召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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この一話で終わる短編です


番外編
姉妹の屋外授業~side イクス~


知られたくない事。人ならば皆それぞれ大小抱えていると思いますが、私の妹はそれが多く謎めくのが趣味みたいなところがあります

 

まぁだから何だと聞かれますと困りますが・・・纏めるとそんな妹も私にとっては可愛い妹だと言いたかったのです

 

例え。前日は夜遅くまでゲームをして遊んでいたのに、学院のある日以上に早い時間に起こされたとしても・・・少々はイラッとした気はしますが問題になる程ではありません

 

 

「おはよっ! イクスお姉ちゃん!」

 

「なんですか、ヴィヴィオ」

 

 

起きたばかりのせいか声が上手く出せない

 

いつもより起きた時間が早い為か、それとも必要以上に揺らされた為か、頭にぼんやりと靄が掛かっていて考えも纏まらない

 

 

「ほらほらぁ、これ! 可愛いでしょ~」

 

 

目を細める私にヴィヴィオは動物の耳を象ったアクセントの着いたパーカーを被ってみせる

 

 

「うさぎぃ。ぴょん! なんちゃって・・・てへへ」

 

 

可愛いですね

 

十人に問えば十人とも同じ答えを聞けると断言できる程度には可愛いです

 

 

「かわいいですよ」

 

「でしょー」

 

 

随分と嬉しそうですね

 

オーバーにくるりと回ってはにかんだヴィヴィオは次は分かりやすくムスッと表情を変える

 

 

「さっきねー、あきパパにも見せたんだけど・・・なんて言ったと思う?」

 

 

お父様も起こしたのですか

 

万全の私なら咎めかねない内容でしたが、寝ぼけた処理能力ではお父様の素晴らしさを褒め称えるのが精一杯でした

 

お父様こそ至高です

 

 

「私と同じではありませんか?」

 

「ぶぶぅ! あのね! こんな感じでね!」

 

 

ヴィヴィオは喉に手を当てると何度か調節するように声を出してお父様の真似をする

 

 

「は? いま何時だと思ってんだ、寝ろ・・・コホッ、って感じ! 酷いよね!」

 

「同意を求められても困ります」

 

 

と言うか、私はお父様に賛同です

 

流石お父様、正確で的確で明確な素晴らしい返答です。私は更にお父様が好きになりました

 

 

「むぅ、お姉ちゃんならヴィヴィオの味方になってくれると思ったのにぃ」

 

「貴方らしくない的外れな検討ですね。確かに私は家族が好きですが、私はお父様が大好きなのです」

 

「ふんっ! まぁいいもん! でねぇ~お姉ちゃん、遊びにいこっ。ね?」

 

「早すぎてお店はどこも開いていないと思いますが」

 

 

今日は休日なので賑わいはするでしょうけど、それは最低でも朝食を済ませた時間の後で無いといけないはずです

 

 

「だいじょうぶい! そこは考えてるからオッケーだよ!」

 

「はぁ」

 

 

それにしても、やけに活発ですね。感情表現も明るめですし、そこまでの何かが目的の場所にはあるのでしょうか?

 

 

「ほらほら、お揃いのうさぎパーカー。お姉ちゃんは白が似合いそうだから白ね」

 

 

似合いますか?

 

むしろいま貴方が来ている黒兎と取り替えた方が良いのでは

 

 

「はい、お着替えお着替え」

 

 

仕方ないですね。もう目は覚めてしまいましたし、ヴィヴィオの目的にも興味は沸きました・・・付き合ってあげましょう

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

何と無く、誰も起きていない家から出掛けると言う行為に少しばかり罪悪感を感じましたが、隣でヴィヴィオは変わらず笑っているので大丈夫なのでしょう

 

それから、暫く歩いて振り返って家が見えなくなってしまった辺りで、ヴィヴィオの手足の様に扱われている騎士団が何だか唯のタクシー代わりに呼び出されて黙々と車をまわしていました

 

 

「おはようございます! イクス先輩!」

 

 

何でしょう、この少年少女。接点の全く無い方々だと言うのは間違い無いはずですが・・・

 

 

「ヴィヴィオ」

 

「なぁに?」

 

「随分と集めましたね。どう言うつもりですか?」

 

「むっふぅー、実はね!」

 

 

ダダンと気の良い効果音がヴィヴィオの手振り身振りを補助する

 

・・・騎士団の方は楽器も嗜むのですね

 

 

「第一回! 雨水家姉妹の野外授業なのです!」

 

 

今度はパチパチと少年少女達の拍手がヴィヴィオを補助する

 

タイミングが良すぎます、仕込みですね

 

 

「野外授業?」

 

「ほら、あきパパってかなり優秀な指導者でしょ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「うんうん。でね、娘の私達にもその能力があるんじゃないかって話が持ち上がってるの」

 

 

何だかもう既に帰りたくなりました

 

私達にも指導力があるか。なんて無意味な問いです・・・お父様の娘なのだからあるに決まってます。ヴィヴィオは有り余る才能を使って、私は溢れ出るカリスマを使って、それぞれ違いますがお父様に迫る事は可能です

 

 

「そんな事の為に・・・ああ、貴方達の休日を奪う様な形になって申し訳ありませんね」

 

「あ、その辺は安心して、無理やり集めた訳じゃないから。ちょっとお姉ちゃんがコーチになって色々教えてくれるよぉって呼びかけたら集まってくれたんだ」

 

 

無理やりでは無いが、ヴィヴィオに誘導されたのでは。と疑う視線を向けていると、最初は集まりすぎて十五人程度までくじ引きで減らした。だとか、おかげでリオとコロナも参加できなくて残念がっていた。だとか、取り合えず本当に呼んだだけの様なので追求は一先ず止める事にしました

 

騎士団が何でも屋の様に同行していると思えば、彼らはその実験の記録係りか何かだったですね

 

 

「分かりました。とにかくこの場の子達のスキルアップを行えば良いのですね。何をするのですか? 苦手な魔法取得ですか? それとも何か成績に残る事をしないといけないのですか?」

 

「その辺も最初から決めてるから安心して。今回集まってもらった子達は殆ど古代ベルカとは何の縁も無い子達なんだけど、何か一つ。古代ベルカ式の魔法を覚えてもらうこと。それがヴィヴィオ達の課題だよ」

 

「・・・それは無理でしょう。努力云々の前に術式の違いは難しいです」

 

「そだね」

 

 

あっさり認めましたね

 

 

「でも、あきパパに出来たからヴィヴィオ達も出来るのかなぁ? って事なんだと思うよ?」

 

「ん? お、お父様は出来たのですか?」

 

「うん。ヴィヴィオも知った時はびっくりした。まぁヴィヴィオは自分がハイブリットだから不可能だとは思って無かったけどね」

 

 

いや、貴方がハイブリットなのは、そう言うふうに作られたからでしょうが

 

 

「やってみましょう」

 

 

しかし、流石お父様です

 

いままでの術式とは違うモノを覚えるだけでなく、きちんと運用できる段階まで教える。と言うのは相当手が掛かりそうですね

 

 

「じゃ、お姉ちゃんのやる気も戻った事だし、始めようか」

 

 

どう言う形式で行うのかと思っていると、騎士団がモニターを準備してヴィヴィオが伊達眼鏡を嵌める。まずは理論と言う事なのでしょう

 

 

「お姉ちゃんはパッと見、遅れてる子の補助をお願いなの」

 

「分かりました」

 

 

小難しい事は私は不得手ですからね

 

さっそく始まったヴィヴィオの話を聞きながら周囲を確認する。流石に最初の段階から分からない、と言う事は無いみたいでしたが、やけに不安そうな子が目に付く

 

 

「どうされました?」

 

「ふゃっ」

 

「随分と気が漫ろですね。序盤ですが、基礎を疎かにしては後に障害と成りますよ」

 

「は、はい! すみません!」

 

 

気の張り過ぎです

 

しかし、どうもこの子の視線は最初から私に向いていた気がします

 

 

「私に何か用ですか?」

 

「あ、その、わたし」

 

「・・・。」

 

「えと、ですね」

 

 

何を伝えたいのかは知りませんが余り会話の得意な子では無いようです

 

 

「お、覚えて、ません・・・よね」

 

「何の事かは分かりませんが、覚えてません」

 

 

彼女はそれなりにショックを受けたようで涙目になって胸を抑えるように手を組む

 

 

「イクス様に助けてもらって。その、ミッドの街で」

 

「いつの話ですか?」

 

「一ヶ月ちょっと」

 

 

一ヶ月ちょっと

 

覚えてません。話しかけた際も、初めて見る顔だと思っていたので記憶の端にも残ってませんね

 

 

「覚えてませんので感謝などでしたら不要ですよ。それとも、私はその際に失礼な事でもしましたか?」

 

「あ、いや、全然です! 怖い人達だったのに・・・だから、謝りたくて、あとお礼も」

 

「謝罪ですか? 変わった方ですね」

 

 

しきりに首を傾げる私に彼女は恥ずかしそうに顔を伏せて首を横に何度も振る

 

 

「わたし、イクス様に頼って逃げちゃったから。助けてもらったのに、何も言わずに逃げて・・・だから、ずっと謝りたくて」

 

「律儀ですね・・・まぁ良いです。では、謝罪も礼も受け取りました」

 

 

納得してなさそうですね

 

仕方なく私はヴィヴィオの話が盛り上がって皆の視線がヴィヴィオに向いている隙に、彼女を視線から隠れられる位置まで連れ出した

 

 

「あの、え? イクス様?」

 

「黙っている。それほど離れている訳では無いので声を出せば気付かれます」

 

「・・・ごめんなさい」

 

 

私がこんな事をすれば他が煩いですし、何より妹が煩いですからね

 

不安を取り除くには人の温もりが一番です

 

 

「安心して下さい。未だその日に怯えているのでしょうが、それは不要な心配です」

 

「そ、そう、じゃなくて」

 

「私が抱きしめる相手と言うのは特別なのですよ? 私の特別では嫌ですか?」

 

「嬉しいです!」

 

「なら良し。そして、私は特別なモノは守ると決めています。だから安心して下さい、如何なる危険が訪れても私が何とかします」

 

 

逃げてしまう程の恐怖に見舞われたのなら、未だにその恐怖に縛られていても不思議ではありませんでしたね

 

それに逃げたのなら、私が対処した後も見てないのでしょう。忘れたと言われれば不安にもなりますか。悪い事をしたとは思いますが私にとってはその程度の相手だったので許して欲しいです

 

 

「・・・。」

 

 

腕の中の彼女はギュッと私の服を掴むと身を寄せて黙り込んだ

 

 

「仕方ないですね。他の方に遅れないように個人授業をしてあげます。なので、ゆっくり焦らず、受け止めるので安心して下さい」

 

「・・・はい」

 

 

複数に分かりやすく教えるのは苦手ですが、一人くらいなら何とかなります

 

離れたところに見えるヴィヴィオの授業を見ながら、私は自分の言葉に直し幼い少女に優しく語った

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「と、まぁこれで大体の理論は分かったと思うから、一端休憩してお姉ちゃんに代わります。三十分休憩ね! 解散!」

 

 

休憩とヴィヴィオの言葉と同時に騎士団が動き出して、それぞれにジュースや軽食などを配り歩く・・・本当、良い様に使われてますね

 

 

「ふぅずっと喋るのって案外疲れるの」

 

「お疲れ様です」

 

「あとはお姉ちゃんにバトンタッチだから良いけどねぇ~」

 

「実技ですね。面倒なので、覚えたモノを使って私に挑んでもらおうと思うのですが」

 

「いいとおもうよ? 格上との相手は何であれ得るモノはあるだろうし・・・あ、そう言えば面白い子が居たなぁ」

 

 

面白い子?

 

ヴィヴィオがそう言うなんて何か良い才能があったのでしょう。その一端を見たのならそれを伸ばしてあげられれば言う事無しですね

 

 

「どんな子なのですか?」

 

「そうだねぇ、戦乱に理解のある子かな。集められたのは本当に普通の子供なはずなのに、なんでだろう? ヴィヴィオの話はその辺は上手く伝わらないように隠してたはずなのに。言葉の裏を読むのが得意なのか。それとも戦乱ベルカの知識があったのか・・・どっちにしても期待だね」

 

「・・・なるほど」

 

 

私が語って聞かせたせいですね

 

間をおいて答えた為かヴィヴィオの表情が動いた気がしますが、これ以上誤魔化そうとすると失敗するのが目に見えているのであえて触れないでおきましょう

 

 

「お姉ちゃん。胸元湿ってるね、ジュースでもこぼしたの?」

 

「・・・まぁ」

 

「ふぅん」

 

 

ヴィヴィオからの視線を感じる

 

ちらりと見れば暗い瞳が笑顔と相まって何だか恐怖の感情を彷彿とさせます

 

 

「しかし、このペースですとお昼過ぎくらいには終われそうですね」

 

「またお姉ちゃんの悪い癖なのかなぁ」

 

「自覚はありませんが」

 

「・・・そう言うところ、あきパパにそぉっくりなの」

 

 

警戒も許さずに近寄ってきたヴィヴィオは薄っすらとしか見えない涙の跡を指でなぞる

 

そしてそのままぐりぐりと力を込め始める

 

 

「にゃはは、そっかぁ、あの子かぁ。ズルいなぁ、そう言うのは妹のヴィヴィオだけで十分じゃないのかなぁ?」

 

「ヴィヴィオ、あまり表に出すと周りが怖がりますよ」

 

 

あと普通に痛いです

 

 

「ふんっ、分かった。納得は出来ないけど、我慢する・・・はふぅ、慣れない事をするもんじゃないね、魔力が乗るほど感情が揺れちゃってたの」

 

 

暗い瞳も元の明るさを取り戻して微かに滲み出ていた虹色の魔力を鳴りを潜める

 

 

「良い子ですね」

 

「もちろんなの! さて、ぼちぼちお姉ちゃんの出番だよ! 今度はヴィヴィオが補助するから、したい様にして良いからね!」

 

「ありがとうございます」

 

 

ヴィヴィオからの補助があるなら大抵のミスはカバー出来ますからね

 

安心して私も慣れない事を出来ます

 

休みの時間の終わりが近づいてきたので、ヴィヴィオが先程まで居た場所に今度は私が立つ。気のせいかヴィヴィオの時と違い熱を帯びた視線が多い気がするのですが

 

 

「それでは理論を大方終えた貴方達には今度は実践と言う形で魔法を自分のモノにしてもらいます。そうですね、三人一組になって下さい。丁度五組出来上がるはずなので、その三人で今後は動いてもらいましょう・・・さぁどうぞ?」

 

 

元々知らない同士が殆どで学院ではそう言う授業もあるので、思いのほか揉めずに組みが決まったようです

 

 

「では、まずは先頭の組みだけ、前に。後は少し離れて見ていて下さい。順に私と模擬戦をしてもらいます。ああ、一度だけでは無いので余り最初から体力を使い過ぎるのはお勧めしませんからね」

 

「お願いします! イクス様!」

 

「イクスお姉様にお相手して頂けるなんて・・・」

 

「頑張ります!」

 

 

一人目以外は後衛タイプですね

 

開始の合図は騎士団の人の行ってもらい、まずは受けを念頭に置いてそれぞれの魔法を見る事にしました

 

 

「身体強化ですか、ベルカでは基本中の基本ですがそれ故に・・・」

 

 

勇敢に突っ込んできた少女と同じ魔法を発動させて拳を受ける

 

 

「こんな風に優劣がはっきりと出ます。改善点としては、貴方は何か別の魔法と併用してますね。魔力の無駄遣いなのでそれは切って下さい」

 

「え、でも」

 

「単発の魔力弾でしょう? 不意を突く為か知りませんが、その程度の威力なら無いモノと同じです。それならばその分を強化に回した方が建設的です。それに、貴方は性格的にそう言う裏の読みは得意そうでは無いので」

 

 

他にも体の運びに無駄がありますが、それを指摘するのは次にしましょう。一度に全部言っても改善が大変でしょうからね

 

何度か受けて十分に理解したので、次は後衛二人に視線を移す

 

 

「シューターにバスター。見事に分かれてますね、一人が誘導してもう一人が隙を撃つ」

 

 

理想的に見えますが古代ベルカの使い手を相手するのなら足りない

 

生半可なシューターなど囮にならないのだから実質無視しても問題ではない

 

年齢を鑑みれば確かに制御している数は優秀と言えますが、やはり一つ一つの威力は大したモノでは無いので避ける必要も無く私の強化の魔法に弾かれる

 

 

「バリアを抜く技術を覚える必要がありますね。最も簡単なのは込める魔力量を上げる事ですが、それでは牽制の為の魔力弾だけで大幅に魔力を使ってしまうので・・・まぁ緊急時以外は避けたいですね」

 

 

飛びぬけた魔力量を誇るなら話は別ですが

 

 

「最後に、そのバスター撃っても良いですよ。これは模擬戦なのですから避けません」

 

 

十分な時間溜める事が出来ていた魔力砲はいまに暴発に繋がりそう。少女もそれが分かっているみたいで撃つ事に躊躇っているみたいです

 

 

「大丈夫ですから」

 

「わ、分かりました・・・えい!」

 

「ああ・・・目を閉じて撃っては駄目でしょう」

 

 

流石に近距離で直射砲を受ける訳ではいかないので、戦刀で斬る

 

む? 何故皆さん驚いているのでしょうか? 騎士と名乗る古代ベルカの魔道師なら、この程度は防げて当然なのですが・・・

 

 

「さて、それぞれの課題が見つかったところで次といきましょう」

 

 

前衛タイプが覚えようとする魔法は分かりやすくて良いのですが、後衛は難しいですね。ただでさえ古代ベルカ魔法は前衛に偏っているところがあるので・・・まぁ幸い集まっている子達は平均より魔力値が高いみたいで助かりました

 

この後、三周ほど模擬戦を行ったところで前衛の方は大体出来あがっていた。ヴィヴィオの補助もあったので後衛も日を掛ければ大丈夫だとは思います

 

 

「二時。ん~途中大きく休憩を挟んだとは言え、結構時間掛かっちゃったね」

 

「まだ完璧では無いですよ」

 

「うん。でも、これ以上は詰め込み過ぎだから持ち越しかな」

 

「そうですね」

 

 

むしろ、この短時間でここまで出来たこの子達は優秀な部類なのでしょう

 

 

「最後に騎士団の人との模擬戦か、ヴィヴィオとお姉ちゃんの模擬戦か。どっちか見てもらおうと思ってるんだけど、どっちが良いかな?」

 

「まだ騎士団を使う気なのですか。私が相手を勤めますので、騎士団の方には周辺被害を防ぐ結界に集中してもらって下さい」

 

「は~い、伝えてくるね」

 

 

特に意を挟む事なくヴィヴィオは騎士団に事情を話に向かった

 

念を入れてなのでしょうか、騎士団から半数以上の人数が使われて結界が構築されていく・・・そしてヴィヴィオと私が少年少女達に一声掛けて結界内部に入る

 

 

「ん~」

 

 

いつの間にかに聖王家の騎士甲冑を模したバリアジャケットに着替えていたヴィヴィオは、大きく伸びをするとスイッチを切り替えた様に虹色の魔力を纏った

 

大人モードは無しですか

 

 

「お姉ちゃんはバリアジャケットにならないの?」

 

「ノノは家で留守番中ですから」

 

「・・・あ、見ないと思ってたら家に置いてきちゃってたんだ・・・転移で呼ぼうか?」

 

「いいですよ。模擬戦なのですから、軽く試合う程度で済むでしょう」

 

「にゃはは、そうだね。じゃ、遠慮なくスタート!」

 

 

貴方が合図をするのですか

 

本当に遠慮なく始まり、ヴィヴィオは全力で駆けて勢いのまま低く拳を放つ

 

流石にバリアジャケット無しで受ける事は出来ませんので、思いっきり横に蹴り飛ばして拳との接触を逃れる

 

 

「もう少しゆっくり動かないと見ている人が分かりませんよ」

 

「あいたた、う~いまのは絶対当たったと思ったのにぃ」

 

「はぁ、まぁいいです」

 

 

戦刀を五本ほど作って起き上がろうとするヴィヴィオに投げ付ける

 

 

「わわっ!」

 

 

即座に立ち上がったヴィヴィオは、同時とも思える戦刀から順番を見抜き叩き落とす。しかし、無理な体勢から繰り返し打撃を放ったせいで完全に無防備になったヴィヴィオは懐に入った私に対応できずに再度地面に倒される

 

 

「恐らくは古代ベルカ式を使う相手と出会った事の無い貴方達に注意点です。古代ベルカ、それも位が高い者、もしくは王族にもなれば素の状態が既に反則の域だと認識して下さい。故に、一度攻撃が入った程度で安心しないように」

 

 

追撃の為に高く上げた足を・・・

 

 

「お姉ちゃん、スカート」

 

「ッ!」

 

 

流石ヴィヴィオ、策士ですね!

 

すぐに結界の端まで跳んでスカートを抑える

 

 

「その顔、絶対ヴィヴィオのせいにしてるでしょー。いまの自爆だからね? あーあ、あきパパの娘として恥じらいが無いのはどうかと思うな~」

 

 

これ幸いとヴィヴィオが笑顔で攻め立ててきます

 

模擬戦でそう言う勝負はいらないと思うのですが・・・

 

 

「わ、私は見られても何とも思いません」

 

「ホント~? いまのバッチリクリスが激写してるよぉ? いいの? ホントにそんな事、言っていったのかなぁ~」

 

「うぐぐ」

 

 

ステップを踏んだヴィヴィオは一気に私までの距離を詰める

 

背中が既に結界の壁なので、後退出来ない以上は迎え撃つしか無いのですが。動揺が収まりきれていない状態でヴィヴィオの打撃に対処できるのか

 

 

「た・と・え・ばぁ~」

 

「クリスを破壊します!」

 

 

悪そうな笑みのヴィヴィオに危機感を感じました

 

戦刀を作り出して全力で振るう。これなら聖王の鎧の防御を抜いてクリスの防御システムに食い込む、そしてそれすらも破ってシステムを破壊できる

 

 

「注意その二、古代ベルカの使い手にむやみに斬撃や弾丸を飛ばさない事。お姉ちゃんの言うとおり、王族相手ともなれば策の無い遠距離攻撃は自殺行為って覚えてね」

 

 

ヴィヴィオは片手で斬撃を受け止めると、流れる様に力を動かしてそのまま投げ返す

 

戦刀でそれを弾くと、先程とは真逆で私が不利な体制からの対処に強いられている。ほぼ密着しているとも言える距離で強引に蹴りを捻じ込んで力任せに壁に押し付けられる

 

吐き出してしまった空気と地面から足が離れたせいで踏ん張りが利かない

 

 

「これで、ヴィヴィオの勝ち!」

 

 

必殺の一撃が的確に意識を失う箇所へと迫る

 

ふむ、このままでは負けてしまいますね。模擬戦なのですから、負けてしまう事もあるでしょう。が・・・それでは、弱かった私を強く鍛え教え導いてくれたお父様に申し訳が立ちません

 

なので、悩む間も無い事も重なり、少しだけ大人気ない事をする事にしました

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「あれ? あれ? え、なんで」

 

 

試合終了後、流石のヴィヴィオは回復も早く数分気絶していただけで目を覚ました

 

 

「私の勝ちですね」

 

「なんで! あと何ミリってくらいまで迫ってたのに!」

 

「それを覆せるから私は姉なのです」

 

 

何の事はありません。それより私の斬撃が速かっただけです・・・ただ最初に軽くと言っていたのに、それを撤回する形になったのは大人げが無かったと思います

 

反省しなければいけませんね

 

 

「納得できないの!」

 

「納得しようとしまいと事実は変わりませんよ。それより、集まってくれた方に後日の予定などを伝えて下さい。私は全く知らないので、答えようがありません」

 

 

ヴィヴィオが気絶している間は質問を受ける形でやり過ごしましたが、本来私は人見知りなので表に立つのは苦手です

 

 

「むぅ、分かった。あとで映像で確認するよぉ」

 

 

バリアジャケットを解除したヴィヴィオは、騎士団と少年少女を集めて今後の予定を話す。やはり一日で終わるとは思っていなかったようで特に問題も無く説明は終わった

 

 

「送迎は騎士団の人がしてくれる事になってるので、寄り道しないで帰って下さい。では、解散です!」

 

「ありがとうございました!」

 

 

各自に騎士が付く。過剰とも言える護衛の仕方ですが、教会的には貴重な古代ベルカ戦技を狙う者は多いので小さな不安要素も除いておきたいらしいです

 

 

「さて、私達も帰りますか」

 

「ん? ヴィヴィオ達は次のお仕事だよ?」

 

 

・・・は?

 

 

「ヴィヴィオ」

 

「待って待って! お仕事って言っても教会に行くだけだから! 定期的なやつだよ!」

 

「知った事ではありません」

 

「チンクも来るよ?」

 

「誰ですか?」

 

「チンクだよ、最近はこっちに全然来てくれないから会ってないでしょ?」

 

 

チンク。はて、本当に誰でしょうか・・・ヴィヴィオが知っているので、ヴィヴィオの同級生などですかね

 

 

「眼帯」

 

「あ~眼帯ですか。最初からそう言って下さい」

 

「ったくもぅ。いい加減にお姉ちゃんも家族以外に目を向けるべきだよ」

 

「それは貴方に任せます」

 

 

その方が効率も良いですからね

 

それにしても。別に私は眼帯の事など、どうでも良いので教会に行く事には全く惹かれないのですが・・・

 

 

「はぁー、一応お金も貰えるから。ね?」

 

「お金なら既に困るくらい所持しています」

 

「知ってる。あと、お姉ちゃんとキャロが密かにあきパパをヒモにしようとしたのも知ってる」

 

「あの計画は破綻しました」

 

 

フェイトさんにやんわり怒られました

 

私もルシエさんもフェイトさんには頭が上がらないところがあるので、泣く泣く断念せざる得ませんでした

 

お父様にはなるべく危険の少ない所に居て欲しかったのです

 

 

「とにかく、お姉ちゃんも来ないと色々困るの! 来るの!」

 

「帰ってお父様と過ごします」

 

「あーもぉ! 分かった! あきパパも呼ぶ! これで良いね!」

 

「お父様を巻き込むのは関心しませんね」

 

 

お父様にはお父様の用事があるのです

 

 

 

「むぅー!」

 

 

ヴィヴィオは頬を膨らませて怒ると、クリスを握りしめてモニターを開いた

 

相手はお父様のようですね

 

 

「ヴィヴィオ」

 

「静かに! あきパパ? おはよう、あのね。騎士カリムがあきパパに用事があるんだって、だからなるべく急ぎで教会に来て。じゃ!」

 

「どうせなら私もお父様と話したかったのですが」

 

 

言いたい事だけ言って通信を切りましたね。一応モニター越しに見えたお父様は家に居るみたいでしたから、急ぎの用事がある訳では無いのでしょうが・・・

 

 

「そこの騎士の人! 騎士カリムと団長さんに話を通して!」

 

「ヴィヴィ」

 

「えいっ!」

 

 

虹色の魔力が私を何重にも拘束した

 

 

「ヴィ」

 

「さぁレッツゴー!」

 

 

やけくそですね

 

この程度の拘束を解く事なんて私にとっては時間を要するモノでもありませんでしたが、ぷりぷり怒る妹は非常に可愛いので暫くは黙って観察しておこうと決めました




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