ブラック・ブレット 『無』のテイマー現る   作:天狐空幻

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 ゼツと将監とのコントが終わり木更は指定されている卓側の椅子に座り、その後ろに蓮太郎が立って待機する。一方のゼツは何故か夏世の傍にいた。

 ゼツと夏世が仲良く話し、それを将監が横目で睨む。

 

「ゼツ君と親しげに話してた相手、将監って言ったわよね。それで三ヶ島ってことは伊熊将監、確かIP序列1501位だったわね」

 

「……あの筋肉、千番台だったのか?」

 

「知らずに話してたの?」

 

「いや、自己紹介とかしなかったし。訊く事もしなかったしさ」

 

「だから里見くんはお馬鹿なのよ」

 

 木更に呆れられ、蓮太郎はぐうの音も出せずに沈黙した。

 そんな2人が話していると制服を着た禿頭の男性が部屋に入ってきた。卓に座る社長クラスの者たちが立ち上がろうとするが、男性はそれを手を振って席に促した。男性には階級章が掛けられている所を見ると幕僚クラスのようだ。

 

「本日集ってもらったのは他でもない、諸君等民警に依頼がある。依頼は政府からのものと思ってもらって構わない」

 

 何か含みのある言い方をする禿頭は周囲を見渡し、空席の見つける。

 

「空席一、か」

 

 空席は1つ、その前に置かれている三角プレートには『大瀬フューチャーコーポレーション様』と刻まれている。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼内容を聞いた場合、もう断ることができないことを先に言っておく」

 

 政府からの強制、ゼツは嘆息して呆れた表情を浮かべる。それは既に依頼ではなく任務と言うのだ。そう思いながら隣にいる夏世の頭を撫で続けていた。夏世もまた頬を少しだけ染めながら成すがままに、そしてそれを呆れた表情を浮かべる将監。

 兎に角、木更ふくむ社長格の者たちは立たずに座っていた。それを見た禿頭の男性は一度頷く。

 

「よろしい、では辞退はなしということでよろしいか?」

 

 禿頭の男はもう一度、卓に座る者たちを見渡す。それでも立たない事を確認した男は「説明のこの方に行ってもらう」と言って身を引いた。

 すると、背後の特大パネルに1人の女性が映し出された。

 

『ごきげんよう、皆さん』

 

 映し出された女性の姿に周囲は者たちはどよめき、木更ふくむ社長格たちは勢い良く立ち上がった。

 イメージカラーは何色だと問われれば『白』としか言い様が無いほどの白一色の女性――聖天子が映し出されていた。

 蓮太郎もまさか、これ程の大物が出てくるとは思っておらず泡を食らった表情を浮かべ、そして次に視線を聖天子の背後で付かず離れず待機している老人に向ける。名は天童菊之丞、木更の祖父であり蓮太郎の義父にもあたる、そしてこの3人には深い因縁がある。

 ゼツもまた、その老人に鋭い視線を向けていた。

 

『依頼は2つあります。1つは昨日東京エリアで感染者を出した感染源ガストレアの排除、もう1つはそのガストレアの体内に取り込まれているケースを無傷で回収すること、以上です』

 

 別ウィンドに銀色のスーツケースのフォトがポップアップされ、隣には依頼報酬の金額が表示された。その膨大な金額を見た社長格の者たちは驚きのどよめきが生まれる。

 ゼツはその膨大な金額に見合った危険性があると判断、そして聖天子が自ら依頼するほどの貴重なナニか……数秒後、そこでゼツは顔を引き攣った。脳裏に浮かんだのは以前、色々と情報を探っていた時、東京エリアのメインサーバーで最高セキリティで守られ保存していたデータを思い出した。だとすれば、これだけの金額を出すのに納得がいったゼツは睨むように聖天子を見詰た。

 すると、木更が挙手する。

 

「ケースの中身、聞いても宜しいですか?」

 

 その質問は周囲の社長格たちも知りたかった疑問であった。はからずも木更が全員の意見を代弁した形になった。

 

『あなたは?』

 

「天童木更と申します」

 

 聖天子は木更の名を聞くと驚きの表情をした。

 

『……お噂は聞いております天童社長。ですがプライバシーに触れますのでお答え出来ません』

 

 平然とした態度で聖天子は中身を教えないと述べた。だが、木更は食い下がらずに話を続けた。

 

「感染源はモデル・スパイダー。その程度ならウチのプロモーターたちの1人でも倒せます。何故それを民警トップクラスのお歴々に依頼するのか、破格の依頼料に見合った危険がケースの中にあるのでは?」

 

『それは知る必要のないことでは?』

 

 聖天子と木更の間には睨みあい火花が散るように見えた。どれだけ木更に睨まれようとも聖天子は何食わぬ顔で中身を教えない。そこで木更は無理だと判断した。

 

「そちらが手札を伏せたままなら、ウチはこの件から手を引かせていただきます」

 

『……ここで席を立つと、ペナルティがあります』

 

「覚悟の上です。そんな不確かな説明でウチの社員たちを危険にさらすわけにはまいりません」

 

 政府の直々の依頼を聞いた後で反故するとはゼツは内心驚く。

 民間警備会社と言われているが、結局のところ上には政府が居り各社の手綱を握っている。故に民警と言えど政府の依頼は反故には出来ない。だが、木更は政府との関係を悪化する覚悟で社員保護を優先したのだ。

 政府との関係が悪化すれば依頼が入らなくなる恐れもあり、聖天子もまたペナルティがあると言っている。それを覚悟で反故する木更にゼツは初めてその後姿がカッコイイと感じた。すると、不気味な笑い声が部屋に響き渡る。

 

『誰です?』

 

「私だ」

 

 それと同時にゼツは袖から剣を出して投付ける。

 金属音の弾く音

 急な行動に傍にいた将監と夏世は驚き、顔の横を通り過ぎた剣に驚きの表情を浮かべながらゼツを見る木更と蓮太郎。

 

「フハハハハ、良く気付いたねゼツくん。1つ疑問だが、何処で気付いたのだね?」

 

 ゼツの視線の先は空席、そこには燕尾服を着て白い仮面をした男が卓に足を乗せて空席の椅子に座っていた。その急な出現に傍に座っていた社長格は驚きながら離れ、そしてその姿を見た蓮太郎は「お前は……そんな馬鹿なッ!」と驚いている。

 皆が驚く中、ゼツはその人物の疑問に直に答えた。

 

「最初から気付いてた。その程度のハイディングで俺を騙せると思った? それと、隠れてないで小比奈ちゃんも出てきたら?」

 

 ゼツは言うと同時に首筋に鋭い二刀が放たれ、それを難なく避ける。何度も放たれる鋭い剣戟、それをゼツは肉眼で捕らえ軽やかに避けている。

 急な戦闘に周囲は意識が追いついて来れず唖然としてしまう。

 

「止めたまえ愚かな娘よ」

 

「うぅ~……はい、パパ」

 

 ゼツの首を襲ってきた少女は悔しそうな表情をしながら、男性の言う事を聞く。

 男性は「いよっと」の掛け声で身体を反らしながら跳ね起きると、土足で卓の上を踏み上げる。

 男は卓の中央まで歩き足を止めて、聖天子に相対する。

 

『……名乗りなさい』

 

 男は被っていたシルクハットを取って身体を2つに折り畳み礼をする。

 

「失礼。私は蛭子、蛭子影胤という。お初にお目にかかるね、無能な国家元首殿」

 

 相手を小馬鹿にした態度を見せる影胤。

 蓮太郎は拳銃を取り出し銃口を影胤に向ける。

 

「元気だったかい、里見くん、我が新たな友よ」

 

 影胤の言葉。それを聞いたゼツはこの2人は何処かで出会っていたのかと思う。

 

「何処から入ってきやがった!?」

 

 怒鳴りに近い感じで蓮太郎は訊く。その質問に影胤は答えた。

 

「正面から堂々と――寄ってきた小うるさいハエは処分したがね。そうだ、丁度良いタイミングだ私のイニシエーターを紹介しよう。小比奈、おいで」

 

「はい、パパ」

 

 未だにゼツに睨みを利かせている小比奈は影胤の言う事を聞き、影胤の傍に駆け寄る。先程までゼツが戦っていた子供がそうだったとはと蓮太郎は思う。

 卓に上がった小比奈は聖天子に向かい、スカートの裾をつまんでお辞儀した。

 

「蛭子小比奈。十歳」

 

「私のイニシエーターにして娘だ」

 

 そこでゼツは不意に場違いな事を思った。それは「小比奈、何気に礼儀正しいな。やっぱし影胤が躾けたのか?」っと本当に割りとどうでもいいことを考えていた。

 すると、小比奈は拳銃を向けている蓮太郎を無視してゼツに視線を向けた。

 

「パパ、ゼツ切りたい。切っていい?」

 

「よしよし、だがまだ駄目だ」

 

「うぅ……パパァ」

 

 駄目と言われて拗ねるように唇を尖らす小比奈。そこにゼツは手を振って「駄目だったね。また今度だね」と答えると、小比奈は笑みを戻した。

 

「なんの用だ」

 

 蓮太郎は銃口をそのままに空いている手で傍にいる木更を下げさせる。

 

「私もこのレースにエントリーする事を伝えたくてね」

 

「エントリー? なんのことだ」

 

「『七星の遺産』は我々がいただくと言っているんよ」

 

「七星の遺産? なんだ、それは」

 

「君等が探す事になっていたケースの中身だよ」

 

「昨日、お前があの部屋にいたのは――」

 

「その通り。感染源ガストレアを追って部屋に入ったのだが、肝心の奴がどこかに消えているし、ぐずぐずしてたら窓を割って警察隊が突入してきてね。うっかり殺しちゃった」

 

 そこでゼツはやっとこの2人が何処で出合ったのか理解した。

 数日前、マンションの住人から上の階から血の雨漏りがすると警察に通報があり、情報を総合してガストレアがいると判断され天童民警会社に連絡が入った。その時、ゼツは下水道に住み着いてたタイプ・マウスのガシトレア討伐でいなかった為に残っていた蓮太郎が向ったのだ。そして、蓮太郎がマンションに突入、そこで影胤と出合ったのだ。

 

「ルールの確認をしよう。私と君たち、どちらが先に感染源ガストレアを見つけ七星の遺産を手に入れるかの勝負。掛け金(ベット)は君たちの命でいかが?」

 

「――黙って聞いていれぐだぐだとうるせぇんだよ!」

 

 するとゼツの傍にいた将監がバラニウム製のバスターソードを構え一気に突っ込もうとする。だが、

 

「はい、そこまでぇ~」

 

「グハッ!」

 

 将監はその場で派手に転んだ。

 ゼツが足で将監の足を引っ掛けて転ばしたのだ。その行動にさすがの影胤は驚き呆然としてしまう。あれだけ良い啖呵を吐きながら突っ込もうとした人物がそっこうに転ぶ姿はなんとも言えず、周囲の者たちも何を言っていいのか判らなくなる。で転んだ本人は、

 

「何するガキィ? 死にてぇのか?」

 

 ゆっくりと起き上がりゼツの頭を鷲掴み。そして、額に青筋が浮かび血走った眼で将監はゼツを睨む。睨んでくる将監にゼツは「アハハハハ! 無様に転がってやんの!」と笑っていた。ある程度笑った後、ゼツは普通の顔に戻して将監に向く。

 

「下手に突っ込むな。相手の力量を測った後でも遅くないだろ?」

 

「……チッ」

 

 将監はゼツの素直な警告に舌打しながら納得して手を離す。すると、隣にいた夏世がハンカチを取り出して将監に渡した。

 

「大丈夫ですか?」

 

「夏世、大丈夫に見えるか?」

 

「いえ、結構派手に顔からいきましたしね」

 

 真赤になった鼻を渡されたハンカチで押さえる。それを一部始終見ていた影胤はさらに不適な笑いを零す。

 

「フハハハ、流石だよゼツくん。そんな猪武者を手懐けるとは!」

 

「誰が猪だ!」

 

「お前だよ」

 

「何だとガキィ!」

 

「だからイカ臭いだって」

 

「臭かねぇ!」

 

 先ほどと同じコントが始まる。だが、それは長く続かなかった。

 三ヶ島が「撃てッ!」っと叫び影胤を中心に360度から一斉に拳銃を発砲しようとする。だが、そこでゼツが大きく叫んだ。

 

「撃つなッ!」

 

 急な叫びに誰もが一斉に引金(トリガー)に添えていた指を止める。何故、撃つなと言ったのか分からずに周囲の人間たちはゼツを不思議そうに睨む。

 そこに、影胤が問い掛けた。

 

「何故、撃つなと言うのだねゼツくん」

 

「……新人類創造計画」

 

「ッ!」

 

 ゼツは周囲に聞こえるように呟いた。そして更に言葉を続けた。

 

「陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊……影胤、それがお前が元いた部隊なのだろ?」

 

 そこで初めて周囲はどよめいた。ガストレア大戦時に結束された対ガストレア用特殊部隊。その都市伝説に近い部隊名を聞いた周囲は驚きの眼差しを影胤に向ける。

 だが、その中で唯一別の場所に視線を向けている者がいた。それは蓮太郎だった。

 蓮太郎はゼツに驚きの視線を向けていた。何故、その単語を知っているのかと……。

 

「調べたのかね?」

 

「あの後少しね。IP序列は剥奪されてたけど、残ってたデータをかき集めた。そして、詳しく調べた結果『新人類創造計画』って言葉を知った。バラニウム製の機械を身体に植え込んで作り出した機械化兵士……生まれた時期はガストレア大戦で人道を捨て狂気に落ちた時期、仕方ないと思うけど正気の沙汰ではないし、その付けが今になって返ってきている」

 

 ガストレア大戦。それは正しく地獄と言って相違いない時期。

 人間たちは生き残る為に人道を投げ捨て、多くの非道を幾度なく繰り返し生み出した。毒ガス、地雷、そして機械化兵、それらでも氷山の一角で未だに表沙汰に出来ない非道は幾等でもある。

 

「イヒヒヒ、先程のゼツくんの言うとおりだ。改めて名乗ろう、私は内臓の殆どをバラニウムの機械に詰め替えた、元陸上自衛隊東部方面隊第七八七機械化特殊部隊『新人類創造計画』蛭子影胤。能力は斥力フィールド『イマジナリー・ギミック』だ」

 

「対ガストレア用特殊部隊。実在するわけが……」

 

 三ヶ島がありえない表情を浮かべながら呟く。それは周囲の者たちも同じ意見だった。

 

「信じる信じないかは君たちの勝手だよ。すまないね里見くん、あの時は本気ではなかったのだよ」

 

 影胤は視線を拳銃を構える蓮太郎に向ける。そんな影胤にゼツは疑問を投掛けた。

 

「……能力を教えていいのか?」

 

「調べた、なら君は知っているはずだ。この場で君だけが知っているのは不公平だと思ってね」

 

「その余裕、自身の首を絞めなければいいけどね」

 

 自身の能力を周囲の者達を教えた影胤。すると、影胤は一枚の白い布を掌に被せるとマジションのように布を退けると箱が掌から出てきて、その箱を足元に置いた。

 

「これは私からのプレゼントだ。では民警の諸君、滅亡の日は近い。いくよ小比奈」

 

「……はい、パパ」

 

 すると、窓が急に割れると蛭子親子はその窓から飛び降りていった。

 誰もがそれを追いかけよとはしなかった。視線だけで殺せるほどの狂気を孕んだ眼差しは周囲の者達を萎縮させるには十分だった。すると、扉から誰かが慌てて飛び込んできた。

 その人物は今回の会議で欠席していた大瀬社長の秘書だった。その表情には焦りと困惑の浮かべている。

 

「大変だ。しゃ、社長がああああッ! 自宅で殺されて、死体のくっ首がどこにも」

 

 そこでゼツは影胤が置いていった箱の中身を理解した。成程、確かにプレゼントだ。絶望の……。すると三ヶ島は怒りを露にして視線を特大パネルに向けた。

 

「天童閣下ッ。新人類創造計画はッ――あの子供と男がいっていることは本当ですか?」

 

『答える必要はない』

 

 巌のような菊之丞は毅然とした態度で即答した。だが、菊之丞の視線がゼツに睨むように向けており、それに気付いているゼツだが無視した。

 無表情だった聖天子も焦りの表情を僅かに露にして言葉を紡いだ。

 

『新たに達成条件を加えます。あの男より先にケースを回収して下さい。ケースの中身は、悪用すればモノリスの結界を破壊し、東京エリアに大絶滅を引き起こす。封印指定物です』




今回はアニメ通りで、少しだけ変化した話でした。
どれ程に硬く強固なプロテェクトでも、ゼツ君の前では紙装甲です。さぁさぁ、本格的にガストレアとの戦争が始まります。
主人公ゼツ君の実力を知るがいい!

では、次回もお楽しみに!

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