麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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三十三話 キャノンボール・ファウスト 2

 

「くそ!! 邪魔をするな!!」

 

「奴を止めろ!!」

 

「爆薬をくれ!! こうなったら、道連れに!!」 

 

 光剣を抜き、革命軍の兵士を次次に倒していく一夏。倒れていく同士の姿を見て兵達がやけになり、自爆覚悟で手榴弾を持ち一夏に近づくが、斬撃を放ち爆発させる前に切り裂く。

 

(こいつら、味方もろとも死ぬ気かよ!?)

 

 兵達は一夏を倒すために手段を選ばなかった。味方を盾にしてまでも接近し、手足が折れても武器を手放す事をやめず歩く。一夏は彼らを殺さないように行動不能にして倒すがそれでも彼らは立ちあがる。

 

「ここ、で…奴をのばなしには、でき、ない...」

 

「そうだ、この歪んだ社会を元に戻すために...」

 

「我々は何度でも、立ちあがる!!」

 

 体を改造し、もう二度と普通の生活ができない体になり元に戻ることができなくても、彼らの持つ執念が限界を超えさせていた。

 

 これまで与えられてきた苦痛を、失った悲しみを、そして、自分達が正義だと信じ散っていった同士達の屍を超えて、全てを糧にし彼らは立つ。  

 

「ふざけんな...確かに、この世界も、あっちの世界でも最悪な事は一杯あったんだ!! でも、俺だって決めたんだ!! この世界とも、そして家族とも向き合うんだって!!」

 

 一夏も自分の持つ信念を口にし、死ぬ覚悟を持つ彼らに向かうのであったーー 

 

 

 

 

「くっ!! この!!」

 

 マドカは蒼炎を纏い接近するブルーティアーズに苦戦していた。レーザーで撃ち抜こうとも、ビッドで動きを封じようとしても蒼炎により防がれマドカの不利になっている。

 

「はぁぁぁぁ!!」

 

 インターセプターだけで戦うセシリア。本来、彼女は接近戦は苦手であったのだが、短期間の一夏の教えのおかげか、上手く接近しダメージを与えていた。

 

 セシリア自信も、この蒼炎がなんなのか始めは気にしていたが。今は目の前にいる敵に集中する。

 

「「M、何をしているのかしら?」」

 

「!? スコール!?」

 

「「もう引きなさい。専用機達が予想外の力を出しているせいでこれ以上の作戦は継続は無理よ」」 

 

「くっ、だ、だが私は!! ぐわっ!!」

 

 突如かかってきた通信に夢中にり、セシリアの攻撃を受け装甲が削られてしまう。そして、エネルギーの方も既に危険域に入ろうとしており。スコールの言う通り撤退するしかなかった。しかし。マドカは納得しておらずスコールの命令を無視して戦闘を続けようとするも

 

「「マドカ、これは警告よ。今すぐ撤退しないなら、あなたを廃棄するわよ」」

 

「くっ...!!」

 

 最後の警告を言われ、ついにマドカはその場から撤退する。逃げるマドカをセシリアが追跡しようとするが、突然エネルギー切れのアラームがなりセシリアは慌てて観客席に着地しブルーティアーズが待機状態に姿を変えた。

 

「...今の力は、一体...」

 

「セシリア!!」

 

「無事だったんだね!!」

 

 と、シャルと鈴が近づく。気づけば鈴の手には動物の肉球のような物がついており、それはどうしたのか? と聞こうとする前にひとまず安全なところに避難する事にした。

 

「セシリアが敵の相手をしてくれたおかげで、何とか観客達を逃がせたわ。ありがとう」

 

「え、えぇ...けれど...」

 

「うん、多分セシリアもボク達と同じ事を思ってるかな? 確かに、ボク達のISが変な事に」

 

「だが、この力のおかげで。敵を制圧できたのは事実だ」

 

 いつの間にかラウラまでおり、手は鎌と銃になっていたがすぐに元の手に戻す。

 

「敵の数は大分減っている。それにもうすぐ軍からの増援が来るだろう」

 

「そうだね。敵も流石にこれ以上戦闘ができると思えないし...」

 

「うぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 戦局的には自分達が有利な事に安堵するが、突然剥離剤を持った男がセシリア達に向かって走りだすが、どこからか水が飛び男を拘束する。

「ダメじゃないの、最後まで油断しちゃ」と、水を周囲に展開していた楯無が注意し、男の持つ剥離剤を槍で破壊した。

 

「敵は一夏君が制圧してくれたとは言え、まだ潜んでいるんだから気をつけなさい。それと、貴方達のISについては考るのは後よ」

 

 「は、はい!!」

 

 シャル達は気を引き締める中、楯無は先ほど見たセシリア達のISの状態を見てある心当たりがあった。内心で、彼に聞けば分かるだろうと思い敵の残党を探すのであったーー

 

 

 

 一方で場所が変わる。一夏達が戦っている会場から離れたビルの屋上にて二人の人間がいた。

 

「くっ...Mrプリンセスだと? まさか、奴が?」

 

「そうです。今の男が黒騎士の操縦者...織斑一夏...」

 

 革命軍の幹部であるブラッドと、その補佐をするエレンが会場を眺める。部隊との連絡が途絶え既に十分以上が経ち、さらに先ほどファントム・タスクのISが離脱したと報告を受け最悪の事態が起こってしまう。

 

「何故だ...今回は研究側から渡された剥離剤(リムーバ)と...例のアレを使い兵達は人を超えた力を手にしたと言うのに...」

 

「隊長...ここは撤退しましょう。これ以上は...」

 

 声をかけたエレンが目を伏せると、ブラッドの手から血が流れ床を赤く染めていた。サングラスをして、無表情だが心では悲しんでいた。

 共に命をかけ、その手を血で染めてきた仲間...同士が倒れる事に。

 

「すまない...おまえ達の事は忘れない...だから、安らかに眠ってくれ...」

 

 ブラッドはその場で敬礼をし、会場を背にしてエレンと共にその場から去るのであった。 

 

 

   

 「いい加減に、しろよ...おまえら!!」

 

 一夏が吠え、振りかぶった鉄パイプを切り、覇気を纏わせた拳で顔面を叩き吹き飛ばす。

 

 「あと、何人だ...」

 

 床には何人もの兵達が倒れ、意識を失っていた。既に一夏を囲んでいた男達の数は減っているが、彼らの戦意はまったく衰えていない。

 一夏の方も流石に集中力が削られ体のあちこちに傷ができていた。

 

 

「いいぞ、このまま奴を攻撃...!?」

 

 再び攻撃が始まろうとした瞬間。男の体がどんどん粒子と化して消えていく。

 

「な、何だこれ...なんだよこれ!?」

 

「い、嫌だ!!」

 

 

 その場にいる兵達が叫ぶが、粒子化は止まらない。一夏も突然の事で驚き、そしてこの粒子には見覚えがあった。

 

「こいつは、ブラックホールの...」

 

 一夏が一時期集めていていたブラックホールから出る粒子。今、男達の体から出ているもの何故か同じだった。

 

 何が起こっているのか? と一夏が考えている間にも次次と彼らの姿が消えていく。

 

「い、嫌だ...お、俺には家族が...待って、るんだ...」

 

 やがて最後の一人が涙を流しながらつぶやき、その存在を消してしまう。

 この現象は一夏の前だけでなく、会場中でも起こっていた。

 

 

 

「!? な、なに?」

 

 水で拘束していた男が消えた事に驚く楯無。

 

 

「あ、秋人...ど、どうなっているんだ...」

 

 銃を持ち、交戦していた男達が粒子となって消える光景を見て呆然とする箒と秋人。そして、その身に粒子浴びた事のある簪が自信を抱きしめ震えていた。

 

 

「な、なんなのよ...この光...」

 

 セシリアを守りながら進んでいた鈴達も粒子を見て足を止める。輝き宙を舞う光に見とれていた。

 

「ねぇ、様子が変だよ...」

 

「あぁ、この粒子もだが。何よりも敵が何時の間にかいなくなっている」

 

「撤退したのでしょうか?」

 

  

 何時の間にか戦闘が終わっていた事に安堵するが彼女達も浴びてしまっていた。

 

 

 ーーそれから間もなくして、軍の応援が到着し救助や敵の捜索が開始される。

 

 警備や会場スタッフに紛れていた兵に殺された者や、重症者が多く出てこの事件は世界中に知れ渡る事となる。

 

 さらに、敵が大量の剥離剤を生産していた事が分かり。これに危機感を感じてかIS委員会は近日、重要会議を開く事を決める。

 

  

   

「ただいま、束さん。クロエさん」

 

 会場から撤退した一夏が、秘密研究所に戻り束とクロエが出迎えてくれた。

 

「おっかえり!! 無事だったんだね!!」

 

「お帰りなさいませ、一夏様。これ、冷やしたコーラです」

 

 クロエから冷えたコーラをもらい飲む一夏。二人に、学園で起こったハッキングと、会場で起こった事を話す。

 

「...一夏様。こちらを」

 

 と、クロエが画面を出し。画像を一夏に見せる。竜の紋章が描かれた数体のISがブラックホールを囲んでいるのを見て束を見る。

 

「どうやら連中も気づいてる見たいだね。粒子の特性に」

 

「まさか、連中。粒子を使って...それで覇気を引き出していたのか...」

 

「だけど、気になるよね? 倒した連中の体が粒子になって消えたってのは」

 

 様々な謎が浮かび、一夏は黙ってしまう。

 

「だったら聞きに行こうか? 一番情報持ってる奴らからさ」

 

 束が沈黙を破り、一通のメールを見せるのであったーー

 

 

 

「ったく!! 一夏ったら!! またどっかに行って!!」

 

「り、鈴、落ち着いて」

 

 夜になってやっと学園の寮に戻ってきた秋人達。戦った後に、軍や委員会に報告などで既にクタクタになり、全員秋人の部屋に集合してある事を話す。

 

 セシリアを始め、鈴・シャル・ラウラに起きた異変

 

 革命軍の兵達の異変

 

 そして、一夏が何かを知っている事を

 

「一応聞くけど、ラウラとかは報告したの? その、ボクらのISの異変の事」

 

「いや、本来報告すべきはずなのだが...」

 

「私もしてないわね。言ったら面倒になりそうだったから」

 

「私もですわ」

 

 実はシャルも能力については報告せずにいた。一方で、何も起こっていない箒達。最初は信じられなかったのだが鈴の手についた肉球。腕が変化したラウラ。蒼炎をまとうセシリアや見えない壁を出現させるシャルを見て既に信じていた。

 

「やっぱり兄さんは何か知っているのかな? でも、どうやって合えば...」

 

 と、話は一行に進まず、ただ時間が過ぎていくのであったーー

 

 

 そして、一夏はと言うと。束とクロエ達と共にとある店にいた。

 

「いかがですか? わざわざ貸切にして用意したのですが」

 

「う~ん、イマイチかな? いっくんの料理の方がとっっってもおいしんだけどね~~」

 

「その割にはかなり食べてるじゃないですか...」

 

「一夏様、ここにはコーラがないのでしょうか?」

 

 豪華なドレスを着た女性。ファントム・タスクの一人であるスコールが目の前にいる三人を見て眉をひそめる。既に近くに待機している仲間達とMとオータムが動けるよう睡眠薬を仕込んで置いたスープを見る。

 

「ところで、先日は失礼しました。まさか、私とMの攻撃を受けて無傷だったとは正直驚きましたわ」

 

「ん? 別に? お前以上に火を使える人のと比べたら対した事ないけど」

 

 気にした様子もなく一夏が肉を食べる。実際あの世界には火を使う者が様々にいたため、スコールの火は対した物ではないのは事実だった。

 

「そうそう、いっくんは強いんだぞ~~あ、ちなみにその睡眠薬入りのスープはいらないからね?」

 

「ずずっ え? そうなの? ぐが~~」

 

「って!? 言ってる傍から!?」 と寝てしまった一夏に束が突っ込んだ。これ以上は時間の無駄だとため息をつき、スコールは本題に入る。

 

 スコールは束に新型ISの提供の話を進め、その話を束が拒否した瞬間。

 

「だったら死ねぇ!!」

 

 と、ISを装着したオータムが店を破壊し寝ている一夏めがけて突っ込むが、持っていた武器が切られて床に落ちる。

 

「なぁ!?」

 

「ふぁ~~なんだよ」

 

 光剣「太陽」を抜きあくびをする一夏。と、さらに二機のISが入り一夏に攻撃しようとするが、一夏は黒騎士を部分展開し指先から出る糸を二機のISに絡ませ動きを封じた。

 

「さっすがいっくん!! よし!! 私もやるぞ!!」

 

 と、武器も何も持っていない束が動き一夏が動きを抑えていたISを解体した。一夏を見て学園祭での敗北を思い出したのか動く事ができず、スコールが助けに入ろうとした瞬間。

 

「動くな」

 

 と、サイレント・ゼフィルスを装着したMーーマドカが一夏に接近し捕まえようとするが。黒騎士を解除した一夏は覇気を纏わせ黒く染まった光剣で胴体の装甲だけを切り捨てた。

 

「ぐぁ!!」

 

 ISが解除され床に転がるマドカ。それでも彼女は立ち上がりナイフを抜いて一夏に戦いを挑むがナイフを握る手を捕まえられた。

 

「く、そ...私は、まだ...」 

 

「はぁ、いろいろ聞きたい事はあるが、もうやめろよ...」

 

「うるさい!! 私は、私はおまえを殺すんだ!!」

 

「ふぅん? 君が織斑マドカかぁ~~クローンだから本当にちーちゃんとそっくりだね」

 

 束の言葉に一夏が驚き、マドカを見る。今だに殺気を込めた目の奥には一夏に対する恐怖があり、一夏は剣を収めそこで束からマドカが千冬の血から作られたクローンだと知らされる。

 

「そうだったのか...で、おまえらはこいつに何をしたんだ?」

 

「ふん、決まってんだろうが!! あの世界最強の血を持つそいつはかなり使える道具なんだからな!!」

 

「てめぇは、黙ってろ」

 

 一夏が怒りをこめ睨んだだけでオータムが黙る。いや。目に見えない圧倒的な威圧の前に、声どころか息をするのがやっとの状態だった。そして、怒りを抑え改めてマドカを見る。

 

「おまえ、一人なのか? こいつらは本当に、お前の仲間か?」

 

「貴様、何を...」

 

 突然訳の分から無い事を言い出す一夏。そして彼は「こいつは連れて行く」と言い出し、スコールが止めようとするが

 

「私もその子には興味があったんだよね~~そうだ、その子の分と、あと適当に新しい機体あげるから、ついでに革命軍の情報ももらおうかな」

 

「なっ!? しかし...」

 

「じゃ、ここで全滅したい? 私だけでも十秒あれば...お前らをバラバラにするなんて簡単なんだよ」

 

 束の脅しにスコールも黙ってしまい、何も言えなくなってしまう。

 そして、数分後…スコール達を残し半壊した店から一夏達とマドカの姿はそこには無かった。  

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 


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