ペルソナ4~アルカナの示す道~   作:カイナ

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第五十八話 文化祭終了、天城屋旅館にて

10月30日、夜。天城屋旅館に泊まる事になった真達はその一室へと案内されていた。服装は私服から旅館に用意された浴衣に着替えている。

 

「みんな一緒の部屋じゃないクマね~……」

 

「そりゃそうだろ」

 

なお流石に男女別室で、クマの残念そうな言葉に陽介がツッコミを入れると、クマは「隣ならまだ許すけど、遠くへ行ってしまったクマ」とよよよと泣き出す。

 

「空いている部屋があまり無いらしくて、皆は別の階になったそうだ。菜々子を連れて温泉に行ったらしい」

 

「こここ混浴!?」

 

真がそう説明するとクマが興奮したように声を上げ、その様子に残り三人が呆れ顔を見せる。

 

「何ベンも入るシュミねーし、寝る前一回行きゃいいっスよね」

 

「だなー」

 

完二の言葉に陽介も同意。それから完二はふと辺りを見回した。

 

「ところで、この部屋……どういう事なんスかね。けっこう上部屋みたいなのに……」

 

「やっぱ、オマエも気になった? 普通、シーズン中に空かねえよな、こんな都合よく……」

 

内装からそう考えたのだろう完二の言葉に陽介もそう答える「あえてスルーしようとしてたんだけど……まさかここで、何かあったとかか?」と呟く。

 

「旅館……か……まあ、病院ほどそういう話はないだろう」

 

「悪い真! 頼むから今そういう話をしないで!!」

 

真が妙な気配や変な視線を感じる病院バイトの事を思い出しながらそう呟くと、陽介が必死にそれを抑える。と、いきなりジリリリリと黒電話の音が鳴り響き、全員がびくりと反応した。

 

「い、いきなり鳴るねしかし! か、完二、出てみ!」

 

「な、なにビビってんスか……」

 

陽介が完二に電話に出るよう振り、完二がそう呟いて黒電話の方に行くが、電話を取ろうとしている完二の手も震えていた。

 

「……はい」

 

恐る恐るという様子で、ややぶっきらぼうな声で完二は電話に出、やや無言になる。なんかやけに不安がかきたてられた。

 

「あ、そうすか! ども!」

 

と、明るい声でお礼を言い、電話を切って振り返った。

 

「旅館の人からでした」

 

あっさりそう言う完二に陽介がホッと息を吐く。

 

「露天風呂、今ならケッコー空いてるらしいッス」

 

「素晴らしいサービスだな、天城屋旅館……やな汗かいた……」

 

わざわざ露天風呂が空いているタイミングを教えてくれる親切なサービスに、しかしさっきまで変な雰囲気だったため陽介はやや苦々し気な顔になる。

 

「せっかく教えてもらったんだ。行くか」

 

「おう、そだな」

「んじゃ、流しに行きますか」

 

真が言うと陽介と完二も頷き、立ち上がって部屋を出ていく。

 

「クマ、みんなでおフロ、楽しみだなー。みんなで同じ方向いて背中の流しっことか、富士山見ながら歌ったりするんでしょ?」

 

「それは銭湯だと思う」

 

「いやー、それにしても。こっちは楽しいことばっかりクマよ。これも、センセイがクマのところに皆を連れてきてくれたおかげだよね。ありがとう、センセイ……」

 

そう言ってクマは感謝の眼差しで真を見つめ、真はクマからの感謝の気持ちを感じ取る。

 

「おーい、エレベーター来てっぞー!」

 

「行くか」

「クマ!」

 

先に行った陽介から呼ばれ、真とクマはそう言って部屋を出ていった。

 

「あれ、真君達。今からお風呂?」

 

「あ、先輩。先輩もですか?」

 

「うん。ゆかりと結生は大学の課題で頭悩ませてるし、僕はちょっと息抜きにね」

 

途中で命も合流。それから彼らは脱衣所まで行き、全員着ていた浴衣を脱ぐと用意された籠に入れて棚に入れておく。

 

「あ、誰か来てるみてえだな」

 

「んじゃ、静かにした方がいいっスね」

 

自分達が使っている棚とはまた別の棚に、既に誰かが脱いで籠に丁寧に入れている浴衣をちらりと見た陽介がそう呟くと、完二がマナーとしてそう返す。

 

「むっほ、広々クマ! クマかき披露してやるクマ!」

 

「っておい!?」

 

すると広い露天風呂に興奮したのか、クマが浴室に飛び込むとそのまま温泉へと飛び込んだ。

 

「あいたっ!」

 

「だーおい! まずは身体洗えっての! つ、連れがすんませーん!」

 

陽介がクマに注意を叫び、悲鳴が聞こえてきた事から露天風呂に入っていた他の客に飛び込んだ勢いで散ったお湯でもかかったんじゃないかと慌てて謝罪の言葉を口にする。

 

「え、えええ!?」

「あああアンタらっ!?」

 

「なななな、なんでオメーらが!?」

 

「こ、こっちのセリフっ!」

 

が、そこにいたのは雪子に千枝。その姿に陽介が狼狽したように声を上げると千枝が怒号で返す。

 

「どうしたんスか? 先輩?」

「何かあったのか?」

「ん……なんか嫌な予感……」

 

「げっ!? やべえ完二! 真! 命さん! 来んな!!」

 

そこに完二と真と命が浴室に入り、陽介が声を上げるが一歩遅く、三人も露天風呂に入っている女性陣を見てぎょっとした顔になる。さらに命は何かトラウマでも刺激されたように顔を真っ青に染め上げていた。

 

「ちょ、花村とクマ公だけならまだしも椎宮君まで!?」

「みっ、みみみ命さん!?」

 

千枝と雪子がまさか真や命まで来るとは思ってなかったのか顔を真っ赤にして身体を湯船に隠し、湯船の奥まで逃げると、先に逃げていたりせと直斗と一緒に湯船の横にあったたらいを手当たり次第に投げつけまくる。

 

「ま、待て! ちょっと待ってくれ!!」

 

「チカーン! せめて二人っきりならともかくー!」

 

真がその場に留まって弁明しようとするが、りせが真っ赤な顔でたらいを投げつけまくりながら悲鳴を上げており、どうにも話を聞いてもらえる雰囲気ではない。

 

「誤解だって!」

 

「すぐ出ていってください!」

 

完二も弁明を始めるが、直斗も聞く耳持たずに赤い顔をしながらたらいを投げつける。

 

「た、退散クマー!」

「覚えてろよ!!」

 

クマが湯船から出て我先にと逃げ出し、陽介が声を上げると全員一斉にその場を逃げ出した。

 

「後で制裁が必要ね……」

 

「すごーい、いっぱい当たってた!」

 

「おねーちゃん、上手いでしょ?」

「……見られたかな」

 

怒り心頭の様子の千枝の横で菜々子が無邪気に笑うと、りせが得意気な顔になり、直斗が不安気な顔になる。

 

「あ」

 

すると雪子が声を漏らす。

 

「この時間、ここ男湯だった」

 

その言葉に千枝達女子高生組三人がぎょっとした顔になる。

 

「時間、間違えちゃった。あはははは!」

 

「あはは……って、まじかよ……」

「せ、先輩達に悪い事しちゃった……」

「後で、謝りましょう……」

 

あははと笑う雪子に千枝が頬を引きつかせると、りせと直斗がしょぼんとした顔になった。

 

 

 

「ヒデー、ヒデーよあいつら……さっき確かめたけど、あの時間の露天は“男湯”だったぞ……」

 

浴衣に着替え、部屋に戻った彼らは体育座りになりふてくされたような落ち込んだ様子を見せていた。ちなみに命は「桐条先輩ごめんなさい桐条先輩ごめんなさい桐条先輩ごめんなさい桐条先輩ごめんなさい桐条先輩ごめんなさい」と顔を真っ青にしてうわ言のように謝り続けており、彼の部屋に送り届けて出てきたゆかりに事情を説明すると、彼女はやけに冷たい目をして「ああ、そういうことね。はいはい、ありがとう」と妙に平坦な声でお礼を言い、命を部屋に引きずり込んでいた。

 

「なんか、クマの頭がデコボコしてるなー……」

 

「それ、たんこぶだな。オマエ、たんこぶ、出来てやんの。あはは……は……はぁ……」

 

寝転がり頭を押さえるクマに対し完二は明るく振る舞おうとするが、やがて暗いため息が口から漏れ出る。

 

「なぁ……お前らさ……」

 

すると、陽介が顔を上げた。

 

「……見たか?」

 

「いや……」

「何も……」

「見えなかった……」

 

陽介の言葉に完二、クマ、真の順番で返答した。

 

「ちくしょう……いいことなんか一個もない人生……も、寝よ」

 

心が折れたらしく、陽介は寝ようとよろよろ布団に足を進める。

 

「待った、先輩」

 

すると完二が呼び止める。

 

「なんか……聞こえねえスか?」

 

そう言われ、彼らは耳を澄ませる。すると、「うっうっ」「うっぐすっ」という、まるで女性のすすり泣くような声が聞こえてきた。

 

「い、今の……」

 

「き、聞こえちゃった……」

 

「ま、まさか……“出た”んスかね……」

 

陽介、クマが怯えた声を出すと、完二も恐る恐るそう発言する。

 

「出た、天城屋、事件、空いた部屋……もしかして、山野アナ?」

 

そこで真が真実に気づいてしまう。

 

「あー! ゆっちった! そのこと、うまいこと忘れてたのに、お前ゆっちった!」

 

陽介が声を上げ、部屋の柱や梁に貼られているお札を見る。

 

「それで“お札”か……天城のやろ、知っててここに通したな!……」

 

陽介は頭を抱え、「風呂の仕打ちといい、ヤラレっ放しじゃんか、俺ら!」と叫ぶ。と、再び女性のすすり泣きが聞こえてきた。

 

「おわわわぁ……こんなんじゃ、寝らんねえよ!」

 

暴走族を潰したという噂を持つ完二も実体のない幽霊相手だと怖いのか怯えた声を上げる。するとクマがすくっと立ち上がった。

 

「決めた! ユキチャンとこ行く!」

 

みんなの寝顔を見ながらじゃないと、安心して寝られないと建前を言うが本音は分かり切っており、真が呆れ顔になる。

 

「ちょっ……寝顔って、寝室入り込む気か!? んなの……」

 

陽介も流石にまずいと思うのか説得を始めようとする。だが、その時また女性のすすり泣きが聞こえてしまい彼は沈黙。真の方を向いた。

 

「おい、どうする?……」

 

「やめた方がいいだろ……」

 

「じゃ、ここで夜明かしっスね」

 

「……ム、ムリだって!」

 

陽介の言葉にやめておけと警告する真だが、完二の言葉を聞くと陽介が怯え声を出す。

 

「おっけ! 寝起きドッキリ、ヨーソロー!」

 

そしてクマがそう言って部屋を出ていくと陽介と完二も後に続き、万一のためのストッパーとして真もついて行く事になった。

 

 

 

「みなさん。おーはーよーうーごーざーいーくーまー」

 

どこで覚えたのか寝起きドッキリのノリで話すクマ(着ぐるみ着用)は「寝起きドッキリもとい寝込みドッキリ、リポーターのクマ」と名乗る。着ぐるみを着用している姿に陽介が「いつ着たんだよ」とツッコミを入れた。なおクマによると「なんとなくないと不安なので持ってきている」ということだ。

 

「お、クシです! 長い髪の毛がついています」

 

声を潜めながらも完二がややノリノリでそう話す。

 

「意外にやる気だな……」

 

その様子に真がツッコミを入れた。

 

「林間学校のリベンジっスよ」

 

「おお、いいこと言うじゃん! よしっ、俺もガッツリリベンジ!……」

 

完二と陽介がそう言い、気合を入れる。真はその後ろでため息をついた。とりあえず法に引っかかる事をしそうになったら殴ってでも止めて部屋から引きずり出そうと心に決める。

 

「こっ、これは、歯ブラシです!!」

 

クマの発言に陽介が「なんかドキドキしてきた」と呟く。

 

「あ、けど、菜々子ちゃん……」

 

「大丈夫、菜々子ちゃんは寛大な子!」

 

「ま、まあ、そうだな……」

 

陽介が菜々子の事を思い出し慌てたように口にするが、クマが菜々子は寛大な子だと答え、陽介もそれに同意する。

 

「何かあったら流石に許さんぞ」

 

「お、おう……リベンジに巻き込まないように、起こさないようにすっからさ」

 

睨みを利かせる真に陽介は苦笑いしつつ、起こさないように配慮すると答える。

 

「お……いよいよ、お布団に到着! よく寝てます!」

 

と、その間にクマが布団へと辿り着いた。

 

「失礼しま~す……ユキチャーン、おばけ、こわいよー」

 

そう言い、クマは一枚の布団に寝転がる。

 

「よ、よし……俺だってなぁ……お、漢見せるぜ! さ、里中先輩、優しくしてください!」

 

続けてそう言いながら完二がもう一枚の布団に寝転がる。

 

「あ、あれ?……布団、足りなくね?」

 

だが、そこで陽介は違和感に気づく。女子は千枝、雪子、りせ、直斗、そして菜々子の五人。つまり布団は五枚あるはず、仮に菜々子が別の誰かと一緒に寝ているのだとしても最低四枚はあるはずだ。しかしこの部屋に敷かれている布団は二枚だけだった。

 

「ちょっとぉ、なぁに?」

 

するとその時、リモコン式の点灯システムを採用しているのかひとりでに蛍光灯に明かりがつき、完二の布団から柏木が起き上がった。

 

「んもー……」

 

続けてクマの寝ている布団から大谷が起き上がる。

 

「「!?」」

 

それに気づいたクマと完二が起き上がり、陽介がぎょっとのけぞる。

 

「あらやだ! キミたち、そういう事だったわけ? んもー! 言ってくれればいいのにぃ!」

「いけない子達ねぇ……フフ」

 

困ったような台詞ながら口調は明らかに弾んでおり嬉しそう。そんな様子にクマが「出たぁぁぁぁー!」とお化けでも見たような悲鳴を上げた。

 

「あ、や、や、ささ触んなって!!」

 

完二もはだけた浴衣の間から露出した肌を触ってくる柏木の手を払いのけながら慌てて声を上げる。

 

「さっきまで、二人で泣いてたのよ? 魅力の分かるオトコがいないって。いいわ……いらっしゃい。そのかわり、誰にも言っちゃ駄目だぞ!」

「カマーン!」

 

そう言い、柏木と大谷はまるで生者を求める亡者のように陽介達ににじり寄る。

 

「や、やべえ! 逃げるぞ、まこ――っていねぇし!!??」

 

陽介が慌てて逃げ出そうと真に言うが、君子危うきに近寄らずというのか、真はいつの間にかその場から姿を消していた。

 

「「「う……うぎゃああああぁぁぁぁぁ!!!」」」

 

そして三人の悲鳴が響き渡った。

 

 

 

「……すまん。陽介、完二、クマ……俺一人で逃げるのが精一杯だった……」

 

一人でしれっと逃げた真は廊下で親友友人仲間に両手を合わせ、黙祷を捧げる。

 

「おにいちゃん?……」

 

すると、突然そんな声が聞こえ、振り向く。そこにはピンク色のパジャマを着た菜々子が眠たげに閉じかけている目をこすりながら立っていた。

 

「どうした、菜々子?」

 

「おといれ……」

 

「そうか。連れていくよ」

 

どうやらトイレに起きたらしく、真は菜々子を連れてトイレへと向かう。そしてそのままのノリで菜々子が泊まっていた女子部屋へと菜々子を連れて移動。菜々子を寝かしつける。

 

「あー、さっぱりしたー! やっぱ24時間お風呂入れるって最高――うわぁっ!? 椎宮君、どうしたの!?」

 

すると浴衣を着た千枝達四人――お風呂上りなのか肌がほてっている――が部屋に入り、真を見て千枝が悲鳴を上げる。

 

「あ、ああ。眠れなくて散歩をしていたら菜々子と偶然会って。トイレに連れて行ってそのまま流れで……」

 

「そっか。ありがとね」

 

彼女らに寝込みドッキリを仕掛けようとしていたことは省いて説明し、彼の言葉に雪子がお礼を言う。

 

「そ、そういえば先輩。さっきはお風呂の時にごめんなさい……」

「ぼ、僕達がお風呂の時間を間違えていて……申し訳ありません。明日、改めて巽君達にも謝罪します」

 

「ああ、気にしなくて構わない」

 

と、りせと直斗がさっきのお風呂の時に無実の真達に手ひどい事をしてしまった事を謝罪。しかし真は平然とそれを許した。

 

「あはは、ほんとごめんね。お詫びと言っちゃなんだけどゆっくりしてってよ。あ、そういえば、となりの部屋に柏木先生と大谷さん、泊まってたよ」

 

「そ、そうか。それは偶然だな……」

 

千枝も苦笑しながら謝罪、お詫びにゆっくりしていってと答える。それから千枝は隣の部屋には柏木と大谷が泊まっていたと話題に出し、ついさっきまでその部屋にいた真は頬を引きつかせながら偶然だなと答える。一応隣の部屋から物音はしないから陽介達は上手く逃げおおせたらしい。そう信じよう、と真は心中考えた。

 

「うん。ビックリしちゃった。仲良いんだねー」

 

「時々、泊まりに来てくれるんだ。辛い事があると、泣きにくるみたいで……」

 

千枝の言葉に雪子がそう説明する。

 

「へー、やっぱ、直斗君にコンテストで負けたのが悔しかったのかな?」

 

「そ、その話はしないでくださいよ……」

 

千枝が直斗に話を振ると、直斗は照れたようにうつむきながらそう返す。

 

「ま、あの二人、いいコンビだよね」

 

と、りせがからからと笑いながらそう話した。

 

「そういえば先輩。先ほど菜々子ちゃんとお話していたんですが。偉いですね。一人の時は知らない人が来ても玄関を開けない、というように防犯意識がしっかりしていました」

 

「ああ。まあ、叔父さんのおかげだろうけどさ」

 

直斗が菜々子を褒め、真もそう答える。そのまま話に花が咲いて夜が更けていく。そして誰かが「ふわ」と欠伸をすると真が立ち上がろうと膝を立てた。

 

「じゃあ俺はそろそろ戻る――」

 

が、そこで真の動きが止まる。彼の浴衣の袖を菜々子が掴んだまま眠ってしまっており、しかも結構しっかり掴まれているためちょっとやそっとでは外れそうにもない。浴衣を脱いだら上半身裸になってしまうし、かと言って無理矢理に離そうとしたら菜々子を起こしてしまうかも、と葛藤してフリーズする真を見た雪子がくすくすと笑った。

 

「椎宮君、なんなら泊まっていって。菜々子ちゃんの寝てるお布団のサイズなら椎宮君も一緒に寝る余裕はあるはずだし」

 

「あはは、そだね。泊まっていきなよ」

 

雪子の言葉に千枝が笑いながら賛同する。

 

「え……いや、だけど……」

 

「あ、先輩ったら意識してる~」

 

「遠慮しないでください」

 

雪子の提案に慌てる真をりせがからかうように笑い、直斗もそう答える。

 

「……じゃあ、そうさせてもらうよ」

 

諦めた真も苦笑しながらそう答え、そのまま真は菜々子を起こさないように注意しながら彼女の布団に入り、残る女子メンバーもそれぞれの布団に入り、雪子が蛍光灯を消灯して眠りにつくのであった。

 

翌朝。真は浴衣はそのまま、後で自分の部屋に戻ってから着替えようと考えながら部屋を出ていき、私服に着替え終えた菜々子達を待って彼女らと一緒に、朝食を食べるために大広間へと向かう。

 

「……おはよーさん」

 

大広間に到着すると、妙に疲れ切った表情をした陽介が出迎える。しかもよく見れば陽介だけでなくクマと完二も疲れ切った表情をしており、さらにクマにいたっては心なしか顔が青ざめている。

 

「……どうしたの?」

 

「あーいや……昨日、悪夢を……そう、悪夢を見ちまってな……」

 

千枝が呆けた顔で尋ねると、陽介が静かに呟く。その言葉に完二とクマもずーんと落ち込んだ様子を見せた。

 

「やっぱり、あの部屋駄目だったか……」

 

さらりと、そしてぼそりと雪子が呟いた。

 

「……陽介、まさか……」

 

「て、貞操は守り切った! なんとか逃げ切った! っていうかお前、一人で逃げんなよ!!」

 

「すまん、命の危機を感じて……」

 

声を潜めて問いかける真に陽介は声を潜めつつも焦ったようなそれでいて真剣な声で真に訴え、仲間を見捨てたことには変わりないためか真は申し訳なさそうに謝った。

 

「つーか先輩、俺ら柏木達を撒いてから部屋に戻ったんスけど、結局先輩、俺らが寝るまで戻ってきてなかったッスよね。ってか朝もいなかったし……どこ行ってたんスか?」

 

「ああ。あの後菜々子に会って、トイレに連れて行った後に部屋まで送っていったら天城達と合流して。そのままの流れで天城達の部屋に泊めてもらったんだ」

 

「なんですとー!?」

 

完二の質問に真が正直に答えるとクマが発狂せんばかりに声を上げる。

 

「お前、何気に一人でチャレンジ成功しちゃってるわけね……」

「うあ、流石先輩だぜ……」

「センセイ、羨ましいクマ……」

 

女子への寝室侵入チャレンジを唯一成功させた形になる真に、陽介と完二が頭を抱えてうなだれ、クマはばたんとテーブルに突っ伏す。

 

「あ、あの、花村先輩、クマ……」

「巽君……」

 

するとりせと直斗が突っ伏した男性陣に声をかけた。

 

「あ、あの、昨日はごめんなさい。私達が時間間違えたせいで……」

「ほ、本当にすみませんでした。天城先輩と里中先輩からも、謝っておいて、と」

 

りせと直斗が男性陣に向けて頭を下げる。なお雪子と千枝は旅館の手伝いか厨房で準備された朝食を運んでおり、こっちの方には来られそうにない。

 

「あ、あぁいや……まあいいよ」

「おう。風呂一回くらいよ」

 

陽介と完二も一日置いてしまうと怒りもどっかいってしまっており、あっさりと女性陣を許す。それから彼らは運ばれてきた朝食を取って早々に天城屋旅館を後にするのであった。




お久しぶりです。なんとか書き上がりました。
今回は文化祭後の旅館編、寝起きドッキリをどうするかで悩みました。結果、真だけ逃げ延びる&ハーレムという鬼畜の所業。
次回は日常編でハロウィン辺りを予定しております。ただどうするかはこれから考える。原作ではああだったけど、ここではどうしようかとか。ハロウィン開催するならマリーを追加出来るかなぁとか。
短いですが今回はこの辺で。ご指摘ご意見ご感想はお気軽にどうぞ。それでは。

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