インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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今回でエカーボン関連はひとまず終了。またオリキャラが出ますが、原作キャラが出てきます。あとオリメカも出ます。


第17話

取引が終了してからしばらくして、おやっさん達の元に迎えの部隊が来た。六足歩行火力支援車両 アカビィシュ を1両と歩兵戦闘車2両、そして荷台がスカスカの輸送トラック1両。

アカビィシュの異様な外見をおやっさんは見た。

子供の頃30年後の未来と書かれた雑誌を垢がつくほどに見た。コールドスリープ、空飛ぶ車、お手伝いロボット。それらを見る度に、いずれ来る未来に胸を踊らせわき出る生気に身を任せていた。しかし大きくなるにつれてそんな気持ちは小さくなり、気付けばもう30年後になっていた。寝れば次の朝に起きるし、車は地を走る。でもロボットは出来たようだ。お手伝いをするのではなく、殺戮を専門とするロボットが。

アカビィシュの胴体は人1人入れそうな程の厚さがあり長さは数倍にもなる。上面にはキューポラとハッチが1ずつ設けられていて、胴体は地雷対策か1、2m地面から離れていた。正面の複眼が異様な外見に拍車をかけていた。胴体の真後ろには、車がスペアタイヤを備えるように予備の足が折りたたまれ備えられていた。その胴体から左右3本ずつ足が着いて、足の下腿部は太く高く、横から見れば胴体隠していた。足には大量の四角い箱を貼り付けてあり胴体にまでびっしり。レンガ造りを思い出す。胴体に砲身を載せる形で戦車砲が正面から見てやや端寄りに着いていて、胴体下にはRWSのチェーンガンがある。胴体後方には砲頭が設けられていて、脇には発煙弾発射機、上にはガトリング砲とグレネードマシンガンがある。

アカビィシュはその鋼鉄の身体を揺らすことなく、こちらに向かって歩いていた。

迎えの連絡は来ていたので分隊全員が横に並び、待っていた。その中チビ助がこんな感想を述べていた。

「クモみたいでダサい。二足歩行できないの」

 

 

「全くふざけてますよね。トラックだけ渡して空港まで自分達で向かえなんて。しかも民間便なんて」

シェフはそう悪態を尽きながら、トラックを運転していた。

シェフの言葉通り。向かえの部隊はトラックだけ渡して、任務があると何処かに行き、指揮官とISそしてジョンに連れられて来た、拘束されていた2人は新たに来たヘリに乗り何処かに飛び去った。

「拘束されていたやつ。1人ガキだったな」

「なんか言いました?」

「いいや」

「ここって、国境線付近ですよね。前戦争のテロリストが潜んでるかも知れないのに」

「怖いのか?」

助手席のおやっさんが外を見ながら言った。辺りは明るく、視界は良好。このまま進めば暗くなる前に空港には着き、夜中には家に帰れる。

「そりゃあ怖いですよ。死ぬのはごめんなんで。俺が1番のビビリだって言われても怖いもんは怖いです」

「ビビリだなんて言わないさ。何g怖いとか何m怖いとかないんだ。イエスかノーか、怖いか怖く無いかだ。ここの奴は皆ほぼ同じさ」

「ほぼ?」

おやっさんはバックミラーでチビ助を見た。チビ助は荷台でアルジャンと何かを話していた。

「前にチビ助に聞いたことがある。死ぬのが怖くないのか?って」

「答えは?守りたいものがあるから死ねない?」

「もっと簡単な答えさぁ」

この質問をしたのは、チビ助が分隊に入り初めて仕事を終えた後だった。チビ助の勇敢な行動によって、分隊は助かったが、余りにも危険な行動によって助けられた。一歩間違えればチビ助は死んでいた。

「死んだことが無いから分からない」

 

空港に着き、おやっさん達は夜便に乗ったが。時刻が遅れてしまい、帰宅時間が昼になってしまった。

飛行機に乗り、家がある首都の湾を挟んで北に位置する空港に到着。空港に併設されている列車に乗り、海底トンネルで南下首都に入った。そして首都側の基地にある軍事施設から車を借り、壁沿いにある自分達の駐屯地に向かう。そこの軍用機でおやっさんは助手席の男の形見を遺族に渡し、遺族に感謝された。ことはそれだけですまなかった。車に向かう際にヘリポートを通った際に、ちょうど先の任務の死者がヘリで帰って来た。それを40代ぐらいの裕福そうな夫婦が待っていた。妻の方は両目の回りを真赤にしていて、先程まで泣いていたのが分かる。我が子の安否は知っている様だ。ヘリから棺桶が運び出されると妻はすぐにすがりついた。何かを叫ぶがヘリのローター音に消される。棺桶を運び出した兵士が夫の方に何かを渡した。それはカーニャが使ったISのコアの指輪。つまりは棺桶に入っているのは最初の一撃でやられた航空宇宙軍のISパイロット。妻が視界の端におやっさん達を見つけ顔を上げ、見た。というより睨んだ。同じ任務に参加しかとこを知ってか知らずか何かを言う。唇と肩を震わせ、小さな声で言う。ローター音にまた消されおやっさん達の耳には届かなかった。それをチビ助はじっと見ていた。

しまった、とおやっさんは慌てて手でチビ助の目を塞ぐが遅かった。チビ助は唇の動きを真似声に出して言った。彼女が言った言葉を。

「なんで貴方達みたいな廃棄物が代わりに死ななかったの」

チビ助はそう言って頭上にあるおやっさんの顔に向いた。

「で合ってるかな」

 

 

エカーボンの首都には巨大な壁がある。高さは10mは優に超え、湾から海まで連なる壁が首都を1対2の割合で分けている。門は長さの割りに数箇所しかなく、往き来するには何本もあり壁を跨ぐモノレールや橋を使用するしか無い。

何故壁があるかというと。この国の建国をしたのは第二次世界大戦後にシオ人と呼ばれる入植者達が、元々住んでいた土人を追い出す形で建国した。しかし、土人は物理的には追い出されてはいなかった。無国籍者として、この国に移民扱いでの生活を余儀無くされている。エカーボンは民主主義だが、移民には投票権も参政権もない。そのくせ納税の義務は投票権を持っている人よりも重い。ちなみに人口比1対4で移民の方が圧倒的に多い。当然、移民側に不満が表れるがそれを物理的に阻止するのが壁の役割。しかし、それでは軋轢が増すばかり。それを回避する為エカーボンにはさらにしたの下層の人を作ったりして、そちらや周辺国に不満をそらせたりしている。さらには移民用に作られた学校によって、洗脳し反乱が起こらないようにしていた。

この様にして、この国は入植者達は移民に貢がせ、移民は入植者達に蔑まれていた。現代に蘇った奴隷制度。主人は一生主人。奴隷は一生奴隷のまま人生を終える。

ただし例外はある。様々な分野で一定の能力を顕示できたものは、審査の元身内と共に国籍を与えられ晴れてエカーボン国民になれる。そしてもう1つ方法がある。

 

 

入植者の壁側の周囲は空き地になっていて、その空き地の舗装されていない道をチビ助達一行を乗せた車は走った。首都の町並みを出て空き地に入った時にはすでに自分達の駐屯地は見えていて、すぐに着いた。 駐屯地の警備係に車を託し兵舎に入る。おやっさん達が住んでいる兵舎は三階建ての簡素な横長の建物で。2、3階に兵員の個室、1階部分は食堂やら応接間やらがある。その兵舎に入るおやっさん達の事を何人かが悟られないように見ていた。蔑むような恐れるような目で。そして1人がその心境を声に出した。

「またあいつらだけが帰ってきた」

そう言った彼ら兵士の肌は黒く。おやっさん達のいる兵舎から出てくる兵士の肌は比較的白が多かった。

 

 

移民を除くエカーボンの人口に対して、守る国土は広い。連戦連勝とはいえ回りは敵だらけ。かといって赤字だらけの軍事関係に人員を裂きすぎるのは国力低下に繋がり、元も子もない。よってエカーボンではとある方法を用いた。先ずは外人部隊。大手民間軍事請負会社の倒産や軍縮に伴い、現れた無職軍人を雇い入れ作った。先の戦争では活躍し一定の地位を得た。チビ助を除くおやっさん達分隊がこれに当たる。教育費が要らないといえ数に限りがあり、どうしても規模が小さくなってしまう。まだ外人部隊は存在するがエカーボン政府はもう1つ方法を用いた。国民権を餌に移民にも兵役を課した。もちろん厳しく身元や思想を検査される。そして兵役を終えた時エカーボン国民に身内と共になるのである。移民側から見れば裏切りとも取れるこの制度、志願制にもかかわらず必要最低限以上の人員が必ず揃うという。理由は、身内は何の苦労も無く国民権を得られる為身内の為と言い訳が出来る。そして何よりも、楽に生きたいから。そうチビ助は考察した。自分を振り返って。チビ助はこれに当たる。

 

チビ助は家に連絡を入れ、これから帰るように伝えた。先の任務の報酬として休暇を得たので家で過ごそうと考えた。相手は夕食を作って待ってると返事が返って来たのですぐに帰ろうとした。私物のスクーターを取りに行こうとした時、1階のロビーのテレビが目に入った。シェフがつけ分隊のメンバー全員やその他の人も見ている。

「いやぁ〜やっぱいいですよね」

ソファでシェフがくつろぎ観戦していた。

「なんだ元々興味があったのか?それとも興味が湧いたのか?」

おやっさんもソファに座り雑誌を読んでいる。

「経験者の話が訊きたいならいつでも訊きな」

そのおやっさんの太ももを枕代わりにカーニャが横になっている。

「シェフがそんな理由で見ると思ってるのか、カーニャ」

アルジャンはそう言って、座り何かを口に入れくちゃくちゃと噛み始めた。

「いやぁ〜たまんないですね。あのボディーライン。なんでどこの代表もボンキュッボンやらモデル体型とか、綺麗どころばかりで。いい目の保養になりますねぇ。えへへ」

今やっている番組は、IS競技のモンド・グロッソの特集で。何年か前の戦闘が解説付きで放映されていた。解説の為、何度も繰り返し映像は止められ、いちいち露出度の多いISパイロットがアップで映される。それにシェフは興奮していた。

おっさんは力強く雑誌を閉じた。

「シェフ。男して言うこれだけは言う」

いつにも無く真剣なおっさんの顔。自然とシェフを含め場の空気は固まる。

「痛いほど、お前の気持ちは分かる」

「ド助平」

「イガッ!」

カーニャはおっさんの顎をしたから突き上げた。

「あらら、痛そう」

「あんたもよ!」

カーニャその場にあったリモコンをシェフに投げた。しかしシェフはそれをキャッチ。舌を鳴らし得意げにする。

「チッチッチ。年寄りと一緒にしないでくださッガ!」

続けて投げられた靴に頭を持ってかれた。

アルジャンは鼻で笑い、やれやれと立ち上がりチビ助が見ていることに気がついた。

「どうしたチビ助?すぐに帰ると言っていなかったか」

アルジャンはそう言ったがすぐに理由がわかった。テレビが目に入って思わず足を止めたのだろ。

シェフが鼻を庇い起き上がる。

「チビ助も男だってことですよ、ねッガ!」

靴はもう1足有る。

「察しなさいバカ」

おやっさんは手で払うような動作をして言った。

「早く帰ってやれ」

「ううん」

チビ助は行った。

テレビでは、解説者の男が興奮した様子で喋っていた。

『いやぁ。本当に強い。しかも美しい。まさに人類の宝。これから私は皆は恥ずかしがって胸の中にしまっている想いを言いましょう。こんな女とやりてぇぇぇぇ!ごめんなさいごめんなさいそんな睨まないで。以上織斑千冬特集でした」

画面にはかつての千冬がアップで映っている。

「本当よく似てるよな、千冬と…」

 

スクーターでの帰宅途中、警察に引き止められたが外人部隊の身分証を提示した途端引き下がった。年齢も確認せずに。

自宅のが有る住宅街に入り、アパートに着いた。5階建ての年季の入ったアパート。その最上階の一室にチビ助は2人暮しをしていた。最上階なのはエレベーターがない為安かったから。階段を登る度に歩みは早くなり、最後は駆け上がっていた。

鍵を開け扉を開け、玄関にいる。

「ただいま。ま…」

「きゃあああ」

突然の女性の悲鳴。その声の主がこちらに倒れて来た。チビ助は女性を受け止めるが、受け止めきれず後ろに倒れこむ。そしてそのまま扉に背中をぶつける。

「ッガ!」

玄関にチビ助は倒れこみ、女性はその上に馬乗りになる形になった。

「痛たたた。ってあ!ごめん」

「大丈夫だから、どいてくれ」

女性はチビ助からどき、手を伸ばす。チビ助はそれに捕まり立ち上がった。

「いい匂いがする。野菜と肉のスープ?」

「当たり。ちょっと待っててねすぐ出来るから」

女性はそう言って、廊下を走りダイニングキッチンに向かった。そしてすぐに止まりくるりと振り返る。

「言うの忘れてた。おかえりなさい」

「ただいま、まどか」

まどかと呼ばれた女性は急いでスープが入ったに向かい調味料をいれる。

「あーーー!」

「どうした、まどか」

チビ助が見ると、まどかの手には塩が入った瓶が握られていた。しかし蓋は外れて中身は全て鍋の中に。

「どうしよう?ごめんなさい」

「いいよ、作れ直せば」

まどかはシェフ達が見ていたテレビに映っていた、織斑千冬そっくりの顔を歪めて怒る。

「勿体無いよそんなの」

「確かに。仕方ない、分隊のメンバー全員呼ぶよ。量多くして薄めればいいでしょ」

まどかは嫌そうな顔をした。

「えぇぇぇぇ」

「カーニャも呼ぶから」

「そうゆう問題じゃあなくて」

じゃあどうゆう問題?そう聞こうとしたがまどかが先に口を開いた。

「仕方ないか」

ため息の様な深い呼吸をした。中と外との空気を入れ替えた。

「ねぇ休暇をいつまでなの?」

「3日は有るけど」

「ならいいか」

まどかは大きめな鍋を取り出した。こちらにスープを入れ替え薄めるとの事だが、チビ助はそれを自分が代わりまどかには追加でいれる材料を切らせた。中身全てを台無しにされては困るから。しかし家には備蓄された食材は無かった為2人で買い出しに行った。

もうそろそろ6月になる時期。1年中暑いここでは日が暮れはじめた頃が一番過ごしやすい。

買い出しの帰りまどかに質問をされた。

「兵役はいつまでなの?」

あと1年。それがチビ助の兵役だった。

 

 

チビ助の部屋の隣の部屋。日が暮れ静まり返った時間帯。

女性がその一室で椅子に腰掛け、本を読んでいた。灯りは窓から差し込む首都の夜光だけ。妙齢の女性は黒髪で、まるで人形の様に美しく、そして完璧なまでのその容姿は不気味だった。

「シュランク様」

夜光の影の中から女性が現れた。手にはトレーがあり湯気立つココアが載せられている。

「ココア出来ました」

「ありがとう、Y」

シュランクと呼ばれた女性はYと呼ばれた女性からココアを受け取り机に置いた。

「愚痴りたい、いいか?」

「どうぞ」

Yはベットに腰掛けた。

「スコールの尻軽、人がプロデュースしたお見合いに首突っ込みやがって」

「あの分隊が居なければ、全てオシャカでしたね。でもめでたくシュランク様の予定通りに進んだじゃないですか」

「おかげでウラノに睨まれた」

シュランクはココアを一杯飲み、怒りを下した。

「でもいい掘り出し物もあったな」

「あの分隊ですね」

「そう。今は私の持ち札で足りないのは実績と人材だ。あの分隊から1人ぐらいは引っ張りたい、早急に灰にする前に」

最後の言葉にYは引っかかる。

「計画を1段階早くするのですか?」

「ああ。準備は長々とやってきた、今回の取引が成功した時点で計画は遂行可能となってる。もう少し下準備をしたいが、あの牝がいろいろ嗅ぎつける前に老人会にいいとこをアピールしないと不味い。今回の件でウラノのそばには長居できなくなった。やっぱりコウモリは長生きできない、牙を抜くか、羽を摘むかそれとも、食い殺すか」

シュランクはページをめくった。

「最も私はファントムタスクを抜け出せないが」

Yの表情は暗くなった。

「なに?いまの笑うところだよ」

「まぁ、ごめんなさいませ」

シュランクは懐から携帯端末を出しYに渡した。

「はいこれ。この中に貴女が組むメンバーの情報が入ってるから」

Yは受け取り情報は受け取りその場で確認した。

「私を含めて規定人数は4人ではありませんでしたか?これによると後2人しか居ませんが」

「大丈夫、別働隊がいるから受動的な事態には今は対処できる。私たちが本格的に活動するの計画の執行を除き再来年の夏からだ」

Yは立ち上がった。もう既に顔合わせに行こうとしているのだ。

「気が早いぞ、Y」

「まぁ、ごめんなさいませ」

シュランクはやれやれとまたページをめくった。

「ところでシュランク様、なにを読んでいらっしゃるのですか?」

「数学の古典」

「またなにか策略を練る為にですか?」

Yはシュランクが情報戦を重視していることを知っている。だからこそ今回の取引を成功させ、エカーボン側が得た物を中身だけをくすねた。

「そんないや。ただ、これとココアが有ると」

シュランクはココアの中身を空にし、本を閉じた。

「よく眠れる」

 

 




アカビィシュは色々なところで出す予定ですが、ISもちろん主力戦車にも勝てない残念仕様です。ちなみに見た目はクモ戦車で、有名なあれです。


誤字脱字、表現ミス、御指摘お願いします。

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