以下の問いに答えなさい
『文月学園の“試験召喚システム”の要である“試験召喚獣”について考察しその特徴を述べよ』
一般的な文月学園生徒の答え(抜粋)
『制限時間ありのテストを受け、その点数によって試験召喚獣の強さが決まる。なので上位クラスの方が試召戦争の時に有利となる』
学園長のコメント
間違ってはいないよ。点数を取れた方が有利にはなる。……だけど過信は禁物さね。
ある学年、クラスの生徒の影響を受けた者の答え(抜粋)
『点数によって試験召喚獣の強さが決まるものの、操作に関しては自身の動きに反映されるのか、より具体的な操作をするには召喚獣と一体になっている感覚を持てればいいと思われる。さらには召喚獣も人体と同じく急所があり、そこを突かれると点数に関係なく戦死してしまうので注意が必要』
学園長のコメント
まあ、誰とは言わないけど、その通りさね……。まあ点数が高い方が有利にはなるから、しっかり勉強する事は忘れないように。
影響を与えた生徒の答え
『召喚獣の強さは点数によって決まる。操作に関しては召喚者との感覚が強ければ強い程、精度の高い操作ができる。『観察処分者』の召喚獣はフィードバックの為か、より感覚を共有しているので、その分操作しやすい。また『観察処分者』はシステムの別領域を走っている為、例えメインシステムがダウンしても関係なく召喚獣を呼び出せる。あとこれは僕の『腕輪』のせいなのか、何処でも召喚獣を呼び出す事ができる。そもそも召喚獣にも感情があるんじゃないかと僕は考えていて……(省略)』
学園長のコメント
よくそんなに詳しく書けたもんさね……。しかし、アタシでも知らない事があるとはね……。
ある女生徒の答え
『まず召喚者を沈め、その後で召喚獣を始末する』
学園長のコメント
……アンタ、ホントにウチの生徒かい……?因みに……、それは校則違反で懲罰の対象になるよ。覚えておきな……。
「お待たせしてすみませんでした、福原先生」
「いえ、いいのですよ、吉井君。では行きましょうか?」
「はい」
オリエンテーリング大会も終わり、その放課後、僕は福原先生の元を訪れていた。直接学園長室に行ってもよかったけど、福原先生には聞いておきたい事もあった。
「……福原先生、僕の事は……、聞いていらっしゃるのですか?」
Fクラスの担任が福原先生から西村先生に変わる話を聞き、僕は先生に尋ねてみる。
「……まあ、おおまかにではありますが……一応、貴方の『腕輪』の事は聞いてます」
「……そうですか」
……学園長がどこまで話したのかはわからないけど、福原先生は事情は知っているようだ。
「……すいません、福原先生。僕は……」
「おや?それは何に対しての謝罪でしょうか?ここ最近の吉井君からは謝られる覚えはありませんよ?」
「いえ、僕の話に巻き込んで……」
「吉井君、その『腕輪』の話は君のせいではないのでしょう?……むしろ、そのような事に巻き込んだ学園側の手落ちということになります……」
申し訳ありません……、そう言って一生徒に対して頭を下げる福原先生に、僕は尊敬の念を抱くと同時に、福原先生の事も思い出す……。
(……福原先生)
最初の印象はさえない先生としか捉えていなかったと思う……。西村先生や高橋先生のように目立つ方ではないし、むしろそんな先生がいたかな?、というのが僕のイメージだった。……でも福原先生は、見習わなければならない立派な先生だったんだ……。
『吉井君、どんな事があっても召喚獣で人を傷つけてはいけません』
『朝はちゃんとご飯を食べてきなさい』
『……設備を自分で調達する……。何もない、このFクラスの教室で……。この意味はわかりますか、吉井君……』
今までに何度、福原先生から諭されてきたかわからない……。ある時、僕が先生方に真剣に悩みを相談した時、学園長や西村先生、高橋先生と同じくらい真剣に聞いてくれた先生……。西村先生が熱い気持ちで生徒を指導してくれるのならば、福原先生は静かに冷静に生徒を導いてゆく先生だった……。
「ですが……、先生がFクラスの担任が変わられたのは……」
「おや、私は副担任になったというだけで、完全に変わった訳ではないのですよ?」
「それでも……。先生が担任でなくなったのは、僕のせいでしょう……?」
……基本的にFクラスの担任になっている事の多い福原先生……。問題児達のクラスを押し付けられているのか、と先生に聞いた事がある。
『……勿論、他の先生方があまりFクラスの担任になりたがらないという事もあります……。Fクラスは問題児たちの集まり、と認識されていますからね……。特に吉井君、君は我が校始まって以来の『観察処分者』ですし、入学式の時の件もあります。ですが君は……、いえ、君たちは文月学園の一生徒です。もし問題があるのならばそれを正していく、逆に素晴らしい事は褒めてのばしてゆく……。それこそが、本来我々教師の仕事であり、責務なのです。原則、自分で設備を何とかしていかなくてはならない、このFクラスで……、何かを掴み、また改めるところを学ぶために自分を見つめ直す……。そのきっかけになるのが、このクラスの担任である私の、やりがいのある仕事です。……私がFクラスの担任を持つようにしているのは、その為なのです』
……先生のFクラスへの、いや、生徒たちへの思いは深い……。最初Fクラスという、チョークすらも与えられないクラスにおいて、まず生徒たちに現実を教える……。そして、そこから生徒に現実を認めさせ、ここから這い上がる為に努力を促し、真剣になった時に骨身を惜しまずに協力してくれる……。僕も、その一人だった……。だからこそ……、
「……先生の、生徒への思いは知ってます……。それでも先生が担任を外され、西村先生に変わる……。もちろん、西村先生が嫌なわけではありません。ですが……」
「吉井君」
そこで僕の言葉が遮られる。福原先生の方を見ると、穏やかな顔をされて、僕を見ていた。
「君の気持ちはわかります。私をそのように見てくれるのは、教師としても嬉しい限りです。ですが、今回の件は特殊なケースなのです。君とFクラス内での現状を考えた上で、西村先生が担任となった方がいい…。それは学園長と……、私の判断から決定したのです」
「福原先生……」
「先日の一件も、もはや放置していればいい、という問題ではありません。君の『人生』がかかっている以上、常にFクラスを見ていく必要がある……。表に西村先生に立って頂き、私が裏からFクラスを見る……。それが一番なのですよ」
福原先生はそう言うと、僕の背中に手を当て、
「それにしても、まさか吉井君からこのような事を言ってもらえる日がくるとは思いませんでしたよ……。まあ、学園長も待っています。話はこれくらいにして……、行きましょうか」
こうして僕は福原先生に連れられながら、学園長室へと向かった。
「よく来たね、待ってたよ」
部屋に入るとそこには学園長の他、西村先生と高橋先生もいた。
「……学園長。何かわかったんですか?」
「……入ってくるなりいきなりだね。まあいい、先にソッチから話してしまおうかね……」
学園長はそう言うと、手元の機械を操作してその内容を見せる。
「……これは、腕輪、ですか?」
「ああ……、アンタの着けている『白金の腕輪』さね」
「これを見せる、という事は……、欠陥はなおったんですか?」
「問題だったところは解決できたんでね……。腕輪の内容もアンタの知っている事と同じかい?」
データを見ると、そこには『召喚フィールド作製型』と『同時召喚型』と書かれている。僕の持っていたのが『同時召喚型』……。腕輪の色は違うものの、まぎれもなく同じ腕輪だ。
「……そうですね。『同時召喚型』……。大丈夫なんですか……?こちらはもう一つの腕輪に比べて特に調整が難しいと聞いてたんですけど……」
「ああ、正直そのへんはあっさり解決したよ……。お前さんの腕輪がどうして解決できなかったのかが不思議なくらいさね……。まあ、アンタから事情を聴いてたからと言うのもあるだろうけどね……」
「……じゃあこれをまた『景品』にでもするんですか?もうすぐおこなわれる春の学園祭、『清涼祭』の……」
「……新技術は使って見せてナンボのものだからね……。ウチは試験校だからスポンサーの顔色を窺う必要があるのさ……。尤も、この間のエキシビジョンゲームはかなり評判が良かったから、急ぐ必要はないんだけどね」
……という事は、また召喚大会の景品となるのか……。正直なところ、直ったからといって自分がこんな目にあっている『腕輪』が配られるというのは複雑な気持ちなんだけど……。
「……まあ、仕方ありません。なおったというなら、僕がどうこう言う話ではないと思いますし」
「やっぱりアンタは反対かい?」
学園長が一生徒である僕の意見を窺うというのは、傍から見たらかなりおかしな事かもしれない……。でも……、その腕輪のせいで繰り返す事になっている僕から言わせてもらうとすると……、
「反対です」
「……アンタもはっきり言うねぇ。まあ、当然だろうけどね……」
「……学園長、差し出がましい事を言うようですが、私も召喚者に影響があるかも知れない物を与えるのはどうかと思いますが……」
高橋先生も学園長に進言してくれた。隣の西村先生も頷いているところを見ると、同じ意見のようだ。
「……アンタらの言いたい事もわかるが、これはもう決定事項なのさ……。教頭が如月グループと話を進めてしまってね……。アイツに経営の方を一任させていたからねぇ……」
「……教頭先生は知ってるんですか?『僕』の事を……」
「いや……、アンタの状況についてはここにいる3人以外には伝えてはいない……。アンタの話を聞く限り、高橋先生や福原先生には並々ならぬ敬意があるようだったからね。……他の教師には、アンタは真面目に勉強したいって言ってきたくらいしか伝えてないよ」
「……学園長室の盗聴器の件は、誰が仕掛けていたかわかりましたか?」
「……アンタは確か、それも竹原が仕掛けたんじゃないか、って話だったね。……ただ結論から言うと、証拠は残ってなかったよ」
……竹原教頭。『繰り返す』度に思うけど、ホントにあの人はいつも余計な事ばかりしてくれる気がする……。
「……今は大丈夫なんですよね?」
「そう思うさね。土屋がカメラや盗聴器防止の措置をしてくれているからね」
「……ムッツリーニの?」
「……アイツから申し出てきたんだよ。今までに自分が取り付けたカメラや盗聴器のデータを差し出す代わりに、それを学園の管理の元で使用することを認めてほしいってね……」
「生徒と取引まがいの事をするなんて普通はありえないのですが……、実際に土屋君の腕は本物で、彼のカメラや盗聴器には困っていたところでしたから……。結果として、文月学園のセキュリティレベルはかなり引き上げられる事になりました」
「……まあ、アイツも思うところがあったのだろう……」
……ムッツリーニ……。僕は彼の姿を思い浮かべ、心の中で礼を言う……。何だかんだで彼にも結構お世話になっているが、ここまでやってくれるとは珍しい……。そう言えば、ムッツリーニには試召戦争の時の報酬の事もあるし、その時にでもお礼をしないといけないな……。
「……だいたい、こちらは話し終わったよ。アンタの『腕輪』については、まだそれ以上の事はわかっていないしね……。逆にアンタが聞きたい事はないのかい?」
「……ある事はあったんですけど……、福原先生に聞きましたから……」
「そうかい……。まあ今回の決定は、西村先生の方がFクラスの連中に睨みを聞かせる意味でもいいと思ったからさ。それに……、福原先生にもやってもらいたい事もあるんでね……」
そうなんだ……。学園長の発言に少し疑問に思う事もあったけど、そこはとりあえず置いておく事にした。……いい加減、今日は色々動き回って疲れたし、病院にも行かなきゃいけないし……。学園長も他には何も進展がなかったようで、僕は挨拶だけして部屋を出て行こうとする。……が、途中で一つ思い出した。
「……そうだ。最後にもう一つ……。西村先生、この『チケット』の事ですが……」
僕は振り返りながら、西村先生に今日のオリエンテーリングで手に入れたチケットを見せる。
「……うん?何だそれは……!?……学園長、貴女は……」
「何だい……。吉井が見つけたのかい?それを……」
「……西村先生は知らなかったんですか……?じゃあ高橋先生も……」
僕は高橋先生の方を向くと、
「……私のもあるのですか……?学園長……」
「まあ、半分冗談だったんだけどね……。それは使っても使わなくてもかまわないよ……」
「……一応、使おうと思っています……。一週間分で、しかも授業免除とも書いてるし……。僕としては集中して勉強したいと思ってますから……」
「……ホントに去年までの吉井とは思えん言葉だな……。まあいい、俺の個人授業を受けたかったらいつでも来い」
快く了承してくれる西村先生を尻目に、高橋先生がおずおずと僕に聞いてくる。
「……吉井君、私の方のチケットは誰が手に入れたんですか?」
「……すみません、僕もたまたま西村先生のが手に入っただけで……。ただ、商品リストからは消えていたので、おそらく誰かが……」
「……学園長……」
「……アタシも全てを確認していたわけじゃないよ……。西村先生のだって吉井が手に入れてたとは知らなかったしね……。ま、アンタも応えてあげな。……スパルタでいいから」
……その学園長の言葉に身震いする。高橋先生のスパルタ講習……。一度受けた事があるが……、アレは思い出したくもない……。正直言うと、僕にしてみれば西村先生の地獄の補習の方が100倍マシだ。気が付くと高橋先生がこちらを見ていたので、話を逸らす意味で学園長に訊ねる……。
「学園長、恐ろしい事を言わないで下さい……!あんな思い、もう二度としたくないですよ!」
「……吉井君、貴方は私をそんな風に見ているのですか…」
……あれ?話を逸らす筈が……。なんか僕……、墓穴を掘ってない……?
「……吉井、お前は……」
「……やはり吉井君は、吉井君なのでしょうね……」
なんか西村先生や福原先生まで溜息をつきながらこちらを呆れたように見ている。…………ちょっと高橋先生の方は怖くて見れない……。
「……アンタの言う事はともかく……。どうだい、このオリエンテーリングは気分転換にはなったかい?」
そんな中、呆れた様子ながらも助け舟を出してくれた学園長の言葉に、
「……じゃあ今回のオリエンテーリング大会は……」
「……学園のパフォーマンスの一環ってところだけど、アンタにはいい気晴らしになったんじゃないかい?結構楽しんでいるようだったじゃないか?」
……やっぱり今回のオリエンテーリングはそう言った意図があったのか……。
「……商品に関しても、竹原がスポンサー経由でいろいろ持っていたからね……。中には結構豪華な賞品もあったようだから、皆、真面目に取り組んでいたようだし……」
「そうだったんですか……。まあ、楽しめましたよ……。僕の『腕輪』も使えましたしね……」
「?どういう事だい……?アンタの『腕輪』になんかあったのかい?」
「……学園長、吉井君は召喚獣の『腕輪』の事を言ってるんですよ」
「何だって……?アンタ、召喚獣に腕輪が使える程の教科があったのかい……!?」
……そんなに驚く事かな……?それに最初に僕、学園長には話したと思ったんだけど……。
「……『日本史』だったら、僕はもう400点は出せますよ……。あれ?もしかして福原先生……、わかっていて『日本史』のフィールドを……?」
「……西村先生から『日本史』ならかなりの点数をとれるようだと聞いてましたからね……。まあ、今回の召喚獣バトルではフィールドの選択もありませんでしたし……」
……有難う御座います、福原先生……。
そのおかげで僕は、ここで初めて『腕輪』を使う事ができたし……、雄二の『腕輪』も知る事が出来た……。あとは……、
「……他に無いようでしたら、今日のところはこれで失礼します。それではまた何かわかったら教えてください」
「……わかったよ。アンタもあまり無理はしないように」
そう言って僕は学園長室を後にする。……色々これからやらなければならない事はある。だけど……、
「……とりあえず今日は疲れたし……、病院に行くか……。もうギブスも取れる筈だし……、そろそろ伝えないといけないしね……」
今後の事を考えながら一人ごちると、僕はそのまま病院に向かった……。
「……学園長、どうして吉井に言わなかったのです?『腕輪』の事を……」
吉井が出て行ってすぐに、西村先生からそう声が掛かる……。そちらを見ると高橋先生や福原先生も同じようにこちらを見ていた……。
「……まだ詳しい事はわかっていないんだ……。アレが、はたしてどういったモノなのか……。『白金の腕輪』の不具合や吉井の『腕輪』の問題にかまけていた事もあるけど、少なくともアタシは関知していないからね……」
「ですが、学園長ではないとすると……」
眼鏡をあげながら聞いてくる高橋先生を尻目に、アタシは手元の機械を操作する……。
「……アイツがアレをどこから調達してきたのかはわからない……。正直、『腕輪』関連の開発はアタシが主導に考えてきたはずなのさ……」
「……先程、学園長が言った事の意味はわかりました……。出来る限り調べてみる事にしましょう……」
「……すまないね、福原先生……。どうせアイツを問い詰めてものらりくらりとかわしてしまうだろうしね……」
アタシが操作を終えると、その場面が映し出される……。
「……アレがどんなものかは正直わからないさね……、ここで見たところでは、『召喚フィールド作製型』と同じ効果のようだけどね……」
「……とりあえず、土屋に伝えておきましょう……。そして、アレを手にした生徒と、調べられるならその効力を……」
そのまま西村先生に続き、高橋先生たちも出て行く……。
(……これは一体どういう事なのか……?アタシの知らない試験召喚システムの技術……。吉井が『繰り返し』ている事と何か関係が……?今までに吉井にこんな事があったか聞いてみたいとも思うが……、とりあえず様子を見てみるしかないさね……)
……端末の乱れた画面と所々で途切れた音声の中で……、でも確かに幾人かの生徒達が、自分の把握していない『黒っぽい腕輪』を見つけ、その効果を試している場面が映し出されていた……。
文章表現、訂正致しました。(2017.12.8)