インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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時間がかかるのは次回以降です。間違いました。すいません。


第13話

無我夢中で動いていた。ただそいつを止めるため、あの人を守るため、一夏は切り裂いた。その一撃は倒すに至らなくとも、あの人を守るという目的は果たせた。しかし黒いISは簡単には引き下がってはくれなかった。黒いISはビームを用務員目掛けて発射、一夏は盾になる形で受け止める。なんとか初弾は耐えるが、次弾は受け切れない。

黒いISが何かに横腹を殴られたように吹っ飛ばされた。

鈴が龍砲で一夏を助けたのだ。しかし黒いISはピンピンしている。

「大丈夫一夏!」

「なんとか…」

[セーフティラインヲ突破、離脱ヲ進言シマスガ]

競技基準なら負けているところまでシールドエネルギーを削られた。次は命に関わる。

「白式、俺はやるぞ。止めたって無駄だ」

一夏は後ろを向いた。用務員が瓦礫によって身動きが取れずにいた。しかもそれを黒いISは狙って撃った。一刻の猶予も無い。今すぐに倒さなければ。

『鈴、俺の合図でー』

『一夏!何よこれ攻撃要請って?』

『え?』

攻撃要請?一夏は白式を見た。

[攻撃要請等ノ準備完了。後ハ一夏様ノタイミングデ作戦ヲ開始シマス]

「手伝ってくれるのか。ありがとう」

頭の中でイメージを固め直す。白式や鈴が手伝ってくれる。絶対に成功する。

[当然ノ事ヲシタマデデス。白式ハ貴方ノISデス]

『鈴、白式、いくぞ!』

『ええ!』

[白式ガ貴方ヲ守リマス]

先程まで迷っていた鈴も、自信に満ちた一夏の顔を見て行動に移る。

[補充開始。完了マデ1、2、3…]

一夏の合図と共に、鈴が龍砲を連射した。そして徐々に黒いISを地面に向かって追い詰めて行く。

「ここでこれね!」

青龍刀を投擲。さらに2門の龍砲を最大威力で放った。

地面ギリギリに追い詰められた黒いISが衝撃砲後ろを下がり回避した。地面に当たった衝撃砲は派手に砂煙を巻き上げる。その砂煙の中から青龍刀が黒いIS目掛けて飛んで来て。黒いISは縦に高速回転するそれを機体を横に向けてやり過ごす。そしてすぐさま3門のビームを砂煙に向けた。一夏が砂煙の中から接近しようとしていたのだ。

「だめ一夏!バレてる」

鈴の制止を聞かず一夏は減速も回避もせず一直線に突っ込む。3門のビームが放たれた。砂煙の中、一夏はビームに飲み込まれた。

「一夏ぁぁぁぁ!」

鈴が叫んだ。終わったと、力なく肩を落とす。だが終わてはいなかった。

[…81、82、83…]

ビームが途切れた瞬間一夏、砂煙の中現れた。龍砲の一撃は砂煙だけではなく、大穴を開けておりその中で一夏はやり過ごしていた。

完全不意をつかれた黒いISは一夏の接近を許してしまう。一夏は横に斬った。だがその一撃も避けられてしまう。 一夏は避けられた勢いのまま黒いISから離脱しようとした。黒いISはそれを逃がすまいと、振り返り両腕を向けた。

[…87、88、89…]

振り返り黒いISが見たのは地面に刺さった青龍刀を足場にこちらに跳ぼうとしている一夏だった。

一夏はスラスターを全開に足腰を使って黒いIS目掛けて跳んだ。そして青龍刀は内蔵された高性能爆薬を爆破、一夏に驚異的な加速度を与える。

「零落白夜展開!」

雪片が変形、光刃が現れる。

黒いISはビームを放つ暇も避ける暇も無く切り裂かれた。だがその一撃は本体には届かずシールドエネルギーを削り両腕をもぎ取ることしか出来なかった。切断面から火花が飛び散る。返した刃でもう一度斬りかかった。だが重い両腕を失った分黒いISは速度が上がった。離脱する黒いISを一夏は捉えられず、間合いの外に逃がしてしまう。黒いISは頭部にエネルギーを集中、一夏を仕留めにかかる。

一夏は白式のカウントを見た。これが最後の一手だった。

[…91、92、…]

間に合わない。カウントが終わるよりも早く黒いISがビームを放つ。もうシールドエネルギーはなくビームにはもう耐えられない。

届かない。終わった。負けた。敗れた。死ぬ。千冬。それらの言葉が走馬灯の代わりに頭の中をぐるぐると回った。 すべてがスローモーションで流れた。何も考えられない、にもかかわらず僅かに残った冷静な頭の部分が体を動かした。

雪片を右手で握りしめ、左手で地面に掴まった。そして左手を力点に胴体を支点、右手の雪片が作用点に。一夏は雪片を投擲した。投げられた雪片は黒いISの腹部に刺さり、その瞬間に放たれたビームの射線をずらした。

一夏の左側を熱気が伝わる程にギリギリをビームが通った。

黒いISは腹部をやられたにもかかわらずまだ稼働していた。そしてまたビームを放つため、頭部にエネルギーを集中した。

[…99、100。何時行ケマス]

黒いISがビームを放つ。

[「瞬間加速(イグニッションブースト)!」]

スラスターに溜め込まれたエネルギーを一気に開放一夏を前に押す。爆発的な加速を与えられた一夏は瞬時に黒いISの懐まで持っていく。黒いISが放ったビームは瞬時に加速した一夏を捉えられず、空を切る。 しかし一夏には武器が無い。あるのは体だけ。だから武器にした。

一夏は肩を使い黒いISにタックルをかました。

「うぉぉぉぉぉぉ!」

黒いISは一夏のタックルを受け止め切れず、一夏と一緒に後ろに飛ばされる。ほんの一瞬で黒いISと一夏はアリーナの壁に激突、爆煙を立ち上げた。

「一夏!」

鈴は叫んだ。そして自分の弱さを呪った。今、黒いISと一夏のやり取りを見守ることした出来なかった。

『凰さん聞こえますか?』

千冬でも山田先生でも無い別の教員の通信が入ってきた。

「はい。聞こえてます」

『よかった。じゃあ手短に言うわね、こちらが指定するポイントを砲撃して欲しいの。タイミングも合わせて、アリーナのシールドを破壊するわ』

「わっわかりました」

鈴は龍砲をシールドに構えた。その時鈴のハイパーセンサーが一夏を捉えた。だが同時にもう一つ捉えた。黒いISはまだ健在だった。

「そんな…」

一夏と黒いISは両者共に、シールドエネルギーが尽き一夏は更に稼働エネルギーも尽きかけていた。エネルギーだけを見れば一夏は不利だが実際の状況はそうでもなかった。黒いISは仰向けに倒れ、その上に跨ぐ様に一夏は立っていた。そして黒いISの腹部に刺さった雪片を一夏は体重をかけ両手で深々と奥に押し込んで行く。

「…れ…止まれ、止まれ止まれ止まれ止まれ止まれ!」

絶叫なのか雄叫びなのかわからない叫びを一夏はあげいた。

雪片が胴体に食い込む程黒いISは肘までしか無い両手と両足をバタつかせた。バタつかせた元凶である一夏を止めるため黒いISは今一度頭にエネルギーを集中する。黒いISがビームを放つ直前、一夏は黒いISの首に掴みかかり顔を無理矢理上に向かした。

黒いISが放ったビームは上部にある壁とアリーナのシールドを破壊するだけで本来のターゲットを外した。そして四肢と共に頭も発狂したかの様に暴れさせ、ビームを照準構わず乱射。

対する一夏は黒いISの首と顎を掴み、組み伏せているが焦っていた。もう稼働エネルギーが持たないのだ。このままではやられる。そう思った一夏は気が付く。自分の鋭い爪を持った手と黒いISの頑丈な見た目とは反した柔らかそうな首元に。

「きゃぁぁぁ」

黒いISが壊したシールドから侵入しようとした教員が黒いISが放ったビームに当たった。その悲鳴を聞き一夏はやることにした。

一夏は左手で黒いISの顎を掴み上げさせた。右手で首を掴み爪を立てる。そして首を抉った。

『ぅんもぉぉぉぉぉぉ』

黒いISが悲鳴を上げた。だが一夏はまた抉った。火花と油を飛び散らせ、あらゆる配線がショートし放電する。次々と深々と一夏は黒いISの首を掘り返していく。とうとう四肢がピクリとも動かなくなった。それを確認して一夏は両手で黒いISの頭を掴み、肩に両足乗せた。

一夏は皮一枚で繋がった首を胴体から引き千切った。黒いISはもう動かなくなった。

首を鷲掴みに持ったまま一夏は振り返った。

「やったぜ!」

一夏は走りながらピットに向かおうとした。

『一夏!逃げろぉぉぉ!』

千冬が通信の向こうで叫んだ。

「え?」

黒いISの残骸から光が漏れ出した。それは最初は幾つかの小さな柱だったが直ぐに大きくなっていく。そして直ぐに眩しい光になって一夏を飲み込んで行く。

黒いISが大爆発した。

 

 

一夏は目が開けられないほど眩い空間の中で見た。

[単一機能強制発動]

そこで一夏は意識を失う。

[白式絶縁]

 

 

アリーナの中で一夏は黒いISと戦っていた。

一夏は地面に刺さった青龍刀を足場に、下半身のバネを利用して黒いIS目掛けて跳躍した。それと同時に青龍刀が爆発、一夏に爆発的な加速度を与える。

雪片が変形、光刃が現れる。黒いISは避ける間も無く両手でを一夏に斬り落とされる。

「きゃぁぁぁぁぁぁ」

甲高い女性の悲鳴が響いた。黒いISの両腕の切断面から血が飛び散った。

なんで?無人機の筈じゃ。一夏はこれ以上は辞めようとしたが、体が勝手に動く。

逃げようとする黒いISに雪片が投げられた。それは腹部を貫通、また流血させた。黒いISは地面に落下した。

地面に横たわる黒いISの首を掴み上げた。

「瞬間加速(イグニッションブースト)」

爆発的な推力を持って地面に叩きつけた。

「…お願い…します。た…すけて…お願い…」

弱々しく悲願する女性の声。

知っている。一夏はこの後どうなるか知っている。

女性の頭を鷲掴みに持ち上げ、首元も掴む。そして、

「やめて!お願い!助けて!命だけは命だけはっいやぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

「うぁぁぁぁぁぁぁ!」

「うぉぉうっ痛って」

勢いよくベットの上で一夏は飛び起きた。それに驚きベットの近くで座っていた丹陽が後ろに倒れ、壁に後頭部をぶつける。

「はぁはぁはぁ…夢…か」

一夏は周りを見渡した。一夏は保険室のベットに居るようで、一夏と丹陽以外誰もいない。丹陽は後頭部を抑え地面にうずくまっていた。後何故か包帯を頭に巻いている。

「丹陽どうした!大丈夫か?」

「まるまるこっちの台詞。どうした急に跳ね起きやがって?びびったぞ」

丹陽は起き上がり椅子に座った。

「いやあなんでも無い、大丈夫うん大丈夫。」

背中に冷や汗を書きながら言った。まだ肉を引き裂いた音が耳から離れない。

「うーん?大丈夫なら別にいいけど」

丹陽は疑いながらも、それ以上は聞かなかった。

「ところで丹陽、皆は無事か?」

「ああ。クマ吉って知らないか、用務員が一人足に怪我しただけで他はお前も含めて全員無事。しっかしすごいな一夏。あれだけの爆発に巻き込まれて五体満足。かすり傷すら無い。自爆スイッチ付けてみれば?」

「いや遠慮しておくよ」

一夏は言われて思い出し自分の身体を見た。何一つ失っていない。ひとまず安堵した。

一夏は黒いISのことを考えた。丹陽の話から察するにあの黒いISは無人機だったらしいが、もしも人が乗っていたら?そうゆう疑問を一夏は丹陽にぶつけてしまった。

「丹陽。もしあの無人機に人がいたらどうなっていた?」

顔を下げ一夏は言った。丹陽からは表情が見えない。

「怪我してたかもな」

「丹陽!」

一夏は怒鳴っていた。ベットのシーツを握り締め俯いていた。

「大怪我していた」

「本当のこと言ってくれ。両腕斬り落とされて腹貫通して首無しでどうやったら生きられるんだよ!」

無我夢中でやっていた。あの用務員や生徒守りたかった。ただそれだけの為にやった選択は下手をすれば、他の誰かを殺していた。

「優しんだな一夏は」

一夏が顔を上げると丹陽が微笑んでいた。

「身内が殺されかけたのに相手を心配するなんて」

丹陽の言葉に一夏は悟った、自分の事を。それは丹陽が考えもしないことだった。

「俺はそれでいいと思う」

丹陽はそう付け加えた。

違う。そうじゃ無い。俺はお前が思っているような人間じゃない。一夏はそう言いたかった。でも言えなかった。

「今回の件はトロッコ問題みたいで答えなんか無いんだし気にするな。あっそうそうこれ渡そうとしてたんだ」

丹陽は足元にあった紙箱出した。それにはミセスドラヤキと英語で書いてあった。

「はい見舞い品のどら焼き」

一夏は紙箱を受け取り中身を見た。一夏の記憶が正しければミセスドラヤキはどら焼きよりも有名な品があった筈だが。

中に入っていたのはシュークリームだった。

「この前、簪から貰ったんだけど美味しくてな」

一夏は困惑した。ワザとなのかとさえ思ったが言おうとした。

「丹陽。これは…」

「目が覚めたか」

男が1人保健室に入ってきた。作業着では無く白衣を着ていて黒縁眼鏡を掛けていたが一夏は見覚えがあった。

この前は作業着を着て鈴と話していた男、衆生朱道だ。

「貴方はたしか…」

直ぐに一夏の疑問に気付いた朱道が答える。

「元々僕は保険室勤務。この前はたまたまあの格好をしてただけ。名前は衆生朱道。漢字はこう書く」

朱道が胸元のネームプレートを見せる。

「大丈夫そうだけど、明日でいいから来なさい。万が一の為に精密検査を行うから」

「わかりました」

一夏は返事をしてからベットから出ようとした。

「ところで衆生?」

突然、丹陽が言った。

「この包帯外していいか?邪魔なんだが」

「怪我が治って無いからダメ」

「怪我ってたんこぶだけど」

丹陽が後頭部を摩りながら言った。

「ならいい」

衆生は包帯の留め金を外して包帯を解いた。そして丹陽の肩まである後ろ髪を纏め始めた。

「衆生どうした?」

「さっき言ってたじゃないか、髪が長くて邪魔だって」

丹陽は衆生にされるがまま、人に突然髪を触られたにも関わらず抵抗せずにいた。

「髪を切って欲しいと言ったんだ。または床屋を教えてくれって」

「いい髪質をしてるんだ。切るなんて勿体無い」

そう言って衆生は纏めた髪を後ろで一つ結びにした。髪を留めているのは飾りっ気の無い山吹色のヘアリング。

「これでどうだい?」

丹陽は頭を振って髪の感触を確かめる。

「動きやすいけど、なんでヘアリングなんて持ってるんだ?」

「さっき言った前の恋人の貰い物。受け取ってくれ」

丹陽は遠慮しながらも言った。

「いいのか俺が貰って?」

「いいんだ。持っていて欲しい、君に…」

衆生が言った最後の方の言葉は丹陽には声が小さく聞こえなかった。

「あの〜、丹陽と衆生さん。そんなに前々から仲良かったっけ?」

一夏は訊いた。一夏は丹陽が用務員とよく話しているのは知っていたが、衆生と話しているのは見たこと無かったし衆生の事を丹陽から聞いたことも無い。

「「いいや」」

2人とも正直に言った。現に丹陽の頭のたんこぶは衆生が作ったもの。

「じゃあ何時頃から?」

「「さっき」」

 

一夏はさっきわかった、自分の事が。用務員を助けたかった。その気持ちに嘘偽りは無い。だが同時に、自分は汚れたくは無かった。白いままでいたかった。一夏(ひとなつ)では無く永遠に。




オリ主サイドはなにがあったかはしばらく後の話になります。なぜなら次回はエカーボンの話になります。


誤字脱字、表現ミス、御指摘お願いします。

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