ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第五十九話 ハロウィンinジュネス

10月31日。今日は学園祭の休校日で、朝天城屋旅館から帰ってきた真は荷物を置き、部屋で一休みをしていた。すると突然真の携帯が鳴り始め、彼は電話の相手を確認すると電話に出た。

 

「もしもし。陽介、どうしたんだ?」

 

[助かった……出てくれると思ったぜ! お前、今日ヒマだろ!? 頼む、ちょっと付き合ってくんねーか!?]

 

「どうかしたのか?」

 

焦っている様子の陽介に対し、真がどうしたんだと尋ねる。

 

[今日ジュネスでハロウィンフェアなんだけど。準備、全然出来てなくてさ! 飾りはあるけど、チーフいなくて誰に頼んでいいかわかんねーんだよ。お前ら以外、頼めるヤツいないんだ! ホントお願いしまっす!]

 

「分かった」

 

[おっしゃ! 恩に着るぜ、相棒! んじゃフードコートでな! 他の皆には俺から連絡すっから!]

 

そう言って陽介は電話を切り、真は外出の準備をするとジュネスへと向かう。

それから呼ばれてやってきたらしいいつものメンバーと共にハロウィンの飾りつけを開始。力がある真と完二が重いものを運び、手先が器用なりせと直斗がハロウィン風の看板に茶色とオレンジの風船をアーチ状に並べて飾り、雪子と千枝はテーブルにハロウィン風のクロスを敷き、クマはその他軽い代わりに数が多くかさばる荷物運びなど雑用全般。陽介が全体の指揮を執る。

 

「う~、腰いったー……」

「ようやく終わったね」

 

「おっ、タイミングばっちり!」

「こっちも終わりました」

 

身体を反らすように伸びをして呟く千枝に雪子が全てのテーブルにクロスを敷いたのを確認、すると同時に終わったらしいりせが二人の方を向いてウインクし、直斗が終了を報告する。

 

「みんなー、お疲れクマー」

 

すると荷物運びが終わった後、どこかに消えていたクマが声をかけてくる。

 

「ク、クマきち……何、そのかっこ?」

 

その姿に千枝がツッコミを入れた。クマはいつもの姿ではなく頭部分がハロウィンのカボチャ風になっていた。なお下腹部もハロウィン風の飾りがついている。

 

「ハロウィンの仮装クマ! ハロウィンフェアで仮装してる人はフードコートでサービスが受けられるから。せっかくだし、チエチャン達もどうぞってヨースケが」

 

そう言ってクマが差し出すのはそれぞれの名前が書いてある四つの紙袋。恐らくハロウィンの仮装が入っているのだろう。ちなみに真達男性陣は既に着替えに行ってるらしい。

 

「へーなるほど。花村にしちゃ気が利いてるじゃん」

 

「ふふ、せっかくだし着てみよっか」

 

「さんせー!」

 

「ええ」

 

千枝、雪子、りせ、直斗の順番でそう言い、着替えを受け取るとこの前夏休みにバイトしていた時に千枝が教えられていたロッカールームへと移動。それぞれ着替え始める。

それから着替えを終えてフードコートに戻ってきた時、既に真達はそこにスタンバっていた。

 

「にしても……似合ってんな、お前」

 

フードコートで待っていた陽介が真の服装を見てそう呟く。シルクハットに白服に黒マント、吸血鬼(ヴァンパイア)を模した仮装だ。

 

「板についてるっつーか、もはやそっちが普段着ってレベルの着こなしッスよ……」

 

「任せておけ」

 

「ハハ、どういう自慢だよそれ」

 

完二の言葉に真がサムズアップして答えると、陽介はその返答に笑いながら返す。

 

「やっほ、花村。この衣装サンキュね」

 

「よう、来たか」

 

千枝が声をかけ、陽介も軽く右手を挙げて返す。彼は犬耳カチューシャを頭につけ首回りから胸を逆三角形状に覆うようにモフモフとした毛の生えた狼男を模した仮装をし、隣に立つ完二は長身とガタイの良さを生かしたフランケンシュタインを思わせる仮装をしていた。

ちなみに千枝は小さい魔女帽子を頭に乗せ、カボチャをイメージしたスカートという全体的にポップで可愛らしいデザインの魔女衣装。雪子の衣装は上が黒で袖なしの少々露出の大きい服装に下は赤のスカート、黒い帽子のデザインもあってこちらは正統派の魔女衣装といった風貌だ。

 

「ま、待ってください久慈川さん、せ、せめて心の準備を……」

 

「さっきからずーっとそう言ってんじゃん。ペアルックだし私一人だと意味ないでしょ?」

 

するとその後ろからりせと直斗がやってくる。やってくるというよりは気乗りしていないというか怯えた様子の直斗を無理矢理りせが連れてきたような様子。その直斗はおへそというなお腹や背中の下半分程を出した黒色の服に黒い半ズボン、かかとがまだ低い方の黒ハイヒールに黒長手袋をしている。半ズボンの後ろからはぴょこんと尻尾が出ており、また頭の黒いネコミミカチューシャから猫娘というモチーフなのが分かりやすい仮装だ。しかし直斗は両手でお腹を隠しており、恥じ入っている様子だがそれが逆にギャップで可愛らしさを演出している事に本人は気づいていない。

 

「どう、先輩? 似合う?」

 

その横のりせは直斗の色違いで白色の衣装――直斗が黒猫とすればこちらは白猫――に身を包んでいた。こっちは恥じ入る様子もなくノリノリでセクシーポーズを決めていた。

 

「ああ。皆似合ってる」

 

「おう。ついでに客引きとかでもしてもらいたいくらいだな」

 

真が下心なく皆を褒めると、陽介もからからと笑いながら客引きもしてもらおうかと続ける。

 

「ま、アレがいりゃお客は……」

 

そう言って陽介が見るのは先ほどの頭部分がハロウィン用のカボチャになっているクマ。彼は風船を手に楽しそうに手を振っている。

 

「た、楽しそうだなアイツ。なんか……ご当地なんとかみたいになってっけどな……」

 

「あれ、陽介君」

 

苦笑する陽介。すると真面目そうな店員が驚いたように駆け寄ってきた。

 

「ちょっとちょっと、どうなってんの?」

 

「あ、チーフ。お疲れ様っす! ハロウィンフェアの飾りつけなんすけど……」

 

「え? あはは、やだなあ陽介君」

 

真面目そうな店員――チーフの問いかけに陽介がそう説明。するとチーフは冗談でも聞いたように笑った。

 

「アレとっくに中止になったでしょ」

 

『……は?』

 

チーフの言葉に陽介を始めとしたその場にいた全員が呆けた声を出す。

 

「あれ? 中止決まった時の朝礼、陽介君も居たと思ったけど。はは、朝だしボンヤリしてたかな? まあ、片づけよろしくね」

 

チーフはそう説明した後、ハロウィンの飾りつけを眺めると「すごいねえ、これ。陽介君達が飾り付けたの?」と感心し、「こんなに頑張ってくれるなら、やれば良かったなあ、ハロウィン」と残念そうに呟きながらフードコートを去っていく。

 

「……陽介」

「花村、あんた……」

 

「み……見ないでくれ。そんな目で俺を見るな……」

 

チーフが歩き去ってから陽介除く自称特別捜査隊メンバーが陽介を冷たい目で見て真と千枝が代表するように声をかけると、陽介は力なく首を横に振ってそう返した。

それから片付けも終わり、衣装はお詫び代わりに持って帰ってくれと言われて袋詰めにしてもらい、真はついでだからと買い物を済ませるとエレベーターを降りて帰路についていた。既に千枝達は帰っており、彼一人である。

 

「あれ?」

 

するとジュネスの入り口ホールに足立が立っているのを彼は見る。

 

「足立さん、こんにちは。お仕事中ですか?」

 

「ん? ああ、まあね。にしても君もヒマだねー。しょっちゅう見かける気がするよ。ま、学生はそんなもんか。今の内にたっぷり遊んでおきなよ?」

 

「これでも忙しいんですが?」

 

「あ、そうなの? まぁ子供の忙しさなんて知れてるよ。君も社会人になれば分かるって。寂しいお婆さんの相手とか……」

 

足立の言葉に真が苦笑しながらそう返すが、足立はシニカルな笑みを漏らしながらそう返す。その時ジュネスのドアが開く音が聞こえ、入ってきた人を見た足立が慌てて真の後ろに隠れる。出てきたのは足立と同じ名前の息子がいるから、と足立に構うお婆さんだ。なにやら先日は署にお見合い写真まで持ってこられたらしい。

 

「あら? 透ちゃん、どこ行ったの?」

 

「参ったなぁ……まーた煮物とか……」

 

お婆さんの言葉に足立は困ったように呟き、どうにかこの場を逃げようとする。

 

「こっちだよ、母さん。買い物はもう済んだ?」

 

と、お婆さんを追いかけて中年の男性が入り、お婆さんに声をかける。

 

「済んだわ、帰りましょう。せっかく透ちゃんが帰ってきたんだもの、すぐに……」

 

お婆さんはそう言ってジュネスから出ようとする。と、その時彼女は中年の男性を見て驚き固まっている足立に目を向けた。

 

「あらあら、刑事さん」

 

「刑事さん?」

 

普段は透ちゃん、と呼んでいたはず。と真は訝し気な声を出す。

 

「透ちゃん、こちら刑事の足立さん」

 

「やあ、どうも。母がお世話になっているようで」

 

お婆さんの紹介に中年の男性はそう挨拶。足立は「はぁ」と曖昧な返答を返した。

 

「こっちがね、息子の透よ。私の顔を見に帰って来てくれたの」

 

「ハハハ、仕事の都合で、数日後にはまたとんぼ返りですがね」

 

続けてお婆さんは中年の男性の事を息子の透だと嬉しそうに紹介、男性は困ったように笑いながらそう言った。

 

「もう、寂しいわ。でもお仕事頑張ってるんですものね。透ちゃんね、商社で働いてるのよ。外国への出張も多くてねえ。この歳で役員なの」

 

「ハハ、やめてくれよ母さん。さ、彼の仕事の邪魔になる。帰ろう」

 

そう言い、お婆さんとその息子の透さんはジュネスを出ていく。

 

「透ちゃんの好きな煮物、いっぱい作ってあるからね」

 

「そいつは嬉しいな。レンコンは硬めで頼むよ」

 

「ええ、もちろんよ」

 

その間、そんな会話が聞こえ、自動ドアが閉まると声は聞こえなくなった。

 

「結局……俺じゃなくてもいいんだよなー」

 

足立はそう呟き、真の方を見て困ったように笑う。

 

「あれが本物って……ねえ? どこが僕と似てるんだろ。歳も全然違うしさー。一緒なの、名前だけじゃない?」

 

皮肉気味に笑う足立はしかし「まぁ、でも本物がいるうちは相手しなくていいから助かるよ」と続ける。

 

「寂しい?」

 

だがその顔はどこか寂しそうに見え、思わず真はそう尋ねた。

 

「僕が? やだなぁ、僕が、なんでさ?」

 

その質問に対し、足立は先ほどの寂しそうに見えた顔が嘘のような驚いた顔を見せる。

 

「僕はね、一人の方が好きなの。気楽だし、自由に立ち回れるしね」

 

「でも、孤独です」

 

「……どっちが楽か、って話さ」

 

足立の言葉に対し、一人は孤独だと反論する真。だが足立は笑いながらそう答えた。

 

「あの息子、硬いレンコンが好きなんだねー。ホント、気が知れないよ」

 

足立は笑みを浮かべながらそう呟く。「ウチの母親が作る煮物も、レンコン硬くてさ。その頃から嫌いだったんだよね。いっつも残してたけど、結局ずっと何も言われなかったなあ。ずっと硬いままだったよ」と彼は呟き、頭をかいた。

 

「……僕が嫌いなの、知らなかったんだろーねぇ」

 

そう言い、足立はため息をつくと清々したというようにまた笑みを浮かべる。

 

「ま、とにかくこれで、しばらくは肩の荷が下りたかな」

 

そう話す足立は、しかしやはり寂しそうに見えた。

 

「おい、足立! こんな所で何やってんだ!」

 

「わ……ど、堂島さん!」

 

と、ジュネスの自動ドアが開いたと思うと遼太郎が駆け込んできた。県庁への出張が終わって帰ってきた途中、その道中に足立がジュネスにいるのを見つけた様子だ。

 

「ん……なんだ、お前か」

 

「お帰りなさい」

 

「おう、ただいま。ああ、こいつは土産だ。持って帰っといてくれ」

 

「あ、はい」

 

真に気づいた遼太郎は言葉少なく彼と挨拶を交わしてお土産を渡した後、足立を睨んだ。

 

「ったく、子供相手に油売ってんじゃねえ! サッサと行くぞ!」

 

「ええっ!? いや、堂島さんも荷物とか家に置いて来た方が……」

 

「いらん、荷物なんてロッカーに置いておけるぐらいだ。それより出張の報告書をとっととあげねえといけねえからな」

 

そのまま警察署に直行しそうな遼太郎に足立が出張の荷物を家に置いてきたらどうかと説得を始めるが、遼太郎はあっさりと必要ないと返す。それから彼はジュネスを出て行きざまに真の方を見る。

 

「……悪かったな、コイツが付き合わせて。お前も早く帰れよ」

 

「ちょ、待ってくださいよ! 堂島さーん!?……なーんであの人が謝るんだか」

 

それを見た足立は頭をかきながらそう呟き、真の方を見てへらっと笑う。

 

「じゃあね、僕もう行かなきゃ。堂島さん待ってるし」

 

そう言い、足立は慌てて遼太郎を追いかけジュネスを出ていく。それを見送って真もジュネスを出ていくと家に帰っていった。

 

 

 

そして、時間は夜まで過ぎる。まだ遼太郎は帰ってきておらず、真は菜々子と共に居間で炬燵に入ってテレビのニュースを見ていた。

 

「今日、さむいね」

 

[それでは、次のニュースです。“環境を考える会”代表の香西氏が、市内の小学校を訪れ、霧の影響を現地調査しました]

 

菜々子が少し震えながらそう呟いた時、テレビのニュースでアナウンサーが話し始める。稲羽市ではここ数年頻繁に濃霧が発生しているが、原因が良く分かっていない。市内では霧の原因について憶測が飛び交い、体への影響を不安視する声も上がっている。だが市は、霧が人体に害を与える事は考え難く殺人事件等による住民の不安心理の表れなのではという見方を示してるとのことだ。

 

[これを受け、香西氏は、事実関係をはっきりさせるため、現地の小学校を訪れました。霧の中でも元気に遊ぶ子供達に、体調や心の不安などについて尋ねたということです……]

 

「あ、この人、がっこうに来たよ」

 

画面に映った香西氏の写真を見た菜々子がそう呟く。

 

[調査を終えた香西氏は、コメントを発表しています]

 

ニュースの中で香西がある生徒と話した事をあげて、風評に惑わされず自分の言葉で話していた。本来は我々大人こそがそうでなければならない。とその生徒を賞賛していた。

香西氏のコメントに対して集まった保護者からは拍手が上がったがその一方では選挙に向けた人気取りと言う評もあり、賛否両輪という印象を与える。

 

「……っくしゅ!」

 

と、突然菜々子がくしゃみを出し、真は視線をテレビから菜々子へと移す。見ると菜々子の顔が少し赤くなっており、彼女は頭が痛いと真に訴える。真は菜々子の額に手を当て熱を測った。

 

「酷い熱だ……薬を飲んで休まなきゃ」

 

そう言って、真は救急箱から風邪薬を取り出すと菜々子に飲ませて、布団を敷いて菜々子を寝かせた。

 

「ね、お兄ちゃん……春になったら、かえっちゃうの?……」

 

「!」

 

そんな菜々子の突然の質問に、真はなにも返せず沈黙してしまう。

 

「もうすぐ、冬になっちゃうね……ゆきがふったら、お兄ちゃんと、ゆきだるま作る……」

 

「そうだな。きっと作ろう」

 

「うん。いっぱい、あそぶ……」

 

「ああ」

 

「春まで、いっぱいあそぼうね……」

 

「もちろん」

 

そう話し、菜々子は眠りにつく。

 

(後で、菜々子のベッドに寝かさなきゃな)

 

真はそんな事を考えつつ、また別の事を思う。

 

(春になったら、帰る……か……)

 

元々両親の一年間の外国への転勤のため自分は八十稲羽にやってきており、両親が日本に戻ってくれば自分はまた月光館学園の方に転入し直す形になるか、もしくはまた別の学校に転校するか。いずれにせよこの町を離れる事になる。それは分かっている。しかしこの町で築き上げてきた仲間達との絆、町の人達との繋がり。いずれやってくるそれらとの別れにどこかもの寂しさを感じてしまった。

 

(だが……俺が帰る前に、犯人だけは捕まえないとな)

 

しかし同時に彼は決意を新たにする。未だ影すら掴めない、この事件の真犯人。目の前で眠っている愛しい妹の笑顔を守るためにも、自分がこの町を去る前にそいつだけは捕まえなければならない。と。




今回はゴールデン新規イベントのハロウィンに始まり、足立のコミュイベントやら何やらを進ませました。
たしかそろそろストーリーの方も急転直下だったかな。この辺は色々オリジナルを考えてるし熟考せねばならないです、堂島さんの武器はどうしようかとか色々。大事な部分はもうある程度決まってるんですが、その結果に持っていく過程がさっぱりなので。
では短いですが今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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