バカとテストと召喚獣~新たな始まり~   作:時斗

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文章表現、訂正致しました。(2017.12.2)


第21話 第一試合 木下優子VS木下秀吉

【古典】

Aクラス-木下 優子(328点)

VS

Fクラス-木下 秀吉(131点)

 

 

 

 それぞれの点数が表示されると、会場全体が盛り上がった。中にはワシの点数に驚く者もいるようじゃ。

 

 

「……大分点数が上がったわね、秀吉」

「……遠く姉上には及ばんがのう……。ワシが短時間で点数を上げられそうな教科といったら、……これしかなかったのでな……」

 

 

 ワシは初日、Dクラスとの試召戦争を終えてより、『古典』を重点的に勉強した。……ワシなりに勉強したというのもあるが、前に劇で演じた際に『古典』の物語が多く存在した、というのも取り組んだ理由じゃった。内容さえわかれば、原文が読めずとも点数はとれる……。まあ、雄二たちが起こす試召戦争でワシも役に立ちたかったというのもあるのじゃが……。

 

 

「……少なくとも、Fクラスの点数じゃないわよ?まあ……、どんな点数だったとしても、アタシは手を抜く気はないけどね……」

 

 

 点数を見てみてもわかるのじゃが、やはり姉上は凄い……。一卵性双生児ではないのじゃが、外見は家族であってもワシと姉上を間違える時もある。……さすがに性格は違うのじゃがの……。じゃが……、ワシと姉上は似ている。……こと『演じる』という事において……。そして……、姉上はいろんな意味で、ワシの目標じゃった。

 

 

「じゃあいくわよ!秀吉!!」

「……ッ!!来るのじゃ!!姉上!!」

 

 

 すぐさま姉上が召喚獣を操ってワシに迫る。そして姉上から突き出されるランスを出来るだけ最小限の動きでかわし、薙刀を一閃させる。じゃが姉上もすぐに引いた為、掠っただけ。若干の点数に補正が入るものの、たいしたダメージではない。

 

 

「あっさりとかわしたのう……。もうちょっと動かすのに苦労しているかと思ったのじゃが……」

「……成程ね。確かに召喚獣に意識を移す……というところかしらね……」

「……!?ま……まさか……、姉上……?」

「……アンタも言ってたじゃない……、『召喚獣に成り切る』って。……アンタだけじゃないのよ?『演技』が上手いのはね……!」

 

 

 そう言うと、姉上の召喚獣はランスを振りかざすと、一気にワシの召喚獣に襲いかかってきた。さらに単純な突撃という訳ではなく、巧みな槍裁きや、隙を見てワシの召喚獣を掴もうとしてくる。ワシは出来るだけ攻撃をかわそうとするが、全てをかわす事はできない為、受け流すなどしていると、反撃はしているものの少しずつ点数を削られていった。そしてワシの召喚獣は姉上の召喚獣に腕を取られると、そのまま関節技を掛けられそうになる。

 

 

(まずいのじゃ!!)

 

 

 ワシは地面を蹴らせ、腕を極められる前になんとか姉上から離れる事に成功するも、無理にひねったせいか大分点数を持って行かれた。

 

 

 

【古典】

Aクラス-木下 優子(264点)

VS

Fクラス-木下 秀吉(89点)

 

 

 

「流石にやるわね……。だけど、このままじゃ勝てないわよ?」

「……姉上がここまで『操作』できるとは思わなかったのじゃ……」

 

 

 ここでワシは一息つく。精神を集中し、動揺しているワシの心を落ち着かせながら、ワシはこの試合にかける思い、決意を再度思い出していた……。

 

 

 

 ……姉上は何でも出来た。ワシには出来ない事を……姉上は出来た……。

 ここ文月学園のAクラス、それもトップ10に入っている点数を誇る姉上。また運動神経も抜群で、芸術部門にも感性がある。……まあ猫を被っているところもあり、弱点が無いわけでもないものの、基本『優等生』であり、教師からの信頼もあつい。

 ……それに引き換え、ワシは最底辺()クラス……。『演劇部のホープ』と呼ばれてはいるものの、文月学園では学力が全てであり、それ以外の事は些細なものとして扱われる……。

 ワシには『演劇』が全て。その思いが変わるわけじゃない。……じゃが、心のどこかで姉上と自分の差を認識しているワシがいた……。

 

 

 

 大分冷静さを取り戻したワシは、選手の控え席に座っている明久を見る。

 

 

(……明久……)

 

 

 2学年に上がって以来、どこか前と変わってしまった明久を見ていた。……尤も、最初は何かあったのかくらいの心配じゃった。じゃが……、明久を見ているうちに心配の内容が変わっていった。

 

 

(アヤツは……、まるで人が変わってしまったかの様な雰囲気を持っておった。……それでいて、誰かの為に今も無理をしながら必死になっているかのように見えたのじゃ……。まるで……、自分が苦しい事を……隠すかのように……)

 

 

 アヤツが話せないという以上、ワシはそれより深くは聞けなかった。アヤツの苦しみを分かってやりたいと思いながら……。

 それでいて……、Dクラス戦時、召喚獣の操作に悩んでいた時に、ワシに明久に言われた言葉を思い出す……。

 

 

 

 

『大丈夫だよ、秀吉は魅力的だから』

『……今の台詞は、ワシを女子扱いしている訳じゃあないだろうの……?』

『違うって……。秀吉は演劇という自分のやりたい事に打ち込んでいるじゃない?それだって、好きな事に一所懸命頑張って努力しているからこそ『演劇部のホープ』として認められるようになったんだよね?だったら、……何も自分を卑下する事はないよ』

『……あ、明久……お主……!』

『だから、秀吉ならできる、召喚獣を理解し、召喚獣に成りきれる……!まるで自分が召喚獣になったかのように演じられるよ、今まで必死に努力してきた秀吉なら!』

 

 

 

 ……それでいて、明久は見抜いておった……。ワシの……ワシのポーカーフェイスに隠され、心の奥にあった『苦悩』に……。そして、明久はワシの心の底にあった自分の苦しみを拾い上げ、自分の信念をかけていた演劇を『認めて』くれていた……。

 だから……、ワシはその想いに答えてみせる……!ワシが打ち込んできた、今までの全てを込めて……!

 

 

 

「さて、秀吉……、そろそろ決めさせてもら……っ!」

 

 

 姉上がワシを見て、途中で話を切る。……ワシの集中力が高まっているのがわかったのじゃろう……。

 

 

「……姉上、少し驚かされたが……、言ったじゃろう?」

 

 

 一呼吸おいて、ワシは姉上を見つめ、答える。

 

 

「ワシは……、『負けん』、と!」

「ッ!!秀吉……ッ!」

 

 

 ……これでもう先程までとは違う。今のワシに既に……、『迷い』はない!

 

 

 ――学力だけが全てじゃない――

 

 

(ワシは、それを教えてくれた明久たちの為にも……、今まで培ってきた全てを込めて、今姉上を超える!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また点数に補正が入る。あれから私の攻撃は秀吉に当たらなくなってしまった……。

 あの時、秀吉の中で燻っていた何かが吹っ切れたのだろう……。ランスを突き出しても、秀吉のまるで舞踊を舞うかのような動きに攻撃は悉く空を切り、その度に秀吉の薙刀がアタシの召喚獣をかすめていった。……その動きはまるで秀吉が召喚獣と一体になっているかのようだ。

 

 

「ホント、凄いわね……。召喚獣に成り切ってしまってる……」

 

 私はひとりごちると体裁を整える為、一度秀吉から離れる。秀吉も警戒しているのか、追い打ちを掛けてはこなかった。

 

 

「ふぅ……」

 

 私は秀吉の召喚獣に成り切っている様子を見て、ある思いが頭をもたげてきた……。

 

 

 

 ――私は今まで常に自分を偽ってきた。……優等生を、『演じて』きた……。

 ……優等生が嫌だった訳では無い。学園の生徒の代表として恥ずかしくないように振る舞ってきたし、先生方からの信頼も嬉しかった。

 ……だけど、それは本当の『私』ではない……。皆が見ているのは優等生の『木下優子』であって、本当の『木下優子』じゃない…。

 ……本当の私は、正直いって優等生から懸け離れている……。横暴で、ズボラだし、弟である秀吉に折檻を行う事もある……、さらにはちょっと人には言えない趣味を持っているという事も……。

 でも皆はそんな『私』を知らない……。優等生の『私』が演じているものだという事を知らないから……。

 だから私、は『演じる』という事に抵抗を感じている……。

 

 

 でも、秀吉は逆に『演じる』という事に意義を見出し、それに向かって一所懸命に取り組んでいった。……だからなのだろう、そんな秀吉に皆、魅力を感じるのは……。

 ………………優等生を演じる、『私』よりも……。

 

 

 

「ゆくぞ、姉上!!」

 

 

 今度は秀吉が薙刀を翳しながら、私の召喚獣に向かって突進してくる。私はそれを回避させるが、振り向きざまに薙刀を振るわれ、また点数を減らしてしまう。

 

 

「ッ……まずいわね……!」

 

 

 このままじゃ、確実に負けてしまう。……負ける?それが頭によぎった瞬間、アタシの心から湧き上がってくる感情があった。

 

 

(……負けたくないっ!!)

 

 

 代表が私に任せてくれた……。Aクラスの皆も、試合のメンバーとして私を選んでくれた……。その思いに答える為にも、絶対に負けるわけにはいかない……!

 でも、このままだと……!私は心の中で誰かに助けを求めるかのように叫ぶ。

 

 

(……一体どうしたらいいの……!…………明久君…………!)

 

 

 その瞬間、ふっと私の中に、ある人物の顔が浮かぶ……。

 

 

(……明久君?……あれ……?どうしてアタシ、明久君の事が頭に浮かんだんだろう……?)

 

 

 何気なく、明久君の方を見てみる。彼の顔はあの時と同じ表情で試合の行方を見守っていた……。

 

 

 

 

『明久君、悪いけど本気でいかせてもらうわよ?』

『もちろん、そうしてくれないと困るよ?』

 

 

 

 

 あの時と同じ、真剣でいて、どこか優しい表情……。それと同時にアタシは彼と話した時の事を思い出していた……。

 ……最初の吉井君に持っていた感情は、『観察処分者』、問題ばかりおこす『学園一のバカ』として、彼の事を見下していたかもしれない……。

 でもあの時、職員室で彼に会った時、その考えが揺らいだ……。そして、あれから彼の事を近くで見てきた……。

 ……秀吉と勘違いし、殺気立って襲ってきたDクラスの男子達から庇ってくれた事……、大量の資料を運ぶ私をほおっておけないと手伝ってくれた事……、そして、代表である坂本君の試召戦争にかける思いに応えたいという、彼の信念に対して……。

 

 

(……今、わかった……アタシは……明久君に惹かれているんだ……)

 

 

 そう自覚した時、私はすぐに自分のすべき事が分かった。形振り構わず、その想いに身を任せ、自分の心を偽らないようにする。すると先程に比べて、幾分か召喚獣を動かしやすくなった。

 

 

「……姉上……、どうやら迷いが晴れたようじゃのう……」

「……ええ、秀吉……。これからが本番よ……!」

「そうか……じゃがワシも負ける訳にはいかん!!」

 

 

 私は……、もう迷わない……!それが演じるものであっても何でもいい!これが今の正直な私の気持ち――

 

 

(アタシは……明久君の前で、……負けたくない……!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び実力が拮抗し、点数を消耗しあう2人。だが、着々と試合の終焉が近付く……。そして……、

 

 

 

【古典】

Aクラス-木下 優子(35点)

VS

Fクラス-木下 秀吉(28点)

 

 

 

 ……もうお互いに点数はない……次で全てが決まる……。

 

 

「……次で終わりにしましょう……秀吉……」

「……そうじゃのう……次で決めようか……姉上……」

 

 

 互いに武器を構え、隙を窺う。……ここまで来たら余計な小細工は無用……。先に必殺の一撃を入れた方が……勝つ……!

 その光景を会場中が静かに見守る中……2人が一緒に動く!

 

 

 

 

 

 ザシュッと何かを切り裂く音が鳴り響き、そこには秀吉と優子それぞれの左肩をお互いの武器が貫いていた……。それにより召喚獣の点数が0となり、戦闘不能になった。

 

 

「それまで!第一試合、Aクラス木下優子VSFクラス木下秀吉。両者戦闘不能、引き分けです!!」

 

 

 それを聞いた瞬間、周囲に歓声が沸き起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンッ、と地面を叩きつける音が響く……。

 

 

「クッ……!!ワシの全てを込めたのに……勝てなかったのじゃ!!」

 

 

 膝をついた秀吉は地面に自らの拳を叩きつけ、涙を流していた。余程悔しかったのだろう、握りしめた拳には血がにじり始めており、それでも秀吉は泣きながら地面を叩き続けていた。

 

 

「……秀吉、立ちなさい……」

 

 

 私は左肩を押えながら、秀吉の傍に行く……。そして腕を差し伸べる……。

 

 

「姉上……!」

「……胸を張りなさい……。貴方は証明したのよ……。この学力重視の文月学園において、『学力』だけが全てではないという事を……」

「……ッ!しかし、しかしワシはっ!!」

「……確かに勝てなかったかもしれない。でも……あなたは負けなかったじゃない……。Fクラスのあなたが、自分の打ち込み、必死に努力していた『演劇』で……、真正面から戦ってAクラスのアタシと引き分けたのよ……」

「姉上ッ……、うぅ……!!」

 

 

 秀吉は差し伸べられた私の手を、震える手で掴み立ち上がる。私は未だ涙を流している秀吉に近付き、ゆっくり、そして優しく抱き締めた。

 

 

「貴方はよくやったわ、秀吉……。今日ほど貴方の姉である事を誇らしく思った事はないわ……」

「姉上……、姉上ッ!!」

「……馬鹿ね……、こっちまで泣きたくなってくるじゃない……」

 

 

 私もいつの間にか一筋の涙が流れる。悔し涙かと思ったけど、多分違う……。これは……嬉し涙だろう。――自分を偽らずに全てを出し尽くした。その結果は引き分けだったけれど……。

 ……とても心地の良い涙だった……。

 

 

 周囲が一層の拍手と健闘を称える歓声に包まれる中、私は胸の中にいる秀吉をただ慰め続けていた……。

 

 

 

 

 


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