ガレア王国の君主
戦乱と残虐を好んだ邪知暴虐の王。それが私、冥府の炎王イクスヴェリア
私が望むと望まざると、結果がそうなってしまった以上、そう言われても仕方ないだろうし、否定するのも小門違いなのでしょう
「そこで少し待っててね」
雨水秋春、元操主にして私を目覚めさせた張本人
最初から不思議な方でしたが、いよいよ持って判断に困りました
「入っていいよ」
「分かりました、失礼致します」
私が緊張した面持ちで入ると、そこには無精髭の男性と秋春様と似た服を着た少女、そして脇に少し変わった白い犬が居た
「間を割って俺が紹介しようかな。コイツらはマース・ヒューズにエリシア・ヒューズ、聞いた通り親子な? そしてシロ。でこっちはイクス。さっき説明した通りまぁ今度から俺の娘になる」
「・・・はい? あの秋春様?」
いま、なんて? 俺の娘になる? 少し待って下さい
言っている意味が分かりません
「お前の保護責任者が居なくてね、当然だろ? 千年前の人物だし、で話し合った結果、俺が保護責任者になる事になった・・・まぁ最大の理由は、まさか三等陸士の娘が冥王なんて誰も考えないだろうって作戦」
「ですが、しかし、私は」
「はい、ストーップ。此処で言い合いになっても仕方ないから直球に、イクスは俺と親子になるのは嫌か?」
「そんなの・・・」
そんなの、考えた事も有りません
家族なんて無縁でしたし、無縁で居るつもりでした。王は何時だって孤独です
ですが、目の前にそれがあって
暖かい物だと知っていて
自分が欲している物だと自分でも分かっていて
・・・手を伸ばせば届くと言う甘い誘惑が私を誘う
酷いじゃないですか
「ひうっ」
「泣かせたな」
「俺が悪いのか?!」
「パパ! 空気を壊す事を言わない!」
「すみません、少し・・・少しだけで良いので弱い私を見なかった事にして下さい」
それからわたくしは見っとも無く泣いた
王である自分を洗い流すみたいに、気付けば秋春様に子供の様に抱かれていた
◇◇◇◇◇◇
泣き疲れた私は眠ってしまっていたのか起きると秋春様の家のベットでした
「ガウ!」
「あなたは、あの部屋に居た」
「ガウゥ」
変わった白い犬は私の頬を舐めると扉から出て行く
「痛って! 痛いって噛み付かなくとも行くって!」
部屋の外からそんな楽しげな声が聞こえたと思うと秋春様が入ってきた
「目覚めは?」
「悪くは無いです」
「そりゃ結構。さっきも紹介したがこいつはシロ、魔狼な? 犬じゃないぞ?」
狼、ああ、それで犬にしては変わってると思ったのですね
「ああ、そこの。文献通りにお前の所の民族衣装を作ってもらったから、それを着れば良いよ。やっぱ慣れていて落ち着ける服が一番だもんな」
「有難う御座います」
「しかしお前の所の民族衣装ってチャイナみたいだよな」
「ちゃいな? ですか」
「うん、まぁ如何でも良い事か。夜飯にするから着替えてリビングに来てね」
「はい」
これから私は、王としてでは無く雨水秋春の娘として普通の家族になれるのでしょうか
いや、普通でなくても良い
ただこの家族を維持できれば良い、どんな手を使ってでも・・・
その為の力なら、私の忌わしい力がきっと役に立つ。秋春様の剣と成り、盾と成れる
・・・でも、まずは父と呼ぶ練習をした方が良いですよね
イクスは家族と言う手に入らなかったモノを手にして妙な方向に走ります