デュエルアカデミアは太平洋の孤島に建設されており、そこへの移動手段はヘリか船に限られる。
まさか、入学と同時に寮生活を送ることになるとはな。ヘリの中でパンフレットを読みながら小波は帽子を深く被り直す。さっきから、居心地が悪い。
その原因は回りからの視線にある。
あの遊城との入学試験で行ったデュエル。あれによって少し悪目立ちしてしまったらしい。あの時行われたデュエルは短い物だったが、お互いにエースカードを出し合い、真っ向からぶつかり合う密度が濃厚で観るものをワクワクさせるようなデュエルだったろう。
俺のエースカードがモリンフェン様みたいな扱いを受けてるがな。
それもその筈。モリンフェンは本来、その微妙過ぎるステータスから扱われて居なかったいわゆるクズカード。実際弱いし使いこなせるか?と聞かれれば勘弁してくれと返すくらいなのだ。
しかし、小波はモリンフェンと言う弱いカードをデッキに組み込みながらあそこまでのデュエルを繰り広げのだ。
もしも、あのデッキのカードがモリンフェンがもっと強いカードだったらどうなって居たのだろうか‥‥‥‥‥‥
また、あのデッキを自在に操るデュエルタクティスとは底知れぬ‥‥‥‥‥‥
そんな高まり過ぎた期待は少々、重い。
実際、小波は打てるタイミングでカード打っているだけであり、そのプレイングに何らデュエルタクティスとは関係がない。
‥‥‥‥‥‥と目の前の奴にもつい今しがた説明したばかりだったんだがな。
「なぁー、コナミ! アカデミアに着いたらデュエルしようぜー。なぁ、いいだろー」
俺と遊城の合格条件は勝利。
だったが前回の試験結果は異例の引き分け。
つまり、どっち付かずだった。当然、不合格と言う流れだったらしいが、何と校長が俺達のデュエルを見ていたらしくそのまま合格と言う事になったらしい。(それが不服の裁定だったらしく合格通知には態々、直筆で『デュエルアカデミア生徒とはなんたるか』についてフランス語訛りで書かれたレポートが同封されており、とても為に成った。面倒見のいい先生が居るらしい)
つまり、遊城はデュエルで白黒はっきり着けたいと言う事らしい。
しかし、今の俺は確実に負けるだろう。
それは確信を持って言える事だ。
俺のカードの強さには回数制限がある。
一度、調子に乗って星のお兄さんに三連勝してたら、星のお兄さんの知り合いらしい凡骨っぽいお兄さんともデュエルをすることになったがものの見事にLPを削ることすら出来ずに敗北した。
しばらく、実験を重ねた事で解ったがデッキを使いなれて来るとデッキの回る確率が下がる。少しずつランダムにカードを入れ換える事で若干防げるが根本的には解決しないので、パックを買ったりしてデッキを組み直すしかない。
ほとんど呪いじゃね?と考えてしまうのも無理は無いだろう。それ以来、俺は出来るだけ大量のストレージカードを集めて無作為にデッキを組むことで回して来たのだ。
そして前回入試で使っていたデッキはそろそろ変えないと不味い。しかし、遊城を待たせるのに自分の都合を押し付けるのはな‥‥‥‥‥しばらく、お茶を濁していれば大丈夫かな。
「遊城、お前は強いからな暫く準備してから最高の状態で勝負したいんだ」
それっぽい事を言うと遊城は嬉しそうに笑い。
「ヘヘッ! そう言う事なら楽しみにしとくぜ! コナミ!」
何とか納得してくれたらしいが素直過ぎて辛い。
『デュエルアカデミアに到着します。お降りの際は忘れ物など無い‥‥‥‥‥』
入学式で受け取った、デュエルアカデミアの制服へと腕を通す。もともと、帽子も赤だったので問題は無いんだがな。しかし、この真っ赤な制服は俺の回りの気温を上げてるのでは無いだろうか。
どの学校でも学長の話は長いと言う定例通りデュエルアカデミアの学長の話は長く、遊城に至っては立ったまま寝ている程だった。
その話が終わったのちクラスが振り分けられる。
デュエルアカデミアでは上から順に『オベリスクブルー』『ラーイエロー』『オシリスレッド』の三つにクラス分けされているらしい。
「おっ! 俺はオシリスレッドだ!」
俺も支給されたPDFを確認するとオシリスレッドの用だ。と言うか制服の色がクラスを現しているのでは無いだろうか?
「やぁ、少しいいかな?」
不意に声を掛けられ振り返るとそこには黄色い制服を纏った好青年然とした男が立っていた。
「お、二番じゃないか! お前もオシリスレッドか?」
「いや、俺は見ての通りラーイエローさ、一番君。そしてそっちがこの前の試験で一番君と闘った小波くんかな?」
「ああ、小波だ。よろしく。あんたは?」
「ああ、俺の名前は三沢大地。君達の入学試験を見て感銘を受けたよ。あんな低ステータスカードも戦略次第ではあんなにも強くなるんだね」
うん、モリンフェンが強いんじゃ無くて運が良かっただけなんだがなぁ‥‥‥‥
しかし、謙遜するのも嫌味ったらしいので素直に受け取っておく。
「まぁな。デッキが答えてくれたのさ」
これ、毎月デッキを変えてる奴の言葉じゃないな。
「なるほど、その自信も強さの秘訣か‥‥‥‥‥‥『デュエリストたるもの常にエンターテイナーであれ』と言う言葉もあるぐらいだしね。しかし、君達が何故オシリスレッドなのか解らないが‥‥‥‥‥‥」
自分で都合良く解釈した後に三沢は何やら不穏な事を呟いた。
「何か引っ掛かる言い方だな」
「失敬。では失礼するよ。後、オシリスレッドの寮はあっちだよ」
去るときまで爽やかな奴だったな。
「よし、行って見ようぜ!」
遊城の提案を断る理由もないので三沢に教えられた方向へと歩いて行くと遠くに見える赤色の建造物。段々と近づくにつれその全貌が明らかになっていく。外壁が長い年月で劣化し茶色く染まり、鉄製の階段や手すりは表面を覆うように錆び付いている。まるで映画のワンセットのような作りだ。
「なかなか、風情があるな。造りも確りしていて悪くない」
「コナミもそう思うか? 悪くないよな。海のすぐ近くだから潮風が気持ちいいぜ」
俺と遊城はとりあえず荷物を置くことにする。オシリスレッドでは基本的に一部屋に三人で生活するらしい。
「コナミいいなぁ。一人部屋かよ!」
遊城は定例通りだが俺だけ溢れたらしく、一人部屋だ。
「そんな事は無いさ。俺も友人との共同生活を楽しみにしてたさ」
後ろ手を振りながら部屋を開けるとこまめに掃除されて居たからか埃一つ落ちていない畳の上に荷物を置く。スケジュールでは歓迎会があるようだが暫く時間がある。
少し、デュエルアカデミアを探索してみるか‥‥‥‥‥‥デュエルディスクにカードを入れ込み部屋をでた。
とりあえず一番近い所から回るか、オシリスレッドから近いのはデュエル場か。実技試験などはここで行い、また授業以外では一般解放されているらしい。とりあえず観に行ったら誰かデュエルしてないだろうか。
暇潰しにでもなればいいんだが。
道を幾つか曲がり、拓けた場所に出る。
10メートル程の円に競り上がった舞台のようなデュエルフィールド。その回りを囲むように全校生徒を収用出来る観客席。最新式のソリッドビジョン機器にサウンドシステムも良質と言う触れ込みだが見ただけじゃ全く判断出来んな。
残念ながらデュエルをしている奴は居ないらしい。とりあえず体感して見るのがベストなんだが本当に誰かデュエルしないのか。
回りにはデュエルを開始する気配は無く、談笑しているオベリスクブルーの生徒のみ。
うーん‥‥‥‥‥‥彼らに行きなり『お二人でデュエルしてください』とは言いづらいし、俺がデュエルに誘うことになるのか‥‥‥‥‥‥
とりあえず敬語は同学年に対してどうだろうか?
礼儀正しいのは結構だが慇懃無礼感が否めないもう少しフランクな感じで良いか。
小波は意を決しオベリスクブルーの生徒の前へと進み一番後ろの男に話しかける。
「おい、デュエルしろよ」
瞬間辺りの温度が一度程下がったのでは無いか。う
む、ダメだったか?
「おい! お前! お前は誰に向かってデュエルを挑んでる!」
「中等部ナンバーワンで未来の決闘王と名高い万丈目さんだぞ! オシリスレッドのお前なんざ相手にしてる暇は!」
お、おう。良くわからないが。
そんな中一番後ろにいた男が声を上げる。
「Be Quiet、諸君。こう言う雑魚が付け上がるのはアカデミアに取っても損失だ。この万丈目準が直々に鼻柱を叩き折ってやる事にしよう」
うーん、凄い自信満々だな。
此くらい自信を持てるって事はかなり強いのか。近所のお兄さんにしか勝てないような紙束何だが大丈夫だろうか。
「ふん、オシリスレッドのクズごとき一瞬で片付けてやろう」
とにかくデュエルしてくれるならありがたい。
さぁ、最新式のソリッドビジョンとやらを見せて貰おうか!
「「デュエル!」」
小波LP4000
万丈目LP4000
ディスクによると俺が先行らしいな。
「先行は貴様に譲ってやろう」
「どーも。俺のターンドロー」
よし、召喚出来るカードが来た!
「俺は『イエロー・ガジェット』を攻撃表示で召喚する」
俺のフィールドに複数の黄色い機械部品が集まり一体のモンスターとなる。
『ギィーン!』
凄いな。まるで生きてるみたいだ。イエロー・ガジェットが俺の足元を喜ぶ様に走り回りフィールドへと戻っていく。最新設備恐るべし。モンスターの登場の仕方も独特だな。
「『ガジェット』か。あの決闘王も愛用していたと言うカードか。確か効果は‥‥‥‥‥」
「そう。イエロー・ガジェットには召喚に成功した時発動する効果がある」
イエロー・ガジェット
効果モンスター
星4/地属性/機械族/攻1200/守1200
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、デッキから「グリーン・ガジェット」1体を手札に加える事ができる。
ことデュエルモンスターズにおいてモンスターを手札に加える手段はあまり多くは無い。だがガジェットのカードには標準で違うガジェットを手札に加える効果を持っているのだ。その効果によるアドバンテージは素晴らしい。
「俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ」
「何!? 何故イエロー・ガジェットの効果を発動しない!?」
発動しないのでは無く発動出来ないのである。
このデッキにはイエロー・ガジェット『しか』ガジェットモンスターは入っていないからな!
「チッ! ドロップアウトかと思えばデュエルの文字も知らんド素人とはな! デッキは最大限力を発揮出来るように構成することが当たり前! そんな事も理解出来んのか!」
いや、解る。俺もこんなデッキを使って来る奴がいたら頭が沸いてるんじゃないかと思う。でも、仕方ないな。これが俺にとってのベスト何だから。
「これが俺の最大限、力を発揮したデッキだ。御託は良いから掛かってこい」
取り合えず、デュエルを続けよう。
「デカイ口を叩くだけなら子供だって出来る! 良いか! デュエルモンスターズはその性質、どうしても運の要素が入るが結局勝敗を決めるのは洗練されたプレイング、つまり知性だ。それが足りない貴様の様なドロップアウトなぞ俺様の敵ではない! 俺のターンドロー!」
さて、相手のターン。
どんなデッキ何だろうか。
「俺は『地獄戦士《ヘルソルジャー》』を攻撃表示で召喚する!」
鎧兜に身を包んだ戦士が相手フィールドに姿を現わす。
地獄戦士
効果モンスター
星4/闇属性/戦士族/攻1200/守1400
このカードが相手モンスターの攻撃によって破壊され墓地へ送られた時、
この戦闘によって自分が受けた戦闘ダメージを相手ライフにも与える。
なるほど、相手から与えられた戦闘ダメージをそのまま返すカードか‥‥‥‥‥‥厄介だな。
「さらに俺は地獄戦士に『悪魔のくちづけ』を装備する!」
突如現れた緑色の肌をした女悪魔が地獄戦士にキスをした瞬間、地獄戦士の体格が大きくなっていく。
鎧まで大きくなるのは何故だろうか。
悪魔のくちづけ
装備魔法
装備モンスターの攻撃力は700ポイントアップする。
このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、
500ライフポイントを払う事でこのカードをデッキの一番上に戻す。
地獄戦士攻撃力1200→1900
一瞬にしてイエロー・ガジェットの攻撃力を越えた。俺のデッキの伝説の剣とはえらい違いだ。
「バトル! 地獄戦士でイエロー・ガジェットを攻撃! 『地獄突き』!」
万丈目の地獄戦士の無慈悲な一撃がイエロー・ガジェットに襲いかかるがその攻撃を通す訳には行かんな。
「罠カード発動。『燃える闘志』」
カードの効果を受けたイエロー・ガジェットは全身からオーバーヒートしたかの如く焔を撒き散らす。
「なんだ!?」
「燃える闘志は特定条件下でしか効果を発揮しない罠カード。その条件は『相手フィールド上に元々の攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターが存在する時』だ」
こんな使いづらいカード、ブラフに伏せてたんたが運が良かった。
燃える闘志
通常罠
発動後このカードは装備カードとなり、自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体に装備する。
元々の攻撃力よりも攻撃力が高いモンスターが相手フィールド上に存在する場合、装備モンスターの攻撃力はダメージステップの間、元々の攻撃力の倍になる。
「燃える闘志を装備する事によりイエロー・ガジェットの攻撃力は倍になる。反撃しろ、イエロー・ガジェット!」
イエロー・ガジェット攻撃力1200→2400
飛んでくる剣を華麗に交わし昇龍の要領で地獄戦士の顎を爆散させる。
万丈目LP 4000→3500
地獄戦士の効果は自爆特攻のダメージなので発動しない。
「ぐっ! イエロー・ガジェットの効果を発動しなかったのも、油断を誘い罠を発動するためか! しかし、その程度時間稼ぎにしかならん! 俺はカードを二枚伏せてターンエンドだ!」
違います。
カードが入ってないだけです。
「俺のターン、ドロー」
さて、いよいよ紙束の本領発揮だな。
出来るだけダメージを与えたかったが出せる中に攻撃力が1000を越えたモンスターが居ないんですがそれは。
「バトルだ。イエロー・ガジェットでダイレクトアタック。『ガジェット・ナッコー』!」
イエロー・ガジェットの歯車カラテが万丈目を襲う。
「ふん。罠を警戒しないクズめ! 俺は『リビングデッドの呼び声』発動!」
万丈目のフィールドに墓場が現れ、その中にある棺桶から地獄戦士が出てくる。
リビングデッドか、汎用性の高い罠を入れてるな。羨ましい限りだ。
リビングデッドの呼び声
永続罠
:自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。
そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。
このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。
そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
攻撃を止める事も出来るが相手の場にカードを残す事はない。
「攻撃を続行だ。イエロー・ガジェットで地獄戦士を道連れにする」
イエロー・ガジェット攻撃力1200
地獄戦士攻撃力1200
爆発音と共に煙が上がり、晴れた時にはお互いのモンスターが‥‥‥‥‥‥いますね。相手のフィールドには地獄戦士が平然と立っていた。
「はっ! この万丈目様が苦し紛れにモンスターを蘇生させるわけが無いだろうが! 俺は戦闘時に速攻魔法『収縮』を発動していた! これにより地獄戦士は貴様の歯車を粉砕したのだ!」
「出た万丈目さんのマジックコンボだ!」
マジか、イエロー・ガジェットが破壊されるとなかなか厳しいな。
収縮
速攻魔法
フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する。
選択したモンスターの元々の攻撃力はエンドフェイズ時まで半分になる。
「俺はモンスターをセット。更にカードを一枚伏せてターンエンドだ」
ここは壁モンスターで凌ぐしかないな。
「オシリスレッドにしては良くやったと誉めてやるが、それでもこの俺様には程遠い! 俺のターンドロー! 俺はフィールドの地獄戦士を生け贄に捧げ、『地獄将軍・メフィスト』を召喚する!」
馬の蹄の音が鳴り響き、全身を漆黒の鎧で身を包んだ騎士がフィールドへと駆け込んで来る。
地獄将軍・メフィスト
効果モンスター
星5/闇属性/悪魔族/攻1800/守1700
このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、
その守備力を攻撃力が越えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える。
相手に戦闘ダメージを与えた時、相手の手札からカードを1枚ランダムに捨てる。
モリンフェンと違い効果モンスターか。
「地獄将軍・メフィストには守備貫通効果がある! バトルだ! そのセットモンスターを粉砕しろ!『ヘル・ジェネラル・スラッシャー』!」
俺のセットモンスターへと吸い込まれる地獄将軍のハルバード。
「俺のセットモンスターは『コマンダー』だ」
コマンダー
通常モンスター
星2/闇属性/機械族/攻 750/守 700
ロケットランチャーとバズーカ砲を装備した実戦部隊。
地獄将軍・メフィスト攻撃力1800
コマンダー守備力700
小波LP4000→2900
コマンダーは助かると言ったな。ありゃ嘘だ。
なんだよ! ロケットランチャーとバズーカって意味被ってんじゃねーか!
「おちょくっとるのか! 貴様!」
失敬な大真面目だ。
「チッ! 地獄将軍・メフィストの効果で貴様の手札をランダムに一枚墓地へと送る!」
三枚ある手札の真ん中のカードが墓地に送られる。
「俺はこれでターンエンドだ! さっさサレンダーでもすれば貴重な俺の時間を奪った詫びの一つで許してやろう!」
うーん、次のドローでカードが引けなかったら負けかな。取り合えず、この紙束を信じるか。
「俺のターン‥‥‥‥‥‥ドロー!」
ドローカードは‥‥‥‥‥‥
『ディメンション・マジック』
「来たか」
デステニードローって奴かも知れんね。
「俺は手札から『炎を操る者』を通常召喚する」
炎を操る者
通常モンスター
星3/炎属性/魔法使い族/攻 900/守1000
炎の海や炎の壁を自在につくり出し攻撃する。
「そんな、クズカードを召喚しても俺の地獄将軍は倒すことなど出来はしない!」
「それはどうかな? 更に俺は手札から速攻魔法『ディメンション・マジック』を発動するぜ!」
炎を操る者と地獄将軍・メフィストの体にアイアンメイデンが被さり蓋が閉じられる。
「な、何だ!? 何が起きている!?」
そして蓋が開いた時、現れるのは鋭い刺で穴だらけになった地獄将軍・メフィスト。
「ディメンション・マジックはフィールド上の魔法使い族モンスターを一体をリリースし、手札から魔法使い族モンスターを特殊召喚する。そして、相手のフィールドのモンスターを一体破壊する!」
ディメンション・マジック
速攻魔法
自分フィールド上に魔法使い族モンスターが存在する場合、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。
選択した自分のモンスターをリリースし、手札から魔法使い族モンスター1体を特殊召喚する。
その後、フィールド上のモンスター1体を選んで破壊できる。
「ふざけるな! 土壇場でその逆転のカードを引いただと言うのか!」
そう、だから俺も驚いている。
魔法使い族のモンスターは俺のデッキには二枚しか入っていない。それが運良く回った物だ。
「そして、俺は手札からこのデッキ最強のマジシャンを特殊召喚する!」
俺の後ろから神々しい光が溢れる。
「ま、まさかあの伝説の!?」
「決闘王のパートナーにして!?」
「そのトレードマークとも言えるあの!?」
騒がしい外野を無視して俺は高らかに召喚する。
「『レオ・ウィザード』を特殊召喚!」
『ガルルルル!』
「おい、ブラック・マジシャンじゃないのか!」
「ふざけんな!」
「マジシャンとか言いつつウィザードじゃねーか!」
何故、こんなにボロクソ言われてるんだろうか。
『レオ・ウィザード』それは『モリンフェン』とも双璧をなすデュエルモンスターズに暗黒時代をもたらした『レオ・ウィザードパーミッション』の主軸カードである。
嘘である。
レオ・ウィザード
通常モンスター
星5/地属性/魔法使い族/攻1350/守1200
黒いマントをはおった魔術師。
正体は言葉を話すシシ。
そう、このモリンフェンにも劣る劣悪なステータスである。
「ええい、俺はレオ・ウィザードでダイレクトアタック! 『ウィザードショット』!」
レオ・ウィザードの手から衝撃波が放たれ万丈目のLPを削り取る。
万丈目LP3500→2150
「この程度のダメージ、次のターンで巻き返して終わりだ!」
ふむ。何か勘違いしている様だな。
「残念だが、まだ俺のバトルフェイズは終了して居ない」
「なに!?」
俺は伏せていたカードを使う。
「速攻魔法発動!『狂戦士の魂』発動!」
狂戦士の魂
速攻魔法
「狂戦士の魂」は1ターンに1枚しか発動できない。
自分フィールドのモンスターが直接攻撃で相手に1500以下のダメージを与えた時、手札を全て捨てて発動できる。
自分のデッキの一番上カードをめくり、それがモンスターだった場合、そのモンスターを墓地へ送り、相手に500ダメージを与える。
その後、モンスター以外がめくられるまでこの効果を(最大で7回)繰り返す。めくったカードがモンスター以外だった場合、そのカードをデッキの一番上に戻す。
「レオ・ウィザードのダイレクトアタックにより発動条件は満たされた」
都合五回発動すれば勝ちだな。
「はっ! 最初に言った筈だ! デュエルは知性だと! 運に任せた奴は身を滅ぼすんだよ!」
そうか。確かに普通のデッキならすぐモンスターカードは途切れるだろうがな。
「俺のデッキは少々特殊でな。デッキの8割がモンスターカードなんだよな」
それは万丈目に取っての死刑宣告に等しい言葉だった。
「行くぞ!ドロー、モンスターカード『ハングリーバーガー』!」
万丈目LP 2150→1650
「まさか‥‥‥‥‥‥」
「ドロー、モンスターカード『カクタス』!」
万丈目LP 1650→1150
「こんな‥‥‥‥‥‥」
「ドロー、モンスターカード『科学特殊兵』!」
万丈目LP 1150→650「ゴミカードばかりの‥‥‥‥‥‥」
「ドロー、モンスターカード『シーホース』!」
万丈目LP 650→150
「ドロップアウトに負けるだと!?」
「ドロー‥‥‥‥‥‥モンスターカード『モリンフェン』!」
万丈目LP 150→0
「そんな、バカな‥‥‥‥‥‥」
この世の終わりかの様に膝を付く万丈目。
そんなに紙束に負けたのがショックだったのか取り合えず軽くフォローだけしておけば良いか。
「この世に使えないカード何て無い。いい暇潰しになった。ありがとう」
PDFの時間を見ると歓迎会までギリギリだった。相手をしてくれた、万丈目に礼を言って走り出す。
歓迎会間に合えば良いけど‥‥‥‥‥‥
小波が居なくなったデュエル場には万丈目が一人だけ取り残されていた。万丈目をあれだけ慕っていた取り巻き達は万丈目が負けた時から寮に帰って行った。しかし、万丈目は自分自身の眼の曇りが晴れていくような気分だった。
あの小波とか言うオシリスレッドの学生は自分に魅せ付けたのだ。
『どんなカードも使う事が出来る』と言うデュエリストとしての芯を。中等部ナンバーワンの自分に勝利する事でより強くなろうとする向上心。わざと低ステータスのカードを中心にデッキを組む事で自分に枷をかけて己を鍛えて居るのだろう。つまり、手加減された訳だ。この万丈目準が。
「ふ、フハハハハッ! クソッタレ! 小波とやら! 今に見ていろ! 貴様のその余裕も全て剥がして、地に叩きつけてやる!」
誰も居ないデュエル場には一人分の朗らかな笑い声が響いていた。
何かレオ・ウィザード以外にもちらほらとカードが出ていますが気にしては行けません。
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