次の道具の説明から正しい名称を答えなさい
『液体の体積を量るために用いられる縦に細長い円筒形の容器。ガラスやプラスチックで作られており、転倒を防ぐ広い底板と、注ぎ口をもつ器具』
姫路瑞希、木下優子、工藤愛子の答え
『メスシリンダー』
教師のコメント
正解です。実験器具の名称や使用法は基本知識としてとても重要なので、正しく覚えておいて損はありません。メモリを読む際の基準や注意点についても同様に覚えておくと良いでしょう。
土屋康太の答え
『メス シリ』
教師のコメント
いかに君が自分の興味のある部分しか見ていないのか、ということがよくわかりました。できればあと3文字『ンダー』も覚えて欲しかったところです。
吉井明久の答え
『メスフラスコ』
教師のコメント
うっかりミスでしょうか?メスフラスコは胴体部の平底の球体と長い首の部分から構成されている器具です。もう少ししっかりと問題を読みましょう。ただ、大分吉井君の化学の点数が上がってきたので先生は嬉しいです。
木下秀吉の答え
『試験管』
教師のコメント
それだと転倒してしまいます。問題文をしっかりと読み解答して下さい。あと、君の解答を見てお姉さんが後で話があるとの事です。
須川亮の答え
『目盛り付きガラス筒』
教師のコメント
君にはガッカリです。
「…………本当に貰っていいのか?」
「……ムッツリーニ、その台詞、もう5回目だよ?」
何度も確認してくるムッツリーニに少々呆れながらも、僕は答える。……ここは僕の家。試召戦争の時や先日の件も兼ねて、ムッツリーニに『お礼』の品を渡していた。……渡していたのはいいんだけど、ムッツリーニが信じられないといった顔で何度も確認を取ってきていた……。
「……あの時、言ったでしょ?僕の家にある本で、ムッツリーニが好きなモノを何でも持って行っていいって」
「…………確かに、そんなニュアンス的な事は言った……。でも、これはお前の持っているもの全部じゃないのか……?」
ムッツリーニの言うとおり、その聖典は今、僕の家にあるモノ全てと言っても過言ではない。存外に持って行ってもいいのか、と言っているのはそういう意味でもある。
「……そうだけどね、まあ僕にとって何度も見たものだからさ……、正直なところもういいって言うか……」
「…………その発言はどうかと思う」
「そんな事よりムッツリーニも午後から映画に行くんでしょ?一度家にそれを置きに行かないと……。まさか、持っていくとか言わないよね……?」
「…………ちょっとこの量は想定外だった」
先日のオリエンテーリング大会が終わり、最初の休日……。今日は午後より雄二達の付き添いで映画に見に行くことになっている。
『優子の弟君も参加するんだったら、ボクも行こうかな?なんか仲間外れみたいでやだし……』
そして工藤さんが選んだのが、ムッツリーニという訳だ……。それだったら一緒に行こうとムッツリーニを誘い、その前にウチに呼んでお礼の件をすませておこうと思ったのだ。
「……ダメだよ?ムッツリーニ。一緒に出掛けて、聖典持ってるのがバレたら、流石に……」
「…………待て、明久。俺は持っていくとは一言も言っていない」
「……ムッツリーニならやりかねないからさ……。一応、聞いてみただけだよ」
いかにも心外だという顔でこっちを見てくるムッツリーニ……。尤も、神出鬼没のムッツリーニの事だ。持っていったとしても、見つかるといるようなヘマはやらないとは思うけど……。そんな時……、
――ピンポーン♪
甲高い呼び鈴の音が僕の家に響く。
「ん?何だろう……。ちょっと待ってて、ムッツリーニ……。はーい。どちらさまですかー?」
返事をしながら玄関に向かい、鍵を外して扉を押し開けると、
「アキくんっ!!」
扉を押し開けた途端に、そこにいた人物が持っていた旅行鞄をほおりだし、僕に掴みかかってきた。…………よりにもよってバスローブ姿で。
「なっ!?ね、姉さん!?」
「…………どうした?あきひ……(ブシャァァッ)」
「ああっ!ムッツリーニ!?ちょ、ちょっと、姉さん!友人が大変な事になってるんだけどっ!?」
「……アキくんっ!貴方は大丈夫なんですか!?」
倒れたムッツリーニを介抱すべく、なんとか姉さんを落ち着かせようとするものの、姉さんは姉さんでいつも感じる余裕がない。……まあ、いきなり弟からあんな事を聞かされたら、姉さんが飛んで帰ってくる事はわかってはいたんだけど……、それでもまさか3時間と掛からず帰ってくるとは……。
…………服装がどうとか、本当に海外にいたのだろうかとか、色々ツッコミを入れたいところではあるんだけど、いつまでもガクガクと身体を揺らされていてはたまらない。だから僕は、姉さんに悪いと思いながらも強硬策をとる事にする。
「……と、とりあえず……っ!落ち着け――――っ!!」
「っ!?」
――吉井家に僕の大声が轟く。至近距離にいて、しかも耳元で大声を出された姉さんは流石に驚いたのか、僕を離してくれた。やれやれ……、ムッツリーニは大丈夫かな?
「……おーい、ムッツリーニー?大丈夫ー?」
僕の姉さんの姿を見て倒れてしまった友人を介抱する。……どんなに『繰り返し』ても、ムッツリーニのこれだけは変わらないな。……とりあえず輸血かな?そう思い、ムッツリーニの鞄の中にあった輸血パックを持ってきて、ムッツリーニの介抱をしていると、
「…………アキくん?これは何でしょうか……?」
「?何って、なに……が……」
いつの間にかショックから立ち直っていた姉さんが僕の後ろに立っていた。…………ムッツリーニにあげたばかりの
…………随分とややこしい事になってきたな……。(鼻)血だらけの友人、友人が来てるというのにバスローブ姿の姉さん、その手には聖典……。
…………はたして僕だけで説明できるのだろうか……?
「……で、アキくん。これは何ですか?」
とりあえず、ムッツリーニの介抱がすむまで待っていてくれたのはいいんだけど……。僕(何故かムッツリーニも)は正座で姉さんの前に座っている。……目の前には例の本が積みあがっている。
(…………明久、どうする気だ?)
(……どうするも何も……、下手な答え方をしたら燃やされるのは確実だよ……。とりあえず、僕に任せてくれる……?)
(…………わかった)
すぐさまアイコンタクトでムッツリーニと会話する。そして、彼の了承も得られたところで、僕は姉さんに向き直り、そして……、
「全部、彼のモノだよ?」
「…………!?(バッ)」
自分が売られたと思ったのだろう。血相を変えてこちらを見てくるムッツリーニ。
(……我慢してよ、ムッツリーニ。姉さんに冗談は通じないから、本当の事を言わないと……)
(…………!?だ、だが……!)
「……康太君、でしたよね?今、アキくんが言った事は本当ですか……?」
「…………ッ!?い……いや、それは……!!」
「……こう言ってますが?……それにこんな量の本を持ち歩くという事もあまり考えられませんけど……」
……マズイ、非常にマズイ……!姉さんの怒りのボルテージが上がってるのがわかる……!僕は再度、ムッツリーニとアイコンタクトをかわす。
(まずいよ、ムッツリーニ!姉さん、本気で本を燃やす気だ!そして、その後間違いなく折檻が……!!)
(…………だ、だがこのままこれが俺のだとわかれば……!)
……彼の物だとわかれば取り敢えず燃やされる事はないだろうが、友人の家に聖典を……、それも大量に持ってきたという変態の烙印を押されてしまうだろう……。ニックネームであるようにムッツリスケベの彼にはキツイかもしれないけど……、だけど……!
(……君の言う事もわかるけど……!ここは負けてよ、ムッツリーニ!……僕としてもムッツリーニにあげるモノを燃やされるって事はさけたいんだっ!)
(…………グッ!?)
……ムッツリーニの葛藤がこちらにも伝わってくる……!大量の聖典を持ち歩く変態と任命されるか、自分のモノになる筈の聖典を燃やされる事を選ぶか……!僕としては何としても前者に勝ってほしいけど……(後者だと僕にも肉体的な苦痛が与えられるから)……どうやら答えが出たらしい……!はたして……どっちだ……!?
「…………ッ!……クッ!!…………俺の、ですっ(ドバドバ)」
血の涙?を流しながら、姉さんに答えるムッツリーニ。………………そんなに自分のモノだと認めたくなかったのか……。
「……ですが、康太君はいつもこんな本を大量に持ち歩いているのですか……?」
「…………ッ!?……ッ!!…………そ、そう……、ですっ!」
「……もう勘弁してよ、姉さん……。確かにそれは僕のだった……。でも、もう見ての通り……彼にあげる約束をしていたから、もう、僕のじゃない……。後で家捜ししてもいいけど、もう家には一冊たりとも無いからさ……。お願いだから、それは見逃してよ……」
……あまりにムッツリーニが気の毒になったので、少し助け舟を出す。その言葉を聞きコクコクと頷くムッツリーニを見て、姉さんは溜息をつく。
「はぁ……、まあ、いいでしょう……。話が逸れてしまいましたね……、アキくん、今日のこのメールは一体何なのですか?」
姉さんが携帯を見せながら、僕を問い詰める。
「何って、その通りなんだけど……?」
「……いきなり『僕、大変な事になったけど、気にしないで下さい』なんてメールを送られたら、逆に心配になるでしょう!」
……僕なりに気を使ってメールを送ったんだけどな……。それに、
「……正直なところ、姉さんに伝えるべきかどうかは『いつも』悩むんだ……。だけど、今回は万全に行きたかったからさ……」
「…………明久」
「……何を言ってるのですか、アキくん……。とりあえずこのメールの説明を……」
「……姉さん」
姉さんの言葉を遮り、僕は姉さんにこう伝える……。
「I was involved in the trouble(僕はトラブルに巻き込まれたんだよ)」
「!?」
「It is a little troublesome trouble, that alone is difficult for me to solve (ちょっと厄介なトラブルでね……、僕一人では解決する事は難しいんだ) 」
急に英語で話し出す僕に、息を呑む姉さん。それはそうだろう、こんな事、普段の『僕』が言える訳がない……。手っ取り早く姉さんに説明するにはこうするのが一番だと、姉さん『本人』に言われたから……。
「……まさかこんなに早く帰ってこられるとは思わなかったけど…、今回も姉さんに力を貸してほしいから……。だからあんなメールを出したんだよ……」
「…………いったい何があったのですか……?アキくん……」
僕は未だ固まっている姉さんに、僕の身に起こっている現状を説明していった……。
「……そ、そんな……、そんな事が……」
一通り説明すると、姉さんは力なくその場に崩れる……。姉さんが自分の思っていた以上に僕の事を気にかけてくれている事は今までの経験上知っていた……。勿論、これは姉さんだけに限った事ではなく……、母さんや父さんもだけど……。
「……姉さん、この事は出来れば母さん達には伝えないでもらいたいんだ……」
「……アキくん……?」
「……前に一度、母さん達に知らせたんだけど、その時は大変な事になったから……」
……最初、僕の言う事を信じなかった母さん達だけど、話を聞いている内に僕がおかしい事がわかってきたのだろう……。すぐに家に帰ってきて、文月学園相手に訴訟を起こしてとんでもない事になった事があった……。結局は『腕輪』による『繰り返し』の事を証明できず、僕自身もそれ以上学園に通えなくなり、結果として条件を満たせずに『繰り返す』事となった……。
……母さん達がまさかあれほど僕に対し、過保護になるとは思わなかったし、僕の事を心配してくれたのは嬉しかったけど、伝えてまた同じ事になってしまっても困る……。
……『腕輪』を外すには、どうしても文月学園に通っている必要があるから……。
「……わかりました。とりあえず、この事は私の胸の内に仕舞っておきましょう……」
「……ありがとう、姉さん……。助かるよ……」
「……それより、アキくん……。アキくんは……、大丈夫なのですか……?」
……最近、本当によく聞かれるなあ……。まあ、大丈夫と言えば、大丈夫なんだけど……。
「……うん、もう慣れたしね……。少なくとも『今』は大丈夫だよ……」
僕がそう答えた時、
――ピンポーン♪
また呼び鈴の音が僕の家に鳴り響く。……なんか来客が多い日だなぁ……。
「…………俺が行く。明久達はここに……」
ムッツリーニが気を利かせてくれたのか、来客対応に行ってくれた……。
「……姉さん、今は僕もなんとかこの『腕輪』を外せるように最善の事をしているつもりさ……。さっきの質問じゃないけど、正直大丈夫じゃない時もあった……。だけど、今は大丈夫……。僕を心配してくれる人達がいるから。だから、大丈夫なんだよ、姉さん……」
「…………アキくん」
そう言って、姉さんが僕を抱き締める……。
「……しばらく見ないうちに、いい顔をするようになりましたね……。前から貴方は頭が悪くて、デリカシーもなく、ブサイク……。おまけに後先も考えずに行動を起こしてしまうバカな子でしたけど……」
…………そこは変わらないよね。まあ、ずっとそう言われてきたし、今更なんだけど……。
「……でも、貴方はそんな絶望的な状況であるにも関わらず、そんな顔ができる程、真っ直ぐでいる貴方を誇りに思います……。姉さんは少し安心しましたよ……。決して卑屈にならず、自分の決めた事をやり通す……、そんな覚悟を持った目をしてますから……」
「……姉さん、でも、僕だってこの『繰り返し』の中で、卑屈になった事だってあるよ……。一時期、前に進めなくなった事だって……」
「……普通そんな状況に置かれたら、誰だってそうなります……。そんな中でも、貴方は今こうしているじゃないですか……。それにいくら『変わった』といっても、それでも前から持っていたモノは変わらずにいると姉さんは思います……」
……姉さんにこうしてもらっていると心から落ち着いてくるのを感じる……。小さい頃からこうやって姉さんに育てられてきたから……、はふぅ……って、いけないいけない……。
「……それにしても、康太君、遅いですね……。一体誰が来たんでしょうか……」
……確かに遅いな……。僕達に気をつかっているにしても、誰が来たかくらいは知らせに来てもいいと思うけど……。
「……ちょっと見てくるよ……、その間に姉さんは着替えてきて……」
いつまでもバスローブ姿でいられても困る。渋る姉さんを部屋に押し込んで、玄関に向かうと……、
「あ、吉井君!」
「……土屋君が居る筈だからって聞いて、明久君の家に来てみたんだけど…」
「……さっきから、ムッツリーニが対応しておって、明久の事を話したがらなかったからの……、また何かあったのかと……」
……そこには優子さん達がいた。……姉さんが来たから、時間を忘れていたみたいだ……。
「……ムッツリーニ、上がってもらってもよかったのに……」
「………明久、お姉さんは?」
「着替えてもらってるよ、ってそう言う事か……」
改めてムッツリーニの気遣いに感謝する……。確かにあの恰好の姉さんを見られると、またややこしい事になりそうだしね……。
「ん?吉井君ってお姉さんがいたの?」
「明久に姉がいたとはのう……、今まで聞いた事はなかったが…」
「……うん、今日外国から帰ってきたんだけどね……」
……服装が普通の恰好ならすぐに紹介できたんだけど……。まあ、着替えてもらってるし大丈夫か……。でも……、僕は気付くべきだった……。姉さんの、『常識』の無さを完全に忘れていた……。
「アキくん……?どなたがいらっしゃったのですか?」
「ああ、姉さん。実は僕の……友達……が……!?」
姉さんの恰好を見た瞬間、僕たちは固まる。
→姉さんの恰好:【ナース服】
怪我や病気で苦しむ人を救おうとする志の高い人たちが主に着用する服。相手に清潔感や安心感を与えるが、決して自宅で、普段着として嗜む物ではない。
「……よ、吉井君のお姉さんって看護婦さんだったんだ……」
「……愛子、例えそうだとしても、家の中でその服装はないでしょう……!」
「姉さん!どうしてそんな服装でっ!?」
「……?貴方は何を騒いでいるのですか……?」
「アンタの恰好についてだよ!!なんでナース服なのさっ!?」
「…………ナ、ナース服……(ブシャァァッ)」
「ム、ムッツリーニよっ!?どうしたのじゃ!?気を確かに持つんじゃ!!」
「ちょ、土屋君!?大丈夫なのっ!?」
……色々とカオスな状況になってきた……。何故、どうして、こんな事に……!
「あら、康太君は一体どうしたのでしょうか……」
「姉さんっ!どうでもいいから着替えてきてよっ!!」
「……だから着替えてきたでしょう?それより康太君を……」
「アンタのせいでこんな事になってるんじゃないかっ!?いいからその服以外のモノに着替えてきてよ!!」
「……この服はダメだと言うのですか……?」
「ダメに決まってるじゃないかっ!?アウトだアウトッ!!」
「よ、吉井君っ!!ムッツリーニ君の鼻血が止まらないんだけどっ!?」
……姉さんを着替えさせている間に、なんとかムッツリーニを復活させ、姉さんには夕方には戻ると伝えると、これ以上酷くならない内に僕達はさっさと家を出る事にした……。
文章表現、訂正致しました。(2017.12.8)