世界はいつだって、こんなはずじゃないことばっかりだ
お兄ちゃん・・・いまはそうして呼ぶ事も少なくなったけど、私の兄、クロノ・ハラオウンが口癖の様に言っていた言葉を思い出す
そして私よりずっと幼い彼女達が、こんなはずじゃなかった。そんな酷く嫌な感情になっているように見えて胸が苦しいくらいに締め付けられ思わず目を逸らした
「ようやく会えた」
「久しぶり、クロ」
「・・・クロ」
悠然と宙に佇む森の魔女がにこやかに微笑む聖王と傷だらけの覇王を出迎える
恐らく森の最奥と思うこの場所までは、ヴィヴィオの案内であっさり着くことが出来た。だけど、同じくして辿り着いたアインハルトちゃんの登場で場の空気が一気に重たくなった
「どうします。フェイトさん」
「え? あ、うん。キャロを探さないとね」
「あの三人は暫くあのままでしょうから、先に小屋に入ってみますか」
え・・・私としては確かにキャロが心配なので、そうしたいけれど、この空気の中を通って小屋まで行くのは少しどころじゃない勇気が必要そうなんですが
「あの、雨水さんはヴィヴィオが心配じゃないんですか?」
「心配? あー心配は、してませんね」
「ッ~!」
雨水さんの返事に、私は胸から熱い情が湧き上がり口から出そうになる
なんで。と無性に言いたくなった
けれども、その前に離れた場所から飛来してきた魔力弾に気付いて雨水を抱えて跳んだ
「ありがとうございます」
「・・・。」
「え? 怒ってます?」
「怒ってません」
「大丈夫ですよ、足手纏いになるつもりはありませんから」
何か勘違いした雨水さんは私から離れて時折立ち止まったりしながら歩き出した
ヴィヴィオ達の戦闘が始まっているのに、ゆっくりと散歩しているのと変わらない速度で近づくので直ぐに助けれるように私も態勢を整えたのだけど、魔力弾は不思議と雨水さんには当たらない軌道ばかりを描いて後ろの木々をなぎ払う
「凄い」
私がするように反射で避けている訳でも無く、なのはみたいに重装甲で突破する訳でもない。また違った技術には驚いたけど・・・離れたところから観察できたから分かったことがある
関係ないんだけどね、ヴィヴィオ達の魔法が非殺傷設定になってない
デバイスが機能していない? それにしてはバリアジャケットはキチンと展開されているし。あ、でもジャケットだけなら自力で組めるから目安にならないのかな
そうこう悩んでいる内に雨水さんが小屋について先に入ると合図を送ってくれていた
「私は見届けます!」
キャロの為に駆けつけた私だったけど、目の前で戦うヴィヴィオ達を放っておく事が出来なかった
「アインハルトさん!」
ヴィヴィオの悲痛な叫びと共に吹き飛ぶアインハルトちゃん
意識が完全に飛んでいて受身も取れない。私は雨水さんを助ける為にすぐに動けるようにしていたので、アインハルトちゃんが地面に堕ちる前に受け止める
「うぅ」
「大丈夫?」
「あな、たは・・・ああ、そうですか。大丈夫です、動けますから」
目を開けたアインハルトちゃんはふら付く体を無理やり動かして立ち上がる
「そのダメージで戦うなんて駄目だよ」
「ん?」
首を傾げる
そして大丈夫と確り頷く
「大丈夫な訳ないじゃない! ヴィヴィオも、アインハルトちゃんも、それにあの子だって! 皆、傷付いて! なのに、なんで戦うの?!」
「・・・。」
「あ、ごめんね。アインハルトちゃんの方が辛いのに」
「優しいのですね。まぁ聞いていましたし、見て思ってましたから知ってましたけど・・・やはり優しい」
いままで見た事のないアインハルトちゃんの笑みにヴィヴィオの普段見せない表情を見た時に思った事と重なる
「大丈夫です。私達はただ、いままでの分を清算しているだけですから。それに、この程度の怪我なら慣れてます」
「分からないよ」
「それで良いのです。これは、私達にしか分からない事ですから・・・早くキャロさんを助けに行って下さい。クロもいまは私達と遊ぶのに精一杯です」
カートリッジを取り出したアインハルトちゃんは、薬莢に込められた魔力を自身に変換し二人のもとへ駆け行く
「私達にしか分からない。か」
雨水さんはヴィヴィオ達だけの問題だって思ったから心配もしてなかったのかな
・・・納得できない
納得できるはずがない。子供が傷付いていて、関係ないから気にしない? 放っておく? そんな事は私には出来ない
雨水さんを否定する訳じゃない。だけど、私には私の考えがある。無理にでも関わって関係ないなんて言わせないようにする
「よし!」
ひとまず目の前で派手な喧嘩をしている子供を止めよう
お節介でも良い
喧嘩は悪い事じゃないけど、程度があると思うから。子供らしく、もっと危なくない方法で納めて。と言おう
「バルディッシュ、力を貸して」