雨水イクス
旧名は冥王イクスヴェリア。現代において唯一虚実の混ざらない事実を知る生きた古代ベルカ遺産・・・自他ともに認める最強の武器使いなのです
とうぜんそんなお姉ちゃんなので、学院では対等どころか勝負になる人も碌にいない状態で実技授業では物凄く苦労しているとかなんとか
「陣取り合戦みたいなモノか」
「はい。しかし、私みたいな例外が加入したチームは絶対勝ってしまいますので・・・」
ごろごろとソファーの上であきパパと過ごしていたら体操服姿のお姉ちゃんが困った顔で相談を持ちかけてきたの
まず何でお姉ちゃんは体操服なんだろう?
「ちなみに前回はどんなだったの? お姉ちゃん」
「ヴィヴィオ、居たのですか」
「居たよ~」
抗議のために足をバタつかせる
「俺の上で暴れるな」
「ん~? にゃはは、ごめんなさい」
「まぁいいです。そうですね、自分なりに一歩も動かないで魔力も使わないと言う制限をかけてみたのですが、戦刀を投げて各個撃破をしていたら全滅してました」
陣地を奪うゲームで選手を全滅させるとか・・・ある意味で正攻法だけど、実際にできるお姉ちゃんはムチャクチャだね
「いっそ攻撃に参加しないのは?」
「そうしてしまうと相手側がいつまでも陣地制圧ができないので終わらないのです」
「結局ワンサイドゲームになってるな」
「はい、困りました」
むしろ困ってるのは他の生徒さんなのでは。ちょっぴりそんな風に考えてあきパパに抱きつくとお姉ちゃんの視線が強くなる
へへん、うらやましいだろぉ
「ヴィヴィ様、ずるい」
「わっ! クロ、どこから」
突然クロがあきパパとわたしの間に割って現れました
「ずっといた」
え、うそ
あきパパも驚いてるからわたしと同じで気付いてなかったんだよね
「クロならずっと足元にいましたよ」
「は? え? 足元?」
「ねこふぉーむ」
呪文を唱えたクロは真っ黒な子猫になってあきパパの膝上に着地する
「おお、肌触り最高だな」
「あ、ヴィヴィオも触りたーい」
「私も」
ひとしきり堪能して
「で、けっきょくお姉ちゃんの問題はどうするの?」
「そうだな・・・あまりやりたくはないがアレしかないな」
「なになに、アレって」
「力に制限をかける」
ん? 魔力リミッターって事かな。でも、それならもうお姉ちゃんにもわたしもしてるし・・・魔法的な運動制限を加えるのかな?
「リミッター?」
「不正解。ちょっとヴィヴィオもクロもおりて」
「はーい」
「にゃん」
あきパパは首を傾げるお姉ちゃんを連れてリビングから出て行く
「いっちゃった」
「にゃ?」
「クロ、動物化の魔法なんて覚えてたの?」
クロはわたしの膝上に移動して念話で最近覚えたことを教えてくれる
それから十分くらいであきパパとお姉ちゃんが帰ってきました・・・心なしお姉ちゃんの顔が赤い気がするんだけど気のせいかなぁ
「じとー、なにしてきたの?」
「おまじない。かな」
「嘘でしょ! じゃあお姉ちゃん! なにされたの!」
「すこし、話をしただけです」
突き放すようにお姉ちゃんは言うけど何かトクベツな事をしたのをまったく隠せてない
「むむぅ」
クリスを介して探査魔法を展開する
魔力リミッターに変化は無し。新たな術式の展開も発見出来ず。体温が僅かに上がっている事以外は十分前と同じ数値を示した
つまりは外的要因以外での処置
昔のあきパパならいざ知らず、レアスキルが無くなったあきパパにどこまでの事が出来るのか
「じゃあ、試しにイクスの制限が上手くできているか勝負しよう」
「にゃ? あきパパが?」
「いや、制限かかってても俺は勝てないよ。ヴィヴィオが、暇だろ?」
「まぁいいけど」
実際戦えば何か分かるかも知れないからね
そうと決まればさっそくお庭へレッツゴーなの!
◇◇◇◇◇◇
ルールは至って簡単・・・相手の被ってる帽子をとる。飛行は禁止だけどそれ以外なら魔法でも何でも有りの一本勝負
普段ならお姉ちゃんがワザと負けようとしてもお姉ちゃんが勝っちゃうくらいのゲームルールだけど、あきパパの言葉が本当なら今回はこれで勝てる可能性があるらしい
いちおう断言しないのは頑張りによってはお姉ちゃんが普通に勝つかもだからって言ってた
「ん~見た感じは変わってないけどぉ」
手始めにチェーンバインドを複数だして死角と言う死角を攻める
お姉ちゃんの右手に魔力が集まる。このままなら、全部斬り落とされて終わりなの
「ッ!」
「ん? んー?」
拘束する前に消されると思ったのにお姉ちゃんは拘束された後に斬って抜け出す
「まさか」
隙を見つけて拳打を放ち距離を取って魔力弾を色んな角度で撃ってみる
・・・あたる。やっぱり、あたる・・・反射の遅延かな? うん、たぶんそんな感じなの。完全に切ってる訳じゃないみたいだけど、ラグのような遅れを感じるの
「それなら、戦法は決まりっ!」
反射が上手くいかないなら奇襲で奪い取るのが一番!
質より量で魔力弾を生み出しお姉ちゃんの視界を埋める。流石にお姉ちゃんの防護を超えられる程ではないからお姉ちゃんは無理して魔力弾を破壊しないけど、それが逆に仇となってお姉ちゃんの死角を増やしていく
「相変わらず、貴方も大概ですね」
「ふふん、ヴィヴィオはお姉ちゃんとは違って調整が効くからね。学院では出力を下げてるよ」
「便利ですね」
「便利だよぉ、羨ましいでしょー」
「はい、とても」
戦刀を捨ててお姉ちゃんは力強く踏み込んだ
見えないからって直感であててくるとか野蛮なの。でも、お姉ちゃんくらい直感力が高いと当然あたりを付けたところがあたりな訳でお姉ちゃんの手が届く距離まで接近を許してしまう
伸ばされた右手を払いのけて転移魔法を使って後ろを取る
「勝った」
と、思ったけど、お姉ちゃんは素早く片足を引いて体を捻りヴィヴィオと目を合わせる。集中力が高まっていっているのを感じるから無理にでも離れた方が良いかも
カウンターを警戒して離れようかとしたらお姉ちゃんは何故か肩を揺らしてお腹・・・脇腹を守るように手でお腹を押さえた
「ヴィヴィオの」
「あっ」
「勝ちぃぃ!」
呆然としたお姉ちゃんの視線がヴィヴィオの右手に持つ帽子に注がれる
勝っちゃった
わぁ! 本当に勝てたの! 最後に何でお姉ちゃんが脇腹を庇ったのかは本当に謎だけど、あれのおかげで勝てた
「やったぁ! あきパパ! ヴィヴィオの勝ちだよ、勝ち!」
「はいはい」
「・・・お、お父様のおかげです」
「ん? なにぃ、お姉ちゃん。まさか負け惜しみなのかなぁ? にゃはは、勝者は寛大だから聞いてあげてもいいよぉ!」
ぐぬぬ。と悔しそうな表情になった後はそれを隠すようにあきパパに抱きつきに行くお姉ちゃん
「ちょっと待って! ヴィヴィオへのご褒美が先じゃないかなっ!」
「勝者はそこで高笑いでもしていて下さい。私は妹に負けて傷付いたので、お父様に慰めてもらいます・・・お父様のせいですよ、責任とって下さい」
「にゃ~! この間は、敗者はそこで我慢しなさい。とか言ってた癖にぃ!」
「世界は姉の都合でまわってるのです」
「違うしぃ! ヴィヴィオの都合でまわすもん!」
「二人の勝手で世界をまわすなよ」
言い合いをした後に、二人ともをリビングまで抱っこで連れてってくれると言うあきパパの条件で和解する事にした・・・ヴィヴィオが勝ったのにちょっと不服なのです
◇◇◇◇◇◇
「で、結局お姉ちゃんに何をしてたの? 反射の遅延だったみたいだけど。複数戦だと致命的だよね」
ゲームが終わった後。体操服を着替えに部屋に戻ったお姉ちゃんを確認してやっぱり気になっていた事をあきパパに聞いてみた
「うん、それで正解だよ」
「方法は?」
「ん? 方法?」
「そうなの。だって、魔法じゃないでしょ? ヴィヴィオとゲームをしてる間、お姉ちゃんに魔法が使われた感じはしなかったもん」
だいたいあきパパが使えるレベル魔法なんて、ヴィヴィオもお姉ちゃんも無意識で無効化できるくらいのはずだし
「おまじないって言っただろ?」
「・・・暗示?」
「まぁ近い」
「洗脳? それはないか、お姉ちゃん。あれで王様だからそう言うのに耐性あるからね」
「そうだね」
お姉ちゃんの着替えはそんなに長くないし、そろそろ答え合わせをしないとなの
「ま、暗示でほぼ正解だよ」
「そうなの?」
「そう。ほら、イクスって感覚が鋭いだろ?」
「うん」
「それを鈍らせてあげたんだよ。だから、感覚的に動けずに反射が遅くなった訳だね」
「いや、その方法をヴィヴィオを聞いてるのっ」
現象の結果はこの際どうでも良いし。ヴィヴィオが体感して観察して把握してるから。問題はお姉ちゃんにそれをどう通したのか。なの
「遅くなりました」
答えを聞いてしまう前にお姉ちゃんが着替え終わった
「むぅー!」
「ああ、ごめんごめん」
「なんですか? またヴィヴィオはお父様を困らせるのですか?」
「違うし! もう、だったお姉ちゃんに聞くよ! お姉ちゃん! あきパパに何をされてあんな状態だったの!」
「・・・教えません」
「うがーっ!」
結局、この日にわたしがその方法を知る事は出来ませんでした
◇◇◇◇◇◇
そのあと
「あきパパー」
「ん? どうした?」
「お姉ちゃん、程好くチーム戦できたんだって」
「そっか。効果がギリギリだったから良かった」
「ねぇ、もう教えてくれてもいいでしょー?」
「ん、ああ、隠してる訳じゃなかったんだけどね。ええと、イクスの感覚が鋭いのは話したね」
「うん」
「だから、その感覚の鋭さを無くしてあげれば戦いに支障がでる」
「うんうん」
「じゃあ、どうすれば良いか。それはね、感覚が鋭くなるたびに緩んでしまう癖を付ければいい」
「ん~? どう言う事?」
「実際にヴィヴィオで試そうか。ヴィヴィオも感覚は鋭い方だし」
「わかったの」
「目を閉じて」
「は~い」
「ゆっくりと深呼吸をして、次の俺がそっと触る場所を言い当ててね。本当にそっとだから、集中しててね」
「うん」
「・・・えい」
「ッ! にゃ、ハハッ! あきパパ! くすす、ふふ、あはは、なに、する、の!」
「ん? くすぐり」
「そっと触るって言ったよね! 変に集中しちゃったせいで・・・あ、なるほど、それでお姉ちゃんはあの時を脇腹を庇ったんだ」
「ちなみにイクスには声を出さないようにもお願いしてたね。あとは集中しそうになったら思い出してねってお願いしておいただけ」
「うわー」
「そう言う訳で、イクスは集中できないし、思わず集中が高まって感覚が鋭くなるといまのを思い出して、まず最初に脇腹を守ったって訳だね」
「はぁーそれっぽいのは分かるけど、よく上手くいったね」
「まぁイクスが特別だよ。普通はそこまで感覚が鋭い人はいないからね。それに、イクスが俺を信じて無防備になってたから余計に効いたのもある」
「なるほどねぇ、わかった! こんどヴィヴィオもお姉ちゃんに試してみる!」
「たぶん失敗すると思うけど頑張れよ」
「うん! え?」
◇◇◇◇◇◇
そのそのあと
「イクスお姉ちゃ~ん!」
「なんですか、騒々しい」
「ねぇねぇ、目を閉じて!」
「なぜですか?」
「いいから!」
「分かりました」
「・・・ん、意外とタイミング計るのむずかしいの」
「ああ、一ついいですか?」
「ん?」
「もし、貴方が私をくすぐろうとしているのならば、貴方の指先が触れた瞬間に全力のグーがとんでくると思ってください」
「・・・え、えぇと、そんなことしないよぉーにゃははー」
「ええ、分かっています。それで? 何をしたいのですか?」
「ご、ごめんなさーい!」
「逃げましたね・・・まったく、かわいい妹です」
最後にくすぐりなんて受けたのはいつだったろう
そんな事を書いている時に思ってましたが。あれって、してくる相手によって本当に感じ方が変わって不思議ですよね