召喚少女のリリカルな毎日   作:建宮

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二百七十話~side アインハルト~

初めての敗北

 

記憶では何度も味わっているはずの敗北も、実際体験してみると全く違っていました

 

また、救えなかった

 

 

「・・・ごめんなさい」

 

「なにが?」

 

「キャッ!」

 

 

一人と思っていたのに返事が返ってきて、思わず驚いてしまう

 

・・・あれ? ここは何処でしょう?

 

 

「う、すい先生?」

 

「おはよう。負けたみたいだね」

 

「わ、わたしは。わたし・・・」

 

「まぁまぁ、通りすがりの下級生が、俺の家までストラトスちゃんを送ってくれてね。過労で中々起きないから寝せてたんだよ」

 

 

よくよく自分の姿を見るとパジャマに着替えさせられている

 

 

「あの、これは」

 

「イクスのだけど? 背丈は大体同じだからサイズは合ってると思うけど、如何かな?」

 

「胸部以外は」

 

「うん、イクスの前では言わないでね」

 

 

そうですか、ここは雨水先生のお宅なのですね

 

・・・と、言う事は当然ヴィヴィオさんも居る

 

 

「武装形態」

 

「へぇ武装形態とバリアジャケットは別なんだね」

 

「ッ?!」

 

 

子供サイズのパジャマが武装形態の私の肌に張り付いていた

 

すぐに私はバリアジャケットを構成する

 

考えが及びませんでした

 

 

「待った待った! なんで構える! それはストラトスちゃんの失敗だよね!」

 

「・・・そう、ですね」

 

 

騎士たる者。非を認めるのも大切ですね

 

 

「聞いても、良いですか?」

 

「なにを?」

 

「ヴィヴィオさんの所在です。いま、この家の中に居るのですか?」

 

 

雨水先生は少し黙った後に大きく溜息を付いた

 

そして端末を操作してモニターを空中に展開すると真っ直ぐ見詰めて話し始めた

 

 

「最初にヴィヴィオの居場所を教える時の約束覚えてるかな?」

 

「はい。私を好きにして良い・・・です」

 

「誤解を招きそうだけど、大体そうだね」

 

 

DSAA

 

モニターには大きくそう表示されて下に細かく文字が表示されている

 

 

「ディメンジョン・スポーツ・アクティビティ・アソシエイション。公式魔法戦競技でね。ストラトスちゃんに出場して欲しいんだよ」

 

「非常に言い難いのですが、私は遊びで覇王流を・・・」

 

「遊びじゃん」

 

 

頭が考えるより、先に体が動いていた

 

私の拳は雨水先生の鼻先でピタリと止まっていた

 

 

「覇王流の侮辱は許しません」

 

「路上喧嘩なんて狭い世界で極めている武が、遊びじゃなくてなんなんだよ」

 

「狭い世界?」

 

 

覇王流が。スポーツで、趣味で鍛えているような人に負けるとは思えません

 

 

「ああ、お前はストライクアーツをスポーツだと馬鹿にしてるようだが、それに真剣に取り組んで頑張った子に慢心したお前が勝てるとは思えないな」

 

「慢心なんて・・・」

 

「してない? 本当にか? ヴィヴィオと戦った時も、覇王流なら勝てると慢心していなかったか? いや、お前にとっては確信か」

 

 

してない

 

私にとって、覇王流とは。生きている意味で、ヴィヴィオさんに勝つ事だけを考えていた

 

だから、慢心なんて・・・あってはならない

 

 

「・・・。」

 

 

ゆっくり拳を下ろす

 

 

「何処か全力じゃないストラトスちゃんの戦いを見たから、ヴィヴィオはあんな様子だったんだろうな」

 

「私が全力じゃなかった」

 

 

だから、聖王。ヴィヴィオさんは不愉快に思った?

 

確かに決闘の最中ヴィヴィオさんは、ずっと私に王の運命を告ぐのを止めるように諭していた

 

そして最後は不愉快だと本音を聞いた気がする

 

 

「王に成る」

 

 

彼女は王とは人と違うモノに成る事だと言った

 

・・・その行いには、どれだけの覚悟がいるか。いまの私には想像もできない

 

 

「ん?」

 

 

ああ、雨水先生の言う通りです

 

覚悟が足りなかった

 

遊びと思われても仕方ないのかも知れない

 

 

「それでも、救いたいと言う気持ちは嘘じゃない」

 

「ええと、ストラトスちゃん?」

 

「雨水先生!」

 

「あ、はい」

 

「お願いです! もう一度! あと一度だけ、ヴィヴィオさんと戦わせて下さい!」

 

 

その場で頭を伏せて、静かに雨水先生の次の言葉を待った

 

 

「勝てないと思うよ?」

 

 

幾分か迷って雨水先生は私に言う

 

 

「勝ちます」

 

「覇王の悲願の為? もう戦乱も終わったのにご苦労だね」

 

「違います」

 

「違う?」

 

 

もう悲願の為なんかじゃない

 

それは理由足りえない

 

 

「私の為。正統覇王流後継者、アインハルト・ストラトスが勝ちたいんです」

 

「ほぉ?」

 

 

意外そうな

 

とても意外そうな表情で雨水先生は笑った

 

 

「変わるもんだね。ヴィヴィオに良い刺激になると思ったけど、逆だったみたいだね。うん、まだまだ教師として勉強が足りない・・・良いよ。そう、過去の人の為じゃなくて、自分の為って事なら・・・覇王じゃなくて、アインハルトちゃんに、高町ヴィヴィオと戦わせてあげる」

 

「有難う御座います!」

 

 

ヴィヴィオさん。次は勝ちます!




成長を魔法で遅らせられているイクスは同世代より幼いです(普段は大人っぽい雰囲気でカバーしてます)

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