インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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今回と次回はだいぶ長いです。内容そこまでじゃないけど。


第15話

チビ助達の一行がこの先に有るゴーストタウンに差し掛かろうとしていた。この先に有るゴーストタウンは一昔前にあったエカーボンと周辺国とのゴタゴタで住民がいなくなった場所で、時期を見計らって再開発するとかしないとか。

ゴーストタウンが見え始めたその時、チビ助は前方で何かが動くのを見た。 恐らくはマントを羽織った人。人数は1人しか居ない。チビ助にはこちらに気付いて立った様に見えた。

「誰か俺のライフルを取ってくれないか?」

すぐさまに誰かがチビ助の小銃を持って来た。

「ありがとう」

チビ助は礼を言って受け取った。チビ助の小銃はロングバレルが付いており、肩の力が無いので銃床は直銃床から曲銃床に変えられていて、何よりも今必要な高倍率のスコープが付いている。

小銃を構えスコープを覗いた。肉眼よりはっきりと見え、それはやはり1人しか居らず、マントに隠れて顔は見えなかったが体つきから女性だと分かった。

「おやっさん。前方に女性が1人。距離は5000から6000。繰り返す、前方に女性が1人。距離は5000から6000」

「武器は?」

直ぐに返事が返って来た。

「マント羽織っていて何を持っているかわからないけど、少なくとも重機は無いみたい。あと肉眼だったから正確じゃないけど、こっちに反応して立ったみたいだった、繰り返す?」

「大丈夫、分かった。先頭のハンヴィーに確認してもらおう」

おやっさんが無線機で重装トラックにいる指揮官に連絡を入れた。

「こちらおやっさん、こちらおやっさん。前方に不審者有り。繰り返す前方に不審者有り」

『無人機から連絡があった。もう確認に向かわせた』

「そうですか」

おやっさんはそう言って無線機を切った。帆を捲って外を見るとハンヴィーが1台速度を上げて走って行った。

「おら起きろ、カーニャとシェフ。アルジャンも支度しろ。チビ助!ロープ切っておけ!」

おやっさんの一声で皆が慌ただしく動き始めた。

「おいおいおい!何やってんだよ!まだ何も命令が出てないだろ!」

助手席の男が怒鳴るような大きな声で言った。声が大きいのは不安だから。

「無人機の目を逃れてたんだぞ。唯の通りすがりの旅人じゃねえ。間違い無くあのトラックの中身が目的だ。生き残りたいだったら少しは自分で考えろ!」

言っている間におやっさん達は飛び出る準備を終えた。

チビ助はケープを脱ぎ捨て荷台に放り込み、ロープをナイフで切った。そして小銃のスリングを肩に掛け小銃を背中に持って行き何時でも飛び降りれるようした。

「考えてるよ!てめえらがろくでなしってなあ」

うるさい男だ。チビ助は呆れて蹴るのも嫌になった。

「俺は死なねえがてめえらのせいでー」

男の声は爆音にかき消された。確認に向かった先頭のハンヴィーがやられた。そしてすぐに、車両の間を縫ってミサイルが1発、重装トラックを吹っ飛ばした。

トラックが急ブレーキ。おやっさん達はすぐさま飛び降りた。

「ひとまず全員安全地帯に行け。そこで落ち合おう」

おやっさんが指示を出すと駆け出し、残りも続いた。チビ助は運転手側に降りるとドアを開けて運転手の腕を掴み引っ張り出した。おやっさん達とチビ助は進行方向とは逆に駆け出す。それと同時に遥か彼方で無人機が燃え上がりながら地面に落ちて来るのが見えた。

隣のトラックも止まり何人もの人が降りて来て、爆音に元に向かう。

トラックと装甲車の半ばあたりで先ほどまで乗っていたトラックが蜂の巣にされる音が聞こえた。そして爆音に。

チビ助がトラックから離れ装甲車の近くに差し掛かった。先ほどから銃や爆発音、そして悲鳴が止まない。おやっさん達は見当たらないが多分大丈夫。装甲車は2門の機関砲を上空に向けて連射している。ここに来てやっと引っ張っていた運転手は体勢を立て直し足取りが軽くなった。

装甲車の横を通り過ぎようとしたその時。弾丸の雨が降り注いだ。その雨は装甲車に殴りつけ、幸い爆発しなかったものの装甲車沈黙させた。弾丸はチビ助には降りかから無かったが、チビ助は違和感を覚える。引っ張っていた手が軽くなった。

「なに腕だけを引っ張ってるんだ!」

何処からとも無くシェフが言った。

チビ助が振り返ると運転手は腕だけになっていた。腕に残る腕時計が目に付く。

「腕時計が欲しくてね」

チビ助は手から腕時計を外し名前が彫って有ることを確認してからポーチに入れる。そして腕を捨てた。

重装トラックと装甲車の半ばあたり。何かが飛翔する音が聞こえた。ミサイルだ。チビ助は飛び込みながら伏せ頭庇う。沈黙していた装甲車はトドメの一撃を貰い爆散した。砂埃を被りながチビ助は立ち上がりまた走る。重装トラックの先の車両や人が機銃掃射をされた。人が次々と肉塊に。ミサイルが何発も放たれ、車両が屑鉄と化していく。それでもチビ助は走った。まだ無傷の重装トラックの元に。これだけ苛烈な攻撃を受けているにも関わらずトラックは無傷。つまりは相手は護衛対象を奪取して来ている、しかも無傷で。障害物の無いこの荒野で唯一の安全地帯はあそこだけだ。たぶん。

遂に重装トラックの元に着いたチビ助はすぐさまトラックに貼り付く様に側面にもたれ掛かった。一息着こうと腰を下ろそうとしたが出来なかった。重厚な発砲音が連なり、何発もら放たれた弾丸が砂煙を上げた。それがどんどん近づいて来た。そして、

「うあああああ」

自分の悲鳴じゃない。誰かがやられたんだ。どうやら自分を狙ったのでは無く、こちらに逃げて来た誰かを狙ったらしい。何時の間にか額に汗をかいていたので、袖で拭いた。やっぱり暑い。

呼吸を整え周りを見渡した時にそれを見つける。それは指輪。身体から離れた指に嵌めてある指輪。唯の指輪なのだが、こんな時にも関わらずそれを手に取る。

その時、トラックの後方のリアドアの前に何かが降ってきた。それはチビ助が生まれて初めて見るISだった。地上最強の兵器と聞いていたので、ガチガチのゴテゴテの姿を想像していたが違った。色は緑色を基調としていて、背中に翼の様なパーツが浮遊している。手脚に装甲のパーツなのか装備しているが、胴体付近は露出していた。大丈夫か?もっとも戦闘能力は先ほど嫌になるほど見せ付けられたが。頭はヘルメットを被っていてバイザーで表情は分からない。そして両手には銃口から硝煙を上げるている機関銃に無反動砲にマガジンがついたようなミサイルランチャーを持っていた。

降ってきたISは地面を揺らすこと無く着地すると迷わずチビ助に機関銃の銃口を向ける。銃口を向けられたチビ助は動けなかった。死の恐怖で硬直したのでは無い。ふと頭を過った不安を、今までの出来事がその信憑性を肯定していた。おやっさん達はどうなったのだろうか?

「まだ生きていたかの。死ねぇぇぇぇ!」

だがISは引き金を引か無かった。表情は見えないが、チビ助の顔をまじまじと見た。

「なんだガキじゃねえか。その手に持ってるもん置いてさっさと失せな」

ISが持っていたミサイルランチャーが光を放ったかと思うと、煙のように消えてしまった。

「なんだ?震えて動けねぇか?ハハハッ。まっ仕方ないか」

ISがトラックのリアドアに手を伸ばす。

さっきの悲鳴。今思えばシェフのものだったかもしれない。他のメンバーは?考え無くてもわかる。

あのISを倒したい。チビ助は小銃を構えようとする。だが辞めた。相手は最強兵器と評されるIS。木棒に毛が生えた程度のもので倒せる筈が無い。チビ助は無力感に襲われた。 だが直ぐに勝てる気がした。この手に有る物を使えば。

この手に有る物。指に嵌めてある指輪は所有者を失ったISコアだった。

 

 

オータムが護衛部隊を粗方片付け、目標のトラックの前に降り立った。

降り立って直ぐに、ISコアの反応が有ることに気が付き機関銃を向ける。

「まだ生きてたのか。死ねぇぇぇぇ!」

オータムは殺す気でいたが、相手を見て辞めた。武器を持っているとはいえ相手はまだ年端も行かない子供だった。それにISコアを持っているとはいえ男。

「なんだガキじゃねえか。その手に持っている置いてさっさと失せな」

そう言ったが、相手は固まって動かない。エカーボンの軍事ISの奪取も優先度は低い目標だが本命を先にと、オータムはミサイルランチャーを量子化、格納領域に収納した。そうして空いた手をリアドアに伸ばす。

「なんだ?震えて動けねぇか?ハハハッ。まっ仕方ないか」

トラックは対ハイパーセンサー用の不可視コーティングが成されており、中身は見えなかった。これの所為で2台有るトラックのどちらが目標でどちらがIS操縦者が乗っているか分からなかった。だが内通者のおかげで先程はIS操縦者をIS起動前に叩くことができた。

「やっとこんな所からおさらばだぜ」

リアドアを開けたオータムが見たのは、床に頭を庇い伏せている人が4人。携帯ミサイルをこちらに構えている男が1人。

 

「ウェルカム!」

ミサイルを構えていたおやっさんが歓喜に似た叫びを上げながらミサイルを撃った。ミサイルのバックブラストは運転席側の窓を吹き飛ばし、ミサイルはオータムに腹部に当たり、オータムを吹き飛ばした。

オータムは装甲車の残骸に当たり、オータムを押していたミサイルの信管が作動爆発した。

「ディスイズアフリカ。略してTIA、覚えとけ!」

おやっさんは肩に担いでいた発射機を放り投げ、チビ助の方を見た。

「感動の再開は後だチビ助!早く乗れ!」

唖然としていたチビ助は我に返り渋々トラックに乗った。渋々になったのは、生きていたことが嬉しい反面その事を見透かされていたのが恥ずかしかったから。

恥ずかしさからチビ助はトラックに乗り込ながら口を開く。

「おやっさん、狭所でミサイルは無茶だよ。おかげで運転席に黒焦げ死体が…」

「誰が黒焦げ死体じゃい!」

チビ助は運転席に黒い人影が見えたので言ったが、どうやらシェフだった。

「シェフ…殺されたんじゃ…」

「生きとるわ!種も仕掛けもねぇぇぞ!」

どうやらさっきの悲鳴はチビ助の聞き間違いだったらしい。

「シェフ!くだらない事言ってないで早く出せ!目的地はこの先の街だ!」

「おやっさん!逃げるの?」

予想していたとはいえ、チビ助が訊いた。

「安心しろ。相手の目的はこのトラック。時間が無いんだ、残党狩りなんてやらないさ」

またも見透かされていた。チビ助は何も言えなかった。

トラックの中は、運転席側と荷台側が繋がっていて。荷台側は左右両側に革張りのシートが設けられており、運転席側と荷台側の出入り口付近でシートが途切れていて、そこに丁度嵌るように両側にガンケースが山積みになっている。そして左側のガンケースの上になぜかアタッシュケースがあった。今回の護衛対象だろうか。

シェフはアクセルをいっぱいに踏み車を走らせた。その際アルジャンとカーニャは手榴弾を数個、レバーを握り安全ピンを抜き順序ISがいるであろう黒煙の向こうに投げていく。そしてリアドアを閉め破片を防いだ。

先の奇襲により凹凸が激しくなった道を、上下に激しく揺れながらトラックは進んだ。時折何かを踏んで、トラックは浮き上がる。装甲車の残骸になのかそれとも…。

トラックの中、チビ助は仲間が全員いるのを確認して安心したが1人男が多いことに気がつく。その男の顔に見覚えがあった。今回の仕事の指揮官だ。指揮官はシートに縮こまり頭を抱えて震え上がっていた。

そんな指揮官を見てもチビ助は見下す様な気持ちは無かった。これが正常なのだ。最強の兵器で有るISが襲ってきたのだ。本来ならこれが正常なのだ。異常なのは、鼻歌交じりに運転するシェフ。先程から無線を使い応援を呼びながら吹っ飛ばされたバックパックの中身を心配するおやっさん。使えるものは無いかガンケース漁りをするアルジャン。チビ助の元に来て怪我をしてないか心配するカーニャ。そして絶望的な状況からまだ解放されて居ないにも関わらず喜ぶチビ助。

「チビ助!これを使えるか?」

アルジャンがガンケースの中からライフルを取り出した。それは1,5mもある対物ライフルだった。口径は20mmのボルトアクション式。スコープが着いていてその横には観測器と弾道計算機を1つにしたFCSが着いていて、丁度スコープを覗きながら左目で見れる様になっている。

「分かんない、けど!こんなデカ物使ってみたかったんだ!」

チビ助は空になったガンケースをリアドアの手前に置き、リアドアを開けた。アルジャンは対物ライフルをそのガンケースの上に銃口のマズルブレーキが車外に出るよう二脚を立て置き、チビ助にライフルのグリップを握らせる。そして自分はスポッティングスコープを取り出した。

「チビ助!こういう事は辞ろって言ったでしょ!」

チビ助の後ろでカーニャが怒り出した。これからライフルを撃つ事では無い。もっと別の事である。カーニャが怒り出したがチビ助はスコープを覗き、カーニャに向こうとはしなかった。

「アルジャン、ISは?」

「まだ俺も見つけてない。カーニャ、今はそれどころじゃ無い。後にしてくれ」

先程ミサイルの直撃を受けたISはまだ姿を表さなかった。

「いいえ!あんたは黙ってて!チビ助分かってる?こんな事をしても感謝されるどころか、石を投げられるだけ。これは見逃してあげる。だからもう辞めなさい」

カーニャはそう言って、指だけになった指に嵌められた指輪をチビ助の腰のポーチから出した。その際、腕時計も見つける。

「まだ有ったの…」

カーニャは呆れながらも強く念を押すように言った。

「ほって置いてくれ」

初めてチビ助がカーニャに喋った。

「チビー」

「チビ助居たぞ!さっき乗っていたトラックの残骸、こっちに向かって飛行してる」

カーニャの切望は現実の問題にかき消された。

「IS本体は狙うな、シールドエネルギーで防がれる。狙うなら武器か羽を狙え。シールドエネルギーが有っても20mmなら貫通できる」

アルジャンの言った通りISが居た。距離だいたい800m。どんどん狭まっていく。

ISはミサイルランチャーを左手で構えており、その砲門をこちらに向けていた。

「敵ミサイルランチャー保持!撃たせるか!」

チビ助はスコープのクロスヘアーを敵ISのミサイルランチャーに合わせる。FCSが弾道計算をしていてチビ助はその通りに照準を少し左に合わせる。しかしトラックが爆走しているので照準がなかなか定まらない。左にずれ上にずれまた左に。

対物ライフルが火を吹いた。揺れることによって照準が一瞬だけ合い、その一瞬でチビ助は引き金を引いた。

放たれた弾はチビ助が照準を合わせた、少し左下に命中した。

「あれ?」

チビ助は指示した位置に撃ったが外れてしまった。

アルジャンはFCSの観測器の値と自分のスポッティングスコープの値を比べる。

「計算機がそろばんとどっこいの代物だ。チビ助、観測器は大丈夫だ。自力で計算しろ」

チビ助はすぐさまボルトを引き、薬莢を排出し次弾を装填した。そしてもう一発とスコープを覗く。だがスコープでISを見た瞬間、ISがミサイルを放った。

「敵ミサイル!ブレイクブレイクブレイクブレイク…」

「それ空中戦闘機動!」

ミサイルがみるみるうちに近付いて来る。装甲車を黙らせた威力、当たったらひとたまりも無い。

「可愛い可愛いミサイルちゃん。今夜泊まる場所が無いの?いいね!うちに来るかい?来たい?でもだぁぁぁめっ!」

シェフがそう歌い始めた。歌詞もメロディーもめちゃくちゃ、しかし気持ち良さそうに歌った。

シェフは手頃な岩を見つけて、アクセルを全開。その岩目掛けてトラックをは爆走させ始めた。

岩が目の前に来た。しかしミサイルももう目と鼻の先。

「怖い大人たちが今乗ってるから他を当たってくれぇぇぇ!」

シェフはトラックの右側のタイヤ岩を踏ませた。そして目一杯にハンドルを左にきった。右側が浮きハンドルを急にきられたトラックは、右側のタイヤを地面から離し片輪走行をした。

「「うああああ」」

誰もシェフの行動を予想して居なかった為、トラック内でもみくちゃにされ全員が悲鳴を上げた。

急激に半身を浮かせたトラックを捉えきれずミサイルがトラックの股を通り過ぎ、トラックの前方で地面に接触、爆発した。爆発したのを確認してからシェフはハンドルを左にきって車体を平行に戻す。

「えぇぇぇお客様。気分はいいがでしょうか?」

自分でも上手く行くとは思っていなかったのか、興奮した様子のシェフが聞いた。

「楽しかったよ」

「痛ってぇぇぇぇ」

「よくやった!シェフ」

「今度やったら承知しないから!」

「っひ!生きてる?」

5人いるが、三者三様の答えが返った。

トラックは街を目指しまた走り出した。

 

「嘘だろ?」

オータムはそう呟いた。言葉のとおり信じられなかった。たかが生身の人間にここまで手こずらされるとは。奇跡だとしても重なり過ぎと。だがそれもここまで。

オータムはまたミサイルランチャーの砲門を向けた。

「これで終わりだ…」

オータムは先程は放ったが、正直引き金が重く感じた。あの子供を巻き込むのが疎ましく思った。

「恨むんだったら、お前に銃を持たせた大人を恨め」

やっと引き金を引く気なったオータムはもう1度照準を合わせる。

その時、ハイパーセンサーが警告を発した。どうやらあのトラックに狙われているらしいが、おそらくはあの子供が狙っている。

先程も外したし大丈夫だろと、気を許した時には20mmの炸裂弾がミサイルランチャーの銃身を通ってミサイルに着弾寸前だった。

 

スコープ越しにISが爆発に巻き込まれるのをチビ助は見ていた。

先程のトラックの無茶な挙動によって、壁に叩きつけられたチビ助だったが直ぐに体勢を立て直し照準を合わせ引き金を引いていた。

「命中、誤差は無い」

アルジャンが短く報告をする。

「今度は当てたなチビ助。さすがだ」

おやっさんがそうチビ助を褒めるのだが、チビ助が浮かれる前に次の指示を出す。

「同じ位置にまた撃て」

チビ助はすぐさま次弾を装填、発射した。そしてまた装填発射。機械的にその動作を繰り返す。

チビ助が射撃を繰り返している時、後ろのカーニャが体勢を立て直し手に有った指輪をしまおうとした。それを頭を抱えてばかりだった指揮官が、立ち上がる拍子に見た。

「そっそれは!」

死人が生き返ったかの様に生気を取り戻した指揮官は、もう1度指輪を見た。

「やっぱりそうだ!よしこれさえあれば。でもなんで起動しないんだ?そうだ!暗号鍵だ!それなら知ってる!よしよしよし!」

独り言を大音量で垂れ流した指揮官は、カーニャの両腕を掴んだ。

「君女だよね?」

カーニャは迷わず一発腹にお見舞いする。

「ぅぐっ。すっすまない、しかし君さえいればこの状況を打開できるかもしれない!」

「どうするんだ?」

「それはー」

「空軍機が後10分以内に来る。それまでの辛抱だ」

指揮官の声はおやっさんの声に音量負けして聞こえな買ったがカーニャには聞こえたらしく、カーニャは少し驚き頷いた。

「10分?なんでそんなに掛かるんだ?」

アルジャンが言った。

「ここは仮にも緩衝地帯だから、おいそれと航空機とISは持って来れないらしい。それと突然の要請で慌ててた」

「頑張って10分か…」

チビ助がライフルの弾倉を替えた。炸薬弾は既に弾切れで徹甲弾を装填した。そして再びスコープを覗くと、その僅かに間にISが現れこちらに接近しようとしていた。手には1振り、実体剣を持っている。羽はチビ助から見て本体に隠れる様に折りたたまれている。臆すること無く撃った。胸の真ん中を狙った弾は吸い込まれるように命中した。しかし風穴どころか、仰け反りすらしなかった。まるで豆鉄砲を撃たれたように、いや実際に豆鉄砲と変わらないのだろ。ISは世界最強の兵器。今までか上手くいっただけ、本来は勝てるどころか逃げ切る事すら出来ない相手だ。だがそれでもチビ助はまた撃った。また撃った。300mを切ったところでアルジャンとおやっさんが小銃をフルオートで射撃し始める。しかし20mm弾が効かないのに⒎62mm弾が効果が有るはずが無かった。

「これでいいの?」

何をしてるかわからないがカーニャの声がした。それに指揮官が応える。

「さぁやってくれ」

まるで別人のような復活ぶりを見せる指揮官の声には、妙な自信を感じた。だがそれもISの飛翔を止められなかった。

とうとうISが目の前まで来てしまった。

「洒落臭いだよ!」

チビ助達の抵抗が鼻についたのか、ISは叫び声を上げた。そして実体剣を振りかぶる。実体剣が高速で振動、振動音を出す。

「ひでぇ人生だったな。全く同情するよ」

振りかぶられた実体剣が真っ直ぐチビ助に振り下ろされる。

「チビ助!」

「避けろ!」

おやっさんとアルジャンが小銃を撃つが実体剣の斬撃を止められなかった。

チビ助は目を閉じることが出来ず、自分が2枚に下ろされるの最後まで見届ける。

筈だった。

実体剣がチビ助に到達するよりも早く何者かがISを殴りつけた。そして吹っ飛ばされるより早くISの首根っこを引っ掴み、何度も顔を殴った。

「うちの子に!手を出してるんじゃないわよ!」

チビ助を助けたのはカーニャだった。

カーニャの拳によってヘルメットが壊されていき、徐々に素顔を露わになっていく。チビ助が想像していた素顔はゴツゴツとした雌ゴリラのようなのを顔だと思っていたが。素顔は意外にも整っていて美人の分類に入るものだった。が今は苦痛に歪んでいる。

ISもやられっぱなしでは無く、実体剣を握り締め反撃を使用とする。

「クソ尼がぁぁぁ!」

実体剣を振るがカーニャがそれを許す筈が無い。カーニャは腹に渾身の一発を入れ怯ませる。

「ぐぉっ」

ISは唸り声を上げた拍子に唾液をカーニャをかけてしまった。

「口も汚きゃ、振る舞いも最悪。まるで売女。一体どんな人生歩んで来たの?」

ISが立ち直るよりも早く、カーニャはISの首と股間を掴み逆さに持ち上げた。

「再教育してあげる」

ISを頭から地面に刺した。その反動でトラックの前部分が浮かんだ。ミラー越しにその様子見ていたシェフはアクセスをまた全開に踏み込んだ。

「顔を洗いな!ついでに毒も吐きな!」

顔を引きずられISはもがくが組み伏せられ抜け出せない。其の間、チビ助、アルジャン、おやっさんは火器をデタラメにISを撃ち込んでいく。

ISはなんとか抜け出すため、トラックごと慣性制御で浮かせスラスターを吹かそうとする。

「チビ助撃て!」

だがおやっさんがチビ助の20mmライフルを支え銃口をスラスターに向け、チビ助引き金を引く。1つずつスラスター弾を撃ち込み、全基を破壊した。

「カーニャそいつを放り投げろ」

おやっさんが車内に響く銃声に負けないくらい大声で言った。

カーニャはISに肘を背中に入れ大人しくしてもらう。そして投げようとするが、アルジャンが手で制した。

「投げる前にこれを付けさせてくれ」

アルジャンはISに四角い弁当箱のようなものを括り付けた。

「これでよし。カーニャ投げろ」

「はいよっと!」

カーニャはISを高く放り投げた。

「「せーの」」

指揮官を除く全員が息を合わせる。

高々と投げられたISが空中で体勢を立て直した。そこで気付く。

「これ爆弾!」

四角い弁当箱のようなものは爆弾で、仕事を果たす直前だった。

爆弾が爆発した。

「「玉屋〜鍵屋〜」」

1人を除き全員が年甲斐も無く喜んだ。

「イーヤッホウ!さすがカーニャだぜ!ISをねじ伏せるなんて」

シェフがハンドルを叩き囃し立てる。

「そう褒めなくてもいいわよ。ISが有ったからねじ伏せられたんだから」

「「え?本当だISを装着してる」」

全員が驚いた。確かに至る所にISの装甲を付けていた。敵のISと似てはいるが羽の様なパーツは無く、胸と腕がより重厚になっていた。

「エカーボン空軍の第二世代IS、セイラか」

アルジャンが言った。アルジャンは何故か軍事関係の事に詳しい。他のメンバーにも言えることだが、今まで何をしていたのか気になる。

「ISを使わないでISを放り投げたと思ってたの?」

全員が目を逸らす。

「まあいいわ。それよりハイパーセンサーって言うだっけ。それがまだ敵ISがそう報告してるんだけど」

カーニャはそう言って目の前を指す。だがそこには何もない。

「カーニャなに指しているの?」

「IS操縦士にしか見えない空中投影映像があるんだ。本当は網膜に投影されてるけど」

カーニャの代わりにアルジャンが説明した。やっぱり何者だったんだ?

「そうか。アルジャン、ISの戦闘技術は有るか?有るなら拙速でいい、カーニャに教えろ」

おやっさんはそう指示した。そして散らかったガンケースを漁り使える物は無いか探した。チビ助もそれを手伝う。

「カーニャ、ISの操縦は難しくは無い。身体を動かす様にイメージすればいい。先ずは浮かんでみろ」

「浮かぶ?フムン」

カーニャは目を閉じる。そして眉間皺を寄せ、唸り始めた。

「どお、浮かんだ」

両足は床に着いたままだった。

「ダメそうか?」

おやっさんが手を止めずに聞いた。

「想定の範囲内。次、推進翼を展開してみろ。やり方はイメージ。イメージするんだ」

「イメージ?フムン」

カーニャは目を閉じる。そして眉間皺を寄せ、唸り始めた。

「どお、生えた?」

「流石にダメそうか?」

「まだだ、最後までだ。最後は武器を出してみろ。何でもいい武器を思い浮かべて出すんだ」

「フムン。どお出た」

おやっさんは作業を中断、アルジャンを見つめる。アルジャンもおやっさんを見つめる。お互い無表情。

「おやっさん、いいニュースだ」

「聞きたい」

「殴り合いは出来る」

このやりとりを見守っていた、指揮官が膝から崩れ落ちる。

「おしまいだ〜」

また指揮官は死人になった。だが確かに武器1つにスラスターを失ったとはいえ、ISに追いかけ回せれている状況じゃこうもなる。

「仕方ないな。みんな、ISを使えないのは皆同じだ。カーニャは悪くない。だが心配するな空軍がもうすぐ来る、それまで耐えればいい。いや」

おやっさんは自分の分隊のメンバーを見回した。どれ1人として、指揮官の様な死人になった者は居ない。生き残るために全力を尽くそうとしている。

「耐えるんじゃ無い。あいつに攻撃をさせないんだ。畳み掛け続けるんだ。奴の赤く濁った体液でこの赤土を耕してやれ。そして噛み付く気力を噛み砕いてやれ。脊髄反射で裸足で逃げるか地に額を擦り付けさせろ。簡単だろ?出来るだろ?願望だろ?」

指揮官以外が戦闘準備に入る。

ここの分隊の隊員は嫌われ者だ。

「いかれてる」

指揮官が震えながら言った。

指揮官にもこう言われる。でも確かな事がある。

「指揮官殿?聞きたい事があるのですが」

おやっさんが指揮官の頭を引っ張り上げ、無理矢理顔を上げさせる。指揮官の顔は引きつっていたがおやっさんは笑っていた。目は別に。

おやっさんが指揮官から頂いた情報を元に、手短に杜撰な作戦を説明した。本当に酷い作戦。もとい作戦ですら無い。殆ど出たとこ勝負な上運に頼るところが多い。

ゴーストタウンに着いた。それと同時に作戦に必要な人数が降りる。チビ助も作戦に最適なポイントを見つけ、駆け出す、小さな身体には大きい20mm口径のライフル背中に背負って。ゴーストタウンは建て物はしっかりとしていたが道には土手が目立ち、コンクリート舗装された道は疎らだった。しかし電気は通っていたのか電柱は有る。そんな町をチビ助は走った。

チビ助はまた皆と別れることになった。が心配は無かった。何故ならばこの分隊は死神にも嫌われている。




対物ライフルは完全に実物ではなくゲームをモデルにしました。
エカーボンのISセイラは、原作のラファールを基にエカーボンが独自改修した物です。
改修点は、電子機器は全取っ替え。初期設定の時点で最も脆いバイザーやスラスターを任意で展開する様にしたこと。これが原因でカーニャはスラスターが使えませんでした。他にも胸部装甲に電磁装甲のハードキルとEMCなどのソフトキルのアクティブ防護能力を付加したり。スラスターをアメリカ製に換装したり。腕のパーツはより大きくし、さらに高火力の武装を使用可能にしつつ、掌に小さな指を5本備え、歩兵用携帯火器が使用可能にしたりと、最早別物。高性能とはいえ、性能的には突出した物はエカーボンのお家芸のFCSのみ。

誤字脱字、表現ミス、御指摘お願いします。

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