見ていない人も居ると思うので此処では深くは内容を言いませんが。次はなんのアニメを見ようかな。
さて、このSSもやっと原作に突入しることになりました。
ゼツくんはどうなるか。
010
ゼツが里見家に居候してからある程度の月日が流れた。
普段、朝からは蓮太郎と延珠は学校に向かい、ゼツは1人で民警会社の留守番をしていた(木更も朝から学校に向かっている)。
時にはスマホからガストレア出現の警報を届いたらゼツは素早く行動を開始する。片手には木製の和弓を、腰には鏃から全てが黒色の矢を入れた矢筒を腰に提げ出現ポイントに向って出向する。
スマホ内で待機しているクラモンを呼びかけ、出現したガストレアの移動ルートを算出、その移動ルートから弓矢で射れる射撃ポイントを割出し、その場所の最短ルートをスマホのマップに表示させる。マップに赤いラインが描かれており、その描かれたラインを沿うように走り、目的地には十数分で到着した。四階建マンション、その三階と四回の間の非常階段である。
弓を扱うには足場は悪い場所、だがゼツは一切気にもせずに非常階段から眺める町並みを見詰る。
「此処か……タイミング、頼むよクラモン」
クラモンはゼツの足元にコロコロと転がりながら傍で止まる。
矢筒からバラニウム製の矢を取り出して番え、弓を押し弦を引いた状態でゼツはピクリとも動く事無くその態勢を維持したままで待機する。
風が吹き、ゼツの着物の袖や前髪が靡く。瞼を閉じ、クラモンからの合図をジッと待ち続け、そして
「クルッ!」
「ッ!」
鳴き声による合図。それが聞えた瞬間、瞑っていた目を開き矢を放つ。
黒色の閃光が空を翔ける。残光でも残るではないかと思うほどの鋭く速い矢は、建物の隙間を縫うように進み、500メートル先にいた移動中のタイプ・ベアのガストレアを打ち抜く。
打ち抜いた場所は頭部、その一撃でガストレアは苦痛の雄叫びを上げる。そんな姿を遠目で見ていたゼツは、矢筒から次の矢を取り出して番えそして放つ。
タイプ・ベアの頭部に刺さっている矢、その上から二本目の矢が刺さる。初弾で刺さっていた矢が更に内部に深く刺さり、そしてガストレアの脳を突き抜けた。
例外は幾つかあるも再生能力が高いガストレアとて生物の原則までは変わらない。脳や心臓、それらをバラニウムで撃ち抜かれてはガストレアとて只では済まず、そして絶命は免れない。
「クラモン、確認を……」
「……クルッ」
「そうか、なら帰ろっか」
討伐出来たかをクラモンに確認、鳴いて返事を返した。どうやらタイプ・ベアは討伐出来ているようだ。溜息を吐きながら非常階段を下りて行き、天童民間警備会社にゼツは帰っていった。
◆
「この、お馬鹿ッ!」
天童民間警備会社の社長・天童木更が社内を大喝が響き、鋭いパンチが繰り出される。だが、それを寸前で蓮太郎は避ける。避けられた木更は噛み付くような表情を浮かべながら蓮太郎を睨む。
「なんでかわすのよ腹立たしいはねッ」
「無茶苦茶言うなよ!」
何故、木更が蓮太郎を怒っているかと言うとそれは数時間前に遡る。
警察からマンション一室にガストレアが潜伏している恐れがあるとして、民警出動の要請が舞い込んできた(実際には法律でガストレアが潜伏している場所に民警が居なければ原則潜入は出来ない事になっている)。木更はその要請を受諾、社員である里見蓮太郎と藍羽延珠が自転車で向ったのだが、途中で二台に乗せていた延珠を落としてしまい蓮太郎1人で突入しなければならない事態に陥った。
でっ、現場に到着した時には警察数名が勝手に突入、死亡しており更にガストレアの影もなく、その一室に住んでいた男性が感染者で街中をうろついている事が分かって探していると逸れていた延珠がガストレア――感染者――と戦闘しており、そこに蓮太郎が加勢してガストレアを撃破するも肝心の報酬を受け取る事無くスーパーのタイムセールのモヤシを買いに去ってしまった。警察に報酬を渡して貰うように要求するが突っ撥ねられたそうだ。
「つまりこういうこと? 君はそこの机の上に乗ってるタイムセールの商品を買うために急いだら、途中で警察から報酬をもらい損ねたことを気付いた、と」
「……ああ」
不貞腐れた態度を見せる蓮太郎。
「連絡したけど警察には払ってもらえず。それで君はモヤシだけは二袋買ってきた?」
「…………アンタも食べるか? 木更さん」
「仕事してるときは社長と言いなさい」
話題を逸らそうとするも蓮太郎を睨みながら名前を社長と呼ぶように木更は注意しながら社長席のテーブルを一発叩く。
「ちょと里見くん、今月の収入全部ゼツくんが頑張ってくれてるのよ。それなのに先輩の里見くんが収入0なんて面子丸潰れよこの甲斐性無し、最弱、お馬鹿。それと君の中では社長への仕事の報告よりスーパーのタイムセールを優先されるの?」
小学生で守られている会社とは何とも言えない。
社員の先輩たる蓮太郎が今月収入0に注意しながら、報告無視で更に睨む。そして、
「――なにより、どうして私にもタイムセールのこと教えてくれなかったのよッ!」
スーパーのセールを教えていない事にも怒りで怒鳴る。すると木更の腹部から空腹の合図がなる。
「もう駄目、ビフテキ……食べたい」
「俺だって食べてぇよ」
お腹を押さえ、ビフテキを食べたいと要望を口ずさむ木更に蓮太郎も同じく食べたいと要望をもらす。すると、唯一の出入口の扉が開かれ入ってきたのは若草色の着物を来た小学生ぐらいの子供、その手にはスーパーのポリ袋が持たされていた。
「ただいまー」
「あらお帰りゼツくん」
この世界で1人しか居ないデジモンテイマーであるゼツだった。帰って来たゼツに返事を返す木更にゼツは一度頷き、蓮太郎の傍に寄って持っていたポリ袋を渡した。入っていたのはステーキ用の肉だった。
「お前、これどうした?」
「んっ、ガストレアに襲われそうな人を助けたらお礼に貰った」
丁度肉は4枚。良いタイミングで現れたゼツに2人は唖然として、ゼツは木更に振向く。
「今回の仕事、下水道に潜んでたタイプ・マウスのガストレアの討伐を確認、報酬は時期に警察から天童民警会社に振り込まれるって……報告終了。これでいい?」
綺麗に要点だけを報告するゼツの姿に木更は、隣で立っている甲斐性無しの先輩社員の蓮太郎を睨みつける。その眼は、「後輩はちゃんと報酬貰って報告しに来ているのよ。里見くんがちゃんとしないでどうするのよ」っと訴えているようだ。いや、訴えているのだろう。
「んっ、何か間違えた?」
「いえ、大丈夫よ問題なし。今の会社はゼツくんで支えられてる状態……会社経営って思ったより大変なのね。それもこれも里見くんの甲斐性無しのお馬鹿のせいね」
何か報告に間違えがあったのか少しだけ不安な表情を浮かべたゼツに、間違っていないと優しい表情を見せて述べて、テーブルに項垂れ愚痴を零す。
「事務所の立地のせいじゃね?」
「わかってないわね。本当に良い会社なら立地なんて関係ないのよ」
「でも、一階ゲイバーに二階キャバクラ、四階は闇金……うん、一般人なら来たくないよね」
本当に立地は悪いとゼツは思う。下手したら三階に行く前に客が一階二階に吸い込まれるんじゃないかと思うばかりに……。
現在、ゼツは一階二階四階の人間らにそれなりに気に入られている。ゲイバーからはその懸命に働く姿に、キャバクラからはその愛らしい姿に、闇金からはその腕っ節に、其々の理由からゼツは『ハッピービルディング』の人達には人気である。
すると、蓮太郎が何かを閃いたのか項垂れている木更に向く。
「木更さんがメイド服とか着てビラ配りゃいい」
「私は『天童』よ! この私が女給のような低位な人間の真似をしろって言うの? 私はいや!」
「なら自分がしようか?」
そうゼツが述べると2人は妄想してみた。ゼツがメイド服を着て会社名を書いた看板を持ちながら通行人に懸命に会社をアピールする姿、それは確かに萌えるのだが……。
「駄目よ! 誘拐されちゃう!」
「止めとけ、ゲイバーの店員に本当に誘拐されるぞ」
2人は力強く拒否されてゼツは驚く。木更は視線を蓮太郎に向けて指を刺す。
「それよりも里見くんが天童民間警備会社ここにありって叫びながら衆人観衆の中、燃えるか爆発しなさい!」
「それじゃテロだろ」
それは迷惑だな、ゼツはそう内心で思う。
すると、木更が難しい表情を浮かべながら起動しているPCを睨みつける。
「きみが倒したガストレアって感染者だったのよね?」
「感染源には遭遇しなかったけど……。とっくに他の社が見つけて始末してんだろう」
「駆除どころか目撃報告すら一件もないわ。ゼツくん、そっちのクラモンたちはどうなの?」
「少し待って……うんん、網には掛かってない」
急な木更の問いにゼツはスマホ内のクラモンたちに目撃情報やそれらの詳しい情報を探るように頼む。そして、クラモンから該当無しと返事が返ってきて、それを木更に教える。それを聞いた蓮太郎は険しい表情を浮かべる。
「どうして政府は警報を出さない」
「政府は無能じゃないけど非難警報とかはほとんど取らない、だから私ら民警に仕事があるのよ」
政府は混乱などを避ける為に報道規制、及び警告も最後まで取らない。それが民衆の混乱や誤報などを避ける為でもあるが嫌なものである。ゼツもそれは理解している、だからと言って納得している訳でもなかった。兎に角、一刻も早く感染源を狩らなければ
「クラモンたちから監視強化させとく」
「専門家の意見が必要だ、これから『先生』に話を聞いてくる」
「私も同業者に探りを入れてみるわ。里見くん、ゼツくん、残る感染源も私たちが狩るわよ、可及的速やかに」
「わかった」
「了解」
ゼツはそう返事を返すと、踵を返して出入口に戻っていった。その急な行動に蓮太郎たち2人は不思議に見据えていた。
「どこか出かけるのか?」
「んっ、少し野暮用、夕飯までには帰れると思う」
「遅くなるなよ?」
「わかった」
蓮太郎との話をそこそこにゼツは会社を後にして去って行った。
そのゼツの後ろ姿を見据えていた木更も帰る身支度を整える。傍に置いていた学校指定鞄を肩にかける。すると、錬太郎が少しだけ頬を赤く染めて木更に話しかける。
「帰るなら途中まで送るぞ」
「今日は血液透析の日だから病院に行かないと」
「ああ、そいやそうか」
天童木更は腎臓の持病で定期的に血液透析を受けており、その為に長時間の戦闘は不可能。すでに社から出て行ったゼツは何故、木更が腎臓を本格的に治療しないのかは知らない。そもそも、知ろうとはしなかった。
「もう一年になるのね、君がプロモーターになり、延珠ちゃんと出会ってから」
「『まだ』一年目だ。俺もアンタもまだ目標の半ばに過ぎない」
「里見くん、本当に変わったわ。よく笑うようになったし、料理もするようになった。昔の里見くんからは、ちょっと考えられない」
「そんなことねぇよ」
「ねぇ里見くん、君のいまの目的ってなんなの?」
「えっ?」
「延珠ちゃんの両親を捜してあげること? 里見くん、君のお父さんとお母さんのことはもういいの? 子供の頃よく言ってたわよね。『お父さんとお母さんは必ず生きてるから探し出すんだ』って。だも最近聞かない、いまでも本当にそう思ってるの?」
「かんけーねーだろ――」
蓮太郎と木更の話。その話は深く関わった者でしか分からない闇が潜む、その話を帰ったフリをして扉越しでゼツは聞いていた。『誰もが胸の内には闇が潜んでいるものだ……』。そう内心で思いながら本当に社を後にした。
◆
蓮太郎に野暮用といって出ていったゼツではあるが、目的など一切なかった。ただ、1人でいたい、そう思う感情が沸々とゼツの胸奥から湧き上がってくるのだ。人混みから離れ、細道を歩き続け気付いたときには周囲には人っ子一人いない場所に出た。そこで、ゼツは睨むように視線を斜め上に向ける。
「隠れてないで出てきたら?」
「おや、バレていたのかね」
建造物の上に2人の影が現れる。
燕尾服の格好にシルクハット、笑顔模様が描かれた仮面を着けた男性。青に近い短めの髪、腰には二振りの剣、そして"呪われた子供たち"特有の赤目の少女。
その2人組みを見てゼツは何処かの民警なのかと思う。だが、男から感じられる雰囲気、そして仮面越しで見られるその瞳には狂喜を感じたゼツは、その2人組みを普通の民警ではないと判断した。
「始めまして、私は
「
「蛭子っか」
自己紹介してきた蛭子親子。そこで、ゼツは名乗った苗字、『蛭子』に反応した。最初にイメージしたのは日本神話の『イザナギとイザナミの最初に生まれる骨のない不具の子《蛭子神》』である。《蛭子神》は後にいらぬ子として島流された不幸の子である。少なくとも苗字に付ける名ではない。
「それで、その蛭子さんが俺になんの用事だ?」
「私が君を見た瞬間、猛烈に仲間に加えたいと思ったのだよ」
「……序列六桁台でイニシエーターもいない俺をか?」
仲間に加えるなら最低でも三桁台の人物を誘うべきだ。では、何故この影胤は自身を誘うのか分からず呆れた表情を見詰る。すると、仮面越しから狂気を孕ませた瞳がゼツを捕らえた。
「君のその瞳、人間に憎悪を宿しているね?」
「ッ!?」
そこでゼツは初めて目に見えて動揺した。
見開く瞳、それを見た影胤は不適に笑いを零す。
「ふふっ動揺したね。さて、君は"呪われた子供たち"をどう思う? この東京エリアの在り方もどうかね?」
「……何故、そのような事を子供である俺に聞くんだ?」
「なに、単純に疑問に思っただけさ」
ゼツの脳裏に浮かぶのは権力者達の闇。出世の為なら非人道的なことは幾等でも繰り返す。そして、一般市民も己の行き場のない怒りを罪無き"呪われた子供たち"に発散する姿、それを正常と呼ぶには余りにも歪んでいる。
確かに大戦に生残った"奪われた世代"とってはガストレア全ては憎むべき存在、そのウィスルを持つ"無垢の世代"たちは排除すえべき。言い分も判る。だが、それを承認するつもりはゼツにはなかった。
「そうだな……人間は醜いと思うよ」
「ほう、やはり私が思っていた通りだ。君も私と同じ側の人間だ」
狂喜の笑いを零す影胤。すると、持っていたアタッシュケースをゼツに前に投げる。その中には札束が敷き詰められており、ゼツはその大金を見て視線を戻した。
「これは?」
「仲間になるならばこの大金をゼツくん、君にあげよう。君は愚かな人間達に虐待を受けている子供たちを何度も助けて、保護しているようじゃないか。その子供たちの為にはお金が必要ではないかね?」
「そこまで調べていたか」
ゼツは蓮太郎たちの民警会社に雇われてから秘密裏に、都心にいる子供たちを保護して外周区のある場所に行くよう説得して戻している。
ある場所とはルリたちが居る住処である。ルリに渡しているスマホ内には簡単には消費しきれない程に備蓄を溜めている。だが、それは無限ではないので密かに食料を都心で買い、それをスマホ内経由で送っているのだ。
どうやらスマホの事は知られていないと判断したゼツは、自身の手の内を曝さないように話を続けた。
「でっ、この東京エリアで何をする気だ?」
「大絶滅」
『大絶滅』。
その単語にゼツは内心、大きく驚いていた。簡単に言えばモノリス崩壊、或はゾディアック襲撃によってエリアがガストレアで消滅する現象を指す。
「この東京で起こす気か?」
「いかにも」
「狂ってるな」
「私が正常だと思うかね?」
「……確かに」
狂気に溢れる影胤、それを訝しい視線をゼツは向ける。
そして影胤は建物から降りてゼツに近付き、右手を差し出す。その差し出された手にゼツは視線で物言う『コレはなんだ?』と。
「来たまえゼツくん。大絶滅の後、生き残れるのは子供や我々力あるものだけだ」
「…………」
差し出された手をゼツは見詰ながら静かに自身の手を上げる。
その姿を見た影胤は狂喜に満ちた笑みを浮かべた。
ゼツくんが普段ガストレアで使っているのは弓矢です。目立たず、それでいて最低限の動きで最大限の効果を発揮するために一撃必中の戦い方です。勿論、ヤバイ場合は躊躇なくデジモンたちの力を使いますが。
現在、天童民間警備会社を支えているの実質、ゼツくんです。
で、とうとう来ました蛭子親子。
仲間にならないかとスカウトしてくる影胤にゼツはどうするか……。
次回もお楽しみにしてください。