双槍銃士   作:トマトしるこ

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phase 13 出立/岩砕き

 

「まずは武器選びからにしましょうか」

「この剣じゃダメなの?」

「それが合うならそれでもいいけど、一応どんな種類があるのかだけ見に行こう?」

「わかったわ」

 

 フィリアの誘導に従って動く。この世界に来たばかりと言うのもあるけれど、ゲームそのものが初めてな私には街の歩き方から分からない。それに武器は生きていく上で重要な要素になる。しっかりと自分にあった物を選ぶ為にも文句は無かった。

 

 最初に教えてもらったのはNPC……ノンプレイヤーキャラクターとプレイヤーの見分け方だった。とても簡単で、カーソルの有無で見分けがつく。クリスタル上のカーソルが浮かんでいるのがプレイヤーで、そうでなければNPC。クエストを発注してくれるNPCの場合は頭上にクエスチョンマークが、受注しているとエクスクラメーションマーク(! のこと)が浮かぶ。システムが支配しているゲーム内では覆ることのない大前提の一つだ。

 

 アイテムを手に入れる方法はいくつかある。大きく分けると、六つ。

 まずはドロップ。モンスター……総称してMobと呼ばれるザコキャラやボスを倒す事で手に入れる方法。町で売られているようなものから、小数点以下の確率で手に入るレアなもの、更には一体しか存在しないボスクラスの敵からしか手に入らないものまで様々。価値も違う。

 二つ目に、生産。生産系と呼ばれる素材から新しくアイテムを作成する方法。NPCに素材を渡して依頼する事も可能ではあるけれど、どうも質がよくないらしい。そこで、プレイヤー自身が生産をするのが主流なんだとか。武器を生産するだけでなく強化も可能な《鍛冶》スキル、防具とは別で衣服や下着を作成する《裁縫》スキル、鉱石に細工を施して装飾品へと変える《装飾》スキル、食品を作る《料理》スキルなど、まだまだたくさんある。これらはプレイヤーメイドと呼ばれ、製作者のスキル熟練度に比例して質が良くなっていく。攻略が進むにつれて、これらの《生産者》は増えていくだろうとフィリアが言っていた。

 三つ目が、ダンジョンおよびフィールド探索で手に入る宝箱。一度開けられると中身が無くなってしまう為、全体的に貴重と言えるものが多い。ショップでは手に入らないステータス補正のはいった武器防具装飾品消耗品などなど。偶にお金……コルが入っていることもあるそうだけど、どれも高額だったとか。早い者勝ちのレアアイテムという認識でいいそうだ。

 四つ目にクエスト。フィリアが装備している《ソードブレイカー》という片刃がギザギザなナイフは、クエストで手に入れたらしい。同時に、クエストでしか入手できない物でもあると。こちらも大体は貴重なものが多いとのこと。

 五つ目がトレード。《交換(トレード)》というシステムやスキルは基本的に存在しない。厳密に言うとプレイヤー間で行われる売買や物品交換を指している。商人系のプレイヤーが行うことも、プレイヤー同士で直接行われることも、仲介人を置いた場合でもやっていることは全く同じ。他ゲームでの《交換》に相当すると思われトレードと言われるようになったとか。主流は譲歩やを仲介した顔も知らない相手との取引で、感覚的にはインターネットでのオークションやネットショッピングに近い。

 最後が購入。超がつく一般的な入手方法で、簡単かつ楽に手に入れられる。コルさえあれば、だが。

 

 私はピッカピカの初心者なので当然他の選択肢などなく、フィリアお勧めのショップへ行くことになった。

 

「いろいろあるのね………これは?」

「ハルバードね。槍と斧をくっつけたような武器。重たいから、筋力値上げないと使えないよ」

「ふうん……女性だと使えない武器とかあるの?」

「性別による区別は防具と衣服以外は今の所確認されて無いよ。でも、好まれる武器はあるかな」

「例えば?」

「私が使っているナイフ……じゃなくて《短剣》とか、扱いは難しいけど女性トッププレイヤー愛用の《細剣》、近づくのが怖いっていう人には《槍》、普通に《片手剣》も見るかな……。女性は小柄だから、小さかったり軽かったりする物が人気だね。勿論、《両手剣》使ってる人もいるよ?」

「……これは? 大きいのと小さいのが並んでるけど」

「こっちは普通に装備できる《短剣》で、小さい方は投擲用の短剣。唯一の遠距離武器だけど、威力は低いし、スキルもぱっとしないから使う人はあんまり見ないな」

「遠距離武器は……無い?」

「SAOのウリは“魔法無し、遠距離武器無し、全てのプレイヤーが剣を握って戦うソードアートRPG”だから。そういう意味では、その投擲ナイフも武器とは言えないのかな? まあダメージを与えるんじゃなくて、注意を引いたりするのが主な役割だから。因みに、弓とか弩もないよ」

「そう」

 

 まだβテストというものが行われている時、ユウが言っていたことは確かだった。疑ってはいなかったけど。この世界には……銃がない。それだけでほっとした。

 

「………これにするわ」

「《ネイルダガー》ね。ナイフなら私も教えやすいし、良いんじゃない?」

「あと、これも」

「《スローダガー》。いいの? 投擲用は序盤では逆に邪魔になるかもしれないけど」

「いいの」

「じゃ、投げ方も練習しないとね」

 

 最初から持っていた剣を売って、それを含めた全財産で武器を買いそろえた。《スローダガー》は消耗品になるので、とりあえず練習用の十本を購入。キャッチボールもしたことがない私がどれだけの命中率を出せるのか……。

 

 武器屋を離れて、街の中にある草原地帯へ。他には誰もおらず貸切状態だ、練習には丁度いい。

 

「まずはスキルについて簡単に説明しておくね。スキルに該当する武器を装備して振ると、スキルレベルが上昇する。スキルレベルが上がると色々な特典が付いてきて、使えるようになるソードスキルが増えたり、補助的な《パッシブスキル》を付与できたり、武器攻撃の威力があがったりするの」

「そのスキルレベルを上げれば、とりあえず強くなるって事でしょ」

「そうそう。今はその認識で大丈夫。まずはスキルから選んでみよう。最初から選べるスキルはたくさんあるんだけど、習得できるのはスキルスロットの数だけ。いつでもスロットから外して別のスキルを扱えるけど、効率悪いし、手間もかかるからお勧めはしない。コレって決めたスキルを集中的に伸ばす方が断然いいわ。外せない、って考えて選んだほうがいいよ」

 

 メニューからスキル欄を開く。レベル1の私が習得できるスキルの数は二つだけのようだ。

 

(一つは《短剣》スキルでいいわよね?)

 

 問題はもう一つをどうするべきか……。

 さっきまでは《投擲》スキルを習得しようと思っていた。が、これだけのスキルを目にすると一瞬で悩みが浮かんでくる。さっき聞いた《料理》スキルも取ってみたいと思ったけど、びっしりと埋まったリストを見るとどれが良いのかすら分からない。

 

 ………とりあえず、生産系や生活的なスキルは後回しにして、戦闘に役立つ補助的なものを優先しよう。ユウは絶対に自らゲームをクリアしようと最前線で戦っているはず。会うためには強くなる必要がある。今はユウがいるレベルにまで近づく事を優先しよう。

 

「どれがいいの?」

「迷うよねー。これは好みだからどれでもいいんだけど、最初に選ぶのは大体決まってるかな。《索敵》《隠蔽》《剣技》《俊足》《ステップ》《軽業》《回避》………ぐらい。私は《短剣》と《回避》に《解錠》だよ」

「《解錠》?」

「ダンジョンには開けられない宝箱があったりするから、それを開けるスキルだよ。レベルが上がると罠の解除もできるし、割と便利。パーティに一人は居れば良い方だから、シノンは別の選んだら?」

「………そうね」

 

 今聞いたのは大体どんなスキルなのか想像できるし、このスキル一覧にも大体のことは書かれてある。《短剣》スキルとの相性を考えるなら《剣技》《俊足》《ステップ》《軽業》といった身軽なスキルが良さそうだ。

 

 ………ユウならどれを取るだろう? そもそもどんな武器を選んだんだろう? やっぱり剣かな? 斧は無さそう。ナイフは……主にって感じじゃないわ。槍か剣ね。鎧着てるところなんて想像できないから、私と同じような身軽なタイプでしょ、多分。同じようなスキルをとれば一緒に攻略できるかしら?

 

 …………。

 

「これで行くわ」

「《短剣》と《軽業》ね。シノンって運動とかしてたの?」

「何も。運動神経は同年代女子の平均より上ってぐらい」

「なら大丈夫なんじゃない?」

「関係あるの?」

「それを使ってる人を知ってるんだけど、ニンジャ見たいにスルスル動いていたから。シノンもああなるのかなーって。運動に不慣れなら止めた方が良いかなって思ったんだけど、大丈夫よね」

「面白そうなこと言わないでよ、止めようにも止められないじゃない」

 

 変えないけど。

 

 二つのスキルをスロットにセットして、最後に確認を問うウインドウが現れて迷わずマルをタップ。カチリという音とセットされた事を示すアイコンが表示された。

 

 軽業(かるわざ)とはアクロバットのこと。自分の身体を実際に動かすこのゲームでは、体力やスタイル、体重などはあまり関係なく、アバターのステータスが重要になる。極端なことを言えば、私の細い腕でも筋力値さえあれば倍近い体重の男性でも片手で持ちあげられるし、敏捷値が高ければ短距離走の金メダリストだって目じゃない。

ただし、現実でできないことをやろうとすると抵抗感から上手くいかないことが多いらしい。さっきの例の場合、持ち上げたり走ったりというのは日常的な行動で、デキルと思えばそう難しくは無いが、空中で身体を何度も回転させたりといった体操選手のような動きだと事情が変わる。

身体能力的には全然できるけど、怖いと思ってできないことは珍しくない。逆上がりとか飛び箱とか。

 

勿論私はそんなことはできない。が、ユウは素でぴょんぴょん跳びまわる。身体測定ではSとかいう全日本一位の記録を保持していた。そんなユウについて行くためにはこのスキルは必要になるはず。それ以外でも活躍する場面は多そうだし。

 

「それじゃ、こんどはソードスキルだね」

「さっきも言っていたけど、何なのそれ?」

「必殺技。どの武器スキルにも一定数用意されてて、アシストを受けてズパーンて攻撃するの。まあ見てて」

 

 短剣を抜いたフィリアが腰だめに構えると、刀身が青く光りはじめた。前に一歩踏み出すと高速で短剣が空を二回切り裂く。描いた軌跡が空中に残り、構えを解くまでの滑らかな一連の動作が終わる。

 

「これがソードスキル?」

「そ、武器が光るのがソードスキルの証拠だよ。これがないとやってられないから」

「使い方は? 制限とかあったりする?」

「武器を構えるだけ。システムが構えを感知したら、その構えに該当するソードスキルを立ち上げるから、後は自分のタイミングで振り抜くの。あとは勝手に身体が動くよ。終わったら例外なく硬直状態になって少し動けなくなるけど、武器の光りが消えたら終了で動けるようになるわ。欠点らしい欠点はこれだけかな」

「最初から全部使えるわけじゃないんでしょ?」

「勿論。スキルリストの《短剣》の項目に使えるソードスキルと、立ち上げるための初動モーションが載ってるから、それを見ながらスキルの特性とどんな攻撃なのか全部覚えること。それが一通り出来てから、フィールドに出よう」

 

 ……確かにメニューには項目が幾つかあった。レベル1、熟練度0の現状で使えるのはたったの一つだけらしい。いや、一番最初から一つだけでも使えることを喜ぶべき? どちらにせよ、まずは短剣を振り回す事と、ソードスキルに慣れてみよう。

 

 ………。

 

「ねえフィリア」

「何?」

「素振りって、具体的にどうすればいいの?」

 

 まずはそこからよね。

 

 

 

 

 

 

 *********

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 発生が速く、硬直もすぐに解ける単発技《アーマー・ピアース》。まずは使い勝手の良さそうなこのスキルから使い始め、日が暮れる頃には徐々に新たなスキルが開放されていった。レベルも上がり、大分このゲームに慣れてきた気がする。早々と素振りを切り上げて、私達はフィールドに出て実際に実戦を行っていた。

 

 青いイノシシが突進してくるのは確かに怖い。現実でこんな体当たりをくらったら死んでしまうかもしれないだろう。オオカミが牙を向いて追いかけてくるのも中々に焦る。

 

 でも、あの時に比べればどうってことは無かった。頭の中では「危ない! 逃げなきゃ!」って言ってる自分がいるけど、ここに居て短剣を握っている私は少しも焦りを感じない。薄く感じる心拍音はさっきまでフィリアと街中を歩いていた時と変わらず鼓動を刻み告げている。

 

 仮想世界の私は、どこかで現実の私と違うんだ……。シノンは、強い!

 

「筋がイイね。怖がってる様子も無いし、これならレベルさえあればすぐに次の街にでも行けるよ」

「じゃああと1レベル上がったら行きましょう」

「うん」

 

 《ネイルダガー》を握る右手に力を込めて、もう一度強く降る。イノシシの身体に深く突き刺さった刃を強引に振り抜いて仮想の肉を切り裂く。ひときわ大きな悲鳴を上げながら、青イノシシは青く光って弾けた。

 

 獲得経験値とコル、ドロップアイテムが表示され、加算されていくと、必要経験値に達してレベルが3に上がった。私の頭上で“LEVEL UP!”と文字が現れ、ファンファーレが鳴り、金色の光が身体を包んだ。

 

「おめでとう」

「ありがとう」

 

 レベルアップしたプレイヤーは拍手で褒めるのが習わしだそうだ。今度フィリアがレベルアップしたら拍手しようと決めている。

 

「早速移動しましょう」

「アイテムとかちゃんとある? 武器耐久値も見なきゃだめだよ」

「耐久値……武器にも体力があるのね」

「メニュー開いてすぐの画面に、装備品の状態が書かれているでしょ? そこの数字が耐久値で、他にも破損状態も出たりするの。覚えておいて」

「分かったわ。……耐久値は四分の三残ってるけど、大丈夫よね?」

「へえ? 上手な使い方してるね。短剣、合ってるみたいで良かった」

「上手って?」

「弱点があるの。例えば私達プレイヤーなら防具に守られていないところ、敵なら皮の柔らかい所とかのこと。逆に堅いところもあるってことで、そういう場所ばかり攻撃してると、武器の摩耗が速くなるの。レベル3になるまで振り続けてそれだけしか消耗しなかったってことは、ちゃんと弱点狙って攻撃している証拠だよ」

「そんなこと意識してなかったんだけど……」

「それも、筋が良いってこと。さ、行こう」

「え、ええ」

 

 筋が良い。ゲームのセンスがあるって事? それとも、戦うのが上手って事?

 

 区別がつくわけじゃないけど、褒められているのは確かなことだから、私は嬉しかった。

 

「次の街って何処? どれくらい歩くの?」

「大体のプレイヤーは《ホルンカ》っていう小さな村を目指していたけど、そこをすっ飛ばしてもう一個先の街まで行くつもり。レベルには問題ないし、そこならもっと経験値もコルも稼げて、良い武器が貰えるから」

「良い武器って勿論短剣よね? フィリアが使っているのが貰えるの?」

「んー、これも手に入れられるけど、アレはお好みかな? 短剣って一口に言ってもたくさん種類があるから」

「確かに、私が今使っているのは普通のナイフにしか見えないわ」

「片手剣に近い長さのあるものだってあれば、片刃の脇差っぽいのもあったし………刀身がこう、ぐにゃって曲がってるのも見たよ。私の《ソードブレイカー》もその一つ。シノンの趣味に合うものがきっとあるから、楽しみにしててね」

「ナイフで趣味って………穏やかじゃないわ」

「そんな言葉、あとから言ってられなくなるから」

「ふふっ、覚えておくわ」

 

 友達って、良いわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 〓〓〓〓〓〓〓〓〓

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お……らあああっ!!」

 

 気合い一発。オレンジ色に発行した右の拳が岩にクリティカルヒット、突然現れたHPバーがぐーんと減ってゼロに。ぱっと砕けて散った。

 

「ふぅ」

「な、コイツ、先に成功しやがった!」

「コツ! アイン君コツ教えて! βテストでクリアしたことあるんでしょ!?」

 

 師匠の洞窟(正式な名前は知らん)に籠ってから二日が経った。ただひたすらに岩を殴り続けていた地獄は一足先に俺へと終わりを告げる。

 ただし、三人でクエストを受注したので三人とも岩を割らない限りクリアにならない。おう、あくしろよ。

 

「コツねえ……これってコツなのか?」

 

 確かにクリアしたのはした。だが、あの時は無我夢中だったし、よく覚えていない。確か……ぶん殴りまくってたけど、それでも壊れないからログアウトしようと思ったら圏内じゃないから簡単に落ちれなくて、街に戻ろうにもこの顔で街を歩くのは嫌だし、ここへ来るのも億劫だったからさっさと片付けようと思って夜通しやったけどそれでも壊れなくて、気がつけば朝になってて、もうすぐ詩乃が起こしに来る時間になってて………夜通しゲームやってたとかバレたらすんごい説教くらうの想像したら、三倍のスピードで岩殴っていつの間にか割れてたんだよな。………なお、バレなかった模様。

 

 髭に見覚えがあったからアルゴに聞いてみたところ、どうやら断念して去ったそうだ。鼠の異名はこんなところから来ていたという雑学もゲットしたクエストだったな。

 

 ………というわけで、俺が立てた仮説は“岩を殴った回数”……つまり、試行回数がキーなんじゃないかというもの。

 漫画アニメゲームで岩を割るまで云々は定番中の定番で、主人公達は一晩かけて壊すものもあれば何ヶ月と時間をかけるケースもある。

 

 ゲーム的には“どこか特定の場所に拳を入れる”よりも、“規定の回数拳で殴る”方がそれっぽい。そんな根も葉もない根拠だったんだが………今ので丁度一万回目だったので、もしかしたら当たりなんじゃね? と思い始めている。

 

 まあ参考にはなるだろう。

 

「お前達は今まで岩を殴った回数を数えてるか?」

 

 ちょっぴり奇妙なポーズを決めて見る。……似合わねー。

 

「千回から知らね」

「私も数えてないわ」

「そうか。なら、もう割れるまで無心になって殴れ」

「……システムは無心とか感知してくれるのか?」

「そうじゃなくて、考えるの止めてポカポカ殴り続けろ。俺は丁度一万回で割れたから、多分それぐらい殴れば終わるんじゃね?」

「い、いちまん……」

 

 諭吉一枚で表せる数字だが、殴る回数となると天文学的だな。俺達は拳法家になりたいわけじゃない、期間限定の弟子だ。はよ終わらせて攻略に行かないと、キバオウ達に後れを取る。

 

 そんな無言のプレッシャーを送り続けること更に一日。

 

「ふんっ!」

 

 キリトが見事粉砕。それから更に数時間後……

 

「やあっ!」

 

 アスナが恨みのこもった一発で岩を割った。これで全員修行を終えた事になる。

 

「……なんか、女の子が岩を素手で割るって、怖いな」

「ああ。アスナに殴られたら首が吹っ飛ぶに違いない」

「キリト君、アイン君?」

「「すいませんっしたー!!」」

 

 バキバキと拳を鳴らすアスナに、土下座も真っ青な腰を90度に曲げた謝罪。……これ、何回目だ? 流石に数えてないな。

 

「はぁ、もう。それで、どうやってクリアになるの?」

「家ノックしたら師匠出てくるから、ちょっと会話して終わり」

「疑うなよ。俺はさっさと戻りたいんだ」

「それもそうね。ベッドで寝たいわ」

 

 アスナが溜め息をつきながら師匠が二日間籠りっぱなしの小屋をノックする。何故かノックにしては音が大きいような………やめた。アスナが睨んでる。

 

 少し待つと、ギイと音を立てながら開いたドアから師匠が変わらず現れた。髭をさすりながら「ほほぉ……」とか言っている。

 

「アレを割るとは、筋があるのぉ。これからも腕を磨くがいい。ほれ、これはわしからの餞別じゃ」

 

 それだけを言うと、師匠は小屋へと戻って行った。同時に俺達にクエストクリアの表示と取得した諸々の物がウインドウに現れる。レベルアップこそ無かったものの、長時間かかるだけあって非常に美味しい。これでアイテムも貰えてスキルまで習得可能になるんだから設けだ。

 

「んじゃ、戻るか」

「やっぱりスキルスロットにセットしなくちゃ駄目なのね」

「まあ、武器がないとはいえ立派な攻撃スキルだしな。余裕が出来てからいいんじゃないか? 俺は素手で殴るのは慣れてるから欲しかったけど、今すぐ入れるかって言われると悩むだろうし」

「そうよね……そうするわ」

 

 師匠から貰ったアイテム……装備品のグローブを装備して外に出る。久しぶりの外の空気はうまかった。

 


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