この作品はグロテスクな描写が多々含まれる、ホラー寄りの作品です。
したがって、苦手な方、心臓の弱い方、夜中にトイレに行けなくなっちゃう方などは、十分注意して読むか引き返すかを選択し、自分の判断でお願いします。
といっても作者に夜中にトイレに行けなくなるほどのホラーを書く才能はないのでご安心を。
それではどうぞ。
廊下や校庭で悲鳴が轟く中、逆に静まり返ってしまった教室。
その内の2ーAと記された室内で、未だ席に着き黙祷する生徒が1人。
さらっとした黒髪と、左目につけられた眼帯が特徴的な生徒、斬島雅であった。
あれだけの騒ぎにも関わらず、自らの妄想に浸っている。
当然だ、雅はこの程度の騒ぎで集中を切らすような男ではない。
雅を目覚めさせたいのなら本人が自らの妄想に終止符を打つか、或いは第三者の手によって雅の命が危険に晒されるかの2択しかない。
故に、現状室内に雅しかいない状態では本人自ら目覚める他ないだろう。
いつになるかは本人にも分からない。
もしかすると丸一日このままの可能性だって十分にあり得た。
ただ今回ばかりは杞憂だったようで、雅はゆっくりと右目の瞼を開く。
「ふぅー、いやぁ流石に純金塗装の巨大ロボ太君を切るのは骨がおれたな。刀もだいぶ駄目にしちまったし」
どうやら本日の妄想は巨大ロボットである通称ロボ太君(純金塗装)との死闘だったようだ。
「・・・ん? なんでだれもいねぇんだ? 今日って移動教室あったっけ?」
そしてようやく教室内に自分しかいないことを確認し、呑気にも1人呟く雅。
しかし耳をすませば何処からか悲鳴が聴こえてくるのに気付き、雅は窓を開け見下ろす。
視線の先には複数の男子生徒が、今尚悲鳴をあげる1人の女子生徒を押し倒し、何かをしていた。
「おいおい・・・、血染めの公開凌辱プレイとかいくら俺でも流石に引くわ・・・」
果たして、人が人を文字通り喰い散らかす様を目撃し、このような言葉を口にするものが雅の他に要るだろうか。
否。例えいたとしてもそれは雅同様普通ではないのだろう。
だがそれは第三者の視点であり、雅本人はいたって普通だという。
もちろん雅は普通だ。
それこそどこにでもいる普通の学生だ。
ただし、ちょっとばかり他人より剣術に優れているというだけ。
雅からしてみればプロと呼ばれる者たちと大差はないのだ。
幼少期から自らの才能を見出し、それを磨けば誰でも同じ域に達する可能性を秘めている。
ただそれだけのこと。
そこから先は自ら定めた高みの差でしかないのだ。
故に雅は普通だ。
なにもおかしくはない。
「さて、とりあえず得物がいるな。一度帰るか」
現状を認識し、瞬時に異常であると判断した雅は、何の躊躇もなく、二階の自分の教室の窓から飛び降りた。
別に血迷ったわけでも現実逃避でもない。
単に階段を下りて昇降口から出るのが面倒だっただけだ。
雅は一階の窓の淵をうまく使い落下速度を殺し地に降り立つ。
同時に雅は何かに気付いた。
(へぇ、こいつら音に反応しやがったな)
僅かな着地音に先ほどまで女子生徒を喰っていた男子生徒たちがピクリと反応をみせる。
そしてふらふらと立ち上がり、雅の方へと呻き声をあげながら進む。
それを目視した雅は多少驚きの表情を見せる。
別に男子生徒に対して驚いたわけではない。
一緒になって先ほどまで喰われていたはずの女子生徒までもが向かってきていることに驚いたのだ。
女子生徒は明らかに致命傷を負っている。
内臓は半分ほど飛び出し、本来なら魅力的だった筈の胸も食い千切られている。
あれで生きているはずがない、なのに動いている。
(まるでホラーだな。とりあえずいろいろ試してみるか)
思考するなり、自らの気配を殺し、音をたてずにその場から数メートルほど移動する。
するとどうだろうか? 動く死人どもは先ほどまで雅が立っていた位置でお互いにぶつかり合った。
ただしぶつかり合うだけで、お互いを喰うことはなかった。
(ふむ。視覚はなしっと。それから痛覚もなし。まぁ当然だな。痛覚がありゃ、そもそも平然と歩けるはずがないし。となると、あとは何を以て喰うという行為にに至るかだが、まぁ今はいいだろ。どのみちこんな奴らに俺は喰われたりしない)
大方の情報を得た雅は校門を目指す。
恐ろしい光景だ。
周りで生きているものは必死に逃げまどい、捕まり、そして喰われている。
それに対して雅は悠々と静かに歩みを進める。
だれも雅の存在に気付くことなく。
そして雅は校門を飛び越える。
今度は着地音すらたてることはなかった。
不意に雅の身体が震える。
ただしこれは恐怖から来るものではない。
無事、校門を出たことによる安堵感でもない。
武者震いだった。
(・・・まだだ・・・まだ我慢しろ! おれが求めているのは撲殺なんかじゃない。おれが求めるのは今も昔も斬殺・・・これだけだ!)
「く、くはは、あはははは――」
自ら震える身体を抑え付け狂喜にも似た笑い声をあげ、雅は帰路についた。
雅の自宅は学園から徒歩で10分ほどの所にある。
走ればもっと早いだろうが、生憎とすでに町中に〈奴ら〉が蔓延っているためにそれはしなかった。
無論それでもいつもと変わらない時間で自宅へと到着した雅はすぐに探し物を手に取る。
「まさかこんな日が来るとはなぁ。よろしく頼むぜ、優雅」
〈優雅〉と掘られた日本刀を手にしばし笑みを浮かべる。
他人からしてみれば恐怖で発狂しそうな現状を、まるで玩具でももらった子供のような表情で必要なものをまとめる。
「服は・・・どうせ汚れるしこのままでいいか。あとは・・・よし!」
最後にお手製の靴下を履き準備完了。
まるでサンダルと靴下を同化させたようなその靴下。
よっぽどお気に入りなのか、予備もいくつか鞄に入れる。
「さてと、それじゃ戻りますか。というかあいつは生きてるのか? というか生きててくれねぇと困るんだけどな。まぁ大丈夫だろ。この程度で真っ先に死ぬような馬鹿じゃないし」
未だ学園で生き残っているだろうある人を思いながら雅は再び学園へ戻っていった。
次回は別視点からのスタートになります。
さて、ヒロインをどうしようか。
しばらくは誰になってもいいような内容で進めていきますが、ほんとにどうしようかw