春光拳
何代か前から続く武術で、由緒正しき。とまではいかないまでも、それなりの歴史を誇る道場らしいです
と、そんな事を聞いてもいないのに秘伝書と共に、熱く語られのは中々苦痛と言わざる得ないでしょう。それにパジャマ姿で物騒な話をするべきでは無いと私は思います・・・何と言いますか、色々興ざめですね
「どうですか!」
身を乗り出して、いまにも肌が触れ合いそうな距離で話しかけてくる
「別に。それより、近いのですが」
そもそも貴方の戦いは一度見ているので、そこから大よそ理解していますし・・・特に目新しくも無いと言うのが正直な感想なのですが
「イクス先輩って武器は刀剣ですよね」
「いいえ、戦武器全般です」
「戦武器?」
「はい、戦で要いられる武器は全て扱えると言う事です」
「それって流派とかなんですか?」
キラキラとした目で私をベットの端まで追い詰める
「そう言うのではありません。私の場合は上手く振り回せると言った感じですね、魅せる事など考えもしていない・・・殺すための技術です」
「そうですか? あたしはイクス先輩が戦っている姿、とっても格好良いし綺麗だと思いました!」
「それは・・・」
それは単に貴方の趣向がおかしいだけじゃないですか?
と言い掛けて飲み込む、私が言葉を選ぶ必要などありませんが、ヴィヴィオの友人に対して突き放すような言い方はよくありません
「ん?」
「なんでもありません。嬉しくはありませんが、褒め言葉として受け取っておきます」
「はい!」
やれやれです
こんな事になるのでしたら、もう一人の方もついてくる様に言ってみれば良かったです。そうすれば二人で盛り上がっているところを眺めているだけで済んだと言うのに
「あ、ところでイクス先輩」
「なんですか」
「イクス先輩って、ヴィヴィオのお母さんと、あんまり仲が良くない感じなんですか?」
予想もしていなかった人物の話題に思わず目を細める
「あ、いえ、その! たまーにヴィヴィオから、なのはさんと何処に行った~とか聞くんですけど、イクス先輩がその話で出てることってあんまり無いなぁと思いまして!」
「怒っている訳ではありませんから、慌てずとも良いですよ」
不快ではありましたが
「そ、そうですか」
「・・・まぁ話に出ないのは当然です。私と高町なのはは、顔を知った他人でしか無いのですから、そもそも接点がありません」
「お母さん。なのに、ですか?」
探り探りで言葉を発しますが、リオの気遣いは意味の無いモノなので私はあっさりと切り捨てる
「ヴィヴィオの母親です」
「え?」
「ですから、高町なのはは高町ヴィヴィオの母親です。決して私の母親ではありません・・・血が繋がってないのですから、こう言う事もあります」
「ん? えぇと、イクス先輩のお母さんって」
「いませんよ」
強いて言えばルシエさんが当たるのでしょうか。ですが、お父様とルシエさんは・・・それはここで追求する話ではありませんね
「え?」
「数百年前に死にました。ですので、その辺の気遣いも無用です」
「え? すうひゃく?」
「言葉通りです」
リオは疑っている訳では無いが、納得もしてない表情で首を傾げた
特殊過ぎて現実味が薄いのでしょう
「だいたい、あんな大の大人になってもにゃあにゃあ言ってる、頭のネジが許そうな人間とは仲良くしようにも」
「あ、仲良くしたいとは思っているんですね!」
「・・・嬉しそうにしているところに申し訳ありませんが、それは無いですよ」
「あれ?」
言い方が悪かったですかね。いえ、流石にヴィヴィオ相手ではありませんし、この手の話をするにはまだこの子は幼いだけかも知れません
「あの子が飯事に飽きたときに、逃げ所が必要なのです。あの子自身が悪かったとならない為にも、高町なのはが悪いと言い続けないといけないのです」
・・・だからと言って、その理由が無かった私が高町なのはと上手く出来たかと聞かれますと、いいえと即答できますが
「うぅ、なんだかチンプンカンプンです」
「ふふっ、それでいいのですよ。少なくとも貴方は・・・貴方のその子供らしい部分は暫らくそのままで良いと思います」
私やヴィヴィオみたいに特別な事情がある訳でも無い。だったら、ゆっくり時間の流れに任せて順当に成長するのが正しい
「あ、ようやく笑ってくれました!」
「・・・声を大にして言う事でも無いしょう」
「いいえ! イクス先輩の、お姉さまの微笑は激レアです! もう一回お願いします!」
「普通、笑えと言われたら笑えません」
「えぇ~、そこをなんとか」
「幾ら頼もうと不可能です。良い時間ですし、寝ますよ。明日は早いのでしょう」
招き寄せて横にする。特に嫌がる様子も見せずに素直に目を閉じています・・・なんで私はヴィヴィオと同じように一緒に寝ているのですかね
お父様の真似事を私が出来るかは分かりませんが、明日は出来るだけこの子を応援しよう。そう決めて私も目を閉じました