投稿先を間違えるとかいうアホな事してしまいました。ホントにすみません。
こっぱずかしい。
では、気を取り直して。
連載していた作品が一つ完結となりました、読んでくださった方々、ありがとうございました。今後の回転率が若干上がってくるかと思います。
ところでゲームの新作はどうなんです? 私も早くしたいんですけどね…
「……ってわけだ。後は日本でそれらしく学生生活を送って、ゲームにはまって、ここにいる」
こち、こち、と宿屋の振り子時計の音がやけに大きく聞こえてくる。
そりゃあそうだ。今まで一緒に戦ってきた仲間が実は少年兵の前科持ちで、今までに人を殺してきている経験があるって言ってるんだから。怖くなって当然だ。それが普通だ。
日本って国は地球上でもかなり平和な部類の国で、先進国として世界を牽引してきた。勿論、まったく犯罪が起きないわけじゃないが、それでも大きな目で見れば明らかに裕福と言える。そこで生まれ育って、他国の現実をその目で見たことのない学生にとってはそれが当たり前。
デスゲームは確かに恐ろしい。
だが、現実よりは温いとも思ってる。
腕を斬られようが時間とアイテムさえあれば元通りに動かせる。胸を貫かれても違和感と痛みがあるだけで死にはしない。SAOは忠実に、正しくゲームだ。まぁ、バッドステータスとか仮想空間ならではの恐怖も勿論あるんだが……。
ここまで生きてきた高レベル帯プレイヤーは間違いなく一端の戦士だ。生きるために最善を尽くし、努力を重ね、泥水を啜り、出来ることは何でもやって来た。棒きれを振るう様なごっこ遊びだった初期の姿はもうどこにもない。ソードスキルに頼らずとも、各々が愛用の武器を熟知し、指使いから重心の運びまで研究を重ねてきていることだろう。
それでも、殺人だけは、違うんだ。平和な日本で殺人とは最も重い罪の一つで、犯してはならないタブーだ。たとえ何があろうとも、どんな状況であってもどんなにソイツが人の道を外れた外道であっても、その一線は越えてはならない。それが常識の筈。
「ま、なんとなく分かってたわ。ずっと前から。ねぇ? リーダーさん」
「いやいや、シノン程の付き合いはないからな? でも、なんか納得したよ、お前の強さが何処にあったのか。短剣スキルを上げてないのに装備してる理由も」
「うん、分かる。フィリアがやけに肝が座ってるとことか」
「あはは、私ってそんなイメージ?」
「だって虫モンスター見ても驚かないじゃない」
「まぁね。もっとヤバいのがウヨウヨいたから」
「ほらぁー」
だからこの反応はビックリだった。
アレルギーに近いんだ、犯罪ってのは。それだけで嫌悪してしまう。そうだろ?
「待て待て、話聞いてなかったのか? 今まで人を殺し続けてたんだぞ?」
「お前……マゾだったのか?
「キリト。俺は真面目に聞いてんだよ」
「俺だって真面目だ」
「だったら!」
「これからも殺し続けるのか? そうじゃないよな。少なくともお前は我慢してる様に見えた。苦しんでたんだろ? 罵倒されたくて切り出したわけじゃないだろ? ナイフ投げられたかったのか? 違うだろ。この話を切り出す事だって抵抗があった筈だ。なら、俺が言うことはやっぱそうなんだよ。受け入れるし、愚痴があったなら聞くし、ナイフなんて投げない」
さも当然のように、今日の夕飯について考えているように、さらりといつも通りにキリトが語る。そりゃあ確かにお前がいうとおりだけどさ、抵抗感の一つや二つはあるだろう?
「アイン君が、何か決心して話しだしたのは分かってたよ。ゲーム開始から一緒だから、それくらいは見て分かる。普段のキミはそんなふうに話したりしないでしょ? だからよっぽどのことなんだって思って聞いたの。キミが覚悟を持って話したのなら、私達は覚悟を持って聞くし受けとめる。多少の驚きはあったけどね」
……おかしいな、俺の知ってる日本人はこんなことを言うはずないんだが。少なくとも学校とか知り合い連中は絶対にあり得ん。
孤立や孤独を覚悟してた。これまでの生活ももう終わりかもなって思ってた。口汚く罵られることも覚悟の上だ。何せ、今まで騙し続けてきたから。だってよ、人殺しだぜ? その辺のチンピラみたいに喧嘩してきたとかチャチなもんじゃない。手に掛けたのは百人じゃあ足りないくらいだ。已む無くそうしてたんじゃない、自ら進んで殺しをしてたんだ。今だって躊躇いなんて無い。この間の温泉騒ぎのときだってそうだった。
俺はそんな奴なんだよ。
近くにずっと居たんだぞ。武器を持ってダンジョンウロウロしてたんだぜ? これからもそんな日々が続くかもしれないんだ、怖くないのか? 俺だったら怖い。
ほら。アスナ、お前の顔が引きつってんの見えてるぞ。お前の驚きは多少どころじゃ無かったんだろ? だったらなんで取り繕う? 無理をしてまでそうする理由はなんだ?
「だって仲間じゃない」
「……えぇ?」
あんまりにも予想外の回答に拍子ぬけた声が漏れる。
いや、疑ってるわけじゃないんだ。仲間だって言ってくれるのは嬉しいし、今まで生死を共にしてきた仲だ。それは分かる。ありがとう嬉しいぜ。
でもそれとこれとは流石に別じゃないか? 仲間だったら犯罪を許せるのか? 人殺しを仲間だからで受け入れられるのか? 俺が殺すかもしれないことを考えろよ、仲間だからで殺されるってのか?
「ユウ」
得意(?)の観察力で俺の思考を読みとるシノン。その表情は穏やかで、偶に心配症を発動する俺を見る時の目だ。
……そうかよ。
「はああああぁぁぁ……」
「んだよ、でっかい溜め息なんかついて」
「いーやー。俺の取り越し苦労だったみたいだ。腹くくって損したわ」
「だな」
ベッドに大の字になって寝転がる。周囲からはくすくすと苦笑が飛んできたが、それが今日は心地よかった。
……ホントにそれだけなんだな。
仲間、か。
信じて無かったわけじゃない。でも、リーダーは最初から俺を裏切っていた。アイツ、ずる賢いし、本能や欲望に忠実で手段も問わない様子だったし。俺らは生きて逃げることが出来たけど、仲間を信じたが為に二人は死んだ。それが正直怖かった。詩乃とだって最初は仲良くできなかったし、学校じゃあ詩乃意外とは友達ですらない。
ナイフ以外にも結構引きずってたみたいだ。
てかよく考えてみ、コイツらに出会った当初から騙すつもりで行動する高等テクできるわけあるかよ。絶対に一週間でボロが出るね。
マジ損した気分だわ。
でも。
「シノン」
「……そうね」
仲間っていいな。
※※※※※※※※※
色々とあったが圏内での殺人事件は一応解決した。ただ、世間的には未解決のままだし、手口を悪用されればアインクラッド内に混乱が巻き起こるだろう。死んだと見せかけた詐欺とかな。これについてはあとでどっかの巨大ギルドに教えてやれば上手くやるさ。
それよりも、アルゴからの依頼だ。
Pohを、笑う棺桶達を殺す。左腕を失った父親の仇を、他にも傷を負った人間達の恨みと共に。命がけで掴んだ情報と一緒に俺にくれた。共犯者になれ、と。
思えばウチは連中と少なからず因縁がある。二層で絡んできた男は幹部の一人だったらしいし、俺が向こうの構成員を一人殺しちまったからな。
縁ってのは恐ろしい。これから先で必ず全面対決をするハメになるだろう。そうなれば確実に負けるな、人数差で。
そう、これだよ。
言ってしまえば《エンブリオン》は少数精鋭タイプの小ギルドだ。身軽で実力もある。対する《笑う棺桶》はメンバーが五十を超える中規模ギルド。実力はピンキリと言えるが、連中はレッドギルド指定されている。いざという時の殺人に躊躇はないだろう。その差は下手すると人数差よりも大きい。
「ってわけで、俺達だけじゃアルゴの依頼は達成できん」
「ダメじゃん」
当然の帰結だな。フィリアの言うとおりだ。多分アイツも分かってたはずだ。それでも言わずには居られなかったか。
……ん、待てよ。条件については何の指定も無かった。あの鼠がその辺りをぼかすわけがない。なら、やり方は俺が決めても文句はないはずだ。
或いは、同じ結論に達すると読んで何も言わなかったか。
「だから、巻き込む」
「誰を」
「アインクラッドをさ」
「……成程な」
理解したキリトとアイコンタクト。確かにこれしかない、といった険しい表情だ。嫌われてるからな、俺達。こんなこと言っても信じてもらえるやら…。
「じゃあ相手はどうする? 聖竜連合も軍も、トップがトップだから取り入れては貰えないよ? 特に軍については平均レベルが低めだから太刀打ちできないと思う」
「だったら血盟騎士団ね。ヒースクリフ団長は実力も発言力もある。規模は中程度だけど、実力は折り紙付き。ボス攻略にも毎回一定数のプレイヤーを輩出してるし」
「うんうん。私も賛成! ギルドの雰囲気も良い所だし、多分マトモに聞いてくれるところはあそこしかないと思う」
「よし、決まりだな。キリト」
「ああ。アスナ、確かフレンドが居たよな? 悪いけど、話があるって事をメールで伝えてくれないか?」
「明日でいいよね?」
「頼む」
「オッケー」
返信は直ぐに来た。流石に明日は無理があるだろうな、と思っていたんだが、なんと速攻でアポが取れた。なので朝から血盟騎士団のギルド本部にお邪魔することに決まり、今日は解散。各々の部屋に帰って一休みした。
集まっていたのはキリトとアスナの部屋なので、自然と俺達は一つ隣のもう一部屋へ移動する。部屋に余裕があって本人が作業があるならフィリアが一人で部屋をとるのだが、今日は空きが無かったので三人で泊まることに。
ベッドは二つだが、俺はシノンと一緒なので問題ない。
はず、なんだが。
「なんで川の字になってるんだ?」
「フィリア。妹だからある程度は許してあげるけど同じベッドまで入っていいなんて言ってないわよ」
「えー? 良いじゃん偶には。私の方が先に家族なんだからね?」
「それはそれ」
「ケチ!」
俺は別にどっちでもいいんだよ。妻と妹だろ、問題ない、はず。変な間違いさえ起こさなければ。
今日に限ってフィリアがこう言うのは昔の話があったからだろうな。だったらいいじゃないか。そんなニュアンスを込めて名前を呼ぶ。
「シノン」
「……まぁ、そうね」
「やた!」
今夜は普段よりも賑やかだった。
※※※※※※※※※
三十八層の市街地には、大層大きな屋敷が存在する。転移門からはっきりと見えるそこが、血盟騎士団の本部だ。ゲーム序盤から頭角を現していた彼らは、コルはあるものの見合う物件に巡り合えず宿暮らしが続いていたが、ヒースクリフが転移したその瞬間に購入を決意し落札したというエピソードがある。石造りの三階建てで、見方によっては教会と言えなくもない外見をしており、白を基調とする彼らにピッタリだ。
周囲は柵で囲まれており、門には当然門番が居る。代表してキリトが話をつけて中に入った。
「わぁお」
そんな声が漏れるぐらいには豪勢だった。シャンデリアだったり絵画だったり、まるで貴族の屋敷にお邪魔した気分だ。贅の限りを尽くしたようで品を損なわない。じつにらしい内装だった。
カツカツとブーツの音がよく響く。そんな音を楽しんでいるとキリトがにじり寄って来た。
「俺、正直ヒースクリフは得意じゃないんだ。交渉もそんなに経験が無い」
「あー、苦手とか言ってたな。んで?」
「変な方向に流されそうになったら頼む」
「おっけ」
適材適所、だな。リーダーが依頼を受ける場面に立ちあったこともあるし、まぁ助け舟ぐらいは出せるだろう。あんまり期待されると困るが、それを言う前に場所に着いた。
案内されたのは一階の最奥にある応接室。彼…ヒースクリフは上座で腕を組んで俺達を待っていた。
「やあ。五十層攻略以来かな」
「ああ」
真っ赤な鎧に純白のマント。壁に掛けられているのはセットの盾と長剣。五十層攻略の頃から変わった様子はない。
ターニングポイントとも言える五十層は今までで一番手強いボスだった。強力過ぎるあまり隊列は乱れ離脱者が現れ、お陰さまで戦線は崩壊。死者も久しぶりに出た戦いだ。俺達も粘ったがあと一押しが足りずに撤退を決めかけた瞬間に現れたのが血盟騎士団。初期から強豪として名を馳せていた彼らが名実ともに最強の称号を得た戦いでもあったな。
キリトを中心として全員が腰掛ける。
「まずは急な訪問にも応じてくれた事に感謝する。ありがとう」
「いや、構わないよ。私も予定が急に空いてしまってね、暇を持て余すところだった。で?」
「ああ。笑う棺桶の事で、話があって来た」
「ほう?」
ヒースクリフ以下、同席した幹部達がざわめく。それもそうだ。その名前は口にするのも憚られる様な連中を指す。最低最悪最強最狂最凶のレッドギルドだ。オレンジという運営が定めた枠を超え、何時現れるとも分からない倫理が崩壊した連中はまさしく死神と言っても過言じゃない。
「話は変わるが、先日の圏内で起きた殺人事件は知っているか?」
「ああ。夕暮れに起きた事件だろう? 耳にしているよ。圏内でデュエル以外の他殺はありえない、と仮定した上で調べさせている。十中八九、トリックか何かだろうが」
「その事についてアルゴから情報を入手した。まずはこれを共有した上で話がしたい」
「彼女が言うならまず真実だろうね。聞かせてもらおうか。おっと、報酬は渡した方がいいかね?」
「結構」
翌朝。宿を出発する前にアルゴから一通のメールが届いた。事件の真相を掴んだと言う。
裏でPohが糸を引いていたのは間違いない。既に解散した《黄金林檎》というギルドの内輪揉めを利用したトリックの実験が恐らく連中の目的だろう、という結論だった。事実、黄金林檎の元メンバーの内一人は笑う棺桶と繋がっていたらしい。
「―――というのが、事件の真相だ」
「成程、防具の耐久値が尽きる瞬間に転移結晶を使うことで死亡したと見せかけた、か。プレイヤー死亡時とアイテム破損時のエフェクトがそっくりなことを利用したハッタリ。蓋を開ければ簡単なことだが、良くできたものだ。長く戦い続けたプレイヤーしか思いつけないな。例えば、プレイヤー死亡の瞬間に多く立会い、尚且つアイテムを多用する、そんなプレイヤー」
「団長! では……!」
「ああ。事件の裏では笑う棺桶が暗躍していた。そういうことだろう」
「そうだ。同時に、連中の仲間は圏内でも活動していることを表している。つまり――」
「この部屋の中の誰かが笑う棺桶のメンバーという可能性もあれば、壁一枚向こうに居てこの会話を聞かれているかもしれない、と。これは困った」
珍しくしかめっ面を浮かべて椅子にもたれかかるヒースクリフ。腕を組むのも止めて肘かけに腕を預けて楽な体勢で思案する。
連中のアジトについてはアルゴが抑えてある。が、それ以外で調べている人間は恐らくいないだろう。バレれば殺されること間違いなしだからな。たとえそれだけの実力があったとしても誰もやりたがらない。故に、奴らに対しては守りを固める、という後手しか打てないのが現状だった。
その上向こうは圏内に入りこみ、隙あらば情報を盗んでいる可能性まで上がって来たのだ。これは流石に拙い。大ギルドの内情まで筒抜けになっては攻略どころではなくなる。もしトッププレイヤーが集団リンチでもあって死亡してみろ、クリアは年単位で遠のいて行く。その上育成もままならないとなると、いよいよクリア不可能になり、最終的には殺されるのを待つだけの鶏小屋状態だ。
そんなの絶対御免だろ。
だからそうなる前に潰す。
「アジトはアルゴが抑えている、と言ったら、協力してくれるか?」
「……何?」
「笑う棺桶、潰そうぜ」
ざわ、と応接室がざわめく。そりゃそうだ。
それは行うべき正義だ。攻略を目指すのなら間違いなく実行すべきである。ギルド間の抗争とは次元が違う。クリアの為に実力を競うのではなく、妨害されるとなれば話は違ってくるからだ。そんなの誰だって分かってる。
それ自体がボス攻略のように難易度が高く、倍以上にリスキーであることが障害だから躊躇うんだろう。
相手はあらかじめ行動パターンが定められたAIではない。同じソードスキルを使い、武器を使い、アイテムを使い、自分達に地の利がある場所で戦える。俺達の特徴も抑えられているだろう。対策だって立てられているはずだ。
それに対してこっちは全く情報を持たない。知ってる事と言えばPohがでたらめに強くて、幹部も攻略組に匹敵する強さを持っていることぐらい。それでいて全員が殺人に長けた実力と技術を持っているもんだから、対人で命のやりとりをしたことのないプレイヤーが大半を占める俺達は圧倒的に不利。
何より相手もプレイヤーだ。生きた人間だ。殺せばこっちが殺人者になる。オレンジマーカー相手なのでカーソルが変わることはないが、手にかけたプレイヤーは一生忘れないだろうな。
様はぶっつけ本番にしてはリスクが高すぎて実行できないのだ。よしんば上手くいったとしても立て直しに時間が掛かることは分かりきっているし、攻略組から外れることもほぼ確定している。
結論として、ギルドの為を思えば放置が一番、というのが全ギルドの見解だった。その癖旨みが無い。
まぁ、やらんわな。俺もこんなことが無けりゃしなかったさ。
「放っておくのがやばい事くらい誰だって分かってるはずだ。だから誰かが動いて何とかしなくちゃいけない」
「それを私にやれと?」
「発言力と実力。それを全部持ってるのはヒースクリフ、あんたしかいない」
「謙遜はよしたまえ。君らがそれを言うのはどうかと思うが」
そう言われると、確かに胸が痛い。サービス開始当初からしばらく目立ちまくったからな、ビーター騒動に結婚実装にと。攻略組でもトップクラスの実力があり、ボス戦常連の小ギルド。それが俺達だ。
が、生憎とそうもいかないんだよな。あーんなことがあったし。
「いやぁ、俺達ビーターだから。聖竜連合のリンドとは仲が悪いんだ。だから、俺達が呼びかけたとしてもアイツは絶対に反対するし邪魔もしてくる。粒ぞろいでも規模が小さいから意見も揉み消されちまう」
「はっはっは。そうだったな。これは悪い事をした」
絶対コイツ分かって言ってるよ。たまにこういうところあるよな。
「それで私を頼りに来た、か。確かに、今の血盟騎士団が呼びかけたとなれば聖竜連合も手を貸すだろう。そこに君達エンブリオンが加勢する体をとれば彼らも文句は言えまい。まぁ、私が君の立場なら同じ様に動くだろう、妥当な案だ」
「どうだ?」
「報酬は幾らだね?」
「は?」
「うん? 報酬だよ。当然だろう、私達は君たちの代わりに声明を出す。当然我々が危険にさらされ、本来行う予定の無かった無駄が発生する。タダで受けるわけがない」
「た、確かに…」
おいおい、考えてなかったのかよ! いや、話を合わせなかった俺らが悪いけど!
焦りだしたキリトがアイテムストレージを開いてにらめっこを始める。はっきりと分かりやすくいくならコルとアイテムだが、それが妥当がどうかなんて分からない。何せ俺達はフリーランスのプレイヤー相手に依頼を出したりしてこなかった。取り分はクエスト報酬を分割して、あとは各々って具合だから団員相手に給料を払うなんて事もしたことない。
人を動かす際に発生する適正な報酬が分からない。これは思っていたより厄介な問題だぞ。
どうするキリト?
口に手を当てて悩む我らがリーダーはたっぷり一分ほど悩んで、俺にどうぞとジェスチャーでパスしてきやがりました、はい。
(任せた)
(何でやねん!?)
生まれて初めて関西弁しゃべったぞおい。
キリトのジェスチャーが他全員に伝わったのか、メンバーはおろか血盟騎士団まで俺を見てきた。当の本人はと言うと、ストレージとにらめっこしたまま。確かに何かあったら頼ってくれていいとはこっそり言ったけどな、ちょっと雑過ぎないか?
シノン、ファイトじゃねえよ。
「あーっと……」
ガリガリと頭を書きながら思考する。
出せる条件、か……。俺個人の資産からでも出せる額からして、これくらいか?
「報酬は百万コルと、血盟騎士団のリスク軽減だ」
「ふむ」
「アルゴ曰く、敵のアジトは洞窟らしい。そこに入るとなると大人数は難しいだろうな。笑う棺桶の構成員がおよそ五十と聞いているから、同じぐらいの人数が丁度いい。五十人の内血盟騎士団が三分の一を占めるとして大体十八人ぐらいか? 百万もあれば準備資金も問題ないしおつりも来るだろ」
「で、リスク面とは?」
「Pohと側近の二人……ザザとジョニーブラックは俺達が受け持つ。他にも幹部クラスは居るだろううがこの二人ほどじゃない。これだけでもかなりのリスクは減るぜ」
「ほう? 捕縛が目的と見ているが、縛るには完全に圧倒するだけの実力が要る、大丈夫かね?」
「問題ない。数回の交戦経験がある。俺たち以外に生き残った奴がいるなら話は別だが」
「いや、構わないよ。請け負う」
「団長!」
「彼らの実力は私も知るところだ、問題はない」
「そうではなく――」
「では聞くが、諸君らで反対する者は? おるまいよ。金も危険も大半は向こうが負ってくれるのだ。それでいて笑う棺桶が殲滅できる。いい機会だと、思うがね。それとも、我々の精鋭は笑う棺桶には劣るのか?」
「い、いえ……」
「であれば問題あるまい。キリト君、アイン君、我々からは十八人選出する。君達五人を合わせて二十三人。聖竜連合に話を持って行くが、恐らく向こうも十八人だけ派遣してくるはずだ。それを足して四十一人。残りの約十名は君達に任せる。そこまではしてもらおうか」
「分かった。エギルとクラインには後で伝えておく」
「期日は負って伝える。では」
こうして、密かに笑う棺桶殲滅作戦が動き出した。