インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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本編キャラの扱いが悪い気がしてきた。でも、前回出てきた、局長。絶対、同じクラスの天才2人に妬んでたと思う。



第27話

ショートホームルームが終わった後からだ。周りの様子がおかしかった。皆すれ違う前は強張っているのだが、すれ違うと誰かに耳打ちしていた。

疑問に思っていたが、直ぐに分かった。

手洗いから教室に戻った時、別のクラスでの会話が耳に入っていた。

「あのドイツからの転校生の話。聞いた?」

「聞いた聞いた!もうSNSで話題になってる。早速、泉君に喧嘩吹っかけて、負けたんだっけ?」

「そうだっけ?私が聞いた所によれば、織斑君を取り合って刃物を持ち出したとか」

「うぁ…。それで素手の丹陽に負かされるなんて…そういえば、織斑先生の昔の教え子だっけ。大したことないね」

ラウラは壁に寄りかかり、俯いていた。直ぐにその生徒たちの話題は他に移った。

「丹陽…倒してやる」

ラウラは力のかぎり拳を握りしめた。

 

「丹陽、血は止まったな」

あの事件後。医務室に急行して、丹陽は応急処置を施してもらった。その後中山が、長居すると痴女が出るぞと、背筋凍る警告を出したのですぐに帰宅することにした。始末書などは自分が引き受けると。

屋外に出て真っ直ぐに門に向かう。道中に中山が付き添った。

特に話はしなかったが、門が見えてきてから丹陽は二郎に問いた。

「中山、お前の怪力っていったい?」

「ああ…最近スポーツマンが女性にモテるって聞いて… めちゃくちゃ筋トレしたんだ」

「はぁ?」

刺仕込んでくるような指摘に中山は固まる。

作り話が適当過ぎたか。丹陽だから聞いてこないとばかり。だからまともな話は何も考えていない。

「いや…その…」

「幾ら筋肉をつけてもスポーツマンにはなれないよぞ」

一瞬だがキョトンとした後、中山は大声を出した。

「あぁぁぁそうだ!そうだよ」

1人、頭を抱え項垂れる。

丹陽はそんな中山に構わずに門をくぐる。

「またな中山。それとありがとう。助けてくれて」

夕焼けがちょうど真正面に来て眩しいかった。それにお礼が聞こえていたのか心配になり振り返る。するとさっきの項垂れようは何処かに行ってしまったようで。中山は優しく手を振ってきた。

 

 

「泉は何処だ!言えば貴様を懲らすのは後回しにしてやる」

「しっ知らねえよ」

「なんだと!嘘をつくな!」

一夏はラウラの逆鱗に気圧され、ただおろおろと答えることしか出来なかった。

経緯を考慮してもラウラが怒るのは無理はない、とラウラを擁護する気持ちもあるが。しかしこのまま丹陽に合わせれば流血沙汰に発展しかねない。丹陽は上手くて立ち回るかもしれないが、本当に丹陽の居場所を知らない。最近多々外出しており、風の噂では専用機関連だというが。

「本当に知らないんだ。だいたい懲らすって、一体全体何する気だ」

ラウラがISを装着した手を突き出した。拳を握り少し下に捻ると、籠手部分から閃光を放つ刀身が伸びた。

「語る必要はあるか?」

熱を帯びた刀身の閃光とは違い、冷たい眼光がプラズマ手刀よりも存在感を出していた。

一夏は雪片を握り直す。

「やらせね…」

「なんだ」

「やらせるかぁ!」

雄々しく一夏が宣言した。先ほど女々しさは消え失せている。

「ほう、いい度胸だ。私とこのシュヴァルツェア・レーゲンに刃向かうか。身の程知らずめ、まあ仕方あるまいヒヨッコがなのだから。ではまずは貴様からー」

「いいから来いよ。小物みたいに御託を並べてないで」

流暢な動作で一夏は手招きをしていた。

「くっ…いいだろ、貴様など!」

一夏とラウラが同時に地を蹴った。

『何をしているそこの生徒』

飛行音よりも響く制止命令がスピーカーより流れる。

両者急停止して向き合った。

「っち」

ラウラの舌打ちがハイパーセンサーで拾わなくても一夏にか聞こえる。それほどに両者の距離は近い。あとコンマ数秒で、制止不可能な戦闘に発展していただろう。

「覚えていろ」

ラウラはくるりと背を向けてピットに帰った。

「お前こそな」

一夏もラウラに習いピットに入った。

その後一応の為に、一夏は丹陽に一報を入れた。

「あと一応千冬姉にも相談しておくか」

 

 

「しっかしなんでラウラはあんなにも好戦的なんだろうな」

[私の主観的には泉様も充分に好戦的ですが]

放課後。一夏は丹陽の件が気になり、放課後には帰ってくるのと情報の元、丹陽を迎えに行くためにホームに向かっていた。

「いや丹陽は自分に突っかかってくるのを叩いているだけじゃん」

[確かにその通りです。ですが、それでも多々事を荒立てている気がしますが]

「でもよ…っ」

「何故です教官!」

ラウラの声だ。声音からは今朝の凛としたものは感じられず、縋るような懇願するようなものが載っている。

一夏は近くの木に隠れた。丹陽からラウラを守るのだったら、ラウラを見張るのも上策の筈。

「何故こんな所で教師など」

「何度も言わせるな。私にも私の役目がある、それだけだ」

ラウラの話し相手は千冬らしい。

千冬は背筋を伸ばしてこそいるが何処か気だるそうだ。

「こんな極東の地でいっどんな役目があるというのですか?お願いです教官、我がドイツで再びご指導を。ここでは貴女が持つ能力の半分も生かせません」

「私を買い被りすぎた」

「いえそのような事は決してありません。寧ろ過小評価しているぐらいです」

ラウラは千冬をドイツに引き戻したいらしい。

一夏が中学の時。千冬の2度目の世界一が掛かった試合を観戦しようと現地に旅行に行った。旅行先で一夏は誘拐された。幸い試合を破棄した千冬が、ドイツ政府からの情報を元に一夏は救出された。その後、情報の見返りとして千冬はドイツでISの教官を勤めた。

そういえばあの時。誘拐犯の声を聞いた。若い女性のようだった。確か…。

その事を思い出した途端に、背筋が凍りだらだらと汗が流れる。

「この学園の生徒はISをファッションのなにかと勘違いしている。教官が教うるに足りる人間ではありません! 危機感が全くない。そのような者達に教官の時間を割かれるなど」

「はぁ…。黙って聞いていれば、小娘が抜け抜けと。随分と偉くなったなラウラ」

「いえ自分は決して…」

一夏は額の汗を袖で拭った。もうよそう、これ以上過去を振り返るのは。

「ラウラ、覚えているか私がドイツを離れる前に残した言葉を」

「もちろんですが…。それは…いったい何をなさるのですか?」

様子が変わったようで、先ほどまでは聞き耳を立てるだけだったが、一夏は顔を出した。

千冬とラウラの距離が近い。千冬がラウラの背中に腕を回していること相まって、抱き締めていると見間違える。 見間違えるだけで、千冬はラウラの背中に回した手で頭を頂点から根元もまで何度も髪を梳かしていた。さら反対の手で左頬を撫でていた。表情は見えない。だが手つきは優しく慈愛に満ち溢れているので、見る必要はない。

「止めてください…教官…」

千冬は御構い無しにラウラの眼帯をずらして左目を晒した。

一夏は身を乗り出すも、千冬の体が影に隠れた見えない。

「こんなにも綺麗なのに…勿体無い」

「綺麗など自分には!」

話し始めとは別ベクトルの怒りをラウラは放った。

千冬もはじめとは別ベクトルの気だるさを溜息と共に吐き出した。

「寮に戻れ。命令だ」

「くっ…了解です」

ラウラは渋々承諾。寮に戻って行った。

ラウラが見えなくなった頃。千冬が口を大きく開いた。

「まったく、せめて素直ならば可愛いのだが。少なくとも盗み聴きする輩よりは」

「ばれてたか…」

木の陰から千冬のそばに小走りで移った。

「あの…」

「泉の件なら心配するな。ラウラには厳重注意しておいた。生身での刃傷沙汰は無い」

胸の荷が1つ降りた。そのおかげで、一夏は興味が湧いていた。千冬の最後の言葉とは。

「あのさ、織斑先生。ラウラに残した言葉って?」

「貴様には関係無い」

「えっ?でも」

「私は忙しいのだ、寮に帰れ」

血が繋がっているのに、冷たい態度だ。そう思案している間に、千冬は立ち去っていた。

「なんで…」

[懸念されている事は無いかと思いますが]

「懸念?何が」

[千冬様にとって一夏様が一番大切ですよ。ただ甘やかさなかっただけです]

白式のメッセージが眼球よりじんわりと沁みた。

「そうだな。じゃあ姉の言う通りに部屋に戻るか」

 

丹陽は帰寮後、元食堂を改造して出来た居間で寛いでいた。

本当に色々とあって、ソファで横に倒れこんでいた。

「どうしたの疲れきっちゃって?」

楯無の声だ。

「色々とあってね」

ルームウェア姿の楯無がソファのちょうど後ろに立っていた。

楯無がソファに腰掛けたそうだったので、丹陽は起き上がりソファに座る。楯無がにっこりと微笑んでからソファに腰掛けた。

「ん?」

3人はゆったりと腰掛けられるソファにもかかわらず、楯無は丹陽の隣に腰掛けた。そればかりか寄り添ってくる。丹陽は堪らずに距離を置く。すると楯無は距離を詰める。丹陽は距離を空ける。楯無は詰める。それを繰り返して、とうとう肘掛に追い詰められる。が、楯無は拳1つ分空けて、それ以上は詰めなかった。

「ただいま…あっ、丹陽。おかえり」

食堂と廊下を仕切る扉を開けて簪が入って来た。

「ただいま」

簪もまたルームウェア姿で、丹陽の前を横切る際に石鹸の匂いを漂わせていた。姉妹揃って風呂上がりらしい。

簪は丹陽の反対、つまり間に楯無を挟んでソファに座った。楯無は隣同士に座らせないために、丹陽に寄り添って来たのか。

と思っていたら突然楯無が立ち上がった。

「電話来ちゃった」

誰に言うわけでもなくそう言い残して、楯無は簪が通った扉を開けて廊下に出て行った。

「どうしたんだろ?宛先見て驚いていたみたいだけど」

楯無の足音が消えた頃、丹陽の携帯端末もメールの受信音を発した。

懐から携帯端末を取り出し宛名を見ると、相手は中山だ。

「コア干渉はどうにかなりそう、って。また明日行くのか」

メールの内容は要約すれば、コア干渉を解決したからまた来いということらしい。

「えっ…丹陽また明日居ないの?というか…コア干渉?」

簪が聞き流せないフレーズに反応した。

口を滑らしてしまった丹陽は気を逸らすために、リモコンを手に取りテレビを点けた。

「すまない。専用機が手に入るまでは仕方ないんだ。コア干渉のことはなんでもないよ。」

丹陽が簪からの眼差しから逃れるために、スクリーンに視線を送った。今どんな目でこちらを見ているか容易に想像出来る。

「コア干渉って、同一人物が複数のISコアを起動しようとすると発生する現象だよね。確か、起動後一定時間で強制的に停止するんだよね…。それって…丹陽」

「なんでもないさ」

ニュース番組がやっていたが、速報で警察署の襲撃事件が報道されていた。が簪の意識を削ぐに弱かった。

「丹陽、なんでもなくないよ」

「丹陽、そういえば、あなたの部屋にあったディスクだけど…なんの映画かしら?」

突如頭上から楯無の声が。音も無く後ろに立っていたらしい。

「もうプレイヤーに入れてあるから起動するわね」

楯無が丹陽の手からリモコンを取り入力画面に切り替えた。

「会長。勝手に入らないでください」

「マル秘って書かれていたディスクなんだけど」

楯無は丹陽の抗議を意に介さずにプレイヤーのリモコンの再生ボタンを押した。

「あっ!それはまずいです!」

丹陽は隣の簪をチラ見してから、テーブルを飛び越えてテレビ画面の前に立ち塞がるが、音声は漏れてしまった。

「あっちゃ…」

丹陽は苦虫を噛み潰したような顔を。

「え…」

簪が耳まで真っ赤に染まり硬直。

「あなた…」

楯無は軽蔑の眼差しを丹陽に注いだ。

居間いっぱいに、女性の嬌声と肉同士がぶつかり合う音が

響いた。

その後、会長はディスクを地面に叩きつけ破壊。その腕で丹陽の首根っこを引っ捕まえて居間を去った。

1人、居間に残された簪はじばらくの間、硬直していた。

廊下、丹陽は呼吸するのも精一杯なほどに気道を絞められながらも言った。

「会長…ありが…とうごさいます…助かり…まし…た…でもあれ俺まだ見てない…しかも借り物…」

 

 

 

「ただいま」

千冬の言いつけ通りに部屋に帰った。

部屋は誰も居らずガランとしていたが、浴室から湯気とシャワーが降る音が漏れてくる。

多分、シャルルだ。

一夏はベットに腰掛け寛ぎ始めた。

ふと思い出した。ボディソープが底つきかけていたことを。

親切心というよりは当然の義務として、棚から替えのボディソープを手に脱衣所のドアに手を掛けた。

「シャルル、ボディソープ切れかけてなかったか?替えをだな…」

ドアを開けて湯気で霞ながらも認知した光景に、一夏は絶句した。

一夏と当時に浴室から出たシャルルも絶句し硬直していた。

一夏はまばたきを忘れ、涙が流れる前になんとか言葉を押し出した。

「はい…ボディソープ」

「…うん…ありがとう」

両腕の上腕まで使いなんとか恥部を隠したシャルルは頷く。

一夏はボディソープを洗面台に置き、脱衣所を出た。

湯気だ立ちこもり蒸し暑かった脱衣所を出てから、急に顔が熱くなって来た。

「女の子だ」

[ええ。乳房も大きく間違いなく女です]

「言い方…」

 

 

「ええっと。お茶飲む?」

ジャージに着替えて脱衣所から出て、今は椅子に座り俯いたシャルルにそう話しかけた。このまま沈黙が続く方が辛いからだ。

「うん。頂くよ」

シャルルは引きつった顔で微笑んで応えた。無理しているのが分かる。

一夏は、無言でお茶を淹れた。シャルルもその姿を黙って眺めていた。

無言かつ集中していたので、すぐにお茶が入った湯飲み2つを手に一夏はシャルルの前に立った。

「はい」

「ありがとう」

シャルルはお茶を飲み、一夏もそれにつられて啜った。

「美味しいね…」

「あっありがとう」

一夏の怖れていた沈黙が流れた。紛らわすためにもう一口。

「知りたいよね。僕がなんで男のフリなんかしてるかって」

「あ…うん」

一夏の頭の中では、悪魔か天使か判別できない2つの派閥が、聴くべきか否かを争っていたが。シャルルに後押しされて、聴くことにした。第一興味が無いといえば嘘になる。

「長くなるよ。いい?」

「うん」

心底話したくないらしい。だが、シャルルは意を決して口を開いた。

「実は僕の父にあたる、デュノア社長の命令なんだ」

「あたる?」

シャルルの言い方に引っかかる物を感じた。だが、まだシャルルは話を続けた。

「デュノア社はここ最近、人工臓器の件やIS事業の業績不振でね。広告塔として男性操縦士が必要だったんだ。だから僕が男のふりをしてたんだ。それでね学園に入学したのは、男性操縦士であり尚且つ異常な成長速度を見せている、一夏。君と君のISのデータを手に入れるためなんだ」

そういえば、千冬姉はそんなこと口にはしないが、周りは

俺のことをよく天才とか呼んでいたことがあったような。自覚は無いし、まわりが誉めたたえる功績もほとんど白式のお陰だが。

「だいたいわかったけど、なんで娘にやらせるんだ。しかも、父にあたるって言い方」

「うん。僕は愛人の子供なんだ」

「愛人⁉︎」

[愛する人]

と白式が。

「そう書くといいことみたいだけど」

「え?何?」

白式のメッセージが見えないシャルルが困惑する。

「いいよ気にしないで続けて」

「うっうん。存在は知っていたんだけど。お母さんが亡くなって、僕を一応認知してくれたんだ。その時に検査を受けたんだけど、僕がIS適正が高いことが分かったんだ。だから非公式だけど、僕はデュノア社のテストパイロットになったんだよ」

「それで言われるがままに、性別を偽って入学させたのか」

「うん」

シャルルは肯定した。その後、曇っていた表情が変化し始めた。

「最後まで聞いてくれてありがとう。それと今まで、嘘ついてごめん。でも、なんだか全て話したら楽になったよ」

胸の中を曝け出して、言葉通りに楽になったのだろう。姿勢を崩し、虹彩も輝いて見える。が、瞳孔の黒がより際立った。

「これからどうするんだ?」

と一夏が。

「本国に呼び戻されるかな。それからは良くて牢屋行きかな」

シャルルがまるで他人事のように言い放った。

「それで良いのかよ!」

「ひっ…」

一夏の突飛な怒声に、シャルルが飛び退いた。

「おまえは本当にそれで良いのか?」

「でも、どうしょうもないでしょう?」

自分のことのように語る一夏と、あくまで他人事のように語るシャルル。

「だったらここに居ればいい!」

「え?」

「それに俺が黙って居ればそれでいいだろ?」

「そうだけど」

「それに、例えバレてもえぇぇと」

一夏は頭の中から手帳に記された規約を思い出そうとした。

[IS学園特記事項。本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない]

「そうそれだ。IS学園特記事項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家、組織、団体に帰属しない。つまりここにいる限りは安全だ」

シャルルが相好を崩し頰笑んだ。

「よく覚えてるね。特記事項って55項あったよね?」

「まあな」

一夏は誤魔化すように視線を上げた。

「本当に良いの、ここに居て?」

「ああ」

シャルルの念を押すような質問に、一夏は屈託無く答えた。

「本当にありがとう…嬉しい…」

シャルルも目尻に嬉し涙を浮かべ答えた。そして唐突に何かを思い出したかのように顔をした。

「そうだ。お詫びじゃないけど…僕の本当名前」

「たしかにシャルルじゃあ男性名だな」

「そう、僕の本当名前はシャルロット」

「よろしくなシャルロット」

「僕のほうこそ」

その後、シャルロットは直ぐに横になり就寝。一夏も続こうとした。

[一夏様。夜分に失礼します]

「白式…?」

白式が突然メッセージを送ってきた。一夏は小声で答える。

[質問をしてよろしいでしょうか?]

「いいけど何?」

[何故にデュノア様を救済したのでしょうか?]

「可哀想だからに決まってるだろ」

[可哀想とは?]

おそらく、白式は可哀想という単語は知っている。何故可哀想と思ったか聞きたいのだろ。

「えぇぇと……そうだな……うーん。いつもみたいに思考解析でどうにかならないか?」

[一夏様の言葉で聴きたいのです]

「うーん困ったな。そうだな、シャルロットはさぁ。自分の居場所が無いから、危険な事をしたんだ。それなのにつかるなんて理不尽だろ?」

[つまり一夏様はデュノア様に共感したと?]

「そうだな」

一夏は頷いた。

[デュノア様は法的機関に訴えるといった手段もあった筈です]

「でも、相手は実の父親だ。血縁関係は大切なんだよ、人間にとっては」

これで白式は納得してくれた。

[理解しました。一夏様は肉親を持つデュノア様は共感し

憐れみ救済した]

「そうだ。もういいか、白式?」

[真夜中に、それも些細な事に付き合って頂き感謝します。それではおやすみなさい]

白式はそう言って黙った。何故興味を持ったのだろうと、一夏は白式を呼んだ。

「白式?」

[現在睡眠中]

「寝てるんかい!」

 

 

昨日と変わらず、丹陽はまたも楯無とホームにいた。またも倉持技研に向かうために。

「デジャブね、何回あるのかしらこんな事が」

丹陽が記入した書類に目を通し終えた楯無が言った。

「確かに面倒臭いですがね」

ISを手に入れるためとはいえ何度も技研に寄らなければならないとは。恐らく二郎は技研を出れないだろうから。

「それと、はいこれ。保健医から」

保健医とは朱道のことだろ。楯無はA4サイズ用の封筒を渡してきた。丹陽はそれを受け取り中を確認した。

中には数枚の書類が入っている。それとマッチ箱。読んだら燃やせとのことだろう。

昨日から衆生を見かけていない。それに直接ではなく、口伝えでもなく、書類を渡してきた。今、きっと何かに首を突っ込んでいる。

「中身は?」

「まだ見てないわ」

「え?」

「失礼ね。私が覗き魔とでも?」

「え?」

楯無は奥歯を噛み締め何かを堪えた。

「っち。同じ物を渡されたから、覗く必要がなかったの。これでいいかしら?」

丹陽はにっこりと笑う。

「はい。それぐらい目ざとい方が信用できます」

「どうだか…」

モノレールが来るまでに、書類に目を通そうとした。

「あなたも大変ね。コア干渉なんてあるから、黒騎士以外まともに扱えないなんて」

手持ち無沙汰からか、楯無が語りかけてきた。

「なんとかなるんでしょう」

「そうかしらね。世界中でコア干渉については研究がなされているのよ。まだ研究中」

「そういえば、なんで世界中でコア干渉の対策が研究されているんですかね?」

「ISは操縦者に戦闘力を左右されるところがあるから、平均的な操縦者2人で2機のISがあるよりも、熟練者にコア2つのISが1機の方が単純なIS戦は強いと言われているからよ。まあ戦略的にはその限りではないのだけれど」

「成る程。単発機よりも双発機といったところですのね。まあ加速度とか、ロール性能とかありますが」

「まあそんなところね。あっ来た」

モノレールが到着した。当然、丹陽は乗り込んだ。

「そうそう。なんで、あなたは新しいISに拘るの?確かに黒騎士はぼろぼろだけど、それでも現行のISよりかは高性能よ」

と楯無が。

「一応、黒騎士も戦力に入れていますよ」

「じゃあ、普段からも使えば良いじゃないの?コア干渉も無くて、エアバッグの心配も無いわよ」

「わかってませんね」

「何が?」

乗車口とホームの境は底が暗く見えず、一度落ちてしまえばどこまでも堕ちていくようだった。その境を先にいる丹陽ははっきりと答えた。

「黒騎士はおぞましい姿なんですよ」

ベルが鳴り響き、自動ドアが閉まった。モノレールを丹陽を連れて楯無を残してホームを去った。

モノレールの中、座席に座った丹陽は、衆生からの資料に目を通していた。

どうやら別荘地帯での殺人事件の資料らしい。今の所、判明している事よりも不明な点の方が多いみたいだが。

丹陽はページを次々とめくっていた。何故、衆生がこの資料を渡して来たのか、そして今衆生は何をしているのか、読み取るために。

最後ページを閲覧していた丹陽の瞳孔がカッと開らき、驚きのあまり手が震えた。

「そんな…歯の治療資料と一致したからって」

被害者の男性。残った下顎の歯型がとある人物と一致したらしい。

「土屋守」

そして丹陽は夢中で資料を読み返した。

電流が全身を駆け巡り、無数の論理回路を繋げた。

 

「それって本当ですの?」

「しぃ、声が大きい」

朝。ホームルーム前の教室。

セシリアがクラスメイトの女子生徒と机を挟んで向かい合っていた。そしてたった今、聞き逃せない話を聞き廊下にも響き渡りそうな程の大声を出した。

「それがね本人達は知らないみたいで、女の子達だけの取り決めみたいなのよ」

「うーん。ですが、独占できるには違いありませんわね。我が祖国の威厳を知らしめるばかりか、個人的な酬いもあるなんて。益々、今度の学年別トーナメント負けられませんわ」

セシリアは上品さの欠片もなく拳を握りしめ、フライング気味の勝ち誇った顔をした。

「優勝すれば、一夏さんとお付き合いするのは私です」

自信もやる気もたっぷりのセシリアを眺めて、箒は重いため息をついた。

「話が尾びれをついて妙な形で広がっているな…」

 

 

「「勝負しなさい」」

「断る」

放課後。アリーナでトーナメントに向けて、1年生徒がIS操縦の自主練に打ち込んでいた。

教師も不特定多数の生徒が不在の中、生徒達はそれぞれが各自でISな教練に取り組んでいた。その内、ブルーティアーズを装着したセシリアと甲龍を装着した鈴が、ワンボーに搭乗した丹陽と対峙していた。丹陽は先ほど帰って来た。

「どうしてですの?」

初戦の雪辱を果たしたいセシリアは食らいついた。

「どうせ勝てないだろうし。というか、全高の範囲内に入るなよ。倒れてきたら大変なんだぞ」

丹陽は暖機運転の為にワンボーでストレッチを始める。周りが最新鋭の機動兵器ISの中、陳腐なワンボーに搭乗する丹陽はアヒルの子の様に醜く悪目立ちしていた。

「なんですって!その自信は何処から湧いて出て来るのよ!」

戦争一歩手前まで追い詰められた鈴が、怒りも疑問も隠さずにいた。

「勝てないだろうそりゃ。6分しか動かせない俺じゃあ、そちら様に戦っても勝てるかどうかなんて、わかりきってる」

2人は覗かせていた牙を引っ込め、態度を豹変させた。

「そうですね。泉さんは適正が低すぎて、まともにISを起動出来ないのでしたね」

「そういえばそうだったね」

嘲るような口調だが、丹陽は特に反応も反論もしなかった。多少湾曲しているが、全くの見当違いな訳でもないから。

「というわけで、おふたりさんは勝手に模擬戦でもなんでもしていてください」

ワンボーで踵を返しアリーナから退場しようとした。

「待ちなさい。確かに、泉さんには制限時間がありますが。万が一勝敗が決する前に時間が来他時は貴方の勝ちを差し上げましょう。この条件でどうですか?」

セシリアは不利な条件にもかかわらず、自信満々に提案してきた。前回の戦闘を教訓に、自信がつくほどには特訓をしてきたようだ。

「いいよ」

簪は恐らく今は生徒会の仕事をこなしている。どうせ暇なのだから、ことわる理由もなく承諾した。

「ちょっと待って。その条件だったら私とも勝負しなさいよね」

鈴がセシリアと丹陽の間に割って入って来る。

「いいけど。まさか2対1?」

「まさか決してそのようなことは、もちろん…」

「そんなわけないでしょ。もちろん…」

セシリアと鈴が同時に宣言した。

「私からですわ!」

「私から!」

丹陽が今度こそ踵を返す。

「ISを取りに行ってくるから、その前までには決めてくれ」

睨み合う2人に言い残し、ピットに向かおうとした。

「待て」

言い争いをしている2人の向こうからでもはっきりと丹陽の鼓膜にその声は響いた。

「面倒なことになったな…」

今度からは会長の諫言を真摯に受け止めるので、許してください。

セシリアと鈴のその向こう。馬鹿でかい大砲を乗せた黒いISが姿を覗かせていた。

「ラウラ…お前もか…。俺も人気者だな」

正確には嫌われ者。

 

 

「やっぱり、少しは射撃武器の使い方とか覚えていた方がいいかな」

「そうだよ。できるに越したことは無いと思うよ。それに、逆に考えて射撃手の気持ちさえ分かれば回避だって上達するはずだし」

放課後、アリーナに続く舗装路を一夏とシャルルが横に並んで歩いていた。

「そうか。うーん、白式頼む」

[申し上げにくいのですが。私も射撃は不得意です。もとい、私は一夏様の能力以上のことはできません]

「そうか…」

「どうしたの?」

「なんでも無い。射撃の稽古は丹陽に頼むか」

手持ちの射撃武器はセシリアもいるが。口には出したく無いが、セシリアの教え方は細かすぎて逆にわかりづらい。そうなれば、あとは必然的に丹陽が選択肢に上がる。

「ダメだよ!そんなの絶対!」

脅迫するように詰め寄るシャルル。一夏は愕然すると同時に理解した。前々から薄々は感じていたが。

丹陽また喧嘩売ったな。さらに胃が重く感じる。

「そうだな。じゃあ、シャルル頼んでいいか?」

「え?うんうん!いいよ、僕でいいなら何時でも幾らでも」

確かに射撃の稽古を付けてもらう目的もあるが、それに託けて2人の仲違いの原因を探る目的もある。

「あの、箒?」

胃もたれのもう1つの要因、箒におそるおそる問いかけた。

「箒も一緒にどうだ?」

「私に構うな」

箒にそっぽを向かれて断られた。

あの約束をしてからか、箒は妙によそよそしい。その癖、今みたいに何処かに行く時は後方10mの位置に必ずいる。ISの訓練に打ち込んでいるところから、学年別トーナメントの所為で気が立っているのでしょう。

箒よりも後方、廊下の奥から数名の生徒が駆け足でこちらに向かってきて、そのまますれ違う。何事かと思っていれば、1人が手短く簡潔に述べた。

「第3アリーナで代表候補生3人がが模擬戦をやってるって!」

一夏とシャルルが頷き合い、疾走中の生徒の後に続いた。箒も続く。

 

 

第3アリーナで3人は、ワンサイドゲームを目の当たりにした。

戦っていた3人とは、予想通りにラウラ、セシリア、鈴だった。しかし、バトルロイヤル式との予想とは違い、ラウラ対セシリアと鈴という構図だった。そして1対2という不利な条件にもかかわらず、ラウラは2人を圧倒していた。

「っく!」

鈴は甲龍の衝撃砲を放つ。一夏を苦しめた、不可視の弾頭がラウラに伸びる。

対するラウラは片手をかざし、掌からエネルギーが放射され、円状の空間を作った。その空間が衝撃砲を阻み、ラウラを完璧に守った。

「今のは?」

観客席から見つめていた一夏は誰がというわけでもなく訊いた。

「AIC、アクティブイナーシャルキャンセラー」

とシャルルが。

「又の名を停止結界という。特定の範囲内を完全に停止させる能力だ」

箒が続く。

「ふーん」

気の無い返事した。

「ふーんって一夏!分かっているのか?」

呆れと怒りを堪えられずに箒が吼える。

一夏が気の無い返事をしたのは、眼前の戦いに集中していたからだ。

「ああ、分かっているよ」

ブルーティアーズも甲龍も停止結界の前ではなす術もなく一方的になぶられる。

シュバルツレーゲンから6本のワイヤーブレードが伸びる。それらはそれぞれセシリアと鈴の首と両腕に巻き付き拘束、事実上の無力化した。そして眼前まで引き寄せると、拳或いは脚を叩き込む。

「酷い」

シャルルが両手で口元を覆い隠す。

「プラズマブレードもあるのにわざわざ打撃を選択するなんて…」

箒は唇を噛み締め、目を背けたい衝動に駆られながらも見つめ続けた。自分もかつては、ラウラと同じだった。

「あのままじゃ、幾ら絶対防御が発動していてもエネルギー切れを起こすよ。そしたら…」

シャルルの危惧が現実になる前に。

「いけるな?」

[いつでもどうぞ]

一夏は待機形態である、ガントレットを握りしめた。

「白ー」

その時だ、発砲音が響いた。外壁で反響したため、より多くより大きく響き、アリーナの雰囲気を一変させた。

「楽しそうだな。俺も混ぜてくれ」

ピットに併設されたカタパルトデッキ。シールドラックのアンカーを突き立て、硝煙が立ち昇るスナイパーライフルを片手で構えた丹陽が立っていた。

先ほどの銃声は、丹陽のものだ。そして弾はラウラの頬を掠めた。ラウラはワイヤーブレードを解き丹陽に隻眼を向けた。 解放された2人は、同時にISが解除され無防備に地面に横たわった。直ぐに逃げてくれればありがたいが、負傷ためか身動き1つできない様子だ。

ラウラは丹陽の姿を認めると、不敵な笑みを浮かべた。

「なんだ逃げないのか?まあいい。退屈していたところだ」

丹陽はアンカーを引き抜き、デッキから降りる。そして右手にスナイパーライフル、左手にマシンガンを構え、ゆっくりとラウラを中心に円を描くように歩く。

「実際に対峙してみれば、呆気ない。貴様はもう少し骨があると嬉しいのだがな」

丹陽がスナイパーライフルの弾倉を量子変換で出現させ、まだ残弾豊富な弾倉を入れ替えた。

スナイパーライフルが火を吹いた。

ラウラはステップで回避。弾は当たらなかったが、ラウラの顔は曇った。

「今のは?」

続けて、数発撃ち込まれる。

ラウラは地面スレスレを飛翔して回避機動を取る。しかしすぐにやめ、仁王立ちした。

「ふざけているか!」

スナイパーライフルのバレルから飛び出た弾丸はラウラに伸びる。直撃寸前。弾は四散、消滅した。丹陽が新たに装填した弾は模擬弾だった。ラウラの足元に無防備な2人がいたからだ。

丹陽は今度はマシンガンを向け、発砲。今度は実弾が飛び出る。

ラウラは停止結界を発動。無数の弾丸がラウラに届かずに中空で停止。

「無駄だ」

丹陽はプライベートチャンネルで一夏に連絡を取った。

『今だ一夏』

「おう!」

「「一夏」」

一夏が白式を装着。手摺壁を足蹴りにして飛び出した。向かうは、横たわったセシリアと鈴の元に。

「しっかりしろ、セシリア、鈴」

「うぅぅ…一夏」

「一夏さん…見苦しいところ…」

丹陽がラウラを抑えている隙に、2人を抱えてピットに飛び上がる。

「あとは頼んだぞ、丹陽」

丹陽は右腕のスナイパーライフルをシールドラックに預ける。空いた右腕をあげて、黙って親指を立てた。

一夏は加勢も考えていた。だが、今の丹陽に理屈もなく理由も必要ない安堵感を覚えた。

 

 

簪は騒ぎを聞きつけ、アリーナに向かい走っていた。

生徒会室で執務を行っていたのだが。第3アリーナで模擬弾が始まったと聞いたときは、特に興味もなく執務を続行した。しかし、程なくして来た報せで、簪は仕事をほっぽり出して駆け出していた。

医務室に代表候補生2人が運ばれた。

そして、泉丹陽が第3アリーナで意識不明状態だと。




即落ちするオリ主。

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