大分明久が落ち着いてきたところで、いよいよ本題に入ろう……。
「さて……、今回こそ明久の『繰り返し』を断ち切ると意見が一致したところで……、いくつか確認したいところがある」
俺はそう前置きすると、
「まず明久、先程の『条件』のところで思ったんだが……」
「……何だい?雄二」
俺は明久の話を聞いて疑問に思った事を聞いてみる事にする。
「まずはその『繰り返し』の条件というのはわかった。お前の『行動』と生死に関わる時に発動する『自己防衛』。そして『期限』か……。その3つ、と思ってていいんだな?」
まずは、その『繰り返す』条件を知っておかないと話にならない。
「……そうだね。まだ知らない条件もあるのかもしれないけれど……、把握しているのはその3つだよ」
「そうか……、だが、それらの条件だって何回も繰り返して知った事なんだろ?とりあえず聞いておきたいんだが……、明久、現在のところ……お前は一体
「それなんだけど……、学園長」
そこで明久は、今まで黙っていた
「……なんだい」
「昨日話していた件、どうでした?」
「……ああ、例の話かい?」
学園長はそれを聞くと端末を操作する。
「……例の話?」
「……腕輪を持った高得点者の召喚獣を倒した時に吉井の腕輪が反応すると聞かせれていたのさ。……ちょっと待ってな」
皆の疑問を代表して高橋が質問すると、
「……奇しくも今日の試合で、佐藤さんが腕輪を持っていましたからね……。それで反応があれば……」
「ああ、あったよ。……確かに反応していたようだね」
そこで観察処分者の情報を見せてもらう。
「アンタが佐藤を倒した瞬間、観察処分者のデータが反応している……。あと試合の時の画像もあるはずさ……」
そして再び端末を操作すると、ちょうど今日の明久たちの試合風景が表示される。そして……、明久の召喚獣が佐藤を倒した瞬間、腕輪が『蒼く』反応していた。尤も、しばらくしたら、また元の『真紅の腕輪』に戻ってしまったが……。
「これは……」
「……前回までの体験で、学園長が調べてくれていてわかった事なんだけどね。以前何人か『腕輪持ち』の召喚獣を倒した時に、観察処分者のデータが何らかの反応をしたって聞いて。……恐らくは『腕輪』を外す為の条件の一つだと思う。ただ、他にもそう言う条件があるのかどうかはわかっていないんだけど……」
「…………それであの時、俺に『腕輪持ち』のデータを集めさせたのか」
話を聞いていたムッツリーニがそう言うと、明久に何らかのメモを渡す。
「…………これが今までに分かっている『腕輪持ち』のデータだ」
「ありがとう……、ムッツリーニ。大変だったでしょ?」
「…………そうでもない」
「うん、本当に助かるよ。……僕は『戻った』らまず出来るだけ状況を分析する事にしているんだ……。『繰り返す』度にその『腕輪持ち』の人や数が変わったり、学園の状況が若干だけど異なったりする事があるからね……」
そう言いながら、明久はそのデータに目を通していく。……そうか、一応どうすればいいかの対策はわかっているという事か……。だったら……、
「……じゃあそのデータをもとに、お前と戦わせていけばいいのか?」
「……まあ、できればいいとは思うけど……、雄二、『腕輪持ち』の人を倒すという事がどれだけ大変か……、わかってる?」
……まあ、普通に考えたら無理だろうな。だが……、
「……お前だったら何とかなるだろう?さっきの試合でもそうだったじゃないか……」
「……そう言えばまだ説明してなかったね……。ムッツリーニや優子さん達の言う通り、僕の左腕は骨折している……。雄二にはこの理由……わかる?」
……そういえば、何故だ?……単純に召喚獣の……フィードバック……?しかし、それにしてもコイツは佐藤との勝負で傷ついた様子などなかったが……。骨折したのは左腕。武器を持ち攻撃していたのも左腕……!?
「あ……明久君……、まさか……!」
「……多分、それであってると思うよ、優子さん……。僕の腕はあの試合、正確には佐藤さんの攻撃をかわす為に、木刀を地面に突き刺した時、その反動で折れたんだ……」
「じゃ、じゃが明久、いくら観察処分者仕様じゃといっても、それくらいの衝撃で骨折するなど……!」
……まさかと思った通り、どうやらそれが骨折の原因のようだが、秀吉の言う通り、そんな行為くらいで骨折するようなフィードバック等あるわけがない……。もしあったとしたら、観察処分者の仕事など、出来るわけがないからだ……。だが、明久の言葉は、俺の想像を超えていた……。
「……普通のフィードバックならね……。ただ、言ってなかったけど、この『腕輪』をつけている限り、僕はフィードバックを調整する事ができる……。完全にフィードバックを無くす事は出来ないけど……。それで、さっきの試合ではそれを限界まで引き上げていたのさ……。少しでも召喚獣が傷つけば、100%以上のフィードバックがくるようにね……。そうでもしないと『
「な、何でそんな事を……!明久君、君は……」
久保の疑問は尤もだ。そんな事で骨折するくらいのフィードバックだったら、もし攻撃が当たっていれば……!?
「……ちょっといいか、明久。あの時、西村先生が止めに入ったな。それはもしかすると……!」
俺が気付いた事実を、代わりに高橋が聞いてくれる。コ、コイツ、まさか……!
「……そうだよ勇人……。西村先生が止めたのは知っていたからさ。もし、一度でも攻撃を受けていたら、僕は間違いなく『繰り返し』ていた。……文字通り、『命懸け』だったんだよ……、あの試合は……」
「ちょ、ちょっと!明久君ッ!?」
「あ、明久!?お主、一体何を考えとるんじゃ!?」
その事実に、わかっていたのか、
「テメェ、明久!!『繰り返す』かもしれないとわかってて、何でこんな事をした!?
「…………坂本、だったね。さっき吉井が言ってた『繰り返し』の条件を言ってみな……」
く、繰り返しの条件だと!?いったい……、
「……確かに攻撃が当たれば『自己防衛』の条件で『繰り返し』ていた……。でもね、雄二……。僕は今回、『全力』で戦うと言ったよね……?」
「だから、それが何だと……」
「……僕は『全力』で戦うと決めていた……。だから、僕はその意思に従っていただけだよ……。僕が決めた事……、それに従って『行動』する……。自分が後悔しない様に……!」
「そ……それは……!」
「そうさ、僕は『行動』によって『繰り返さ』ないようにしていたのさ……。だから、あの試合では全力で戦う必要があった……」
……どうやら、俺が考えている以上に、ずっとやっかいな条件だな……。何回『繰り返して』いるか、明久は言いたがらないが、この分だと相当数『繰り返して』いる筈だ……。どんなに変わってもコイツが『
秀吉、木下、それに翔子もそれを聞き、悲痛な表情になっている……。という事は、明久から下手に目を離せない事になる。……目を離した隙に、どんな無茶をやるか、わかったものじゃない……。
「……まあ少し話が逸れたけど……、それだけ高点数者の人、それも『腕輪持ち』の人と戦うのは厳しいんだ……。いくら操作性の高さで急所を狙うといっても、点数差による召喚獣の能力も違うものだから簡単にいくわけもない……。それは実際に戦ってみた雄二や秀吉ならわかるでしょ……?」
「それは……そうじゃが……」
「確かに……もう一度戦えといわれても、勝てる自信はねえな……」
……もう一度、翔子と戦ったら、正直勝てる自信はない……。引き分けられるかもわからねえ……。
「……今回のように召喚獣の『
「……吉井。それならワザと負ければ……」
「……そうだね……。他の人にも事情を話して、明久君と戦ってもらえば……」
翔子と久保がそう提案するも、明久はゆっくりと首を横にふる……。
「いや……それは無理なんだ。相手が本気で来ないと、『腕輪』は反応しない……。違うな、本気で戦っているって、『僕』がわからないと意味がない……。それは前の体験でわかってるんだ……。だから……、ちゃんと本気で勝ちに来ている相手に勝たなければいけない……」
……成程、つくづく厄介な『腕輪』だな……。そもそも本当に単なる腕輪の暴走でこうなるもんなのか……?まあ、現実なっているのだから仕方ないかもしれないが……。
「とりあえず……、今は佐藤さんと、姫路さんの2人を倒す事には成功している……。だから知っている限りの高得点者と戦っていきたいという思いもあるんだけど……、それには試召戦争では効率が悪すぎる……」
「……それはやっぱり、不確定の要素が強すぎるからか?」
「うん……、今回、姫路さんはクラス内の模擬試召戦争で運よく倒す事ができたけど……、やっぱり試召戦争じゃ制限が強すぎるからね……。上手く腕輪を持っている人と戦えるかわからないし、僕だって毎回勝てるとは思っていない……。それに雄二の言った通り、1対1じゃないから不確定の要素が強すぎる……」
……それでは試召戦争以外で、召喚獣を戦わすきっかけのようなものを作る必要がある。かといっても、そんな事すぐに意見が出る筈もない……。むしろ試召戦争がこの学園のベースになっているようなものなのだから、それを否定してしまってもはじまらない……。色々意見も出たが纏まらず、いつの間にかいい時間になってしまっていた……。
「もうこんな時間か……。今日はこんなところだな……」
これ以上話していても纏まらないと踏んだ俺は、とりあえず今日のところは解散すると言うと、すぐにある2人が明久に近付く。
「じゃあ明久君、病院に行くわよ!」
「そうじゃ、その腕はかなりの重傷なんじゃからの!」
「2人とも、落ち着いてよ……。別に逃げやしないから……」
木下姉弟に連れられ、明久は出て行った。その様子を視界におさめながら、俺は思案にふける。
(だが、冗談抜きでかなり厳しい状況ではあるな……。まあ、出来るだけやってみるしかないが……)
「……雄二」
そんな時、翔子が俺に話しかけてくる……。
「……翔子か、どうした?」
「……その……、雄二……、一緒に……っ」
モジモジしながら話しかけてくる翔子の様子に、苦笑しながら答える。
「……もう帰り支度はできたのか?」
「……!う、うん!」
「そうか、じゃあ帰るぞ、翔子」
俺がそう言うと、翔子は嬉しそうに俺の後をついてくる。その様子に俺は可愛く思いながら、その日は翔子と一緒に帰宅の途についた……。
――文月学園近くの病院
「まあ思ったよりも悪い状態ではなかったの」
「……とはいっても『全治1ヶ月』だけどね……」
「あ、あはは……」
明久君に付き添って、医者の診断を聞くと、『全治1ヶ月』との回答を貰う……。
「まあ……、この程度ですめば良かったかな……」
「……そう思うなら、あまり無理しないでよね……」
「そうじゃ……。先程の話には吃驚したぞい……。まさか、あの試合にそこまでの危険が潜んでいたとはのう……」
無理するなと言っても、それを抑えて『繰り返し』てもらっても困る。だから私達としては何て言ったらいいのかわからなくなる……。
「……でも、本当に『繰り返し』ちゃうの……?その……、明久君の意思に反する『行動』をとっちゃったりすると……」
「……うん、間違いない……。それがわかった時、僕は後悔したよ……。そのせいで、『2人』と別れる事になったから……」
「……それは以前の話、かの……?」
秀吉の言葉に静かに肯定する。彼のどこか悲哀に満ちた様子に私はどこか胸を締め付けられそうになる……。
「……今日はゴメンね。こんな話を聞かせる事になって……。特に優子さんは……、後悔していない……?」
「!後悔なんて……っ!」
「……そう?ならいいんだけどね……」
何かを気にしている様子に戸惑うも、私は返事をする。明久君は、そんな空気を切り上げるように、
「あれ、もうこんなところか……。ありがとう、2人とも。ここでいいよ。じゃあまた明日!」
「明久よ、あまり無理しないようにの!」
「じゃあまた明日ね、明久君!」
そう言って、ギブスをつけた明久君は帰っていく……。
彼の背中が見えなくなってきたところで、秀吉が私に聞いてくる。
「……さっきの『2人』というのは……」
「多分、アンタと……アタシの事ね……」
あの明久君の様子だと、おそらくそうなのだろう……。私達の事をどこか悲しそうに見ていたし……。
「姉上……、ここ最近、気になっておったのじゃが……」
「……わかってるわよ、秀吉……。アンタが言いたい事はね……」
私も今日、はっきりと自覚したから……。明久君の事は、ね……。
「明久は……、今回こそ乗り越える事は……、出来るんじゃろうか……」
「……もう、繰り返させはしない……。アタシが、させない……!」
「……そうじゃな。もう、明久にはあんな顔をしてほしくないのじゃ……。それに、姉上の為にも、の……」
「…………いい度胸ね、秀吉……」
「す……すまなかったのじゃ、姉上!」
「……ハァ、まあいいわ……。今日のところは、ね……」
そうして私と秀吉は、今後の行く末を案じながら、明久君が帰って行った方をいつまでも見つめていた……。