もう更新を待って下さっている方はいないかもしれませんが、最新話、投稿致します。
またこの話より、少し文章の書き方を変えてみます。
「しかし……、厄介な事になってきやがったな」
学園長室を出るやいなや、隣に居た雄二がそうぼやく。
「……そうだね」
何度も繰り返しを体験している僕にしてみても、今回は比較的順調に進んでいるのではないかと思っていた。学園長や西村先生達は協力的で、雄二や秀吉達とも特に敵対しておらず、優子さんは元より、霧島さん達Aクラスの人とも平穏な関係にあると感じているし、特定の状況下でしか接点の無かった勇人や浩平といった友人とも知り合っているなんて、今まで無かった筈だ。だからこそ、今回は僕の考えうる限り手を尽くしておきたいという事で、姉さんにも協力を仰いでいる。……僕のやる事だから、抜けている事もあるんだろうし、正直『今回』を失敗したら……、そのショックで暫くは立ち直れないだろうな、とも思う。
「ま、悩んでも仕方ないしな。取り合えず教室に戻って、あの
また暴れ出さないとも限らないしな……、そう付け加えながら教室へと戻ろうとする雄二。何だかんだと言って、面倒見のいい彼に苦笑しながら、
「あ……、僕は少し外すよ……。ちょっと行かなきゃならない所があるから……」
「ん……?これからか……?」
「ちょっと高橋女史に呼ばれていてね……。さっき聞いたけど、今はどのクラスも自習時間らしいから……。多分、観察処分者の仕事じゃないかな?」
正直なところ、あんまり行きたい訳じゃないんだけどね……。ただ呼ばれた以上は仕方が無い。
「ああ、そういう事か……。結構、大変なんだな……」
「まぁ、ちゃんと手伝うようになったから声がかかるようになったんだろうね……。今までの僕はサボっていたから……」
だから遊ぶ時間があったんだろうなぁ、とひとりごちる。少なくとも、今の僕がその責務をサボるという事は考えられない。
「あの明久がなぁ……。俺にしてみれば洗脳でもされたんじゃないかっていう程、違和感はあるが……」
「…………色々、あったんだよ……」
そう……、本当に色々あったんだ……。これまで……、本当に……。
「そうか……。尤も、そのへんの事を詮索しても仕方ないしな。だがその用事とやらが終わったら戻って来い。俺1人であのバカどもを見るのは面倒だからよ」
そう言って片手を挙げて雄二が教室へと戻っていく。あまり詮索せずにおいてくれた雄二の心遣いに感謝しつつ、僕は高橋女史の所へ向かった。
「…………勇人を、ですか……」
「そうです」
観察処分者の仕事かと思い、おそるおそる高橋女史の部屋へ訪れた僕が聞かされたのは、意外な事だった。
「……でも僕に彼の居場所なんてわかりませんよ……?」
高橋女史の依頼……。それはいなくなった高橋勇人をここに連れてきて欲しいというものである。
「ですが学園内にいる事は間違いありません。そこで、吉井君には彼の行きそうな場所をまわってきて貰いたいのです」
「行きそうな場所と言われても……」
そもそも、僕は勇人とこの世界ではまだ、そこまで接点がある訳ではない。だいたい……、
「……彼、何で逃げ出したんですか……?」
「逃げたのかどうかはわかりませんが……これです」
僕の疑問に高橋女史は一枚の紙を差し出す。こ……これは……!
「……高橋女史との……『個別授業』引き換え券……!」
あの……オリエンテーリングで配られていた物か……!
「そうです。こともあろうに……あの子が持っていたのです。……破棄しようとしていた所を回収しました」
これは……逃げたくもなるよなぁ……。心の中で彼に同情する僕。たしか勇人と高橋女史は親戚の関係で……、基本的に高橋女史が1人暮らしをしている彼の面倒を見ているんじゃなかったっけ……。
以前、一緒にいた時の記憶を引っ張りだしながら思い出す。
「これを機にあの子をAクラス並みの学力が取れるよう鍛えなおそうかと思っていた矢先に、いなくなってしまったのです」
……高橋女史……なんか結構怒ってない……?僕の中の危機センサーが反応している。出来る限り関わるな……!逃げろ、と……!
「……あ、僕、他の先生にも呼ばれていたので……」
「今日は名目上自習となっていますが、他の先生は皆ご自分の事務作業をしている筈ですが?」
……ダメだ……高橋女史からは……逃げられない……!
「でも、どうして僕に……?僕より神崎さんの方が彼の居場所、知ってそうですけど……」
「これ以上言うなら、彼の代わりに吉井君が受けてもいいんですよ……。私の個人授業を……。そういえば吉井君は誤解していたようですし……」
「必ずや連れてきます」
さて……なんとしても彼を探し出さないとな……。これは雄二達にも協力を仰いだ方がいいか……。
「……そんなに私の授業は受けたくありませんか」
「いえ、とんでもない。ただ、僕にはキツすぎ……、いえ、勿体無いというか……耐えられないというか……」
「…………よくわかりました」
……あれ、なんか……墓穴を掘ったような……。
「と……とりあえず、探してきますっ!」
これ以上何か言われない内に、僕は部屋を後にする。
「といっても……、勇人が居そうな場所なんてわからないよ……」
部屋から逃げて……、じゃない、退出した僕は、どうしたものかと悩んでいる内に、2-Cの教室へと辿りつく。文月学園の中で3番目であるこの教室は、一般の高校の教室よりも数段上の設備が整っている。その扉に、僕は手をかける。
「まぁ、地道に聞いていくしかないか……」
そう決心し、扉を開けると……、
「あれ……、吉井君じゃない。どうしたの、何か用?」
ちょうど清涼祭の出し物を決めようとしていたのか、Cクラスの代表である小山さんが議論を一時中断してこちらへとやってくる。……ザッとCクラスを見渡した限り、勇人の姿はなさそうだった。
「いや……実は高橋女史に頼まれて……」
「……高橋女史に……、勇人ですか……?」
そう言ってやって来たのは、勇人と一緒にいる事の多い神崎さん。これはちょうどよかった。
「ああ、神崎さん。そうなんだ、彼を連れてくるよう言われたんだけど……」
「あら?高橋君なら、長谷川教諭に呼ばれたって言って出て行ったけど」
小山さんからそんなお言葉を聴き、考える。あれ、おかしいな……?高橋女史は、今はどの先生も事務作業をしていると聞いたけど……?
「……多分、勇人は逃げているんだと思います」
……やっぱりか。なんとなく、わかってはいたけれど……。
「ん?何で高橋女史に呼ばれて逃げるんだよ?」
そう言ってきたのが、彼のクラスメイトか……。確か、黒崎君だっけ……?
「そうだよな。てつじ……、西村先生はともかく、高橋女史から逃げるなんて考えられないよな」
……君達は何も知らないから、そんな事が言えるんだよ……。
「黒崎君も、野口君も席に戻って!……とりあえず、彼が戻ってきたら吉井君に伝えるわ。ちょっと、今はクラスの出し物を決めている最中なのよ……」
「あっと、ゴメンゴメン……。じゃ……、よろしくね」
そう伝えて、僕は教室を出る。……やれやれ、ここにはいないだろうと思っていたけれど……。これからどうしようかねぇ……。
「逃げた高橋を探すのを手伝えだと!?」
「うん、そうなんだ」
色々迷ったものの、これといっていいアイディアも浮かばなかった僕は、一先ずFクラスに戻って雄二に状況を伝える。
「……正直、俺の方を手伝って貰いたいんだがな……。コイツら……、またいつ脱走しようとするか、わかったもんじゃねぇ……!」
雄二はそう言うと、野球のバットを構えながら、Fクラスの面々を警戒するように目を光らせていた。
「コイツらを逃がしたら、俺が代わりに補習室に行く事になるんだ……ッ!クソッ……、鉄人の奴め……!」
むしろ、お前が俺を手伝え。そんな雰囲気を言外にも十分に匂わせている雄二。うーん、これは雄二には頼れそうもないかな……。
「……雄二の居所なら、3秒で見つけ出せる自信があるんだけどな……」
「……おい、何サラッととんでもない事を口走ってやがる……」
青筋を立てながら雄二はそう凄んでいる。まぁ、それはさておいて、
「ムッツリーニー。いる――?」
「おい……、何処に向かって叫んでやが……」
「…………呼んだか」
おお、やっぱりいたね。天井から降りてきたムッツリーニに僕は早速、彼の件を依頼する事にしよう。
「実は、ムッツリーニにお願いしたい事が……」
「……今の状況をおかしいと思っているのは俺だけか……?」
そう呟いている雄二は置いておき、勇人の捜索を依頼する。すると……、
「…………今度、お前の写真を取らせろ。その条件を呑むなら引き受ける」
「写真?別にかまわないけど……」
僕の写真なんて何に使うんだろ……?ま、まさか……!
「利光君……、という訳じゃないよね……?」
「…………久保は正気に戻った」
気になっていた事を聞くと、ムッツリーニはそう答える。そうか……、この世界では、彼はまともになったみたいだ……。彼はかけがえの無い友人だけど……、暴走すると島田さん以上に危険な人物になってしまう時がある。どうやら今回は問題ないみたいだ……、よかった……。
「…………まぁ、いいだろう。直ぐに見つかると思う」
そう言って、再び天井裏へと戻るムッツリーニ。凄いな……、呼んだ僕が言うのもなんだけど、まるで忍者みたいだ……。
「じゃ、お前の用は済んだ訳だな?それなら俺の方をてつだ……」
「「「今だッ!!」」」
その時、今まで隙を伺っていたのか、Fクラスの連中が僕達に向かって一斉に持っていた文具を投げつけてきた。
「クッ……!コイツら……!!」
雄二はそれらの文具をバットを使って叩き落し、僕は傍にあった卓袱台をとりひっくり返してそれを盾代わりにする。その隙を突き、彼らはそれぞれ、教室を飛び出していった。
「てめえらっ、逃げるんじゃねぇ!!クソッ、明久、手伝えッ!!」
「はいはい……、わかったよ……」
新たに増えた厄介事に溜息をつきながら、先にアイツらを捕まえるべく教室を出た雄二を追って、僕も教室を出るのだった……。
前回の更新からさらに2年……。申し訳御座いません。
どういう構想を考えていたか、記憶を辿りながら投稿した為、若干の違和感もあるかもしれません……。
実際、1話から読み直したところ、当時の文章はかなり酷く、恥ずかしい部分が多いので、時間ができたら、色々と訂正しようかと思っております。(特にエキシビジョンマッチの前)
また3点リーダやダッシュはもとより、○○side~や台詞の途中の「」、//の表記なども訂正する予定です。
一応、清涼祭のラストまでのプロットは出来ましたので、目処がついたら更新していきます。
それでは、久しぶりのサブストーリー、投稿致します。
とある時の明久の体験(5) 『~
「吉井、今日は悪いが俺は教えられん。当然、ここも使えんぞ」
開口一番、補習室の前で言われたのがこの言葉。
「……ここって補習室でしょ?勉強する為にあるんじゃないの?」
もう何度体験したかわからない繰り返しの中、あれほど嫌だった補習室に自ら通うようになったある時、僕は信じられない言葉を聞く。昔ならば小躍りして喜んだ事だろうが、今は事情が事情だ。僕は、もっと勉強がしたいのだ。
だというのに……、
「おかしいでしょ!?それが教師の言葉か!?」
「……かつてのお前からは考えられない言葉だが、まぁ一理あるな。尤も……、その勉強というのが小学校で習う算数でなければもっと良かったが……」
溜息をつきながらそう言う鉄人。し、失礼な!!勉強をやる気になっているという事に、もっと着目して貰いたいところだ。
「だが、仕方なかろう……。いくら頑丈な補習室とはいえ、整備も必要なのだ……。勉強したければ何もここに来る事もなかろう……」
「ここが一番集中できるんですよ!何回もここに連れてきた張本人が何を言うんですかッ!!」
しかしながらどれだけ粘ってみたところで、結果は変わらないらしい……。やれやれ……どうするか……。『今回』は自分の力を高める為に雄二や秀吉達とも距離を置いているし、基本的に他の人とは関わらずにいたから、正直目の前の鉄人くらいにしか話す相手もいない。……どうせ一定期間が経過したら『繰り返す』事になるんだろうから、親しくする訳にもいかないだろうけど……。
「あーあ、こうなったら高橋女史にでも教わるかな~。毎回むさ苦しい鉄人から教わっているというのも息苦しいしな~」
「私なら構いませんよ」
いきなり背後から聞こえてきた声に、驚いて振り返る。そこには……、
「全く……、教わっているという感謝を知らんのか、お前は……。まぁいい、高橋先生、そういう事ですので……、お願いできますかな?」
「ええ、引き受けました」
「え?……本当に?高橋先生、Aクラスで忙しいんじゃ……」
「いつもAクラスにいるという訳ではありませんよ。そもそも、Aクラスは自分で予習していく子が大半ですから、自習という事も多いのです。吉井君も2学年になり、真面目に勉強をするようになりましたから、私も教え甲斐があります」
じゃ、行きましょうか、そう促される。……そういえば、僕、高橋女史から教わるのは初めてだな……。そんな期待をして……、僕は高橋女史に付いて行くのだった……。
「…………先生、トイレに行きたいのですが……」
「先程行ってきたばかりでしょう?せめてこの問題を解いてからにして下さい」
あれからかれこれ3時間は経過したのだろうか……。僕は今、高橋女史からスパルタ……、いや違うな、超スパルタ授業を受けさせられていた……。まさか……、まさか鉄人の授業の方がまだやさしいと思う日がくるとは思わなかった……。
高橋女史は最初に僕のレベルを計り、自分が理解している部分まで遡り、そこから徐々にレベルを上げていく……、というスタンスをとっていた。内容自体はいいのだが……、それをほぼ休憩無く行われ……、半ば洗脳ではないかと思われるくらいギッチギチに覚え込まされていくものであった……。しかも、その手には何故か教鞭ならぬ、本物の鞭が握られ……、幾度と無くそれが振り下ろされてきたという訳だ。
まるでどこぞの女王様のような……、そんな錯覚にも襲われる。だけど、やらされているこちらとしては、たまったものではない。
「いや……、ちょっと集中力がですね……。途切れてきたので少し休憩を……」
その瞬間、ビシッと鞭が振り下ろされる。
「する必要がないくらい、集中力が沸いてきましたので大丈夫です」
「いい心がけです」
……勘弁してよ……本当に……。僕はSMとか、興味ないんだから……。それをもし口に出したら流石にとんでもない事になるから言わないけど……。
「……いい度胸ですね、吉井君。今日は、この本の内容を全て終えるまでは帰れないと思って下さい」
…………どうやらバッチリ口に出していたらしい……。これからが本当の地獄だ……そう覚悟したその時……、
「ん……?まだいたのか……」
そこに華奢な印象を受ける男子学生がやってくる。誰だろう……、こんな時間に高橋女史の部屋にやってくるなんて……。
「ああ、勇人君。ごめんなさい、先生はちょっと吉井君の勉強を見る為に遅くなりそうです」
「い……いや、この辺で終わっておきましょうよ!?もう7時は回ってますし、その……、家族の人じゃないんですか!?」
そう言って目の前の彼を指差しながら、僕は答える。
「……全く、人に向けて指差すとは……。本当にFクラスは常識がないな……」
「えっ!?君、僕がFクラスって知ってるの!?」
まさか同じ学年なのか……?でも、全然僕の記憶に無いけれど……。
「……お前を知らない奴はこの学園にはいない……。『観察処分者』なんて不名誉な称号を持たされた奴の事はな……」
「ああ……、そう言われれば、そうだね……」
僕が知らなくても、相手は知っているって事か……。まぁ、どんな世界になっても、その悪名は一人歩きしているらしい……。尤も、それが原因で何度も『繰り返し』ている訳だけど……。
その事実に、僕は長い溜息をつく。
「勇人君、貴方もそんな事を言ってはいけませんよ。吉井君も今では積極的に勉学を学ぼうとする、学生として恥ずかしくない生徒なのですから。……流石に頭脳が小学生レベルだったという事は擁護できませんが……」
そうフォロー……のようなものをしてくれる高橋女史。僕、褒められて……いるんだよね……?
「フン、まあいい……。だけど先生、もう7時をまわっている……。いくらソイツがバカだからとはいえ、それ以上続けてもソイツの為にはならないんじゃないか?」
すると、彼はそう助け舟を出してくれた。まぁバカというのは……聞かなかった事にしよう。折角の援護を無駄にする訳にもいかない。
「そ……そうですよ!明日!また明日にしましょう!だから今日はもう、このへんで……」
「……仕方ありませんね。じゃあ吉井君の言うとおり、続きは明日という事で」
ゑ!?明日もコレの続きを!?じょ、冗談じゃない……!
「い、いえ!明日は何時も通り鉄人に……!」
「補習室は暫く使用できません。それまでは私が貴方を見る事にします。途中で終わらせるのは気分が悪いので」
………………な、なんてことだ……。
「……お前、自分で墓穴を……。……まぁ、その状況については、同情する……」
そんな彼の声と共に、僕の肩を軽く叩かれるのを感じる……。
この時ばかりは、早く繰り返してくれ……そんな事を本気で思うのだった……。
とある時の明久の体験(5) 『~