インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜 作:地雷上等兵
ネタバレ、一夏が勝ちます。
丹陽を呼び出す連絡が入り保健室を後にした。
呼び出したのは用務員で、名前はもといあだ名はクマ吉。足を痛めていたが先日、復帰した。なんでも持倉技研の方から届け物があるらしい。それを受託しに行く。場所は学園にある泊地。
廊下。
「あっあの…」
女子生徒に呼び止められた。
「何用?」
一応の為訊いておく。理由は想像がつくが。それに相応しい顔をする。
女子生徒は、目を合わせず顔を赤らめ身じろぐ。両手で後ろに何かを大切そうに持っている。
丹陽にとっては一瞬。女子生徒にとってはその反対の時間が流れた。女子生徒が意を決して行動をする。
「ごめん…これを!」
女子が後ろに隠していたものを出した。それは手作り弁当。
丹陽は其れ相応の顔をして受け取る。
丹陽はこの女子生徒を知ってる。
本番前にこの様子で大丈夫なのか?
「クマ吉さんに渡して」
この女子生徒は先日の事件でクマ吉に助けられた。それ以来クマ吉に気があるらしい。
「そっそれでは…」
女子生徒は駆けて行った。
その様子を楯無は曲がり角に隠れこっそりと覗いていた。丹陽は気づいていない。
「女性から、手作り弁当を貰って嫌そうな顔をするなんて…まさかね…」
丹陽がIS学園の泊地に着いた。
道中轡木から小遣いを貰い、クマ吉たちへの差し入れを貰った。食い収めかもしれないからと。
意味が分からず、丹陽は受け取り質問しようとしたが、轡木は大豆が入った段ボールを抱え何処かに行ってしまった。
IS学園を取り囲むように建設された防風壁の外にあるここは、海風に直に晒され塩害が酷いのかそれとも予算削減か、電灯1つ取っても錆び付いてる。
エカーボンに居た時とは少し違うが、同じ磯の香りが丹陽の目に滲みる。
そこには件のクマ吉と他に2人男性がいた。全員が同年代。1人はやはり作業着姿の千秋と、もう1人は体長2mくらいの人型フォークリフトの様なワンマンユンボー、略してワンボーの操縦席に座っているのか装着しているのか判断つけづらい藤原。
千秋とクマ吉の2人はだるそうにワンボーに寄りかかり、風と日除けにしている。
クマ吉が丹陽が来た事に気づいていた。
「やぁ泉。サボり?」
連絡を入れたクマ吉が言った。
「じゃあ、クマ吉は首謀者だ」
「それは困るなぁ。わかった、黙ってるよ」
クマ吉は丹陽が持っている物を指摘する。
丹陽の手にはビニール袋と例の弁当が。
「はいこれ差し入れ。轡木から」
千秋にミネラルウォーターと菓子パン。
「助かる。朝から急な仕事が多くて小腹が空いていたところだ」
藤原にもミネラルウォーターと菓子パン。
「ありがとう、泉。でも妙に親切だな」
感謝する2人だが、急な仕事の元凶は目の前にいる。
「クマ吉、何これ?」
クマ吉にはハチミツ。500mlのプラ容器に一杯に入っている。
「ありがとう」
クマ吉はハチミツをごくごく飲み始める。飲み干した。本当にクマなのか?
「ほいこれ」
クマ吉の分の水と惣菜パンを出した。
「それとはいこれ弁当」
件の弁当を差し出した。
「1人分のしかないけど?」
「とある人物からのクマ吉相手の贈り物」
クマ吉は顔が綻ぶ。千秋は手を叩く勢いで囃し立てるが、藤原は愚痴る。
「良かったなクマ吉」
「俺ら3人でお前が一番抜けか…」
「相手だれ?どの教員?美人?巨乳?メガネ?」
「生徒だよ。可愛いよ。並だよ。裸眼だよ」
3人の様子が変わった。クマ吉は顔が痙攣している。
「なんだ?年上好み?キレイ系とかわいい系の違いは?乳ぐらいなんでもいいだろう。メガネは伊達でもいいでしょ」
喋れないクマ吉の代わりに2人が説明した。
「違うんだよ泉」
「クマ吉の好みはアバウトだ。というか雑食?」
「クマだけに?」
「問題は用務員の規則だ」
「規則?」
「そう。ここに俺が入った理由は、高収入だからだが。少なからず、いかがわしい理由の奴もいる」
「若い女性ばかりだものなあ」
そう言えば、用務員の性関係の不祥事は今まで無いらしいが。去勢でも義務化されてるのか。なら恐ろしいが。
「だから最終試験をパスした強者に轡木さんは直接言いに来るんだ」
「なんて?」
「女子生徒に指一本触れてみろ…。玉を潰すか、竿を切り落とすか選ばせてやる」
丹陽は無意識に股間を手で抑えていた。
「それって向こうから迫っても?」
「試す勇気は無い」
「犠牲者は?」
「オネエ語を喋り始めた人なら知ってる」
だからこそクマ吉は困っているのだろか。試す価値はあるかもしれないが、まだ男でいたいと。男を見せると男を失うも。
「どうする?」
「ひとまずお友達からで…」
クマ吉が弁当を受け取りながら言った。
「俺を介してじゃなくて直接言ったほうがいいと思うよ」
「うん…」
熊が蜂蜜舐める為に蜂に刺されに行く様気分なのだろ、クマ吉は。クマだけに。
「上手くないからな」
と誰かが。
数分後。1機の飛行艇が飛んできた。一度上空を通り過ぎてから旋回、着水した。着水して分かる。でかい。しかも丹陽の知らない機体だ。
40mはある細長の胴体に、後退角を持つ長い主翼にT字尾翼。胴体は長細く見えたが、スポンソンで丸々としていた。さらに後部に設けられている運搬用ハッチで、ふとましさを増している。ジェットエンジンは4発で主翼付け根上面に2つずつ配置されている。
丹陽の記憶によればシーマスターに似ているが、所々差異がある。何よりこの飛行艇。主翼をさらに後退させ、胴体に折りたたんだ。可変翼らしい。
「うわぁ…何これ?」
謎の飛行艇の後部ハッチが開き、そこから内火艇が進水した。コンテナを山積みにしている。
丹陽の質問にクマ吉が答える。
「飛鯨。複数ある試作機の内の駄目なやつ」
「駄目なやつ?」
名前から察するに新型の飛行艇なのだろ。
「そう。こいつだけ、チップタンクなくて可変翼でしかも再燃焼装置まで」
「あっ」
試験的に搭載した機能が、求められる性能とは別の方向で
発揮されたのだろ。詰まりは余計な機構の所為で粗大ゴミとなった。そして轡木はその粗大ゴミを、滑走路の無いIS学園の貴重な移動手段の1つとしようしたのだろ。しかもあのサイズのペイロードならフル装備のISも数機は輸送できる。可変翼にアフターバーナがあるということはもしかしたら推力比は凄まじいものがあるのかも」
停泊した内火艇から1人男が出て来た。
ライフジャケットを着て男性の頭には、海自の帽子が。
「技研からのお届け物です。受諾サインお願いします」
クマ吉が内火艇に乗船荷物を確認、書類にサインする。千秋がトラックを持ってくると言って走って行き、藤原はワンボーでコンテナなどを下ろしはじめた。ワンボーはマニュピレーターでコンテナを掴み、軽々と持ち上げる。油圧式の為か動きは重々しい。
「それと機体受諾のサインはどちらで」
「彼処のドッグでお願いします」
気づくといつの間に来た小型艇が飛鯨を牽引して、ドッグに向かっていた。
「そうですか。では私はこれで」
海自の男はクマ吉に敬礼をした。クマ吉も釣られて敬礼。
海自の男は小走りでドッグに向かって行った。すぐにどこからどこからともなく現れた用務員が、男に随伴した。
「やっちゃった。学園内に部外者を入れるときは必ず随伴するんだっけ」
丹陽や未確認ISの一件以来、学園の警備体制も大きく変わったらしい。
「クマ吉。俺宛の届け物と、これらは?」
「泉宛の物はどれかは俺も訊いてない。中山二郎さんからってことは聞いてる。この荷物は、警備装置と練習機の予備部品に材料」
1つ1つ探さなければならないのか。と心配した。が無用だった。
藤原がワンボーでコンテナを持って来た。コンテナにはデカデカと赤いペンキで、丹陽宛、と書いてある。
「多分これ」
丹陽はそれに貼り付けてあった紙束を剥がし読んだ。
疾風用の追加部品。ビアンコのパーツ選定から落とした部品をラファール用に送られてきた。シールドラックが2枚。あとはビアンコも使用予定のガンマンセットにハードタイプのISスーツが一式。それと、黒騎士の由来のオーパーツ。先日、ビアンコに装備して欲しいと渡したが、送り返してきた。何かあったのか。最後に手紙。内容は今度はデモンストレーション戦やるから来い。
デモンストレーション戦。会長にご厚意で工面してもらった予算では、ビアンコの新規製造には届かなかった。追加の予算が必要だ。その為に、自身の有用性を証明しなければならないらしい。
丹陽はISの格納庫にいた。
二郎の送って来たISスーツに着替える。
通常のISスーツ着て、そう上からボディスーツのようなスーツを着込む。宇宙服のようにぶかぶかだが、スイッチを入れると密着した。ボディスーツは全身に血管のようにチューブが張り巡らしてある。さらにハーネスを体に巻きつける。次に両太ももの位置に圧迫器兼酸素ボンベをハーネスに取り付ける。ブラックアウト防止用のだろう。次にエアバックとパラシュート付きのショルダーガード。心臓圧迫装置、非常飲料、空調機、バッテリーを内蔵したベストを着用。さらにポケット聖書は無いのに女性の口説き方マニュアルはあり、防衛火器は無いのに避妊具はあるサバイバルキット一式が入ったポーチをベストの前に。胸元が異様に大きくベストとポーチが相まって、今にも前向きに倒れそうだ。次にスカーフを首に巻く。衝撃に反応して膨らみ首を保護するためにある。次に圧縮空気の入った500mlペットボトルサイズのボンベを腰に装着。プシューと音と共に全身のチューブが膨らむ。右手に手袋をはめた。何故か右手にしかない。しかもフィンガーオープンとは逆に、指先と手の甲だけを覆っている。最後にいつも使っている携帯端末にISスーツの制御システムをダウンロードして有線で接続、左手にセット。端末を操作しようとしたが、動かなかった。あれこれとしている分かった。右手の指先を擦り合わせると、連動して端末の矢印が動いた。指同士をタップすれば、クリックするらしい。
これだけの装備だと総重量も重くなるが、全身に張り巡らされたガス圧駆動のパワーアシストチューブのお陰でさほど重くは感じない。
が重量が変わった所為か慣性の法則がより強くなり、慣らす為走った時は角を曲がり切れず壁にぶつかった。その衝撃で全身を包む程の大きさのエアバッグが作動、それは球形になり丹陽を包む。戻し方を調べている間ずっと丹陽は廊下を転がっていた。
「クーリングオフもんだぞ」
何はともあれ格納庫のラファールを装着、大型スラスター2基の代わりにシールドラックを装備する。載せるのに人力では不可能なので、ワンボーを使ったが、失敗。ISを倒す結果に。クレーンも使ったが、途中で面倒になったので黒騎士を装着。オーパーツだらけのISで、ローテクだらけのISの改修作業を行った。肩部装甲も、ショルダーガードとシールドラックに干渉するため外す。胸部や足回りは、丹陽が小柄な事や色々と出ている女性用の設計の為か何とか収まった。最後にIS用の布製ピストルベルトを着ける。腰に中折れ式水平二連銃を。銃身を切り詰めてあり、布製のピストルベルトと相まって時代錯誤な代物だ。弾帯には、水平二連の多種多様な弾薬をしまう。そして鞘に短刀を収めた。
ISの起動に移る。
二郎曰く、俺はアンバランスらしい。IS操縦技量において、所々信じられない程に杜撰で、同じぐらい所々で熟達していた。まず、IS適正がD。ISからの操縦補助を殆ど受けられない。次にPICを理解していない故にスラスター無しでの主翼なしでの戦闘機動が苦手。最後に武器の展開が約4秒かかる。散々だ。専用機が支給されないのも無理は無い。が良いところもある。ニュータイプ並みの異常な程の射撃の腕。Xラウンダー並みの反応速度。イノベーター並みの空間認識能力。武闘家並みの機体制御。
携帯端末を操作して千冬に連絡を入れる。
「もしもし?」
千冬がすぐに出た。
『もしもし、丹陽か?頭は大丈夫か?』
意外にも千冬は丹陽を心配していたのだろが。
「大丈夫だが…言い方考えなさいよ」
『そうか。ならば安静に…』
「心配ご無用。まだ授業はやってるか。やってるなら行くけど」
『ならば丁度良い。一夏と手合わせ願いたい』
「構わないが。どうして俺なんだ?」
『お前が勘ぐる必要は無い』
「了解しました。じゃあ切るぞ」
丹陽はカタパルトデッキまで歩行。
最終チェック。アクチュエータ作動。バイタル値正常。スラスター作動目視確認。この前みたいに落ちない。センサーは目視距離なので問題無い。電子妖精未搭載なら贅沢は言えない。シールドエネルギー展開確認。シールドラック問題無し。コア干渉有り。活動限界まで約6分。白式相手ならどのみち短期決戦、関係ない。
ラファールの両足のネイルでカタパルトのシャトルを掴み、前屈みになり腕でもシャトルを掴む。
「進路確認。クリア。出る」
スラスター全力噴射、シャトルが急前進。丹陽は急激な加速を受け、発進した。
丹陽がグランドに着いた。生徒達は小休憩だったらしく、立ち話をしている。丹陽が着地すると、千冬が声を掛け整列させる。何故だか、セシリアと鈴はあまり浮かない顔をしている。逆に山田先生は上気している。シャルルは丹陽と目を合わせようとはしない。一夏は待ってましたとばかりに白式を展開させた。
「では今日の授業の締めくくりだ。一夏と丹陽の演習を観戦してもらう。準備万端だな?一夏、丹陽」
一夏が一瞬で雪片を展開し、上昇する。
「おう」
丹陽は時間を掛け、マシンガンとスナイパーライフルを展開、地面を這うように一夏から距離を取る。
「了解」
残りの生徒達は観客席に移動した。
生徒達の勝利予想は7:3で一夏の勝利。セシリアや鈴を破った専用機持ちの一夏。相手は1回セシリアに勝ちそうになった練習機を使う丹陽。当然ではある。
「それでは、はじめろ!」
千冬が合図した。
「丹陽。さっきの借りは返すぜ」
一夏は雪片を上段に構えた。
「一夏。さっきは悪かった」
丹陽は右足を後ろに引き90度に開き、両手の銃を構えた。その際左手のマシンガンは横に倒す。
「行くぞぉぉぉ!」
丹陽と一夏が試合をするのはこれで初めてだ。両者とも気合が入る。
一夏は丹陽に目掛け急降下。位置エネルギーを速度に変換、加速する。
丹陽はマシンガンを掃射、迎撃。一夏はそれを右に回避。弾が一夏の傍を過ぎ去って行く、筈だった。
「っく」
被弾した。マシンガンよりも弾速の速いスナイパーライフルだ。
「白式今のは?」
[こちらの回避行動が読まれています]
セシリア戦でも使った丹陽の戦術だ。マシンガンをばら撒き、対象の速度を削ぎ回避しようとする敵機の動きに対応してスナイパーライフルで狙い撃つ。厄介なのは丹陽の狙撃の腕だ。セシリアも同じぐらい上手い筈なのに何かが違う。鋭い。まるで針で刺されるかのような狙撃。
「…チッ!」
苛立ちを抑えられず舌打ちをした。
[スラスターを集中的に狙われています。最新式のシールドバリアは操縦者だけで無く、武器やスラスターをも保護してます。ですがシールドバリアとの干渉を考慮され薄く、接射と近接武器には注意してください]
「そんなことまでやってるのか丹陽は…」
いくらフェイントをかけても丹陽は一夏を狙撃し命中し続けた。
「まるでハリネズミだ。白式、何か手は無いのか?瞬間加速は?」
[瞬間加速はオススメ出来ません。自ら蜂の巣にされるようなものです]
丹陽は弾幕を槍衾のようにして、一夏の瞬間加速を牽制していた。
こちらも遠距離攻撃があればいいのだが。
「雪片を投げたい…」
[やめてください]
「あっ!声に出してたか。本気じゃ無いから」
白式にヘソを曲げられたらたまったもんじゃない。
[ひとまずそれで手打ちにしましょう。敵はマガジンの交換を、量子変換ではなく手動で行っております。弾幕が切れる瞬間がある筈です]
丹陽は両手のマシンガンとライフルを脇で挟み固定すると、空いた両腕に弾倉を展開。両手銃の給弾口に押し込む。この一連の動作に丹陽は、日常では些細な戦闘では致命的な時間をかけている。
「了解」
[しかし、相手は間抜けですが無能ではありません。何か対策を取っている可能性があります]
「こっちも奥の手はまだある」
迫り来るマシンガンの弾を弾く為、雪片を右から横に薙ぎ払う。マシンガンは防げたが、空いた右肩にスナイパーライフルが直撃。
弾切れを狙い一夏は距離を取り回避に専念するが、それでも被弾してしまう。白式のシールドエネルギーが削られて行く。
一瞬丹陽の弾幕が途切れた。丹陽は両手の銃の弾倉のロックを外して、弾倉は重力に逆らわず地に落ちた。ついに弾切れだ。
この好機を一夏は見逃さない。
「今だ、行くぞ!」
一夏は地面すれすれに降下、スラスター全開で丹陽に突っ込む。
丹陽が弾倉を展開しない。その代わり、一対のシールドラックを自身を挟むように両脇に持ち上げた。シールドラックの裏側を一夏には見えた。大量の武器弾薬がマウントされている。丹陽は銃の給弾口をシールドラックの弾倉に向け、銃の供給口に叩けつけるように弾倉を装填。
素早く装填した丹陽を一夏に弾をご馳走を。今までの狙撃とは程遠い、弾丸ただばら撒く乱射。
予想外の丹陽の行動に一夏も奥の手を使う。
「だったら!新技!」
[腕部高速回転]
一夏はそれを躱し切れないと判断。だから、弾く。手首を高速回転させ、雪片で擬似的な盾を作りだした。盾とはいえ即席物、何発かは通ってしまう。だが確実に被弾数が激減する。
丹陽は少しでも距離を取ろうと射撃を続けたまま後退するが、重いシールドラックを担ぎ巨大スラスターを外したラファールでは直ぐに追いつかれてしまった。
一夏が間合いに丹陽を捉えた。腕の回転を停止。すかさず、丹陽がスナイパーライフルで一夏の眉間を撃つ。が空撃ち。一夏が態勢を低くし躱した。一夏は間を置かず、逆袈裟斬りを放ちスナイパーライフルを切り裂いた。そして後退する丹陽を追撃するために踏み込む。逆袈裟斬りで振り切った雪片の刃を返し両手で上段で構えた。
[零落白夜発動]
雪片が変形、光刃が現れる。
決まった。多くの人はそう思った。
丹陽が予想外の反撃をする。
雪片を持つ手が本来の軌道が外れる。横から何かに叩きつけられた。丹陽の蹴りだ。しかも脚部スラスターを利用した、速度威力倍増の右ローキック。
「え?」
軌道を逸らされ雪片を持つ手を地面まで下ろしてしまった。今の一夏は完全に無防備。
丹陽は蹴りをした右足をそのまま振り抜き、シールドラック先端のアンカーを地面に刺しそれを軸にして左足で回し後ろ蹴り。さらに全身のスラスターで体にモーメントを発生させその分の威力を便乗させた。
蹴りは一夏の頭に直撃した。
「ぐぶっ」
一夏は蹴り飛ばされ、くるくると宙を回り仰向けに倒れ込む。
丹陽は右手の廃品となったスナイパーライフルを格納領域にしまい、シールドラックのグレネードランチャーに持ち替えた。倒れ込む一夏を追撃するために。
[自立制御]
白式がスラスター噴射。同時に足で地面を叩き、跳躍した。丹陽の追撃はただ地面を耕す結果になった。
[操縦権返還]
一夏はそれを確認、しかし白式に感謝する暇も無い。
一夏は着地、丹陽は一夏を捉えた。同時に丹陽が発砲。しかしまた空を切る。一夏が左脚部スラスターを利用し跳躍、右に急速移動していた。
丹陽の左側に取り付く。丹陽もそれを捉えているが、シールドラック大きさが仇になる。シールドラックが丹陽の射線の邪魔したのだ。退かすことも出来るが、そんな暇は無い。その代わり、シールドラックで身を守りながら距離を離す。シールドラックでは白式の攻撃に耐えられないが、無いよりは幾らかはマシだ。
「させるか!」
[思考解析。充填開始、カウントダウン。1、2、3…]
もう1度一夏は左足で跳躍、無防備な背中に躍り出た。
零落白夜は発動していない。だがそれでも十二分な攻撃力を持つ雪片を上段に構え、振り下ろす。丹陽は咄嗟に回避するも、左のシールドラックとスラスターを根元から切り裂かれ失った。しかし丹陽の射線は確保された。両手の銃器が火を吹く。が考え直す。白式のスラスターが発光している。
一夏はこの距離でやる気だ。
[…49、50。充填完了。いつでもいけます]
前回と比べ白式が充填を最適化してくれたので早い。
丹陽は右手のグレネードランチャーを捨てる。そして…。
[「瞬間加速(イグニッションブースト)!」]
一夏は爆発的な加速度を得て、丹陽に突撃した。
[零落白夜発動]
雪片が変形、光刃が現れる。
一夏は丹陽とすれ違いざまに逆袈裟切りを放つ。甲高い金属音が響き渡り、何かが空高く宙を舞った。
一夏は急加速の勢いそのまま突き抜け、急旋回停止。
勝敗が決した。
と思っている観客席では歓声が上がった。
「嘘だろ…今のでも詰められなかった」
一夏に押し飛ばされ転がる丹陽。シールドラックのアンカーを地面に突き立てなんとか止まり立ち上がる。
丹陽のシールドエネルギーは僅かだがまだ残っている。一夏も序盤の丹陽の猛攻でシールドエネルギーが半分になっていた。
一夏は焦りの表情を隠せていない。一方丹陽はお面を被ったかのように無表情。
宙を舞っていた何かは、地面に刺さった。それは丹陽が咄嗟にシールドラックから掴んだ実体剣。丹陽はそれで一夏の一撃を防いだのだ。
だがその代償は大きかった。
丹陽は網膜に投影される文字を無視して、左手のマシンガンを連射した。だが当たらない。シールドラックとスラスターを失って重量バランスが変わり、命中率に影響していた。PIC制御が苦手だとこうなる。
ー右マニュピレーター破損、射撃制御不能。重量バランス再調整中ー
とラファールから無情にメッセージを送られる。
「五本指だからぁ」
そう丹陽が悪態をつく。
ラファールの右手の関節から火花が飛び散っている。 一夏の一撃で右マニュピレーターが破損したのだ。もう武器を保持出来ない。丹陽はマシンガンのマガジンを再装填。弾種を高速徹甲弾から炸薬弾に。
「あいつ…右腕が!これなら」
これらの丹陽のトラブルを察知した一夏は好機と感じもう1度攻勢に出る。
一夏は真っ直ぐに丹陽に飛ぶ。丹陽は後退しながら弾幕を張るが一夏は一切意に介さない。
「今度のこそぉぉぉ!」
「デュノア?どちらが勝つと思う」
と観客席にいる千冬が。シャルルは個人的な感情は抜きに答えた。
「一夏君だと思います。泉君の損傷具合は致命的です。あれではもう一夏君の猛攻を防ぐことは出来ないでしょう」
「フン」
千冬が鼻で笑う。
「ん?なぜです織斑先生?」
「お前も分からないか。丹陽はすでに布石を打っている」
ーバランス調整中。射撃をマニュアルにしますー
零落白夜を使用せずに一夏は、振りかぶる。狙うは残った丹陽の左腕。それさえ墜とせば、勝利は確実。
その時丹陽のマシンガンの銃口を一夏の下に向けた。
「え?」
発射。弾は銃身の中で意図も容易く音速を突破、今さっき丹陽が捨てたグレネードランチャーの弾倉に直撃。それも一夏の真下で。
「うぁぁぁぁぁ!」
弾倉が爆発、爆風が一夏を下から襲う。白式のシールドエネルギーと突貫を削いだ。
一夏は爆風で安定性を失いかけたが復帰、爆炎の中から飛び出た。
丹陽がいない。
「何処に?」
[直上警戒]
「しまった」
丹陽が上から強襲を仕掛けた。
そのまま一夏の背中に乗り張り付いた。一夏が状況を理解する前に丹陽が白式の右スラスターをマシンガンで蜂の巣に。しかもごっそりとシールドエネルギーを失う。
当然丹陽はもう片方にも銃口を向けようする。
一夏は咄嗟に雪片を逆手に持ち丹陽を刺突するが、丹陽は身を捩り躱す。そればかりか雪片を脇で掴んだ。
負けた。もう片方のスラスターを破壊されてしまえば、格闘機の白式では勝ち目は無い。
一夏は諦めかけたその時、
[まだです、一夏]
天が味方した。壁が目の前にある。
丹陽は逃げようと足を緩めた。が一夏が掴んで離さない。残ったスラスターを全開にする。
「くっ、離せ一夏!」
「一緒にぶつかろうぜ!」
[私も嫌ですから]
諦めた丹陽はスラスターを破壊しにかかるが、それよりも早く壁に追突した。
轟音を立てて崩壊する壁。高々と砂煙が舞う。
千冬は頭に血が上って行くのを感じた。
砂塵の中で一夏は咳き込み、四つん這いになっていた。
雪片が無い。いやあった。すぐそばに転がっている。一夏がそれを拾おうと手を伸ばす。掴んだ。
[IS反応。超近接]
ハッとする前に、すっと現れた丹陽が雪片を掴んだ手を左足で踏んだ。そればかりかカタパルトのシャトルを掴む為の爪を立てる。お掛けでびくともしない。
一夏は踏まれた手を軸に回し蹴りをする。が丹陽の右肘で受け止められた。ライディングギアがわりの脚部と武器の反動を受ける腕とでは、人間とは違いパワーに差は無い。たとえISの性能に差があっても態勢を崩すに至らない。
丹陽の左手の銃口が一夏の額にあたる。一夏は諦め瞳を閉じる。今度のこそ負けたと。
丹陽は引き金を引く。
カチ、カチカチ。カチカチカチカチ。
「え?」
「あれ?」
弾が出ない。弾丸はまだあるのに。カチカチと引き金を引く。でも出ない。レシーバーをガチャガチャと弄る。でも出ない。終いにはゴツゴツと叩く。やっとチャンバー内の1発が暴発したが、それっきり。
壊れた。両者ともにそう判断した。壁に叩けつけられた衝撃だろう。
丹陽がマシンガンを格納領域にしまったその時だった。
-左足首破損-
ラファールからのメッセージと金属が歪む音。見ると一夏が空いた手でラファールの左足を握り潰しに掛かっていた。握り潰せはしなかったが、破損した左足は拘束を解いてしまう。
一夏が真剣を鞘から抜く様に雪片を引き抜く。
「今だ!」
一夏は丹陽にタックル。そのまま丹陽を押し倒し、襲いかかる。
解放された雪片を丹陽目掛けて突き立てるが、丹陽は右手の装甲で軌道を逸らす。しかし残りのスラスターのマウントアームを切り裂かれた。しかも状況は一夏が有利のまま。
一夏は今度のこそ、けりをつけようと雪片を振りかぶる。
「ぐふっ」
振り下ろすより早く、一夏の脇腹を鈍い衝撃が襲った。
丹陽が右膝蹴りを一夏に入れたのだ。脚部のスラスターを噴射し威力を増した膝蹴り。一瞬だが一夏と丹陽に間が空く。すかさず丹陽が両足の裏を一夏に押し当てた。同時にシールドラックの先端を頭の方角に向ける。そしてアンカーを射出。アンカーにはワイヤーが付いていた。アンカーは地面に突き刺さり固定。
「なんだよそのシールド!ギミック多過ぎだろ」
「まだまだ」
丹陽は足のスラスターを全開にし、ワイヤーを巻く。一夏は押し上げられ、拘束を解いた丹陽はアンカーに引っ張られ一夏から遠ざかった。
一夏も追いかけようとするが、思うように詰められない。スラスターが片方しかないのだ。だが丹陽は背部スラスターが無い。丹陽がアクションを起こす前に追いつく。
丹陽が倒れたまま右腕でシールドラックの武器を掴むと同時に、一夏は振りかぶっていた。
「遅い!」
雪片が振り下ろされる。
「待ってたからな」
雪片の一撃が外れた。
発砲音がアリーナに響き渡った。同時に雪片が一夏の掌からすっぽ抜け、落ちていく。一夏は発射的に掴み取ろうと急旋回。
またも発砲音。一夏が取ろうとしていた雪片が弾けて、手の届かないところに。
その発砲音が壁で反響して帰ってくる時に一夏は理解した。
一夏の攻撃が外れた理由は、丹陽が急減速したからだ。シールドラックのマウントアームを外し、足の爪を地面に立てて急減速しのだ。その為に一夏は外したのだ。
そして丹陽はピストルベルトの水平二連が一夏の掌を撃ち抜いた。掌を吹き飛ばせなかったが、握力を無くすには十分な損害を与えた。
そしてもう一発、無防備な雪片に。
丹陽はその場で立ち上がりながら、左手銃を2つに折り装填、構える。狙うは一夏。
結果的に唯一の武器に背を向ける形になった一夏。丸腰だが地面を蹴り、跳躍した。丹陽目指して。
「散々やられたんだ。俺だって」
雪片の脚部のスラスターを全開にする。
[一夏、危険危険危険]
白式の警告。その頃には一夏のスラスターキックが丹陽の銃を吹き飛ばしていた。
[訂正。私たちの負けです]
銃は無効化できた。だが狙っていたかの様な丹陽のタックルに、体勢を崩される。シールドラックが無い分機敏に動く。 地面から浮いた一夏は、ハイパーセンサーで丹陽を目的を知った。丹陽腕には短刀が握られていた。
一夏は正直には言えば悔しいが。同じぐらいに嬉しかった。丹陽は本当に強い。張り合いがある。
今日はお前の勝ちだが、次こそは。
一夏は瞳を閉じた。ゆっくりと。
あとは、丹陽の狙い澄まされたひと突きを待つだけ。
ボーーーン。
WINNER 織斑 一夏
「「「え?」」」
一夏が瞳を閉じた直後。
丹陽の両肩からクッションのようなものが膨らんだ。
タックルした拍子にエアバッグが作動したのだ。
そして丹陽を包み込む。
中折れ式水平二連は多種多様な弾薬が使用可能だ。勿論榴弾も。
それがエアバッグに包まれ圧迫されたことにより、信管が作動。エアバッグによって出来た密閉空間で暴発した。
エアバッグは皮肉にも爆発を外に漏らさず一夏を守り、榴弾は敵では無く丹陽自身をやってしまったのだ。
頭を抱えて地面にうずくまる丹陽。
一夏はなんと言えばいいのかとしばらく考え、声をかけた。
「たっ丹陽…。全く乾杯だよ。いや〜、丹陽あの飛行機ゲームも強かったけど、ISも相当だな」
「…やめてくれ…慰めないでくれ…惨めになる…」
「んでも、多分、だっ代表候補生並だぜ、丹陽は」
「いざって時にこれじゃ意味ない」
「…」
一夏は言葉を失う。
足音がする。
振り向くと観客席からクラスメイト達が来た。
「ふふん。泉、負けちゃったねぇぇ」
鈴だ。上気してる。
「そうだな」
「流石は一夏様、圧勝でしたわね」
セシリアだ。嬉々としている。
「そうだな」
「まぁ負けて当然だよね。フフフ」
シャルルだ。機嫌が良いみたいだ。
「いい加減にしろよなぁ!」
やや離れたところで箒は不愉快そうに一夏を見つめていた。
一夏。お前はどんどん強くなるな。なんだかお前が遠くにいる気がする。
当の一夏は、
[思考解析。ラファールのあの弾幕を掻い潜るほどに一夏様は成長してますが。白式の設計にも問題はあるのでしょうが、一夏様の手は読まれています。零落白夜も一夏様なの目の動きで被斬箇所を予測して防いでいたようですし、背中に乗られた時も、グレネードランチャーを捨てた時点で相手はそれを狙っていました]
「だよな。格納領域にしまったんじゃ無くて地面に捨てた時点で。最後の短刀も誘い込まれて行っちゃったし」
[最後の短刀は、引いてもショットガンに撃墜されていました。あの状況に入った時点で、本来なら負けです]
「そっか…」
と今回の反省をしていた。
「ご苦労だった、一夏、丹陽」
と千冬が。
「一夏、今回はたまたま勝てただけだぞ。勝つなら何度やっても十割勝てるようにしろ」
とドスの効いた声で。
「っち。相変わらず厳しいな」
千冬は丹陽に視線を向ける。
「丹陽…。よく頑張った」
「貶せよ!その方が楽だから!」
なにはともあれ演習は終了した。
「一夏と丹陽以外、整列しろ」
「「はい」」
千冬の掛け声で、クラス全員が直ぐに整列した。
「ひとまずこれで、実技授業を終える。着替えて教室に戻れ。解散!。あっ、丹陽お前はピットで休んでいろ」
「了解」
女子生徒は更衣室を目指し、丹陽はピットを目指して浮遊した。
当然の如く、一夏も丹陽の後を追うとしたが千冬に掴まれた。
「ん?どうしたんですか先生?」
千冬はいたっていつも通りの様子だが、一夏を掴む手に力が入っている。
「お前には休めとは言っていないぞ」
「え?」
千冬の無言のプレッシャーに気圧され、振り返れたも後退する一夏。
「なにかするべきことがあるんじゃないか、一夏?」
「わっ分かりません」
千冬は俊敏な動作で一夏の頭を鷲掴みした。ISを装着していた一夏が反応すらできない程に。千冬は一夏の首を回し無理やり振り向かせる。ISを装着している体格差もあり前のめりの一夏は、それを見て一瞬で理解する。
「あっあの壁は!事故です。確かに落ち度はありますが…でも事故です」
一夏の視線の先には丹陽とともに激突し崩壊したアリーナの壁が。見苦しい一夏の必死の言い訳は、千冬の握力を増させるばかり。
「なっなんでもしますから、許してください…」
「そうか、なんでもしてくれるのか」
予想外の好感触。一夏はホッと一息つく。
だがすぐに千冬の言葉に引っかかる。それだけじゃ無い。千冬が、一夏を鷲掴みにしたまま野球の投球フォームを取っている。無論、このまま野球選手の真似事をすれば一夏がボールの真似事をすることになる。
「千冬姉?」
「千冬?」
「織斑先生!なっ何を」
何をするかは明らかだ。なので一夏のこの言葉は許しを請っているのだ。
だがそんな悲願も悲しく、投げ飛ばされた。
「壁を直してこい!」
生身の千冬は意図も容易くISを装着した一夏を数百mは離れた壁に投げ飛ばした。しかもさらに壁を崩落させる程の渾身の一投。
「それに!うだうだ言い訳をするな!男ならもっと腰を据えろ」
そういい千冬は立ち去った。
「どうしようか白式…」
[ひとまず瓦礫を撤去しましょう]
「そうだな。でも…はぁ…」
途方に暮れながらも、作業を開始した。
少ししてからだ。トレーラーが1台、ワンボーを伴って入ってきた。
一夏の前で止まると中から用務員が降りてくる。
「やあ、織斑君。また派手に壊したねぇ」
「用務員の皆さん!まさか手伝いに来てくれたのですか!」
「ああ、君の姉さんに頼まれてね」
一夏は千冬の名前に目を丸くする。
「え?千冬姉が」
「そう。頭を下げてお願いしますと」
一夏はこそばゆい様に頬を緩める。
「千冬姉も可愛いところあるな」
[今の音声録音しました]
「んっちょっ!待って!」
[もしも一夏様が雪片を不正な使用をした場合に、私に異常が発生して、万が一にも本人の耳に入る。かもしれません]
脅している。白式が脅している。
「なんでそんなに怒るんだよ。壁にぶつけた時はそんなんでも無いのに」
[一夏様の代わりに傷付くならば本能です。ですが雪片は、別です]
慌ただしい一夏に用務員が続きを言った。
「こうとも言っていた。もしも不貞腐れているようならば無視してくやと」
それを聞いて一夏は苦笑いした。反面安心した。
「やっぱ、千冬姉は千冬姉だ」
昼頃、学園長室の隣。用務員用の休憩室で、轡木と楯無がいた。2人ともちゃぶ台に座り、お茶を啜る。
「丹陽や織斑先生を政府が追っている理由を掴みかけました」
先日、楯無が持倉技研に向かった理由はこれだ。日本政府は妙に丹陽や千冬に干渉しようしていた。その為に楯無に調査を頼んでいた。
「先ず政府は、2月30日に丹陽と織斑先生があの場所にいたことを把握していたようです。ただ把握していたといっても、正確には分からず漠然として情報しか持って無かったようで。おそらく、瀕死の丹陽が運搬される過程でついた足跡を追ったかと」
「それ以外は?」
「それの情報に関連して、とあるレポートが出回っていると事で。それも紙媒体の、4、5ページのホチキスで止められた紙束が。それが出回っている先は、主にIS関連、自衛隊関連、そして天徒関連の一握りです。しかも第一線を退いたf15戦闘機の火器管制に改良が加えられたようです」
「物騒な話だな」
「内容は掴めませんでしたが、タイトルだけは…」
何故かそこで楯無は切った。
「タイトルは?」
楯無は体をもじもじとさせ、気恥ずかしいそうにする。
「その酷い冗談で、ふざけていると思われますよ」
「楯無君が真面目に情報をかき集めたんだ。ふざけているなど決して口にするわけが無いだろ」
轡木は穏和に諭すように言った。
「そうですね。では…」
楯無はお茶で喉を潤し、深呼吸をした。
「レポートのタイトル。それは…おむすびレポート」
「ふざけているのか?」
「大真面目です!」
エアバッグの元ネタは、007やデッドコースターやタクシー2などなど。結構使い古された装置なんですよね。