インフィニットストラトス 〜IF Ghost〜   作:地雷上等兵

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次回までの投稿は少し遅れます。書いてはあるんですが少し手直しをしなければいけないところがあったのと、残りの話と調整しなきゃいけないところがあったので。


第12話

「ふう〜」

簪はたった今、クラス対抗試合を終えピットに戻った。そしてISを装着したままハンガーに入った。固定用のフックに身を任せ、ISを量子変換すること無く解除した。

試合の結果は当然簪の勝ちだったが、帰った簪は浮かない顔をしていた。

理由は姉で有る楯無と丹陽がいなかったから。丹陽は言ってはいなかったが、楯無は必ず応援に行くと言っていたのに。

「はぁ」

「どうしたのかんちゃん?」

のほほんさんが心配そうに簪に訊いた。

丹陽と楯無は来なかったが、代わりにのほほんさんとクラスメイト数人が応援に来てくれた。

「うんうんなんでも無い」

もしかしたら丹陽は一夏を応援に行ってるのかもしれない。でも簪にとってそれは構わないことだった。

「じゃあかんちゃん、エネルギー補給ねぇ。被弾してなかったけど、一応の為に簡単な点検はしておくから」

シールドエネルギーが消費されていなかった為エネルギー補給は直ぐに終わりのほほんさんは点検を始めた。

簪はピットから出て一夏達がいるアリーナの方向を見た。簪にとってこのクラス対抗戦の最大の目的は一夏をコテンパンにする事。決意改めて、身を引き締める。

「絶対勝つから」

そう言った直後。簪は視界の端に何かをとられる。それはほぼ真上一夏達がいるアリーナに一直線に高速で突っ込んでいた。

 

 

鈴を抱えたまま一夏は、黒いISが次々と放ってくるビームを回避する。鈴と一夏はさっきまでの戦闘で消耗していて、対する黒いISのビームはセシリアよりも高出力。被弾したらただでは済まない。

黒いISの弾幕が途絶え、一夏は一度停止する。

「ちょっといつまでこうしてる気よ!さっさと降ろしなさい」

抱きかかえられていた、鈴は暴れなんとか一夏から降りる。一夏は気付かなかったが鈴の頬は紅潮していた。

「あんたって本当にデリカシーが無いんだから」

腕を組みそっぽを向く。

「なあ鈴?」

「何よ?」

真剣な一夏の声に鈴は気持ちを入れ替える。

「遮断シールドがなんで張られてるのだ」

「それはそれはつまり…」

遮断シールドは外からの侵入者を防止する目的とものだが中から外に出ることも出来ない。何かのドッキリならシールドを張り続ける意味はわかるが、さっきの千冬の通信、ドッキリでは無い。だったら突然の侵入者が来た場合生徒である一夏達はすぐさま逃げなければならないのだが。遮断シールドは黒いISの侵入を許したあとまた張られている。

「それに微かに聞こえたが観客席で生徒が閉じ込められてるらしい」

「え!」

鈴は観客席の方を見た。防弾シャッターが雛壇状に設置された観客席を覆っていたが、ハイパーセンサーで中の音がわかった。悲鳴や助けを求める声が響いていた。

「このアリーナ閉じ込められているのじゃないか?」

鈴は黙った。代わりに千冬からの通信がきた。

『そうだ。今戦闘教員達が集結している。じきにシールドを破り助けに来る。お前達は逃げ回っていろ、いいな。決して戦うな、わかったか?』

「来るまでどれだけ掛かるんだ?」

『すぐにだ』

「わかった」

一夏は雪片を構えた。

『一夏やめろ!』

「何やってるの一夏!相手は実力は未知数。しかもあんたさっきの戦闘で消耗してるじゃない。あんたは逃げ回ってなさいわたしがやるわ」

鈴が龍砲を構えた。

「消耗はお互い様だろ」

「でもあんたはIS初心者で」

一夏が鈴のほうを向いた。

「俺じゃあ不安か?」

「いっいや別にそうゆうわけじゃ」

一夏の真っ直ぐに見てくる目を鈴は直視出来ずに顔を背ける。

「じゃあ決まりだ。一緒に奴をやろう。勝てなくても疲労させて被害を抑えれるかも」

「わかった。でもその前にISネットワークのプライベートチャンネル開いておいて。敵にこちらの話を聞かせる義理はないから」

「わかった」

一夏とりんはプライベートチャンネルを開いた。

『鈴!俺が囮になるからその間に青龍刀を取ってこい』

『わかった。でもその後どうするの?』

『俺が前衛。鈴が後衛。それを基本に後は流れで』

『要するに出たとこ勝負ってこと』

『最高だろう?』

『最低よ。でもそれぐらいで十分よ』

『じゃあ行くぞ!』

『ええ!』

一夏が突っ込んだ。

 

 

「どいつもこいつも!馬鹿どもが!わたしの言うことを聞け!」

千冬はに画面の向こうに居る2人に向かって怒鳴るが当然の如く聞こえない。怒りを抑えきれず、手前にある机を叩く。怒りを抑えきれなかったのは、2人の命令違反もそうだが。アリーナが何者かにハッキングされており、観客席は閉じ込められピットの扉も開かない。

「千冬先生落ち着いてください」

机を叩く音で驚いた後、山田先生が控えめに説得する。

「分かってる山田先生。教員達の集結状況は?」

頭痛がするのか頭に手を当てながらも落ち着いた千冬が事態を少しでも好転させようと質問した。

「すぐにでも集結はできますが…」

「中の状況がわからないか」

「はい。外からも、そしてここからも観客席とは連絡が通じません」

シールドを破り入るにしても、扉を破り入るにしても観客席の生徒の状況がわからないのではいらぬ被害を出しかねない。 しかも観客席の隔壁はISの攻撃を想定しておりそう簡単には開かない。

「あ!今新たな通信が入りました」

山田先生がスピーカーの操作をして全員に聞こえる様に音を大きくした。

『ああ、こちら用務員こちら用務員繰り返す』

「聞こえてる」

用務員を名乗る男の応答に千冬は応えた。

『その声、千冬先生!ずっとファンでした。今度サインください!』

「いいから要件を答えろ!」

場違いな発言に千冬は其れ相応に応えた。

『ちぇ。まあいいや。今アリーナの空調ダクトに居るんですが。アリーナ隔離されるとここも閉まっちゃうという徹底ぶりは凄いですよね』

男は呑気に喋っていた。

「何が言いたい?」

『でもここの隔壁は凄い薄いんです』

意外な情報に千冬は飛び付く。

「すぐに破れそうか!」

『ええ。しかもダクトとの出口とも遠いので安全にやれます。ですが万が一のため、小型カメラを入れてからにします』

「どれくらいで全て出来る」

『サインくれたら、5分で』

こんなことを言ってはいるが、スピーカーからはドリルが回っているおとがする。恐らく小型カメラを入れる場所を開けているのだろう。

「いいだろう」

『じゃあ頬っぺたにキスも』

男はどこまでも呑気に喋っていた。

「生首にするのであれば」

『じゃあサインだけで。通信終わり』

用務員は通信を切った。

「山田先生今の男の場所がわかるか?」

「はいわかります」

「よし。楯無と連絡とってそこに急行させろ。ダクトを使い観客席に直接入って状況の報告と生徒の保護を頼め!」

「はい!今やります」

山田先生は慌ただしく仕事にかかった。

「織斑先生!私は何を!何をすればいいんですか!」

先程まで蚊帳の外だったセシリアが声を上げた。声こそ大きいが不安げな表情をしていて、チラチラと何度もアリーナを写すディスプレイを見る。

「お前はそこで大人しくしてろ。それか少しでも事態が好転するよう祈ってろ」

千冬はセシリアに目を向けず突き放す様に言った。

「ただ見守れって言うんですか?そんな事できません」

「お前に一体何ができると言うんだ?第一今私達はここに閉じ込められているんだぞ?」

セシリアは一瞬顔を下げるとまた上げた。その顔は先程の不安げな表情とは違い、何か決意を固めた様子だった。

「何が出来るか、ご覧にして差し上げますわ!」

セシリアはISを展開、ライフルを扉に向ける。

「おい馬鹿やめろ!」

千冬の制止を聞かずセシリアは撃った。しかし撃たれた扉貫通されてはなかったが、赤く熱せられその形を歪めていた。

「まだまだ!」

セシリアはさらにブルーティアーズを展開乱射した。

「だからやめろ!」

千冬は叫ぶがセシリアは止まらない。

ブルーティアーズの一発が少し的を外した。外れたビームが近くにあった本を燃やす。燃えた本は煙を立たせる。立った煙は容赦無くスプリンクラーを作動させる。スプリンクラーが作動、ピット内に雨を降らした。

「だから言ったんだ」

ずぶ濡れの千冬が声を控えめに言った。怒りを抑えていることがその声状からわかる。

「でっですが先生っきゃーー」

水に使った影響かセシリアのライフル、スターライトが暴発した。全方位にビームが乱射、ありとあらゆる物を破壊する。

「うああああ」

「きゃあああ」

「ったく!」

千冬は仁王立ちで立ち、山田先生と箒は床に伏せた。

やっとスターライトの暴発が収まった。セシリアは呆然としていた。

「セシリア」

千冬の言葉にピクリと肩を震わす。

「お前の国は水につけただけで壊れる物を使っているのか?」

怒りを通り越し呆れた千冬が言った。

「いえ先生。泉さんや一夏さんとの戦いでスターライトのスペアも含めて全て壊れてしまいまして、仕方なく型落ちパーツを使っていてですね」

セシリアはたどたどしく言った。

「分かった。良いニュースと良いニュースが有る。聴きたいかセシリア?」

「はっはい…」

千冬はずぶ濡れになった上着を脱ぎながら言った。

「お灸を据えるのは後にしてやる。もう一つはお灸を据えるのはお前だけでじゃない。あの馬鹿も一緒だ!良かったなセシリア」

一体千冬先生は何回馬鹿と言ったんだろと考える程にセシリアは落ち込んでいた。

「あ…あの〜」

山田先生が立ち上がり、恐る恐る言った。

「悪いニュースがあるんですが?」

「何でしょう?」

山田先生は一度千冬の顔を見るがすぐに目を逸らす。千冬の顔は鬼の形相となっていて、直視するには堪え難い物だった。

「生徒会長の、楯無さんが今どこに居るか不明だそうです…」

千冬の怒りが爆発した。

 

 

強い。黒いISと対峙して一夏の感想こうだった。何度も攻撃を仕掛けたが、仕留めるどころか逆に何度もやられそうになった。しかも鈴の援護付きで。

『どうするのよ一夏。全然当たらないじゃない』

鈴の自慢の龍砲が何故か見切られており、黒いISに先程から擦りともしていない。

一夏は黒いISに接近、上段から切り下す。黒いISは長い両腕を交差させ一夏の攻撃を受け止めた。一夏はすぐさま黒いISの腕を足場に急降下、直後黒いISの頭が光りビームを放った。放たれたビームは一夏が先程までいた場所を撃ち抜いた。一夏に追撃しようとする黒いISを鈴が龍砲で制止した。

『別に当てなくても構わない消耗させろ。時間され稼げれば千冬姉達がなんとかしてくれる』

また頼るのか。一夏はいたたまれない気持ちになった。いつもいつもいつも、頼ってばかりで守られてばかりで。ISも手に入れたのに、何も変わってない。そうだ黒いIS。あいつを倒せれば何か変わるんじゃないか。

一夏は黒いISの行動を整理した。今まで黒いISはビームしか遠距離攻撃はない。しかしビームは高出力で1発でもアウト。そのビーム砲が両腕と頭と1門ずつ計3門。両腕は硬くまだ零落白夜は試してはいないが雪片は弾き返された。さらにでかい図体の割りに高い機動性は白式の機動性に迫る程だった。しかも異常な程に早い反応速度、まるでコンピュータの様に。

「コンピュータ!そうだ鈴!あいつ無人機なんじゃないか?」

「どうしたのよ?急に肉声なんて?無人機?そんなのまだアメリカが開発途中で完成してるわけないでしょ」

鈴が当たり前と言わんばかりの顔で答えた。

「そうか…」

[無人機デス」

「え?」

白式の突然のメッセージ。

[単純ナ行動パターン全身装甲生命反応皆無。無人機デアル可能性ハ高イデス]

白式が肯定している。ならばと考えをまとめた。鈴の青龍刀、一撃必殺の零落白夜、そして白式の機能。

[思考解析、白式ハ一夏様ノ作戦非推奨シマス]

またもや思考を読み取った白式が一夏の作戦を否定した。

「でも白式」

黒いISが鈴と一夏に向けて両腕のビームを放った。一夏は難なく避けたが、鈴は被弾してしまう。

[危険デス]

「白式!」

懇願するような声で言った。

[落チ着イテ]

一夏は我に返った。何を焦っていたのだろう?黒いISを倒したって千冬姉を超えられるわけでは無いのに。

「すまない白式」

[当然ノ事ヲシタマデデス]

一夏は黒いISの距離を置いて、周りを飛び回った。ビームを余裕を持って回避出来、尚且つ隙を見て攻撃を出来るもといするふりが出来る距離を保った。

時間され稼げればいい。先程鈴に言った言葉を自分に言い聞かす。確かに千冬姉を超えたい。でもそれ以上にもう千冬姉を悲しませたくはなかった。

悲しませたくない?なぜ?いつ悲しんだ?一夏こんな状況にもかかわらず記憶の扉が開きかけていた。一瞬泣いている千冬が脳裏を過った。一夏はそれを下から覗いている。そして泣いている自分はうわごとのように呟く。

「千冬姉…千冬姉…千冬姉」

一夏は小学生より前の記憶が無い。この記憶はきっとそれだ。

『一夏気付いた?』

鈴が龍砲を放ちつつ訊いた。一夏は現実に帰った。

『何に?』

『観客席。誰かが何処からか入ったみたいなの。生徒達がいなくなれば、多分先生達が入って来るわ』

『そうか!もう少しの辛抱か』

良い知らせだった。だが油断する気はない。気を引き締め直すため一夏は雪片を握り直した。

先程と同じ様に一夏は黒いISと距離を置き、ハエの様にうざったらしく周りを飛び回った。だが黒いISは一夏を気にしてはいない様だった。

「嘘だろ!やめろぉぉぉ!」

黒いISは両腕のビーム砲を観客席に向けた。そして一夏の制止を聞かずビームを放った。

 

 

千冬と通信をしていた用務員は、ダクトの中を四つん這いで歩いていた。後ろにもう1人用務員がいる。ダクトの中は人一人が四つん這いで入れる程の広さしか無かったが、用務員の体格はガッチリとしていたのに余裕を持てる程に広かった。

先程、ダクト内の隔壁を破り今は出口であるフィルターに差し掛かっている。フィルターはビス止めで固定されているのだが、強度があまり高くは無い。用務員は一度周りの様子を確認。周りに誰もいないことを確認フィルターを蹴り破った。ダクトの出口は地面から2mほどの高さが有り用務員はここまで来るのに使った工具をしたに落としてから飛び降りた。そして生徒達を探した。生徒達はすぐ近くにいて、何人かが用務員に気が付いてた。

「おーい。こっちこっち」

用務員が呼び掛けた。生徒達が全員用務員の方へやって来た。生徒達の人数は100人以上はいて、皆不安げな表情をしている。

「さあさあ並んで並んで。このダクトを通れば外に出れるから、僕を足場にどんどん登って」

用務員は壁に手をつき生徒達に背中を向けた。その様子を見て生徒達が1人1人ダクトに入って行った。

「あの〜」

1人の生徒が用務員に話しかけた。

「なんだい?」

「友達が1人、出口が無いか探してくるって言って何処か行っちゃって、まだ返って来ていないんです」

「わかった。探してくるからここで待っていて」

用務員の1人が走って行った。

件の生徒は別に隠れていたわけでは無いのですぐに見つかった。先程までいた場所の丁度反対側の隔壁の前で、恐らく隔壁を開けるための行動をしていた。

「見つけた。おーい」

生徒が振り返る。居なかった筈の用務員を見つけて少し驚くが、すぐに安堵した表情になる。

「用務員さん!もしかして出口が?」

「理解が早くて助かる。さあ行こう」

生徒が走ってその後ろに用務員が付いて行った。

出口まで半分といったところで、それは起こった。

上の方から轟音が響いた。同時に衝撃が走った。生徒は立ってられず、その場に倒れこむ。

用務員は上を見た。

「攻撃された?」

隔壁が、丁度用務員が居たところあたりが膨らんでいた。そして膨らんでいた場所は赤く熱せられていた。

用務員の勘が危険を告げていた。

「きゃっあ」

用務員は咄嗟に生徒を出口の方へ突き飛ばした。

「痛っい。何するんでー」

生徒の言葉は遮られた。

轟音と共に上の隔壁を破りビームが現れた。ビームは地面をえぐり、爆風を生み出す。生徒は爆風に吹き飛ばされた。だがあちらこちらに切り傷を作りながらも生徒は無事だった。

生徒が立ち上がり用務員がいた方を見た。煙と熱気が立ち込め、瓦礫が山になっていた。用務員は見当たらなかった。

「よっ用務員さん!」

返事が無い。

「そんな…」

「大丈夫だよ」

用務員が言った。

「本当に大丈夫ですか?」

「本当に。それより早く出口に向かって」

ひとまず安心した生徒だったが用務員の指示に不満を持ち反論する。

「でも置いて行けなんて…」

「どうせ瓦礫を退けられ無いでしょ。大丈夫、反対側から僕も出口の方へ行くから」

「わかりました。絶対あっちで会いましょう」

生徒はしぶしぶ走って行った。

用務員は実は大丈夫では無かった。

瓦礫に右足が挟まり身動きが取れずにいた。そしてビームで出来た隔壁の穴から、この騒動の犯人であろう黒いISが見えた。そいつは用務員を見つめ、ゆっくりとその両腕を向ける。両腕が光りビームを放つ準備をしていることが分かった。

「ダメぽ」

どこまでも呑気な用務員だった。

黒いISがビームを放つ瞬間、白い閃光が走った。それは黒いISを切り裂くは至らなくともビームの発射を防いだ。

「織斑君か」

一夏は雪片を握りしめ、黒いISの前に立ちはだかった。




ゴーレム戦もオリジナルになっています。


誤字脱字、表現ミス、御指摘お願いします。

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