お父様に背を押され、ヴィヴィオに説明をする為に再びリビングへと降りてきた訳なんですが・・・正直なところ、私は難しい話が苦手なので半分も覚えてません
憂いに満ちるお父様も素敵です
かと言って、お父様から任された事ですので、ヴィヴィオが今後大会に支障をきたさないように配慮をしながら説明するしかないですね
「あ、お姉ちゃん!」
ヴィヴィオは私がリビングに戻ってくるなり直ぐに高町なのはとの会話を止めて走りよって来ました。余程気になっていたのでしょう
「ヴィヴィオ」
「うん」
「高町なのはと何を話していたのですか?」
「ん? ん~にゃはは、大したことじゃないよ。それにしてもお姉ちゃんから、なのはママの話をするなんて珍しいね」
「そんな事はありません」
話を逸らす事に失敗しました
あわよくばと思っていたのですが、中々上手くいきませんね、仕方ないです。正直に覚えている範囲で話しましょう、足りない部分は後でお父様に補足してもらえば良いです
「ねぇねぇ、それより、あきパパはどうだった?」
「貴方が心配するような事は起こっていません。多少、困った事は起こっているようですが、解決の目処はお父様の中で立っているみたいです」
「ふぅん」
含みのある返事をしたヴィヴィオを無視して、お父様が見せてくれた手紙の内容、そしてお父様が話していた事をヴィヴィオに聞かせた
「・・・。」
「以上です。何か言いたいことはありますか?」
「とりあえず」
「なんですか」
「あきパパって何者?」
よく、分からない質問ですね
いったいどう言った意味で、どう言った考えで言ったのかは分かりませんが、少なくとも私が理解するには言葉数が余りにも足りません
「お父様は、お父様です」
「いやいやいや、それで納得できるのはお姉ちゃんだけなの」
何が納得できないのか分かりませんが、ヴィヴィオはむすっとした表情で私に詰め寄ってくる。多少なりと威圧しているつもりなのでしょうけど、少しも怖くはありませんね
「そう言われましても、私はそれ以外に答えを持ち合わせていませんよ」
「え? じゃあ、お姉ちゃんも何であきパパがロストロギアを持ってるの~とか、どうしてそれにズレが発生しちゃったの~とか、知らないの?」
「それは、重要ですか?」
「・・・重要だよぉ」
「貴方にとっては重要でも、私にとっては些細な事柄ですからね。まぁ聞いてみれば答えてくれると思いますよ」
「お姉ちゃんにとっても重要なんだって」
そうは言いながらも、これ以上は直接聞いた方が早いと判断したのか、高町なのはの近くに浮かんでいたクリスを呼び寄せて空中にモニターを展開した
すると、タイミング良くお父様からの通信が入っている事を示す文字が画面に映し出される
「繋いで」
「ん? あれ、出る早かったけど、もしかしてイクスから話はまだ聞けてなかったか?」
「ううん、話は終わったの・・・でも、ちょっとヴィヴィオとしては納得できないところがあるのです」
「納得出来ないねぇ」
ヴィヴィオは一度お父様の表情を伺うような様子を見せますが、意を決したのか矢継ぎ早に質問を飛ばす。それに対してお父様は濁すような表現を使いながらも全てに答えて下さっています
それを横目に見ている訳ですが、ヴィヴィオの思っている事は本当に気難しくて理解し難いですね
「さて」
この状態になってしまったら、きっと納得するまで問答が終わる事は無いでしょうから、私が居ても何の手助けにも成らないので意味はありません
「親子の会話です。聞き耳を立てるのは余り行儀が良いとは言えませんよ」
それより、先程からこちらを密かに伺ってる。大人三名を如何にかする方が幾分か建設的ですかね
お父様もヴィヴィオも聞かれて嬉しい話はしていないと思いますし
「あはは、バレとった?」
「ごめんね、ちょっと気になっちゃって」
「ヴィヴィオが関わってるし、お母さんとしては聞いておかないとかなぁと思いまして」
まったく、困った客人ですね
司書長とあのルシエさんのお母様そっくりな方は気にせず歓談していると言うのに、いっそいますぐ追い出せば全て解決するかも知れない
「そうですか、各々理由は理解できました」
私が納得した様に頷くと三名ともホッと肩を撫で下ろす。しかし、次の一言で一転した表情になっていました
「ルシエさんのお母様以外は、いますぐこの家から出て行って下さい。従わなければ強制的に出て行かせます」
「なんでそうなったん?!」
「フェイトちゃんだけズルい!」
「なのは、それは私に言われても困るよぅ」
「ああ、急に言われても困りますよね。無論、身支度の時間くらいは与えます」
そこじゃない? 知りません
二名が私を説得する為に何か言い始めますが、それを無視して目を閉じカウントを始めます。こう言う手合いの説得など効くだけ無駄ですしね
「あと二分と三十二秒」
「ねぇイクスちゃん」
あと残り二分と二十八秒のところで、ルシエさんのお母様が突然私に話しかけてきました
「なんですか?」
目を開けると大分近くまで接近されている事に気付く・・・ここまで近寄られるなんて、鈍っているのでしょうか?
「前々から思ってたんだけど、ルシエさんのお母様、じゃなくて、フェイトって呼んで欲しいな」
「は? いえ、貴方とそこまで親しくないですし」
「うぐっ・・・で、でも親しくなっていく為にも名前で呼び合うって必要だと思うんだよ」
「・・・貴方と親しくなる理由がありません」
ルシエさんのお母様ですから無碍にしていないと言うだけで、私にとってこの人もその他大勢と言った他人と何ら変わりない
「理由なんていらないんだよ?」
そんな事を言われましても
「ね?」
この人の笑顔はお父様の笑顔と何処か似ているから苦手です
・・・考えてみれば、この方はお父様と親しい訳ですし、お父様もある程度心を開いているように見える。だったら、娘の私が邪険にする理由なんて最初から無いのかも知れない
そう考えると礼儀として名前で呼ばないといけない気がしてきました
「一回だけ、駄目?」
これもお父様の娘として礼儀知らずと思われない為の努力と思えば
「別に、減るものでもありませんし・・・よろしくお願いします、フェイトさん」
「うん、うん! よろしく! イクスちゃん!」
何だか変な気分です
ヴィヴィオに見られたらから爆笑しながらからかってきそうなので、このタイミングで良かったと思うことしましょう
「イクスちゃん! 私もなのはって呼んで欲しいな!」
「嫌です」
こんどは変な気分にならずにあっさり返せた
感情とは良く分かりません。お父様にフェイトさんとの事を相談してみようと思いながら、八神はやてと高町なのはを追い出す為に魔法陣を展開する事にしました