ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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 ゼツは助けた少女を優しく抱きしめてミレニアモンの腕の中にいた。

 既にミレニアモンは透明化しており、飛行中に誰かに発見されて通報される事はなかった。そのままの状態で飛行すること十数分後、外周区に来たミレニアモンはある場所で着地して抱えているゼツたちを解放した。

 

「ご苦労様ミレニアモン。下がって良いよ」

 

「グゥゥゥーー……」

 

 頭を撫でられたミレニアモンは気持ち良さそうに目を細めた後、姿が透明になって消えた。それを一部始終見ていた少女は未だに唖然とした表情を見詰ていた。

 

「おっお前、何なんだよ」

 

「まっその話は後にしてこっちに来て」

 

 それだけ言って少女の手を握って引っ張っていく。少しだけ歩くと急に周囲が霧で霞みだし、光が見えたと思うと霧が消えてそこには大きな木製建造物が建たれていた。

 昔の校舎を思わせる木製の建造物。周囲にはブランコや木製の遊具、石製の小山に滑り台、どこか小学校とも思える。そんな場所には多くの子供たちが遊んでいた。

 

「此処って……」

 

「ほら」

 

「あっおい!?」

 

 急に引っ張られた少女はそのまま導かれていく。途中、遊んでいた少女たちがゼツの姿を見て集ってくるも「後でね」とだけ述べて建造物に入っていく。そのまま歩いていき、ある場所の扉の前で止まる。

 

「失礼する」

 

 ノックすると扉の奥から返事が返ってきて、その返事を聞いたゼツは扉を開ける。

 部屋は約六畳の広さ、木製の机に壁には絵が飾られソファーとテーブルも置かれている。その部屋には老人が1人、机の前で作業しておりその手を止めてゼツたちに視線を向けた。

 

「おやおや、ゼツ君じゃないかね。久しぶりだね」

 

「お久しぶりです。何から何までお任せっぱしで申し訳ありません」

 

「いえ、ゼツ君が謝る事ではありません。彼方は良くやっている方です」

 

「それなら良いのですが……あぁ、それと申し訳ないが」

 

 ゼツは後ろに隠れている助けた少女の背中を少しだけ押して老人に紹介した。

 助けた経由、どの様な状況だったか。大まかな事を説明すると老人は軽く頷いた。

 

「分かりました。始めまして、子供たちからは長老と愛称で呼ばれてますが、名前は松崎といいます」

 

 松崎。ルリリア姉妹の案内と共に出合った、"呪われた子供たち"を普通の少女として接している数少ない人物である。少女は未だに怯えながら疑いの瞳を宿しながら松崎とゼツを見比べる。

 

「ここ、何なの?」

 

「ここはゼツ君が生み出した空間・霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)。君たち"呪われた子供たち"の平穏に暮らせる場所だよ」

 

 

  ◆

 

 

 助けた少女を松崎に預けたゼツはある目的の場所に向っていた。歩くこと数分で目的の部屋の前に来た。ゼツはその扉を数回ノックすると、置くから少女らしき返事が返ってくる。

 

「はい、ってゼツ兄ィ!」

 

 扉が開かれ出て来たのはリアであった。

 リアは驚きの表情を浮かべると同時にゼツに抱き付く。ゼツも抱き付いてきたので優しく受け止める。

 

「お帰りゼツ兄ィ!」

 

「うん。ただいまリア」

 

 抱き付いてきたリアの頭を優しく撫でていると、部屋の奥に2人の少女がゼツに視線を向けていた。1人はリアの姉であるルリと、ルリリア姉妹の友達である少女マリアだ。

 ルリの目元には包帯は巻かれておらず、その双眼にはスカイブルーの綺麗な瞳が出していた。

 

「ゼツ兄さん、お帰りなさい」

 

「お帰りなさいなのです!」

 

 そのままリアに引っ張られゼツは部屋に入る。

 部屋には二段ベットが2つ左右の壁際に置かれ、正面の窓は2つ、下には絨毯が敷かれており、四つの勉強机、扉側に左右にはクローゼット、そして真中にはテーブルが置かれている。

 

「いつ帰って来たの?」

 

「今さっきだよ。ちょっと揉めてた子を助けてね。松崎さんに預けた所」

 

「また、ですか」

 

「まっ直ぐにどうにかなる問題でもないしね」

 

 他愛のない話をしながらマリアが準備した座布団にゼツは座る。

 ここ、霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)は松崎が述べた通りゼツが生み出した空間である。正確には建造物に霧の結界を張った空間。

 ルリリア姉妹やマリア、その他の子供たちの現状をどうにかしなければと考えたゼツは松崎と相談して校舎みたいな建造物を建てないかと相談したのだ。

 だが、そこで問題になったのが建造物を建てる為に費用である。他にも電気、水道、ガス、問題は色々と存在しており手詰まりの状態であった。

 そこで、ゼツはある方法を使って建造する方法を提示した。

 それはゼツが持つ《デジヴァイス》だった。デジヴァイスの『アイテムボックスに保存している物を使って、完成した状態にして出す』機能、これをフル活用すれば家を一軒建てられるではないのか。試した事の無かったゼツではあるものの、やってみる価値有りと判断して建築に必要な物資をかき集める事になった。

 だが、ゼツは子供であり建築の知恵など一切無い。そこで頼りになったのが松崎と、ゼツのバラニウム製の矢を提出しているとある人物であった。建築方法を徹底的に頭に積め、松崎ととある人物の助言を聞き試験錯誤して建築データをデジヴァイスに保存、そして必要に資材もある人物に用意してもらいプレハブを一軒だけ作り出した。実験成果は成功である。

 次に問題なのは水道とガスと電気であった。だが、これは直ぐに問題は解決した。

 ガスポンベなどはとある人物経由で渡してくれる事になり、水道も地下水をろ過装置を通してくみ上げることになった。電気もまた効率化されたソーラーパネルで十分に賄えられた。無論、全ての費用はゼツが払った。

 次に、そんな建造物を建てれば周囲の人間たちが黙っていないのは分かりきっている。なら、それらはゼツが持つカードで結界を展開すれば侵入することは出来なくなる。

 これにより、霧包まれし楽園(ミスティツリーズ)は完成。校舎兼寮として活用することとなった。

 

「今日は如何なさるんですか。お泊りで?」

 

「…………」

 

 ルリに質問にゼツは沈黙で答えた。その沈黙、不思議と感じた3人の少女は互いに見合ってからルリが代表して問う。

 

「……何か、不機嫌なことでもありましたか?」

 

「……いや、何でもない。今日は泊まっていくよ」

 

 ぎこちない笑顔を向けるゼツに流石の3人も何かを隠していると思うが深く追求はしなかった。だが、それはそれとして3人はゼツが泊まっていくことを知り嬉しく思う。

 更に新たに1人の少女が家族として迎えられると知った子供たちは歓迎パーティーを開く事になった。

 一階にある厨房、そこには複数の少女たちがパーティー用の料理がせっせと準備され、厨房の隣にある食堂には子供たちが紙なので作られた飾り付けを飾られ、横長いテーブルには食器などが並べられていた。そして、時刻は夕方になり少女たちは一斉に指定されている椅子に座る。

 全ての少女が座り終えたことを確認した松崎は一度頷いて、少女たちに視線を向ける。

 

「えぇでは、新しい家族を紹介します。ほら、入っておいで」

 

「……はい」

 

 松崎がそう述べると食堂の出入口に少女が入ってきた。

 全身を綺麗に洗われ、髪も整えられ、清潔な服を着ているために一瞬誰なのか分からなくなってしまうが、その子は確かにゼツが助けた少女であった。

 

「えっと……恵美沙(えみしゃ)です。エミって……呼ん、で下さい」

 

 エミシャ。エミは俯きながら頬を赤く染めて呟くように自己紹介を言う。

 自己紹介を聞いた少女たちは一斉に「いっせ~の~でっ」と述べた瞬間、

 

「「「ようこそエミちゃん、これからよろしくね!」」」

 

 一瞬、この建物が揺れたのかと思うほどの大声で歓迎の言葉を述べて拍手する。

 それを見たエミは目を丸くして白黒してしまうが、歓迎されている事を知ると目に涙を溜め、泣き出してしまった。

 それは悲しみではない、それは歓喜の涙。今まで1人で生抜き、辛き時も耐えてきた。そんな中での楽園みたいな場所に出会い、暖かく迎えられたエミは涙を流して嬉しさを現すのだった。

 エミも席に座り暖かな食事を口にして、左右に挟んで座る子供たちと楽しく雑談を楽しんでいた。そんな姿を見てゼツもまた頬を上げて微笑む。

 

「一件落着、かな」

 

「そうですね」

 

「また子供を押し付ける感じになってしまった。申し訳ない」

 

「いえいえ、気にしていませんよ」

 

 自身は子供、故に大人に力を借りなければ出来る事など高々知れている。ゼツは自身の無力に悩み、そして大人の松崎に苦労を押し付けていることに罪悪感を感じていた。

 その罪悪感を感じている事に気付いている松崎もまた、この様な子供に重たい思いをさせてしまう自身の無力に嘆いていた。互いに無力に悩ませる。

 パーティーも終わり、片付班たちは残り他の子供たちは一斉に大浴場に向かう。だが、そこで一悶着が起きた。

 

「ゼツ兄ィ、一緒に入ろ!」

 

「兄様、一緒に入るですので!」

 

「いや自分はちょっと、松崎さん助けて!?」

 

 リアとマリアは力を解放して無理矢理に大浴場にゼツを連れて行こうとする。流石のゼツも力尽くで振り払えば二人に怪我をさせる恐れがあるので解こうにも解けず、傍にいる松崎に助けを述べる。だが、

 

「グットラックですよ」

 

「彼方はそんなキャラではないでしょ!?」

 

 急に壊れた松崎にゼツは絶望する。

 更にリアとマリアの後ろに複数の子供たちが面白半分で引っ張り出し、ゼツ1人では抗う事も出来ずに徐々に大浴場に引き摺られ飲まれていく。

 誰か助けを求めないと思い見渡すと微笑んでいるルリがいた。ゼツはルリに助けを請う。

 

「ルリ、助けて!」

 

「ふふ」

 

「……えっと、ルリ?」

 

 微笑を絶やさずに笑顔を向ける姿に、流石に可笑しいと思ったゼツは恐る恐るルリを呼んでみる。するとルリが近付いてきて、そして、

 

「頑張りますね」

 

「何を!?」

 

「その、上手く出来るか自信はありませんが……でも、ちゃんと満足させます!」

 

「だから何を!?」

 

 コレはピンチと判断したゼツは待機しているデジモンを呼ぶ。だが、スマホで返ってきた返事は『グットラック(ディアボロモン。グッバイ(ミレニアモン』であった。

 

「お前らもかぁぁぁぁあああぁぁぁーーー!」

 

 家族であるデジモンたちに見捨てられたゼツは、誰にも頼らずに自力で脱出を試みようとする。だが、自身の足に絡み付いている物に気付いた。白くネバネバとした糸、それは間違いなく蜘蛛の糸であった。どうやら、蜘蛛の因子を持った少女が脱出させまいと張っていたようだ。

 こんな場所で使わなくても、と思うゼツはその糸を切ろうと武器を取り出そうとする。だが、

 

「させません!」

 

「って、力強ォ!?」

 

「私はタイプ・ゴリラの因子持ちです。ですので力勝負では負けませんよ」

 

 武器を取り出す為にスマホが入っている袖に手を伸ばすが、その手をゴリラの因子を持つ少女が止める。視線を手を掴んでいる少女に向ける。

 

明日深(あすみ)ちゃん!?」

 

 三つ編みの髪を左右の肩の前に垂らした少女の名はアスミ。

 以前、若者達のリンチされている所をゼツが助けた少女であり、この場所の子供たちの年長組の1人である。

 

「男女七歳にて同居せずって言葉知らない!?」

 

「大丈夫です。責任取ってもらいます!」

 

「アレ、アスミちゃんって真面目な子だったでしょ!?」

 

「正攻法は無理そうなので路線変更です」

 

「知りたくなかったそんな事実!」

 

 助けた当初は礼儀正しい子だと思っていたがネコ被って偽っていたアスミ。だが、それでは狙いのゼツは捕まえられないと判断したのか強行手段に出た。

 更に自身を絶望に追い込む事実を知って焦るゼツは、力尽くで糸を千切ろうと試みるが。ゼツの鼻腔に甘ったるい匂いに襲われる。

 

「この匂いって、まさか!?」

 

「はぃ、私ですぅ」

 

胡蝶(こちょう)ちゃんまで! じゃぁ、この匂いって」

 

「麻痺……です」

 

「やっぱし!」

 

 薄紫のロングヘヤーに手元にはクマのぬいぐるみを持った少女。名前はコチョウでありモデルは蝶、髪に体内で色々な毒性を持った燐粉を精製して生み出すことができる珍しい子。

 普段は大人しい少女だと認識しており、まさかこのような事に力を使うとは思っていなかったゼツはコチョウを見詰る。

 

「あのぉ、手伝ったら『はぁ~れむぅ』に入れるぅって言ってたからぁ」

 

 誰だ、そんなデマ吹き込んだの。

 軽くショックを受けたゼツは、この絶望の状況でも屈指ずに脱出の機会を窺う。すると、今日助けた少女エミに偶然に視線が重なる。

 

「たっ助けて!」

 

「えっ、えっと……頑張って?」

 

「嘘だぁーーーー!」

 

 疑問系で答えるエミにゼツは雄叫びを上げながら大浴場に吸い込まれていった。

 この後、大浴場から出たゼツは身体中がピカピカに磨かれ白く燃え尽き、逆に少女たちは肌がツヤツヤだった。大浴場内で何が起きたのかは定かではない。

 白く燃え尽きたゼツはそのままルリリア姉妹の部屋に運ばれ、運ばれ終えた所で正気に戻った。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……アレ、お風呂は?」

 

「あっ記憶飛んでるね」

 

「都合が良かったです。このまま、忘れるのが吉ですから」

 

「やりすぎたね」

 

 姉妹は互いに苦笑しながら小さく舌をだす。

 ルリが用意した麦茶をゼツは一口飲み、温まった身体を冷やす。すると、ゼツの隣にルリが座ってゼツの瞳をジッと見詰た。

 急な何なのかと疑問に思っていたゼツだが、ルリから話が切り出された。

 

「何があったんですか?」

 

「何をって……」

 

 見詰てくる瞳にゼツは視線を逸らすが、ルリはその顔を両手で掴み無理矢理に視線を戻させる。そしてもう一度「何があったんですか?」と問い詰めた。

 流石にこれは隠しきれないと判断したゼツは、溜息を吐きながら話した。

 エミを助ける際に、居候している蓮太郎にキレていたとはいえ酷い事を言ってしまった。その事が後悔、自己嫌悪で落ち込んでいた。その話を聞いたルリは呆れ顔をむけた。

 

「なら、次は謝らないといけませんね」

 

「……今更か?」

 

「はい。今なら関係が拗れる前に修復できますから」

 

「自信ない」

 

 四つん這いになって落ち込むゼツの姿にリアは笑う。

 

「ゼツ兄ィはネガティブだよね。ズバッて言っちゃえばいいのに」

 

「リアは無駄に考えないしね」

 

「あっルリ姉ェ、それって私が馬鹿ってこと!?」

 

「考えなしって所はあるでしょ? 前だってアスミが気にしていた事を指摘して喧嘩になったでしょ」

 

「そっそれは……」

 

「気にしている事?」

 

「ゼツ兄さんが知る必要はありません」

 

「?」

 

 頭を傾げて疑問に思うゼツではあったが教えないなら無理に聞くことは出来ないだろうと判断した。

 

「とにかく。実際問題、リアの言うとおりさっさと謝れば許してくれるでしょ」

 

「……だよな」

 

 頭をガシガシと掻きながら溜息を吐く。

 すると、消灯のアラームが鳴った。それを聞いた3人は寝る事になったのだが。

 左右の二段ベットのうち、片方の下のベットに3人が寄り添って眠る事になった。真中にゼツ、左右にルリリア姉妹が横になる。

 

「……熱い」

 

「我慢して下さい」

 

「最近、会う事も少ないんだから我慢してよ」

 

「……了解」

 

 文句を言うゼツにたいし、姉妹は左右から頬を引っ張って怒る。

 コレ以上何か言えば何されるか分かったものではないので、何も言わずにゼツは眠りに付いた。




今回出てきた"呪われた子供たち"の住居・ミスティツリーズに聞き覚えのある方も居るでしょう。そう、これは初代デジモンワールドで出てくるエリアの名前です。
霧包まれし楽園《ミスティツリーズ》とは呼びませんが、雰囲気的には良いかなっと思って採用してみました。
住居の建造に付いて色々と書いてはいますが不自然な点は幾つもあるでしょう。ですが、前の後書きでも『ご都合主義』と書かせて貰ってますのでお許しを(汗)

後、本編には書いてはいませんが【霧の結界】を発生させているのはジュレイモンと呼ばれるデジモンの効果だと思って下さい(ゲームもそんな風に描かれていましたし)。勿論、ジュレイモンにその様な効果があるかは分かりません。

では、次回もお楽しみに!

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