「明久、今まで何処に行っていやがった?職員室に行くとは聞いていたが、まさか試召戦争が始まっても戻ってこないとは思わなかったぞ」
姫路の回復試験も終わり、試召戦争に決着をつける為、近衛部隊とともに陽動をかけようと向かっている途中に、戻ってきた明久と秀吉を見かけ声をかける。
「……正直、僕も試召戦争が始まる前には戻れると思ったんだけどさ……、思わぬ時間を喰ってね……。そもそも……、あの『放送』は雄二の案でしょ……?」
「気付いてやがったか、その場にいない奴の名前を使った方が戦力も下がらずに済んだし……まあ成り行きだな」
「全く……、だけど彼は戻ってこれないと思うよ?さっき、放送室の方から悲鳴が聞こえたしね……」
「……あの悲鳴は須川じゃったのか……」
実際のところ須川から放送の内容を聞かれた時に明久の名前を使おうとは思っていたが、秀吉から明久の話を聞いていた為、Fクラスの誰かを使え、とは奴に言っておいた。だが須川は俺の意図してか偶然かは知らないが……明久の名前を使いやがった。まぁ、それについては笑わせて貰ったからいい。後は……、
「そんな事はいい。お前らにもこれから俺達と一緒にDクラスまで来てもらうぞ。いよいよ奴らとの試召戦争も大詰めだ……!」
「待つのじゃ雄二!代表が自らDクラスに行くのは……、それに少し早すぎやせんか?」
そうしてDクラスに向かおうとする俺に、秀吉がそう言ってくる。
「大丈夫だよ秀吉……、雄二にも考えがあるだろうしね……」
「明久の言うとおりだ。もうDクラスとの勝負はついている……。姫路の回復試験が終わるまでの時間稼ぎができるかどうかが鍵だったからな……。ましてムッツリーニからの情報によると、Dクラスにはまとまりがなく、好き勝手に動いている奴らもいるようだし、ここでDクラスを急襲すれば一気に片が付く」
「成程ね……代表自らが囮になって気を向けさせているところに姫路さんをぶつけるわけか……」
明久にしては、察しがいいじゃねえか……!
「そういうことだ……。ともかく行くぞ、明久、秀吉!」
俺はそう明久たちに告げ、試召戦争に決着をつける為Dクラスへと向かった。
「吉井!アンタ、今まで何処行ってたのよ!!」
雄二達と一緒に前線に上がった時、Dクラスの中堅部隊を指揮していた島田さんがいきなりそう言って問い詰めてきた。
「何処に行ってたって……。別に何処だっていいでしょ?そもそも島田さんに何か言われる筋合いはないし……」
「何言ってんのよ!?試召戦争中に勝手に出歩いていいわけないでしょ!!」
そう言いながら関節技をかけようと僕の腕を掴もうとしている島田さんを察して、サッと身をかわす。
「ちょっと、避けないでよ!?」
無茶言わないでくれ。
「あのね……。そもそも試召戦争と言ってもクラス全員が参加しなければならない義務はないんだよ?……だいたい、僕は予め代表である雄二に僕は僕の意思で勝手にやらせてもらうと伝えてあるんだから」
「そんな勝手が許されるわけないでしょうが!!」
流石、島田さん……。相変わらず僕の意見は聞いてはくれないか……。
「……人の話聞いてた?だいたい島田さんは中堅部隊を任されているんでしょ?持ち場を離れてもいいの?」
「どうでもいいのよ!!それよりおとなしくウチに捕まりなさい!!」
さて、どうしようかな……ん?あれは……。僕は視界の隅にある人物を捉え、その方向に島田さんを誘導する。そして……、
「あっ、そこにいるのはもしや、美波お姉さま!」
「くっ、美春!?ぬかったわ!」
島田さんの苦手としている清水さんを引き合わせる。……これでもう僕にかまっている余裕はない筈だ……。
「じゃ、島田さん。ここは君に任せるね」
「ちょっ……!普通逆でしょうが!?『ここは僕に任せて先を急げ!』と言うべきでしょ!?」
「……さ、秀吉も……!ここは島田さんに任せて雄二の護衛に専念しよう」
「……そうじゃのう」
「無視しないでよ!!こ、このゲス野郎!!あとで覚えときなさいよ!!」
恨み言を言う島田さんはとりあえず清水さんに任せて……、僕は秀吉と一緒にこの場を離れ、雄二の下に向かった。
「……大分混戦となってきたのう」
「……秀吉、今回のDクラス戦で召喚獣は出したの?」
「うむ、試召戦争が始まってすぐに前線に赴いたのじゃ、……まあ2人くらいと戦って補充に戻ったがの……」
そうか……。秀吉にだったら、話しておいた方がいいかもしれない……。
「そう……秀吉は召喚獣をどういう風に操作してる?」
「操作かの?それはこう……召喚獣を動かすイメージじゃな……」
「……自分が召喚獣になりきっているってイメージは持てる?」
「……?どういう意味じゃ?」
怪訝そうな顔をする秀吉。こういうのは習うより慣れろっていうんだっけ……?なら……!
「いい機会だから実践してみようか?そこにいるDクラスの人に日本史勝負を挑む!!
「わかったのじゃ!
「くっ、次から次へと……
そう言って3人がそれぞれの試験召喚獣を呼び出す……。
【日本史】
Dクラス-塚本 慎二(123点)
VS
Fクラス-吉井 明久(63点)
Fクラス-木下 秀吉(71点)
彼はDクラスの部隊長を務めていたらしく、なかなかの点数を持っている……。これは、ちょうどいいかな……!
「お前らは宣戦布告に来た奴らだな!まとめて補修室に送ってやるぜ!!」
塚本君は自分の持っている剣で僕の召喚獣を真正面から狙ってきた。僕はそれを最低限の動作でかわし、お返しとばかりに木刀で相手の腹を突く。まともにダメージを受けて点数に調整が入る。
「あれを紙一重でかわすとはのう……」
「いいかい?秀吉、これは召喚獣を操作するというよりも『自分が召喚獣になりきる』というイメージを持つんだ」
「召喚獣になりきる……?」
「そう、召喚獣は人の体と同じ…筋力や神経はもちろん、人体と同じで急所もある……。
だから、召喚獣を動かすというよりも、自分が召喚獣と一体となっているという意識を持つ事が理想なんだ」
「くそっ!なんで当たらないんだっ!?」
秀吉に説明しながら、僕は相手の攻撃を全てかわすか受け流して、要所要所で相手を傷つけてゆく。塚本君は全然攻撃を当てられずに一方的に点数を減らされ、焦ってきているようだ。
【日本史】
Dクラス-塚本 慎二(38点)
VS
Fクラス-吉井 明久(63点)
Fクラス-木下 秀吉(71点)
「ここまで減らせれば大丈夫かな……?さあ秀吉、やってごらんよ?」
「うむ!やってみるのじゃ!」
「ま……まずい……!だれか、援護を!」
「塚本!?クソッ……!」
「……やらせないよ」
秀吉との勝負に水を差されないように、僕は割って入ってこようとしている人物をけん制する。秀吉もコツを掴んできたのか、段々動きが良くなっている。やがて秀吉の薙刀が相手の召喚獣の鳩尾を突き……、
【日本史】
Dクラス-塚本 慎二(0点)
VS
Fクラス-木下 秀吉(58点)
塚本君の召喚獣の点数が0点になり、戦いを終わらせた。
「ま……まさか俺がFクラスなんかに……!」
「戦死者は補修!!」
すぐさま西村先生が現れ、0点になった生徒達をかかえてゆく……。ふと雄二の方を窺うと周りの近衛部隊と共にうまく敵を引き付け拡散させていた。さらに一通り戦場を見回してみると、多対一の状況に持っていきFクラスが有利に進めているようだ。
「い、嫌ぁっ!補修室は嫌ぁっ!!よ、吉井、アンタ聞こえてるんでしょっ!?早くウチを助けなさいよ!!」
……一部、補修室一歩手前の人もいるようだけど見なかったことにする。島田さんはとりあえず置いておくとして、まわりが乱戦状態になっている内に、再び秀吉に召喚獣の操作についてのアドバイスにまわる。
「しかし、召喚獣に成り切るとは……ワシにできるのじゃろうか……」
「大丈夫だよ、秀吉は魅力的だから」
「……今の台詞は、ワシを女子扱いしている訳じゃあないだろうの……?」
少しジト目になって僕を見てくる秀吉に、僕はゆっくりと首を横にふる。
「違うって……。秀吉は演劇という自分のやりたい事に打ち込んでいるじゃない?それだって、好きな事に一所懸命頑張って努力しているからこそ『演劇部のホープ』として認められるようになったんだよね?だったら、……何も自分を卑下する事はないよ」
「……あ、明久……お主……!」
まさか、そんな事を言われるとは思っていなかったのだろう。驚きの表情で若干紅くなっている秀吉に僕はハッキリと言う。
「だから、秀吉ならできる、召喚獣を理解し、召喚獣に成りきれる……!まるで自分が召喚獣になったかのように演じられるよ、今まで必死に努力してきた秀吉なら!」
だから自信を持って……。そう言おうとした時、
「Fクラスは全員一度撤退しろ!人ごみに紛れて攪乱するんだ!」
そこに雄二の指示が響く。……そろそろ決めに入るようだ……。
「逃がすな!個人同士の戦いになれば負けはない!追いつめて坂本を討ち取るんだ!」
そしてDクラス代表である平賀君からもそう指示が飛ぶ。見てみると彼のまわりも大分防備が薄れているようだ……。
「話している場合じゃないみたいだね……、話はまた今度だ、秀吉!Dクラスの代表のまわりを叩くよ!!」
「心得たのじゃ!!」
秀吉に声をかけ、一緒にDクラス代表のもとに向かう……!そしてそばにいた古典の向井先生に声をかけ、
「向井先生!Fクラスの吉井」
「Fクラス、木下が」
「Dクラス玉野美紀が受けて立ちます!」
「Dクラス松岡も受けます!」
「「「「
【古典】
Dクラス-玉野 美紀(112点)
Dクラス-松岡 茂 (87点)
VS
Fクラス-吉井 明久(9点)
Fクラス-木下 秀吉(58点)
試験召喚獣をそれぞれ召喚しているところに、勝ち誇った顔で平賀君が声をかけてきた。
「残念だったな、船越先生の彼氏クン?」
「……ずいぶんと余裕そうだね?もう危機を脱したつもりでいるのかな?」
「そりゃあFクラスと一対一で戦って負ける訳がないからね……。それじゃあ玉野さん、松岡君たのむよ」
「わかりました」
「……そう、秀吉そっちは任せたよ……!」
「了解じゃ!」
「その点数で私に勝てると……、えっ!?」
【古典】
Dクラス-玉野 美紀(0点)
VS
Fクラス-吉井 明久(9点)
僕は一瞬で油断している玉野さんの召喚獣との距離をつめ、相手に攻撃をさせないうちに急所への攻撃を連続で叩き込み、戦闘不能にした。
「ば……バカな……!約100点程の点数差があったのに……!?」
「……確かに点数が高い方が有利ではあるけれど、勝敗は別だよ……。テストとは違ってこれは試召戦争……、最後に召喚獣が立っていた方が勝者なんだから……」
「くっ……!じゃあ今度は僕が……」
「……それよりも平賀君?後ろにお客さんがいるよ?」
「……えっ?」
そして今のやりとりの間に近づいていた姫路さんがあっけにとられている平賀君に勝負を申込み、一撃で彼の召喚獣を下し、Dクラスとの決着がつけた。