インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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今回で決着がつきます。
あと航空機好きの皆さんごめんなさい。イーグルが変わり果てた姿で出てきます。
あとオータムさん好きの皆さんごめんなさい。オータムさんが酷い目逢います。


第16話

「くそがぁぁぁぁ!」

赤い荒野に倒れていたオータムが起き上がるなり悪態を着いた。

オータムが使用しているISはラファール・リヴァイヴなのだが、先の戦闘でスラスター全基を破壊された。予備は無い。まだ慣性制御で飛行出来るとはいえ相手にISがいる状態でスラスターを失い戦うのは無謀だった。だがこの有様、ISもダメージを負っているがオータム自身のプライドの方がダメージは大きい。それ故ISのダメージよりも自身のダメージを優先。オータムは目標のトラックに追撃をしようとした。

先ずはオータムは機体の状態を確認。機体はダメージを負っているがシールドエネルギーの残量がまだ大量に有るのを確認した。次にヘルメットやスラスターなどの不要な部位を破棄。そして重量バランスを再調整した。武装を再確認、まだ戦える。 機関銃を1丁を格納領域から出す。

「行くぜ」

オータムは1度上空から、トラックが逃げ込んだゴーストタウンを偵察しようと浮き上がった。

オータムは町を見てにやけてしまう。オータムは敵の人数をトラックで暴行を受けた時に数えていた。敵は6人。これは間違いない。そしてその1人の男が今こちらに手を振っている。場所はアパートだったと思われる場所で。そのアパートは三階建てで100平方メートルの中庭があり、アパートが中庭を囲う構造になっている。さらにアパートの内側に廊下がありそれが中庭を見下ろす形になっている。

男は中庭にいた。口の動きを見る限り、悪かったとか取引しようとか言っていた。手にはアタッシュケース。オータムがにやけてしまったのはそれが原因では無い。今回の目標がハイパーセンサーが正確に補足していたのだが、それが5箇所に分かれていた。つまりアタッシュケースの中には無い。そして1箇所は男が居るアパートから人間の走行速度で離れていて、残りは男を囲う様にアパートにじっと動かずにいる。

「ハハハ!見え透いた罠を!そんな完熟脳みそじゃろくな作戦も考えられないよな!まあいいわざと引っ掛かってやるよ」

男に近づいた瞬間、全員で一斉攻撃。それが作戦だとオータムは思い、男目掛けて急降下した。

 

 

おやっさんが囮になりISが近づいた瞬間に一斉攻撃。おやっさんが立案した作戦は大まかにするとこうだ。

上空からISがおやっさん目掛けて急降下するのが見えた。

「第一段階は成功か」

敵ISが近づかず、上空から攻撃をして来る可能性が有ったがそこはなんとかなった。

チビ助は裸眼でおやっさん達が居る場所を見た。

「撃つ事態にならなゃいいけど」

作戦ではチビ助が撃つ時は非常時となる。

チビ助はおやっさん達が居るアパートを今度はスコープで覗く。

 

 

「先程は無礼な真似を致して、心からお詫び申し上げます」

オータムが着くなり男は詫びを入れお辞儀をした。薄汚れた戦闘服で言うのだからオータムは笑いを堪えるのに必死だった。

「いいぜ別に気にしてねえよ」

すぐにぶち殺してやるから。そう付け加えるかオータムは迷ったがまだその時では無い。

「そうですか。じゃあ分かってるとは思いますが、これを差し上げるのでどうか見逃しては貰えませんか?」

男はアタッシュケースを差し出した。オータムはそれを受け取る。

「フン、さっさと失せな」

男はオータムに背を向け走り出す。

オータムは男が少し離れてから決行した。

「とでも言うと思ったか?」

アタッシュケースを放り投げた。そして4箇所目標の反応が有る場所、渡り廊下や部屋に機関銃を次々に斉射した。流れ弾に当たらないよう男は地面に腹這いに伏せた。アタッシュケースが地面に落ちた時には4箇所に蜂の巣が出来ていた。

アタッシュケースが落ちた衝撃で開いた。

「馬鹿かてめえらは?こんなガキが考えた様な作戦上手く行くわけ無いだろ?どうせアタッシュケースの中には爆弾が入ってるんだろ?」

男がオータムに背を向けたまま立ち上がった。そして両手で頭を抱える。

「どうした?ビビってるのか?安心しろ次はてめえが死ぬ番だ」

オータムが機関銃を男に向ける。迷わず引き金を引こうとした。その時、アタッシュケースの中身がハイパーセンサーによって伝わる。アタッシュケースには、爆音と閃光放つスタングレネードだった。

「スタングレネード!」

スタングレネードが爆発、爆音と閃光放った。オータムの聴力と視力を保護するためにISは聴力と視力を外部からカットした。

オータムの五感が回復し始めるとハイパーセンサーが警告をする。オータムの後方のアパートの二階の渡り廊下に男が無反動砲を構えている。迷わず銃口を向けた。その時オータムは戦慄した。

無反動砲を構えた男は先程の取り引きを持ちかけた男が、わざわざ2階に登り構えたと思っていた。だか照準越しに見えた男は、トラックの中にはいた男だが別の男だった。

「アルジャン吹っ飛ばせ!」

オータムは自分は嵌められたと悟った。

 

 

ISのハイパーセンサーは結局のところ、五感の延長に過ぎない。そうアルジャンは説明した。だから隠れた兵器を見逃がす事がある。その為軍用のISは大抵、後付けで電子機器を装備するのだが。今回の敵のIS、ラファールの電子機器はヘルメット型のバイザーに集中して、それはカーニャが破壊した。つまりは敵のISは索敵能力が著しく低下しているということ。しかし、ISはISや今回の目標を探知する能力はあるが、トラックやアタッシュケースの中は特殊コーティングのおかげで探知されないと。

これらの情報を元におやっさんが作戦を立てた。先ずはおやっさんが囮に敵のISを中庭におびき寄せる。時間的猶予も状態的優勢も無いのに追撃をして来るということは、先程の戦闘で個人的な恨みに発展した可能性がある。あくまで可能性。この時敵のISはバラバラに置かれた目標に間違い無く気付いており、そこに攻撃した瞬間に別の場所に隠れた奴らが攻撃。万が一空中に逃げた場合、チビ助が攻撃する。それがこの作戦の概要だった。

 

 

「アルジャン吹っ飛ばせ!」

無反動砲の弾頭が発射され、ISの足元に着弾爆発した。だがISはビクともせず立っていた。

「ッチ」

アルジャンは舌打ちし、屈みながら駆け出す。途端にアルジャンがいた場所を無数の弾丸が襲う。

アルジャンのおかげで作られた僅かな隙に、おやっさんはアパートの一室に隠したグレネードランチャーを取り出した。回転弾倉を持つグレネードランチャーの光学照準をISの足元に合わせ、6発続けて残弾撃ち込んだ。

その事に気付いたISはグレネードの衝撃に備え身構えた。だがグレネードランチャーの弾は爆発する代わりに白い煙幕を散布した。

「クソ」

ISは機関銃を構え、おやっさんがいた場所を掃射した。

撃っていたISが突然、銃撃をやめた。そして銃口を別の場所に向ける。敵のISはISを装着したカーニャの存在を探知した。ISはカーニャに向け撃った。

「キャアアア!」

カーニャが白い煙幕の中悲鳴を上げる。

「武器を展開しなかったり、やっぱり素人集団か!ここからはこっちの番だ」

ISは手応えを感じ、歓喜する。そして銃撃を辞めた。辞めたおかげ聞こえた。銃声にかき消され聞こえなかったトラックのエンジン音が。それがどんどん近づいて来る。

「俺の息子にキスしてくれ!」

煙幕の中突然飛び出たトラックをよけきれず正面からISは轢かれた。そのまま壁にめり込まされ、トラックが止まった。

「エアバッグなしかよ」

トラックからシェフが飛び降り、駆け出す。

「じゅうううううびょおおおお」

壁にめり込んだISが頭を振り閉じた瞳を開けると、顔が引きつった。

「冗談だろおい」

トラックの荷台側の天井や壁、床一杯に貼り付けられたまたの爆弾が赤いランプを点滅させていた。

「落ち着け後10秒ある」

ISは自分に言い聞かせ、脱出しようとする。

だが10秒の半分も経たず爆弾が爆発する。カウントダウンを敵にしてやる優しい人はここの分隊には居ない。嘘ならつくが。

トラック内の爆弾が一斉に爆発、その衝撃が閉ざされた荷台の中で反射し、雄一の出口である荷台と運転席を繋ぐ通路から出た。そして衝撃は爆炎と共にISに直撃した。その勢いはアパートと一角をも崩落させた。

爆発を見届けてから、伏せていたおやっさんとシェフが立ち上がった。その後ろのアパートの2階からアルジャンが飛び降りる。3人はそれぞれ武器を黒煙があがっている瓦礫の山目掛けて構えた。

「撃て」

おやっさんの合図が早いか撃つのが早いか、3人は撃ちだした。

3人は何度も弾を装填し撃った。それぞれ銃口をから硝煙が登った頃、撃つのを辞めた。

「やったか?」

シェフが銃口を下げた。

「んなわけねぇだろが」

黒煙中からISが飛び出てきた。シェフ以外は武器を構えたままなので即座に撃てたが、ISは怯みすらしなかった。3人に掴みかかろうと両腕を伸ばした。ISは先ずはおやっさんを標的に選んだ。

おやっさんはしゃがんだ。ISの攻撃をよける為では無い。後ろから伸びてきたコンクリート棒を避けるために。

「雌犬は棒に当たるが運命か」

突然現れたコンクリート棒の先端をよけきれず当たってしまう。そのまま瓦礫の山に押し戻される。そしてコンクリート棒は高く振り上げられる。

「あれは…電柱?」

離れて見ていたチビ助が疑問の声を出した。

電柱が振り下ろされた。怪力を込め振り下ろされた電柱によってISは地面にめり込んだ。

「撃て」

3人がまた発砲を始めた。電柱もまた何度も振り下ろされた。ISがいた場所はまたも砂塵を巻き上げる。

「いい武器だなカーニャ」

おやっさんが今ISを装着し電柱を振りろしているカーニャ声をかけた。

「拾い物よ。持ち主が現れなきゃいいけど」

「おっかない、お二人さんだ」

何度も振り下ろされた電柱はとうとう、真ん中からポッキリと折れた。

「持ち主に見つかったら訴えられるな」

カーニャが電柱を下ろした。その瞬間砂塵の中から弾丸がカーニャを放たれた。避け切れずカーニャの頭に直撃、アパート突き破り吹っ飛ばされる。

「カーニャ!」

「人の心配をしてる場合か」

発射の衝撃で砂塵が晴れ、ISが現れた。手には対IS用の狙撃銃。

3人はISに銃撃を加えようと発砲するが、ISは飛び上がり回避した。アパートより高い位置に来たISはおやっさんに照準を合わせた。

「虫けらは地に這いつくばれ」

後は引き金を聞くだけだった。だがハイパーセンサーが警告を発してきた。それの意味に気付き、回避行動に移ろうとするが遅かった。狙撃銃が20mm徹甲弾の直撃を受けてバレルが曲がり使え物にならなくなった。

「またお前か!」

ISとの距離は約800m離れた場所にビルが有った。ビルには窓ガラスが嵌められて無くコンクリートが剥き出し。中は工事途中だったのか資材がまだ積まれていた。そのビルの最上階、真ん中あたりでチビ助は地面に伏せライフルを構えていた。壁には穴が空いていてそこから狙撃した。

ISはおやっさんが使っていたのと似た形をしたグレネードランチャーを展開、容赦無くチビ助に撃った。ボルトアクション式の連射速度では発射を防げなかったチビ助は、自分目掛けて飛翔する榴弾に照準を合わせ撃つ。だが徹甲弾は僅かなに上にそれ、掠っただけで撃墜ず。しかし着弾点を下に逸らす事は出来た。

5階に榴弾が着弾、ビルの窓という窓から火を吹き飛ばす程の爆発を起こした。

爆発の揺れの中チビ助は次弾を装填、照準を合わせる。しかしISはこちらの発射を警戒して空中機動を始め、照準は容易に合わせられなかった。

「大人しくしてよ、撃てないじゃん」

しかしISは一瞬何かに気を取られ単純な直線移動をしてしまった。それをチビ助は見逃さなかった。

ISのグレネードランチャーは徹甲弾の直撃を受け、誘爆こそしなかったものの武器としての機能を失う。

チビ助は追撃を放つ為、ボルトを操作しスコープを覗く。クロスヘアーを合わせようとした。その時何かがスコープの端に何かが映った、それと同時にスコープが下に向いた。チビ助が下を向いたからでは無い。地面が傾いた。

先程のISの榴弾はその充分過ぎる威力でビルの5階の柱を破壊していて、チビ助は知らぬ間にバランスゲームをさせられていて今まさにそれが崩れる。

ビルがチビ助から見て前方に傾き始めた。

「落ちる!」

どんどん加速的に傾くビルの中チビ助はライフルをその場に捨て沈む方とは逆の方に駆け上がる。45度傾いた時、止まった。チビ助は落ちないよう窓枠にしがみついた。

「止まった…わけないよね…」

ビルの5階の6階は完全に分離、6階より上はさらに傾きながらずり落ちていく。チビ助はなんとか窓から外に出たがその頃にはもうビルの上部分は90度傾き支えから完全にずれ重力に引かれ落下し始めていた。地面に落ちてる前にチビ助は元いたビルに跳んだ。 4階を狙って跳んだが失敗したが、幸い3階に飛び込めた。だが低かった分増した運動エネルギーと予想外の場所に跳んだ為着地に失敗。でんぐり返しで転がって行き、向かいの壁に背中を叩きつけやっと止まった。

「いてぇ…」

ライフルを失いチビ助にはもう武器は無かった。だが心配無い。最後にスコープの端に映った物は恐らくは、

「カーニャかな」

 

「またお前か!」

オータムは破壊された狙撃銃を捨て、グレネードランチャーを展開。小さな狙撃手に向け榴弾を放った。しかし榴弾は狙撃手の徹甲弾によって弾道を逸らされ命中しなかった。

「ッチ」

オータムは舌打ちをしながら、慣性制御で空中機動を始めた。これ以上武器を破壊されては堪らないから。しかし空中機動をしたからといって安心は出来なかった。まだこれでも撃たれる可能性が有ったから。

「なんだ?こう動かれちゃあ狙えないのか?」

敵の狙撃手も縦横無尽に宙を舞うこちらを射る事が出来ないらしい。しかし狙撃手の方は一点に留まっている。

グレネードランチャーの銃口が狙撃手に向いた。だがハイパーセンサーが警告を発する。敵のISが地面ギリギリを高速で接近して来ていた。

「飛べないと思ってたんだがな」

オータムがISに照準合わせた。その時オータムは自分の予想が外れていなかった事を知る。敵のISは地面ギリギリを飛んでいたのでは無く、地面を蹴り走っていた。

「おいおい冗談だろ」

奇跡を何度も起こしたりISの特性を理解した作戦を立てたり、その癖ISの操縦はど素人。オータムにはこの集団がなんなのか理解できなかった。

「理解する必要は無いがな」

だが壊すことならできるとグレネードランチャーを向ける。

敵のISがビルの壁を蹴ってこちらに飛びかかる。

グレネードランチャーが火を吹いた。弾を放ったからでは無い。弾を貰ったから。

「しまった!」

機動を辞めたわけでは無い。ただ単純な直線移動をしただけ。だがそれが命取りになった。

敵のISを撃墜出来ず肉薄を許してしまう。ISは飛びかかった勢いのまま右腕を開き、オータムの首にラリアットを食らわす。そのまま脇を閉めオータムを束縛、地面に落下していく。地面に激突寸前オータムは慣性制御で落下速度を減速した。

「私にはでかい鉛玉文字通り食らわして死ぬかと思ったじゃない!しかもあの子には榴弾?膝擦りむいたらどうするのよ」

地面に不時着するなり敵のISはそう怒鳴る。

オータムには何を言ってるんだこいつは、と思う余裕は無かった。なぜなら何度も殴られ、今投げ飛ばされたから。

建物を2、3軒破りオータムはやっと止まれた。止まった場所は男子用の公衆便所のようで、青いタイル張りの床や壁。3つ小便器があり個室も3つ有る。

「惨い地域で最低辺野郎どもと戦ってる途中に糞な場所にぶち込まれるとはな」

オータムは揺れる視界の中、敵のISがこちらに走って来るのが見えた。実体剣を展開。タイミングを図り突き刺す。だがIS初心者でも近接戦闘は相手が上だった。

敵のISはオータムの突きを跳んで避けるとそのままオータムにのしかかる。オータムに馬乗りになり顔面に情け容赦無く何度も拳を振り下ろした。

「この阿婆擦れが、ここの匂い好きでしょ、よく嗅いで」

オータムのうなじを掴み、タイル張りの床に顔面から叩きつける。一発でタイル張りが弾け飛び床にヒビが入ったが何度も叩きつける。これだけの攻撃を受けながら、ISの防御性能の優秀を語るようにオータムの顔には傷が無かった。

「このインセスターが、大好物でしょ、遠慮しなくていいからさ」

オータムの顔を小便器に突っ込んだ。これにはオータムも悲鳴を上げる。3つ全てに突っ込んだ。

敵のISは魂が抜けたオータムのうなじを掴んだまま、完全に壊れた小便器を後にする。

「この便女が、いつも綺麗にしてるんでしょ、こっちも綺麗にしてよ」

今度は個室の洋式便器3つ。

「やめて…」

 

 

「ぜってぇぇぇに許さねぇぇぇぇ」

オータムは敵のISの腹にしがみついた。そのまま上空に向けて飛び始めた。ISはオータムの背中に肘を入れるなど振りほどこうとしたが、オータムは歯を食いしばり耐えた。先程の屈辱に比べれば苦とも思えない。

「てめえは今から私と一緒に死んでもらう。宇宙の彼方でな」

目を瞑ると自然と涙が出てきた。これから私は死ぬ。あの人と永遠に分かれる。また会いたい、でももう会えない。こんな穢れた身体では。

「死にたいんだったら1人で死になさいよ!勝手に!星になったってロマンチックでしょ、私には勿体無いわ」

敵のISは焦ったように目を泳がす。 気づけばもう街が小さく見える。これ以上は危ないと拳を振り下ろしたがオータムは離さなかった。

「えい、なんか無いの?これは…」

敵のISは何か見つけた後オータムに上から抱きついた。

「押して駄目なら引いてみる」

敵のISの胸の装甲の側面からフレアを放出した。

「何?」

「これじゃない、これ」

敵のISの胸の装甲が爆発、装甲片が炸裂した。その衝撃でオータムは手を離してしまった。そして爆発の衝撃で2人は離れた。

「っく!電磁装甲か」

敵のISはオータムから離れることには成功したが、慣性制御が扱えない為そのまま落下し始めた。

「もうたくさんだ、てめえだけが死ね」

オータムは実体剣を展開し、ISに襲いかかる。慣性制御が出来ず只々もがくISはオータムの一撃を受け止められなかった。足場が無く思うように力が入らないISは、今この状況のオータムにとって唯の鴨だった。

「やっぱ飛べねぇのか?このまま地面に着く前にミジンコより細かく切り刻んでやる」

形勢逆転。オータムは威勢を取り戻し、敵のISを何度も切りシールドエネルギーを削っていく。敵のISは両腕を胸の前で交差させ防御していたもとい防御するしか無かった。

 

 

「上手くいくのか?高速ミサイルじゃあISに当たるかどうか」

地上でおやっさんはミサイルを上空に構えていた。

「大丈夫、狙うのは…」

言い終わるよりも早くミサイルを発射した。点火したミサイルは機動が揺らぐこと無く真っ直ぐどんどん加速していく。

「俺達に出来るのはここまでだな」

飛翔するミサイル。そして遥か上空で交戦している出あろうISの方を3人は見つめた。

 

 

エカーボンの遥か上空。オータムとチビ助達分隊の対決は決着がつこうとしていた。

 

 

遥か上空でカーニャは苛烈な斬撃を受けながらも冷静に頭を働かしていた。今までは力任せに暴れればどうにかなったが、今はもろに操縦技量の差が出てきてしまっている。だが相手は機体の状態も時間的余裕も無い。何かせめて武器さえあれば。

「イメージすればいいだっけ?」

オータムの実体剣がカーニャの左手の装甲を抉った。

「こんな時に使える武器は…もう!説明書ぐらい付けてよ!」

オータムが体当たりをし、そのままカーニャに取り付き胸の装甲を引き剥がす。そして一度距離を取る。そして反転、カーニャを正面に捉え加速しながら接近した。

「昔見た映画でか弱いヒロインが使った武器は…これだ!」

加速した速度を生かしオータムはカーニャの腹を横に斬り抜く。そして距離を取り旋回。なお加速して今度こそ息の根を止めにかかる。カーニャはオータムの斬撃でシールドエネルギがセイフティラインに到達、警告メッセージが絶え間無く表示される。このまま行けばカーニャが死ぬ。だがカーニャが行動を起こした。カーニャの右手に武器が握られていた。まだ量子変換の途中で原形をとどめてはいないがそれも時間の問題。オータムは完全に展開される前に決着をつけようと実体剣を握りしめカーニャに突貫する。

「展開させるかよ!」

その時、ハイパーセンサーがしたから高速で接近するミサイルを探知した。

「高速ミサイル?んなもん当たるかよ」

オータムは回避行動に移る。ローサットが通り過ぎてからでも十分にカーニャを仕留めることが出来たから。

白煙を引きながらミサイルが超音速で接近、オータム目掛けて飛んできた。とオータムは勘違いしていた。電子機器をやられていた為自分がロックオンされているかどうか判断出来なかった。

高速ミサイルはカーニャをロックオンしていた。高速ミサイルがカーニャに一直線に向かう。

「私に当てたな!」

高速ミサイルは着弾した。しかし胸の装甲に突き刺さるだけで大したダメージをカーニャには与えなかった。

炸薬を内蔵しておらず、運動エネルギーで貫通する高速ミサイルはISとは相性が悪い。しかしこの状況では相性は最高だった。高速ミサイルはカーニャにダメージを与えず、そのままカーニャを押して飛んでいった。

「しまった!」

カーニャは後ろ弾によってオータムから距離を取ることができた。つまりは武器を展開する時間を稼ぐことが出来たのだ。スラスターが無いオータムは超音速で押されるカーニャには追いつくことが出来なかった。

「やっと出た」

とうとうカーニャが武器を展開し終えた。武器は細長い直方体の4連装のロケットランチャー。展開を終えた頃には高速ミサイルは燃料切れを起し、カーニャは落下を始めていた。

高速ミサイルが燃料切れをすぐに起こした為、オータムとカーニャの距離は300メートルほどしか離れていなかった。だがロケットランチャーの有効射程内だった。

オータムは射撃武器を展開し応戦しようとしたが、カーニャが撃ってこないことに疑問を感じすぐに解った。IS初心者な上、落下中なので照準が定まらないのだと。

「勝てる!」

しかも武器はロケットランチャー、誘爆を恐れて近接では使わない筈。時間の無いオータムは接近戦でけりをつけようとした。だが万が一のためにカーニャがロケットランチャーを撃てない背後から接近することにした。

落下するカーニャ中心にその背後を取るため螺旋を描きながら近づくオータム。一直線に斬り裂きに行かない焦ったさに待機れずその手の実体剣は鈍く光っていた。カーニャも手足を必死に振りオータムを正面に捉え続けようとしたが、背後に回られた。

間合いに入りオータムはカーニャの首を刎ねようと実体剣を構えた。

「今度こそ死ねぇぇ!」

「1発勿体無いけど!」

実体剣が振り下ろされるよりも速く、カーニャはロケットランチャーを撃った。ロケット弾は明後日の方向へ飛んで行った。だがそのバックブラストはカーニャの左肩を吹き付け、カーニャを回転させる。カーニャのロケットランチャーがオータムを捉えた。

「まさかこの距離で!」

カーニャはトリガーを3回連続で引き、残りのロケット弾を全弾発射した。避けきれずオータムに全弾命中、大爆発を起こす。

「うぁぁぁぁぁぁ!」

オータムが吹き飛ばされた。

「きゃぁぉぁぁぁ!」

当然カーニャも吹き飛ばされた。

2人とも墜ちた。

 

 

おやっさん達3人は、カーニャの元に向かうため広い大通りを走っていた。集合場所は事前に決めていたので迷わず向かう。

突然、上空で爆発が起きた。

「あれは?」

おやっさんが上空を見て止まる。

「どうした?」

先を走っていたアルジャンも止まる。後ろにいたシェフも止まり、おやっさんの視線の先を見た。一見すると何も無いが、小さいに粒のような何かが見える。それは徐々に大きくなり人型になった。

「IS?こっちに来てるぞ!」

シェフは慌てて隠れようとするが、おやっさんが制する。

「大丈夫だ。敵のだったらもうやられてる。カーニャだ勝ったんだ!」

おやっさん達はISを見上げ、手でも振ろうかと手を上げた。

「なあ?」

アルジャンが切り出す。

「カーニャさっきまで浮くことさえ出来なかった。じゃあなんであんな上空にいるんだ?しかも速くないか?」

人型のISはどんどん大きく鮮明になり、カーニャであることが分かる程になった。

「こっちにー」

落ちるぞ!とおやっさんは叫ぼうとしたが、カーニャの絶叫がかき消す。

「受け止めてぇぇぇ!」

「全員退避!」

おやっさんが言い終わる前には3人は別々に近くの建物に飛び込んでいた。

直後カーニャが墜落、轟音轟震轟かせた。それだけでは飽き足らず大通りの地面を掘り返しながら、ずり進む。とうとう突き当たりの塀に激突。そこで止まった。

「全員生きてるか?」

「無事だ」

「なんとか生きてる」

のそのそと3人が集まった。衝撃のせいか、3人とも平衡感覚が狂っていて足元がおぼつかない。

「カーニャのところに行くぞ」

アイスディッシャーにすくわれたように出来た轍の先にいるであろうカーニャの元に向かった。生死の確認のために。

数百mほど歩き、やっとカーニャを見つけた。カーニャは厚い塀を破り、その少し先に大の字に仰向けに倒れていた。

おやっさんが駆け寄り、顔を覗き込む。そして立ち上がり後ろにいる2人に顔を向けた。渋い顔をして、顔を横に振った。

「残念だが…」

シェフが膝から崩れ落ち、四つん這いになる。傷つくのも気にせず地面を握り拳で叩きつける。

「クソ…」

アルジャンが額に手を当て下を向いた。

「はぁ…」

3人はカーニャのことで項垂れた。

ピクリとカーニャが動いた。

「「生きてるか…」」

カーニャは気絶こそしてるものの、生きていたもとい無傷だった。

「ISが凄いのかカーニャが頑丈過ぎるのか?」

「そんなことどうでもいいでしょ。カーニャが起きたら絶対怒りますよ。殺されるかも」

「カーニャもそこまで非道じゃあないだろ。殴られるぐらいだ。おやっさん、カーニャが何か言ってるぞ」

アルジャンがカーニャの口元が動いているに気付いた。

おやっさんがカーニャの口元に耳を近づける。

「なんて言ってるんですか?」

おやっさんが感情が読み取れない顔を上げ、言った。

「玉潰してやる」

 

 

チビ助はビルを後にし、おやっさん達の元に向かっていた。

突然、上空で爆発。

チビ助は足を止め上空を見た。小さな粒のような何かがこちらに落下していた。それがだんだん大きくなり、人型になると、チビ助の視力がそれをカーニャでは無いと認める。チビ助は近くの建物に飛び込んだ。

直後、凄まじい衝撃を伴いながらオータムが落下して来た。場所はチビ助が飛び込んだ建物のすぐ脇。

衝撃でチビ助のいる建物はオータム側が崩れ落ち、チビ助は壁に後頭部を叩きつけられた。

チビ助は後頭部の痛みによって声が出ぬよう我慢し、すぐさま瓦礫の元に転がり身を潜めた。

「分かってる!でもまだ目標が!」

オータムが立ち上がるなりそう言った。どうやら誰かと通信しているらしい。

「分かった…」

オータムは複雑そうな顔をした。そして踵を返し離脱しようとする。ここに来てチビ助は空軍が近くまで来ていると理解した。

「今度会ったら…」

オータムは少しでも速度を出そうと手足の装甲をパージしていく。そして、大空に向かって唸る。

「玉潰してやる!」

 

 

完全にオータムが居なくなってからチビ助は立ち上がり、再びおやっさん達の元に向かった。

その時エンジン音が聞こえた。間違いなく空軍が来たのだ。

チビ助がエンジン音の方を見ると航空機が10機こちらに向かって来ていた。8機はf-35で、ハードポイントに兵装支持架をつけ増槽やミサイルを積んでいるのが分かる。残りの2機は、f-15イーグル。では無くカーゴイーグルと呼ばれるIS輸送機に改造された機体。カーゴイーグルの左右のハードポイントにはコンフォーマルタンクが着いていてさらにウェポンラックが着いていた。そして胴体下にはISが2機、計4機が運ばれていた。

カーゴイーグルの下のISが左右の1つずつカーゴイーグルにマウントされたウェポンラックを取った。そして固定用のフックが外れ、降下した。

「やっと終わったか」

気が抜けたせいで今更のように体のあちこちが痛む。脱力したせいか、どっと疲れが押し寄せて来た。

一休みしようかと思ったが、やっぱり辞めた。

早く会いたいから。

 

 

集合場所である、広場にチビ助は着いた。

そこは幾つかの大通りの終着点のような場所で、中心の枯れた噴水がある。

広場には、分隊のメンバー全員が居た。それにISを装着した操縦士が4人に今回の任務の指揮官。

カーニャがISの操縦士の1人と話しており、恐らくは着脱の方法を訊いている。また別のIS操縦士と指揮官も何かを話していた。指揮官の手には今回の目標が収められたアタッシュケースがあった。残りのIS操縦士は建物の上に上がり周囲を警戒していた。アルジャン、シェフ、おやっさんは噴水に座り煙草を吸っていた。3人はチビ助が来るのを見ると、おやっさんが出した水筒の中に煙草を捨てる。

「おやっさん!アルジャン?シェフ…だい…」

「傷だらけじゃないかチビ助大丈夫か?」

おやっさんは擦り傷だらけのチビ助を労ったつもりだったが。

「俺は大丈夫だけど。後頭部のコブが痛いぐらい」

「なんでぶつけたんだ?」

「空から女が降ってきて」

「奇遇だな俺たちもだ」

「そいつ、玉潰してやる!とか言ってて」

「奇遇だな俺たちもだ」

「んでそいつのせいでこのタンコブが出来たんだけど」

「奇遇だな俺たちもだ」

チビ助は3人の頭を順々に見た。頭のてっぺんにはタンコブが出来ており、顔は意気消沈している。

「カーニャ…?」

「ちーびーすーけ!」

チビ助は後ろから抱きしめられた。振り返るとISを脱いだカーニャがご機嫌な様子でいた。そのまままた抱きつかれる。

「痛い痛い!コブが出来てるの」

「あっ!ゴメン。じゃあ前から」

本来、タンコブが柔軟な乳房に押し付けられようと痛まないもので、ましてやカーニャのバストは大きい。だがカーニャの乳房はほぼ筋肉でできている。硬いとにかく硬い。シェフが前に、この乳房のことをゴリパイとか乳筋などと評していた。その後シェフの顔にはAカップよりも大きい痣ができた。

カーニャは今度は正面からチビ助を抱きしめる。硬い乳筋が柔らかいチビ助の頬を変形させる。

「硬い、けど。嫌いじゃない…」

「チビ助なんか言った?」

「うんうんなんでもない!」

思わず出た言葉を後悔しつつ、真っ赤な顔を隠すため乳筋に顔を埋めた。

カーニャはチビ助の頭を撫でるとそのまま手を下に伸ばした。

「ハイ、これは没収ね。決定事項だから」

伸ばした手で、チビ助のポーチに入っている腕時計を取り上げた。チビ助はそれに反応するが、カーニャの空いた腕と乳筋がガッチリとチビ助を捕らえて離さない。

「おやっさん、ハイこれ。遺族に渡るようにして置いて」

カーニャは腕時計をおやっさんに放り投げた。

「遺品と隊長は丁寧に扱え」

おやっさんは腕時計を捕り、名前を確認してからポーチにしまった。

「あれ、暴れないの?」

チビ助は意外にも、カーニャの胸の中で大人しくしている。

「別に一つや二つ変わらない」

チビ助は胸に頭を挟んだまま言った。

 

 

今回の任務はこの先の前線基地までの護衛の筈だったが不足の事態が発生、予定を変更することになった。指揮官は今回の護衛対象を使いとある国と取引すると説明した。その予定場所が前線基地だったのだが、ここになったと。それに伴い取引が終わるまでの護衛もチビ助達は引き受けることになった。

しかしISが4機もいる状況。気張る必要も無く、2人当番を決め残りが仮眠を取り、時間で交代するという事にした。すぐに帰りたいチビ助だったが、足が無い今やれることは無かった。

しばらくして、どこからともなく軍用の中型ヘリが1機飛んで来た。当番がおやっさんとアルジャンの時。こちらを確認するように機体を傾け、1度通り過ぎてから旋回。徐々に高度を下げ、噴水に着陸した。

ヘリのローターが止まり、中から人が降りてくる。人数は5人。ライフルを手にした戦闘服の若い男が2人。手にあるライフルはマガジンが外されている。スーツ姿の中年男性が1人。そして拘束着を着せられ頭巾を被せられた人が2人いた。拘束着を着せられた2人は暴れる様子も無く大人しく立っていて、2人の兵士も警戒していなかった。

指揮官が5人の姿を認めると、真っ先に中年男性の元に行き、満面の笑みで握手をした。言葉を少し交わすと取引が始まった。

そんな様子をアルジャンとおやっさんは見ていた。別にやることが無いから。

「何を取引をしてるんだろう?」

後ろからチビ助の声がした。

「関わらない方が身の為だぞ」

おやっさんがだろそうに言った。

「なんで?」

なんとなくそんな気はチビ助もしていたが、訊いてみた。

「まず、あのスーツの男。CIAの局員だ」

アルジャンが答えた。

「CIA?何それ?」

美味しいのかどうか訪ねそうなチビ助。

当然かと言わんばかりにアルジャンが続けた。

「アメリカにおける、エカーボンのウラノみたいな組織」

「なるほど」

チビ助はこの説明で理解した。ウラノとはエカーボンの諜報活動を行う組織。

「んで、今回俺たちが護送した一品が…」

CIA局員がこちらに向かっているのに気づき、言葉が途切れた。取引は終了したようで手にはアタッシュケースが握られていて、手と取手に手錠が付けられていた。

CIA局員は手を振り笑顔でこちらに向かっている。護衛の2人は慌てた様子で、顔を見せ合い1人がマガジンを装填後を追う。それを見計らったようにCIA局員は振り向き、こちらにも聞こえるような大声で何かを言った、英語で。チビ助は英語が出来ないので何を言っているか正確にはわからなかったが、護衛が渋々帰って行くのを見て、なんとなく理解した。

CIA局員は3人の元に来ると、柔かに流暢なエカーボン語で話しかけて来た。

「やあ。ムッシュ、アレフ。オキタさん。そしてその坊やは?」

「チビ助だ」

おやっさんが答えた。なんとなくだがその声には敵意が篭っていた。

「やあ、チビ助君。私はジョン・タイター。ジョンでいい」

「ふざけた名前だ」

「ハハハ。我ながらにそう思うよ」

多分偽名。チビ助はそう思った。

ジョンは懐からシュガーケースを出した。それは黒革の普通よりも一回り大きい。中にはぎっしりと紙巻きタバコが入っていた。

「自分で巻いたんだが、1本どうだい?」

「ガキの前じゃ吸わないんで」

「そうかい。じゃあ、チビ助君にはこれを」

ジョンは1度シュガーケースを懐にしまい。その手で今度は飴玉を出した。チビ助はそれを受け取り、包装紙を解き口に入れた。甘酸っぱいレモンの味がする。そしてチビ助はカーニャとシェフがいるところに向かった。

「じゃあどうだい1本」

おやっさんとアルジャンは煙草を受け取った。そして2人とも自分のマッチを取り出し火をつけた。

「目的は?」

「偶然会えるなんて、2人さんとお話でもと思って」

「単刀直入で言ってくれ」

アルジャンが初めて言った。

「では、話そう。君たち2人についてはこちらでもある程度は把握しているが、その裏付けが欲しい。無論、タダとは言わない」

「アルジャンや俺の話をしろと?」

「ええ。その通り」

アルジャンは煙草をゆっくりと吸ってから吐いた。吐いた煙はすぐに透明になった。

「俺は構わない。どうせ捨てた祖国だ。おやっさんは?」

「いいぜ別に」

おやっさんは煙草の先端が赤くなるほど強く息を吸った。そして柔かな顔を崩さない男の顔から視線に外し、遠くを眺める。

ジョンも煙草を咥え、火をつけた。

「じゃあ、話も纏まったわけだから、早速聞かせておくれ。先にオキタさん。君の話が聞きたい」

ジョンは待ちきれないように目をギラギラと輝かせ、口元はほころんでいる。

「何を話せばいい?」

「そうですね…」

ジョンは態とらしく、顎に手を寄せ考えてから言った。

「先ずは…」

ジョンは今の自分の顔が分かってるだろか?そうおやっさんは思った。笑顔なのだが、笑顔がもたらす安心感とは真逆の警戒心をもたらしかねない笑顔。残虐性な笑顔。この男、ジョン・タイターという人物をよく表していた。

「祖国に捨てられた時のあなたの気持ちが知りたいです!」

 

 

「ふざけた野郎だったな」

アルジャンは黒いシュガーケースの中からまた煙草を咥えた。話の礼にジョンから貰ったもので。密閉度が高く加湿器までついている優れもの。

「時間があったら、初めてのマスかきのネタまで聞かれる勢いだったな」

ジョンはもう時間だと言って残念そうにヘリに戻った。本当に残念そうに、聞き分けの無い子供のように護衛の2人に駄々をこねていた。

ジョンを乗せたヘリはローターをやかましく回した後、元来た方向に飛び去った。その間ジョンはずっと手を振っていた。

「そうゆうことじゃ無い」

アルジャンは手元のシュガーケースを見た。

「それが貰えたんだ。よかっただろ?」

「まあな。だけど…」

その先の言葉をおやっさんが言う。

「お前に気に入ってもらう為に愛煙家のふりをしていた、だろ?」

ここまでの道のりは長かっただろうに、愛煙家の癖にシュガーケースの中身には手を付けてはいなかった。

「忘れちまえよ。もうどうせ会わないさ」

そう言って煙草を自分の水筒の中に捨てた。そして地平線の向こうを凝視した。まだギリギリジョンを乗せたヘリが見えた。今頃ジョンは今の話思い出し、手に入れたアタッシュケースの中身を見て気味が悪い笑みを浮かべてるに違いない。なんせ、おやっさん達の話はジョンのような人物には最高の喜劇なんだろう。そしてアタッシュケースの中身は…

「20個のISコアなんて、釣り合うのかあの2人は?」

今回の取引は、アメリカに拘束された2人とISコア20個の交換らしい。

「俺たちには関係無いさ」




今回出てきた、高速ミサイルはローサットの小型化した物です。4連ロケットランチャーは有名なあれです。


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