「あきパパが遅いらしいから、今夜はお姉ちゃんも含めて一緒にご飯食べに行きたいの! 良いでしょ? ね?」
夕方。仕事が終わって、端末に入っていたメッセージを聞いた私は急いで雨水さんの家に迎えに行ったのですが
「帰れ」
インターフォン口から聞こえてきた冷たい声は、それだけを伝えるとすぐに繋がりを切る
見事なまでの門前払いです
「え? え? ちょっ、イクスちゃん?!」
再度。と言うか、再々々度くらいに渡って鳴らし続けると、ようやく玄関が開いて不機嫌そうなイクスちゃんが顔を覗かせた
「なんですか、忙しいので後にして下さい」
「いまのは流石に酷いと思うの!」
そうですか。と、淡々と言って、扉を閉め始めてしまったので、慌てて待ったを掛ける
「忙しいと言ったはずですが」
イクスちゃんは一応話だけは聞いてくれる気になってくれたらしい
外に出てきて扉を閉める
「あれ? それってヴィヴィオの」
「チッ」
舌打ち?!
・・・でも、あれってヴィヴィオが着てた服だよね?
取替えっこでもしてるのかな?
「えーっと。雨水さん、今日遅いんだよね? それで、ヴィヴィオから、皆で食事にでも出掛けようかって連絡が入ってて」
「で?」
「行かない?」
「行きません」
即答でした
「それだけですか? では、もう二度々立ち寄らないで下さい」
なんだか会う度に嫌われていっている気がするの
イクスちゃんが家の中に消えていって、流石にインターフォンを押す勇気が出てこなかったから、ヴィヴィオに連絡を入れてみる
「は~い、ヴィヴィオの端末でーす」
「あ、ヴィヴィオ? いま家の前に居るんだけど」
「ホント? 上がって上がって! ちょっといま手を離せないから」
「・・・うん、そうしたいんだけど。ね?」
「ん?」
私が言いよどんでいると、ヴィヴィオは首を傾げてポンと手を打った
「あ~! お姉ちゃん! そうでしょ?」
「まぁ」
「ごめんね、いま機嫌悪いの。気にしないで、折角作った手料理が台無しになってショック受けてるだけだから・・・あ、あきパパからだ。入ってていいから~」
クリスとの通信が切れた。たぶんだけど、雨水さんから通信が入って切り替えたんだと思う
「入って、良いんだよね?」
恐る恐る玄関を開けて入る
なんだか本当に不審者の気分だよ
「おじゃましまーす」
靴を見る限りにでは、イクスちゃんとヴィヴィオしか居ないみたい
入ったのは良いけれど、どうしようか悩んでいると、タッタッタと階段を降りる音が聞こえヴィヴィオが出迎えてくれた
◇◇◇◇◇◇
・・・それから暫らくして
最初は外で食事をする予定だったんだけど、イクスちゃんが先に夕食を作ってくれていると言う事で今日はイクスちゃんの手料理を頂く事になりました
「・・・。」
「・・・。」
無言で箸を進める私とイクスちゃん
いつもなら、ヴィヴィオが仲介して如何にか会話が出来るんですけど、ヴィヴィオは私を案内した後に騎士団長さんが迎えに来て出掛けてしまった
雨水さんから呼ばれたらしい
「最近学校はどうなのかな? ヴィヴィオから色々聞いてるけど」
「・・・。」
「イクスちゃんって同学年や後輩の子達からも結構人気なんだよね?」
「・・・。」
「ヴィヴィオも帰ってくるの遅いのかな?」
「・・・。」
挫けそうなの
無視。と言うよりは、まるで存在に気付いてないみたいに、自然に表情を変える事なく食事を続けるイクスちゃん
「お、美味しいね」
「・・・美味しくないです」
「そ、そんなの事ないよ! とっても美味しいよ!」
せっかく返事を返してくれたけど、すぐに会話は途切れてしまった
それから黙々と食事は進みイクスちゃんは食べ終わると箸を置いてまっすぐ私を見る
「高町なのは」
「え、はい」
「食器は台所に置いておくだけで良いですから」
「うん、分かった」
「では、先に」
そう言って立ち上がるとイクスちゃんは自分の皿を片付けてリビングから出て行ってしまった
あぅ、イクスちゃんと仲良くなれるのは、まだまだ先になりそうなの