お父様
尊敬し敬愛し、そして愛するお父様
私は恥ずかしげも無く胸を張って言えると思います
私のお父様は最高の人です、と・・・生憎と私が相応しい娘なのかは未だに不安であるところですが
「と、言う訳で秋春様の娘としてお手伝いに行きましょう」
「イクスおねぇーちゃん?」
「ヴィヴィオはテキトウに遊んでいて下さい、あー向こうに何冊かベルカの書物があるので楽しめるかも知れませんよ」
「わかったー」
◇◇◇◇◇◇
今日の秋春様は、まるでルシエさんと喧嘩をした様な雰囲気でした
そして理由は分かりませんが、少し前に秋春様が台所に向かわれているのを見ました
恐らく殆ど毎日ルシエさんが夕食を作っているので偶にはゆっくりしてもらい仲直りする。と言った感じでしょうか
「流石秋春様です」
ともあれ、お料理をするのであるなら不器用ながら私も手伝いをするべきだと思います
好感度アップです
「・・・はぁー手伝って褒めてもらおうなんて狡賢い娘ですね」
裏が無いと手伝いも出来ない・・・これなら裏も無く手伝えるシロの方が褒められて然るべき・・・
「好きです」
ッ!
唐突に聞こえてきたルシエさんの声
・・・秋春様も居る
私は急いで気配を潜ませて隠れてしまった
「雨水さん、わたしは出会った時から貴方が大好きです。愛してます、鈍い雨水さんですから此処まで言っても、まだ勘違いしそうなのでハッキリ言います。本当の家族に、夫婦の仲になりたいと言ってるんです」
ふうふ? あー、はい、分かってました。ルシエさんが秋春様に好意を寄せていたのは私は知っていたはずです
頭では納得しているつもりなのだけどズキリと妙な痛みが体を突いた
・・・痛い?
・・・身体的な異常は特に見受けられない。古代ベルカの身と言うのも有って秋春様には黙って自分の体を魔法で調べているのでハッキリ分かっている
「だから何度でも言います、大好きです」
「あーキャロ・・・余り言いたくは無いんだが」
「なんですか? この後に及んで年の差とか言い出しましたら本気で殴ります」
「違うわ、これは誰にも言った事なかったんだが俺には心理操作系のレアスキルがある」
会話が聞こえているようで素通りする
何故心臓が・・・いえ、胸が痛い
予想はしていたはず、それにルシエさんが秋春様と夫婦になっても娘の私が消える訳でも忘れられる訳でも無い
当たり前の事
「俺もつい最近まで気付かなかったんだが、偶然として出会い必然として惹き合う。って言ってな。俺自体は確定印象って呼ぼうと思うけど効果は出会った人間に他人と思わせない・・・分かるか?意味が」
「・・・無意識下に置いて好意を抱かせるレアスキル」
「当たり。つまりは俺の築いた信頼関係ってのは普通にレアスキルのおかげって可能性が大って事だね・・・当然キャロのきもッ」
秋春様が殴られたのを見てハッとする、今まで考えていた事が全て吹き飛んで、今度は二人の会話が鮮明に脳内で再生される
確定印象?
人の無意識に入り操る魔法
そして今まで秋春様が築いた関係は全て魔法が作り出したモノ・・・作り出した紛い物
雨水秋春とイクスヴェリアの関係
父と娘
「ちが、い。ちがいますよ、お父様」
口から微かに洩れる様に呟いた
ちがうちがう・・・違っていますッッ!
「お父様の力はとても素晴らしいですが・・・例え、力が無くても私はお父様に惹かれていたと自信を持って胸を張って宣言出来ます」
私は操られてなんかいない
「わたしは雨水さんだから好きです」
私はお父様の娘でとても幸せなんです
「どんな雨水さんでも雨水さんだから好きです」
そこに嘘偽りは無く、誰の意思でも無い私の意志なんです
「貴方はレアスキルのせいでわたしが好きなったとでも言いたかったんでしょうけど、レアスキルなんて全く関係無いです」
他の人なんて知りません、ですが私だけは違うと誓えます・・・ですから、信じて下さい
「・・・これでも嫌われる覚悟で勇気だしたんだけどなー」
お父様、貴方の娘はレアスキルと言う魔法で操られる様な弱い子じゃないんだって
「今だって胸が痛くて不安で一杯ですけど・・・王が命に賭けて誓います」
「わんっ! あれ~? こんな所で如何したの? 台所にだれか・・・ってイクス?!」
声を掛けられた瞬間に何かバランスが崩れた様な気がして逃げ出していた
今の私は、私でも理解出来ない行動ばかり取ってしまう
秋春様はルシエさんに何と応えるのでしょうか?
盛大にイクスの心が揺れる話