双槍銃士   作:トマトしるこ

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明けましておめでとうございます。今年もry
一か月ほどご無沙汰でしたが、死んではいませんのでww

そういえば、後輩から読んでますって言われてピシィってなりました。もう下手なこと書けない……


phase 21 エンブリオン

「うおおっ!?」

「きゃっ!」

「シノン!」

 

 一気に足場が不安定になった。巨人が姿勢を崩した時とも、攻撃の為に動いた時とも、一時間の間に感じたどれとも違う。部屋も空気も揺れていない。不規則で小刻みなこの揺れは……この巨人?

 

 落ちそうになったシノンは短剣を巨人の身体に突き刺して何とか踏みとどまっていた。まだ震えている巨人の上を慎重に進みながら、俺も腰からナイフを抜いて巨人の身体に突き刺し、ロープを柄と身体に巻き付けて固定し、シノンに手を伸ばした。

 

「掴まれ!」

 

 手で掴む場所が何処にもないシノンは短剣に頼るしかない。折れる前に何とか引き上げたいが……よし、届いた。力任せに腕を引き上げて、シノンが短剣を引き抜くのを待ってから思い切り引っ張って抱きしめた。

 直ぐに自分のナイフも引き抜いてロープを解く。一度飛び下りたいが、生憎と巨人が暴れまわって周囲に柱が一本も残っていなかった。高すぎて落下ダメージと硬直が心配になるレベルで、《軽業》を習得しているシノンは兎も角、流石の俺でもこの高さは身体能力じゃどうしようもない。大人しく首周りにしがみつくしかなかった。

 

「何が起きてるんだ……?」

「ユウ、あれ!」

 

 懐のシノンが指を指した先はもう一つの巨人の頭。頭自体は何の変化も無い……が、見逃せないモノがそこにはあった。

 

「こっちの巨人の肩から、あっちの巨人の腕が生えてきているわ……」

「……分裂しているんだ」

 

 はっと気付いてボスのHPバーを見る。槍を振り回していて気付かなかったが、いつの間にか三段目に突入しレッドゾーンに入っていた。ということは、これが最後のパターン変化ということだな。このゲームじゃスライムでも分裂なんてしないぞ。

 肩から腕がずるりと引き抜かれると、今度は腰辺りが裂け始め、脚から脚が生まれて別れた。HPバーは今現在の量を均等に二等分されているため、全く別の個体になった事が窺える。つまり、どちらかを倒したところでボス戦は終わらないということ。

 

 恐らくだが、HPだけでなくほぼ全てのステータスが均等に振られているはずだ。身長や体格に変化はないが、その分中身の質量が軽くなっていると思われる。純粋に二体に増えたわけではないのが救いか。だが元が強すぎるだけに、分裂してもかなり手強そうだな。逆に二体に増えたことで面倒も増えている。

 

 さっきまではターゲットを一つのチームが集中して引き受けていたからこそ、全力の攻撃がずっと出来ていた。図体が大きい事もあって予備動作も派手だし、範囲は広いがその分早めに察知して距離をちゃんととれば怖くない。が、複数になるとそうもいかなくなるだろう。

 

 同時に二体を相手にするのは得策じゃない。どちらか一方を素早く倒して、残り一体を最初の様にじっくりと時間をかけて倒そう。多分一番被害が少なく済む(・・・・・・・・)。下の状況はここからでは見えないが、さっき見えた鮮やかな青の発光とウインドウのパーティ人数を見て直ぐに察した。

 

 もう二人も死んでいる。位置からして《軍》だ。引き付け役を請け負って近くにいた為に、衝撃に巻き込まれて攻撃を避けきれなかったんだ。

 

「先にコイツから倒しましょう。私がもう一体に飛び移って同時に攻撃するよりも、二人で手っ取り早く倒さないと……」

「そうだな。下の連中にもそう伝えよう」

 

 迷わずキリトとキバオウにコール。二人とも同時に出た。

 

 この《コール》は、お互いにフレンド登録をしていて尚且つ《チャネルリング》という非装備品を所持しているプレイヤー同士だけで使えるテレビ電話の様なものだ。同じ層に居なくても通じるし、圏外という概念は存在しない。出ないのは気付かない時か、出れない時か、出たくない時だけ。今の緊急事態に無視するアホは居ないだろ。

 

『なんや! こっちはそれどころや無い!』

『アイデアでも浮かんだか?』

「ああ。俺とシノンが分裂していない方の巨人………《親》の方に二人でしがみついている。先にこっちから倒そう。アタッカーをこっちに集めて、もう一体を離れた場所まで引きつけてくれ。人選は任せた」

『チッ……言い合う暇は無いな。《軍》全員で《子》を引きつける! 《親》は他の面子でさっさと潰してしまぃや!』

『OK。アスナ、フィリア! 聞いた通りだ、周りのプレイヤーやギルドにそう伝えてくれ!』

『こっちはそう長くは持たん! はよう片付けろ!』

『分かってる!』

 

 それっきりでコールは切れた。

 

 指示の声や人の移動はここからでは分からないが、《子》が向きを変えて《親》から離れていく様子を見るからに、とりあえず何とかなっているようだ。

 

「よし、行くぞ」

「ええ」

 

 直ぐに暴れ始めた《子》と違って、《親》は震えこそ無かったものの動くことは無かった。陣痛でも感じたのかね?

 何にせよ、俺達からすればチャンスでしかない。下はとっくに攻撃を始めた様だし、俺達も今のうちにダメージを稼いでおきたい。首から上が弱点だってことはさっきまでの攻撃で分かっている。俺達がダメージを多く与えればそれだけ早くコイツは倒れるし、死人も減るんだ。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

「はあああああああ!!」

 

 互いの武器が干渉しない程度に距離を開いて、ソードスキルを叩き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 《子》のアバターが光の粒子になって完全に消滅し、フロアの中央に《Congratulations!!》と大きな文字が浮かび上がりファンファーレが鳴る。目の前には獲得したアイテムとコル、下段には《LAボーナス》が。普段であればキリトと皮肉でも言いあいながら褒め合うところだが、今回はそうもいかない。

 

 誰一人として、手放しで勝利を喜んでいる者は居ない。みんな嬉しいんだ。でも……今日はあまりにも多くの人が死んだ。死に過ぎた。今までのボス攻略とは比べようもないほどに。

 十九層からこれまで、ボス戦で死亡者は一人も出てこなかった。巨大なギルドの元に集まり、的確な指示と選りすぐりのプレイヤー達だったこともあって、危険域まで削られたプレイヤーすら存在しなかったはず。

 

 それが今回の戦闘で、何度も危機を乗り越えてきた攻略組が……たったの一時間で十八人もログアウト(死亡)していった。

 《アインクラッド解放軍》、十三人。

 《聖竜連合》、三人。

 少数ギルドとソロプレイヤー含め、二人。

 

 どれだけギルドの規模が大きかろうが、死亡者が出ることによる損失や士気の低下は計り知れない。少数ギルドならば過酷な現実に直面するだろう。が、今回の≪軍≫が負ったダメージはあまりにも大きすぎた。何せ万全を期して集められたギルド内トップクラスのプレイヤーが一気に消えてしまったのだ。今後しばらくは行動を控えることになるだろう。また育成から始まりそうだな……。キバオウとコペルが幸いにして生還しているから、解体することはないだろうが……どうなることやら。

 

 そんな話を、余所から話を聞きに行っていたアスナから聞いた。

 

「かなりの痛手を負ったわ……」

「まったくだな」

「起きた時から嫌な感じはしていたのよね。こんなことになるなんて…」

「アスナもか」

 

 ったく、嫌な予感ばかり当たりやがる。畜生め。

 

 その場に座り込んで、目の前で大の字になって寝転がるキリトを軽く小突く。ジト目で睨んでくるが無視だ。返事代わりに返ってきたのは心配の言葉だった。

 

「よう、大丈夫か?」

「……何とかな。何度振り落とされそうになったことか」

「おかげで生き延びることができたんだ、そう言うなよ」

「もうちょっとうまくやれればなぁ」

「十分やってくれたさ」

「……そうだな」

 

 これだけの被害で済んだことを、喜ぼう。

 

「お疲れ様」

「フィリア」

「はい、これ」

「ありがとう」

「シノンもね」

「ええ」

 

 ぼーっと天井を眺めているところにドリンクの影が差した。礼を言ってから手を伸ばしてありがたく頂く。……美味い、飲みなれたステータス強化系がHPをぐいっと回復させて、ついでに疲労もとってくれた。そんな状態異常があるわけじゃないが、なんとなく疲れが抜けていくのが病みつきになりそうで好きなんだよな。

 

「ユウ、これからどうなるのかしら?」

「さあな。少なくとも≪軍≫の連中はしばらく戦線離脱するだろうさ。それに引きずられるように攻略も遅れるし、ボス戦のメンバーもがらっと変わる。慣れない日が続きそうだ」

「そうやってまた……誰か死ぬのね」

「死ぬだろうな。このゲームが続く限り、誰かが死ぬのは最初から分かっていることだろ?」

「それは……」

「もう見たくないなら、強くなれ。俺もなる」

「……死にたくないから、死なせたくないなら、そのための努力をしろ。誰かがそんなことを言っていたわ」

「そいつの言うとおりだな」

 

 シノンがぐっと膝を抱え込んで肩にもたれかかってくる。

 キリトは目の前でまだ天井を睨むように寝転がったままだ。

 その隣でアスナが細剣に縋るように震えている。

 ぺたりと石畳に座ったまま手の中でビンをコロコロと弄ぶフィリア。

 

 離れたところを見やると、キバオウとコペルがぼろぼろと涙を流しながら死んでいった仲間に謝り続けている。

どこも似たようなもんだ。悔しがり、泣き、叫んで、崩れ、また悔いる。

 

 勝ったって言うのに、胸糞悪い日だ。

 

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

 

 

 先日の二十五層ボス攻略戦から四日が経った。思っていたよりも、アインクラッド中が慌ただしくなった数日だったと振り返れば思う。

 

 毎回の様に俺達が転移門のアクティベートを済ませると、《軍》トッププレイヤーうち実に七割をたったの一時間と少しで失ったというビッグニュースが駆け巡った。隠せるものでも無し、当事者ではないが早速俺達のもとに来たアルゴに正直に話し、全プレイヤーに伝えるように頼んだ。

 《軍》の生還組は盛大なバッシングを受けたらしいが、状況が状況だけに誰一人として強くは責められなかった。対抗ギルドの《聖竜連合》リーダーであるリンドがわざわざ説明に行くほどだと言えば、SAOプレイヤーならどれほどの事か分かるだろう。しばらくはキツイ毎日が続くだろうが、ギルドを追われないだけマシと言える。いや、戦力が枯渇した現状じゃ追い出せないのか?

 内情はさておき、予想していた通り、今までの攻略に於いて主力を担っていた二大ギルドの内一つがここで脱落……良くて一時的な戦線離脱することになる。「後進の育成に励み、一日でも早く攻略組に復帰する」という発表もあったのでこれは確定事項だろう。攻略のペースが格段に落ちるのは明らかだった。

 

 そして、影響は外部にまで及ぶ。《軍》弱体化によりギルドのバランスが崩れ、《聖竜連合》があっという間に巨大化して規模がおよそ二倍に。加えて今まではボス攻略に人数やレベル等の理由で参加できなかった中規模ギルドが名乗りを上げ、《軍》に取って代わろうと席を奪い合う様に攻略とデュエルが盛んになった。

 便乗して一気に名を広めたのが《血盟騎士団》。ステータスごとに役割を振り分け、少数精鋭を主とし、所属するプレイヤー全員が攻略組に名を連ねるという少々謎の多い実力派ギルドだ。

 目を引いたのがリーダーの《ヒースクリフ》。三十代後半から四十代前半の見た目ながら、盾と剣を用いた剣技はかなりの物だった。不思議と圧倒される存在感と言い、攻略組ですら軽くあしらう技量、溢れるカリスマ性は、なぜ今まで日の目を浴びなかったのか不思議なほどだ。以降は間違いなく《聖竜連合》と張り合う強力なギルドとなるだろう。

 

 実力派……という程なのか、フレンドのクライン率いる《風林火山》も地道に知名度を上げつつあった。《カタナ》スキルの件もあるし、一層からずっとボス攻略皆勤賞も取っているものだから意外と顔は知られているんだが……悲しいかな、《血盟騎士団》同様に中々脚光を浴びないままだ。そろそろ売れてもいいはずなんだが……はたして、どうなることやら。幸運を祈っているぞ。

 

 話を戻そう。

 

 弱体化した《軍》がとった方針は後進の育成……なんだが、黒い噂が早速聞こえ始めている。勿論、素質のあるプレイヤーのレベル上げに勤しんでいる姿も見られているが、聞くところによるとその他の少数派ギルドや弱小ギルドを吸収して巨大化も図っているとかなんとか。攻略へのがっつき具合と規律の厳しさから冗談半分で《軍》なんて呼ばれていたが、規模があまりにも大きくなりすぎたために、本当に《軍》へと姿を変えた。拠点を最も土地の広い第一層へ移し、驚くことにパトロールまでやっているらしい。犯罪者(オレンジ)が居ないわけじゃないが、そうそう現れるわけでもないのにそこまでする理由と言えば、やはり見せつけるためだろう。噛み砕けば舐められないためだ、とキリトは呟いていた。

 

 キバオウは今まで以上に攻略にやっきになり、まずは復帰できるだけの戦力を揃えようと自ら迷宮区に籠っては、パーティメンバーと狩りを続けているらしい。中堅ギルドが中層でコル稼ぎに出向いていると、鬼気迫る表情で武器を振り回しては狩りつくす姿がちらほら見られている。

 コペルは狩りもそこそこに、新しく入ったばかりの新人相手に色々とレクチャーをしているそうだ。ついさっき、本人からもスクショ付きでメールを貰ったが、こっちはキバオウとは真逆でのんびりマイペースに進めている。βの頃からそうだったが、近い年のくせしてアイツはなんか学校の人気先生みたいだったし、案外天職かもしれない。自分がβテスターだからという思いもあるんだろう。

 

 こんな具合に、早速《軍》内部でも派閥が別れつつあるようだ。頭数が多いだけに影響力もそこそこあるんだから、自重していて欲しいが……そうはいかないだろうな。こっちにまで火の粉が飛んでこないことを祈る。難しいだろうが。

 

「だとよ」

 

 ここ最近借りている宿の一部屋に集まって、今朝届いたばかりの新聞を俺が読み、くつろいでいた。四日も経てば普段通りだ。ソファで背筋を伸ばしてカップを傾けるアスナ、バッグの中に詰まっている機具のメンテナンスに余念がないフィリア、頬杖をついて向かいに座るキリト、ベッドに腰掛ける俺とシノン。

 

 SAOでの新聞は現実世界のそれとは少し違う。内容や形態に変化は無いが、とにかく文字サイズが大きめで読みやすい。焦点を勝手に合わせてくれるオートフォーカス機能があるんだから別にいいだろとは思うが、新聞離れの若者が多いことを危惧してか、もはや雑誌にしか見えないほどカラフルだ。

 ………俺はちゃんと新聞読むぞ。あんな紙切れに大量の情報が記されているんだから大したもんだ。殆どがどうでもいいがな。

 

「だとよ……って言われてもな。俺達たいして関係無いだろ」

「そうでもないよ。私、この前主街区歩いていたらデュエル申し込まれた」

「へぇ。俺とアインはザラにあるけど、フィリアって珍しいな。勝った?」

「当然。ザコ扱いされてたからムカついて虐めちゃったよ」

「そりゃ良いことをしたな」

 

 《軍》の弱体化、攻略組からの脱落は確かに手痛い。特に名が知れたプレイヤーが多く在籍していたわけじゃないし、ずば抜けた実力者も居なかったが、数の多さと安定した強さに於いては《聖竜連合》でさえ及ばない。《軍》がいる、という安心感が今まであった。それが無くなることが、一番の大きな損失かな。

 さっきキリトとフィリアが言ったように、デュエルを申し込まれたり、なにかと絡まれるようになったのも二十五層突破以降はさらに増えたが、今に始まったことじゃ無いので変化と言う変化は感じない。

 

 戦争で誰かが必ず死ぬように、ボス攻略で死亡者が出るのは、俺は必然だと思っている。今まで全員生還できたのは運が良かっただけであって、これからも続くとは限らないしありえない。平和に浸ると忘れそうになるが、俺にとって戦友の死なんて日常だったんだ。そもそも顔も思い出せない奴らの死を悲しめなんて無理があるだろ。何も感じないわけじゃないがな。

 

 ボス攻略を共にした仲間ではあるが、正直壊滅しようがどうでもいいし、キリトの言うとおりたいした関係はない。言い方は悪いが、《軍》の代えになるようなギルドはたくさんある。

 

「私は結構気になるんだけどな」

「アスナ?」

「入れ替わりでまた新しい攻略組ギルドがボス戦にも加わるんでしょ? その内どれだけのプレイヤーがボス戦を経験してるのかなって」

「それは……あるわね」

「でしょ?」

 

 さっきも俺が言ったが、レイドメンバーがごっそり入れ替わる影響は割と大きいはずだ。しばらくは慣れないだろうな。

 

「次の二十六層、苦労しそうだね。折角の初陣なのに(・・・・・・・・)

「仕方ないじゃない。どうしようもないことはある」

 

 アスナの強調した言葉を聞きながら、新聞をめくった。

 

 今回は俺達の結婚以来の号外記事で、両面がドーンと見出しやら写真やらで派手に仕上がっている。街中にぽいぽいと新聞を配りまくる情報屋の姿はいつ見ても面白いもんだ。

 

「『あの攻略組五人パーティがついにギルド結成!! 最強ギルド君臨なるか!?』だとよ、アスナ」

「さ、最強って……いつも思うんだけど、この記事書いている人ってちょっと言い過ぎじゃない?」

「マスコミなんてそんなもんだろ? 事実をでっちあげたり、面白おかしく書き換えたり、都合の悪いことは揉み消したり。そういうもんだって俺は諦めている」

「あ、あはは……」

 

 アスナの苦笑いは、俺とシノンがひたすらアルゴを追いまわして捕まえた挙句に引きずりまわして言って聞かせて…………うん、色々とやったことを思い出しているんだろ。アレ以来、少しだけ大人しくなった気がする。一部では俺がとんでもないサディストだって噂も立っているとか………。人前ではもう何もしないと決めた。

 

 話は逸れたが、《軍》脱落と一緒に新聞を飾ったもう一つの号外がある。それが、とあるパーティがついにギルドを結成したってやつだ。

 これまたドでかく貼り付けられた写真にはパーティが転移門前で撮影されたのであろう集合写真。

 

 写真右端には、ギルドリーダーの真っ黒な片手剣使い。照れくさい表情の女顔は、右手で頭を掻きながらどうすればいいのやらといった雰囲気を写真越しにでも感じさせた。

 リーダーの隣には対照的な白を基調とし、ファーやフードなど、お洒落かつ年頃の可愛らしい細剣使い。気持ちリーダーに寄り添う様に近づき、にっこりとほほ笑んでいる。

 その隣で写真中央。無骨な短剣と多数のポーチを腰や太ももに吊り下げ、左側の男に頭を撫でられて喜ぶオレンジのショートヘア。

 右隣の少女の頭を撫で、右隣の少女の腰を抱きよせる槍使いは、無愛想ながらもどこか嬉しそうな表情を浮かべている。

 左端の短剣使いは、隣の男性に抱き寄せられつつも、自ら寄り添う様に両手を男性の胸に添えて身体を預けていた。

 

 うん、俺らだね。

 

 出来ることはしておかなくちゃ。努力をしろ。そんなことをシノンがつい数日前に言っていたのが、ずっと俺とキリトの頭の中で反響していた。買出しに行くと言ってキリトと出かけ、街をめぐりながら喫茶店で小一時間話し合った結果が、これだ。

 以前は色々と問題も多かった。誰をリーダーにするのか、ホームはどうするのか、攻略に支障がでないのか………今思えば、なんでそんなことを考えていたのかさっぱり分からない程度の問題だが。

 

 揉めたのはギルドリーダーだった。というか、他は瑣末な問題でしかないし、現状じゃわからないとしか言いようが無かったというのもあるか。俺はキリトを、キリトは俺を推して平行線が続き、しまいにはジャンケンやコイントスを使ってまで決めたんだ。

 ぶっちゃけどっちがなっても同じという気はする。が、経歴を考えると、俺が仲間を導く資格があるとどうしても思えなかった。どちらかと言えば、死力を尽くして血の道を築く方が性に合っている。

 

 キリトは広く多くの物を見る目がある。でなけりゃビーターなんて悪役を買うことはしない。俺は違うと言えばそれでいいのに、知りもしないプレイヤーの為に犠牲になるなんて偽善者の真似はできるものか。

 

 しっかりと経緯を話して、最終的には全員の同意を得た上で、俺達は昨日の内にギルド結成クエストを下層に戻って速攻クリアしてきた。アルゴにだけはその旨を伝えて、今に至る。外は人でごった返しているだろうなぁ。窓の外はやかましいし。

 

「ユウ、そろそろ時間よ」

「だってよ相棒」

「やめろよその言い方、シノンが怖い」

「さぁてな」

「ったく。じゃ、そろそろ出ますか。みんな準備いいか? そこのドア開けたら人でもみくちゃだぜ?」

「その心配? これからボス攻略だよ」

「大丈夫さ、俺達なら。なんたってーーー」

 

 やれやれとため息をつきながら、新聞の最後に記されたインタビュー欄を視界に収める。メンバー一人一人の写真つきで、特に目を引くのはリーダーのキリトのところだ。文章量が違う。

 そこにはこんなやり取りもあった。

 

『なぜ、ギルドネームをこれに?』

『ずっと前に聞いたことがあるんですよ。何者にも負けず、屈しない、どんな困難も逆境も撥ね退ける最強の集団。それが、由来です。どうせならこのゲームで最強のギルドとプレイヤーになろうぜってことで』

『なるほど。情報屋界隈でもみなさんの評価は非常に高いですよ。特に、十層の小規模ギルド壊滅時の戦線崩壊を一人で支えたアイン。彼はずば抜けている、と』

『平常運転ですよ』

『それに負けず、メンバーの全員が武勇伝を幾つも持っている。私個人としては、少人数ながらもあの二大ギルドと並ぶだろうとも思っています』

『それはちょっと買いかぶり過ぎですって』

 

 キリトが言うには、ゲームか何かで史上最強の集団が忘れられないぐらい強かったそうだ。彼らにあやかり、このゲームでも最強で在るようにとつけた。

 俺はもう全部任せるって言った手前口を挟むつもりはないが、女性陣は何を言い出すのやらと思っていたものの、あっさりと了承。悩むことなく決まった。

 

 ということで、今日から俺たちはあの五人組じゃなくなる。

 

「ーーーギルド、《エンブリオン》だ」

「その自信がどこから来るのか知らないけど」

「いいんじゃない? 私は嫌いじゃないよ」

「これから頑張って活躍して、周りから高い評価を貰えば自信にもなるさ」

「私達次第ってこと」

 

 ………リーダーにならなくてよかったとしみじみ思いながら、ドアを開けた。

 


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