インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜 作:地雷上等兵
学園の地下施設。学園の地下にIS関連の実験を行うための広い場所があった。そこは高さ50mはある卵型の空間でその中心にはボロボロの黒い無人機タイプのISが横たえてあった。それを一望出来る位置にコントロールルームがあり、そこに衆生と轡木、丹陽がいた。いる理由は丹陽のISの黒騎士、視聴覚データを取り出すため。そしてたった今2人はそれを見終えた。
「2度戦ったのは分かったが。2度目はどこで戦ったんだ?」
丹陽はISを入手後、エカーボンで核を有していた戦闘部隊と交戦。戦闘部隊を壊滅に追い込んだが、核が撃ち込まれてしまった。被爆後、残りの戦闘部隊と交戦。しかし、丹陽自身がすでに負っていた外傷により途中で気絶したらしい。身体の多くを喪い、出血が酷かったのだろ。
「2度は東アフリカの沿岸部にある謎の別荘。目覚めたらそこだった。日付は2月の30。新しい顔を眺めてたら、突然現れて、そのまま交戦」
「それで映像が途切れる程にボコボコに?」
「まあね」
轡木と丹陽の2人はソファに座りお茶を啜っている。衆生は壁に寄りかかっていた。
「映像を見る限りだと、奴らは独自のISを運用しているな。それにタコのISに描写された朽ちたハゲタカのエンブレム。エカーボンを襲ったほとんどのISは現行の第2世代機に肉薄する性能。だがそれ程度。2機を除いては」
朽ちたハゲタカのエンブレム。生きたハゲタカは骸を喰らう。逆に朽ちたハゲタカは生者を喰らう、といでも言いたいのだろうか。
「とんでも無い奴らでしたね、特に後半のやつは」
「エカーボンにいた方は名前は分からないが、別荘で俺をやった方は搭乗者と機体の名前は分かっている」
「自己紹介してくれていたな」
衆生が操作盤を操作して、別荘に現れたISを中央スクリーンにアップで映した。
首下を黒いシースルーのケープに覆われ、輪郭ははっきりとしない。頭部は、蒼白ののっぺらぼう。目鼻耳口といった物は一切ない。胴体は、朧気だが人間と同じ様に手足があるのがわかる。だが、胴体に対して異常に長い。その癖、異様に細い。
「操縦者はシュランク。エカーボンと別荘地にいたやつの機体名はアガルマト」
「勝てそうか?」
「無理だ」
丹陽は即答した。
「あの機体の単一機能は、俺は対処出来なかったし。シュランク本人も…」
「本人も?」
丹陽は親指をつきたて首を切る動作をする。
「首チョンパしても生きてやがった」
「何故に?正体は?」
「知るか」
丹陽は肩をすくめる、やけくそ気味に。
「弱点はありそうか?」
「俺が聞きたい」
衆生が手を挙げた。
「推測だが何点か。まずあの単一機能は密閉空間にはできて無いようですね。でなければ心臓を抉り出すときにわざわざ胸を切り裂く必要はありませんから。だからここは安全。次にあの単一機能は、使用を極力避けてますね。最後の最後までとっていたわけですから。首を落とす程度では死なないとしても、不死ではないかと。完全に不死身なら攻撃を回避する必要は皆無。何かしらのカラクリはあるでしょ」
轡木は思い詰めた表情を見せた。
「エカーボンにいた方、タコは対処できるか?」
「あれは黒騎士のスペックのお陰で勝ったんだ。しかも手負いだ。量産機でやったら俺が首切られる」
これでだいたい丹陽が持って情報は出た。ファントムタスクの戦闘部隊の情報。そして丹陽に黒騎士を渡した、IS関連に重要人物と目される、カイという男。ただ丹陽の傷、何故男性なのにISを起動出来るのか、カイの詳しい話は丹陽自身も不明だった。
「アガルマトは黒騎士と同じ、有機部品を使っていた。それにあれだけ独自技術を使っているんだ。間違いなくISの製造に関わっている。それにあれは未登録コアだ。カイの言うとおり世界にISコアが700しか無いのなら、IS方面から追えば奴らの尻尾を掴めるかもしれない」
「束博士を追っても、各国の機関より遅いだろうな。ならば君が言っているカイを追うしか無いか…。エカーボンは消滅してしまったわけだからな。君が提供してくれたロケット以外に何か無いかね?」
丹陽は少し考えているのか黙っていた。
「さあな。長く語り合っている時間もなかった」
「現状、ロケットだけが頼りか」
轡木はロケットペンダントの蓋を開け中の写真を見た。ウエディングドレスに身を包んだ、妙齢の女性が写っていた。顔は強張っている。緊張しているのだろ。しかし蓋の裏に貼っていた写真の彼女は笑っていた。前の写真よりもアップなため、撮影者がふざけて寄っていって、それに思わず吹き出したのだろ。写真は相当古い。カイも還暦はとっくに越していると丹陽は話していたため、撮影者はカイの可能性がある。つまりは彼女はカイの妻である可能性もある。そしてロケットには特徴的な彫り込みがある。
「しかし、酷い男だな、カイというのは。重体の君を戦わせるなど」
「そうじゃない。カイはこれを持って逃げろって言ったんだ。俺が無視して戦い始めたんだ」
電話のベルが鳴った。部屋に設置された内線の電話。衆生は受話器を取り出る。
少し話をした後に衆生は受話器を置いた。
「会長から連絡がありました。だいたい丹陽の話通りだそうです」
「これで裏は取れた。泉君は信用できるな」
「まだ疑われてたか」
「当然」
轡木は立ち上がり歩いていく。千冬の元に行くのだろう。と思い丹陽も立ち上がりついて行く。自動ドアが開き、3人は廊下をツカツカと歩く。
「どうするの、千冬を」
「直接話をして。君と同様、監視付きで解放する」
「監視って、衆生か?」
2人の後ろをピタリと並んで歩く衆生を指差す。
「彼は織斑先生の、君は楯無君が監視する」
「会長様がねぇ」
「それと明日から君は一人部屋だ」
「気を使ってしょうがなかったから、ちょうどいいや」
「それじゃ君が散々改造した2階のあの部屋を直してからそこに移ってくれ」
「え?」
思い当たる節があり過ぎる。直すのに金額に変換したらいくらかかるか。
「すぐ直せないなら、こちらが修理して人件費込みでこちらが貸そう。利子は無い」
「嫌でも俺は…」
「好き勝手に暴れた狼藉物をお咎め無しじゃあ、他のものにも示しがつかない。まあ廊下に立たされたと思って」
と建前を。本音は修理費をケチっての言葉だ。
「千冬にはお咎め無しかよ」
「あるさ、勿論」
丹陽の肩をポンと衆生が叩く。暗くなる気持ちを変えるため話題を変えた。
「じゃあ簪は1人?」
「楯無君が君と入れ替わりで住む事になる」
「え?」
俺の監視ということだろうか?それだけならばと思ったが。だが丹陽は嫌な予感がした。
「彼女は意外と根深い」
「やめてくれよ」
また3階から叩き落とされたらたまらない。
曲がり角から用務員が1人出たきた。彼は轡木を探していた。
「それでは、私はこれから襲撃してきたISの件について政府関係者に説明しに行くが君は織斑先生の方へ行くのだろう?」
「なんだ今すぐ行くんじゃ無いのか」
さっき程の話ぶりからそう思っていたが。
「その間に織斑先生に何か用は無いかね?」
情報を引き出せ。そう言いたいのだろ。当然引き受ける。
ニヤリと笑い丹陽は千冬の元に向かう。道先案内を衆生が引き受けた。轡木は先ほどの用務員と一緒に何処かに向かう。
「衆生君、ちょっといいかね?」
まさに別れようとしたその時に、轡木が衆生を呼び止めた。轡木は衆生の耳元に顔を近づけ、他人には聞こえない小声で囁く。
「ここはアウトローの集まりさ。だから君が害をなさない限り好きにしても構わない。だが一応言っておく。彼の右足に何もしなかったのか?私は気になっているのだよ」
轡木は行った。
しばらく歩き、轡木が見えなくなってから丹陽は突然言った。
「ありがとうな」
「轡木さんの補佐という、職務を全うしただけさ」
轡木が先のIS襲撃事件の対応に追われている頃。
丹陽は地下の尋問室で四肢を拘束されていた。目隠しはしていたが、マウスピースはしていない。しかし右足には杭が何本も刺さっている。
「起きているんだろ」
衆生もいた。丹陽に反応は無い。衆生は丹陽の脇腹に手を
添える。くすぐった。
「はははははっんてめぇぇははひぃ、はぅ!」
丹陽の開けた口に何かを突っ込まれる。とっさに噛み切ろうとするが弾力が強く噛みきれない。そのまま喉まで押し込まれる。むせて吐き出しそうになったが、ベルトで固定される。
「なにしやがる!え?喋れる」
「喋らせるが、一方的に聞いてくれ。時間が無い」
丹陽は右足のISを展開しようとしたが、まだ反応しない。そして足に打ち込まれた杭が足の弦や筋力を切り、見事に再生を阻害する位置に刺してある為に、馬鹿力はおろか動かすことさえままならない。
「君がエカーボン出身なのは知ってる。理由は凍結されたエカーボン軍人の口座から引き下ろしができなかったのを突き止めた。ファントムタスクがエカーボンに関わっているかどうかはこれから聞く。もし関わっているなら、目的は推察できる。更織や一夏を巻き込みたくは無かったんだろう。がもうすでに遅い。彼女の思惑通りになってる」
「なんだよいったい?次々に喋り…はははは!」
衆生はくすぐった。
「君の取れる手段はひとつだけ、学園側につくだけ。こちらで轡木、1人にする。その時に真実を話せ。できるだけ同情を誘えるように。あの人は歳でしかも多情的だ。良心に訴えかければ、案外なんとかなるかもしれない」
「だからなにを言ってーはははは!」
「しかも君はエカーボンの生き残りだ。絶対に口説ける」
「どの口が言う!はははは!っふぅ…もう無茶苦茶だ」
くすぐりから解放された丹陽は激しい呼吸を繰り返していた。
「どうやったら信用してくれる?」
「頭のたんこぶが見えるか?見えないか?」
丹陽は後頭部のたんこぶを見せようと身を乗り出すが、身体も括り付けてあって動けなかった。衆生が丹陽を壁に叩きつけて出来たものだ。
衆生は懐から包帯を出す。そして丹陽の頭にたんこぶが痛まないよう巻く。
「包帯を巻こう」
「意味ねぇーよ!」
「今の君は助けがいる筈だ」
「いらねーし…」
くすぐった。
「ははははっ!はっはっはっ…」
「たかがこの学園に捕まっているようじゃ、奴らと渡り合うのは不可能だ」
丹陽は何も答えない。
「でもそれでも1人と、言うならば」
衆生は丹陽の足の杭を抜きはじめる。
「逃げても構わない」
「お前…」
「君次第だ」
衆生は自動ドアが横にスライドしてから外に出て行った。
丹陽はこの後轡木が来るまで大人しくしていた。
千冬は、丹陽が拘束されていた場所とは別の尋問室にいた。
自動ドアが開き中に丹陽が入る。尋問室には机が1つ真ん中に有り、それを挟む位置に椅子が向かい合って2つあった。
そこでは、千冬がカツ丼を食べていた。それはもう美味しそうに上品そうに。もうすでに3分の1しか残っていない。目が合う。
千冬はそっとどんぶりを置き、箸をその上に乗せた。口元をハンカチで拭く。そしてどんぶりを脇にどけ、一言。
「不味い」
その時、監視室にいた衆生が録音された音声を流す。
『織斑先生。もう昼ですし、カツ丼なんて入りませんか?朝食、食べて無いんでしょ?』
楯無の声だ。
『余計な気遣いだ。空腹ぐらい我慢出来る』
千冬の声。
そして早送り。
『わかりました。織斑先生。これで失礼します』
楯無が取り調べを終え外に出た。
直後、腹が鳴る音。何かを食べる音。
「足りないならおかわり持って来ようか?」
「構うな」
「カツ丼が駄目ならカツカレーで」
「構うな」
「食べ終わるまで外にいるよ」
「早く尋問をはじめろ!」
「了解しました!」
向かいの椅子に座る。千冬とまた目が合う。目を背けずこちらを見続ける。
「ええっと。さっきも聞かれたと思うけど。なんでこんな事したの?」
「私自身が奴らに狙われているからだ」
「それじゃあ、おかしな話だ。それなら俺を学園に入れなくても、学園側は千冬を保護したと思うが?」
「狙われているとの証拠が無かった」
嘘だ。だが轡木はこれに対してある答えを出していた。
「そうか?俺はこう思っていたが。奴らは別の人物を狙っていて。その理由を隠す為にこんなことをしたと」
千冬は何も答えない。
「まあいいや。俺が聞きたかったのはこのことじゃ無い」
丹陽は自身の懐を漁る。
「俺は別にお前が奴らの仲間だとは思ってない。学園側は知らないが。あの別荘での一件もお前が助けに来なければ危なかった」
「その命の恩人に何が聞きたい?」
「どうして、白式に乗ってあの別荘に来た」
「友人の依頼で、白式の稼働試験を国外で行ってたんだ。そしてたまたま…」
「聞いた話によると、突然白式を無断で持ち出したと」
「その情報に偽りは無いのか」
「お前は、一夏を握られてるんだぞ」
千冬はそれでも沈黙続けた。お互い無言のまま、数倍の濃度で時間が流れた。
「根掘り葉掘り聞き出そうとするな。お前は自身のことをこれっぽっちも教えてはくれないのに。だから考えたんだ」
「何をだ」
千冬は何も言わない。にもかかわらず、威圧が増していく。
「すまない千冬」
丹陽は携帯端末を取り出す。そして時間を確認した。
「もう時間だ。手間取らせたな」
出て行こうとする丹陽。それを千冬は呼び止めた。
「丹陽。お互い腹の探り合いはよそう。探らなくとも真っ黒黒なのは分かっているだろ」
丹陽は足を止めない。
「真意は分からずとも。目的はお互い同じの筈だ。協力し合える筈だ」
やっぱり俺はこいつが嫌いだ。
夕暮れ前。たった今、各国政府や委員会に今回の事件の説明を終えた轡木は用務員が寝泊まりしている寮にいた。各国政府には丹陽のことは伏せた。何を理由に丹陽がモルモットにされるか分かったものでは無い。ただ、日本政府だけは妙に丹陽と千冬のことを詮索して来ていた。後で探りを入れることにする。
入学時も、この男性操縦士関係で一騒動あったばかり。今は男性操縦士はエスパーよりも貴重な人的資源。当然といえば当然だが、男性がISを操縦出来たところで、ISの絶対数は限られているのに。
轡木は用務員寮の物置からバケツと枝切り鋏を持ち出す。本来の用務員としての職務を果たす為に。
ちょうど枝切り鋏を肩に担いだ時に誰が現れた。
布仏本音の姉、布仏虚だ。
物心の柔らかい妹とは違い、お堅い雰囲気の彼女。
「轡木さん。会長の使いで参りました」
そう言って一礼。携帯端末を取り出し、画面を覗く。虚はこれから話す内容を確認していた。
「まずは、無人ISの件についてです。当然といえば当然ですが。目的は不明。装備はどことも規格は合わず、ネジの1本までオリジナル。よって製造元は不明。ISコアは未登録でした。ただ…」
「ただ?」
「機体の一部が凍りついていました」
「凍りつく?」
「詳しくは追って報告します。それに爆発に巻き込まれた白式ですが。無傷な上に、シールドエネルギーが回復しておりました」
虚はもう1度端末の画面を覗いた。
「それと、あのロケットについてですが」
丹陽が提供したロケットを、楯無にも直に見てもらおうと用務員の手を通じて渡していた。
「会長は見覚えがあるらしく。会長の話によれば、とある教会が式を挙げた婚姻者に、記念に贈呈するもののようです」
思わぬ情報。
「なに!その教会は?」
「今現在。会長本人が向かっております」
だから、ここにいないのか。おそらくまだ楯無は丹陽を信用していない。だからこそ話の信憑性を確かめる。自らの足で。
「わかった。調べがついたら私のところに来るだろ。報告ありがとう、布仏君」
「では私はこれで、失礼します」
虚は一礼して、一歩下がり背を向け行こうとする。が、何かを思い出したように轡木に振り返る。
「お嬢様は、不思議がっていました。轡木さんは彼を信用している理由を」
お嬢様とは楯無のことだろう。
轡木が答えようか迷ったが、虚はそれだけ言って背を向け歩いていく。
この道には轡木1人歩いていた。日が暮れ始めた。
何故だろう?と自問してみれば、すぐに答えが出てくる。エカーボンと共に私は彼を失った。そして、エカーボンからは彼が来た。彼がエカーボンに居なければならない理由を私が作った。罪滅ぼしだ。組織の頭が私情を持ち込んでいる。分かってはいるが。どうしようも無かった。もう私の人生は長くは無い。後悔を墓場には持ち込みたく無い。だからどんな形でも…。
最近、胃がもたれる。手にした枝切り鋏は重く感じる。腰も重い。若い時のようにはいかない。
「おおこれは!」
「好きなんだろ。これからが大変だからね」
衆生から頂いた、ミセスドラヤキの紙箱に丹陽は歓喜の声を上げた。今すぐ頬張りたかったがやめた。
「食べないのかい?」
衆生はいつの間にか黒縁眼鏡をかけ、白衣姿。
「俺が貰ったんだろ?一夏のお見舞いに持っていく」
ついさっき黒いISの襲撃事件を衆生から聞かされた。
一夏の元に向かおうとしていたが、どうやら衆生もついて来るらしい。
「朱道、ところでさあ?」
「なんだい」
「髪切りたいんだけど。床屋知らない」
丹陽は肩まである長い髪を左右に振った。なんやかんやでしばらくは手をつけていない。
「そうか」
そう言って、ポケットからメモ帳を取り出し中身を閲覧する。
その様子を丹陽はまじましと見ていた。
「俺が何者だったか気になるか?」
と衆生が。
「いや元諜報員かと思ったけど」
「その通りだ」
「え?じゃあなんでメモ帳なんか?」
諜報員が収集した情報を筆記などしていれば、万が一にも奪われば大変だろうに。そう丹陽は思っていたが。
「メモ帳には重要なことは書かない又はフェイクを載せる」
「じゃあなんでメモ帳?」
「昔からの癖」
衆生は遠くを見ている。
「この癖のせいで諜報員と特定される危険はある。でも、諜報員を他人になりすます仕事。だから書き続けている。矛盾しているように聞こえるかもしれないけど、他人になりすますということは、いつしか自分を忘れるかもしれないんだ。そうならないように、書いて思い出すんだ」
全く丹陽にはわからない世界だ。少なくとも丹陽は自分を偽る気は無い。あれそういえば、泉丹陽って名前…。
「すまない。用事がある。先に行ってくれ」
「了解」
丹陽は衆生の背中を見送る。
たぶん衆生朱道という名前も嘘なんだろう。過去も名前も知らない男。なのに丹陽は衆生を信用していた。だが昔エカーボンでの分隊のメンバーもそんな感じだった。当時は、過去の事は誰1人として知らなかったし、名前もコールサインで呼び合う仲だった。でも、信頼していた。本当に。嘘偽り無く。
人と人との信頼関係などそんなものなんだろ。
就寝時。それそろ寝ないと、翌朝に響くといった頃。虚、楯無の2人は地下特別地区、IS実験場のコントロール ルームに居た。虚がコンソールを操作し、楯無が虚の座るチェアーの背もたれに寄りかかり、真っ直ぐにモニター見つめていた。モニターには黒騎士を展開し実験場にいる丹陽が。
「解析不能ですね」
と虚が。
「なにも分からないと。じゃあ逆に分かったことは?」
「はい。まず黒騎士は既存のISとは違うOSとプログラム言語で駆動しているようで。それに、ダメージを負い過ぎて現在動作不良を起こしてるようで。復帰も出来ません。それらの要素で解析不能です。あと黒騎士を構成している物体は、本体から離れると気化してしまいます。黒騎士から生成された気体も、分析しましたが、空気となんなら変わりなく、一応保管はして置きまが、期待はなさらずき。ならばと、本体を検査してみましたが、これまた解析不能」
「解析不能というより、隠しているように思えるけどね」
丹陽に装着されたIS。黒騎士。その甲殻は、他の硬質な物とは違い、有機的で生物的。にもかかわらず、生理的な嫌悪を感じさせる。そして、何処までも黒い。
話が複雑過ぎて、自分でも忘れている伏線があるかも。