インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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大分更新が遅れましたが、1度始めた物語ですし、エタらず
に頑張りたいと思います。
ラウラ戦途中まで更新します


第19話

学園最強の楯無を下した丹陽を待っていたのは衆生だった。作業着姿で手には拳銃が持たれていて、どんどん無遠慮に丹陽に歩み寄って行く。

「やめとけ衆生!こっちはIS持ちだ」

持ってるだけで役に立たない首のチョークに手を添える。自然と動悸が速くなる。

「君のISは全部使用不可だ」

衆生は歩みを止めない。ハッタリが通じなかった。衆生はその手の拳銃を丹陽に向けた。

「はいはいお前の勝ちだよ」

丹陽は両手をあげて自分も歩み寄る。握手が出来る距離までになった。

「話がある丹陽。お前は…っく!」

衆生が丹陽の右足に発砲。丹陽が拳銃めがけて蹴ってきたからだ。

弾丸は右足の脛に命中し赤い鮮血を飛び散らせる。しかし丹陽は眉一つ動かさず蹴りを強行、拳銃を弾く。

衆生はバッグステップで距離をとる。それを丹陽は右膝蹴りで追撃。衆生、受け止める。が、余りの脚力に受け止めきれず後ろに倒れそうになり、後転して体勢を立て直した。

「オープンボルトの銃を蹴る奴がいるか!」

「まだそのネタでいじる奴がいるか!」

なんとか衆生は間合いが取れた。しかし丹陽の右足の馬鹿力がある限り安心出来ない。

衆生は丹陽の右足を見た。潰れた弾丸がズボンの裾から落ちて来た。出血は止まっている。飛び出た血は赤色を失い、粘液状の距離感が狂うほどに黒い液体になった。そして丹陽の下に集まり、右足をアメーバ状に絡みつきながら這い上がる。ついには傷口に到達、丹陽のズボンの穴から侵入した。

今までの戦闘、丹陽必ず右足で踏ん張っていた。恐らくは驚異的な身体能力はISの恩恵。そしてその恩恵は右足だけだ。つけいる隙はそこだけ。だが他にISを所持している場合は衆生には打つ手は無い。

丹陽は一気に間合いを詰めた。右足を軸足に上段蹴り、衆生はそれを回避。そのまま横腹狙いの中段蹴り、それは受け止める。しかしあまりの威力に受け止めきれなかった。

態勢を衆生は崩した。その隙を突くべく、右ボディーブローを放つ。右足で踏み込み、体重も乗せた渾身の一撃。そらは完全に衆生を捉えていたかに見えた。しかし衆生はそれを回避して見せた。そればかりか。回避した時に体をスピンさせ丹陽の視界から一瞬だが消える。そしてモーメントを乗せた裏拳を、衆生を見失った丹陽の無防備な右耳に叩き込んだ。

右目は衝撃で閉じ、さらには三半規管と脳を同時に揺さぶられ、丹陽は平衡感覚を失いふらついてしまう。

平衡感覚を失いながらも左目で衆生を追うが、いない。右目を開く。いた。右の視界の端に、今正に回し蹴りをするところだった。

「え?」

衆生は裏拳を放った回転の勢いを生かしさらに回転。今だふらつく丹陽の背中に、加速をつけた回し蹴りを打ち込む。

「っがぁ」

丹陽は背中を限界以上に反らされた。それでも衝撃は緩和出来ず、数mその態勢のまま吹き飛ばされ、前のめりに地面に落ちた。それでも勢いは無くならず、数十cm地面をず。

丹陽は噎せながも、手をつき膝をつき四つん這いになった。背中を容赦無く強撃されたせいか、呼吸が乱れている。丹陽は必死に呼吸を整える。その時だ、酷い耳鳴りの中。鼓膜が衆生の動きを捉えた。走ってくる。向くと衆生がたいした距離でも無いのに走ってきていた。そして減速せず、走った勢いを殺さず、足を振りかぶる。

咄嗟に丹陽は頭部を守った。が衆生の狙いは腹だった。

「んがぁ」

衆生は丹陽を蹴り上げた。

丹陽はこれまた強烈な一撃を受け、スローペースで回転しながら浮き上がり、頂点を迎え落下。

今度は仰向けに倒れた丹陽。お腹と背中が空腹でもないのにくっつきそうな感覚に悶える。

鼓膜がまた衆生の動きを捉えた。最悪の状況だ。衆生はこのままドリブルする気だ。

丹陽はサッカーボールにされない為に、形振り構わず右足で地面を蹴り飛んだ。蹴った衝撃でコンクリート舗装されていた地面は砕けクレーターを作り、右足は自身のパワーに耐えらせず足首から先が靴ごともげた。そして飛んだ丹陽自身は勢いをつけ過ぎ、寮の壁に激突。また噎せる。

「んが」

だが距離は取れた。

丹陽は全身の痛みを無視し、立ち上がった。衆生は追撃には来なかった。何故ならば、丹陽の右手にはナイフが握られている。伊達に厚底を履いていない。

そこらじゅうに飛び散った右足の残骸は、また黒い粘液に変化し、丹陽の右足に集まり、またも右足を形成した。

右足は再生した。しかしこれ以上の再生はよろしくない。黒騎士のジェネレーターをシュランクに破壊されてから、右足の馬鹿力や再生力を発揮すると、身体の方のスタミナを使う。それも異常に。厄介なことに再生は自動的にする為に抑制出来ない。ただでさえ、循環系に打撃を受けているのに、まだ余裕は有るとはいえ余分に体力を使いたくは無い。右足の馬鹿力は脱出時にも必要なのに。

丹陽は、ナイフを握り締め今度はこちらから接近した。

衆生もそれに呼応する様に、接近。

ナイフの間合いに入った。その瞬間、丹陽が刺突する。衆生はそれを体を傾け回避。そのままナイフを掴もうとした。だが、それより速く丹陽がナイフを引いた。そればかりか間髪入れずにまた刺突。突いて引く。突いて引く。一連の動作が異様に速い。小柄に分、手足が短く引くのが速いのだ。

防戦一方に追い込まれた衆生。上半身を反らしたり傾けたりし刺突を避ける。相手に決定打が複数ある以上下手なことは出来ない。

丹陽が右手を横に伸ばした。薙ぎ払い切りをするつもりだろ。チャンスが来た。

確かに斬撃なら回避は難しい。さらに振りかぶり、加速もつけている。だがその分隙も大きい。さらに言えば、重心が持ち手に寄っているナイフの斬撃で急所を狙わず致命傷に至るのは難しい。つまりは防御は容易だ。それにあの右足。刺突の時点で右足であまりに踏ん張ってはいなかった。馬鹿力に頼ると相当スタミナを消費と衆生は見破った。

カウンターを仕掛け為に全神経をナイフに集中した。

その瞬間だった。

衆生は、自身の右頭部を鈍い衝撃に襲われた。それに釣られて、左に体ごと向けてしまう。

完全に丹陽が視界から消えた。咄嗟に衆生は地面を蹴り丹陽から距離を取った。直後に丹陽の斬撃が脇腹の皮一枚を奪い去った。

丹陽は左手に石を持っていた。手に完全に収まる小さな石を。ただ普通に投げてもキャッチボールになるだけ。だからナイフを、それで隙の大きい斬撃を囮にした。完全にらナイフに意識が集中した瞬間を狙い、左腕の肩と肘と手首と指と腰のバネを総動員。最小限の予備動作で衆生に石をぶつけた。

なんとか斬撃は回避した衆生だったが、無理に地面を蹴った為に完全に丹陽に背中を向ける形になる。さらには前屈みになっていて態勢も崩れている。丹陽が刺突の間合いに入る為に一歩踏み込んだのを感じた。

衆生はさらに上半身を沈めた。そして手を付き支えにする。顔を下から覗かせ、丹陽を視野に捉える。今まさに刺突をするところだ。次の瞬間に突き出された短刀めがけて、蹴り上げた。

衆生の脚力が、丹陽の腕力を上回りナイフが飛んで行く。

衆生は蹴りの余力と支え足の脚力で、倒立。そのままハンドスプリングで捻りこみ前転。丹陽に向き合う形で着地する。

丹陽は未だ完全に態勢を戻していない衆生に仕留める為、右足で地面を蹴り急接近。そのまま右足で蹴り上げた。これが勝負の分かれ目となる。

衆生は上半身を逸らし、回避。右足が振り切り帰ってきた頃を狙い、前に飛びてで丹陽右足を自分の左肩にかけた。 衆生は左手でさらに丹陽の左足を掴み体ごと持ち上げる。丹陽はバランスを取るため反射的に両手を開いてしまう。だがやられまいと右足を挟み衆生の肩を砕きにかかる。衆生の骨が音を立てて軋む。痛みは感じているが衆生は眉一つ動かさない。

衆生は右手のひらを開き腕を引き、振りかぶった。

危機を察知した丹陽が両手で後頭部を守った。直後、丹陽の顎を衆生の掌が直撃、頭が地面に勢い良く叩きつけられた。手で後頭部を守らなければ脳震盪を起こしやられていたかもしれない。地面に仰向けに倒れる丹陽に衆生はもう一撃放った。丹陽の胸が掌に圧迫される。丹陽はむせながらも、衆生を右の足の裏で蹴り押した。右足の怪力が衆生が数十mは吹っ飛ぶが、空中で体勢を立て直し着地、しかし勢いは相殺出来ず手を前につき、ずりながら止まる。

「っう…」

丹陽は素早く立ち上がれなかった。自分の体の異変に気付く。貧血を起こしたようにふらつく。衆生の胸の一撃の衝撃で脳が心臓の鼓動が急に強まったと誤認、心臓の鼓動を弱めていた。鼓動が弱く少なくやり、血液の循環に支障をきたしていた。さらには肺にも衝撃が及び呼吸困難に。

なんとか立ち上がる頃には白黒のぼやける視界の中、目の前に衆生がいた。激しいボディブローのラッシュ。丹陽はなんとか耐えながらも後ずさり。ボディばかり守って所為か、頭が隙だらけに。そこをつき、衆生は両掌で丹陽のこめかみを挟むような打撃。もろにその打撃を貰い、丹陽は平衡感覚に支障が出る。倒れこみそうになるが、後ろに壁があり丹陽を支えた。

丹陽は右回し蹴りを放つ。衆生はそれをしゃがみながら回避、そのまま足払い。足を払われた丹陽は後ろの壁に倒れこむ。だが衆生はタダでは倒れさせない。衆生はまだ宙にある丹陽の右足をつかむと、右足の袋脛に自分の膝を当て太腿に掌を置く。そのまま少し飛び、掌全体重を乗っけ丹陽の右足を膝から折った。

丹陽の右足の強度は通常通りなのは拳銃の一発で証明済み。そして痛覚が無いのも。

衆生は壁に寄りかかるようになっている丹陽のみぞおちにサッカーボール蹴る様にキック。丹陽は朝食のバナナらしきドロドロの何かを吐き出す。

「ゴッホ、っう!」

丹陽は頭を鷲掴みにされ持ち上げられる。足が地面から離される。彼の切り札である右足は、すでに治りつつあった。

「あぁぁぁぁぁっ!」

負けを認めたく無いのか、丹陽は絶叫した。

「痛いぞ…歯をくいしばれ」

そのまま壁に後頭部を叩きつけられた。丹陽は意識が遠ざかるのを止められなかった。

衆生は丹陽が気絶したのを確認し、その後丹陽を横にし胸に耳を当てた。心肺機能に異常をきたしていないかを確認する為に。

「こいつ、鼓動デカイな」

 

 

気絶した丹陽を抱え、衆生は地下特別施設に入った。クラス対抗戦開始直前の時間のため人はあまり居なかったがこのまま抱えているのを見られるといろいろと面倒なので、カーテンで丹陽を巻き、道中すれ違った生徒には1本釣ったマグロだと自分から説明した。こう言って置けば、 変人だと思われそれ以上は追求してこない。

地下特別施設にある医療関係の施設に入る。丹陽の体を調べるために。

 

轡木が衆生を見つけるのに時間がかかった。突然の無人ISの襲撃に対応していたからだ。

「衆生君。君は泉君の任から外した筈だがね」

尋問室の隣の視聴室に衆生はいた。机に腰がけ、手にはバインダー。そこに楯無を連れ添った轡木が入る。尋問室がマジックミラー越しに見えた。

尋問室はコンクリート剥き出しの部屋で。照明も小さく薄暗い。広さは10m四方。その中心で丹陽は椅子に座っていた。もとい括り付けられていた。両手を後ろに縛られ、椅子の支柱にも足を縛られ、目隠しさらには口にマウスピースのようなものが入れられている。それは舌を噛み切られないように入れるもので更にはその状態で有りながら喋ることが出来る尋問専用のマウスピース。服装はぶかぶかの作業着に着替えさせてあり、頭に包帯が巻いてあった。他には机と椅子の一式しか無い。

「私が居なければ、丹陽には逃げられていましたよ。間違いなく」

「何故そう言い切れる。まだ用務員も戦闘教員もいた」

「学園最強が水泳していたのにですか?」

楯無に突如毒を吐く。

「ええ。貴方もやってみる?」

「よせ。わしは根拠を聞いているんだ?」

衆生は丹陽の携帯端末を出した。

「この中に爆弾の起爆信号を送るコマンドが有りました。まぁ起爆装置付きはほとんどありませんでしたが」

「爆弾?馬鹿な、持ち込んで来たのか?」

一体何処に仕掛けた。そんな疑問もぶつけようとした。

「いいえ。ここで製造したんです。製造場所は例の盗聴器があった部屋」

「材料は?」

楯無が訊いた。

「あなた方の質問は分かっていますので最後まで聞いてください。材料はこの前丹陽が会長の妹さんのIS製造を手伝った時に、必要だからだとISの火器を借りた時に…」

「無理よそんなの。火器類の貸し出しは厳しく記録していて。しかも記録したと人物は恐らくは山田先生、泉君が丸め込める筈は…」

「最後まで聞いてください。くすねたのはミサイルなどの中に入っている信管だけで、調べれば不発弾が大量に出てくる筈です。なにも数が合えば、分解してまで調べる人はいません。そして爆弾の材料はガードが緩い備蓄されている石油と肥料から製造。起爆装置は適当な機械から頂戴。仕掛けた場所は…」

「IS格納庫。でも、あ!そしてあの地図は…もしかしてフェイク?」

楯無の質問に轡木が答える。

「そうじゃろうな。あの手書きの地図は恐らくはフェイクじゃな。自分の逃走経路を知られるような真似を普通はしない。丹陽君は更には防犯カメラの前でその地図を出したと聞いている。見せつけるように。恐らくはこちらに対してかく乱させるためじゃよ。そう考えれば、爆弾もフェイクで本来飛んで逃げるつもりだったのかのう?」

「無理ですよそんなこと、ISを使えばセンサーで」

「彼の右足ならば、下しか向いていない防犯カメラを飛び越えられる。そうすれば彼は消え、我々は万が一のためIS格納庫に釘付け。あとは金槌でも無ければ泳いで本土に。こちらは誰もいない地図に書かれた地下通路に」

IS学園は防犯システムは対IS用にばかり調整されている。IS数機を維持するのに予算を使うから、またまだ警備は貧弱なところがある。これからのことを考えると頭が痛い。

「飛んで逃げることは確かにあの脚力なら可能かもしれませんが」

自分の苦い経験を思い出した。不意打ちだったとはいえ学園最強の自分が敗れたのだ。その右足のISに。

「補足すると部屋の前にあった消化器にも爆弾が仕掛けてあって部屋の証拠を隠滅しようとしたと見せかけ、地図の情報の信憑に箔をつけることもしようとしたらしいです。ですが、私が全て回収しておきました」

本当に衆生も丹陽もいつの間これ程のことをやっていたのか?轡木すらも疑問もに思った。

「以上の件やこれまでの行動からそれと盗聴記録から一番怪しいのは織斑千冬です」

「「は?」」

余りにも突如だった。2人が腑抜けた声を出した。

「盗聴記録そんなものはもう削除されていたぞ。君の言うとおり隠滅しようとする見せかけ工作の前に消しておいたんだろ、重要な情報だから。復元作業はまだ終わってないはずだか?」

「実は前々からあの部屋には侵入していました」

「「は?」」

「記録のコピーはもう学園のマザーコンピュータに入れておきました。信用出来ないなら復元を待っても構いません。ですからこの情報は信用してください」

どの口が言ってる。お前が本当のスパイでは無いか?轡木はその言葉を胃に押し込めた。

「それによれば丹陽は調査していたのは織斑先生ばかりで他はこの学園から逃げる手段を探していただけでした」

「でもそれってただ泉君がストーカーって可能は」

「次に丹陽の入学についてですが。殆ど織斑先生の一任だったそうですね。こんな怪しい経歴持ちを彼女は入学させました。しかも半ば強引に。更には彼女の経歴も調べてみると、高校生よりも以前の記録が曖昧など、これがなかなか怪しい物です」

ファイリングされた千冬の資料を出す。

「織斑先生のことについては私の方からも調べはしている」

「 だいたい丹陽がどこぞの工作員だとしたら、ボロボロのISだけを持たせ、丸腰で潜り囲ませるのもおかしな話です。何かもたせるとリスクを考えた?簡易検査では彼の身体は正常でした。あの右足にはなんの異常は発見出来ませんでした。ただ右太ももに太い脊椎のような神経の束が有っただけです。今でもどの様な素材で出来ているのかよくはわかりませんでした。そんなことが出来るのにわざわざ現場調達。しかもそれが原因で怪しまれる。ネスト街での一件もまるで別の事を調査する為に行ったみたいで、都内の図書館やネットでも調べ物はしていました。さらに言えば彼の体。なぜ右足だけがISなんでしょうか?」

言われてみれば。丹陽には工作員としては違和感がある点が多い。だいたい貴重な男性操縦士を危険な任務に使う筈が無い。

「精密検査をした時にいろいろわかりました。彼の正体には関係無いので後で轡木さんにまとめて報告します」

明らかに除け者扱いの楯無は不満を言う。

「何故私には報告してくれないの?」

「関係無い話なので。これ以上の話は彼に直接聞いてみると提案したいですよ」

「精密検査の結果が関係無いってあなたが勝ってに決めたことでしょ。教えなさい。関係有るか無いかは私達が判断する」

「ですから轡木さんに」

「いいから」

まさかここまで相性が悪いとは。轡木は自分の胃が締め付けられていくのがわかった。

「後悔しますよ」

衆生はバインダーの1ページをめくった。言う気なのだろう。

「丹陽の右手の中指と胸に有る傷。これは織斑先生から報告されていて。都内の医療機関で治療を受けたらしいのですが、最新の治療でも良く見ればわかるのです。しかし他にも治療を受けた痕跡が有るんですよ。右手の人差し指、右足、左腕、そして顔面の骨格が一部、人工骨に置き換えられていました。まあ整形手術みたいなことです」

「人工骨?それにそんなに手術を?」

ますます丹陽の正体が掴めなくなった。

「これ全ての手術は容姿を変化させる為でもISコアを人体に埋め込む為でもありません」

そうなると残された理由は1つ。

「まだ聞きますか?」

「ええ大丈夫よ」

衆生の話が進むほどに楯無の顔が青ざめていく。

「専門家に見せればもっといろいろとわかると思うのですが、見事なもんです。繋げ直しているのに、神経まで完璧とは。多分後遺症の類もないでしょう。ちなみに怪我の原因は、正確にはわかりません、何箇所かに歯型が残ってました。歯型から捕食者は…」

「やめないか!」

轡木が怒声を上げた。楯無は壁に手をつきかたを落とし俯いている。反対の手で口元の抑え腹の奥からの衝動に必死に抵抗していた。突然、衆生は1枚の写真を出した。おそらくは丹陽のレントゲン写真。幾らかの部分にそれはうっすらと残っていた。歯型が。それはなにが捕食者かをその口で語っていた。

轡木はそっと楯無の肩に手を添え介抱する。そのまま廊下の外に出ようとした。

「楯無君。後は任せて医務室で横になるといい」

「轡木さん大丈夫です…1人でも行けます…」

自動ドアが開くと、用務員が1人いた。見張りの為に丹陽がいる尋問室の前に立っていたのだが、轡木の怒声を聞いて駆けつけた。その為か少し轡木を見て強張っている。

「彼女を医務室まで頼んだ」

「りょっ了解!」

普段はしない敬礼で用務員は答えた。

楯無を預けた後轡木は、何食わぬ顔で居る衆生の近くまで行った。

「能力は申し分無いが、人格に大きな問題有り。君を引き受けた時にそう言われたが、まさにそうだな」

「人格に問題があっても、必要とされるほどに優秀だと?」

「貶してるんだ」

轡木は深いため息をした。これからしばらくは衆生に付き合わなければならないから。

「君は織斑先生を連れてきてくれ。私は彼から話を聞く」

轡木は隣の部屋に入ろうとする。

「丹陽は対人恐怖症かも」

轡木は振り返らず、歩みも止めない。

「丹陽の左肩と顔の骨には人の歯型が残っていました。正確には医師の見解を訊いかなればわかりませんが、左腕を噛みちぎられ、左眼球も持って行かれたと思われます。右足は傷跡が見つからず、外傷の種類を特定できませんでした」

轡木は出て行った。

 

 

「やぁ泉君。起きているだろ?」

轡木は1人、尋問室に入っていった。

丹陽は轡木の質問に対してピクリとも動かない。轡木は丹陽に近くまで行き、丹陽の脇腹に手を添えた。そして動かない丹陽をくすぐる。

「ははははっ!ストップストップ!起きてる起きてるっははははっ!やめろストップっははは!」

寝たふりをしていた丹陽は耐え切れず笑ってしまう。マウスピースの為か声はややくぐもって聞こえる。

轡木はくすぐるのをやめた。丹陽は息切れを起こし肩で息をしている。

「はぁはぁはぁ。全くどいつもこいつも」

轡木は椅子に座った。

「単刀直入に訊くが、君は何者だい?」

「あんたの嫁さん寝取ったのがばれた?」

轡木はまたくすぐる。

「ははははっ!ジョーク!冗談です!」

轡木は手を止めた。

「で?」

「言うわけ無いだろ」

轡木はまたくすぐる。

「ははははっ!言ういういう!やめろ!やめてください!」

轡木は手を止めた。

「IS学園、1年1組、泉丹陽」

「質問を変えよう。君は何が目的だ」

少し何か丹陽は考えていた。

「織斑先生とはどんな関係だ?」

明らかに丹陽の様子が変わった。マウスピースと目隠しで表情は隠れ隠れだが轡木にはわかった。

「なぜ訊く?」

「こちらが質問している」

「なぜ千冬が怪しいとわかった?」

「君だって気付いただろ?」

丹陽はぐったりとして何かをぶつぶつつぶやいている、呟くつもりだったのだろう。マウスピースは漏れなく聞こえるように変換した。

「これが目的だったんだ。このIS学園や日本を奴らとの戦いに巻き込むのが。だから俺が学園に居ること宣伝して、わざと怪しい真似をして学園側と対立させ、全てを話させる。そして巻き込む。失敗だった、千冬が少しでしゃばりなだけかと思っていたが。学園側と千冬側は完全に別だった」

丹陽が動揺している。今更、罠に気付いた。そんな様子だった。その動揺は轡木にも伝染する。

「奴ら?巻き込む?どうゆうことだ!」

「轡木、IS学園はどこかと安保を結んでいる。組織としても指導者としても理想は独立だが、そう簡単にいくまい。立地条件的には日本か。そうだな」

「わかった。一通り君の質問には答えよう」

「助かる」

轡木は一度落ち着こうと咳払いをした。もう少しで彼や織斑先生のことがわかると、はやる気持ちを抑えるために。

「ああその通りだ。本土がIS保有勢力に脅かされた時に、IS学園が日本側に立つ、逆にIS学園がありとあらゆる脅威にさらされた時に日本側が助けるとの各国が黙認している秘密条約がある」

日本が世界各国の圧力に負けた様に見えるアラスカ条約も、実はISをばら撒く代わりに日本側に有利な貿易協定や金融協定を結ぶなど外貨を貪欲に稼ぐ手段にしていた。そしてその外貨を使い、巨大衛星の天徒を浮かべた。それでいて安全保障政策でIS学園を設立。建前は中立機関だが、資金源が日本政府だある限り、中立は保てない。せめてもの手段として監視をするため各国は、専用機を携帯した代表候補生をIS学園に入学もとい潜伏させ、日本を監視。正直なところIS学園は外よりも内の方が敵は多い。

「詰まる所はIS学園が攻撃を受ければ、世界一の反撃を受けると」

「ISの保有数だけならば」

丹陽はぐったりすると言った。

「少し寝る」

「寝る前に説明してくれ」

わかったと言って、欠伸をしてから丹陽は話だした。

「初めは千冬と学園はグルになって、俺から色々と聞き出そうと思っていた」

「秘密の多い身体みたいだね」

丹陽の右足は小刻みに震えていた。

「そうでも、違った。学園側は俺について全く知らずもとい千冬が隠し、千冬は俺について知っていた。俺は織斑千冬なんて遠い世界の人だと思っていたのに。だから俺は千冬やそのバックに何が居るのか調べた。それが間違いだった。千冬の狙いはこの状況をつくる事だった。そうすれば保身の為俺は真実を話すしかなく、学園は俺をもう受け入れた以上共闘するしか無い。奴らの危険性を知っていれば俺を学園には入れなかったし、俺も学園側が奴らの事知っていると思ったから頼って入学した。俺も学園も千冬にいいように使われた」

千冬のことも気になったが、轡木は別のことに引っかかる。

「奴らとは誰だ?ファントムタスクのことか?」

「なんだ名前は知ってるのか」

「ファントムタスクとはなんだ?たかがテロリストの集団では無いのか?」

丹陽が笑いはじめた。力なく乾いた笑い方だった。

「たかがテロリストの集団?笑わせるなよ。千冬からはそう聞いてるのか?奴らは国とも渡り合える程のポテンシャルを持っているんだぞ。俺だって中指の皮剥がされ、心臓抉り出されそうになったし」

「どうゆうことだ?」

まるで話が読めない轡木は只々質問をすることしか出来なかった。

「俺の正体を教えるよ。元エカーボンの職業軍人だ。今は無職だけとね。年齢は2、3歳ズレがあるかもしれないが詐称はしてない」

轡木にも話が分かってきた。

「まさか…エカーボン消滅にファントムタスクが…」

「ああそうだよ。先住民の蜂起行動の、今思えばこれも奴らが仕組んだのかも。蜂起行動のどさくさに紛れ首都の壁の中にIS数機を潜伏させ展開、エグレーゴロイがダウンさせ指揮系統を破壊、核弾頭やISを強奪」

「その核弾頭でエカーボンが…」

危険な問題に関わった。がもうすでに手遅れだった。それにある結論が轡木で出た。もうこの世には生存していない筈の唯一の被爆者かもしれない。

「いやそいつは起爆出来ないよう安全装置があって、爆発コードを数回間違えると作動するんだが。エグレーゴロイとは別の一括管理してるシステムに誤報を撃ち込んで阻止した」

「じゃあなぜエカーボンは核で崩壊したんだ」

「問題はここからだ。核攻撃をされたんだよ。国防能力がダウンした隙に」

「核攻撃?」

「そう。多段弾頭だった」

「核がエカーボンに撃ち込まれたのか?じゃがそんな物衛星写真にはなにも映ってはいなかったはずだが」

証言は当然ない。あまりに知られてないが、エカーボンの生き残りは、隣国に1人残らず殺戮されたから。

「俺も調べたが、民間の衛星にはなにも映ってはなかった。が軍事衛星は見ていないから、何か映っていて先進国は隠しているのかもしれない。民間の企業ならハッキングは難しくても人事からシステムに侵入するのは容易い。後何処かの学者のレポートによればエカーボン国内の推定総核物質量から計算される放射線量が、誤差の範囲を上回る量が検出されたらしい。この学者はエカーボンは国連に報告していない核物質の保有があったと結論付けたが、核ミサイルを受けたならば説明がつく。それに…」

「それに?」

「俺はISのおかげで無事だったが、爆心地にいた」

予想は的中していた。エカーボンのことは知っていた。どの様な有り様であったかも。丹陽は軍人だとも言っていた。詰まりは、エカーボンの闇に加担していたことになる。彼はそれをどう受け止め、感じていたか。何故若くして軍人になれたのか。いや、ならざるを負えなかったか。そしてあの傷。轡木には想像も出来ない様な人生を歩んで来たのだろ。

それでも彼は何かの為、恐らく世界で初めて男性としてISを起動し戦った。そして、敗れた。

今彼の行動原理は、生き残った彼は何を考えているのか。想像は難しく無い。正直加担すべきではない。

「証拠は?」

「右足のISを渡すよ。はずし方知らないけど」

「分かったいいだろ」

轡木は丹陽に寄った。

「窮屈だろ」

轡木は丹陽のマウスピース固定ベルトを緩め口から出させた。そして四肢の拘束具を外す。

「いいのか?」

「いいんだ」

丹陽は自分で目隠しを外し、立ち上がる。そして身体をほぐすために伸びをしていた。

轡木は手を差し出した。握手を求めている。

「君を正式にIS学園で雇いたい」

丹陽が握り返す。作り物では無い笑顔をで。

「そいつは助かる。無職の身には」

ふと丹陽が表情を曇らせる。

「すまない。巻き込んで」

「いいんだ。もう済んだことだ、それよりもこれからだ」

轡木は笑なが答え、質問した。もう答えは出ている様な物だが。

「ファントムタスクに関わる情報は何か隠しているかね?」

「あるよ。それとISについても。まとめて報告するよ」

「それと聞きたいんだが?」

「他に何が」

「君の目的は?」

丹陽は無表情で答えた。

「想像できるだろ?」




いろいろと強引でご都合主義全開ですが、お付き合い下さい。

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