その日はツイてなかった
物凄く優雅な人の隣に居たヒモみたいな男からスッたのが悪かった
完全に成功したと思った矢先に現れて、怒りもせずに何故か飯を奢り始めやがって終いには、あれこれと公衆浴場・・・オンセン? に連れて行かれていた
「貸切ってホントに何者なんだよ、アンタは」
「別に・・・顔が利くだけだよ」
顔が利くってこんな豪華な所に・・・単なる冴えない男をあの優雅そうな人が気紛れで引っ掛けただけだと思っていたのに・・・もしかして管理局の偉い奴だったりするのか?
・・・そうは見えないな
「温泉って良いよな~」
「・・・なぁいい加減、目的を教えてくれても良いんじゃないか?」
「目的ねぇ~・・・あの子達がハシャぐのを見たかったから、何て如何かな?」
駄目だ
全く読めねぇ
「もしかしてオレ達を綺麗にして売ろうって魂胆か?」
それならば、全部と言わないまでもコイツの今までの行動の数々が納得出来る
「もう少しピュアに捉えろよ」
「ピュア? ハッ! 笑わせる! それともそれがアンタの好みってか?!」
「・・・はぁーまぁ良いや」
良くねぇよ!
何だ、何の目的があってコイツはこんな事をしている?
・・・あ、ああ、そうか
コイツの性格は大体掴めてきた・・・だから分かる気がするが・・・同情か
まぁそれも良い
適当に奢らせ続けて逃げれば良いんだから
「それと言いたい事があるんだけどさー。シャンテちゃん」
「馴れ馴れしく呼ぶな。で? なんだよ。飯代と風呂代くらいの質問になら答えてやる」
「確かにシャンテちゃんは発育の良い子みたいだけど、タオルと肌の間に折りたたみ式のナイフを仕込むのは無理があったんじゃないかな?」
「なっ! 何処見てんだテメェーは!!」
オレが胸を隠す仕草をすると意外そうな表情をしやがった
コノヤロー・・・別に女として見て欲しい訳では無い
だが、なんかムカツク
「物騒な物はしまって欲しいんだけど」
「あん? アンタが隠すのは無理があるって言ったんだろ? だったら出してやるよ、使ってやるよ」
「いや、使う必要は無いよね?」
知るか
それに使わない必要も無いだろ?
もちろん脅すつもりで刃を出して突き出そうとした
「・・・。」
これでも怯えないか
「ッ?!」
斬られた
突然そんな錯覚を覚えた
もちろんそんな訳は無いはず
オレも犯罪に手を染めている中で殺気と言われるモノを何度か経験した事はあった
・・・でも、いまオレを襲っているのは、いままでのモノが全て子供が頑張って睨むくらいに感じる程度に落ちてしまうくらい、異常だった
「・・・だ、れが」
目の前の男とは思えない
それどころかコイツはオレの急変に首を傾げているくらいだ
心臓が皆に聞こえるのでは無いかと思うくらいバクバクと鳴る
「あ、早かったね。イクス」
「はい、ヴィヴィオを使いましたので!」
異常な感覚が消え去った瞬間に後ろを振り向くとオレと同じか下くらいの少女が控えめに男に手を振っていた
「なっ・・・」
「時間的に学院が終わったばかりだけどヴィヴィオを使ったって?」
オレを無視して話を進められるが今は呼吸を整えたいので有り難い
「お父様の故郷の文化に触れれると分かったので、終わりしだい、友達と話していたヴィヴィオを捕まえて転移の魔法を魔力が尽きるまで使わせて急いで来ました」
「あー・・・ヴィヴィオは大丈夫?」
「大丈夫です。此処に着くなり倒れたので今は外の長椅子に寝かせています」
・・・さっきの異常な殺気を放ったのがこの笑っている奴だと?
オレがジロジロと見ていると不意に此方を向いた
「お父様に刃を向けたな?」
「ハッ! だったらなん・・・だ?」
手に持っていたナイフが無い
あれ? 何処行った
「とんだ素人です」
オレの持っていたナイフを何故か少女が持っていた
「イクス。それをこっちにパス」
「え? お父様の手を汚す訳にはいきません」
手を汚すって・・・ああ、オレの人生終わったかも
「ふぅ一人だと難しいだろうって思って折角イクスの髪を洗ってあげようと思ってたんだけどなー」
微妙に棒読み感があったけど少女の選択は早かった
「ごめんね、シャンテちゃん。話はまた後で・・・あ、逃げないでね」
「ふんっまだまだ貢がせてやるから待ってやるよ」
「そっか」
これを機に逃げるつもりだったけど・・・あともう少しだけ、あのお人好しの偽善に付き合っても良いと思ってしまった
封印処理されているヴィヴィオでは二人で雨水の位置に行くまでの魔力がギリギリでイクスが楽しくしている状況で外でダウンしてしまっています