向けていた視線を近くで聞き耳を立てていたゼツに向ける。

 視線を向けられたゼツは軽く頷く。

 

「はい。傍にいます」

 

『そうか。なら、そのガキと一緒に今からいうポイントに来い。他の民警どもが早まって特攻しやがった』

 

 それを聞かされた夏世たちは驚きの表情を浮かべた。

 蛭子影胤は元IP序列百桁台の実力者、並みの民警たちが束になって相手しても傷付けられる保障がない。

 

『俺様は少し離れた場所で待機している。ガキ連れてさっさと合流しろ』

 

「分かりました。直ぐに向います」

 

『それとだ』

 

「はい、何ですか。将監さん」

 

 無線を切って出発準備を取り掛かろうとするが将監が呼び止められ、無線機に耳を傾かせる夏世。だが、呼び止めるが将監はなかなか言い出さずに黙り込んでしまう。

 

「どうしたんですか?」

 

 急に黙り込んでしまった事に心配になり呼び掛ける。すると、少しどもった感じで将監は喋りだす。

 

『けっ……あ~……怪我、をだな……』

 

「怪我を負ったのですか?」

 

 なら急いで向わなければと思う夏世だが、それを待ったを将監はかける。

 

『いや、怪我はしてねぇ。あ~……おっお前は怪我、して……ないか』

 

「…………。はい、大丈夫です。心配、ありがとうございます」

 

 最初は何を言っているのか分からなかった夏世だが、意味を理解したとき自然と頬が上がり嬉しく思う。ぶっきらぼうではあるが、それでも心配してくれるだけでも嬉しく思う。

 

『そっそうか。ならいいいんだ、さっさと合流しろ!』

 

 そう述べた後、無理矢理な感じで通話を切った。

 夏世は持っている無線機を優しく抱きしめ、改めて心配してくれた将監に感謝の思いを心中で思う。

 

「アイツ、変わったな」

 

「本当だねぇ~」

 

 夏世を暖かく見詰ながらゼツと蓮太郎はそう呟いた。

 将監から指定されたポイントに向って進みだす三人。睡眠しているガストレアを起こさないように慎重に、時には迂回しながら目的地に向う。途中、夜行性ガストレアはミレニアモンとディアボロモンが一瞬にして首を両断していく。

 街までの直線には身を隠せる場所がないと判断した蓮太郎は、迂回ルートで向かい将監が指定したポイントに到着する。その場所では風に運ばれた潮の匂いが鼻腔を刺激する。

 指定されたポイントで待っていると急にライトに照らされた蓮太郎たち。腕で目元を隠して眩しくならないように照らしてくる光源に視線を向けると、そこにば自動二輪――ベヒーモス――が此方を照らしていた。

 

「おう。遅かったな」

 

「眩しいだけど?」

 

 愚痴るゼツ。その言葉に反応したのかベヒーモスはライトを消す。

 大剣を持った将監は蓮太郎たちに近寄ると、無人のベヒーモスは独りでに動きだす。その姿に蓮太郎たちは驚きの表情を浮かべる。

 

「おう。お前も居たか不幸面」

 

「不幸面じゃねぇ。里見蓮太郎だ。それより、そのバイク」

 

「ガキ関係の代物だといえば納得するだろ」

 

「すっげぇ~納得した」

 

「何故、そこで納得するかな」

 

 訝しげな視線を独りでに動く自動二輪に向ける。それに気に入らないのかエンジン音を吹かして威嚇するベヒーモス。

 この二輪は何だと質問する蓮太郎に、将監は呆れた顔を浮かべながらベヒーモスを撫でているゼツに視線を向けて戻して簡単に教えると、こちらも呆れた顔を浮かべながら蓮太郎は納得した。

 その勝手に簡単に納得して訝しげな視線を向ける二人にゼツは愚痴る。だが、

 

「「張本人は黙ってろ」」

 

 同じセリフを被りながらゼツに呆れ顔を向ける。

 それがショックだったゼツは傍で一緒にベヒーモスを触っている夏世に助けを求める。

 

「ひでぇ。慰めて下さいな夏世ちゃん」

 

「えっと、よしよし。これで良いですか?」

 

 夏世はどうしたら慰めれるか分からず簡単にゼツの頭を数回撫でる。

 ゼツのサラッとした綺麗に整えられた髪を触れた事にラッキーと夏世は思う。

 

「うん。凄く勇気でた」

 

「だ・か・ら。一々そうやって話しに華を咲かせるな!」

 

「折角、夏世が撫でた頭を鷲掴みしないでよ。臭いんだけど」

 

「以前と同じく、臭かねぇ!」

 

 頭を鷲掴みにして怒る将監、それを嫌な顔を浮ばせるゼツ。すると、遠くから銃声や雄叫びらしき声がその場にいる皆の耳に届いた。

 高台から町並みを眺める。他の建造物より少しだけ大きい白色の建物、教会らしき場所に火が照らされて銃を撃った際に起きる光も幾つも見られる。

 そして数分、銃撃と叫びが止んだ。

 

「どうなった?」

 

「……突撃した民警全員、死んだ」

 

 蓮太郎の疑問に傍に立っていたゼツが答えた。

 将監と合流した後、ゼツはディアボロモンに偵察・監視を命じていた。そして、その戦闘をスマホを通してゼツは見ていた。結果、特攻した民警たちは絶滅した。

 その報告を聞いた蓮太郎は苦虫を噛み締めた表情を浮かべる。

 

「あの馬鹿共、早まるなとは忠告はしてやったんだがな……」

 

「無駄みたいでしたね」

 

 目を瞑って溜息を吐く将監。

 そんな反応を見せた将監に夏世も悲しげな表情を見せる。

 

「蓮太郎、どうするのだ?」

 

 延珠の問いに蓮太郎は考えこむ。

 周囲には他の民警たちはいない。居たとしても合流するのに時間も掛かるし、協力して戦えるかと言えばNOとしか答えられない。

 現戦力でどこまで戦えるか、そして可能的速やかに『七星の遺産』を回収できるか。そう、色々と考えていた蓮太郎。だが、現状は一刻一刻と過ぎていた。

 

「おい。不幸面」

 

「だからぁ」

 

「話は後だ。後ろ見てみろ」

 

「えっ?」

 

 将監にまたしても不幸面と呼ばれてイラッとする連太郎は訂正しようとする。だが、将監は険しい表情を浮かべ視線を自身の後方に向けており、その表情をみた蓮太郎は自然と後ろを見て険しい顔を浮かべた。

 ゼツたちから後方、漆黒に包まれた森に赤き発光体がこちらに視線を向けていた。数にして約五十以上、その赤き発光体はまぎれもなくガストレアの赤目だった。

 

「誰かが此処で足止めが必要だな。不幸面、お前が仮面野郎の所にいけ」

 

「なっ何だよ急にそんな……」

 

 急に言われた困惑する蓮太郎。

 将監も狙いは仮面野郎こと蛭子影胤のはずだ。なのに何故、それを譲るように言ってくるのか分からず、何か裏があるのではないかと勘繰ってしまう。

 だが、将監は一度だけ視線を蓮太郎にくべて言葉を続けた。

 

「因縁らしきもん、あるんだろ」

 

「ッ!?」

 

 因縁。

 確かに蓮太郎には蛭子影胤に浅からぬ因縁らしき物は存在した。だが、その様なことは一度も言っていないのに言い当てた将監に驚きの顔を浮かべる。

 逆に将監はあからさまな反応を見て「やっぱしな」と呟いた。

 

「早く行きやがれぇ。じゃねぇ~とここのガストレア全部潰した後、俺様が勝手に仮面野郎を倒しちまうぞ」

 

「行って下さい里見さん。ここは私と将監さんで食い止めます」

 

 夏世も先に蓮太郎を進ませるように述べる。それを聞いた蓮太郎は悔しげな表情を浮かべながら踵を返した。

 

「あの蛭子影胤を潰したら助けにいく。お前らも危なくなったら逃げろよ!」

 

「ハッ! さっさと行きやがれ。夏世、援護任せたぞ?」

 

「はい。将監さんには一つも手出しさせません」

 

 将監は大剣を取り出して構え、夏世も用意していた銃を構える。

 蓮太郎は傍にいる延珠とゼツに視線をくべる。

 

「行くぞ延珠、ゼツ!」

 

「了解なのだ!」

 

「分かった!」

 

 延珠の力強い返事、それを聞いた蓮太郎は恐怖を拭いて影胤が居るであろう教会にむかう。

 走り出した蓮太郎たちを追いかけようとするゼツだが一度だけ足を止めて後ろにいる夏世たちに視線をむけた。

 

「ミレニアモン、あの二人のサポート頼める?」

 

 ゼツの傍にミレニアモンが現れて低く唸る。それは大丈夫だという返事だと直ぐに理解したゼツはミレニアモンの頭部を優しく撫でる。

 

「宜しくね」

 

 それだけ述べてゼツは走り出すと、その隣にベヒーモスが追いかけてくる。

 ベヒーモスが追いかけるように走り出すのを横目でみてゼツは飛乗る。そして、アクセルを回すと爆音のようにエンジンが吼える。

 爆音上げながら走るベヒーモスはあっと言う間に先行して走っていった蓮太郎たちに追いつく。

 

「蓮太郎、延珠ちゃん。足じゃ遅い、こっち乗って!」

 

「ゼツ!? 分かった。延珠!」

 

「分かった!」

 

 ベヒーモスに座って運転しているゼツの後ろに蓮太郎が座り、その蓮太郎の腕の中に延珠が入りこむ。二人がベヒーモスに座ったことが分かったゼツは、一気にアクセルを回し、加速を上げていく。

 ベヒーモスを走り出して数分も経たずに街に入り、目的地である教会に目指す。

 すると、ベヒーモスが走っている整備されていない道路に何らかの影が見えた。それに反応したベヒーモスがゆっくりと停止して、その道路に落ちている物体の前で停止した。

 

「何だ?」

 

「……人の腕だ」

 

「ッ!」

 

 落ちていたのは人体の腕だけ。

 腕からは真紅の血溜りが出来ており、傷口は引き千切られた様な跡になっていた。すると、ベヒーモスは周囲にライトで照らしていく。

 驚愕の表情が張り付いた顔だけが転がっており、防衛省で見たことのあるイニシエーターとプロモーターも積み上げられており血溜りが出来ている。

 その地獄絵図の光景が教会前に広がっていた。

 ベヒーモスのライトは教会を照らして徐々に上にへと上がっていき、頭上の十字架に二人の影が見えた。

 

「パパァ、ホントに生きてた」

 

 頬を吊り上げて笑みを浮かべ赤目を蓮太郎たちに向ける小比奈。

 その小比奈の傍には燕尾服の袖を通して仮面を掛け、シルクハットを被る狂気の怪人・蛭子影胤。

 

「影胤。……ケースは、どこだ……ッ!?」

 

「来ると思っていたよ」

 

 仮面越しに見せる瞳がゼツたち三人を捉え、二挺拳銃を持って影胤は手を広げる。

 

「幕は近い。決着をつけよう、里見くんにゼツくん」

 

 

  ◆

 

 

 場所は変わって東京エリア第一区の作戦本部、日本国家安全保障会議。その場所では、蓮太郎たちと蛭子親子の対峙を高度八百メートルから偵察飛行無人機から見下ろした映像をモニターにてリアルタイムで映し出されていた。

 その会議室の者たちは静まり返ってモニターに視線を釘付けになっていた。

 長椅子に座っている内閣官房長官や防衛大臣たちは表情を青褪めながら周囲の者達をちらみしていた。

 つい先ほどまで十四組、計二十八名の民警たちに蛭子影胤に挑みて返り討ちにあった映像を見たばかりである。

 現在、二組と一名の五名が対峙して戦闘開始を待っている映像が上空から俯瞰して映っていた。

 

「現在、付近に他の民警は?」

 

「一番近いペアでも、到着までに一時間以上はかかるかと」

 

 聖天子の問いに防衛大臣が答える。

 防衛大臣は困った顔をしてハンカチを使って額に浮かんだ汗を拭取る。

 芳しくない答えを聞いた聖天子はゆっくりと視線を隣で巌のような顔を浮かべている天童菊之丞に向けた。

 

「聖天子様、ご決断を」

 

「では――」

 

 聖天子は黙考した後、席を立ち上がって決断を述べようとする。だが、それは会議室の外に立たせていた護衛官が動揺して声荒げているのが聞えた。

 そして、ルームの扉が開かれて数名の人間がなだれ込み、先頭にいる少女に聖天子は驚きの顔を浮かべた。

 

「何事です!」

 

 先頭に立つ少女、天童民間警備会社社長、天童木更は肩で風を切りながら、部屋の中を横切ると居並ぶ面々に一枚の紙を突きつける。

 紙にはサークルが引かれており、サークル外側に寄せ書きのように直筆の名前と判が押してある。

 聖天子はその紙を覗き込んで思わず息を飲んだ。傘連判だ。百姓一揆の固い団結を約束すると同時に、首謀者を隠すために円状にしたものだ。

 周囲の視線が自然と、無数の名前の中から一点――防衛大臣の名前に集められる。その大臣の名前を見た周囲の他の高官たちはその人物から後ずさる。

 

「ご機嫌麗しゅう。轡田大臣」

 

「こ、これはなんの冗談だ!」

 

「あなたの部下が面白いものを持っていまして、その連判状に書かれている通りです。あなたは蛭子影胤の背後で暗躍した張本人、そして七星の遺産を盗みださせ、マスコミにリークしようとしていた」

 

「そんな馬鹿な……」

 

「直筆で傘連判、古風なことをなさるおかげで計画に加担した人間を一斉検挙できそうです」

 

 聖天子は目を細めながら、これ以上黙って木更の行動を黙認することができなかった。

 

「この室内は国防を担うべく置かれた超法規的な場です。土足で踏み込まれては困ります」

 

「そうだ。貴様は所詮薄汚い民警のイヌにすぎん! どこで手に入れてかは知らんがとっとと失せろ!」

 

 聖天子の尻馬に乗って大臣が吼えるが、木更は涼しい顔で聞き流す。

 

「聖天子様の仰ること、我が意を得た思いです。しかしこの事実を知って、一刻も早くお知らせねばと居ても立っても居られず馳せ参じた次第です。聖天子様もスパイが居ては落ち着いて議事を進められないのではないでしょうか?」

 

 上手い弁を使う。聖天子は菊之丞に合図を送る。菊之丞は冷ややかな大臣を見る。

 

「連れていけ」

 

「そ、そんな……。天童閣下ッ。私はッ――私はああああああッ!」

 

 護衛官に両脇を抑えられながら大臣は室内の外に連れ出されていった。

 連れ出されていった大臣を見送った木更は頭を下げて去ろうとする。

 

「私もこれで失礼します」

 

「それはいけません」

 

 踵を返そうとする木更は動きを止めて、半分だけ振り返る。

 

「仰りますと?」

 

「この作戦が終了するまで、あなたをこの建物から出すわけには参りません。この部屋で監禁させてもらいます」

 

 木更は少しだけ考える。

 

「ならば仕方ありませんね」

 

「木更よ……よくもここに顔を出せたな」

 

 怒気を露にしかけた菊之丞に、木更は泰然と微笑む。

 

「ご機嫌麗しゅう、天童閣下」

 

「地獄から舞い戻ってきたか」

 

「枕元に這い回るゴキブリを排除しにきただけです。ここに居合わせたのは偶然にすぎません。気の回しすぎではございませんか?」

 

「そのような戯れ言を……」

 

 菊之丞、木更の二人の冷たい視線が衝突させて火花を散らす。

 

「天童はすべて死ななければなりません、天童閣下」

 

「貴様……」

 

 祖父と孫、その家族の温かみは一切無く、険悪な空気を生み出した二人に聖天子は額に汗を浮ば生きた心地がしない。

 

「二人ともその辺で。天童社長、モニターを見たならある程度状況は把握しておいでのはず。意見を聞いてよろしいですか?」

 

 




遅くなって申し訳ありません。
お盆の後、色々と立て込んでいて投稿できませんでした。次も頑張って投稿したいと思うのですが、次も遅くなる恐れがあります。
一週間以内には投稿したいと思いますので宜しくお願いします。

今回は、将監の強化、ガストレア足止めは将監ペア、会議室内の色々でした。
将監が使ったアンサラーはフラガラッハの英名です。ゼツが以前使ったフラガラッハを意識して作った武器としています。

後はアニメでは尺の都合上省かれた会議室内の色々なやりとりでした。
今回は中途半端に終わらせてしまいましたが、この辺りじゃないと止めあれないのであえて此処で止めました。

では、次回も頑張って投稿しますので宜しくです。

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