バカとテストと召喚獣~新たな始まり~   作:時斗

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文章表現、訂正致しました。(2017.12.5)


第33話 EクラスVSFクラス (番外4-2)

 

 

 

「どうやったらこういった動きが出来るんだ……?」

「……ああ、そこはこうやって……」

「吉井!次は俺にも教えてくれ!!」

「待て!次は俺だぞ!!」

「私よ!ずっと吉井君が空くの待ってるんだから!」

 

 

(……これは……本当に『試召戦争』なのかのう……)

 

 

 主に戦場となったのは、臨時に空き部屋を利用しているFクラスの教室内……。本来であれば、相手に攻め込まれている状況なので、危機的状況にあるのじゃが……、その光景はとても『試召戦争』とは思えないものだった……。

 ……というのは見ての通り、ワシらに集中して挑んでくるものの……、その殆どが自分の召喚獣の動き方を学ぶもの……といったようなものじゃった……。勿論、戦闘も行われてはおる……。

 

 

 

【保健体育】

Eクラス-三上 美子 (112点)

Eクラス-大村 新太郎(142点)

Eクラス-古川 あゆみ(102点)

VS

Fクラス-原田 信孝 (0点)

Fクラス-朝倉 正弘 (0点)

Fクラス-有働 住吉 (0点)

 

 

 

「戦死者は補習だ!!」

「「「な、何故だ~~!!」」」

 

 

 ……単純な点数差でいえば、Eクラスの方が上……。さらにEクラスは運動系の部活動を行っている者が多い為、保健体育の点はDクラス並みであり、現フィールドも大島教諭の『保健体育』となっておる……。

 

 

「木下か!俺との勝負、受けてもらうぜ!!」

「ムッ!受けて立つぞい!!」

 

 

 

【保健体育】

Eクラス-園村 俊哉(154点)

VS

Fクラス-木下 秀吉(61点)

 

 

 

 点数は相手の方が高いものの、相手を窺いながら隙をさぐる……。尤も、相手も馬鹿みたいに突進してくる訳ではなく、自分の武器にあわせ、部活動で培ってきた力を召喚獣に発揮させようとしてくる為、なかなか隙をつけない……。

 

 

(相手の武器は…バットじゃと!?)

 

 

「いくぜ……!そらっ!!」

 

 

 何処からかボールを取り出し、千本ノックのように飛ばしてくる!

 

 

「なんの!」

 

 

 ワシはノックの嵐をかわしながら相手に近付くと、急所に目掛けて薙刀を振るう。

 

 

 

Eクラス-園村 俊哉(0点)

 

 

 

「戦死者は補習!」

「チェッ、駄目か……。次は、負けねえからな!」

「ふう……」

 

 

 相手を倒し、ワシは一息ついていると、

 

 

「クッ……!数学の教師はまだ来ないの……!?」

 

 

 隣で愚痴っておる島田を一瞥して、溜息をつきながらワシは答える。

 

 

「……島田よ。そもそもウチは教師を呼んでいない筈じゃ……。今回はあくまで相手のペースで戦う……。それが雄二の決定じゃからのう……」

「な、何でよ!?どうして坂本はそんな事……!」

「……試召戦争前に、代表である雄二が言っておったじゃろう?今回は、相手も召喚獣の操作を目的にFクラス(ウチ)に挑んできた……。じゃからワシらも、今後の為に相手にあわせ、『点数』ではなく『動き』で立ち回るように、とのう……」

 

 

(まあ……、明久の願いでこうなったとは言えんがの……)

 

 

 そんな事を言ったら、またいらん事を明久に仕掛けるじゃろうから……。それはさておき……、ワシらも出来るだけ相手の動きにあわせて戦っておる……。保健体育の点数が高いムッツリーニは大変そうじゃが、出来るだけ瞬殺させることなく動きを意識して立ち回っておる。……尤も、ムッツリーニに向かって行くような命知らずは数えるくらいしかおらんがの……。そして、万が一に備えて雄二の護衛も出来るよう、ワシと共に今回は近衛部隊の周りに配備されているのですぐに救援に向かえるようにはしておるが……。

 

 

「……このままじゃ戦死しちゃう……!木下、ちょっとここは任せるわ……!」

「ちょ、ちょっと待つのじゃ、島田よ……!いったい何処へ……!?」

「もうウチは保健体育の点数がないのよ……!ちょっと教師を連れてくる……!」

「……全く、……アイツには部隊長は任せられねえな……」

 

 

 そう言いながら現場を離れる島田を見て、溜息をつきながら雄二がそう呟く。ワシも心の中でそれに賛同しつつ、もう一人の部隊長である明久を見ると……、

 

 

「……明久……」

 

 

 ……Eクラスの面々が順番待ちのように列を作っておった……。よく見てみると、明久が相手の質問に一つ一つ答え、それを相手が試し、やがて明久が攻撃……、そういった攻防が続いておった……。実際、明久の召喚獣は全くダメージを受けておらんかったのじゃが……、それでも次々と挑戦者が現れる……。

 

 

 

【保健体育】

Eクラス-湯浅 弘文(0点)

VS

Fクラス-吉井 明久(141点)

 

 

 

「うわ――!負けた――!!」

「補習!」

「次は俺だ!!」

「私がずっと待ってたのよ!!」

「えーい!邪魔するな!」

 

 

(……なんか、仲間割れになっとらんかの……?)

 

 

 様子を見ておると、だんだんそんな雰囲気になってきており……、そこへEクラスの代表である中林が止めに入るのじゃが……。

 

 

「ちょっとあなたたち……!」

「「「「代表は黙ってて(くれ)っ!!」」」」

 

 

 ……代表の言葉すらも従えない様子で、ついに同士討ちがおこるかと思われたそんな時……、

 

 

「……おのれら、何やっとんのや……?」

 

 

 そんなところに『文月の剣聖』と呼ばれる片岡が、戦場に現れたのじゃ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……か、片岡……」

「……今回おのれらの召喚技術を見直す為に試召戦争を起こしたいゆうたな……。それにはワイも賛成した……。ワイも知りとう事もあったさかい……。せやけど……、なんやこの状況は……!」

 

 

 仲間割れを起こしかけていたEクラスだったが、奴が来てそれが収まる……。『文月の剣聖』、伊達ではないという事か……。

 

 

「戦争中にも関わらず、仲間割れ……。挙句の果てが代表の命令も無視かい……。いったい……、おのれらは何考えとんのじゃ!!」

 

 

 ……同士討ちをしようとしていた連中が俯く。

 

 

「……迷惑かけたの、吉井。自分もそんな対応せんでええのに……」

「僕は、迷惑だなんて思ってないよ……」

「さよか……。まあええ、これはEクラスの不始末や……。けじめはつけさせてもらうで。……今、同士討ちしようとした奴は前にでてきいや……」

 

 

 その言葉に複数人、前に出てくる。そして、その連中に……、

 

 

「……これで全員か……?ならええ、……おのれらは全員、戦死扱いで補習室行けや」

「「「「なっ!?」」」」

「……当り前やろ?これは仮にも『試召戦争』や……。当然ルールもある……。そん中でも、『同士討ち』など一番やっちゃアカン事やろが……。おまけに命令無視……。救いようがないで、ホンマ……」

「「「「…………」」」」

 

 

 ……それを聞き、何も言う事が出来ないEクラスの面々……。まあ、当然と言えば当然だろう……。文月学園において、『試召戦争』は生徒の権利。そこには従うべきルールが存在する。勿論、それに従いたくない場合は、明久が最初、俺に言ってきた通り、そのクラスの代表に申し出て、試召戦争を辞退する事も出来る……。が、試召戦争を行なっている以上、故意による同士討ちはご法度だ……。

 

 

「……なんなら何か?ワイが直接、補習室へ送ってやろか?」

「「「「い、いえ。補習室に向かいます!!」」」」

 

 

 片岡の物言いに素直に従うEクラスの面々。……余程、片岡が怖いのか……。

 

 

「……ほな、西村せんせ。お願いしますわ」

「わかった。じゃあお前ら、ついてこい」

「「「「はい……」」」」

 

 

 おとなしく補習室へ向かって行く。……それを見送ると俺達の方へ向き直り、

 

 

「ウチのモンが失礼したな。……とりあえずコレで許してくれや、吉井に……、坂本」

「許すも何も……、ねえ、雄二……」

「ああ……、俺は何もしてないしな……」

 

 

 俺もこう答えるしかない……。…まあ、なんとか纏まったのか……?

 

 

「……おおきに。じゃあ今度はワイと戦ってくれへんか?……ワイも自分には色々聞きとう事もあったからの……」

「……いいよ。科目は、どうする?」

「今の『保健体育』でええ……。ほな……、Eクラス片岡浩平、これよりFクラスの吉井に試召戦争を申し込むわ。……試獣召喚(サモン)

 

 

 

【保健体育】

Eクラス-片岡 浩平(185点)

 

 

 

 ……結構、点数高いな……。召喚獣の装備は……、明久と殆ど同じ……。違うのは改造学ランではなく……、袴である事か…。そこにムッツリーニが俺に耳打ちしてくる……。

 

 

「…………確か奴は400点を越えた教科もある」

「何だと!?という事は……」

 

 

 『腕輪持ち』か……。今回の科目はそうではなかったようだが……、しかし、何故Eクラスにそんな奴がいるんだ……?

 

 

「…………それは俺にもわからない。どうも噂だと、途中退席した生徒を追って、自分も試験を放り出した為とか……」

「……途中退席……?」

 

 

 それならば姫路のように無得点扱いとなる筈だが……。訳ありという事か……。まぁ、今そんな事を言っていても仕方が無い……。明久達の方を見ると、お互い召喚獣が武器を構えたまま対峙しているところだった……。

 

 

「さてと……、昨日の自分の試合見て不思議やったのは、召喚獣が『剣気』を放っとった事や……。まさか召喚獣でそげんな事が出来ようとはの……」

「……やり方は、わかる……?」

「ワイがやるようにすればええんか……?召喚獣に放たせるには……」

「召喚獣は自分の想像通りに動く……。ある程度は召喚者とリンクしているからね……。召喚獣に『剣気』を放たせるイメージを持って、君も一緒に『剣気』を放ってみたらどうかな?」

「……難しいの……、まあええ。……こんな感じやろか……?」

 

 

 そう言って、片岡が雰囲気が変わる……!クッ……、これは想像以上だ……!そもそも、『気』なんてオカルトちっくなモノだと思っていたが……、それを言ってしまったら、この学園の存在意義まで無くなってしまうから、あえて考えないようにする。だが、片岡から確かに放たれている覇気のようなものに、他の連中も試召戦争どころではなくなってしまった……。

 

 

「……うん、召喚獣も確かに『剣気』を放っているよ……。ただ、君の『剣気』が強すぎてあまり感じられないかもしれないけどね……」

 

 

 ……よく明久は平気でいられるな……。俺はともかく、秀吉やムッツリーニも苦しそうなのにな……。

 

 

「……じゃあ、僕も出すよ……!」

 

 

 そう言うと、明久の雰囲気も変わる……!これは……、昨日の試合での覇気か……!?

 

 

「あ……明久!?怪我もしとるのに……、大丈夫なのかの……!?」

「……大丈夫だよ、秀吉……。今回は、ね……。フィードバックも、一応気を付けてる……」

「……そういえば、自分、フィードバックがあったの……。大丈夫かいな……?」

「気にしないでいいよ……。それより……、『一本勝負』しようか…」

「ワイに『一本勝負』のう……。『剣気』を放てるといい、ほんま、ただモノやないな……。1年の時に、転校したてとはいえ、お前に気付かんかったのは不覚やったわ……」

 

 

 片岡が明久に答えるかのように改めて召喚獣に構えさせる……。お互いに上段構えで……。今にも動こうとする、そんな時……、

 

 

「待たせたわね、みん……な……」

 

 

 数学の教師である木内教諭を連れて戻ってきた島田、その言葉を合図に反応して二人が同時に動く……!

 

 

 

【保健体育】

Eクラス-片岡 浩平(0点)

VS

Fクラス-吉井 明久(0点)

 

 

 

「あ……相打ちか……!」

 

 

……お互いが互いの頭に木刀を叩きつけ、いずれもその点数を無くしていた……。あの……明久がな……。

 

 

「……痛つつ……!」

「……フィードバックか?自分、大丈夫か?」

「……まあ、これくらいならね……。大丈夫だよ……」

 

 

 そうは言うが明久の奴……、思いっきり痛そうに頭を抑えているが……。

 

 

「……そんな状態になるのがわかってて、ワイと立ち会ったんか……?」

「……」

 

 

 そして秀吉たちも、明久の下へ行き……、

 

 

「……明久よ」

「…………お前という奴は……」

「……そんなに睨まないでよ、秀吉、ムッツリーニも……。どうしても……、戦いたかったんだ……」

「……ま、お主のバカは、今に始まった事ではないがの……」

「…………同感」

 

 

 溜息をつきながら、秀吉とムッツリーニが明久の具合を見ている……。ま、アイツらの言うとおり、本当に明久ときたら……。

 

 

「……おい、バカ明久」

「……雄二もそんな事を……。本当に、悪かったよ……」

 

 

 と言う明久だったが……、正直悪いと思ってる顔じゃねえぞ……。後の事は俺に任せるってか……?全く、勝手なもんだ……。

 

 

「…………吉井」

「……西村先生まで……。本当に勘弁してくださいよ……。それより、僕も戦死したんで補習室へ……」

「……まあいい、二人ともついてこい」

 

 

 そんな中、明久がこちらを見る。

 

 

「……わあったよ。後は……、任せておけ……」

「うん……。後は任せたよ、雄二……」

 

 

 お前に言われなくても……後は、俺が上手く纏めてやる!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ムッツリーニよ……」

「…………秀吉、後は雄二に任せよう」

「うむ……、しかし、まさか明久が戦死するとはの……」

「…………明久も負け知らずという訳ではない。むしろ……何度も負けて、今のアイツのようになった筈だ……」

 

 

 …………少なくとも去年までとは比べようがないが。

 

 

「……そろそろ終わりにしないか?中林……」

 

 

 俺達の見守る中、雄二がEクラスの代表へそう提案する。

 

 

「そうね……、そちらは吉井君、こっちも片岡君がいなくなったし……。じゃあ折角だから最後は代表同士で決めない?」

「そうだな……、ここまでやって俺が出ないのもな……」

 

 

 ………まあ、大丈夫だろう。今の雄二(アイツ)ならば……。

 

 

「大丈夫かの、雄二……」

「心配するな、秀吉。アイツに任された以上はなんとかするさ……。あとはまあ……、代表としてのケジメ、だな……」

 

 

 こんなところで躓く訳にはいかねえだろ……、そう言いながら、雄二は中林の前に立つ……。

 

 

「折角、島田が教師を連れてきてくれたんだ……。その教科でもいいか?」

「ええ……。この際文句を言うつもりはないわ」

「そうか、じゃあ木内先生、召喚許可を!」

「わかりました。承認します」

「「試獣召喚(サモン)!」」

 

 

 

【数学】

Eクラス-中林 宏美(109点)

VS

Fクラス-坂本 雄二(221点)

 

 

 

「まさか、そんなに点数が高いなんてね……。とてもFクラスとは思えないわ……」

「まあ色々思うところがあってな……。それより操作性を学びたいんだろう?……いいぜ、やってみな!」

「じゃあお言葉に甘えて……、いくわよ!!」

 

 

 召喚獣の手にしたテニスのラケットを構えて、雄二に打ち出す。それを雄二は一つ一つ見極め、かわしてゆく。しかし、何発かはかわしきれず点数を削られていた……。心配そうにそれを見守っている秀吉に声をかける……。

 

 

「…………心配するな、秀吉。アイツは、決める時は決める奴だ」

「……そうじゃの」

 

 

 ある程度、中林の動きに合わせて回避を中心に動いていた雄二だったが、

 

 

「……じゃあ、そろそろ行くぜ!!」

 

 

 そう言って、一気に相手に近付き、そして……、

 

 

「な!?」

「ふきとべやっ!!」

 

 

 渾身の一撃を中林の心臓部へ叩きつけた……!

 

 

 

【数学】

Eクラス-中林 宏美(0点)

VS

Fクラス-坂本 雄二(181点)

 

 

 

「そこまで!勝者、Fクラス!!」

 

 

 立会いの先生がそう宣言し、こうしてEクラスとの試合に決着をつけたのであった。

 

 

 

 




とある時の明久の体験(4) 『~文月の剣聖~2』



「まだまだやな、明久」
「なにお~!今度こそ勝ってみせるっ!!」
「はんっ!100年はやいわっ!!」


 一緒に剣を学ぶようになってから数ヶ月、僕と浩平いつしか何でも話す仲になっていた……。試召戦争はそこそこに、今回は完全に剣道にのめり込んでいた。……雄二達も最初は冷やかしてきていたが、僕が本気だとわかるとあまり茶化しても来なくなっていき、先生方も真面目に取り組む僕をみて、あまり『観察処分者』の仕事を振らなくなっていた……。ただ、この事に関して言えば……、学園長には最低限の事情を話しているという事もあるかもしれないけど……。この間も体育祭と重なって、剣道部の個人での強化合宿があり、僕と浩平はそちらに参加していた。

 とはいっても、召喚獣の操作時は、覚えた事、そしてその応用ができるか、検証する事も忘れない……。僕の召喚獣は、何処でも召喚する事ができる……。それを、最大限活かしていた……。
 そして……、また月日が流れ……、


「片岡、吉井。剣道部は任せたぞ!」
「ええ、今回こそは全国一になってみせますわ!!」
「安心して卒業して下さい!先輩!!」


 ――お世話になった3年生の引退、そして卒業……。いつの間にか、僕も浩平に次ぐ実力を持つようになっていた……。


「……さて、ほなまた稽古をしよか、明久!!」
「そうだね、いくぞ、浩平!!」


 どんな厳しい練習、どこの修行だよと思うような特訓にも耐えてきた……。どんな時も浩平と一緒に……。苦しい時も、辛い時も……。
 あまりに夢中になっていたので……、何処かで忘れていたのかもしれない……。『腕輪』の輝く時が最近多くなり、そして……、その間隔が短くなっていた事を……。


「……そうか……、もう……、そんな時期なんだ……」


 今回、僕は剣の修行に任せて、ほとんど条件らしい条件を満たしていないだろう……。『行動』の条件に関しては、僕の思うようにやっていたから、今回は問題ないのだろうけど……。『繰り返し』の3番目の条件である『期限』が……、刻一刻と迫っているようだった……。



 ――浩平に、話すべきか……。



 もう……、僕は浩平の事を単なる友達とは思えなくなっていた……。修行仲間にして、ライバル……、どんな時も一緒に頑張って、何でも話すようになっていた親友……。そして……、今回の『繰り返し』が終われば……、もうここまで彼と関わる事もないだろう……。この『腕輪』の外すまでは……。あまり『腕輪』を外す事と関係ない動きは取れないから……。
 それに何より……、剣一筋の浩平と、剣道部を通さなかったら、……ここまで仲良くなることは出来ないだろう……。



 ――僕は今後、浩平とは深く関われない…!



 その事が深く、僕の心にのしかかっていた……。そしてもう一つの問題……。この事を……最後に話すかどうか……。今まで……、黙ってきたのに……?





「どないしたんや、明久。昨日も稽古に来んと……。どないしてん?」
「浩平……」
「……何かあったんか?」


 ……恐らく、もう何日と『期限』も無い……。僕は、浩平に話す事にした……。





「……そんなら何か?もう自分には時間がのうて……、あと数日もしたら消えてしもうと……?」
「……消えるかどうかは分からないけど……。少なくとも僕は……」
「ふざけんなやっ!!」


 胸倉を掴まれ、壁に叩きつけられる……。激しい怒気……、本気で……怒っている……。


「今更、今更何言うとんのや!!ふざけとんのかっ、明久!!おのれは……!こないな事……!なんで今まで黙ってきたんやっ!!」
「…………ゴメン」
「自分とは、ずっと隠し事もなくやってきたつもりやった……!!それを……それを……!!」


 そんな彼を前に……、僕は何も言えなかった……。言う事は出来なかった……。


「……何とか言えやっ!!」


 バキィッ……!!ガシャ――ン……!!


 ぶん殴られ、机を巻き込み吹き飛ばされる……。浩平は肩で息を切らしながらこちらを睨みつけている……。


「……ごめん……。もっと前に……、いや、最初に言うべきだった……。本当に……ごめん……」


 それしか、僕には言う事が出来なかった……。暫く教室に流れる沈黙……。
 それがどれくらい続いたのか、やがて浩平は踵を返し、教室を出て行こうとする……。


「浩平……」
「……もうええわ。……明久……、もうおのれと、話す事はない……」
「…………浩平……」


 そして、彼は出て行った……。





 あれから、僕は剣道場には行けなかった……。彼とも……、距離を置いている……。今更、どの顔をして会えばいいかも分からないからだ……。他のクラスメイトも……、僕達の仲を心配しているようだ……。
 僕は、そっと『腕輪』を見る……。


「……もう、今日くらいが、限界……かな……」


 隠してはいるものの、もう他の人でも気になる位、腕輪が反応している……。『期限』は恐らく……、僕が始めて『繰り返す』事となった日の前後……。あんまり覚えてはいないけど……、直感的に今日あたりと僕は思っている。……多分、このまま別れる事になるのだろう……。


(だけど……、その方がいいかもしれない……)


 二度と深く関われない相手だ……。僕も辛いが、浩平も辛いだろう……。このまま……、別れた方がお互いの為かもしれない……。
 最後の時をどう過ごすか、そんな事を考えていたところ、ふと、自分の机に一通の手紙?が入っているのに気付いた……。こんな時に誰が……、そう思いながら手紙を開けてみると……、



 ――本日19時、文月学園剣道場にて待つ    片岡 浩平――



 そんな文面の果たし状が僕の机に入っていたのだ……。




とある時の明久の体験(4) 『~文月の剣聖~2』 終

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