第六話 関東魔法協会との対談3
その場にいた全ての者が唖然としてしまった。
自身たちが信頼するタカミチが行った突然の蛮行に。
だがそれは次の瞬間にタカミチがした行為の正しさが証明された。
真心のいた場所の地面から鋭い爪が伸びていたのだ。
「「「なっ?」」」
ほかの教師たちを含め学園長ですら気づかなかった攻撃にただひとり反応し、真心を守るために動いたのだ。
ぼこぼこと地面が膨れ上がるとそこから一匹の妖怪が現れたのだ。
先ほど刹那たちが相手をしていた妖怪。先ほどの戦いで逃げ出し、隠れていたのだろう。名もない低級の妖怪だが、その爪は人を切り裂くには十分すぎるほどの鋭利さを秘めている。
「シャアアア」
威嚇と同時にその蜘蛛の妖怪は逃げ出そうとする。だが、彼がそれを許すはずがない。
「クビキリサイクル」
その一撃はどう見えたのだろうか。
周りから見えたの簡単に言えば、技ですらなく、手にしたもので首を切り落とした。
ただそれだけ。それだけのことにあれほど技術を行使したのだ。
タカミチから吹き飛ばされた彼は闇口のスキルを使い気配を完全に殺し、妖怪の死角に回っていた。この時この場の者たちは気づかなかったが、音使いのスキルとジグザグの技術により特殊な音と視認不可能な糸を用い、肉体と精神の拘束をしたのだ。そして接近したのちに、暗器術を利用した技術で一瞬の間にとある鋏を握っていた。
『
それで妖怪の首を切り落としたのだ。
ごろりと転がる死体とその首。すぐに還っていったが、それでも恐怖は残る。
あんな方法で殺されるなんてそんなことは嫌だ。
誰かが思ったその感情は爆発的にこの場に広がる。
しかし、
「落ち着けい!!」
その一言ともにパニックに陥りかけていた彼らは落ち着きを取り戻し始めた。
それをしり目に、
「いや、高畑さん。ありがとうございます。避けるのは不可能ではありませんでしたが、貴方のおかげで妖怪に気取られなくすますことができました。」
彼は笑いながらそういう。
自身の落ちいた危機を危機と認識せずに、それすら利用した彼は。
本来彼は今の妖怪の攻撃を高畑よりも早くに認識できていた。
しかし、真心はこの交渉を更に自身に得になるように誘導したのだ。
いまの一撃で彼の技量の高さはここにいるすべての人間が理解した。
また、防御もどうやったのか。自身の体が吹き飛ぶような一撃を喰らいながらもすぐに行動できるタフネスさを持つなら戦場にでても大丈夫だと思わせる。
「ああそうそう、学園長。ちょっとした用とは簡単なことですよ。なに、社会経験を積もうと思いましてね。この地で請負人をしようかと思うのですよ。それであなた方に雇ってもらいたかったのですがね。俺様の実力ははかれたと思いますが。」
その言葉により、学園長は取れる手段がほとんどなくなってしまう。
先ほど自身が発した防衛に関する改善策をとるという約束が。
これほどの実力を持つ彼を雇ったのなら、戦力の補給になり、約束は守られる。
しかし、彼を雇わないのなら早急に策を練る必要が生まれる。
「ほっ、それが本当ならこちらとしても助かるの。麻帆良の防衛という契約をしたいのじゃが大丈夫かの?」
だからこそ近衛門は彼を雇った。
だが、それだけではない。これほどのことを行える存在を身近に置くことにより、監視をしやすくするのだ。
危険性も高いがこちらのお膝下で何かされるよりははるかに危険はない。
そう近衛門は判断し、彼を雇ったのだ。
そのことを念話で伝えられたタカミチは先ほどの件を見て、彼に対して危機感を持つ用になった者たちを今説得している。
「では、その仕事を請け負いましょう」
彼はそういい、この会合は解散を迎えた。
麻帆良学園学長室
時計の針が二時をさし、ようやく話がまとまったようだ。
「では、この契約内容でよろしいでしょうか?」
真心と近衛門、それにタカミチが学園長室において契約内容について確認している。
「うむ。これなら問題ない。請負人である君をこの条件で雇おう」
学園長と真心のした契約とはお互いの不干渉とした部分の確認と報酬についてだ。
要約すると次のようになる。
一項
請負人は学園長の要請により、防衛戦時に協力する義務が生じる。
ただし、何らかの事情により、義務が果たせない場合は除く。
二項
請負人は学園に対し危害を加えることはできない。
ただし、正当防衛および、けんかの仲裁などは特例として認める。
三項
請負人は昼間において学園の整備を行うこと。それにより本来の仕事をごまかす義務が生じる。
四項
学園長は請負人に対して毎月経費を除き、五十万円を支払うこと。
ただし、請負人がそれに見合った仕事をしていないと判断した場合には減額することも可能。
五項
この契約は雇い主である学園長の意志により破棄することが可能である。
六項
この契約を請負人が破棄する場合、前もって一月前には雇い主に報告しなければならない。
他にもこまごまとした契約はあるが主な契約はこの程度だろう。
これらを軸に真心と近衛門は契約を交わした。
「では、明日から仕事をしてもらうかの」
近衛門が明日からといったのには理由がある。これから彼には最低限の知識を与え覚えてもらわねばならない。だれがどの地区を守るか。秘匿回線の暗号のキー。捕縛した捕虜の対処。発生した怪異に対する処置などだ。本来一週間ほどかける内容を一日で覚えるなど無茶だが。
「ああ、それらのことについては僕が教師となることになったよ」
優秀な人材による教育と彼自身の能力ならそれくらいで覚えきれると近衛門は踏んだのだ。
実際にこれくらいの内容なら彼だけではなく七愚人、それ以外にもER3システムの人間になら簡単に覚えきれてしまう内容だったのだから。
「では、お願いしよう。タカミチ頼む」
「いやはや、まさか七愚人に教えることになるなんてね。人生分からない物だよ」
そう言い、たばこの煙をくゆらせていく。
何かを思い出すように
「七愚人であるかなどは関係ないさ。余計なプライドは持たないということがあそこのルールの一つだからね」
「へぇ、そんなルールがあるのかい?」
「ああ」
男二人はもうすでに話が盛り上がり仲良くなっているようだ。
「ああ、そうじゃ。真心君。今日の朝一に刹那君に会いに行きなさい。女子寮に入るための書類を渡しておくからの」
その言葉に真心はうなずき、関東魔法協会の長い一日は閉じた。
ちなみに、学園長が妖怪のことに気付けなかったのは主に二つの理由があります。
一つ目は、妖怪の力自体が弱く、妖怪の能力が隠密に特化していたためです。
二つ目は、真心との会談に自身が思ったより深く集中していたためです。
これらの要因が重なり、気づくことができませんでした。