麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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三十六話 手がかり

 

 休日の昼時。織斑家の前にて不思議そうな顔をする秋人。その理由は、彼の後ろにいつの間にか追跡して来た七人の少女達の事だった。

 

「なんで皆もついて来たのさ?」

 

「わ、私がいて邪魔なのか?」

 

「いや、箒。そこまでは言ってないんだけど…」

 

 同学年である、箒や簪達が来るのはまだ分かるとして、何故、楯無が当たり前のようにいるのか? そんな視線を送ると、楯無が笑顔で答える。

 

「あら、私だけ仲間ハズレにするつもり? ひどいわ…」

 

 と、何を言ってもダメだと悟り。秋人はさっさと家に入る事にした。

 

「夕方までには寮に戻らないと行けないから、何か見つかればいいけど…ん? 鍵が…?」

 

 何故か家のドアの鍵が開いており、玄関には誰かの靴が置かれているのを見て全員警戒し、静かに家の中に入る。

 

 侵入者がもし、革命軍かファントム・タスクだったら戦闘が避けられない事に秋人達が緊張していると居間の方から香ばしい臭が漂う。

ここで、秋人達の中である人物の事が浮かび上がり、居間の扉を開くとーー

 

「って、お前ら!?」

 

 そこにいたのは、たこ焼き機を使って多くのたこ焼きを作っていた一夏がいた。

 

「に、兄さん!?」

 

「「一夏!!」」

 

「あら、こんな所で会えるなんて♪」

 

 秋人は思わず肩の力が抜け、箒と鈴が叫び、楯無が頬に手を当てて喜んでいた。

 

「え~~…お前ら、なんでいるんだ?」

 

 たこ焼きを食べながら、呆然とする秋人達に質問するが、秋人は「それは、こっちのセリフだよ…」と、秋人は大きなため息をつくのであったーー

 

 

 

「って、おい!! おまえ、何入れようとしてんだよ?」

 

「え、何をって…美味しくなるように、唐辛子を…」

 

「アホ!! そんな事したら、はっちゃんにタコ殴りにされるぞ!!」

 

「はっちゃんて誰ですの!? 」

 

 たこ焼きに変な物を入れようとしたセシリアに突っ込む一夏。織斑家では、急遽たこ焼きパーティが開催され、賑やかになって皆楽しんでいた。

 

「…美味しい」

 

「それにしても、何故コーラが大量に…」

 

 簪が、たこ焼きの感想を述べ、ラウラが大量にあるコーラを見てつぶやき、コップに入れてあるコーラを飲んで滅多に飲まないジュースが気に入ったのか満足な笑みを浮かべる。

 

「それにしても、まさか秋人のお兄さんがいたなんて…」

 

「本当、突然出たり消えたりでしょうがないわね…」

 

 コーラを片手に話をするシャルと、ふてくされるように視線をそらす鈴。だが、顔が赤くなりちらちらとたこ焼きを焼いている一夏を何度も見ている。と、たこ焼きを飲み込んだ秋人が、一夏に声をかけた。

 

「ところで兄さん、どうしてここに?」

「あぁ、腹減ったから。家に何かないかなって思って」

 

 世界中から注目されている男がしれっと答える。昔と違ってしまった兄にショックを受け、うなだれる秋人。と、一夏の後ろから楯無が抱きついてくる。

 

「ふふふ、捕まえた。ところで、一夏君。あの子達のISが変になった事について聞きたい事があるんだけど?」

 

「はぁ? 変って….つっ!!」

 

 一夏が脇腹の痛みに顔をしかめると、楯無はすかさず上着に手をかけ脇腹に巻かれた包帯が見えてしまう。

 

「い、一夏!?」

 

「あんた、それ!?」

 

箒と鈴が悲鳴に近い声をあげ、一夏に詰め寄る。一夏は「まぁ、なんだ。刺されただけだ」とだけ答え、楯無を引き剥がしコーラを飲む。

 

 この傷は、先日ファントム・タスクから連れてきたマドカに刺された物だが、一夏はそれを言わず、これ以上詮索されるのが面倒だと思い話を変えた。

 

「ところで、ISがどうしたって?」

 

「あぁ、そのことだが…」

 

 先にラウラが言い、指先を刃に変化させる。他にも、鈴の手の平に肉球ができ、シャルの目の前に見えない壁が出現し。セシリアだけは屋外に出て体の一部から蒼炎を出して一夏に見せた。

 

「こいつは…電脳世界で俺が使った能力だな…でも、なんでお前らのISに…? まさか、電脳世界で俺が能力を使ったせいか?」

 

「能力? ISの装備の事なのそれは?」

 

 シャルが一夏に質問をするが、ここで一夏は

 

「いや、これはISの能力とかじゃないが…てか、お前誰だったけ?」

 

「え!?」

 

「ちょっと、兄さん? この間学園で紹介したよ? …まさか、シャルだけでなく、他のもんなの名前も…」

 

「あぁ、忘れた」

 

 何の負い目も感じず一夏が答え、仕方なく改めて自己紹介をしてから(簪・楯無を除いて)能力についての説明に入った。

 

 一夏の冒険した世界には、海の悪魔の化身が宿るとされている「悪魔の実」と呼ばれる不思議な果実が存在する。それは、海の秘宝とも言われ、その実を一口かじるだけで異能の力を得る事ができた。

 

 そして、海で名を上げている海賊は、ほとんどがこの悪魔の実を食べた「能力者」が多い。能力には変なものもあるが、逆にとてつもない力を持つものがあり、力が欲しい者にとっては喉から手が出る程のまさしく宝のようなものだ。

 

 しかも、実は滅多に手に入らない希少な物であり、一つ売るだけで最低でも一億で売れる程であった。

 

 冒険の話は一夏からはある程度は聞いていたのだが、一部の者は悪魔の実についてはここで始めて聞くのであった。

 

「で、俺が使った能力だけど…」

 

 一夏がラウラを指差す。

 

「確かその能力はドフラミンゴのところにいた…そう、全身を武器に姿を変える事ができる「ブキブキの実」の能力だ 」

 

「武器だと…? 確かに、銃や刃物になると思ったらそういう事だったのか…」

 

 納得したラウラを見て、今度はシャルを見て話す一夏。

 

「そんで、次は…バリアを張る事ができる「バリバリの実」の力だな」

 

「バリア?」

 

「そうだ、ニワトリの奴が使っていたからな…そいつは、壁だけじゃなくて、使い方によっては階段やら、手に覆って攻撃したりすることができたな」

 

「へぇ…えっと、こんな感じかな?」

 

 見えない壁のバリアを動かし、バリアの形がまるで椅子のようになり、バリアの椅子に座るシャル。傍から見れば空気椅子をしているかのように見えるが、実際にシャルの尻の下にはバリア製の椅子が存在し、能力を持たない秋人達が驚いていた。

 

「で、次は鳥に変身できる奴だ。しかも、その力は不死鳥だ」

 

「不死鳥ですか?」

 

 不死鳥と聞き、セシリアが自身の体を見つめる。普通、不死鳥と聞けば赤い炎なのだが、なぜ蒼炎なのか一夏に質問するが「そこまでは知らない」と答える。

 

 さらに、セシリアの不死鳥の炎は敵や物を燃やす事は出来ないが、その変わり驚異的な回復力を持ち、あらゆる攻撃を防ぐ事ができる利点があるとの事だった。

 

「そんで、最後に鈴の能力だが…こいつは肉球であらゆる物を弾く能力だ」

 

「弾く?」

 

「あぁ、二キュ二キュの実の力で、触れた物を弾く事ができる。」

 

 一夏は黒騎士の腕だけを部分展開させ、肉球のついた熊の手を装備する。机の上にあったスプーンを肉球に乗せ、スプーンが肉球の上で何度もバウンドしてはねる。

 

 試しに、鈴も一夏と同じように角砂糖を肉球に乗せバウンドさせ、肉球の使い方に慣れてきたのか、角砂糖を増やし両手を使い始めた。

 

「…」

 

「? どうしたの?」

 

「あ、いや…その力を見ていると昔を思いだした。なんでもない…」

 

 一夏は、この力の元の持ち主である。鉄の体をした、かつて一味を救い二年間の修行の時間をくれた七武海を思いだし、心の中で感謝を述べた。

 

 

「だが、一夏。私だけは何も能力がないぞ?」

 

「? そうか、箒の時は能力使って無かったからか」

 

 箒は自身に力が付いてない事に肩を落としてしまう。電脳世界では、箒の前では能力ではなく剣で敵を倒したため、どうやら彼女には能力がつかなかったようだった。

 

「まさか、電脳世界で使ったその力が影響して、皆のISに...?」

 

「だが、この力は悪くはない」

 

 電脳ダイブしていなかった簪が冷静に皆の能力を分析し、ラウラが手を銃に変化させ満足していた。実際に、この間行われたキャノンボール・ファストでは侵入してきた武装した革命軍の兵相手にIS無しでも十分戦えたからだ。

 

 と、ここでバリアの椅子に座っていたシャルが

 

「でもさ、これって周りにバレたらまずいよね…」

 

 と言い出し、もし委員会にでもバレれば研究所行きがすぐに予想が付いて一夏も頷き、さらに重要な話が続く

 

「ちなみに、悪魔の実は食べると異能の力と引換にカナズチになるから、海とか水のあるところは注意しろ。入ってしまったら、二度と上がることができず沈むからな」

 

「そ、それを早く言いなさいよ!!」

 

一夏から能力の欠点を聞き、角砂糖で遊んでいた鈴が言い、手の平から角砂糖がバラバラと落ちて行き、慌てて皆が拾い集める。

 

 そんな中一夏は「いくら強い力があっても、そこには穴や弱点がある」と口にする。この言葉は幾多の強敵達と戦う内に一夏が学んだ一つであり、この言葉が後に彼女達にどう影響するかは今はわからない。

 

「ところで、お前らはどうしてここに来たんだよ?」

 

「それは…」

 

 砂糖を集め終えたところで一夏が質問し、秋人が答える。例の竜の蹄の紋章の事が気になり、もしかしたら何か手がかりが家に残っていると思い、探しに来た事。

 

 そして、自分達はIS委員会より近日行われる世界会議(サミット)の護衛を命じられており、任務の準備などで今日の夕方までには学園に戻らないといけないため、余り時間がない事を告られる。

 

「サミット?」

 

「そうよ、今世界中で様々な事が起こってるでしょ? 革命軍、ファントム・タスク、そして…黒騎士とか」

 

「おいこら、なんで俺なんだよ」

 

「それらに対しての会議で、IS委員会や各国の主要人物が集まるため、IS学園にも会場の護衛任務が入ったのよ。」

 

「って、無視すんなよ。それに俺は関係ないぞ」

 

いや、あんたは暴れ過ぎだよ…と、心の中で全員が突っ込む。一夏は、面倒だな~~とぼやいて、たこ焼き機を片付け始める。

 

「ほれ、これ片付けたらさっさと手がかり探すぞ。俺だって、まだ飯しか食ってないんだからな」

 

 これにも、箒達はあんたが飯を食べに来たんだろうがと思ったが、黙って片付けを手伝うのであった。

 

 ――その後、七人の少女と、二人の少年が家の中を捜索し、数時間が経ってしまう。秋人と一夏の部屋はもちろん、千冬の部屋や物置。さらに、昔両親が使っていた部屋も探すがこれと言った成果がないまま、外では夕陽が登り始める。

 

「どうしよう、もう時間が…」

 

 今、秋人と一夏は自分の部屋におり、時計を見るとそろそろ学園に戻る頃だった。だが、明日からは授業や世界会議(サミット)の準備とかがあり、次に来る機会は会議が終わってからのため、なんとしてでも今日中に何かを見つける必要があった。 

 

「うわぁ、懐かしいなこれ」

 

 一方で一夏は、自分の机から出た数冊のノートを見て懐かしみ、ページをめくると鍵開けのやり方などが書かれていた。実は、このノートは昔、千冬と秋人にコンプレックスを持っていた一夏が、二人よりも優れたいと思い、様々な技能を身に付けようと努力した証だった。

 

実際に、秋人と二人で誘拐された際、鍵開けの勉強をしていたおかげで手錠を外し逃げる事ができていた。

 

「兄さん…」

 

「悪い悪い。けど、なんにも出ないな…」

 

「そうだね…姉さんが父さんと母さんに関するものは全て捨てちゃったから…はぁ、結局ダメだったのかな…」

 

 押入れのダンボールを床に起き秋人がため息をつく。と、ドアがノックされ部屋に簪と鈴が入って来る。

 

「秋人、そろそろ」

 

「鈴…うん、わかってる。一度、皆を呼ぼうか」

 

 疲れた顔をして鈴と秋人が部屋から出ていき、簪と一夏だけが部屋に残る。一夏は、再びノートを広げ読み、簪は一度呼吸を整え声をかける。

 

「ん、どうした?」

 

「そ、その…ま、また会えるよね?」

 

「? まぁ、そうだな。」

 

「だったら、これを…」

 

 簪は顔を赤くし、自分の連絡先を書いたメモを一夏に渡し「待ってるから!!」と言い部屋から慌てて出て行く。そして、一夏が部屋のドアを睨み

 

「で、あんたも何のようだ?」

 

「あれ? 気づいてたんだ?」

 

 隠れていた楯無が一夏の前に出てくる。一夏は、面倒だなとため息をつきノートに目を通そうとするが

 

「はい、これ。私の連絡先だから。いつでも、遠慮なくかけてね」

 

「安心しろ、連絡する気は全くないから」

 

「もう、意地悪…」

 

 一夏に無視され、頬をふくらませながら彼女は背に優しく抱きついてくる。流石に、しつこいと思い、注意しようとすると耳元で声をかけられる。

 

「ねぇ、一夏君は本当は何をしたいの?」

 

「俺?」

 

「そう、異世界で海賊やって。やっと戻ってきたのに、秋人君や織斑先生にまともに顔を合わせずにずっと一人で。寂しくないの?」

 

「...確かに、二人には済まないってのはあるが…まぁ、今はマドカの事とかあるしな…って、おまえこそ何がしたいんだよ? 」

 

「私? 私はただ一夏君が気になるだけよ? なんなら、この間のお礼にお姉さんがもっといい事してあげてもいいけど?」

 

 この間の事とは、キャノンボール・ファストの事で、その事を思い出し楯無と一夏の顔が赤くなる。楯無は服をはだけて、胸元を見せるようにするが。一夏は視線をそらし「お断りだ」とだけ答える。楯無は「あら、ご褒美いらないの?」と言うが一夏は答えない。

 

 楯無は仕方がない、と言う風にため息をついて、一夏から離れ部屋から出て行く。残った一夏は、二人から渡された連絡先を見てため息を吐き出したーー

 

 

「結局、兄さんは家にいるって言ってたけど、大丈夫かな…」

 

「大丈夫なんじゃない? それにしても、アイツかなり変わったわね…」

 

 IS学園行きのモノレールに乗り込む秋人達。と、席に座りモノレールが動き出したところで楯無と簪の端末にメッセージが入り、二人は慌てて見る。

 

「まぁ、一応登録したからよろしく」

 

 短く、そんな事が書かれていたが、簪は笑みを浮かべ急いで返信を送る。

 一方で、楯無には「何かあったら連絡しろ」と書いてあり、喜びながら返信を返すのであったーー

 

 

「…何やってんだろ、俺は…」

 

 女の子二人に連絡を入れ、一夏は両親の使っていた部屋に大の字で横になる。すでに外は暗く、電気をつけようとして一夏があることに気づく。天井の一部が、色が違う事に、

 

「あれは…」

 

 色の違う部分を叩くと板が外れ、天井裏を見ると古い一冊の本を見つけた。本にたまった埃を払い、ページを開きページを進めて行くと…一夏の顔が驚きに変わり、古びた本を床に落とすのであったーー

 


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