麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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四十二話 虚と弾

「…」

「…」

 

 休日の町中は人が多く、あたりは騒がしかった。弾と虚は無言のまま歩きお互いに何から話した方がいいか悩んで時間が過ぎていく。

 

(あ~~何話せばいいんだよ…映画、いや、そもそも何観ればいいかわかんねぇし…)

 

 弾はため息をつき髪をかきあげる。と、建物に設置されている大型テレビを見て目が止まった。

 

「「――世界各地にて、テロ組織の動きが活発化しており軍はIS部隊を現地に派遣しているとの事ですが…」」

 

「「ISがあるのだから、たかがテロ組織など余裕でしょう」」

 

「「しかし、噂ではテロ組織との交戦中にISが機動しなくなり操縦者が殺されているとも聞いているんだぞ!! それに、生身でISと戦える兵士もいるとも聞いている!!」」

 

「「ふん、どうせデマか何かでしょ? 余計なことに惑わされてこれだから、男は」」

 

「「な、なんだと貴様!!」

 

 何かの生討論の番組がテレビに映り、スーツを着た女性が年をとった男性に向けくだらない発言をしたのがきっかけで、男女に分かれて互いを責め立てていた。

「男は何もできない」「女は黙って、子供をつくればいい」など、次第に子供の喧嘩のようになり画面が切り替わりCMが流れる。

 

(ISが機動しない…あの兵器か。確かにアレを使えばサミットにいる護衛ISは無力化できる)

 

 組織の研究チームが作りあげていた対IS用兵器。サミットで行う作戦にもこの兵器を使う事は知らされており、世界中の紛争で使える程の数を揃えていた事も知っていた。

 

(だが、隊長達はサミットの参加者を人質にとった後何をするんだ? ただ、IS委員会を潰すだけでは…)

 

 「あの…」

 「え? あ、すみません」

 

 CMの流れるテレビから目をそらし虚に謝る。今は作戦の事を考えている暇ではない、せっかく誘ってくれた虚を飽きさせないようにしようと映画館があるデパートに入る。

 弾は彼女に、どんな映画を観るか、趣味は何かなど顔を赤くしながら質問しぎこちないまま話しをする。

 

「ちょっと、まじうざいんだけど」

 

 二人が服売り場の近くを通ると、高価な服を着た女性が安物のスーツを着た男性にガンを飛ばしていた。女性は男性が持っていた靴を投げ飛ばし「これ、私の欲しい物じゃない」と大声で叫び、男性はひたすら謝る。

 

 ISの登場によりこういった光景があり、周りにいる人間は無視するか、好奇の目で二人の男女を見る。

 

「っ!!」

 

 弾は顔をしかめ、靴を慌てて拾う男を見る。昔、クラスの女子達に迫害を受けた自分の姿を思いだし、力強く拳を握る。今すぐにでも女の方を殴りたいと思った時、男の目が一瞬だけ、怪しくなったのが見えた。

 

 男は投げ捨てられた靴を片付け持っていた大量の紙袋を女性の傍に置きどこかに行く。そして、残された女性は舌打ちをし紙袋を拾うとした時ーー

 

 ドンッ!!

 

「「きゃぁぁぁぁ!!!」」

 

 紙袋から爆発が起こりあたりに人々の悲鳴が広がる。

 

「な、何…」

 

「っ!! くそ!!」

 

 呆然とする虚をかばいながら弾は舌打ちをした。爆心地の傍にいた女性だった黒い物を虚に見せないようにし、パニックを起こし逃げ惑う人々の中からさっきまで女性にコキ使われていた男性がいた。そして、右手には銃を持ち引き金を引く。

 

「くそ女ども!! よくも俺を奴隷みたいに扱いやがったな!! 」

 

 男は手当たり次第に目に映る女性に向け銃を向け引き金を引き続けた。床に赤い液体が流れ、銃声が起きるたびに誰かの苦痛の叫びが聞こえた。

 

「や、やめろ!!」

 

 男に向って飛び出す弾。男の持っていた銃を叩き落とし、鳩尾に一撃を加え男が口から唾液を流しながら倒れる。

 

「ぐふっ!!」

 

「なんでこんな事しやがる!? なんで、人をそんなに傷つけられるんだ!!」

 

「ふぅふぅ…お、おまえに分かるか!! あの、女は私の全てを奪った!! 金も家も全てだ!! 私の人生を踏み潰した女どもに制裁をしてなにが悪いんだ!!」

 

 男は床に落ちた銃を拾おうと手を伸ばすが、弾が足で踏みつけ銃を破壊し男を睨む。

 

「関係ない人間を巻き込んで、なにが制裁だ!! ふざけんな!!」

 

「ガキがふざけるな!! 私は正しいんだ!!」

 

 既に正気を失った男はポケットから何かのスイッチを取り出しすぐに押すと、建物が揺れた。一階の入口や各階の階段で爆発が起こり火と煙が逃げていた人達を襲う。

 

「クソ!! まだ爆弾を!?」

 

「女なんて、女なんて皆死ねばいいんだ!!」

 

 男は懐からナイフを取り出し走る。走った先には、壁にしがみつき座りこんでいる虚がいた。「やめろ!!」と弾が叫び、男を捕まえて床に叩きつけナイフを持った手を踏みつけ何かが砕けた音がした。

 

「あぁぁぁ!! 腕が!!」

 

 腕を砕かれ、悶える男を見て弾は表情を変えず男の体を踏みつける。足や腹部などから嫌な音が聞こえ、男は完全に痙攣をし気絶をしていた。そして、弾は男の顔に向け足をあげ振り落とそうとしたーー

 

「やめて!!」

 

 虚が弾の体にしがみつく。虚は目に涙を浮かべながら顔をあげ

 

「もうやめてください!!」

 

「でも、こいつは人を殺したんだ。こいつには生きている価値も…」

 

「人の価値は誰かに勝手に決めてもらうものじゃない!! それに、これ以上やったらあなたが人殺しになってしまう!!」

 

 燃えるフロアの中、二人は目を合わせる。弾は足をおろして、下を向きながら話し始めた。

 

「悪い、俺は既に人殺しさ」

 

「え?」

 

「こいつと同じ、女性やこの社会が憎くて体を改造していっぱい殺して…俺も生きている価値なんて本当はないさ」

 

「な、何を…きゃ!!」

 

 虚と男を抱え走る。階段をすっとばし、高い場所から飛び崩れた通路を進む。やがて、外の光が見える所まできて弾は二人を下ろす。

 

「…その、すみません。こんな目に合わせて…今日の事、俺の事はもう忘れてください」

 

 弾はそう告げ、煙の中に入り姿を消す。虚は後を追おうとしたが駆けつけた救助隊に止められ男と一緒に外に避難をしたが心あらずのまま歩き、その後身元の確認などが終わり彼女が学園の寮に戻ったのは夜の事だったーー

 

「…あ~~あ、やっぱり俺には普通の恋なんて無縁だった」

 

 自室のベッドに横になって呟く弾。その目には涙が浮かび、次次と涙が溢れでるのであった。

 


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