第4十刃が異世界へ渡るそうですよ? 【ブラック・ブレット編】   作:安全第一

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どうもです、安全第一と申します。
前作の『第4十刃が異世界に来るそうですよ?』の続きとなっております。

注意事項としては、
・ウルキオラ最強
・少々のオリジナル要素
・戦闘シーンはあるが、メインは戦闘シーンではない

これぐらいですね。
以上の注意事項にて「大丈夫じゃない、問題だ」という読者様は諦めて下さい。

ではどうぞ


1.異世界へ

 ───“サウザンドアイズ”二一○五三八○外門支店。

 

 其処へ、一人の白き剣士が佇んでいた。

 

 彼の着ているコート状の装束は純白で、それに見合う白い肌。その腰には卍の字を模した鍔が付いた刀が腰に挿してあり、その出で立ちは近寄り難い雰囲気を醸し出ししている。

 そして非常に整った顔立ちに、左頭部には角の生えた割れた兜を被っており、彼の両目は翠色でその下には垂直に伸びた翠色の線状の模様がある。まるでそれは涙の様でもあった。

 

 彼の名は、ウルキオラ・シファー。

 

 彼が生きていた世界では、【第4十刃(クアトロ・エスパーダ)】の座に着き、『虚無』という死の形を与えられていた破面(アランカル)である。

 

 そう、彼に与えられた死の形は『虚無』。

 

 故に、彼には『心』というものが(わか)らなかった。

 

 しかし彼はその世界にて、己の圧倒的な力の差を見せ付けても尚、強く有り続け決して折れなかった死神代行との決戦の末にて敗れ、消滅の間際に『心』を悟り、去って行った。

 

 そして彼は異世界にて蘇った。

 その死神代行の力を手にして。

 

 その異世界にて蘇った彼は三人の人間と出会い、彼等と共に箱庭の貴族と呼ばれる兎の少女が壊滅しながらも守り続けて来た組織の傘下に入る。召喚された彼等三人を介して、その組織がどの様に変わって行くのかを見届ける為に。

 

 何よりも、己が悟った『心』を完全に理解する為に。

 

 

 

 彼がこの異世界へ蘇って早百年の月日が過ぎた。彼はあのコミュニティから既に脱退しており、現在は『心』を理解する為の流浪の旅に出ていた。

 彼が嘗て『ノーネーム』と呼ばれ蔑まされていたコミュニティから脱退したのは、そのコミュニティが名と旗印を取り戻し、復興してから三年が経った時だった。

 

『此処を抜ける。

貴様等には世話になった。

礼を言う』

 

 そう書かれた書き置きが彼の使っていた部屋で見つかったのだ。当然、兎の少女は血相を変え仲間達に知らせた。だが、問題児と言われていた三人はウルキオラの心境を理解しており、兎の少女を宥めた。兎の少女は中々納得しなかったが、最後には渋々と納得した。それでも彼女一人でウルキオラを探し回ったり、階層支配者に復帰した白夜叉などに捜索を依頼していたのだが、案の定彼が見つかる事は無かった。

 

 ウルキオラがコミュニティを脱退してから凡そ百年の間は、『心』の理解の為の旅と自らの力の研鑽を積んでいた。

 その道中では様々な者の『心』に触れたり、箱庭最大の天災である魔王との戦いに明け暮れていた。最もその力は『帰刃』無しで三桁の魔王を打倒出来る程に研鑽を積んでいる為に、敵う相手などそうはいない。それに加え魔王との戦いに常勝だったウルキオラはその魔王の魂を喰らい時には隷属させる等、その成長は現在も止まる所を見せない。

 

 その最強の一角に君臨するウルキオラは今、ある人物に会う為に“サウザンドアイズ”の支店の一つに顔を出していた。

 支店の前には以前、箱庭の貴族である黒ウサギを出禁にしようとしたある意味大物の女性店員が居たが、相手は箱庭の天災すら恐れる破面。それにある人物から事情を聞いていた為、すんなりと中へ通した。

 

「どうぞウルキオラ様。オーナーが中でお待ちです」

「……ああ」

 

 女性店員がそう言い、ウルキオラはそのまま店内へと入っていく。しかしある人物が待っている部屋は、私室の方である。

 店内は中々広いものであったが、以前にも来店した事があるウルキオラは迷わずに私室の前へと辿り着くことが出来た。

 

「入るぞ」

 

 一言だけ入れ襖を開けるウルキオラ。その私室の中にはある人物が上座に座って待っていた。

 

「おお、待っておったぞ。ほれ座れ座れ」

 

 それは嘗て“白き夜の魔王”と呼ばれた強者。“人類最終試練(ラスト・エンブリオ)”の一つ“天動説”を司る太陽神。太陽の主権を十四個も保持し、この箱庭の世界に置ける最強種である星霊の最強個体にして箱庭席次第十番。

 

 白夜王。又の名を白夜叉と言う。

 

 だがその見た目は幼女であり、女性にセクハラ(主に黒ウサギ)を行う駄神でもある何とも残念な人物だ。とは言っても公私を弁えている故にマシな分類だろう。

 

 ウルキオラと同じく最強の一角に君臨する白夜叉であるが、凡そ百年前に仏門へ神格を返上しており、東区画の階層支配者の座を降りていた。その後は天界へと移ったのだが、現在は天界からの許しが出たのかちょくちょく下層に来ては主にウルキオラが所属していたコミュニティを中心に四桁以下のコミュニティに手を貸していた。

 因みに神格を返上した白夜叉の姿は本来は幼女では無く女性の姿なのだが、姿を自在に変えられるので現在は幼女の姿をしている。

 

 その見た目幼女姿の白夜叉だが、コミュニティを抜けた以降のウルキオラも彼女の世話になっていた。当然ながら借りばかりでは無く貸しも有る為に今の所は貸し借りは無い。

 

 話を戻し、ウルキオラは白夜叉の言われた通りに座布団の上に胡座をかいて座る。そして白夜叉はウルキオラに尋ねる。

 

「どうだったかの? 凡そ百年間の心の探求は」

「……悪くない」

「重畳だの」

 

 ウルキオラの返答に白夜叉は満足気に笑う。百年間の付き合いだからこそ分かるものがあるのだろう。ウルキオラの事情は有る程度把握している彼女にとってウルキオラの収穫は上等だと思った。だがウルキオラは違った。

 

「……だが、まだだ。まだ『心』の理解には至っていない」

「……成る程、百年の時を経た今でもおんしはまだ『本質(こたえ)』を掴んでいないようだの」

 

 それを証拠にウルキオラは納得の行かない表情をしていた。表情としては無表情そのものだが、長い付き合いの白夜叉には分かっていた。それを分かっていてウルキオラに再び問う。

 

「おんしはまだ心の探求を続けると言う事だな?」

「……ああ」

 

 その白夜叉の問いにウルキオラは首肯する。ウルキオラは『心の探求者』としてその歩みを決して止めないだろう。『本質(こたえ)』を得るその日まで。

 

「だが、これ以上この箱庭で心の理解は無理なのではないか?」

「……ああ。もうこの世界で心の探求を続けるのは不可能だ」

 

 しかし、白夜叉の言う通りこの箱庭の世界においてこれ以上心の探求をする事は不可能だった。百年間もの時を費やしたウルキオラにとって既にこの世界の『材料(ストーリー)』を見つけ出す事が困難となったからだ。

 

 『心』を理解する為の『材料(ストーリー)』が。

 

「ならばどうするつもりだ?」

「問題ない。方法と手段は既に得ている」

「……それは如何(いか)に?」

「異世界だ」

「!」

 

 ウルキオラのその言葉に白夜叉は目を開く。

 異世界への移動。嘗てこの世界に呼び寄せられたのならばその逆も然り。その方法はギフトによるものが主だが異世界移動のギフトの類は希少であり、そう存在しない。

 しかしウルキオラは既に方法と手段を得ていると言った。それは異世界移動のギフトを所持していると言う事だ。

 

「まさかそれに関する魔王を……?」

「違う」

「? ならば何のギフトだ?」

「……箱庭席次第十番の貴様ならば十分理解出来る代物だ」

「……?」

「『崩玉』だ」

「何だと!?」

 

 ウルキオラから発せられたその単語に白夜叉は驚愕する。嘗てウルキオラの居た以前の世界に置いて『死神と虚の領域の境を取り除く』物質と呼ばれ、藍染惣右介と融合していた物。しかしその能力は『崩玉の周囲にいる者の心を崩玉の意思によって具現化する力』であり、それは箱庭の世界すら変革せざるを得ない程の代物であるからだ。それ以前にその存在自体が只の眉唾物と言われていた為に、信憑性も無いが。

 

「証拠ならば見せてやる。これだ」

「……!」

 

 しかし間髪入れずウルキオラが死覇装の胸元を開ける。その胸の中央にはしっかりとビー玉程度の大きさの『崩玉』が埋め込まれていた。そして『崩玉』から伝わる凄まじい『何か』に白夜叉はそれが本物だと悟る。

 

「……おんしは何時それを手に入れた?」

「俺があのコミュニティを抜けて五十年が経った頃だ。この崩玉曰く、心を探求していた俺に興味を持ったらしい」

「つまりおんしはその崩玉と融合し半世紀を過ごした訳だな?」

「ああ」

「……おんしは何処まで規格外になれば気が済むのだ……」

 

 因みにこの崩玉曰く、自身は開発されて『造られた』物では無く、森羅万象によって『創られた』天然物の様で、それ故に完全覚醒には凡そ三十年を有するらしい。半世紀を過ごしたと言うことは、裏を返せばウルキオラは既に崩玉を完全覚醒させている事になる。加えて現在では崩玉の力を使い熟せる領域にまで至っているとの事。

 

「まあいい。それで此処には大した用も無いのだろう?」

「ああ、貴様に挨拶を済ませた後は直ぐに異世界へ発つ」

「それは良いのだが……おんしが世話になったあのコミュニティに挨拶せんでも良いのか?」

「構わん。挨拶ならばコミュニティを抜ける際に既に済ませている」

「……おんしがそう言うのなら私から言うことは何も無いの」

「……そうか」

 

 白夜叉がそう言うとウルキオラは早々に立ち上がり、その私室から退出しようとする。すると白夜叉が不敵に笑い口を開いた。

 

「まあ、偶には帰って来るのだぞ。その時はお茶でもしようぞ」

「……その時が来ればな」

 

 ウルキオラはそれに静かに応えると、そのまま私室を出て行った。それを見届けた白夜叉はふぅ、と溜息を吐く。

 

「……全く、更に面白くなりおってからに。心の理解の為に異世界を渡るなんぞ思い付きもせんの。まあ彼奴がこれからどの様な道を選ぶのかは彼奴次第と言う事か……」

 

 ウルキオラの心の探求がどの様な形で終わるのか。もしかすると終わりなど無いのかも知れないが、彼の進む道は険しいものがある。その道の先に待っているのは『希望(理解)』か『絶望(理解不能)』か。

 

 それはその異世界に存在する『心』を理解する為の『材料(ストーリー)』とウルキオラの選択次第なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “サウザンドアイズ”の支店から出たウルキオラは『響転(ソニード)』でその場から姿を消し、瞬く間にある場所へと辿り着く。

 

 そこはウルキオラが脱退した嘗てのコミュニティ“ノーネーム”の領域内。

 百年前の死んだ場所とは違い、今ではすっかり賑わっているその場所。あの問題児三人が復興させたコミュニティの在るべき姿。

 

「はーい! みんな集まって下さい! 遠くに行っちゃダメですよー!」

 

 そして、ウルキオラから離れた場所で子ども達に囲まれ笑顔を振りまいている兎の少女。その天真爛漫な姿は今も昔も変わらずにいた。

 

「………」

 

 ウルキオラはそれだけを確認すると踵を返し、再び『響転』を使って姿を消した。その表情は何時もの無表情でも、少しだけ笑っていた様にも見えた。

 

「……ウルキオラさん?」

 

 兎の少女が不意にとある方角へ顔を向ける。そこには誰も居なかったが、彼女には嘗て恋い焦がれた彼が其処にいてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『響転』によって再び移動した場所はとある荒野。其処には誰も居ない不毛の土地。その場所でウルキオラは異世界へと移動する為に『崩玉』の力を使い異世界へ座標を合わせる。

 

 行き着く場所(異世界)はランダム。

 

「『解空(デスコレール)』」

 

 ウルキオラが空間に手を翳しそう呟くと、その空間が徐々に裂け次元の狭間を作り出す。

 元々は現世と虚圏(ウェコムンド)を繋ぐ為の技術であったが、それを『崩玉』の力を使い異世界移動の技術へと改良し発展させたのだ。

 

「………」

 

 ウルキオラが天を見上げる。そこに広がるは偽り無き晴々とした青空。そして全身を吹き抜ける優しい微風(そよかぜ)。眺めれば眺める程、清々しい気分になる。

 

 

 ───いつかはあの青空の様に心を得る時が来るのだろうか。

 

 

 ウルキオラはそう思い、次元の狭間に足を踏み入れる。そしてその入口は閉ざされて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───行ってらっしゃい」

 

 ───その少し離れた後方で兎の少女に見送られながら。




さて一話を終えたウルキオラですが、ここで一つ。

ウルキオラ×崩玉=もう無敵に近い状態

という事になっています(白目
そこら辺もご注意下さい。

次回はウルキオラがブラブレの世界へやって来ます。
お楽しみに。

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