バカとテストと召喚獣~新たな始まり~   作:時斗

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文章表現、訂正致しました。(2017.12.2)


第26話 最終試合 霧島翔子VS坂本雄二(後編)

 

(……駄目だ、このままではッ!!)

 

 

 また翔子からの攻撃をかわしきれずに点数に補正が入る。いまや翔子との点数差は4倍に近い程、差が出来ていた……。

 

 

 

【日本史】

Aクラス-霧島 翔子(197点)

VS

Fクラス-坂本 雄二(53点)

 

 

 

 ……翔子に「わかった」と言われた時より、俺の攻撃はほとんど当たらなくなり、一方的に翔子の召喚獣に削られていく状況となってしまっていた……。翔子に攻撃が当たる時は、カウンター気味に放ったメリケンサックが軽く当たった程度のもので、それ以外では全く攻撃を当てる事が出来ない……。逆に翔子からの日本刀は掠るだけでも点数をかなり削られ、状況、点数ともに追い込められる事となってしまっていた……。

 

 

(……確かにもとより不利な状況ではあったが、何故ここまでやられる!?……どうしてこんな手も足も出ない状態になっているんだ!?)

 

 

 焦燥感に苛まれている事を自覚し、俺は状況を冷静に判断しようと、一度翔子の召喚獣より距離をとる。……幸い、翔子も深追いはしてこないで、冷静に俺の様子を窺っているようだった。正直これ以上やられたら明久でもない限り、逆転できるとは思えない……。むしろ、逆転可能なのかと言われると、全く自信が無い……。

 

 

(……明久、か……)

 

 

 そこに、ここ最近、特に思う事の多い俺の悪友にして親友の事を思い出す……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 最初に様子がおかしいと思ったのは2学年になり、クラス分けがおこなわれたあの日……。Fクラスに入ってきた時から、どこかいつもと違っていた……。何が違っているかと言われれば、全部が違うと答えられる程だ……。

 

 

 ……俺の知っている明久ならば、こんな真面目で落ち着いた雰囲気を放てるはずがない。

 ……俺の知っている明久ならば、常識的な、説得力のある言葉など言える訳がない。

 ……俺の知っている明久ならば、『バカ』をやらない日が、1日とてある筈がない。

 ……他にも挙げていたらキリがない程、明久は変わってしまっていた……。

 

 

 ……最初は気が触れたんじゃないかと思った。姿かたちだけが明久の別人じゃないかと思った事もある。だが……、全く変わっていなかったものもあった……。

 

 

 

 

『……僕は、君が不幸になりそうだったら、何とかしてそれを阻止しようとするよ……。雄二には……、幸せになってほしいからね……』

『……雄二の言うとおり、他人の僕がこれ以上霧島さんとの事を強く言う事は出来ないけれど……、出来れば向き合ってほしい……。さっきも言ったけど……、雄二と霧島さんなら恥ずかしいと思う事はないよ。……もし笑う奴がいたり、その想いを否定する奴がいたら……、僕はソイツを『本気』で叩き潰す……ッ!』

 

 

 

 

 ……その対象が、俺と、翔子だったという事には驚いている……。しかしながら、これは明久が持っていたものだ……。そして……、俺が欲しくて……、どうしょうもなく手に入れたいと願ったもの……。

 

 ――バカで、何も考えないで、怒るべき時に怒る事ができる。それでいて自分がバカにされても、……どういう状況に置かれていても、自分の意思を貫きとおす。……ただひたすら他人の為に……。

 

 

 ……秀吉やムッツリーニからは聞いていた。いつもと違うが、『明久』は『明久』であると……。所々で明久らしいところもあり、そうなのだろうとは思っていた……。だが俺はあの『言葉』を聞いて、コイツは『明久』であると確信した。

 

 

(……あんな事を言える奴が、出来る奴が何人もいたらたまらねぇ……!)

 

 

 ……同時に、自分の探し求めていた答えが見えてくる……。

 

 

 俺は……、明久が羨ましかった……。自分の信念に対し、純粋に、真剣に、バカみたいに行動できる明久の事が……。

 先程の試合でも何らかの無理をしたのだろう……。骨折しているとしか思えない怪我を負いながらも……、アイツは全力で戦っていた……。

 

 

 ――俺は、どうしたらその思いに答えられる? どうすれば、その『答え』を、欲しかった『モノ』をこの手に掴む事ができる?

 秀吉が、明久が、ムッツリーニがそれぞれ証明したように、俺も証明したい……。俺の欲しかったものを、手に入れたかったもの、この手に掴むために……!

 ……俺に何か残されているものはないのか?付け焼刃とはいえ点数を上げる為に、『神童』と呼ばれた時の何分の一かでも集中力を発揮させて勉強した。最低限の召喚獣の操作も学んだ……。この胸の内にある思いを隠さずに、真正面から翔子との戦いに臨んだ……!これ以上、俺にできる事がはたしてあるのか……?

 

 

 俺には秀吉のように、自分の全てをかけられるような事に取り組んだ事もなければ、ムッツリーニのように1つの事を極限まで極めようとした事もない……。まして、罰則であるハズの観察処分者という立場を利用し、召喚獣の操作技術をあそこまで扱えるようにするなんて考えられもしない……。俺は……、あの出来事から『悪鬼羅刹』と呼ばれるようになる程、無駄な時間を過ごしていたのだ……。

 

 

 

 

『……雄二、自分を否定するなよ?』

 

 

 

 

 そんな時、ふと先程の明久の言葉が頭をよぎる……。

 

 

 

 

『……霧島さんと戦っている時、多分いろいろと考える事があると思うけど……、その時に自分を否定したら駄目だ……。今まで、雄二が考えていた事、その理由、そして……、その想いを持って戦ってほしい……』

 

 

 

 

(……自分を……否定するな、か……)

 

 

 俺は考えてみる。はたして、今まで俺が歩んできた道程、それは本当に無駄な事だったのか、と……。

 

 

(……無駄な時間?本当にそうか?……俺は間違っていたのか?)

 

 

 

 ――俺はあの日、あの時、学力では、『神童』と呼ばれた力では翔子を助ける事が出来なかった。……動けずにいた……。

 

 

『……私、転校なんてしたくない……っ!』

 

 

 ……あの翔子の心からの思いを聞いた瞬間、俺は弾かれた様に動かされたのだ。それは何故か……?決まっている……、翔子の『思い』を聞いていたからだ……。ここから離れたくないという思い。……自分が苛められそうなのに、酷い事をされそうなのにも関わらず……。そして、その言葉の中にある、俺への『想い』も……。

 ……翔子は強い。……咄嗟の時に、自分の身よりも、その心を貫き通せる程に……。それに比べて……俺は弱い……。震えて動けない、情けなく弱い自分が嫌だった。強くなりてぇと思った……!あの強い翔子に負けないくらい、強い自分になりたかった。そして……、強い自分になって…………!

 

 

(……なんだ……、そういう事かよ……)

 

 

 その思いに至った時、俺はようやくわかった気がした。……何の事はない、最初から答えは目の前にあったのだ。……ただ気付こうとしなかった、気付きたくなかっただけで……。

 今まで励んでいた勉強から距離をとり、身体を鍛え、苦手だった喧嘩をしてみたりした。……それは何故か……?

 ……あの時の思いを繰り返したくなかったからだ。もし次に同じような事がおこった時、今度はすぐに助けに行けるように……。

 

 同時に翔子から距離をとったのは、弱い自分が許せず、もしそれで翔子が離れるならば、翔子の為にもその方が良いと、俺は思っていたからだ……。こんな弱い自分と一緒にいる事が、翔子にとって良い筈がねぇ。ましてや『悪鬼羅刹』とまで呼ばれるようになった俺と一緒にいる事など……。

 

 だが、翔子は離れて行かなかった。俺が無視しても、どんなに遠ざけようとしても、アイツは決して離れようとはしなかった……。そして……、今もアイツはその想いをぶつけてきている……。こんな……俺の為に……!

 

 だったら、俺も応えよう……。今こそ、その『答え』をしめす時だっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、俺は覚悟が決まった。そして現状を冷静に分析する。……翔子との点数差は今や約4倍。普通に戦っていたら勝てない……。だから、俺は今までの、『悪鬼羅刹』と呼ばれていた時に培った経験を活かす事にした。

 

 

「……!?ゆ……雄二……?」

 

 

 翔子の戸惑ったような声が聞こえる。……俺は召喚獣にメリケンサックを外させ、それを地面に投げ捨てさせた。そして召喚獣を出来るだけ自然体にさせる。覇気や殺気といったモノを消し去り、ただ翔子の召喚獣に相対させた。

 

 

「……ッ!」

「……いくら俺の動きを読めるといっても、これは流石に読めないだろう?翔子……」

 

 

 ……俺は基本的に自分から喧嘩を売った事は殆どない。……従って相手から仕掛けてきたのに合わせて手を出す、というのが俺のスタイルだった。だいたい因縁をつけてくる連中はたいした奴はいない……。普通に相手すればすぐに終わる奴ばっかりだったが、中には手強い奴もいる。……そんな時に俺がとる戦法、それがこれだ。

 ――相手の攻撃に防御する事を考えずに、あえて攻撃を受ける事でその隙を見つけ出す。そしてそこへ己の全てを込めたカウンターを決めるという捨て身の戦法……。

 ……ただ相手の攻撃を無防備な身体に受ける為に、その威力を受け流せる体制にする必要がある。だから俺は武器を外し、殺気やらを抑え、ひたすら冷静に相手を見据え、自然体を意識する。

 ……翔子にもわかったようだ。……カウンターは相手の攻撃が大きければ大きいほど、こちらが有利になる。今や4倍近くも点数差が開き、元々の攻撃威力も高い翔子からしてみれば、これ程恐ろしい戦法はない……。

 翔子は武器を構えたまま、動けない。当然、俺も動かない……。その緊張感が伝わったのか、会場中が静寂に支配される。そんな中、不意に翔子と目があった。不安そうな、それでいて何かを探るような瞳……。

 

 

(……随分と心配させちまったようだな……。だが……もう大丈夫だ、翔子……)

 

 

「!……わかった、雄二……!」

 

 

 翔子は俺の表情から何かを読み取ったのか、静かに召喚獣を構え直した。そして、ゆっくりと俺の召喚獣との距離を測る……。おそらく、小細工なしで……、必殺の一撃を放つために……。俺もその一撃を受ける覚悟を固め、それでいてその攻撃を受け流せるように、自分が召喚獣であるかのように全神経を集中し、翔子を窺った。

 ジリジリとした緊張感に包まれた空気に、会場で息を呑む音が聞こえる中、ついに翔子が動きを見せる。地を蹴り、高速で迫りながら、俺に袈裟切りを仕掛けようとしていた。俺は捨て身の覚悟を持って、翔子の攻撃を受け流そうとそれに合わせる。やがて召喚獣に日本刀が振り下ろされ、俺はその瞬間、翔子にできた隙を見つけ、そこへ右拳を突き出させた……!

 

 

 

【日本史】

Aクラス-霧島 翔子(0点)

VS

Fクラス-坂本 雄二(7点)

 

 

 

 ……俺の召喚獣は翔子の日本刀で大きく傷付けられたものの、急所だけは上手く受け流す事ができたようで、僅かに点数が残っていたようだ。そして……、翔子の召喚獣には俺の突き出した拳が、心臓部へと突き刺さり、点数は「0」と表示され消滅していった……。

 

 

「勝負ありましたっ!最終試合、Aクラス代表、霧島翔子VSFクラス代表、坂本雄二。勝者、Fクラス、坂本雄二!!――これにより2年AクラスVS2年Fクラスのエキシビジョンゲームは、2勝1敗2引き分けにてFクラスの勝利となります!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 興奮鳴りやまぬ会場、万雷の拍手喝采の中で、俺は翔子の傍へと足を進めた。

 

 

「……雄二……」

「……ずいぶん待たせたな、翔子……。俺はもう……大丈夫だ……」

 

 

 その言葉に反応する翔子を見ながら、俺は続ける……。

 

 

「……俺は大丈夫だ……。お前が全力で向かってきてくれたおかげで、俺はようやく気付く事ができた……。あの時わかった自分の弱さ……。それを克服する為に、俺はずっと探し続けていた……。信じられなくなった自分を、認める事ができるものを……。その『答え』を……」

 

 

 ……この試合を通して、俺にそれを見つけてもらいたいという翔子の想いは伝わってきた……。召喚獣に込められた一撃、一撃に想いが込められていた……。だから、俺は見つけられたんだ。その『答え』を……。

 

 

「そして……、俺は『答え』を見つける事ができた……。俺が一番手に入れたかったものは、この手に掴みたかったものは何かという『答え』を、な。……今まで心配かけさせて悪かったな、翔子……」

「……雄二ッ!」

 

 

 その言葉に、涙ながらに俺に飛びつく翔子。俺はそれを抱き留めながら、翔子に訊ねる……。

 

 

「……本当に俺でいいのか?……後で、後悔することはないのか……?」

「……うんっ、……私には……っ、雄二しかいないっ……!」

 

 

 俺の胸板に顔を埋めながら涙交じりに絞り出した翔子のその言葉を聞き、俺は静かに彼女を抱き締める……。胸の中で泣きじゃくる翔子を大切に、傷つけてしまわない様に、俺はただ優しく撫で続けた……。

 

 

 

 

 


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