麦わらの一味の一人「一夏」   作:un

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三十二話 キャノンボール・ファスト 1

 IS学園から離れた競技場にて、大勢の観客やIS関連の企業の者。さらに、護衛のため軍所属のIS操縦者等が集まる中ISによるレースが本日行われ、控え室で待つ一年の専用機持ちや、別室で待機する秋人らは、短い間に一夏により行われた訓練を思い出し調子を整えるのであった。

 

(兄さん、ここにいるのかな?)

 

 辺りの気配を探り、一夏が近くにいないか確認するがいない事にため息を出す秋人。会場に入る前に楯無に一夏がどこにいるのか聞いてみたのだが「秘密」とだけ答えられ、それ以上は何も答えてはくれなかった。

 

 一方で、警備室にて監視カメラのモニターを見る楯無がいた。監視員が通信で連絡を取り合い、電話のコール等が鳴り響き、緊張した中で落ち着いた表情をする楯無。

 

(今の所は何も起こっていないわね...やっぱり秋人君や簪ちゃん達の専用機が狙い?)

 

 敵がいつ襲ってくるか、その勢力はどのくらいなのか未知数だが、彼女には何故か不思議と不安がなかった。

 その理由は、すでにこの会場には楯無が最も信頼している切り札がいるからであった。

 

 

「畜生...」

 

 会場の地下室にて機材が入った大箱から静かに出て来る一夏。

 

(何が特別な方法で入れるだ!! 人を荷物扱いしやがって!!)

 

 厳重な警備の中、指名手配を受けている一夏が安全に入る方法として楯無から提案され、会場の機材と共に大きな箱の中に入っていた。

 

 トラックで運ばれ何時間も揺られる中、一夏は途中で束にお願いしてハッキングしてもらい、偽の個人情報を作ってもらって変装して入れば良かったのでは? と気づき、何度も自分の馬鹿さ加減に呆れてため息をついてしまった。

 

(とっとと終わらせて束さんとこ戻ろう。また暴走して何しでかすか分かったもんじゃない...)

 

 先日の束の裸エプロンの事を思い出し頭を抱えた後、事前に渡されたスタッフ用の制服を着て部屋を出る。会場の地下は意外と広く一夏はマップを確認しつつ長い廊下を歩きながら、最近起こり始めた暴行事件を思いだす。

 

(最近起こった事件...なんであの紋章が?)

 

 被害者は主に男卑女尊に染まった者達で、ある者は顔面を陥没するまで殴られ、又は手足の骨を折られ自由を奪う等、とにかく酷い物ばかりだった。

 

 犯人達の共通点としては、犯行を行う何日か前まで行方不明になり突然現れたかと思えば人間離れした怪力と反射神経を持ち、どこからか入手したのか銃器等の武器を使い逮捕しようと駆けつけた警官や機動隊が次々と殺されてしまっていた。

 

 そして、不思議な事にやっとの思いで捕まえた犯人達の背には、何かの生き物の蹄らしき大きな焼印がされていた。

 

(一体何が起こってんだか...ん?)

 

 廊下を歩いていると何か人の声が聞こえ、一夏は声がした部屋のを覗く。中には何人かのスタッフがおり、皆殺気だった目で何かを話ていた。

 

「いいか、我々は組織から渡されたアレを使い警備のISや専用機を無力化する。そしてファントム・タスクが侵入次第、こちらも行動を起こす」

 

「この作戦が成功すれば世界を変える一歩となるだろう」

 

「あぁ、だがまずは...そこにいる奴を消してからだ!!」

 

 サイレンサーを付けた銃や刃物を持った男達が扉を開き一夏を囲んで、一斉に襲いかかるーー

   

 

「「まもなく、一年の専用機によるレースが行われます 」」

 

 会場の中に司会進行役である麻耶の声がし、秋人や箒達六人が姿を現す。選手達の実力や機体の性能を見逃さないため企業側の人間は注意して目を細め、軍のIS乗りもまた新型がどのくらいなのか周囲の警戒をしつつ秋人達に目を配る。

 

 やがて六人は所定の位置につき、レース開始のカウントが開始される。

 

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 カウントが0にりブザーがなった瞬間、六体のISが一斉に飛び出しレースが開始されるのであったーー

 

 

「うぉぉぉ!!」

 

 最後の一人となった男が一夏めがけ拳を振るうがよけられてしまい拳が壁に当たり壁が大きくへこむ。

 

(こいつら、見聞色だけじゃなくて武装色も...だが、この程度なら)

 

「がぁ!!」

 

 自信の拳にも覇気をまとい、一撃を入れ男を気絶させる。武器を持って襲い掛かってきた連中を倒し床に伏せている彼らの上着をまくると全員の背中に竜の蹄の紋章があった。

 

「こいつらもか...ん? あれは...」

 

 一夏は部屋の端に置かれた箱に気づき中を見るとどこかで見覚えがある小さな機械が何個か入っておりその中の一つを手に取る。

 

「これは...剥離剤(リムーバ)?」

 

 学園祭でファントム・タスクの一人。オータムが秋人の白式を奪おうとし使っていた物が箱に入っており手に取り眺めていると、傍にあった通信機から声が聞こえ一夏が手に取る。

 

「こちらブラッド。そちらの状況はどうだ? 報告しろ」

「あ~こちらクソレストラン。ご注文は何にされますか?」

 

「!? 貴様何者だ!?」

 

「そうだな...Mr.プリンセスとでも覚えとけ。それかMr.0の方が恰好いいかな?」

 

 どこかで聞いた事のあるコードネームで答え一夏はニヤリと笑う。

 

 「ふざけた事を!! 同士達はどうした!? 」

 

「同士って、さっき俺が倒したけど? それと、箱の中にあった剥離剤といい、こいつらの力は一体どうなってんだか? ...って、通信切りやがったな」

 

 通信が切られた事に気づき、通信機を投げ捨て箱にあった剥離剤を破壊して行く一夏。そこで何かに気づき

 

「あ、連中から情報聞き出せばよかった...」

 

 と激しく後悔し、まるで八つ当たりするかのように音を立てて次次と剥離剤を壊すのであったーー

 

 

「はぁ!! 」

 

「そこですわ!!」

 

 セシリアのライフルから放たれたレーザーをかわす秋人。近くでは簪と箒が順位争いをし、互いに牽制し合う高速の戦いが繰り広げられていた。

 レースも後半に入り誰もが夢中なった時、突然事態が変化する。競争をしている秋人らに一つのレーザーが発射され会場を襲う。

 

「!? あ、あれは!!」

 

 セシリアが上空では紫色をした機体に気づき唇を噛み締める。その機体はブルーティアーズの後継機でありファントム・タスクに強奪された機体「サイレント・ゼフィルス」でセシリアは冷静さを忘れ飛び出す。

 

「せ、セシリア!!」

 

 セシリアの先行に気づきシャルとラウラが援護に入ろうとするが、どこからか悲鳴が起きる。気づけば観客席には武器を持ったスタッフ達がおり、彼らを抑えようと護衛のISが近づくが彼らが投げた剥離剤に触れてしまいISが奪われてしまう。

 

「そんな!? ISが奪われるなんて...」

 

 目の前で起こる混乱と、耳を塞ぎたくなる程の悲鳴を前に簪は身を震わせ「助けて」と、ここにいないとある人物にたいして小さくつぶやいたーー

  

「一般人とVIPの避難を急げ!!」

 

「軍に援軍を要請しろ!! 敵はISだけじゃない!!」

 

「くそ!! 武装した奴らが警備室に来てるぞ!?」

 

「早くバリケードを作れ!!」

 

 警備室では怒号や叫びが飛び交い、監視カメラには武装した一団の姿があちこちに写し出され、楯無は顔をしかめ唇を噛み締めた。

 

 敵のやり方は明らかに一般人も巻き添えにしているテロそのもので、犠牲者を出さないために一刻も早い対処が必要なのだが、敵が剥離剤を使用しており既に護衛の何体かがやられてしまっているため下手に手がだせない。

  

 だがこれ以上、敵に時間を与えればこちらの不利になる。そう思い楯無が部屋に迫り来る敵を迎撃しに部屋を出ようとした瞬間。

 

「動くな!!」

 

 と、警備員達が銃を発砲し楯無に銃口を向ける。

 

「...これは、どういう事かしら?」   

 

「貴様が知る必要はない。ただ、貴様は我々の理想の礎になるだけだ。ありがたく想うがいい」

 

「礎? 貴方達、本当にそんな馬鹿な理由でこんな事をしたの!?」

 

「馬鹿な理由だと? ふん、所詮歪んだ社会の中で飼われた雌には分からなかったようだな? おい、アレを使ってISを奪え。それと、分かっていると思うが妙な真似をしたら他の奴は皆おまえのせいで死ぬからな?」

 

 両手を上げているオペレータの女性の頭に銃口を突きつけ脅し始める。その光景を見て「卑怯者」と楯無がつぶやき、人質のせいで抵抗できない彼女にリムーバを持った男が近づく。

 

 この時、誰もモニターを見ておらずモニターに一瞬何かの影が写った次の瞬間、部屋の扉が激しい音をたて吹き飛ぶ。

 

「な、なんだ!? ぐぁ!!」

 

 かまいたちの刃が剥離剤を持った男の胴体に直撃し、部屋に高速で動く何かが次々と敵を切り捨てる。「てめぇら!! 女に銃向けてんじゃねぇ!!」そんな怒号の声が部屋に響き、騒ぎが終わる事には敵は全滅していた。

 

「くそ、こいつらうじゃうじゃと数だけは多いな」

 

「あら、来るの遅かったじゃないの?」

 

「仕方ないだろ、この部屋に来るまでにいた奴ら相手してたんだから」

 

 モニターを見れば警備室の前だけでなく地下室や、出入り口にいた武装集団はボロボロになり倒れているのを見て「さすがね、頼りになるわ」とつぶやきオペレーターの女性を介抱する。

 

「で、あんたが提案した方法なんだけどさ、色々言いたいことが...」

 

「今はそれどころじゃないわ。今、会場の方で秋人君達が敵ISと交戦中よ、悪いけどそっちの方に行ってくれないかしら?」

 

「て、まだいたのか...ここはいいのかよ? 連中の大半はIS使っていないとはいえ、明らかに覇気を使ってたんだ。流石に一人だと大変だろ?」

 

「あら? 私を誰だと思ってるのかしら? 学園の長であり、最強のお姉さんなのよ」

 

「はいはい、そうでした...」

 

 呆れたように部屋を出ようとする一夏、だが楯無に呼び止められ振り向いた時ーー

 

 キュ

 

 頬に柔らかく暖かかい物を感じ、数秒して自分はキスされたと気づき一夏は慌てて離れた。

 

「お、おい!?」 

 

「これはお姉さんからのささやかなご褒美よ? もし、この戦いが終わったらもっといい事してあげるから頑張ってね? 一夏君?」

 

 笑顔でウインクする彼女に何も言えず、一夏は顔を赤くし黙って部屋を出て行くのであった。そして、部屋に残った彼女も

 

「...やっちゃった...」

 

 とつぶやき、顔を真っ赤にするのであったーー 

 

    

 

「っきゃぁぁ!!」

 

 サイレント・ゼフィルスと交戦中のセシリアが悲鳴をあげ地面に激突する。

 

「...ふん、雑魚の分際で...」

 

 マドカは、セシリアに銃口を向け止めを刺すため引き金を引き、発射されたレーザーがセシリアに向かって行く。

 

(こんな、こんな所で...私は...)

 

 迫り来るレーザーを見て、もうだめだ と彼女は目を閉じ爆発が起こる。

 

(...? 痛くない? っ!! これは!?)

 

 目を開けたセシリアは自分のISが青い炎を出している事に気づき驚く。そして、頭の中で一瞬、見たことのない男が鳥のような姿で蒼炎をまとい空を飛んでいる光景が見えた。

 

 この炎は何だ? 今、頭の中に浮かんだ男は誰だ? 疑問を抱くが、セシリアは己のすべき事を思い出し、蒼炎を纏ったブルーティアーズで飛翔した。

 

「な、何だ!?」

 

 倒したはずの敵が蒼炎をまとい現れた事にマドカが動揺し、セシリアは笑を浮かべていた。

 

「まだ、まだ私は終わっていませんわ!!」

 

「くっ!! 雑魚が!!」

 

 レーザーや、ビット攻撃で的確にブルーティアーズを狙い撃つが、蒼炎の装甲により守られセシリアは唯一の接近武器「インターセプター」を持ち一気に接近しサイレント・ゼフィルスの装甲を切りつけた。

 

  

 

 「動くなよ、クソ女」

 

 観客席で逃げ遅れた人を人質に取る男達を前にISを解除したシャルと鈴が動けないでいた。

 

 そして、男達がシャル達に向け剥離剤を投げシャルが思わず両手を胸の前に組んだ時、突如見えない壁が二人の前に出現し剥離剤から防御する。

 

 さらに、鈴にも異変が起こり一瞬、大柄で手に肉球をつけた男が見えたと思ったら、気がついたら鈴の手に肉球がついており、同時に使い方まで何故か頭に入ってくる。

 

「なんだか知らないけど、くらいなさい!!」

 

 肉球で弾いて出た小さな弾が武装した男達だけにあたり気絶させて行く。

 

「く、クソ!! こうなったら人質を!!」

 

「させんぞ」

 

 ISを解除したラウラが何時の間にか接近し、鎌になった腕で銃を破壊し男のみぞおちに一撃入れ気絶させた。人質達は自信が助かった事を感じ、急いでその場から立ち去っていく。

 

「二人とも!? その手はどうしたの!?」

 

「私だって聞きたいわよ? 」

 

 手の肉球を見せ困ったような顔をする鈴。ラウラも自信の変化した腕を見つめ力を込めると、今度は銃の形に変化した。 

 

「何故だか、この腕が変化した時メイド服を着た女が見えたのだが...」

 

「あ、ボクも変な髪型の男の人が見えた気が...」

 

「私も、大男が見えたわ...」

 

 少女達が自分の体に起きた異変に戸惑う中、亡国機構と革命軍による攻撃はまだ続くのであったーー 

 

 


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